モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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第3章〈11月の星〜November Stars〜〉
46話 〈しかし、未だ闇は深く〉


 

 

 

 

 

……旗が風に揺れている。

 

 

 赤地に金で描かれた、丸まった竜の刻印。………連邦政府の旗だ。

 

 

 

ーーーーーーその旗に見下ろされる様にして、整然とした街並みが眼下に広がっている。

 

 均一な高さに揃えられた建物に、しっかりと整備された道路。……そこに乱雑さなど無く、最早無機質なまでに整っている。

 

 

………此処は、連邦政府のあらゆる権能が集まる地にして、連邦の首都。その名も、超弩級移動要塞都市〈アーク〉。

 

 

 ()()()()()()()()を冠する移動要塞であると同時に、神話に登場する〈救済の方舟〉の名を冠した都市でもある。

 

……この移動要塞を造った時、人々は願ったのだ。ーーーこの移動要塞が、神話の方舟の様に、人類の救いとなってくれる事を………。

 

 

 そんな街並みを、広々とした部屋から見下ろす男が1人。

 

 黒い裏地の真っ赤なマントを羽織り、闇の様に黒い軍服に身を包んでいる。

 白い手袋を嵌めた手には、先端に髑髏の付いたステッキを握っていて、その立ち姿は実に整っていた。

 

 

…まるで、一昔前のヒーロー物の悪役の様な見た目だ。

 

 

「……そろそろよ?…()()??」

 

ーーーそんな男の後ろから、声をかける者が1人。青色の髪に、白と水色の軍服を着た女性……クイーンバタフライだ。(因みに、クイーンバタフライと言う名はコードネームであって、本名では無い。)

 

「……あぁ。分かっている。ーーーもう、皆集まったのだろう??」

 

 ()()…そう呼ばれた男が、小さく頷いて呟いた。静かで冷徹な、しかし確かに強い意思を感じさせる………そんな声だった。

 

 バサリ………と、彼はマントを少し動かすと、窓に背を向け歩き出す。

 

 そしてクイーンバタフライの横を通り過ぎ、部屋の出口へ向かう『総帥』。

 

 

ギィィ…………ッ。

 

 

 扉が彼の前で音を立てて、独りでに開く。

 

 そして、その扉の向こうから高らかな声が響いて来た。

 

「総帥閣下ぁーーーアーク様のぉ、御成(おな)ぁりぃぃーーーっ!!!」

 

ガタッ!ーーーと、無数の椅子が動く音がする。次に無数の人が立ち上がる時の、衣擦れの音や金具の擦れる音が響く。

 

「…………………。」

 

…そして、一拍置いて辺りは静まり返った。

 

 

カツ…カツ…カツ……

 

 

 長靴の音を立てながら、扉の向こう側へ足を進める『総帥アーク』。

 

 扉の向こうには、コレまた広々とした、大きな会議室の様な空間が広がっていた。そして、その部屋は沢山の人々で埋め尽くされている。

 

……彼らは全員、連邦を構成する各国の代表ーーーーーー即ち、王や女王だ。

 

 幾千もの目が自分に注がれる中を、ゆっくりとした足取りで歩いて行く総帥アーク。後には、クイーンバタフライが静かに付き従う。

 

 そして、目の前に用意されている大きな椅子ーーーまるで玉座の様ーーーに、アークはそっと腰掛けた。右横にはクイーンバタフライが立つ。

 

 ソレを合図に、立っていた王侯貴族たちも一斉に着席する。再び辺りに響く衣擦れの音。

 

 

ーーー再度の静寂。クイーンバタフライが会議室全体を見渡して、口を開いた。

 

 

「……揃ったわね。ーーーでは、これより今年度最後となる〈連邦統一会議〉を始めます。…願わくば、これが連邦として最後の会議にならない事を祈るわ。」

 

…ソレを聞いた幾名かが騒ついた。

 

「ちょっとー??ソレってどう言う事なのよー?!」

 

