モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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 世界の夜明け前。しかし未だ闇は深く、貴方の行手を阻むだろう。

 だが、恐れる事はない。

 冬の後に春の訪れが約束されている様に、朝は必ず来るのだから。





50話 〈朝は必ず来るのだから。〉

 

 

 

◇◆◇

 

 

12月 24日

 

 

場所:〈連邦極秘研究施設〉

 

 

 

 部屋の中で、誰かと誰かが話し合っている声が聞こえる。

 

『ーーーーーーと言う事で、年明けに其方に行く事にしたから、宜しくね。』

 

 コレは女性の声だ。…次に、ソレに答える男性の声が響く。

 

「……別に良いが…。フォリーのヤツも年明けはコッチに来る。アイツと一緒でも構わんか?」

 

 この声は、Dr.ゾルゲのモノだろう。

 

『ええ。大丈夫よ。それ程長居はしないつもりだから。ーーー〈アナテマシリーズ〉の改良に使う実験体を、少し頂戴するだけよ。だから、()()の準備しといてね??』

 

 モニターに映り込む女性ーーーーーーフェルシアが、クスクスと笑う。

 ゾルゲは静かに溜息をついた。

 

「分かっておる。……どうせ、直ぐ使い潰すクセにの……。ーーー年末年始時の施設の場所は分かっとるな?…位置情報は送らんぞ?」

『結構よ。ーーー今年も、年末年始は〈首都アーク〉の()に泊まるんでしょ?…そこに行けば良いだけよね。ーーーー勿論、お忍びで行くわ。』

 

 研究施設の場所がバレたら大事だものね。ーーーと言って微笑む彼女。

 ゾルゲは頷いて、モニターのスイッチに手を伸ばした。…通話を終えるつもりらしい。

 

『じゃあね、ドクター。ーーーメリークリスマス。そして、ちょっと早いけど……良いお年を。』

 

 フェルシアがヒラヒラと画面の向こうで手を振って、通信が消えた。

 

 暗くなった画面を一瞥し、ゾルゲは一言呟く。

 

「……良い年に、なれば良いがな。」

 

 そして彼は立ち上がると、部屋から歩いて出ていった。

 

 

◇◆◇

 

 

……連邦極秘研究施設は、厳重に秘匿されている。

 

 此処が『何処』にあるのかを知っている者は、常駐する僅かな研究員と、警備を任されている軍の兵士のみ。

 

 その機密性は非常に高く、他の研究施設から実験の為に送り込まれる〈新人類〉や、一時的な実験補佐の為に訪れる研究員なども、窓の無い輸送機に乗せられ、わざと遠回りなルートを辿ったりして此処に連れて来られる。

 

 徹底的に隠された、外部との接点が殆ど無い場所なのだ。

 

 

 フェルシアとの話からも分かる通り、同じ〈研究議会〉のメンバー同士ですら、この施設の場所を常には知らない。…もっとも、フェルシアの場合、場所の予測を立てれる位には、施設について知っている様だが…。

 

 何故、ここまでしてこの施設は隠されているのか?

 

 

ーーーそれは、反連邦勢力の襲撃を恐れての事である。…かつて、連邦極秘研究施設は一度〈新人類優生思想〉による襲撃を受け、破壊された。

 その時の反省を活かし、新たに作られたこの施設は徹底的に情報が秘匿されているのだ。

 

 

 

(とは言え……この施設だけが安泰でも、意味が無いがの…。ーーーやはり、連邦の未来の為には『ネオ』の力が必須。)

 

 無機質な廊下を歩きながら、ゾルゲは心の中で呟く。

 

 廊下のあちこちには大きな扉が付いており、その扉には『第3実験室』だの、『新人類収容室』だのと書き込まれたネームプレートが嵌まっている。

 

 廊下の至る所には、警備兵が巡回をしていて、ゾルゲを見ると姿勢を正して敬礼をして来た。

 軽く手で返しながら、ゾルゲは歩き続ける。

 

