モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

30 / 113





30話 〈開戦〉

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

……時は少し前に巻き戻る。

 

 

 夜になり、屋敷から灯りが消えた頃を見計らって、連邦のメンバー…科学者ドクトゥール・フォリー、新人類部隊コードネーム:アラミタマ、クシミタマ、キラリはフェムトを連れ戻すべく《アステール支部》に侵入を開始した。

 

…闇の中、月の明かりを受けて屋敷の屋根に4人の立つ影が落ちる。

 

「…此処だ。間違いない。」

 

 フォリーが3人に囁いた。…他の3人はすぐ真下の窓を見る。

 

「この下か?」

「ああ。……なるべく素早く行ってくれ。あまり騒ぎは起こすなよ?…戦闘データも欲しいが、データを取る前に対象が居なくなっては困るしな。」

 

 データ、データと相変わらずの研究狂いだ…とクシミタマは呆れて肩を竦めた。

 そして〈セラムキューブ〉を展開、変形ーーー刺股状の武器を創り出す。

 

「…では、いってきます。」

 

 そう言って、彼はフェムトが寝ている4階の部屋の窓を刺股で叩き割る。そして部屋の中に素早く飛び込んだ。

 

ーーーーーーーーーフォリー含めクシミタマ達の計画では、窓を破壊して侵入した後すぐさまフェムトを確保して、本格的な戦闘が発生する前に脱出するつもりだったのだが、実は彼らの知らない所で既に計画には綻びが生じていたのだ。

 

…ソレが、ネオとニュウが外出した事である。

 

 2人の外出と、フェムトを取り返す事がどう関係するのか。

 

………ソレは()()である。

 

「ーーーーーーーーーなに?!…()()()()()()()()()()()()だと?」

 

 部屋に飛び込んだクシミタマは、ドアの前に立っていたチェーンソーメイドこと、シャイターンと出くわしたのだ。

 

…クシミタマを見つけたシャイターンの行動は素早かった。

 

「……!!侵入者(ゴミ)発見。…排除します。」

 

ーーー次の瞬間には、けたたましいソーの回転音と共に、シャイターンはクシミタマに飛び掛かっていた。

 

「チッ!!」

「…ふっ!!」

 

 クシミタマが掲げた刺股の柄と、チェーンソーがぶつかってド派手な火花が散り、激しい音が屋敷中に木霊する。

 

…今ので、屋敷中の人が目覚めただろう。

 

 鍔迫り合いしたまま、シャイターンがクシミタマに問い掛ける。

 

「……さっき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…は?ソレは知らないーーーなッ!!」

 

 クシミタマはそう言って刺股を振るい、シャイターンを弾き飛ばす。

 

…まぁ、知る訳が無いだろう。だって、ドアを開け閉めしたのはネオとニュウの2人なのだから。

 

…シャイターンは、2人が時間差で屋敷から出て行く微かな物音で目覚め、念の為屋敷の部屋を見て回る事にしたのだ。

 

 そして丁度フェムトの部屋に来たその時に、運悪く(又は運良く)クシミタマ達がフェムトの部屋に突入したのである。

 

「……そうですか。シラを切るならそれで良いです。…何方にせよ、貴方は私が見つけたのですから。」

「…こればっかりは本当に知らないのだが…まぁ、仕方ない。バレたものはバレたのだ。」

「…そう。…なら、大人しく切られなさい!!」

 

 シャイターンが叫んで再びクシミタマに飛び掛かるが、部屋の割れた窓から飛び込んできた、緑に輝く矢に肩を射抜かれて弾き飛ばされた。

 

「…ッッ!!」

 

ドアに叩きつけられ、廊下まで転がるシャイターン。

 

 クシミタマの横に、矢の形に変形したセラムキューブを弓につがえた少女……キラリが立つ。手が震えているが、狙いは正確だった。

 

「ありがとう。」

「いっ、いえ…!私…。」

 

 クシミタマは刺股を構えたまま、悠々と歩いてシャイターンに近づく。一方、目覚めたフェムトの前にはフォリーが仁王立ちして居た。

 

「…こんばんは、フェムトくん。…中々良いベットに寝てるじゃないか?ん?ーーー連邦軍の野営地ベットよりかは、何倍も寝心地いいだろうねぇ??」

 

フェムトが、目に見えて狼狽える。

 

「ド…ドクトゥール…フォリー!!……さん。」

 

