モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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60話 〈覚醒 〜Awakening〜 〉

 

 

 

 

 

 さあっ………と、夜空に無数の流れ星が舞う。

 

 

 ソレは星空を彩る大自然の天体ショー。…かつて、ニュウが見たいと言っていた流れ星。

 

 

ーーーしかし、今の2人の目にはこの荘厳な景色は映っていなかった。

 

 

ただ、お互いの姿だけが闇の中に見えている。

 

 

 

 

ーーーネオは、彼が自分に向ける紫色の拳銃の銃口に、目が吸い寄せられていた。

 

 

「ーーーニュウ…くん…?」

 

 

 

呆然と呟く。

 

 

 

…………なに、してるの…??

 

 

 

私の呟きに、ニュウが口を開いた。

 

 

「ーーー()()()()()()()()。」

 

「え?」

 

……何のことか、尋ねる前に()()は起きた。

 

 

 

ーーーーーーカシャーーーン…………

 

 

 

 何かが割れる様な音と共に、彼と私の周りの星空が揺らいで()()()

 

「……ッ?!」

 

 そして、六角形のパネルの様な物が、空の至る所から剥がれる様に落ちてきた。

 

 剥がれ落ちた景色の向こう側、黒い星空に、眩いライトを光らせた戦闘機が、何機も現れる。…機体に刻印されているのは、丸まった竜のマーク……。

 

ーーーさっき感じた風は、この戦闘機が放つダウンウォッシュだったのだ。

 

「………なにコレ…。」

 

 さっきまで、自分と彼以外に誰もいなかった筈の〈霧の森〉。

 それがどうだ。……今や、夜空に何機もの戦闘機が浮かぶ、戦場の様な場所に早変わりしてしまった。

 

……そしてその全てが、自分を向いている。即ち囲まれている状態…。

 

 ここまで来れば、私も分かる。ーーーーーーこれは、連邦軍だ。

 

 

「…〈偽装コクーン〉。」

 

 ニュウが、此方に銃口を向けたまま呟いた。…彼の顔は、地面スレスレまで降下してきた戦闘機のライトの逆光になって、よく見えない。ーーー吹き付ける降下時の風…ダウンウォッシュが、彼の白黒のコートをはためかせる。

 

「ーーー連邦政府が開発した、最高のステルス機能です。…これが有れば、アステールの防衛システムにも検知されない…。ーーー位置にもよりますが。」

 

 まるで誰かに解説するかの様に喋り出したニュウ。ーーー私はただライトの明かりと、吹き付ける風に目を細めながら、彼を見つめる事しか出来なかった。

 

「そんなのいいよ………これはどういう事なの…?」

 

ーーーやっとの事で、絞り出した声。それに答える彼の声が頭に響く。

 

 

「…実験体識別コードN-01746、連邦特殊兵団〈新人類部隊〉所属、軍隊員番号01314ーーーーーー」

 

「………!!」

 

 彼の顔が、逆光の中に浮かび上がる。ーーー今にも壊れそうな、青褪めた顔が………

 

…シャイターンの言葉が、アルセーヌの意味深な言葉が、私の頭によぎる。…もう答えは出てる様な物なのに、私は理解を拒んでいた。

 

 

……ねぇ、嘘だよね?そんな事ないよね?だって、貴方は私を助けてくれたんだから………お願い…そんな事、言わないでーーーーーーーーー

 

 

 

「ーーーーーー()()()()()()()。」

 

 

 

 私の願いを掻き消す無慈悲な言葉が、彼の口から放たれた。

 

「……ッッ!!!!」

 

…思わず、一歩後ろに下がる。信じたくない様な、でも今の状況的に信じざるを得ない様な、とにかく思考が無茶苦茶になって戻らない。

 

 

 

「……随分と手間取らせたのぉ、ニュウ。」

 

 いつの間にか彼の背後に着陸していた戦闘機(VTOL 機)から、1人の白衣を見に纏った老人が降りて来て、彼の後ろに立った。

 

「…アビドさん…。」

 

 ニュウがボソリと呟く。ーーー白衣の老人アビドは、あたりを見渡しながら、満足気に頷いた。

 