(…そろそろ、ニュウの奴にコンタクトを取らねばならん。ーーーーーーこれ以上、作戦を遅延させる訳にも行かなくなって来たからの……。)

 

 

 

 そう考えながら歩くゾルゲの隣に、実験室から出て来たばかりと思われるDr.アビドがヌッと姿を現した。そしてゾルゲに気付いたのか、片手を上げて挨拶してくる。

 

 

「おぉ、ゾルゲ殿!」

 

ゾルゲの片眉が動く。

 

「アビドか。……随分実験に没頭しとる様だな。ーーー血まみれでは無いか。」

 

…ゾルゲの言う通り、アビドの体を包む白衣は、赤いペンキでも被ったのかと思うぐらい真っ赤に染まっていた。

 

「いや…。中々上手く行きませんでな。」

「ーーーやっとるのは覚醒実験か?……ちゃんと〈終了措置〉の準備は出来ているのだろうな?…覚醒者の反乱や、万が一の暴走などを招いてはコトだぞ??」

 

 アビドは、血のついた手袋を取りながら笑う。

 

「いやいや、やっておるとも。それに、万が一の事などありゃあしませんぞ、ゾルゲ殿?ーーー覚醒新人類は、必ず連邦の力となりますのじゃ。……こう言ってはなんだが、それ程恐れる必要は無いと思いますがのぉ。」

 

 彼はそう言って更に笑う。一方のゾルゲは顔を少し顰めた。

 

「分からんぞ。アビド。…フォリーの奴が言った様にーーー」

 アビドが被せる様に口を開いた。

「なぁに。フォリーなど、只の腰抜け小僧ですよゾルゲ殿。……我々人類は、猛獣でさえも飼い慣らす事が出来るのですぞ??……サーカスのクマやライオンの様にな。ーーー新人類も同じじゃ。…実際、連邦は飼い慣らす事に成功しておるじゃありませんか?あの新人類と言う猛獣を!」

 

…アビドは話を続ける。

 

「ーーー新人類の覚醒条件が判明し、いつでも新人類を覚醒させられるとなれば、ネオの力に一々頼る必要も無くなる。それどころか、あのネオすら覚醒させて使役する事が可能となる!」

 

 彼は自分の理論に心酔している様だった。

 

「一年と少し前に、ネオが連邦から脱走した事により始まった、ネオの万能に近い力を巡る、各勢力の睨み合いーーー所謂『ネオ神話』も、覚醒新人類を配下に置く事で、解決出来るのですぞ???」

 

 ゾルゲは、隣で無言になって話を聞き続けている。

 

 やがて、2人の前には分かれ道が現れた。壁には〈4th Limbo Area〉の文字。

 

「…さて、儂は〈Acheron(アケロン)〉に資料を取りに行かねば。ーーーゾルゲ殿は何方へ?」

 ゾルゲは、アビドと反対側の方へ足を進めながら、手を振って答えた。

「ーーーーー〈Limbo(リンボ)〉の方じゃ。…フェルシアに頼まれての…今の内に、彼奴の実験に使えそうな者を工面しておく必要がある。ーーーじゃあの。」

「其方も大変だな。……では、これにて。」

 

 

 

…彼らが去った後の廊下には、ただ静けさだけが残っていた………。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

12月 24日

 

 

場所:何処か

 

 

 

 

 液体で満たされた大きなガラスケースの中に、気味悪い肉塊が浮いている。

 

…それは、まるで心臓の様に鼓動を繰り返していた。

 

 

ーーーーーーいや、心臓の様…では無く、コレは本当の心臓だ。

 

 

「……心臓は生命の象徴。ーーー鼓動は自らの存在の証明。…それはただの言葉の綾では無く、世界の理に組み込まれた事実なのかもな…。」

 

 ガラスケースの前で、そう呟く1人の男。

 

……ドクトゥール・フォリーだ。

 

 彼の前には、本や様々な資料集などが山積みになっている。…見ると、それら全てが世界の神話や、神々について書いてあるモノだった。

 さらに、フォリー自身が書いたであろう謎めいた図形もある。…そこに書いてあるのは、根が強調された〈星の花〉だろうか?