 会議室の円卓の角から、そんな声が聞こえてくる。…発言したのは『マゴスチーネ王国』の女王マゴスチーネ。後ろに居るのは、護衛のドラン・フルッツだろう。

…彼女は、もともと連邦非加盟中規模移動要塞都市の平民だったのだが、数年前クーデターを起こして要塞都市を乗っ取り、その女王となって連邦に加盟したと言う経歴を持つ。因みにかなりの野心家で、連邦すら乗っ取ろうとして居るとか……。

 

 クイーンバタフライは、軽く見下す様な口調になって口を開いた。

 

「……貴方なら分かるのではなくって?…マゴスチーネ。」

マゴスチーネが首を傾げる。

「……は?」

 そんな彼女を放って、クイーンバタフライは円卓を囲む人達を見渡しながら、言葉を続けて行く。

 

「連邦『統一』会議……。その名が示す通り、連邦内における旧人類の意思は、統一されている必要があるわ。……正直言って、連邦の力は低下してきているの。だからこそ、加盟要塞都市の全員が力を合わせる必要がある………。今回は貴方達に、連邦への忠誠を確認しようと思ってね。」

 

「…はっ!」

 

 マゴスチーネとは反対側の椅子から、呆れた様なため息が聞こえて来た。其方を向くクイーンバタフライ。

 

「…何かしら?ーーーアーサー王??」

 

 ため息を吐いた金髪の凛とした女性ーーーーーー弩級移動要塞都市『ブリタニア』のアーサー王が口を開く。

 

「……公開処刑のつもりか?ーーーーーだいぶと慌てている様だな?新人類たちの声に、押され始めたか。」

クイーンバタフライの目がスッと細められた。

「アーサー…。貴女達もその『声』とやらを後押ししている癖に、良くのうのうとこの会議に顔を出せるものね。」

「ーーーその声を奪おうとしているのは其方だろう。…私は連邦加盟国という立場から、彼等新人類に何か出来ないのではないかと考えて此処に居る訳だ。…抑圧を進める貴方達と合わない事は、自明の理じゃないか?」

 

睨み合う両者。

 

……更に別の所から、この睨み合いに油を注ぐ者が。

 

「…アーサー王、未だうら若き王よ。ーーーーーー新人類などと言う、悪魔に身を捧げるのは止め給え。」

 

ーーーーーー移動要塞都市オークニーの王…ロットである。

 

「ロット王…!」

 

 アーサーが呟く。……彼女の後ろで、王の相談役とも言える緑髪の少女『マーリン』があたふたする中、ロット王は見下す様な笑みを浮かべながら、口を開く。

 

「…貴女は旧人類の筈だ。ーーーなのに何故新人類を擁護する?…後ろのその女…マーリンだったか?ーーー彼女は新人類なのだろう?」

 

 マゴスチーネが驚いた様に椅子から少し浮き上がった。

 

「……えええ!?そーなの?!…なんで、此処にいんのよッ??魔女!悪魔の子!生き埋めになっちゃいなさい!ーーーアタシ知ってるわよ!?新人類は、皆自分の力に酔いしれる犯罪者予備軍だって!」

 

 マーリンに指を突き付けながら、そう叫ぶマゴスチーネ。その時マーリンを庇う様に、隣の席から桜色の髪をした女性が顔を突き出して叫び返した。

 

「……それは余りにも失礼じゃないの??偏見だけで話さないで貰える!?」

 

…移動要塞都市レシアルの王ーーーソロモンその人だ。

 

「ソロモン…。」

 

 アーサーの隣で、ソロモンがマゴスチーネとロット王に向かって勢い良く啖呵をきる。

 

「新人類だって、私達と同じ人間なの!…人を人とも思わないなんて、間違ってる!!」

 

マゴスチーネが憤慨する様に叫んだ。

 

「…人類にとっての毒たる〈星のセラム〉から力を得てる新人類達が、マトモな人間である筈が無いわよ!!…てか、ブリタニアもレシアルもあのテロリストーーー〈天聖〉の襲撃を受けておいて、よく新人類の事を信じていられるわね?!」

 

 マゴスチーネの叫びが円卓に響く。…その声に賛同する王達も多い。

 