「キミを連れ戻しに来たよ。フェムトくん。ーーーさぁ、行こうじゃないか?」

 

 フォリーの差し出した手を、フェムトは握らなかった。…代わりにセラムキューブを展開し、フォリーを敵意の籠った目で睨み付ける。

 

「嫌だ!!ーーーーーーー僕は戻らない!…もう僕は貴方達の仲間じゃ無いんだ!!……帰れ!!ーーーーー《グリッターボール》ッッ!!!」

 

 フェムトの手の内に宿ったセラムキューブが輝き、丸い球となってフォリーに向かって放たれる。

 

 それを避けるフォリー。放たれたグリッターボールは部屋の壁に激突し、壁を貫いて隣の部屋で炸裂した。…爆発の振動で屋敷が揺れる。

 

「…おっと?ーーーーーーー危ないじゃ無いか。落ち着きたまえフェムトくん。腕を切り落とされたくは無いだろう???」

 

 丸鋸を構えながら、フォリーは嘲笑う様にフェムトに声を掛ける。一方のフェムトはベットから飛び上がってフォリーを睨み付けたまま、荒い息を立てていた。手に掲げられたセラムキューブが、彼の感情に呼応する様にドクドクと脈動する。

 

「帰れ…帰れ!…帰れッ!!ーーー僕は、貴方達を拒絶する!!もう、戻らないんだ!!」

 

 殺気をぶつけられても、フォリーは動じるどころか、不敵に微笑むだけだった。

 

「ふっふっふ……良いぞ、素晴らしいじゃないかフェムトくん。…キミの今の状態は私の仮説82…〈星筐体保持者の能力値は、意識と感情の強さによって増減する説〉を証明してくれるのだ。…ハハッ!最高だ!!」

 

 フェムトの前だと言うのに、フォリーは自分の世界(研究)に没頭し始めた様だ。

 

「…しかし、しかしだ。となると…極限まで高まった感情は〈覚醒〉を促すのか…?その領域に至れるのか?…分からんな。まだまだ証明せねばならん事が多い。ーーーーーーん?」

 

「ーーーーーーぶつぶつ言ってないで、帰れッッッ!!!」

 

 痺れを切らしたフェムトが、フォリーに向かって床を蹴って肉薄、回し蹴りを叩き込む。

 

「…ぬぅ!」

 

 左腕で蹴りを防いだフォリーだが、相当な力が込められた回し蹴りは彼を割れた窓から階下……裏庭まで叩き落とした。

 

 裏庭の花壇の花を撒き散らしながら、フォリーが地面を転がり、素早く立ち上がる。

 

「ハハハハッ!ただの回し蹴りでこの威力か。…やはり感情の強さと戦闘力は比例する様だな!!」

 

 起き上がったフォリーは両手を広げ、4階の窓に向かって叫ぶ。…相当な高さから落ちたはずだが、彼はピンピンしていた。

 

「もっとだ!もっと私の研究に付き合えフェムトくん!…降りて来い!そして、その力を私に見せてくれ!!」

 

…しかし、フェムトは姿を現さなかった。軽く舌打ちするフォリー。

 

「ちっ。なんだねフェムトくん…やる気無いのか??……まぁコッチから行けば、なんの問題も無いがな。」

 

 そう言って、裏庭から4階まで再び向かおうとしたフォリー。…しかし、彼の前に影が立ち塞がった。

 

「それはダメです。……フェムトくんは、〈イースター(私達)〉が保護したのです。帰って下さい。」

 

 行手を阻む様に差し出されるは、巨大な錫杖の様な音叉。

 

 裏庭に差し込む月の光の中で、音叉の持ち主ーーーーーーアビスが、フォリーの前に立ち塞がったのだ。

 

「……キミは…アビスか。…懐かしいな…『Dr.マター』の研究成果の副産物。…キミと戦うのは少し荷が重いかもねぇ。」

 

 そう言いつつも、フォリーは丸鋸を構える。…両手に回転する鋸を持つ彼は、まさにマッドサイエンティストであった。

 

 

◇◆◇

 

 

………一方、シャイターンと戦闘を開始したクシミタマの前にも、横槍が入る。

 

「待ちなぁッッッ!!ソコの銀髪ッッ!!」

 

 そう言いながら飛び掛かってきたケモ耳緑髪の少女ーーーサクアの拳を刺股で受け止めながら、クシミタマは呟く。

 

「…これだから、敵の本拠地での戦闘は……。」

 