 

「……ふふふ。ケテル。ーーー君の心臓(星の種)と、神に至ったと言うその肉体…。この二つのお陰で、私は世界の真像に迫りつつある。」

 

 ガラスケースの向こうに浮かぶ心臓ーーーケテルの物だーーーに、声を掛けながら、フォリーは怪しく笑う。

 

「もっと…もっと実験をしなければ…。私は間違い無く、神の領域に迫っている。ーーー実験成功の暁には、私は人類史上初となる『科学の力で神の領域に至った者』に、間違いなくなれる!ーーーその時が楽しみだ。」

 

 目に狂気すら宿して笑い続けるフォリーに、若干の引きを覚えつつ、後ろから助手のアムール・ソワンが声を掛けた。

 

「あのー、博士ぇ…。楽しんで研究してる所、悪いんデスけど〜。ちゃんとご飯食べて下さい〜。最近サプリメントしか飲んで無いデスよね??」

「食事の時間が惜しいじゃ無いか。ーーー1日が48時間欲しいね。……ところで、ソワン。君は何を持っているのだい???」

「カレーライス、デス。…博士食べないと痩せて死んじゃいますよ??ーーー料理あんまりしないデスけど、今日は作ったんデスから食べて下さい。」

 

 フォリーはパソコンに向かいながら、首を振った。

 

「いや、いい。時間が勿体ない。」

「博士〜。サプリメントだけじゃ、ダメなんデスって!足りないものを補えないデスよ??博士に倒れられたら、私が困りマス〜!」

 

フォリーの目に閃きが宿った。

 

「足りない物……?ーーーーーーそうか、確かにそうだ!!私には圧倒的に足りない物があるじゃ無いか?!…ケテルの肉体を利用するには、素体が余りにも歪すぎる!ーーー実験を完成させる為には………」

 

 ソワンを無視して、パソコンに自身の閃きを打ち込み出すフォリー。

 ソワンが口をへの字に曲げた。

 

「あーーー!博士〜?!食べないのなら、無理矢理にでも食べさせますよ?」

「ああ。もう、そうしてくれ。…生憎、両手が塞がってるんd…」

 

 カレーの載ったスプーンが、フォリーの口に突っ込まれた。

 

 

(辛い。…香辛料の配分、間違えたなコイツ。)

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

12月 24 日

 

 

 

場所:移動要塞都市〈オーステルン〉

 

時刻:夕方

 

 

 

 クリスマスイブ。……人呼んで、聖なる夜。

 

 昔から続く世界的な聖典。……それは、世界が滅亡の淵に立たされても尚続いているのだ。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「あ、ニュウ。…なんか、欲しいものある?」

 

 ハレルヤの声に、ニュウは目をパチクリさせた。

 

「へ?ーーー欲しいもの…ですか??」

「うん。今クリスマスじゃん?ーーーあちこちで、色んな物売ってるからさ。何かあるんだったら、買うけど?」

 

 そう言うハレルヤに、ニュウは首を振って返す。

 

「…いや。俺は結構です。特に無いので……。」

「あ、そう?分かった。」

 

その時、横からアミダが割って入って来た。

 

「無欲だね〜?ネオちゃんレベルで欲が無いんだね。ニュウくんは。」

「……無欲っていうか…欲しい物って急に言われても、わからないと言うか……。」

「ーーーそれが無欲なんよ〜。…ま、良いけど。」

 

 そう言って、アミダはネオの方に話を振る。

 

「ネオちゃん?ーーー答えは分かってるけど、なんか入り用な物ある?よかったら買うよ?……ハレルヤが。」

「……俺かい。ま、買うけどさ。」

 

