前回の補完
適応型新人類とは、旧人類が星のセラムに適応して新人類化した人達の事を指します。
…はい、以上!
「ア…アルセーヌ…。ーーーバサラさんが言ってた人?獣神祭で会えるって…。」
ニュウの声が廊下に小さく響く。
彼の上に馬乗りになっている女性ーーーアルセーヌは、小さく微笑んで口を開いた。
「ふふ。彼はちゃんと説明したのね。ーーーいい加減な所あるから、どうかなって思ってたけど、仲間内の事はちゃんとやってる様で何よりだわ。」
そう言った彼女に、ニュウは顔を顰めつつ話しかける。
「…つまり、貴女は仲間って事で良いんですよね?」
「ええ。そうね。」
「……じゃあ、なんで屋根の上でコソコソしてたんですか?ーーー泥棒かと思いましたよ。…いや、まぁ実際怪盗だったんですけど…。」
ニュウの疑問に、アルセーヌは然もありなん、と言った顔で口を開いた。
「…怪盗は正面からは入らないモノよ。当然でしょ?」
ニュウは一瞬納得しかけて、すぐに首を傾げた。
「なるほど。………ん?いや、そ、そうなのか??そんなモノなのか???」
……もしかしたら、形から入るタイプなのかもしれない。
ニュウがまた口を開こうとした時、近くから此方に向かってくる足音が2つ、聞こえて来た。
ーーーーーーコレはおそらく………
「……おや?アルセーヌ様でしたか。」
ニュウとアルセーヌの前に、チェーンソーを構えたシャイターンが現れる。そのすぐ後ろにネオも居た。
アルセーヌがニュウの上に乗ったまま、軽く手を上げる。
「久しぶりシャイターン。…長い事会ってないけど、覚えていてくれて嬉しいわ。」
「…私は一度見た人の顔は忘れませんので。」
シャイターンがペコリと頭を下げる。そしてチェーンソーを仕舞い、モップを代わりに取り出して口を開いた。
「…お二人共、部屋を荒らしては居ませんか?」
アルセーヌが頷く。
「それなら大丈夫よ。ーーー多少、床の絨毯が乱れた程度ね。今退くわ。」
そう言って、彼女はニュウの上から退いた。少し軽くなった体を起こして、ニュウは小さくため息を吐く。
「急に荒っぽくして悪かったわね、ニュウ。…重かったかしら?」
「…重さについて答えたら不味い気がするので、ノーコメントで。」
「ふぅん。…上手く躱したわね。」
ニュウの前で、シャイターンが絨毯をささっとモップで撫でて、立ち去って行く。
一方で、少し唖然となっているらしいネオ。ーーーそんな彼女にアルセーヌは、手を振って挨拶する。
「其方も久しぶりね、ネオ。……会うのはコレで2回目かしら?」
「え…あ、うん。そうだね…。」
頷くネオ。そのまま、彼女は眉を顰めてアルセーヌに問う。
「ーーーーー彼と何、してたの…?4階で。」
アルセーヌは軽く答えた。
「屋根上でバッタリ彼と出くわしただけよ。ーーー泥棒かと思われたみたい。…ふふ。間違っては無いけど、間違いね。」
ニュウは肩をすくめる。ネオは小さく頷いた。
「……そう。ーーーで、貴方は(そう言ってニュウの方を見る)なんで戻って来たの?アミダ達と一緒に居たんじゃ……。」
「あぁ、祭りの熱気にやられましてね。頭を冷まそうと思って。ーーーーーーネオさんは、もしかしてずっとこの屋敷に居たんですか??」
コクリとネオはまた頷いた。
「…あぁ。そうだったんですか…。俺、ちょっと休んだらまた街に戻るつもりなんですけど、ネオさんも今度は来ます??」
ネオの頭がピクリと動いて、一瞬彼女の表情が変わる。…でも、直ぐに表情が元に戻った。
「…ううん。良いよ。…夜の獣神祭はすごい人になるし。人に揉みくちゃにされるのは、遠慮しときたいな。」
「ん〜。そうですか……。でも折角のお祭りなのに、この屋敷で1人居るのも退屈なのでは??」
「平気だよ。……元々、賑やかなのを外から眺めてるの方が、1番性に合ってるし。…此処にいても、お祭りの空気は感じれるから。」
「……はぁ…。」
そう会話する2人を、興味深いモノでも見るようにアルセーヌは交互に見ていたが、徐ろに会話に入ってきた。
「…因みにだけど、ニュウ。…バサラが何処に居るか分かるかしら?」
「ーーーーーえ?…あぁ、バサラさんなら…確か中心街に行ってると思いますよ?アルスラーンさん達と一緒に。」
今朝、部屋を出る前に聞いていた会話を思い出しながら、ニュウは答えた。アルセーヌは納得したかの様に頷く。
「なるほど。…それじゃ、私も一息付いたら向かおうかしらね。……闇に溶けるのも、溶かすのも、そこそこスタミナを消費するのよ。」
そう言って、彼女はスタスタと歩きだす。…ニュウはネオと顔を見合わせて、彼女に続いて歩き始めた。