「…まぁ、良いわ。ーーー良いところを見つけた物だな。…此処なら、アステールの街から遠く離れ、移動要塞の包囲下にも無い。ーーーお主がどうやって彼女をこんな辺鄙な場所に連れて来れたか、気になるところでもあるが…後で聞こう。」

 

 さて……と、アビドは呟いて、ネオの方を見た。

 

「…やぁ、ネオ。ーーー彼から話は聞いたかの?…ま、聞こうが聞かまいがどうでも良いが、取り敢えず儂等と来て貰おう。」

 

アビドがパチンと指を鳴らす。

 

 ウィーン…とハッチの開くような音と共に、ネオの周りに着陸した戦闘機から、武装した兵士がわらわらと降りて来る。

 

構えた自動小銃が、一斉にネオを向いた。

 

「………!!」

 

固まるネオ。

 

「ーーー出来れば、大ゴトにはしたくない。…儂等の元に来て貰おうか。」

 

 アビドからの、圧を持った声。ネオは思わず首を横に振っていた。

 

「…抵抗するつもりか?……お前と戦うとなれば、コチラも少し覚悟せねばならん。ーーーこのまま無抵抗が望ましいが………。」

 

 ため息を吐いてから、アビドはニュウに向かって顎でネオの方を指した。

 

「まぁ、仕方の無いことか。ニュウ………やれ。」

 

ニュウはただ黙って銃を構え…………

 

「ニュウくん………。」

 

 ネオがそう呟いた瞬間、彼の手の内に握られていた拳銃が、幻のように揺らぎ、ノイズが走ってガラス細工の様に砕け散った。

 

「!!」

 

ーーーダラリと彼の腕が下がる。砕けた破片が集まって、紫色の〈セラムキューブ〉へと形を変えた。

 

……彼の意識が、ネオに銃を向けるという事を拒絶したのだ。

 

ーーーかつて、キラリがアミダの呼びかけで武装解除した様に………。

 

「…ニュウ?」

「あ………………。」

 

 アビドの訝し気な声。ーーーニュウは、ついさっきまで銃を構えていた手を見詰めながら、声を……体を震わせた。

 

 彼の手の中の〈セラムキューブ〉が、不規則に明滅を繰り返す。…最早、立方体の形すら保てなくなったかの様に、キューブ自体がノイズ混じりに震えていた。

 

「…俺……僕…ボク……。」

 

ーーーニュウは震える手を握り締めて、声を絞り出した。……彼の頭の中に、幾つもの思考が浮かんでは消えていく。

 

(ーーーーーー自分は一体何をしているんだ。ここで…此処でネオを連れ戻さなきゃ、施設の皆んなは永遠に連邦に囚われて、死を待つのみなんだぞ!?ーーーー彼女を殺すわけじゃ無い。連れて帰れば良いだけだ。……なのに、なのに何で……銃が…形にならないんだ…!!)

 

 

「……出来ない……僕には……出来ない……。」

 

ブンッ………

 

 遂に、彼の〈セラムキューブ〉そのものが、揺らいで消えてしまった。

 

 

ーーーーーニュウは終ぞ、ネオへ引き金を引けなかったのだ。

 

 

「…ニュウくん…!」

 

ネオが、彼に向かって一歩を踏み出すのと、

 

「…そうか。ーーーもう良い。儂がやろう。」

 

 アビドがそう言って銃を懐から取り出したのが、同時に起きた。

 

 

 

「アビドーーーーーー」

 

 ニュウがアビドの方を向いて、手のひらに再生成した〈セラムキューブ〉を光らせーーーーーー

 

 

 

ーーーーーーパン

 

 

 

…それはとってもあっけない音だった。

 

「あ。」

 

 目の前で、彼が背中から地面に倒れ込んでいく。

 

 ネオは彼の背中に手を当てて、受け止めた。彼を支えたまま、両膝を地につける。彼の顔が膝の上にあった。

 

…口元から、つーっと血が流れる。

 

