モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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ま た せ た な !

ま た せ す ぎ た な ! !


…いや、ほんとごめんなさい。許して下さい。なんでもします。なんでもする。靴だって舐めちゃう。…ペロペロペロ…あー、旦那さん、いい革靴ですね〜ブランド物の味がしますぅ〜〜。

…次から気を付けます。ハイ。


58話 〈そのココロ、自覚して。〉

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

……想像していたより、何倍もパレードは大きかった。ーーーアルスラーンの仲間でもあるハクビを先頭に、まるで軍隊の様に(尤も、こっちは楽隊だが。)隊列が組まれて街を進み、後からも様々な人達が続いて行く。

 

 コリントス宮殿の敷地内から始まり、街の形と同じ六芒星のルートを描いて、また宮殿に戻って来るーーーと言うのが、一連の流れの様だ。

 

 パレードの動きに合わせて人も動く。ーーーなんなら、列の半ばや後半の方で、勝手にパレードに加わっている人すら居る始末だ。

 

 しかし誰も咎めはしない。…寧ろ、隊列が進む度に参加者が増えていく。演説をしていた筈のポセイドンまでしれっと混ざり、街の住民と肩を並べて騒いでいた。

 

 真っ昼間から繰り広げられる熱狂の宴。ーーーーーーそして、やはりと言うか何というか、ニュウは人の波に早くも呑まれてバサラ達と離れ離れになってしまった。ーーーあと、ネオも一緒に逸れてしまっている。

 

「……いやぁ、何となく予想はしてたけど…。あの人ごみの中で、特定の誰かと行動するのは不可能ですね……。」

「そうだね。ーーー貴方とは逸れない様にしないと。」

 

 少し大通りから外れた路地裏で、2人は揃って佇んでいた。こんな人気の無い路地裏にも、パレードの喧騒は衰える事なく響いている。

 

「…人が多すぎて、いまいちパレードの規模が分からないなぁ、コレ。もっと、全体が良く見えれば良いんですけど……。」

 残念そうに呟いたニュウ。ネオが隣で小さく肩を竦める。

「……確かにね。」

「今のところ、人に揉まれてるだけですよ。…最前列をとっても、動き出したら意味無かったし……。ーーーーーーしかし、俺あれだけの人初めて見ました。…世界って人で溢れているんですね。」

 

 ネオがクスリと笑った。

 

「……まだ人はこの世界に沢山いるよ。昔よりはだいぶと少なくなったとは言え、ね。」

 

「ーーー昔は……」ニュウは、空を見上げながら口を開く。

 

「ーーーーー昔は、もっと沢山の人間が、この星に生きていたんですよね…。今の俺たちには、信じられない事ですが。」

 

 祭りの喧騒が、路地裏に木霊する。人の話し声。笑い声。鳴り響く、軽快な音楽。

 

 騒がしさーーー『音』は、生きている証だ。流れる血潮も、心臓の鼓動も、全ては『音』を立てている。

 

………それは命のざわめき。死の静けさを遠ざける、生命の『音』。

 

 それに耳を澄ませていたであろうネオが、ポツリと呟いた。

 

「でも、まだ人は生きている。…死んだ人も居るけれど、それでも尚この星は命で満ちている。ーーー多分、コレからもずっと。少なくなりこそすれ、消える事はないんじゃないかな。」

 

 ニュウは空を見上げたまま、小さく頷いた。

 

「………だと、良いですね。」

 

 空を見上げたまま微動だにしない彼の横顔を、ネオは暫く何とも言えない表情で眺めていたが、ふと口を開いた。

 

「……あ、そうだ…。」

「ん??」

 

 顔を下に戻して、彼女の方を向いたニュウに、ネオはスッと手を差し出した。真意を分かり損ねて、首を傾げるニュウ。

 

「ーーーさっき、パレードの規模が分からない…って言ってたよね。」

「…ええ。言ってましたけど…??」頷くニュウ。

 ネオは言葉を続ける。

「…じゃあ、上から見たら良くわかるんじゃないかな?」

「ーーー上ですか?つまり…何処かの建物の上から…って事です?」

 