◇◆◇
ーーー アステール支部 1階 客間 ーーー
「……さてさて。一息付くには『コレ』が1番なのよね。」
客間に辿り着いたアルセーヌ。彼女は優雅に椅子に座ると、空中に生み出した〈セラムキューブ〉から幾つかの小瓶を取り出し始めた。
それを見て、驚くニュウ。
「キューブの中から、物が出てきてる……??どうなってるんですかソレ??」
アルセーヌは小瓶を開け、何処からともなく取り出した小さなグラスに、中身を注いでいく。……スッキリする爽やかな香りが漂って来た。
「……中に入れてるだけよ。…セラムキューブは別次元の様な物。ーーーその内部に入り込めば、姿を隠したり物を仕舞い込んだりも出来る。ポケットみたいな感じかしら??…ま、コレが出来るのは私だけみたいだけど。」
そう答えた彼女は、小瓶の中に入っていた液体で満たされたグラスを、クイッとあおる。
…そして小さく息を吐いた。
「…ふぅ。ーーーーーただ、キューブの中に自分が入り込むのは、危険を伴うのよね…。他人を入れる時もそうだけど、キューブの
そう言って、彼女はいつの間にか取り出していた2つの小さなグラスに、別の小瓶の中身を注いでニュウとネオにスッと渡した。
「…どうぞ。特にニュウ、貴方ヒトの熱気にやられたって言ってわね。ーーーコレが丁度いいと思うわ。…遠慮せず飲んでみなさい?」
「……何なんですコレ?」
一応グラスを受け取ったものの、訝しげな顔を浮かべているニュウに、アルセーヌは答える。
「ーーー『スタミナミン』…ソレの精神版とでもいう物かしら?…精神的疲労の軽減になるわよ。」
…なるほど、と一口飲んでみれば、柑橘系を思わせる味と香りがスルリと喉を通っていった。……確かに頭が冴え渡った気がする。
「…へぇ。」
「悪くは無いでしょ?」
「悪くは無いですね。」
そう答えて、ニュウは残りを飲み干した。それほど量は無かったので、すぐにグラスは空になる。
一方のネオは、渡されたグラスを机に置いて飲まずに眺めていたが、徐ろにニュウに向かって話しかけて来た。
「……凧、上手く揚げられた?」
「ーーーへ?」
唐突な質問だったので、一瞬ニュウは目を瞬かせたが、直ぐに彼女の言わん事を理解して頷いた。
「あぁ。…揚げられましたよ。意外と楽しいもんですね、アレ。ーーーーーーアミダさんとかサクアさんとか、メッチャはしゃいでました。…ただカラフルな紙細工を空に浮かべるだけなのに、どうしてここまで心惹かれるのか……。」
ネオは小さく頷いた。
「そうなんだ。…なら良かったよ。」
「やっぱり、ネオさんも来るべきですよ。…もう夜なんで、凧揚げはムリですが、街に出るのも悪くはないと思いますよ?」
ネオは微笑んでから、首を振った。
「ありがと。…でも大丈夫。私は此処に居るつもりだから。」
「…そーですか…。」
相変わらず、このやり取りを興味深そうに見ているアルセーヌ。
ニュウは一息付いて、椅子から立ち上がった。
「……あ、そうだ。トイレ借りたいんですけど、何処にありましたっけ??」
「…1階のトイレなら、食堂の手前にあるよ。…場所、分かる?」
ネオが答える。ニュウは頷いた。
「食堂の手前ですね。…了解。」
そう言って、彼は客間から出て行く。…ソレを見送って、ネオは一口グラスの中身を口に含んだ。
「ん…甘い。」
そう呟いて、二口目を口にするネオ。……そんな彼女を黙って見つめていたアルセーヌは、ふと口を開いた。
「んーと…。ネオ?」
ネオが飲みながらアルセーヌの方を向く。
「…??」
アルセーヌは彼女にしては珍しく、言葉を探す様にネオに向かって話しかける。
「…あんまり遠回しに言うと、答えてくれなさそうだから直接的に言うわね。ーーーーーー貴女、彼の事が好きなの?」
「ごふっ?!?!」
唐突に突っ込まれた問いに、ネオは思わず咽せた。ケホケホしていると、アルセーヌがそっと真っ白なハンカチを渡して来た。
ソレで口周りを拭きながら、ネオは目を回す。
「けほ、ごほ、………え??え??え???」
……漫画で書くなら、彼女の目は渦を巻いている様に描かれるだろう。
アルセーヌは肩をすくめながら、言葉を続ける。
「…あんまり考えた事無かったみたいね。…ただ、貴女は前より間違いなく変わった。ーーーその心の変化が何故起こったのか…『彼』の存在が貴女にとって何か変化を与えたのか……それを知りたかっただけ。」
ネオはぷるぷると首を振った。まだ軽く目が回っている気がする。
「……ううん。違うよ…。そんな…そんなんじゃ…無い……と思う。」
最後の方の声が、小さくなってしまったのを自覚する。
