モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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48話 〈だが、恐れる事はない。〉

 

 

 

11月28日

 

 

場所:連邦政府極秘研究施設内

 

 

 

ーーー連邦の研究者の1人、『Dr.アビド』は大して広くもない部屋の中を歩き回っていた。

 

 ブツブツと顎に手を当てながら、あっちに行ったりこっちに行ったりと、落ち着きのない様を呈している。

 

 部屋の中には大量の紙の束。…そして無数のPC。コレ等は全て、〈とある実験〉の結果を書き記した物だった。

 

「ーーーーーーても、覚醒には至らん……やはり…ーーーーなのか?…しかし…ならば、どうやって……。」

 

 そう呟きながら部屋を歩き回るアビド。頭の中は相当忙しくその『実験』とやらについて、回転しているらしい。

 

 

ーーー彼がしているのは何の実験なのか?………それはズバリ、〈新人類の覚醒条件〉について…である。

 

 10月の研究議会にて、アビドは連邦の戦力アップの為に〈覚醒新人類〉の実験を始める事を提案した。

 

 しかしながら、その提案は同じ議会の研究員『ドクトゥール・フォリー』に、止められてしまう。…アビドは、それが余り気に食わなかった。

 

「…フォリーの奴め…。何時も勝手に1人で実験を進める癖に、儂等の実験は邪魔しよって。ーーーゾルゲ殿も、フォリーには悩まされている筈なのに、何故あの時フォリーの言葉に反対せんだのだ。」

 

……アビドとフォリーの新人類への考え方には差があった。

 

 アビドは、連邦は新人類抑圧政策を持って、彼等を完全なアンダーコントロールに置くことが出来ているーーーと思っている。しかし、フォリーはそれに関しては案外否定的なのだ。

 

 新人類への連邦の抑圧など、場合によっては簡単に消え失せるーーーそうフォリーは思っている。ーーーだからこそ、連邦に歯向かって行ける存在である〈覚醒新人類〉が現れる事を憂いているのだーーーーーー…そうアビドは考えていた。

 

「…腑抜けおって…。連邦の支配力は既に新人類共に刷り込まれておる。…特に、連邦以前の世界を知らずに生まれて来た者達は、連邦の支配に異議を唱えようともせん。…幼い頃から徹底して教え込まれてきた連邦の法。……逆らう者など現れる筈がない。」 

 

 

 新人類は生まれた瞬間より、連邦によりひたすらに教え込まれる。自分達の立場の弱さを、連邦の支配力を、その身に刻み込まれるのだ。

 

 そして逆らおうとした者に待っているのは、完膚無きまでの力による屈服のみ。…それでも尚逆らい続けられるのは、ほんの僅かな強者だけだろう。

 

 

…それは暴力的な躾にも似ている。ーーーーーー何かの動物に芸を仕込もうとした時、失敗したり芸をやらなかったりすれば、罰として叩く。痛みを教える。

 

 それを繰り返していけば、やがて動物は、失敗したりすれば痛い目に遭う事を知り、痛い目に遭いたく無い…叩かれたく無いから、ちゃんと芸をする様になる。

 

……連邦の法も、そうやって新人類達に教えられて来た。ソレは絶対的な効力を持つ……そうアビドは、信じて疑わない。

 

 故にアビドは、覚醒新人類もコントロールする事が十分可能であると、考えていたのだ。

 

 

「ーーーとは言え、先ずは〈覚醒〉が如何にして起こり得るのかを知らねば、実験自体が始まらん…。」

 

 アビドは呟きながら、紙の束を掴んでペラペラと捲り始める。そして書かれている内容を見ながら、また呟き始めた。

 

「…覚醒条件の目星は付いている。ーーーーー1つは、極限状態に置く事。もしくは、強い感情の芽生えによる潜在能力の解放。」

 

彼は呟き続ける。

 