「そうだ!そうだ!ーーー新人類なんぞが、同じ人間であるものか!!」

 

 そう叫ぶのは、ブクブクと太った男性ーーー『エリン王国』の上王ケアブリ。近くの椅子に座る幾人かの王達も、同じ様に頷いている。

 

「人類を脅かす怪物が!!」

「ーーーレシアルやブリタニアは新人類を優遇しすぎている!…ブリタニアは国防の要たる〈円卓の騎士団〉にも、新人類を加入させているそうではないか?!」

「…そんな事をしては、奴等の助長を招くぞ?ーーー反乱を起こされたらどうする!我等旧人類は、新人類に力で劣っている。…奴らがその気になれば、我々を滅ぼす事だって可能だと言うのに!!」

 

 騒然となって来た会議室。

 我関せずと、静観を決め込む者。面白そうに事態を見守る者。マゴスチーネやロット王と一緒になって、アーサー達を非難する者。そして、白熱する両者を落ち着かせようとする者。ーーー彼等の声が混ざり混ざって、会議室を埋め尽くしーーーーーーーーー

 

 

 

「…静かにしろ。」

 

 

 

ーーーーーーーーー総帥アークの一言で、会議室に満ちていた喧騒が水を打ったかの様に静まり返った。

 

 シーンとなった会議室に、アークの声だけが響き渡る。

 

「…此処は会議の場だ。好き放題言い合う場では無い。」

 

 アークは苛立った様子も無く、ただ淡々と言葉を吐いていく。

 

「……新人類が会議に参加している事が如何だとかなぞ、我にはどうでも良い。ーーーーーー我にとって重要なのは、新人類が皆、我々〈連邦政府〉の意に服従しているか否か…だ。」

 アーサーが彼の方をサッと見る。その強い視線を受けて尚、アークはあくまでも淡々と話し続ける。

 

「我が忌み嫌うのは、我々の意思に反する者達だ。ーーーーーー元連邦の副総帥にして〈ティタノマキア事変〉の首謀者、売国奴ゼウス率いる弩級移動要塞都市〈オーステルン〉。その庇護下にあり、連邦からの独立を宣言した星屑の街〈アステール〉。…そして獅子王『ライオ・アルスラーン』の思想を源流とする反連邦団体〈イースター〉。……彼等の様な存在こそ、我々の真の敵。」

 

 アークは自分を見つめる王侯貴族達を睥睨しながら、言葉を続ける。

 

「ーーーーーー忘れるな。マゴスチーネの王が言う様に、確かに全ての新人類は悪になり得る。……だからこそ、連邦の法で管理する必要があるのだ。そして奴等が大人しく連邦の法に服し、我々に力を貸している内は此方から波風立てる事も無いだろう。…今はまだ、そこのマーリンは連邦加盟国の一員として、我等の意に従っていると見て良い。……過度に恐れる事は無い。」

 

「し、しかし……閣下!ーーー新人類は、飼い慣らしておくにはあまりにも危険すぎますぞ!わ、儂はこの神聖な首都アークに新人類が足を踏み入れるなど、ゆ、許せませぬ!」

 

 円卓の端で少し取り乱した様に口を開くのは、錯乱王の名で知られる『マクベス』。…かなり昔から連邦にその名を連ねる、古参の王でもある。

 

 その通り名に違わず、錯乱した様に声を立てるマクベスを黙らせたのは、向かい側に座り込む1人の女性だった。

 

「黙りなさい、マクベス。……総帥が恐れる必要は無いと言ったのよ。…信じれないの?」

「ふ、フェルシア殿……。」

 

ーーーーーーーー彼女の名は『教会国家グローリー』の司教フェルシア。彼女は子供を諭す様に口を開く。

 

「……分かるわよ。怖いのよね?……『知らない』から。ーーー人は未知を恐れるもの…。理解が出来ないから遠ざけようとする。理解が出来ないから恐れる。……ふふ。彼等の何たるかを知っていれば、恐れる事も無いでしょうに。」

 

 フェルシアはロット王やケアブリ上王の方も見遣りながら、軽く挑発する様に話を続ける。

 