彼女は頷いた。

 

「そ。ーーーーーこの辺りには高層ビルも多いし、よく見えると思うから。」

 

ーーー確かに中心街には、高層の建物も建ち並んでいるし、地上を行くパレードを見やすいかも知れない。しかし………

 

「でも、パレードって街全体を回るんですよね。…場所が変わる度に、建物をいちいち登り降りするのって、大変なんじゃないですか?」

 

 ネオは首を振った。

 

「中を登るつもりはないよ。ーーー分かるでしょ?」

 

 ニュウの目がパチクリとする。

 

「え…。まさか、建物間を飛んで……?」

 ネオは頷いた。

「うん。ーーーそっちの方が楽だし、パレードの動きに合わせて建物の上を移動して行けば、場所が変わっても平気だと思うの。」

 

……ニュウはちょっと苦笑いした。

 

「???」ーーー首を傾げたネオ。

 

「ーーーいや、中々大胆なやり方だと思って…。なるほど、ネオさんの身体能力が有れば、ビルの間ぐらい一飛びか。」

「…もちろん貴方も一緒に来るんだよ?その為の…ほら。」

 

 そう言って、彼の前に差し出した手を小さく動かす彼女。何を言わんとするか、ニュウにも伝わった様だ。

 

「……前みたいに、急加速しないで下さいね…??死にたくは無いので。」

 

 そう呟いて、ニュウは彼女の手を取る。ネオが軽く微笑んだ。

 

「大丈夫だよ。前とは違って、急ぐ必要は無いから。…ただ、しっかり掴まっててね?…流石に、振り落とされたら死んでしまうから。」

 

 彼の手を掴んだネオ。そのまま彼を近くに引き寄せて、ふとハッとなったかの様に動きを止めた。

 

「………?ネオさん??」ーーー首を傾げるニュウ。

 

 彼女の方を見ると、バッチリと目が合った。……その目に浮かぶのは、何の感情だろう??…まるで何かを探っているかの様な、青くて綺麗な瞳。ジッと見ていると、吸い込まれそうな………

 

 

 

ーーー遠くからパレードの音が微かに聞こえる。

 

 

 

「………あ、ううん。ーーーなんでも無い。行こっか。」

 

ーーーーーーもしかしたら、暫く2人は固まっていたのかも知れない。…その硬直を解くかの様に、ネオが首を振って口を開いた。

 

「あ。…はい。いつでもどうぞ…?」

 

 ニュウがそう頷いた瞬間、彼女は彼の手を取ったまま、ダンッと地面を蹴って跳び上がった。

 

「…うお!?」

 

 ニュウと一緒に30メートルほど一気に跳び上がったネオ。そのまま、路地裏の建物の壁や屋根を連続で蹴って、更に高みへと跳んでいく。

 

 そしてちょっとしたパルクールの後に、パレードの進む大通りを見下ろせるビルの屋上に、スタンと着地した。

 

…大体、地上から100メートルほどの高さにある場所だろうか?大通り全体が良く見え、隣にも同じぐらいの高さのビルがあるので、場所も変えやすい。

 

 

「おー!!高ぇ?!ーーーあ、でもメッチャ良く見える!すげぇ〜!!……やっぱ、これだけ高い所からなら、パレードの様子がよく見えますね!!」

 

 まるで小さな子供の様に、下に見える道路を覗き込んで、嬉しそうな声を上げるニュウ。

 

 隣にネオが座り込んで、パレードを見下ろした。風が吹いて、2人を揺らす。

 

 

 乱雑で、豪華で、騒然たる様を見せるアステールのパレード。ーーー誰しもが、喜びを分かち合っている様な、そんな気になってくる。

 

「楽しいですね。…見てるだけでも。」

 

そんなニュウの呟き。

 

「そうだね。皆んな、いろんな音楽を奏でてる。ーーー騒がしいけど、不思議と安心する音……。」

 

ーーーネオが頷いて答えた。ニュウが彼女に話を振る。

 

「…俺らも参加します?あの楽隊の後ろの方に。昨日みたいな感じで。」

 