 パリィン……と、音を立てて、彼の手のひらにあった拳銃が割れる。ーーーアビドが銃を取り出して、ネオを撃とうとした瞬間、ニュウは彼女を守る為に拳銃を生成し、アビドに向かって発砲しようとしたのだ。

 

ーーーそれを見たアビドが、狙いをニュウに変えて発砲。

 

 

 

 至近距離から放たれた弾丸……それは、彼の心臓を撃ち抜いていた。

 

 

 

「ーーー馬鹿が…!」

 

アビドの声が聞こえる。

 

 彼の白黒のコートに空いた穴。…その周りが、朱に染まっていく。ネオは、ただ呆然と彼を抱き止めたまま固まっていた。

 

…頭の中の理解が、全く追いついていない。真っ白になってしまっている。

 

「……あー……しくじったな……。これ…死ぬわ…。は、ははは……」

 

 掠れた声が、耳元で聞こえた。……抱き止めた彼の体から、熱を感じる。…こんなに、至近距離で彼に触れた事なんてなかった。……その体は、思いの外細くて、軽くて、小さくて……。

 

「結局、僕は…この程度の奴で………あぁ……本当に…ごめんな…ネオ、さん……。」

 

「え…。」

 

ーーーーーー彼の手が、自分の頬に触れた。…指先が震えている。

 

「ずっと、前から…貴女と、貴女の仲間達を騙して………赦して貰おうなんて…思ってないけど……ごめん……本当に…ごめん……。」

 

 死にゆく彼が絞り出した、精一杯の懺悔と悔恨の念。頬に触れる手から、力が抜けていくのが分かる。

 

「…僕、仲間達の…連邦に囚われてる、仲間達の為に………君を犠牲にしようと………。…でも、出来なかった………君が……好きに、なってしまったから……。」

「ーーー!!!!」

 

 ネオの体が、ピクリと動く。彼女の目が大きく見開かれる。

 

「……ニュウく……」

 

 ネオが彼を見た時には、彼は泣き顔でコチラを見ていた。………ずるっ、と手が頬から滑り落ちて、ぼてっ、と床に垂れる。

 

「ーーーあ、待って…!ーーー行かないで……!!ねぇ、まだ此処に居て!!」

 

 ネオは思わず彼を抱きしめた。…そうすれば、彼を此処にまだ繋ぎ止められるんじゃ無いかと、有りもしない希望を抱いてーーーーーー

 

 

 でも、そんな奇跡みたいな事起こり得なかった。……触れていた彼の体が、フッと軽くなった気がした。

 

 

「あ………あ…………。」

 

 

ーーーーーこの時…こんな時に、ネオは自分の心の中にあった気持ち、アルセーヌに指摘され、この獣神祭の中で知りたがっていた自分の中の想い…『誰かが好き』と言う事は何なのか、どう言う事なのか、ハッキリと理解した。

 

 

 

ーーー『誰かを好きになる』と言う事は、誰かに対して、生きていて欲しいと…ただただ生きていて、幸せに、何時迄も笑っていて欲しいと願う事だったのだ。

 

………好きな人には生きていて欲しい。幸せで居て欲しい。()()()()()()()()()()

 

 

ーーーしかし、ネオの好きな(生きていて欲しい)人は、もうその命の火を消していた。

 

 

…彼女は、自らの情愛の意味を知ると同時に、ソレを喪った。

 

 

「私も!……好きだよ…!貴方が!…やっと分かった…!分かったんだよ!」

 

 遅すぎる告白。最早手遅れ…だが、彼女は彼の胸元に顔を埋める様にして声を漏らした。

 

「……ねぇ…起きてよ………。こんなのって…無いじゃん………。」

 

 答える声は無い。ある筈が無い。…その静けさは、否応無しに彼女に現実を突きつけて来るのだった。

 

「ーーーーー。ーーーー。ーー、ーーーー。」

 

 周りでナニカが喋っている。…自分のすぐ隣まで近づいて来ている、大勢のナニカを感じる。

 

…でも、そんなのどうでも良かった。

 

 

「あ……うあ………。」

 

 

ネオの中に、ゆらりとある感情が湧き上がった。

 