「新人類について、あーだこーだ騒ぐのは止めなさいな。……自分の無知を曝け出しているだけよ??…レシアルの子が言う様に、偏見だけで話してどうするのよ?一国の王とあろう者達が、情け無いわね…。」

 

…明らかな侮辱。ソレを聞いた何人かが血相を変える。…が、強くは出れない。ーーー何故なら、彼女…フェルシアの背後にいる、どう考えても人間では無い人型の化け物に、睨み付けられているからだ。

 

 静まり返った円卓で、アーサーはフェルシアの方を見ながら心の中で呟いた。

 

(…グローリーの司教…フェルシア。ーーーさっきのマクベスと同じ連邦の古参メンバーにして、連邦の暗部〈研究議会〉にも名を連ねていると言う女。…背後の怪物は…『アナテマシリーズ』か。…禁忌の術から生まれた者と聞くが……。少なくとも、此方の味方では無いな。)

 

…フェルシアのあの余裕そうな態度は、研究議会の一員として新人類を研究し、細部まで知り尽くして来たからこそ出せるモノだろう。

 

 まるでアーサー達に助け舟を出したかの様だが、彼女は新人類の事を全く『人』としては見ていない。…アーサー達の思想とは、全く真逆の位置にいる人物だ。

 

 そうアーサーが思考に耽っている時、静寂を裂いてクイーンバタフライの声が響き渡った。

 

「ま、今のを見ても連邦内意見不一致は明らかよね?……コレが問題なのよ。結束が弱いままでは、連邦は内部から瓦解するわ。ーーー総帥閣下は、それを憂いて居られるの。…其々に思惑があるのは分かるわ。でも、考えて頂戴。ーーーーーーーーー連邦は、今この世界に残存する旧人類の拠り所でもあるの。…ソレが崩れた時、世界は今度こそ終わる。」

 

クイーンバタフライは周りを見渡しながら、話し続ける。

 

「〈大災害〉の日から、人類は何とかして滅亡を回避しようと足掻き続けて来た。…その結果が今なの。…人類は未だ生き残っている。コレは奇跡よ?それなのに、只の野心から最初の数年…所謂〈混沌の時代〉と言われた数年間ーーーアレを繰り返すつもり?」

 

 クイーンバタフライは円卓の皆に聞こえるよう、声を大きくした。

 

「…そんなのダメよ。旧人類が頼れるのは、最早私達しか居ないの。…やっと一つに纏った世界を、またバラバラにするのは避けたいわ。……それだけは分かって貰えるかしら??」

 

 

 最早懇願に近いその声を聞いて、円卓の王達は皆顔を見合わせたーーーーーーーーー………

 

 

 

 

 

 

◇◆◇数時間後◇◆◇

 

 

 

 

 

「なーーーにが、新人類は皆んな犯罪者予備軍、よ?!」

 

 ソロモンの蹴った豪華な柱が、クワァーンと情けない音を立てた。

 

…此処は首都アークの中心部。…その一角にある、会議を終えた王達が集まって談笑する場でもある。

 

 最も、さっきの様なメンツでまともに談笑など、出来るはずも無いが。

 

ーーーだからだろう。今この部屋には、アーサーと相談役のマーリン。そして、レシアルの王ソロモン以外に人は居なかった。

 

「…偏見だけであんなに好き放題言われちゃって…!大丈夫マーリンちゃん??嫌な気分にならなかった??」

 

 心配そうなソロモンに頬っぺたをプニプニされながら、マーリンが首を振る。

 

「ううん。平気だよ〜。そう言うのもう、慣れちゃったから。」

 

 そう言ってニコニコ笑うマーリンを、ソロモンは半分泣いている様な顔で抱きしめた。

 

「…あわわ…??」

 

 驚いて手をバタつかせるマーリン。そんな彼女を抱きながら、ソロモンは独り言の様に呟く。

 

「もう慣れちゃったって、そんなの辛すぎるよ。……アレだけ色々言われて、そんなに笑えるなんて……辛すぎるよ……。」

「………ソロモン王…。」

 