 そう言って彼が指差したのは、パレードの最後尾あたりだ。…飛び入り参加者達が、各々好き勝手に騒いでいる場所でもある。ーーー皆、好きにリズムにノって踊っているので、そこだけフリースタイルの様相を呈していた。

 

ネオが首を振る。

 

「まさか。ーーー昨日の広場での踊りとは、全く規模が違うよ。……流石に、アレに混ざる気は無いかな。」

「ま、ネオさんならそう言うでしょうね。…良いですよ。このまま此処で、のんびりしてましょう。ーーーそれもまた一興ってやつですよ。」

 

 それを聞いたネオが、軽く苦笑いの様な表情を浮かべた。

 

「??」

「ーーーううん。……昨日は私を引っ張ってた割に、今日はそんな事しないんだ…って思っただけ。」

 ニュウの顔が少し、申し訳無さそうになる。

「ーーーあぁ。昨日の夜ですか。……やっぱり、嫌でした?ーーーアミダさんと居ると、なんかテンションが伝染(うつ)るんですよね。…あの人、他人を自分のペースに持ってく才能ありますよ。」

 

ネオはふるふると首を振った。

 

「いやいや、大丈夫だよ。謝らなくて良いから。…寧ろ、誘ってくれて良かったよ。ーーー楽しく無いわけじゃなかったし。」

 

ーーー手を振り解こうと思えば、簡単に出来た。でも、ネオはそれをしなかった。あの時は、したくなかった。

 

 そんな思いなど知らないニュウは、ただ安心した様に頷く。

 

「そうですか。ーーーなら、まぁ、良かったです。…ちょっと、お祭りでテンションもおかしくなってたんですよ。…すいません。」

 

「ーーーいや、謝らなくて良いってば。」

 

 ニュウの肩を、ネオは軽く叩いた。ポーンと音が鳴って、ニュウが軽くつんのめる。

 

「ーーーあの時ついて行ったのは、私の意思でもあるんだから。…だから、貴方が謝る必要なんて無いよ。ね??」

「…はい。」

 

 ニュウが小さく頷く。ーーー2人の見下ろす中で、パレードは益々の盛り上がりを見せていた。

 

「……綺麗だね。キラキラしてる。」

 

 ネオの呟きに、ニュウが頷いた。

 

「皆んな、カラフルな感じが良いですね。ーーー先頭のハクビさん、分かります?」

「うん。あそこは隊列も崩れてないから、パレードがしっかりと進めてる。…統率は大事だね。」

 

 パレード全体で見ると、飛び入り参加者が多いせいか、既に隊列の原型がほぼ無くなっているが、ハクビの率いる先頭集団だけは隊列を保っていた。ーーーだからこそ、パレードは道に迷う事なく前に進めているのだ。

 

「正に行進…マーチ、って感じがするなぁ。まるで、ハクビさんが街を引き連れてるみたいじゃ無いですか。」

 

 騒がしく、賑やかに、しかし不思議な秩序を保ったまま進むパレードを見ながら、ニュウがそんな事を呟いた。

 

「見てて楽しいね。…普段あんまり、こういうの目にする機会が無いから余計に。」

 

 微笑みながら、眼下のパレードの様子を見下ろす彼女を、横目で見つつニュウは独り言の様に呟く。

 

「…ネオさんが楽しそうで何よりですよ。それが俺も楽し……ーーー?」

 

 彼の言葉は途中で途切れたが、ネオはパレードの方に気を取られていて、気付く事はなかった。

 

「…………。」

 

ーーーーーー唐突に黙り込んでしまったニュウ。彼の頭の中に、自分の声がぐるぐると回り出す。

 

…それは自分の中に眠る、異なる願いを紡ぎ合っては相反し合う思想の声ーーーーーー……。

 

(ーーー『俺も楽しい』??…彼女と一緒に楽しんでどうするんだ??何の意味も無いのに。…そもそも、何で楽しんでるんだ?自分に許されている時間は少ないんだぞ…??)