「うぁあ…………。」

 

…彼女の中に芽生えた情愛(モノ)が、それが奪われたことに対する悲憤へ。

 

 

 

ーーーそして、愛ゆえに彼女は叫んだ。自分の震える肩を両手で抱いて、俯いて大地に叫んだ。

 

 

 

 

あああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

ーーーその時、()()()()()()()()()()()()()

 

 

…先ず、今日も今日とて〈アステール〉を取り囲んでいた〈星のセラム〉の星雲が、太陽の様な眩い光を放った。

 

 そして霧の森、夜の森、星の森……この三つの森と、街の周りを包む〈星のセラム〉が、光り輝きながら幾本のも光柱となって、夜明け前の微かに白んだ空に立ち昇った。

 

 

 まるで、かつてケテルが溜め込んでいた〈星のセラム〉が、ニュウの手によって解放された時の様に…………。

 

 

「な……!?」

「なんだコレ!?」

「……星のセラムが……あんなにも高くッ!?!?」

 

 天に揺らめきながら立ち昇る〈星のセラム〉の柱を見て、アビド含めた連邦兵士達が、どよめく。

 

常に地鳴りの様な音が、辺りには響き渡っていた。

 

 そして、天に昇ったセラムの柱は、捩れて螺旋状の木の根か、幹の様な形に変わる。…そして、ある程度高く昇った所で、木の枝が広がる様にブワッと柱の先端が枝分かれした。

 

 立ち昇った光柱、その全てが同じ様に枝分かれして、枝分かれしたモノ同士がぶつかり合って、融合して行く。

 

ーーーーーーその度に、鐘の鳴る様な音が天に響き渡った。

 

「……空に……網が…いや、根っこが張り巡らされていくッ!?」

 

 その様子を見た連邦兵の1人が、そう愕然と声を上げた。

 

 この謎の現象は、アステールの周囲にまで広がる事は無く、アステールの上空を覆うぐらいの大きさに広がると、そこで止まった。

 

ーーーそして、日の出前で微かに白んでいるとは言え、まだ暗い筈の夜空が、全体的に白っぽく染まる。

 

「なんだ……何が起きているのだ……!?」

 

ーーーアビドは空を見上げながら、愕然と呟く。

 

 

 

 ファーーーーーーーーン……、と遠くからアステールの街の警報が木霊してきた。

 

 更に、空に張り巡らされた光り輝く根状構造物から、無数の雫の様なモノが大地に向かって滴り落ちて来る。

 

……アレは全て〈ノーマン〉だ。ーーー空に浮かぶあの根状構造は、全て高濃度の〈星のセラム〉。ーーーそして〈ノーマン〉は、〈星のセラム〉から生まれるーーーーーー……。

 

「ア、アステール全域に、多数〈ノーマン〉が出現ッ!!」

 

誰かがそう叫んだ。

 

「見りゃわかる!……だが、コレは一体……。」

 

 アビドがそう叫び返した時、今度はネオに変化が起きた。

 

 

 

ーーーヴヴンッッッ!!!!

 

 

 ネオの周囲に、光り輝く穴が幾つか出現する。それが回転しながら彼女の周りを回り始めた。

 

 更に、その穴ーーー空間そのものに空いた様な不自然な穴ーーーから、武器が飛び出してくる。

 

 

ーーーーーーそれは剣や刀、レイピアに戦斧といった、今まで彼女が具現化させて使用していた武器だった。

 

 

 

「ーーー不明現象!!対象から離れろ!!」

 

誰かの呼び声で、皆一斉にネオから離れる。

 

 

ーーーーーーガコンッ……

 

 

ーーーその時、大きな音と共に、一際大きな空間の穴が彼女の後ろに開いた。

 

 その中から、今まで誰も見たことのない様な、馬鹿でかいモノがゆっくりと迫り上がってくる。

 

 

「……え……棺桶?」

 

 迫り上がってきたモノをひと目見た誰が、ボソリと呟いた。

 

 

「…………。」

 

 ネオがゆらりと立ち上がる。…その頬に微かな涙の跡を残して、彼女は空を仰いだ。白いコートの裾が、風に煽られはためく。

 