 彼女に抱きしめられながら、おずおずとマーリンが呟いた。アーサーが隣で外ーーー広がる青い空を見ながら、静かに口を開く。

 

「…連邦に所属する王達の大半が、新人類抑圧賛成派だ。私は何とかして、この状況を変えて行こうと今まで努力して来た…つもりだ。ーーーだが、やはり積み重なってきた新人類への恐れは、そう簡単には無くならないか……。」

 

 窓の外には強い風が吹いている。…ソレに煽られ、されるがままに流れていく雲を見詰めながら、アーサーは言葉を続ける。

 

「……旧人類が新人類を恐れ抑圧するから、新人類に抵抗…反抗の意思が芽生え、暴動が起こる。ーーーソレを見て、聞いて、旧人類は更に新人類を恐れ抑圧する。………止まらない負の連鎖だ。」

 

 ソロモンが抱き締めるマーリンを離して、アーサーに向かって口を開いた。

 

「…もうこんな連邦になんて居られないよ。〈大災害〉前から、代々ずっとレシアル王国は連邦に加盟して来たけれど、このまま此処に居ても何も成せない気がするの。」

 

 アーサーは顔を暗くしながら、ソロモンに言葉を返す。

 

「…分かっている。だが、ソロモン。ーーークイーンバタフライが言った通り、連邦に加盟している私たちの国が、旧人類の寄り何処なのもまた事実なんだ。…私は私の国の国民…新人類は勿論、数多の旧人類の命も預かっている。ーーー連邦から離脱する事は…彼等国民の命の保証を捨てる事でもあるのだ。キミも…同じ筈だろう…。」

 

「…………うん、分かってるよ……。」

 

…新人類をどれだけ想おうとも、その為だけに国全てを危険に晒す事は出来ない…。それはソロモンも分かっている。分かっているのだ。故に遣る瀬無い気持ちになる。

 

 

 暫く3人は、ただ青空を眺めていたーーーーーーー……

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー未だ世界は静かなまま動かない。…だが、いずれ世界はひた隠しに溜め込んで来た闇を抑えきれなくなるだろう。

 

 

…溜め込まれた闇は必ず何処かで噴き上がる。…それは革命と呼べる物なのか…それとも…………。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

11月11日 移動要塞都市〈オーステルン〉

 

AM 7:00

 

 

 

 ごちゃっとした乱雑な街並みが続く、活気に溢れる繁華街を抜けてネオは〈イースター本部〉へ辿り着いた。

 

だだっ広い駐車場を横切り、本部の中へ足を踏み入れる。

 

「ーーーーーーただいま。」

 

 返事を返してくれる者達はいつも二階にいる癖に、毎回一階に入る時点で『ただいま』を言ってしまう。

 

 相変わらず一階には誰も居ない。…気にする事なく階段を上がり、二階に足を踏み入れるネオ。

 

「ただいま。」

 

 2階に上がって再度口を開くと、2階の大部屋にいた人達が一斉に振り返って、ちょっと驚いた様な表情になった。

 

「おー、ネオちゃん!おかえりぃ!…自分から帰ってくるなんて珍しい。いつも電話掛けないと戻って来ないのに。」

 

 そんなアミダの言葉に続いて、ハレルヤが大部屋のコタツの空いている所を指差す。

 

「おかえりネオ。そこ、空いてるよ。…今ちょうど朝食が出来た所なんだ。」

 

 コタツの上を見てみると、ごく普通の和朝食と、何故かズタズタに切り刻まれたアボカドサラダがドンと乗っていた。

 

「……アボカドだ。」

「ーーー余ってたんだ。腐らせるのも勿体無いし、使ってしまおうと思ってね。…作りすぎた感は凄いけど。」

 

 ハレルヤがそう言って笑う。ネオはコタツに座ると、雑に切り刻まれたアボカドを箸で摘んで一言呟いた。

 

「…コレ、切り過ぎなんじゃ?」

「…あぁ。それ切ったの俺っす。ーーー料理とかした事ないんで、許して下さい。」

 