 

 パレードが足下を通っていく。ーーー煌びやかな楽隊が奏でる音楽が、ビルに乱反射する。

 

 そのまま、パレードは2人の下を通り過ぎて行った。

 

「…ねぇ、ちょっと場所変えようか?隣に行こう。」

 

 パレードが通り過ぎて行った後で、ネオが立ち上がってそう言った。…隣のビルからなら、またパレードの先頭が見えるだろう。

 

「…え?ーーーあ、あぁ。そうしましょうか。」

 

 ニュウは一瞬目を瞬かせてから、頷いた。ーーーーー手を引いて、時に引かれながら、ビルの間を跳んでパレードを追う2人。

 

 やがて楽隊は中心街を抜けて、アステールの各区域へと向かい出した。

 

ーーー街そのものを引き連れる様な、たくさんの人々の熱狂と共に。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇数時間後◇◆◇

 

 

 

 

ーーーパレードは終わりを告げた。

 

 

…ただ、それは祭りが終わりを告げた事を意味するわけでは無い。

 

 

 


 

 

 

「…いやー、綺麗でしたよ。パレード!上から見るのは絶景でしたね。」

 

 お祭り一色に染まる街の一角、そこにある一軒の食堂に、ニュウ達〈イースター〉の面々は集まっていた。ーーーいま、摂っているのは遅めの昼食である。

 

「むぅ。…良いな。その発想は無かった。ーーーなるほど、そうすればもっと姫の事もよく見えたか…。折角前を取ったと言うのに、動いてしまっては意味も無かったからな…。」

 

 なんだか残念そうなアルスラーン。隣で黙々と食事をしていたハクビーーーパレードが終わったので戻ってきたーーーが、ボソリと呟いた。

 

「それほどまでに、先頭の私の姿を収めたかったのですか、王。」

「勿論だとも??ーーー私は姫が頑張ってる姿が良く見たかったんだよ。」

「それは有難いけども、何故そこまで……。ーーー私以外にも、見るべき場所は沢山あったでしょうに。」

 

ハクビの声に、バサラがニヤリと笑った。

 

「そりゃお前。…コイツはハクビが大好きだかrーーーーーー」

 

バサラの鳩尾に重めの拳が入った。

 

「ゲフッッッ!!??」

「………あら、痛そう。」

 一部始終を見たアルセーヌが、口元に軽く手を当てながら呟いた。

 口の中のモノを吹きそうになりながらも、必死に堪えて悶絶するバサラの横で、アルスラーンが少し口籠る様に口を開く。

 

「いや…無論、姫だけを見てた訳じゃ無いがなぁ……。ーーー本当だからな…??」

 

「ーーーそう言う事にしておきますよ。王。」

 

 笑うハクビ。それを見て、アルスラーンも肩をすくめるのだった。

 

「あぁ…イッテェ…。アルスぅ…お前、飯が口ん中入ってんのに殴るなよ…。」

 

 横で鳩尾に1発食らったバサラが、顔を顰めながら呟く。アルスラーンが、嗜める様に彼を指差した。

 

「…いらん事を言おうとするからだぞ。」

「真実じゃねぇか。」

 

ゴスッ。

 

 照れ隠しの様な二度目の拳を受けて、バサラがユーレイ(HP0)になった。

 それを見て、また笑うハクビ。…アステール組も釣られて笑っている。

 

(………賑やかだ。)

 

 ニュウは食べ進めながらも、自分の周りを囲む人々を見て、心の中でそう呟いた。

 

 ピクピクとするバサラ。少し困った様に笑っているアルスラーン達。

 静かにしながらも、口元が綻んでいるフェムト。ワイン片手に、騒ぎの中で微笑んでいるアルセーヌ。

 のんびりと話し合っているカノンと少年。相変わらず、元気にラーメンを食べるアミダと、横で見ているキラリ。

 心配そうに水の入ったコップをバサラに差し出しているハレルヤ。

 そして、彼等を見つめて微かに笑うネオ。

 

 

 

(ーーーーー楽しい。……いっその事こと、コレがずっと続けば良いんだ。)

 

 ニュウはスッと自然に、心の中で呟いていた。今度は、別の思いに遮られることも無いまま。

 

「……ふふ。」

 

 気付かない内に、笑いが込み上げてくる。ーーーネオがふと、顔を自分の方に向けた。

 