ネオは混乱していた。頭の中で絶えず思考が巡って、止まらない。
(ーーーーーー好き?好きって何??……一緒に居て楽しいとか、安心するとか、そう言うの??…でも、別にそれだったら皆んなに当てはまる…。アミダやハレルヤとかだって、一緒にいて安心しない訳じゃ無い。勿論、楽しい時だってある。ーーーーーーコレは違うの?…大切な人ってモノ??じゃあ、何をもって『大切』になるの???……分からない。分からないよ……。)
ーーー巡る思考の中で、こんがらがりそうになるネオ。…今までこんな事、考えた事は無かった。
そして、この思考に答えを見出すには、余りにも彼女は『感情』を知らなさ過ぎたのだ。
アルセーヌはそんな彼女を見つめていたが、やがて自分のグラスに注いである分を飲み切ってから、椅子から立ち上がった。
そして、グラスや瓶をキューブにしまうと、彼女の横を通り過ぎて客間の出口へ向かう。
「…ただの好奇心からの質問だから、あんまり真剣に考えなくても良いわよ。ーーーーーーただ、一つ言っておくわ。」
「………??」
首を傾げたネオに向かって、アルセーヌは部屋の扉を開けながら言った。
「…彼は自由の虜囚。ーーー真面目で根っからの悪人では無いけれど、決して強い心の持ち主では無い。何となく、彼からは何者かの悪意の残滓を感じるわ。…もしかしたら、ソレに踊らされて居るのかも。そして、それが今も続いているのか、もう断ち切ったのか…私はそこまでは分からない。」
アルセーヌの言わんとする事は、ネオにはいまいち分からなかった。…ただ、シャイターンが自分に向かって問うた、ニュウへの懐疑の念の言葉が蘇る。
『ーーー連邦政府ですよ。……彼らの冷たい吐息が、あの方から流れ込んで来ます………。』
黙るネオの前で、彼女は手を振った。
「…彼と深く関わろうとするなら、その悪意の残滓に触れる可能性があるわ。………心の片隅に留めておいてね。ーーーじゃ、私はバサラに挨拶しに中心街へ行ってくるわ。…貴女は貴女のやりたい様にしなさい。それじゃあね?」
パタンと、客間のドアが閉まりアルセーヌが姿を消す。
(??……どう言う事なの?虜囚??悪意の残滓??彼は、別に何も………。)
ネオは1人片手で頭を抱えながら、悶々と思考を巡らしていた。アルセーヌからの謎めいた忠告と、唐突に尋ねられた、彼が好きなのか否かーーーーーー考える事が多過ぎて目が回る。
(……後で考えよう。目が回る。ーーー取り敢えず…今はーーー……)
…と、ここでガチャリと扉が開いて、ニュウが戻ってきた。
「あれ?…アルセーヌさん行っちゃったんですか?」
部屋を見渡すニュウ。…ネオは何も言えず、彼を見つめた。
「………?」
彼の紫に光る目と視線が合う。ーーーーーー何故かそれ以上視線を合わせれなくなって、ネオは目を逸らした。
「…ん??どうしたんですかネオさん??」
「…!……何でもない。」
ニュウは訝しげな表情を浮かべながらも、頷いた。
「あ、そうですか…。ーーーーーーじゃ、ちょっと早いですけど、俺アミダさん達の所に戻りますね。アルセーヌさんのお陰で、だいぶと気分が良くなったので。じゃあ、また……」
そう言って、手を振って客間から出て行こうとするニュウ。…気付いた時には、彼のコートの端をネオは掴んで止めていた。
「……え?」
彼の困惑した声。…ネオは、自分の意志とは別で体が動いて居る様な気がしながらも、素早く口を開いた。
「……やっぱり私も行く。連れてってくれる?」
脳裏によぎるのは、『貴女は貴女のやりたい様にしなさい』と言う、アルセーヌの言葉。
そして2ヶ月前アステールで、あのケテルが自分に対して放った言葉。
………自分にとって、ニュウは何なのか。
ーーー2ヶ月前は、分からないと答えるしか無かった。
でも今、彼と一緒に行けば…彼と一緒に居れば、何か分かるかもしれない。……悶々としたこの感情の答えを、見つけたかった。このままにしたくは無かった。
「お。…行く気になったんですか??……もちろん良いですよ!ーーー行きましょうか?」
嬉しそうに笑う彼。…そして2人は客間から出て行く。
彼の後について歩きながら、ネオは心の中でそっと呟いた。
(教えて…ニュウくん…。
(^ν^)…ネオ…オマエ……
今回で29日分の話を終わらせたかったんですが、次回に持ち越しだなコリャ。
…果たしてコレ、どうなるんだ…。私にも分からなくなってきました()続きが楽しみですネ(棒)
あ、後ここのアルセーヌさんは読心術が使えます。…だからニュウくんについて、あんな事言ったんですね。ハイ。