「…しかし、恐怖や怒りの感情では覚醒に至れなかった。…一時的に力が増幅しても、ソレは不安定な物であり、覚醒程の力は出力されない。…条件の予想自体が間違っているのか、他の感情が必要なのか…。しかし、だとすると怒りを上回る感情とは何だ……???」

 

 彼の捲る紙には、詳細な実験記録が残されていた。……ソレは、異常なまでの恐怖を実験体に与えたり、擬似的に死の極限状態を体験させたりと、新人類の覚醒を促す為の、ありとあらゆる非人道的な行為の数々であった。

 

「…この様な実験はココでしか出来ん。〈終了措置〉しかり、非人道的とも言える実験類は、人目につく所で行えば連邦内での反発を招く…。面倒な話だ。」

 

…連邦の人体実験記録は、殆どが闇の中に隠され表には出ない。余りにも人の道を踏み外しているが故に、ひた隠しにされているのだ。

 

「ブリタニアやレシアルの様な大国がコレを知れば、反発する事は必至。ーーーーーー特にブリタニアは連邦の3番艦として、強力な力を所持しておる。……〈対壊獣用特殊殲滅兵装:聖杯システム〉が敵に回れば、連邦の首都にして1番艦である〈アーク〉すら陥とし得るだろうの……。」

 

 いつの間にか、アビドの思考は脱線していた。

 

「……対壊獣用兵装は、そのまま軍事転用も可能となる。…故に、他の移動要塞都市のアンチボディとして4番艦を建造したと言うのに、肝心のブツが奪われては元も子も無いじゃろう。…幸いだったのは、4番艦がまだ建造途中だった事ぐらいか…。」

 

 そこまで呟いた所で、アビドは思考を元に戻した。

 

「…いかんいかん。…何故こんな事で思考を脱線させとるんじゃ儂は。誰かに説明をしとる訳でもあるまいし。」

 

 そう呟いてから、アビドはまた実験の事について考え始めた…………。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

11月29日

 

 

場所:移動要塞都市〈オーステルン〉〈繁華街郊外 イースター本部〉

 

 

 

 

「むぅ………。」

 

 唇を尖らせながら唸るニュウに、横から純白の髪が突き出して来た。

 

「どうしたの…?本読んで唸ってるけど。」

 

 そう問いかけてくる髪も服も真っ白な少女ーーーカノンに、ニュウは本を手に持ったまま答えた。

 

「いや、面白そうだと思って読んでた本なんですけど、何だか話がよく分からないし、最後の終わり方が『神様』が全部解決させて終了…って言う、イマイチ納得のいかない終わり方なんですよ。」

 

 カノンが、なるほど…と言った感じに頷いた。

 

「それは、デウス・エクス・マキナだね。ーーー神様とか、なんか凄い上位者が最後に終わらせてしまうヤツ。…随分と昔からある、物語の畳み方だよ。」

 

ニュウは首を捻った。

 

「……うーーん。まぁ…確かにそうとでもしないと、この話畳めないか…。…ところでカノンさんって、本に詳しいんですか?」

カノンは軽く頷いた。

「うん。…本は良い…。人間の作った文化の極みだよ。ーーー人の心を知るのには、本はとっても良い教科書でもあるんだ。」

「なるほど。…何かおすすめの本とかあります??」

「えーっと…そうだね…ジャンルにもよるけど、例えばーーーーーーーーー」

 

 

 

ーーーと、2人が話していた所にネオ(今までコインランドリーに行っていた。)が、2階の大部屋の扉を開けて帰ってきた。

 

「ただいま。」

 

 もはや聞き慣れた声。振り返ってニュウは返事を返す。

 

「…お。ーーーおかえりですネオさん。外寒く無いですか?」

 

ネオは小さく首を振った。

 

「…ううん。大丈夫だったよ。」

「そうですか。じゃ、俺北商業区に本買いに行こうかな…。」

 

 そんなニュウの呟きに、カノンは良さげに頷いた。

 

「うん。良いと思う。私も、そろそろ行こうかな……新しい本が欲しいと思ってたし。」

「お、なら一緒に行きます?」

 