 隣でニュウが苦笑いしながら呟いた。ネオは一口食べてから頷く。

 

「…ん。でも美味しい。」

「やったぜ。苦労した甲斐があった……。」

「…キミは切っただけじゃん。」

 

 軽くガッツポーズするニュウの向かい側で、アミダが軽く突っ込む。隣のキラリがフォローに回った。

 

「ーーーニュウくん、頑張って切ってたんだよ?私横で見てたけど、何度指ごと切り落としそうになった事か。」

「いやー、それ程でも。」

「褒めては無いケド。」「…褒めて無いんじゃないかな。」

 

 ガックリするニュウ。黙ってもきゅもきゅ食べていたカノンが、ボソッと呟いた。

 

「…指って美味しいのかな?」

「「「「「………え?」」」」」

 

 

 

 

 

◇◆◇1時間後◇◆◇

 

 

 

 

ーーーーーーーー食事も終わり、台所にて食器を片付けているアミダとキラリ。横でニュウも少し手伝っている。

 

「いやぁ…。ラーメン食べたいなぁ。」

「ーーー相変わらず、ラーメン好きだよね。アミダちゃん。」

 

 食器を洗いながらそんな事を言うアミダに、キラリが笑いながら返す。

それを聞いたニュウが、小さく呟いた。

 

「……朝食べた後で、まだラーメン食べたら絶対太r」

「インフィニティ目潰し。」

ーーーアミダの指(食器用洗剤の付いた指)が、ニュウの眼窩に突き刺さる!!

「ぎゃあああああああッッッ?!?!洗剤付きの目潰しは殺意しか無いッッッ?!?!」

 

 悶絶するニュウ。アミダが軽く見下す様な目で彼を見ながら、口を開いた。

 

「そんな事容易く言うもんじゃ無いんだよ??ニュウ君?」

「…ご、ごべんなざい。」

 

 水で目を洗いながら、ニュウは何度も頷いた。キラリが呆れた様に呟く。

 

「でも、彼の言う通り、気を付けないと体重増えちゃうよ?…昔っからラーメン好きなんだから。」

「…分かってはいるんだけどねぇ…。」

 

 そう言葉を交わす2人に、ふとニュウは気になった事を口に出した。

 

「…ああぁ…沁みる。ーーーーーーあ、そう言えば、お二人について俺あんまり詳しい話聞いてない気がするんですけど、二人はその……どんな経緯があって今に至るんです??キラリさんに至っては、連邦軍に所属してましたし………。」

 

ニュウの問いに、2人は顔を見合わせた。

 

「ん〜最初に説明した気がするけど…ま、いっか。」

 

 アミダはそう言ってから、食器を洗いがてらに話し出す。

 

「…長くなっちゃうから手短に言うと、事の発端は約4年前だね。ーーーーーーー私達は、〈旧日本〉の新人類共同生活区域…東京じゃ無いよ?…で暮らしてたんだよ。出会ったのは…いつぐらいだっけ?…小学生ぐらいの時だっけ?」

キラリは皿を洗いながら頷く。

「…それぐらいだよ。…確かね。」

 

アミダは頷き返して話を続けた。

 

「ん、じゃ、それぐらいか。ーーーまぁ兎も角、小さい頃にキラリと私は出会って友達になった。…で、そこで連邦の管理下の元、大して裕福でもなければ貧しくも無い様な、ふっつーの暮らしを家族と過ごしてた訳。」

 

ズゴゴ…と音を立てて、シンク台の水が流れていく。

 

「……でもある時、連邦政府が新人類の引き抜きって奴を始めたのよ。…優秀な新人類の人材ーーー言い換えれば、放っておいたら連邦の敵となり得る力を秘めた新人類を、早めに連邦側に引き込んでおく為の、強制徴兵みたいな物だね。…基本、行ったら最後。もう戻っては来れない。…もし戻ってくるとしても、連邦の一員となって戻ってくる事になる。家族と普通に接する事は出来なくなるんだ。」

 

 洗剤の泡が、ゆっくりと渦を巻きながら排水口に消える。

 