 

ーーー彼女の後ろに巨大な棺桶………否、()()()()()()()()()()()が、何に支えられるわけでも無く、独りでに浮かび上がる。

 

 

 アビドは、一連の流れを固唾を飲んで見つめていた。……今目の前で起きているこの現象……コレはーーーーーー

 

 

「ーーーーーー()()…なのか……??」

 

 

…静かに彼は呟く。

 

 

「…だが、一体どうやって……。何が、何が彼女を覚醒に至らしめたのだッ?!」

 

…強い感情の昂りは、新人類に覚醒を促す、とアビドは信じ、実験を繰り返してきた。

 しかし、どれだけ繰り返しても、一向に新人類は覚醒しなかったのだ。

 

「…なんだ…。彼女を覚醒に導いたのは一体なんなんだ!!」

 

 

 

ーーーーーーアビドは知らない。……確かに、新人類を覚醒させるのには、強い感情が必要だ。ーーーー彼等の読みは、間違ってはいない。

……だが、実は覚醒に必要な感情は、怒りでも恐怖でも、ましてや憎しみや悲しみでも無かったのだ。

 

新人類の覚醒に必要なモノ。

 

 

………それは、()()()()

 

 

 

「………。」

 

 ネオの手に、棺桶の形をした大剣ーーーー〈コフィンブレード〉が、スッと収まる。

 

 その重厚さにふわしい重量を持つコフィンブレード。…ズシンッ!と、剣の先端が地面にめり込む。

 

 次の瞬間、彼女の体を微かに揺らめく光のオーラが一瞬包み込んだ。

 

 その光に力を与えられたかの様に、ネオがコフィンブレードを、軽々と大地から引き抜く。

 

 その青い瞳に悲壮感を滲ませて、彼女は立っていた。ーーー光り輝く根に覆われた空の下、彼女は俯いてアビド達に向き合う。

 

 

ーーーーーーそして、アビド達は()()

 

 

「……なんだ…なんだよアレ……」

 

兵士の1人が恐れる様に呟く。

 

 

 何故ならネオの後ろの空に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「ーーーほ、星の花がッッ……こんなにも近くッッ?!」

 

兵士達の唖然とした声が、空に消える。

 

 

ーーーそう。ネオの後ろの空に、〈星の花〉が見えていたのだ。

 北に近いアステールからは、星の花が見える。…それは知っている人も多い。……しかし、見えると言っても、小さく見えるだけなのだ。

 

 

 

ーーーこんなに…まるで目の前にあるかの様に、巨大に見える筈が無い。

 

 

 

 天に張り巡らされた光る根と、遥か空に映り込む〈星の花〉の巨大な幻像。

 その光に照らされて佇むネオは、まるで星の使いの様でーーーーーー

 

「ぬぅっ…!世界最初の覚醒新人類が、まさか御主になるとはッ!!」

 

アビドが叫んで、手を動かした。

 

「ーーーだが、たった1人では流石の覚醒者も何も出来まいッ!!…此方は、新人類との戦闘に特化した〈対新人類部隊〉!!…その一個連隊なんだぞッ!!」

 

 ネオを取り囲む兵士達が、次々と銃を構える。ーーーアビドは、コレから始まるであろう戦闘に巻き込まれない様、踵を返して戦闘機の中に身を隠した。

 

「ーーー足や腕の一本、無くなっても構わん!……全隊、速やかにネオを無力化せよ!!」

 

 頷いた兵士達。ネオはただ、剣を構えもせずに、彼等に向かって一歩を踏み出しーーーーーー

 

 

 

ーーー霧の森の奥地で、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

時刻ーーーAM05:47

 

 

 

ウゥーーーーーーーン………

 

 

 新年元旦の日の出前に鳴り響いた警報は、半分眠っていたアステールの街を、勢い良く叩き起こした。

 

ーーーノーマン襲来の警報なら、アステールの民なら誰だって聞いたことがある。

 

…しかし、今回は余りにも特殊だった。

 

 

