星は夜に輝く。
ーーーーーーー白み始めた空に、ミサイルの吐いた白煙が軌跡となって幾筋も浮かんでいる。
「……行っちまった…何だったんだアレ。」
エール・ソレイユが飛び去って行った方角の空を見上げながら、バサラが唖然となって呟いた。隣でアルスラーンが口を開く。
「……自動迎撃システムが発動したのだな。ーーーアレ程の大きさの機体だ。捕捉されずに飛行するなど不可能だろう。」
「…だけど、そんな簡単に行くか?ステルス機能とか無かったのかよ?」
「さぁ?……普通有りそうなモノだがな。」
「ーーーな。」
…操縦者であるソワンが、オンにするのを忘れてただけなのだが、バサラ達の知る所では無かった。
「それよりも…だ。」
アルスラーンが後ろを振り返る。ーーー彼女の視線の先にはボロッボロになった《アステール支部》の屋敷が、昇り出した朝日に照らされて惨めな姿を晒していた。
一階は食堂付近の壁が崩落しただけに止まり、二階と三階は無傷だが、四階は屋根と壁が広範囲に渡って崩れ、廊下が完全に外から丸見え……所謂、開放廊下になってしまっている。
屋根もほぼ吹き飛んでるので、四階自体が吹き曝しになってしまったかの様だ。…屋根の上で戦っていたクシミタマとカノンの影響だろう。
「いやぁ……えらく吹き飛んだな、こりゃ。」
「…四階が…随分と開放的になりましたね。」
「私が居ない間に…こんな事が……。」
その場に居なかったネオとニュウが、呆然と呟いた。
「…片付けから始めないと…ですね。」
「…うん。でも、コレは大変。」
アビスとカノンが、2人揃って溜め息を吐きながら屋敷の中に戻って行った。一方で、ハクビは外の方に首を巡らせ口を開く。
「ーーー王よ、屋敷の外に人が集まり始めてます。」
「…そうか。ーーーま、いきなりこんな事が起これば不安だろう。……私がコトの顛末を外の人々に説明してこよう。」
アルスラーンはそう言って、裏庭から立ち去った。…立ち去り際に、庭に突き刺さっていた自分の剣を回収する事も忘れない。
ハクビとバサラ、ネオ、ニュウも屋敷の中に入って行く。裏庭には、アミダとキラリが残された。
「……キラリ。」
アミダが、横に座り込む彼女の手を引いて立たせる。
「…大丈夫?」
「ーーーう、うん。…何だか、夢の中にいるみたい…。」
朝日の下で、キラリがポツリと呟いた。
「…夢?」
「ーーーうん。……アミダちゃんは、本当にここに居るんだよね?…私のただの夢なんかじゃ、無いんだよね?ーーーちゃんと、此処に…。」
探る様に伸ばされた手を、アミダは握って口を開いた。
「居るよ。ちゃんと此処に、夢なんかじゃ無い。」
「………。」
「ーーー
「…アミダちゃん…。」
キラリはそれ以上何も言わなかった。ーーーただ、朝日の差し込む裏庭で、アミダに傅く様に声を震わせていた……
◇◆◇
「大丈夫ですかーーッッッ!!」
「道具一式持って来ましたーーッッッ!!」
「修理手伝います〜ッッ!!」
……襲撃から1時間ほど経った《アステール支部》。
其処には、街のあちこちから集まった住民達が屋敷の修復を手伝うべく、走り回っていた。……ちょっとした大工の一団みたいだ。
「…おぉ。なんかめっちゃ人来ましたね。」
四階から集まった人々を見下ろして、ニュウが呟く。視線の先には、彼等に指示を出して行くアルスラーンの姿が。ーーーこうしてみると、彼女は民衆を導くリーダーか、王様のように見える。
「…すごくテキパキしてますね、アルスラーンさん。」
「あぁ。…俺よりリーダーしてる。」
ゴミ袋を担いだバサラがニュウの横でそう言った。
「…失礼ですが、バサラさんってなんでリーダーになれたんです?」
「おま…その言い方……まぁ、そうなんだけどよ。」
一緒にゴミ袋を運びながら、ニュウとバサラは話していく。
「…ただ最初に連邦アンチの真似事始めたのが、俺だったってだけだ。…初期メンバーはアステール側の奴らが多いし、コッチが本部名乗っても良いんだけどな。」