「…その制度自体は随分と前に始まった物だった。…だからいつの日かこんな時が来るんじゃ無いかって、家族は恐れてた。で、実際にその日がやって来て、キラリは連邦に連れていかれた。」

「…うん。アミダちゃんとは、その時に離れ離れになっちゃったんだよ。」

 キラリが横から口を挟む。アミダが頷いて、話を続けた。

「ーーーしかしその日()()()()が起きた。〈新人類優生思想〉……アイツらが私達の住む街で、連邦相手にテロを仕掛けたんだ。アイツらが起こした、『11の事件』の内の1つだね。」

 

 洗い終わった皿を拭きながら、アミダはかつての記憶を辿る様に話し続ける。

 

「…首謀者は今は亡き〈天聖コクマー〉。その戦いは良くか悪くか、私とキラリの命運を分けた。…私より先にキラリが連れていかれ、私の番が回ってくる前に〈その事件〉が起こったせいで、私は連れていかれなかった。」

 

キラリが横から話を補完する。

 

「その一方で私は連れて行かれて、連邦の研究施設に入れられたの。…ちゃんと連邦の言う事を聞いていれば、必ず帰れるからって…。そう言われてね。ーーー今思えば、絶対帰す気なんて無かったのに。」

 

「…それで、4年間囚われてたんですか…?」

 

 ニュウの問いに、キラリは皿を拭きながら頷いた。

 

「…幾つかの要塞都市を転々としたの。…ほんの1、2ヶ月前には、極秘研究施設みたいな所に送られて実験され、そして研究施設から離されたと思ったら、今度は連邦軍の兵士として戦わされた…。ーーーそして、あの時〈アステール支部〉の襲撃に参加する事になった、って訳よ。」

 

ニュウの顔がピクリと動いた。

 

「……極秘研究施設…!」

「うん。…何処にあるかも分からない謎めいた施設。ーーー約一年前の〈新人類優生思想事件〉後、何処かに新造されたらしいんだけど、窓も無いオスプレイに乗せられての移動だから、どんな場所なのかは分からなかった……。」

 

 ソレを聞いて黙り込むニュウ。キラリは最後の一枚の皿を棚に仕舞い込んで、話を終える。

 

「…確かに辛い過去だったけど、今はもう大丈夫。…だって、またアミダちゃんに会えたんだもん。ーーーね?アミダちゃん?」

 

それを聞いたアミダが軽く微笑んだ。

 

「いやぁ……なんだか、照れるな。」

 

…どうも、これで話は終わりらしい。ただ、最後にどうしても気になる事があって、ニュウはアミダに問い掛けた。

 

「…あのーアミダさん。ーーー今の話だと、アミダさんが街を離れる事になった原因が無い様に思うんですけど、アミダさんって今オーステルンに居ますよね?……親元から離れて此処に来たんですか??」

 

アミダは軽く答える。

 

「あぁ。私飛び出して来たんだよ。ーーーーーー怒っちゃったからね。キラリちゃんや、友達を連れ去っていった連邦に。……流石に当時は親に止められたけど、今は応援してもらってる。ーーー週一で電話来るし。」

 

「……おお…それは中々……即行動派なんですねアミダさん……。」

 

 驚き半分呆れ半分で呟いたニュウに向かって、アミダは小さく笑った。

 

「…ちょっと後先考えずにやった自覚もあるけど、〈イースター〉に入れて満足だよ。…親としても、あのまま町に居れば間違い無く連邦に連れて行かれるだろうから、多少のリスクがあっても違う場所にいた方が良いかも…ってね。ーーーバサラさんが、何かあったら責任持つって親にも言ってくれたし。」

「へぇ……やりますねバサラさん。」

「ーーーただ、なんかちょっと親が誤解したみたいで、勘違いを解くのに時間かかったけどね……。責任ってそう言う意味じゃ無いのに…。バサラさんの言い方もアレだったけど。」

「?」

 

 少し嬉しい様な、困った様な表情を浮かべるアミダの呟きに、ニュウは意味がわからず首を捻るのであったーーーーーーーーー……

 

 

 

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