ーーー眠りから飛び起きた人々は、アステールの空を覆う光り輝く根に目が釘付けになった。……そして、そこから降り注ぐノーマンの群れに、驚き慌てる事となる。

 

 ネオと同じ様に、初日の出を拝もうと徹夜で起きていた人々も、突然の出来事に呆気に取られてしまっている様だ。

 

 

 そして1分も経たないうちに、空から街に降ってきた〈ノーマン〉達によって、街は混乱に包まれる事になる。

 

 

 

 


 

 

 

 

「…くそっ!ーーーーーーなんだこりゃあッ!?何が起きてやがる?!」

 

 おかしくなった空を見上げ、次に混乱の坩堝に満たされた街を見渡してそう叫んだのは、アステールの王ポセイドン。

…寝巻き姿なのは、ついさっきまで寝ていたからだ。

 

 少し遅れて横から、同じく寝巻き姿の副官トライデントが、バタバタとやってきてポセイドンに向かって叫ぶ。

 

「お爺ちゃん!!ーーーなんかヤバイ事になっちゃってるよッ!!」

「…分かってる!……何が起きてんだよマジで?!」

 

トライデントは首を振った。

 

「分かってない!!ーーーーー今、防衛局から連絡があったの!ーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

…ポセイドンは顎が外れるかと思った。

 

「はぁぁぁぁッッッッ?!?!ーーーどう言う事だトライデントォ?!」

 

 トライデントが軽く涙目になりかけながら、首を振る。

 

「わっかんないよ!!…兎に角、防衛システムは全部ダウン!!…ノーマン対処は、白兵戦しかないの!!」

 

 街の至る所から、破壊音と人々の悲鳴が幾重にも重なって聞こえてきた。

 空を見上げれば、天に這う光る根っこから、今も尚無数のノーマンが次々と生まれては、糸に引かれるかのように地上に落下してきている。

 

Holy cow(なんてこった)!!!マジか…!!」

 

苦い顔で、頭を抱えるポセイドン。

 

 防衛兵器が使えないと言うことは、空から降ってくるノーマンを止める手立てが無い…と言う事だ。

 

 移動要塞なら攻撃が可能だが、今の状況は、街の中に突然ノーマンが発生したに等しい。…この様な状況下では、移動要塞からの攻撃は逆に市民を巻き込んでしまう恐れがある。

 

……その所為でオーステルンや、フィンディアスなど迎撃可能な弩級移動要塞も、街中に散らばったノーマンの群れ相手に、攻撃の手が出せない様だ。

 

「ーーーポセイドン!」

 

「…ん、おお!ゼウス!!」

 

 バタンと彼の寝室のドアが開いて、オーステルンの艦長ゼウスと副官のケラウノスが飛び出して来た。

 

 更に、部屋にフィンディアスの艦長ヌアザと、トーリーの艦長ルーが、入ってくる。

 

ーーー彼等は、ポセイドンの宮殿〈コリントス〉に、彼に招かれて泊まっていたのだ。

 

「ポセイドン……コイツはどうも、大変なことになったな!」

 

そう言うのはヌアザ。ルーも頷いている。

 

「コレは間違いなく異常事態だ!ーーーさっさと事態を鎮圧せねば、被害が拡大するぞ!!」

 

 ゼウスが吠える。ーーーそして、彼は誰よりも先に部屋を飛び出した。

 

「ケラウノス!ーーー来い!我々の力が必要そうだ!…街の防衛に協力するぞ!!」

「分かってるよ叔父貴!」

 

ゼウスに続いて、ケラウノスも部屋を飛び出す。

 

 ポセイドンも、トライデントと顔を見合わせて頷き合った。

 

「…取り敢えずトライデント!ーーーお前は防衛局に連絡、お前の権限で防衛軍を動かせ!今すぐにだ!!」

「オッケー!全軍使っちゃうね!!」

 

 トライデントが脱兎の如く部屋を飛び出して行く。

 

「…我等も続こう!」

「勿論だ!」

 

 ヌアザとルーも部屋を飛び出す。ーーー部屋を飛び出した先には、2人の副官であるクラウソラスとブリューナクが正装で待機していた。

 