「へぇ…そうなんですか。」
「ああ。…色々とすったもんだ有って今の状態に落ち着いたのよ。」
「いつか聞きたいですね。〈イースター〉の結成秘話。」
「ん。長くなるから、気が向いた時に話してやる。」
そう言いながら、バサラとニュウは瓦礫やゴミを片付けていったーーーーーーー
◇◆◇
ーーーーーーーー手伝いにやって来た沢山の住民のお陰で、四階の清掃は昼前に終わり、そのまま流れで本職の大工達が訪れて、四階の修復に取り掛かり始めた。
…トンテンカン…と心地の良い金槌の音が辺りに響いている。
随分とテキパキ進む修復を眺めながら、ニュウは感心して呟く。
「……みんなめっちゃ協力的じゃないですか?これが〈イースター〉の求心力の賜物……。」
「…〈イースター〉の…って言うよか、アルスラーンのカリスマだな。これに関しては。俺がやっても、こうはならねぇ。」
「よせ。……そんな事ないさ。皆の素晴らしい心意気の賜物だよ。」
バサラの声に、アルスラーンが口を挟む。隣には戻って来たハレルヤとフェムトが立っていて、アミダとキラリの2人と会話していた。
「ーーーーーーーへー…じゃあ、キミがアミダの話してた昔の友達?」
「…は、はい。キ、キラリと言います。こんにちは……。」
「そんなに怖気付かなくても良いよ。彼は良い人だから。」
「ははは…。ま、気楽に行こうよ。…どんな過去が2人の間にあったにしろ、今はもうキミを縛るモノは無くなったんだし。」
「……ありがとう…ございます。」
ハレルヤがキラリと素早く打ち解ける一方、フェムトは少し距離を置いていた。
「でも…ぼ、僕を取り返しに来た人だよね…?信用して良いの??」
「…彼女が此処に居ることが何よりの証拠だよ。フェムト。…彼女は連邦に付いて行かなかったんだ。…そうだよな?」
「ーーーーー付いて行かなかった…と言うよりは、アミダちゃんが縋り付いて止めたって感じ…???」
「…だって、行っちゃいそうだったもん!…ずっと会えなくて…漸く会えたんだから、また離れ離れになるのはイヤなの!!」
「ア、アミダちゃん……!」
「…もう、何処かに行ったりしないでよ………キラリぃ……。」
……孤独に耐え切れなかったのは、アミダの方だったのかも知れない。キラリは縋り付くアミダを背中を撫ぜながら、小さく微笑んだ。
それは久しく忘れていた、柔らかな笑みだった………。
◇◆◇
「……終わった…。」
「終わったね……疲れた。」
「お疲れ様、ネオ、カノン。」
一方で場面は変わって一階食堂内。
アビスとネオ、カノンは食堂の掃除と修復を終えて、廊下の椅子に座り込んでいた。
「…ありがとう。アビスもお疲れ様。何か飲み物とか要る?取ってこようか?」
ネオがそう返事を返すと、アビスは少し驚いた様だった。
「……!ーーーありがと…。お願いできる?」
「分かった。…持ってくる。」
ネオが食堂から台所の方へ向かって行く。
空いた時間に、アビスはカノンに話しかける。
「……なんか、ネオ変わった?…前から優しい人だったけど、あんな事言ってはくれなかった様な……。」
カノンは首を傾げた。
「…えっと……うん、ココ最近は少し変わったかも知れない…。」
「……何でだろう?…勿論、良い事なんだけれど…心当たりある?」
「……??…何でだろ?分からない。」
2人して首を捻っている間に、ネオが戻ってくる。そして2人にそれぞれボトルに入った飲料が手渡された。
「ーーーーーはい、どうぞ。」
「ありがとう。」
受け取る2人。栓を開けながらアビスが呟く。
「……なんか…変わったよね。ネオ。…前は、昔の私みたいだったのに。」
「…そうかな?私、変わった?」
「うん。何だか柔らかくなった気がする。」
「…柔らか……?」
ネオは首を捻った。ーーーーーーー正直言って、自分が変わった自覚は無い。…でも、アビスがそう言うのだ。きっと変わったのだろう。
(ーーーーーーーーそっか。私は変わったんだ…。でも、どうしてだろう?)