「…楽しそうだね。」

「ーーーーーー!」

 

 彼女の方に顔を向けると、思いの外近くに彼女の顔があった。

 

「…貴方が楽しそうで良かったよ。ーーーなんだか、私も楽しくなって来る。」

 

 ネオはそう言って、微笑んだ。多分、今までニュウが見てきた中で……1番綺麗な微笑みだった。

 

「……!!」

 

ーーーニュウは何も言わずに顔を逸らして、口に食事を運んでいく。ーーー心の何処かが、何かを訴えていた。……何かは分からない。けど、悪い気分じゃ無かった。

 

 

 

 


 

 

 

 遅めの昼食が終わった後は、再び自由行動となった。ーーーバサラはアルセーヌ含めたアステール組と一緒に街へ行き、ニュウはアミダ達に混じって2日目の祭りへと繰り出して行く。

 

 気の赴くままに街の至る所を巡り、様々な場所で祭りの空気を感じながら、日が暮れるまでニュウ達は獣神祭の只中に入り浸っていた。

 

ーーー1日目は少々暑苦しく感じた祭りの熱狂も、2日目になると慣れてきたのか、余り暑苦しさを感じなくなってくる。

 

 道ゆく人達と、感情をシンクロさせているかの様な、祭りならではの熱を持った一体感。ーーーーーーそれは楽しかった。…夜になるに連れて、冷たくなって行く風が、心地良く感じるぐらいには。

 

「ーーーふわぁ……。」

 

 祭り騒ぎの中を歩いていた時ーーーふと、柔らかな欠伸が聞こえた。欠伸の主は、ネオだ。

 

「…眠いですか?」

 

 ニュウの問いに、ネオがコクリと頷く。…顔にも少々、疲れが滲んでいる様だ。初日のニュウの様に、祭りの熱狂にやられたのだろうか?

 

「ーーーネオちゃん、疲れてるっぽいね。…屋敷に帰る?此処なら近いし、すぐ戻れるよ。」

 

 アミダの声に、ネオは一瞬考えた様だが、直ぐに小さく頷いた。

 

「…うん。そうする。疲れたかも。」

「…昨日の俺みたいに、祭りの熱気にやられたのかも、知れませんね。…じゃ、戻りますか。そもそも、日も暮れた事ですし。」

 

 ニュウがそう言って、引き返し始めるが、アミダの一言で止められた。

 

「あ。ちょっと待ったニュウ君。」

「はい?」

 

振り向いた彼の肩を持って、アミダが口を開く。

 

「ネオちゃーん。ちょーっとニュウ君借りて良い??あと、ハレルヤも持ってくね〜。」

 

…ネオが目を瞬かせてから頷いた。

 

「ーーーうん。別に自由にして良いよ…?ーーー私の持ち物じゃ無いし…。」

 

 ネオの疑問に思う様な声に、アミダはニコッと笑って口を開いた。

 

「一応ね。ーーー先帰ってても良いよ。ただ、迷わない様に注意してね?」

頷くネオ。キラリが彼女の横に立った。

「私もネオと一緒に行くよ。ーーーなんだかんだで疲れちゃったし。…この人混みの中、1人で歩くのは大変だろうから。」

ネオがチラリとキラリの方を見やる。

「…それは、ありがとう。」

「いえいえ。」

 首を振るキラリ。アミダは頷くと、ニュウとハレルヤを連れて繁華街の中へと向かい出した。

 

 2人の姿は一瞬のうちに、人に紛れて見えなくなる。

 

 

 

ーーーーーーある程度進んだ所で、アミダは2人に声をかけた。ーーー此処は繁華街の中の一角、店がたくさん並んでいる場所の様だ。

 

「さて。……なんとなく私が此処にきた意味、わかってるんじゃ無いかな?2人とも。」

「…??」

「…??」

 

 そんなアミダの声に、ハレルヤとニュウは顔を見合わせる。…あんまり分かってなさげな2人の反応に、アミダが口を尖らせた。

 