 部屋の隅で音楽を聞きながら、窓の外を見ていたネオは、一回瞬きしてから無言で首を振った。

 

 やっぱり、と頷くアミダ。

 

「ーーーだろうね〜。もうちょっと、欲出して良いんだよ??…服とかさ、なんか欲しい物があったら言っても良いのに〜〜。」

 

「ううん。…別に要らない。」

 

「無欲ぅ!お洒落とか興味無いの?…いや、私も正直控え目だけどさ。…ネオちゃんは着てる服が黒統一で暗いんだよ〜。せっかくの美人なのに…。」

 

「アミダさん、そのピカピカな格好(進化後イラスト)で、控え目は嘘でしょ。」…小さくニュウが突っ込んだ。

 

 彼女は構わずに続ける。

 

「ーーーーちょっとお洒落したら、絶対良いと思う!…間違い無く彼氏の1人や2人はできるって!私が言うんだから、間違い無い!」

 

「彼氏が2人出来たら不味いんじゃ無いかなぁ。」……またニュウが口を挟んだ。

 

 ネオがちょっと困った様な顔になって、小さく呟く。

 

「…でも、アミダ彼氏居ないじゃん。」

「ぐっはぁッッッッッッ!?!?」

 

 アミダの体がくの字に曲がってネオから離れた。呆然となる男2人。

 

「(アミダさんが)吹っ飛んだ…。」

「何を食らったんだ…。」

 

 吹き飛んだアミダが、キラリに支えられながら、目をグルグルさせて口を開く。

 

「う、嘘だ!!ネオちゃんがそんな返しをして来るなんてッ!?…なんか、キャラ変わった???そんな事言う娘だったっけ?!」

 

 ボソリとニュウは呟く。

「…ま、二次創作でキャラ変は運命ですよね。」

「ニュウ。…この世の理に触れる様な発言は止めるんだ。」

 ハレルヤが、彼の肩に手を置いてそう言った。

 

 アミダが誤魔化すかの様に口を開く。

「ま…まぁ、彼氏とか言う幻獣の話は兎も角、実際ネオちゃんはもっとお洒落しても、良いんじゃ無いかな。ーーーね、ニュウ君?」

 

 唐突に話が回って来て、ニュウは一瞬口ごもった。

 

「へ?ーーーあ、いや……なんで俺なんですか?」

「ネオちゃんと比較的距離感近いでしょキミ。意見聞いてみようと思ってね〜。何か、思う所ある?」

 

 そう言うアミダ。ネオを見遣ると、彼女と視線が軽くぶつかった。一瞬、彼の脳裏にカノンの白いコートを羽織っていたネオの姿が甦る。

 

「……いや、別にネオさんの好きにしたら良い…とは思いますけど…。ーーーーーーまぁ……強いて言うなら…白色も、意外と似合うとは思いますが…ね。」

 それを聞いたネオが小さく呟いた。

「白……。」

 頷くアミダ。

「ふむふむ白か〜。シンプルだけど、明るさも有る色だね。君の今のコートみたいに、何かしらの差し色が入ればカラフルにもなる。…悪く無いんじゃない???」

 

 ネオは自分の服を見下ろして、肩を小さく竦めてから口を開いた。

 

「……カラフルになるつもりは無いけれど…考えとく。でも、今は要らないかな…。」

「そっかー、残念。…また欲しくなったら言ってね〜?プレゼントするから。」

 

 そう言って、アミダは立ち上がった。この話はここでお終いらしい。

 

 夕食の準備やら部屋の片付けやらと、各々がやりたい事を始める中、ネオはまた音楽を聴き直し始めながら、薄暮の迫る空を見上げて小さく独りごちた。

 

 

「……そっか……白色…似合うんだ…。」

 

 

 

 見つめる空の向こうで、宵の明星が輝いていた。

 

 

 

 






次回、4章。

4章をターニングポイントとして、あとは終わりへ向かうだけ…多分!きっと!恐らく!

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