………煙の向こうで光る星屑がフワリと舞い、地に満ちて消えて行く。
……1匹の〈ノーマン〉がその命を終えたのだ。
「………あぁ……くそ…。」
そう呟いたバサラが刀を鞘に戻して大地に座り込んだ。……重力バリアに囚われ、異常なまでの重力を受け続けていた身体が、みしっと軋む。
「ーーーーーすんげぇだりぃ…………」
腹部に一撃貰った影響か、口元からつーっと流れる血を拭いながらバサラは空を見上げて溜息を吐く。
「腹いてぇ……昼、あんまり食ってなくて良かった…。食ってたら全部出るとこだったぜ…。」
隣でカノンが尻尾で打ち据えられた肩を庇いながら、純白のコートの土埃を払い落として行く。
「とにかく、不時着した皆んなは守れた。……ソレで良いよね?」
「…ソレはそうですが、お二人は大丈夫なんですか?尻尾の一撃食らったんですよね??」
この戦いに於いては被弾する機会の無かったニュウが、2人に尋ねた。
腹部を軽く抑えながら頷くバサラ。
「ーーーーー腹痛ぇのは、なんとかなんだろ。……内臓とか骨とは逝って無いっぽいしな。…気持ち悪りぃが。」
カノンが肩を手で支えながら、余り痛痒を感じていないかの様な顔で口を開く。
「私は肩の骨折れたかも。…すっごく痛いけど大丈夫だよ。」
「…いや、重症じゃ無いですか?!なんでそんな涼しい顔してるんです?!」
「ーーーーーソレは大丈夫とは言わねぇよ!?」
…ニュウとバサラが同時に突っ込んだ。
『……先輩達!!』
ーーーーーーーーーと、そこでサテライトから通信が入る。
「…ん?どうしたサテライト?」
『…〈星のセラム〉の雲が間も無くこっちにやって来るよ!此処は高濃度のセラムで汚染されちゃう!!』
バサラが苦々しい表情を浮かべた。
「…チッ。やけに早いじゃねぇか。ーーーーーーー早く此処に〈イースター号〉持って来ねぇと!」
そう言って彼は立ち上がったが、足取りが覚束無い。
「あぁ…やべ。ーーーーーー重力バリアの中で無理に動いてた反動がキテるな…。」
「…大丈夫なんですか?!」
ニュウがバサラの身体を支える様にしながら話しかける。
「……大丈夫だ。…どっちみち、誰かが何とかしないと…誰も助からねぇ。」
……しかし、バサラの今の足では着陸地点まで引き返してから、また此方に戻って来る事が出来そうに無い。
(…自分は動けるが……流石にオスプレイの操縦は出来ないしな……。)
とは言え、何とかせねば此処は高濃度のセラムに包まれ、新人類たるニュウ達は兎も角、廃墟に避難している不時着した旧人類達は死んでしまう。
(カノンさんも肩が折れてるし、動ける自分が何としないと。)
…そうニュウが考えていた時、頭上のドローンから、サテライトの声が聞こえて来た。
『…先輩達!ーーーーーーー今、ネオ先輩に連絡が取れた!!……超特急でそっちに行ってくれるって!!』
「ネオさんが?……しかし一人で来てもーーーあ、いや…そうか!」
ニュウが疑問を言い掛けて、途中で止める。
サテライトがニュウが言わんとした事に気付いたのか、肯定する様にドローンを動かした。
『…そう!ネオ先輩なら、〈星のセラム〉の浄化が出来る!此処が汚染されない様に出来るんだよ!』
「…しかし、此処から〈オーステルン〉は20キロは離れてるんだぞ?…そんな……」
そうニュウが言った所で、バサラが彼を遮って口を開いた。
「ーーーーーー大丈夫だ。……ネオが全力出せば、20キロぐらい直ぐさ。…彼女を信じてビルに戻るぞ。」
そう言って、彼はビルへ戻って行く。カノンも後に続いた。
「………頼むぞ…。」
ニュウは地平線より此方に近付きつつある〈星のセラム〉を見上げながら呟いた。
◇◆◇
…廃墟の中に蹲る人達の表情は暗い。
ーーーまぁ、無理もない。彼等にとって確実な死である〈星のセラム〉が此方に漂いつつある今、動きを取れずに助けを待つしか無いのだから。
「……悪りぃな。…アンタらを助けに来たのに、結局コッチも助けを待つ身になっちまって。」
バサラが床に座り込みながら、集まる人達に話しかけた。