「ーーーちょっと〜。ネオちゃんへのプレゼント探しに来たに決まってるじゃん。…だから、態々繁華街まで来たのに〜。明後日、誕生日でしょ?」

 

「あぁ。…なるほどね。いいよ。何かあるか、俺も探すよ。」

 

 ハレルヤが先に頷く。一方のニュウは理解しつつも、遠慮する様に口を開いた。

 

「ーーーなるほど。…俺は遠慮しておきます。そんな資格は無いと思うので……。」

 

 『資格がない。』…この言葉には、彼にしか知らない意味ーーー即ち、連邦側にいる者の立場として、そこまで彼女に深く接する資格が無い。…と言う意味を持っていたのだが、そんな事アミダ達に分かるはずも無い。

 

ーーー深く接する資格は無い…だなんて、もう今更な気もするが。

 

「…資格って…そんな事考えなくても良いのに〜。ニュウ君だって、ネオちゃんと仲良くやってんじゃん。ーーー何が資格なのか、さっぱりわかんないんだけど??」

 

 アミダの反応は正しい。ーーーだから、ニュウは彼女の納得いく様な言葉(ウソ)を吐く。

 

「…まだ3ヶ月ぐらいしか経ってないですし…。そこまでの仲では無いと………」

 

ーーーまた皆んなを裏切っている。…その事実は、彼の心に影を落として行くのだ。

 

 アミダは首を傾げながら、口を開いた。…次に飛び出してきたのは、思いもよらない言葉ーーーーーー

 

「ーーーう〜ん。…ちょーっと前から気になってたんだけど、ニュウ君はネオちゃんが好きなの??」

「ひでぶっ?!」

 

思わぬ問いに、潰れたカエルの様な声が出た。

 

「すごい声だったね…。」ーーーハレルヤが苦笑いで言う。

 

「…い、いきなり何を??…何を言い出すんですアミダざん??」

 

 混乱したかの様なニュウの声に、アミダは顎に指先を当てながら言葉を発する。

 

「いやぁ。…気になってただけ。確証とか無いけどさ。…てか、その慌てよう的に、もしかして本当だった……??」

ニュウは首を振った。

「いやいやいや。まさかまさか。そんな事。フ、ファンタジーじゃあるまいし。」

 

「ファンタジーは、言い過ぎなんじゃ無いかなぁ。」

ハレルヤが呟く。

 

「…じゃあゲームでも、漫画でも、小説でも良いですよ。ーーーどっちにしろ、そんな事は無いですから、いや…本当にーーーーーー…。」

アミダは尚も続ける。

「ネオちゃん見てると、案外君のこと悪くは思ってなさそうだけどね〜。…なんなら、好きなんじゃない??君が来てから、なんか変わった気がするしさ。」

「………ッ。」

 

ーーー何となく感じていた。…それに関しては、そう言わざるを得ない。

 

…でも、それを受け入れては行けない。感じてはならない。…もちろん、自分がそう思ってもならない。

 

ーーーだって、だって自分は、どうせ()()()()()()()

 

 全てを……此処で得た温かな居場所も、彼女も、何もかも。

 

 だから、ニュウは首を振って頭を下げた。ーーー多分、これ以上は自分が持たない。ーーーーーー最低だろう。こんな事をして、ただ引き伸ばして、その間に何故か好かれて……。仲良くなるつもりは無いーーーかつて、そんな事を思った。…その結果が、コレか??

 

「…とりあえず、俺は遠慮しておきます。ーーー失礼しました…。誘ってくれたのに、申し訳ないです。……では。」

 

 口挟む暇を与えずに捲し立て、逃げる様に去っていた彼を見てアミダは、ハレルヤと顔を見合わせた。

 

「ーーーなんで……泣きそうな顔をしてたんだろ…??」

 

 そのアミダの呟きは、直ぐに夜の祭りの熱狂に消えた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

足取りは覚束ない。

 

 

喧騒はもはや意味を成さない。

 

 

 ニュウは、ただ歩き続けていた。ーーー多分、屋敷の方角へ。…実際に向かえているかは分からない。

 

頭の中に言葉が回る。

 