…白いコートが脳裏をよぎったが、すぐに消えてしまった………。
◇◆◇
ーーーーーーーーー10月 20日 午後1時
場所:移動要塞都市〈ネオ・タラスク〉内部《連邦軍第24番軍事施設》
ーーーーーーーーー〈アステール〉より離れる事暫し。…〈星のセラム〉の海を渡る移動要塞都市〈ネオ・タラスク〉の上にて、ドクトゥール・フォリーはもう見えぬ〈アステール〉の方角を見つめて物思いに耽っていた。
「…………不思議だな…。」
「……あ、居たデス博士〜。」
後ろからトタトタと走ってくる音がする。誰何の必要は無かった。…助手のアムール・ソワンだ。
「…お空見詰めてどうしたんデスか?」
「…ふむ。ソワン…キミが『星の森で見た光』とやらが気になってね。…あの時は気のせいか、〈アステール〉の誰かが森に居るのだろうと思っていたが…良く考えれば、アソコは所謂〈禁足地〉だった筈だ。…それに人だとして、あんな深夜に星の森で何をしていたのか…?」
「……それってそんなに気になるモノなのデスか〜?どうせ私の見間違いデスよ〜。」
「…いや。私はエールソレイユのメインカメラデータを洗ってみたんだ。…確かに星の森に謎の光が有った。キミはしっかり見ていたよ。」
「あ、調べたんデスね。」
フォリーは片手で丸鋸をくるくる回していたが、やがて何か決心した様に、丸鋸を回すのをやめた。
「…アレは人工の光というよりは、
「えっ?今からデスか?!…帰ってきたばっかりデスよ博士ぇ〜。それに、〈研究議会〉が博士を呼んでるんデスよ?!…だから今私、博士を探してたんデスからね?」
フォリーはハッキリと舌打ちした。
「チッ!ーーーあの魑魅魍魎共の集まりが私を呼ぶ時は、決まってお小言だ。…どうせ、非番の奴を引っ張り出した上、脱走者と離反者まで出した私に言いたい事があるのだろうさ。…アレも研究の一環だと言うのにーーー。参加者は?」
「…リモート参加でゾルゲ博士、アンソニーさん。あとマター博士、アビド博士ーーー」
「ふむ。いつもの奴らだな。」
「ーーーそれと、ウンエン…」
「ーーーーーーはッ??まさか!?あの
「はい。」
フォリーの顔があっと言う間に苦々しくなった。
「はぁ……ーーーソワン、私は彼奴が嫌いでね。…彼の作る人形共はどうも気に食わない。…そもそも、〈
「それは私に訊かれてもわからないデス。ーーーーーーあと、《総帥》の代理として、幹部のクイーンバタフライ様デスね。」
フォリーの顔がピクリと動いた。
「クイバタ様が?……ふぅむ。コレはただのお小言会議じゃ無いかもな。…連邦の上層で、何か取り決めがあったのか…。」
フォリーは丸鋸を仕舞い込むと、ため息を吐いた。
「仕方ない。…何方にせよ、私に拒否権は無いのだ。ーーー出席しよう。〈アステール〉再訪は明日だな。」
「了解デス〜。」
◇◆◇
ーーーーーーー時は少し遡り、10月19日深夜頃。
…場所は『星の森』。
時間にしてちょうど、ネオがニュウを連れて『霧の森』から飛び立つ頃だろうか?
ーーーーーーー
…彼の周りには、男の身体に纏わり付く様に煌めく〈星のセラム〉が漂っている。
それが蛍の様に、又は人魂の様に、彼の動きに合わせて揺れていた。ーーーーー人間にとって毒である星のセラムを纏って歩くヒト……そんな人間、存在するのだろうか?
彼の近くには、古びて廃墟となった小さな教会。……まさか誰も、この教会に人が居るなんて思いもしないだろう。
ソコは男の
「……歌が……歌が聞こえる…。近い…近いですよぉ……。」
男は熱に浮かされた様に、空を見上げながら呟き続けていた。そして、
「………!!!おぉ……!!」
やがて彼の見上げる夜空に、青い尾を引く流れ星の様な光が斜めに横切った。それを見て、声をーーー感嘆と狂喜と狂愛に満ちた声を上げる男。
「ははっ!!はははははッ!!ーーー見たまえ!蒼き彗星だ!!神の意志に取り残されて尚、支配者気取りで醜く星にしがみつく旧き者達に終わりを告げる彗星だ!!ーーーあの星が、我らに
……気付くと、男の後ろや横に、沢山の影が現れていた。…人の姿をしているが、
空に手を翳す男。それに倣う様に周りの影達も手を空に翳す。……崇める様に、焦がれる様に、求める様に。
『ォォォォォォォォォ……。』
影の群れから、獣とも人とも違う声色をした微かな声が漏れた。
ーーーーーーーーーこの声は………〈
「…神は仰っている。ーーー『時』が来たと。」
青い流星はアステール…〈イースター支部〉の方目掛けて飛んで行き、パッと瞬いた。
それを見ながら、男は言葉を放ち続ける。誰かに聞かせる訳でもなく、ただ言葉を紡いでいく。
「今こそ、我等がかつて望んだ世界を創る『時』。ーーーーーー
…男は青い流星が消えた方へ手を伸ばす。その手は、側から見てもはっきり分かる程、酷く震えていた。
「ーーーーーーーふふふ……手が…手が震えています。…喜びに…震えています。我等の素晴らしき世界はーーー『星々の時代』は直ぐそこに……」
ーーーーーーーーそう言う男の頭上に、割れた
第1節脱走者編はこれにて終了です。
次回より、第2節新人類優勢思想編が始まります。こっから本題です。
…おっそ()
元々、2章は新人類優勢思想編だったのに、なんで〈脱走者編〉が湧いてきたんですかね…フェムトくん軍で大人しくしててよ。
それと、キラリちゃん。ーーー出すつもりはあったが、この章で出すとは想定外。…こっからどうすっか検討中。フェムトくんと一緒で、どっから湧いてきたのやら……
あと、ちょっとモンストに関係ない話をば。
私が個人的に応援してた『ムシジョ』って漫画有るんすけど、久々に見に行ったら、最終話でした。全3巻?………マジかよ…orz
アレ好きだったんだよ………