「…い、いえいえ!貴方達が来て〈ノーマン〉を倒してくれなければ、今頃我々は皆死んでいたでしょうから……ソレに相手は五ツ星だったのでしょう??」
…彼等の言葉に、バサラが溜息を吐いた。
「………まぁな。ーーーーーーだがやっぱ情けねぇよ。オレ。」
バサラの顔は本当に悔しそうだった。
思わずニュウは呟く。
「ーーーーーーーーーバサラさんも意外と真面目ですよね。」
「意外と…ってなんだ、意外とって?!ーーー困ってる人を助けに来た奴が一緒に困っちまったら情けねぇだろ?!」
彼の言葉は責任感からでもあるのだと、ニュウは理解していた。……うん、やっぱり良い人だ。
「結構来てるね。…セラム。」
寄り掛かっている欠けた壁から、空を見たカノンが呟いた。
皆んなが壁際に集まる。
ーーーーーーーーー視界の先、本当に直ぐそばまで、〈星のセラム〉が迫っていた。
………あたかも、空に瞬く星々が霧となってそのまま地上に降ってきたかの様な光景に、ニュウが小さく呟く。
「……本当だ。ーーーーーーーーー言ったらアレだが…綺麗ですね。」
「…地上に現れた星雲……って感じだな。確かに美しいが…アレは人類を殺す死の星雲だぞ。」
隣でバサラが呟いた。
入道雲の如く、空の高い所まで埋め尽くしている輝く星屑。……誰か、少なくともイースターでは無い誰かが呟いた。
「あぁ……星が私達を飲み込んでしまうんだわ…。」
ーーーーーーーーーその時、ニュウは遠方より飛来する青い彗星を見た。
「……!!」
否、彗星では無い。ーーーーーーーーー彗星に機械じみた翼は無い。…足を包む、スラスターも無い。
…アレは。
「ーーーーーーーーーネオだ。」
…ポツリとニュウは呟いた。視界の先でネオが〈星のセラム〉の真っ只中へ突っ込んで行く。
……太陽光を遮るほど高く、多く立ち込めている星屑達にネオの姿が消えたーーーーーーーーーと思った瞬間、星屑の中で一際大きく青い光が瞬いた。
…そしてニュウは聞いた。…気の所為などではなく、自分の頭の中に直接響いて来るかの様な、ネオの叫びを。
『ーーーーーーーーー消えろ!!』
……パッッと光が溢れ、地と天を覆う星屑を散らした。
色とりどりの星々がその色を失い、風に吹き払われる霧の様に吹き飛ばされて行く。そして遮るモノの無くなった太陽の光が、樹海に差し込んだ。
「「「おぉ…!?」」」
ソレを見た誰しもが驚き、息を呑む。……先ほどまで広がっていた死の星雲は、もう何処にも無い。ただ地には樹海が広がり、天には白い雲が浮かぶのみだ。
ーーーーーーーーー〈星のセラム〉は消え去った……
「ほ、星のセラムが……一瞬で?!」
「…こんな事が、あり得るのか??」
「凄い…綺麗……。」
「コレは奇跡だ!ーーー奇跡が起きたんだ!!」
一部始終をこの目に収めた廃墟の面々が口々に口を開く。…誰しもが、例外なく一様に興奮している。
ニュウもまた、空を呆然と見上げていた。
(……あぁ。)
……ただ、彼は〈星のセラム〉を一瞬で浄化したその技に呆然としていたわけでは無い。
彼はただ見詰めていた。
…雲の隙間から差し込む光のベールに包まれて、朝焼け色の髪を風に靡かせる彼女を………
(やっぱり…)
……絵画の様なその光景に、ニュウは目を細める。
(凄く………綺麗だ。)
ネオが此方に向かって降りて来る。着地した彼女にバサラとカノンが駆け寄っている間も、ニュウは微動だにせず立っていたーーーーーーーーー
◇◆◇
ーーーーーーーーー結局不時着した人達は、少し回復したバサラの操縦する〈イースター号〉に乗って移動要塞都市〈オーステルン〉に避難する事が出来た。
彼等の不時着の原因はどうもバードストライクだったらしい。
バードストライクを起こした機体は、その場に残しておく事にした。……まさかこんな樹海の中心に整備士を呼んで、修理する訳にもいかないからだ。
ーーーーーーーどうせ、直ぐに〈ノーマン〉によって解体されるか、異常なまでの成長力をもつ樹海の草木に呑まれ、あっという間に消えて行くだろう。
……この星の自然は強くなったのだ。
……人の存在を、許さぬ程に。
この章は後もうちょい続きます。