ニュウの提案に、彼女は頷いた。

 

「そうしよっかな。良ければだけど。」

 

ニュウは立ち上がる。

 

「じゃ、行きましょうか。ーーーーーーあ、ネオさんは本とか読みます??」

 

 唐突に話を振られたネオは、一瞬目を瞬かせてから首を振った。

 

「…本は…あんまり読んだ事が無いの。」

「ーーーあ、そうですか…。一緒に本買いに行ったり…しません?」

 

 ネオは目を少し泳がせたが、やがて小さく首を振った。

 

「ううん。……私は良い。皆んな何処かに行ってるし、私まで着いて行ったら本部に誰も居なくなっちゃうから、此処に残ってるよ。」

 

「了解です。ーーーでは、行ってきますね。…直ぐ戻るので。」

「ん。」

 

 

 ニュウとカノンが2階から出て行く。

 

 ドアが閉まり、静かになった2階でネオは1人座り込むと、ついさっき迄ニュウが読んでいた本に手を伸ばす。

 

 そして1ページ目をペラリと捲ってから、小さく呟いた。

 

「………活字がいっぱいだ。」

 

そっと彼女は本を戻した………。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 寒く無いーーーと言っても、それは特に寒い時と比べれば…と言う事であって、全く寒く無い訳では無い。

 

 

 寒空の下、白い息を吐きながら歩くニュウとカノン。北商業区まで直通するモノレール乗り場を目指しているのだ。

 

「……いやぁ。しかしカノンさんが本に詳しいとは、あんまり知りませんでしたよ。」

 

歩きながら、ニュウはそう口を開く。

 

「ーーー因みに、何のジャンルが好きなんですか?…さっき色々教えてくれましたけど。」

カノンは空を見上げながら答える。

「……やっぱり、恋愛小説かな。…人の心を良く知るには、その手の小説が1番良い。」

「……そうなんですか?」

 

カノンは歩きながら話続ける。

 

「うん。…現実の世界でもそうだけど、『愛』っていうのは人間の持ってる最も強い感情なんだよ。『愛』が有れば、ヒトは何処までも強くなれる。…私は何度か過去にそれを実感した。ーーーーーーでも、私自身は、まだ『愛』を良く知らない。…朧げには分かっているつもりだけどね。」

 

 道ゆく人達を眺めながら、カノンは言葉を紡いでいく。…自分にも言い聞かせるかの様に。

 

「ーーーでも、私はハッキリと分かりたい。…『愛』とは何なのか。それが分かれば、私はきっと『人間』に近づける気がするんだ。」

 

 人間に近付きたい。……それは、〈グローリー〉によって()()()()()()であるカノンの、胸に秘められた願いなのだろう。

 

「最初生まれた時、私には何も無かった。……でも今は違う。色んな人に会って、色んな感情…心を知った。だからきっと、愛も知れる筈。」

「………な、なるほど…。まさか、そんな壮大な事を考えて本を読んでいるとは…。」

 

 

…話している間に、モノレール乗り場に着いた様だ。人の流れに従って、乗り場に足を踏み入れる2人。…12月が近付いているからか、人の数が多い様に感じる。

 

 その中に時折混じる、恋人同士であろう男女の姿を見ながら、ニュウはぼんやりと思考を漂わせていた。

 

(愛か……。自分には無縁の物だな。今までも…多分コレからも………。)

 

 

 

 

 

 彼もカノンと同じぐらい、愛を知らなかった。ーーーカノンと違う点は、自分は愛を知る必要が無い…と思っている事だろう。

 

 しかし、彼自身も気付かぬ内に、彼の心は愛を何処かに求めていた。ーーーその萌芽に彼が気付くのは、もう少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 






ネオさん読書苦手概念はアリだと思います(真顔)

はたして新人類の覚醒条件は何なのでしょうか…?原典には答えがありますがね。

後、この章は2話で終了予定です。
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