ーーー『ネオさんが楽しそうで何よりですよ。それが俺も楽し…』

ーーー『貴方が楽しそうで良かったよ。』

ーーー『ニュウ君は、ネオちゃんが好きなの?』

ーーー『なんなら、好きなんじゃない?』

 

「………ぇだろ。」

 

 言葉が漏れる。……霧の森で星を見上げた彼女の姿が脳裏をよぎる。ーーー彼女自身の中の長年の思いを、なぜか自分に打ち明けるかの様に話していた彼女が。

 

 何度か見た、〈星のセラム〉を浄化した時の美しい光が、頭を掠める。ーーーあの時は、景色の綺麗さに目を奪われていたのだと思っていたが、本当は違うんじゃ無いか??…彼女自身に、目を奪われていたのでは無いか??

 

「……そんなわけ、ねぇだろ。ーーーだとしても…俺にどうしろって言うんだ……。俺はやらなきゃ行けないことがあるんだ…。自由の無い皆んなの為……そうだ…皆んなの為にーーーーーー。」

 

…彼女の青い瞳がちらついた。その奥に、白い無機質な廊下が見える。そこに捕らえられている、ネオの姿も。…それを望んだのは、自分自身でーーーーーー

 

「ーーー!!!」

 

 ドン、と誰か知らない人と肩がぶつかった。…その拍子に下を向いていた顔が上にあがる。

 

ーーー目の前には、服屋があった。手を伸ばせば届く位置に、開きっぱなしのドアがある。さっきぶつかった人が、開けたままにしていたのだろう。

 

「あ……。」

 

ーーーここは、自分が今着ている白黒のコートを買った店だ。屋敷に向かっている筈が、いつの間にかこんな場所に辿り着いてしまったらしい。

 

 開いたドア越しに、中の店員らしき人と目が合った。入口で固まったままのニュウを不思議…いや、不審そうに見ている。

ーーー此処でそそくさと背を向けて立ち去ったら、何か悪い事をしてるみたいだと思えて、ニュウは自分でも何を考えているのか分からないまま、店内に入った。

 

「いらっしゃいませ〜。」

 

 待っていたかの様に、彼を迎え入れる声が響く。ーーー服を着たマネキンの間を、ニュウは何となく通ってーーーーーー

 

「……ん?」

 

 

ーーーーーーソレに目が行った。

 

 

……ソレはコート…だと思う。あまり服の種類には無頓着だから、よく分からないが。

 

 マネキンが身に付けていたその服…上着は、白色の綺麗な物だった。

 

 肩と袖口に青い色と、オレンジの縁取りがある、綺麗なコート。あと、何故か肩にどう考えても、『NEO』としか読めない文字が書いてある。

 

「NEO……ネオ…か。ーーーこれ合うな。」

 

 綺麗な白いこのコートはきっとネオによく似合うと考えて、ニュウは首を振った。

 

「いやいや。ーーー何考えてんだ俺。アミダさん達が、()()は用意するだろ…。俺は何も………。」

 

 そう言い聞かせる様に呟いたニュウは、服に背を向けて足を踏み出して……………………あ、でもやっぱり…

 

 

 

 

 

 

「ーーーありがとうございました〜。」

 

 

「………はッ!」

 

 我に帰った時には、手の中にカシャリとビニールの感触があった。

 

「………。」

 

 目を落としてみれば、綺麗に畳まれてビニール袋の中に入れられた白いコートが…。

 

 

 

「…………何やってんだ俺。」

 

 

 

 たっぷり20秒は沈黙してから、ニュウは声を絞り出す様に呟いた。

 

(プレゼントのつもりか???ーーーあれだけアミダからの、ネオへの誕生日プレゼント探しの誘いを辞退しておいて、結局彼女の為にコレを買ったのか??…自分の言った事すら忘れたのか?資格なんて無いんじゃなかったのか???)