 刺股を振るいサクアを弾くと、廊下の端まで飛び退るクシミタマ。

 

…だか、そこに翡翠色に輝く翼をはためかせた少女ーーーーーーカノンが、彼の前に立ち塞がった。

 

「…私が相手になる。…フェムトくんは奪わせない。」

 

「イースターの……カノンか。グローリーの堕とし子…。」

 

 呟いたクシミタマは、カノンとその背後…キラリの方を見た。…キラリも別のイースターのメンバーと相対しており、援護は期待できそうに無い。

 

(キラリの相手は……アミダか。…なら、援護は無理か。勝つ確率も低いだろう。)

 

 心の中でそう呟いたクシミタマは刺又を背後に構える。そして、カノンを睨みつけた。

 

「…悪いが、此方にも任務ってモノがあるのだ。……通してもらう。」

 

彼の構える刺股にバチッと雷が宿ったーーーーーー

 

 

 

◇◆◇

 

 

キラリは困惑していた。

 

…だって、自分の目の前に立って居るのはどう見てもーーーーーーーーー

 

「……アミダちゃん??」

 

 その声に、立ち塞がる少女ーーーアミダの顔がはっきり歪む。

 

「……なんで、()()()に居るの……キラリ。」

 

「…………。」

 

2人の間に広がるのは深い…余りにも深い沈黙。

 

「…知り合い???」

 

 アミダの後ろにシャイターンを庇う様にして立ったサクアが、アミダに問う。アミダは前を見たまま頷いた。

 

「うん。……昔の友達。ーーーーー13歳の頃、連邦によって引き離されてから、ずっと探してた。…まさか、新人類部隊に居たなんて……。」

 

キラリもただ唖然となって呟く。

 

「…アミダちゃん…〈イースター〉の一員になってたんだ。ーーー私、知らなかった…。」

 

 彼女の構える弓が震え、番えられていた矢の形が揺らぎ、緑の光が明滅を繰り返す。…彼女の感情の揺れが、矢を構成する〈セラムキューブ〉に影響を与えているのだ。

 

「……ダメだよ、キラリ!!…撃っちゃダメ!」

 

アミダがそう叫んだ。

 

「ーーーーーーーッッ!!」

 

 キラリの手が震え、矢が割れて消える。……感情が、これ以上の戦いを否定したのだ。ーーーーーーーしかし。

 

「…例え、知り合いでも敵に回る時は回るんだ。……悩むのなら、僕がやろうか?面倒だけど。」

「ーーーーーーーーー!!」

 

 キラリを押しのける様にして、屋根から事態を傍観していたアラミタマが廊下にやって来た。

 

 臨戦態勢をとるアミダ達を前にして、アラミタマはため息混じりに口を開く。

 

「はぁ。……ったく、面倒臭いな。…そもそも、僕は今日非番だったのに、無理やり駆り出されてさ?…矢鱈と面倒な仕事に付き合わされて、こうして戦わなきゃならない。酷いと思わないかい?」

 

「…いや、そんなの知らないよ?」

 

 アミダが小さく突っ込んだ。アラミタマが首を憂げに振る。

 

「…だよね。愚痴を言う相手を間違えた。ーーー考えろ…どうしてこんな事になったのか…。」

 

 弱々しく呟き出したアラミタマの前に、仄暗い青に光る〈セラムキューブ〉が出現する。……それはやがて形を変え、焼きごての様になって彼の手に収まる。

 

「ーーーーーーーそうだ…フェムトが脱走したからだ。…つまり、フェムトを連れ戻せば、この面倒な仕事も終わる。…そうだったな。」

 

 彼の体が青い炎にも似た光に包まれ、彼の髪型がユラユラと変わり出す。……次に口を開いた時、彼の声はもう溜息混じりの弱々しい声では無かった。

 

「ーーーーーーーつまり、早く連れ戻せば早く終わらせられる…って事だよなぁッ!!……なら、さっさと終わらせてやる!!!ーーーお前らソコに並べぇ!!…()が、焼印押してやるからよォッッ!!!」

 

 そう叫んだアラミタマは、さっきの気怠げな顔の青年と思えない、激情に満ちた者に変わっていたーーーーーーー

 

 

◇◆◇

 

 

………こうして〈アステール支部〉にて、脱走兵フェムトを巡る連邦と〈イースター〉の戦いが始まる事となった。

 

 

 






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。