 

ーーーと言っても、もう買った物だ。…どうしようもない。返品?出来るさ。…でも、今買ったばかりの物を理由も無く返すのはどうかと思う。

 

「……帰ろう。ーーーそれで……それでどうにかしよう…。」

 

 携帯で時刻を見れば、かなりの時間がいつの間にか経っていた。アミダ達も、とっくに何かプレゼントを見つけて帰ってるかもしれない。

 

 小さく首を振ってから、ニュウは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ーーー屋敷に着いたのは、意外と直ぐだった。

 

 手に持ったビニール袋が、ガサガサと自己の存在を主張する中、ニュウは屋敷の敷地へと入り、扉を開こうとしてーーーーーー

 

ガチャ……

 

…先に扉の方から開いた。

 

 

「あ。」

「あ。」

 

ーーー扉を開けたのは、他でも無いネオだった。一瞬、互いに固まってしまう。

 

「ーーーあぁ、なんだ…貴方だったんだ。…帰りが遅かったから、アミダ達が心配してたよ。…電話にも出なかったし。」

「ーーー電話…?気付かなかったです…。」

 

…電話にすら、気付かないぐらい自分は上の空だったのだろうか?手を動かすと、ビニール袋くんがガサガサと鳴った。ーーーちょっと主張が激しいじゃなかろうか。

 

「…ん??何それ。」

 

 もちろん、それに気付かないネオでは無い。

 

「あぁ……コレはーーーえっと……。」

 

ーーー正直、いくらでも誤魔化せた筈だ。…袋の中までは彼女は知らないんだし、自分のーーーとか、はぐらかす事はできた筈なのに、ニュウはただ彼女にそれを差し出していた。

 

「…あー…あげます。ーーーいま会っちゃったんで、もう持ってる意味も無いし…。」

「…え?ーーーこれって……。」

 

 ネオが中の服を一瞥して、ニュウの方を見て、また服を見る。ニュウは顔を逸らしたまま、口を開いた。

 

「アミダさん達に、ネオさんへの誕生日プレゼント探しに誘われましてね。ーーーーーーつまりは、そういう事です。…ちょっと早いですけど…。」

 

 最初ネオの目がパチクリとなって、やがてニュウの言わんとする事を理解したのか、顔が明るくなった。

 

「ーーーあ……そう言う事?……もしかして、私ちょっとタイミング悪かったかな…??」

「ちょっと…ね。」

 

 そのちょっとは、2人の間において、多少意味の受け取り合いが違ったが、ネオはただビニール袋くんごと服を胸に抱く様にして笑った。

 

「えへへへ…。それはごめんね。ーーーでも……ありがとう。」

 

ーーー微笑みとかでは無い、本当の笑顔だった。そしてニュウの中で、1番の笑顔が更新された瞬間でもあった。

 

「………!!ーーーどうも。」

 

 ただニュウは俯いて、そう言葉を出す事しか出来なかった。ーーーこれ以上彼女の笑顔を見たら、多分普段通りで居られなくなると思うから………。

 

 彼女の横をすり抜ける様にして、ニュウは屋敷の中に入った。

 

「あ…。ちょっと??」

「…トイレに行ってきます。」

 

 ネオの声に、ニュウはただ前を向いたまま答えて、階段を上がって行く。

 

玄関に1人残されたネオ。

 

「ーーートイレなら一階なのに。」

 

 彼女は、服の入った袋を抱えたまま、ポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

無論、ニュウが向かったのはトイレでは無い。

 

ーーーーーー此処に滞在している間に用意されている、自室だ。

 

 

「……はぁ。」

 

 ため息一つ吐いては、ベットにもたれ掛かる。そして、頭を抱えた。

 

「……マジで……何がしたいんだ…俺はッ…。」

 

ーーーわかってる。…多分、アミダの言ったことは本当なんだ。…思い当たる節しかないんだ。

 

 認めるしかない、向き合うしかない…いや、やっぱり無理かもしれない。

 

 

 

自分は、

 

 

 

彼女(ネオ)が、

 

 

 

 

「ーーーーー好きなんだ。」

 

 

 

 






あの服屋はこの話の為に生まれたんだよ。


かなり唐突な展開も含みましたが、取り敢えず個人的にはまずまずの出来ですね。

この話自体たいぶと書き直したり、なんやかんやあったんで、ギリ及第点の話が書けてよかったです。

次回、遂に話が大きく動く…?(多分)
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