「クラウソラス!ーーー分かってるな??」

「勿論さ、おっさん。…ボクは準備、出来てるよ。」

 

ヌアザがクラウソラスに。

 

「…ルー君。」

「ーーーブリューナク、アステールが大変な事になった、俺と一緒に行けるか?」

「うん!!ルー君の望みなら、何だって、何処だって!」

 

ルーがブリューナクに呼びかけて、宮殿の外に向かう。

 

 3人の艦長は己の使命を果たすべく、混沌とした街へと駆けて行ったーーーーーー

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ーーーアステールの街中で、人々は突如降り掛かった天災の様な現象に右往左往していた。

 

 

「……んだこりゃ…根っこ??」

 

 

ーーー街の一角で、空を見上げて呟く男。……黒いレザースーツに白髪…バサラだ。

 

 彼の目の前で、根から生まれ落ちて来た〈ノーマン〉が1体、地面に着地して、真下にあった祭りの屋台を押し潰す。

 

 

 初日の出を見る為に、行きつけのお店で飲み仲間とチビチビ時間を潰していたのだが、どうも初日の出どころじゃ無くなった様だ。

 

「…ちょ、バサラさん。何スかこれ!!」

「ノ、ノーマンが…何でこんな街中にッ?!」

 

 彼の後ろで飲み仲間達が慌てている。ーーーバサラは、腰に下げてあった『斬魔刀ヴァジュラ』を静かに引き抜きながら、後ろの飲み仲間達に向かって声を上げた。

 

「…戦えない奴は離れた方がいい。ここに留まるのは危険だぞ。」

 

「お、俺らも戦うぞバサラさん!」

 

…飲み仲間の誰かがそう言って、自分のセラムキューブを展開した。…この街は人口の殆どが新人類だーーー戦おうと思えば、戦うことは出来るが………。

 

「よせ。ーーーアイツら全員〈四ツ星〉級のノーマンだ。…言っちゃあ悪いが、アンタら一般人では戦力にならねぇ。」

 

バサラは彼等の援護を断った。

 

ーーーそして、ヴァジュラを構えて声を立てる。

 

「…行け!ーーー自分の身を…そして家族の身を、守ってやれ!!」

 

ーーーバサラの叫びが響く。そして全員、ハッとなった様に動き出した。

 

 

 

『キュォォオォーーーンッッッ!!!!』

 

 

 先程空から落ちて来た蛇型のノーマンが、漆黒の巨躯をくねらせ、バサラに突進してくる。

 

 バサラは、逃げ出す飲み仲間たちに被害が及ばない様に刀を構え、その突進を受け止めたーーーーーー

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「ーーーコレは…一体……。」

 

 

……一方、此処はアステールのまた別の場所。

 

 空を見上げて唖然としているのは、アステール支部の支援者で、カノンの友達である少年だ。

 

隣に、彼の家族も立っている。

 

 

「…ノーマンだね…。ーーー家の中に隠れて欲しい。私が何とかする。」

 

 

ーーー隣に、カノンがやって来てそう言った。…彼女は、嘗てイースターに入る前に一緒に過ごしていた少年の家に、少年の家族に招かれて泊まっていたのだ。

 

「……でも…カノン。ーーー空を見てよ…凄い数だよ…。」

 

 少年の背中に軽く手を当てて、カノンは安心させる様に微笑んだ。

 

「だいじょうぶ。…私は、負けない。」

「カノーーーーーー 」

 

 

ーーーーーーズドンッ!!

 

 

 少年が何か言いかけたが、それはノーマンの着地音に阻まれた。

 

 僅かに20メートル先の民家の上に四ツ星級の巨体が、落下して来て真下の民家を叩き潰す。

 

『フルルルルルルル………ッ。』

 

……目も鼻も無い、赤い模様だけが刻まれた漆黒の体躯が、此方を向いた。

 

「……この街の誰も…傷付けさせはしない。」

 

 此処はただの住宅街。ーーー空の異変と共に出現したノーマンによって、辺りがパニックに包まれる中、カノンは緑の翼を背中に生み出し、ノーマンに向かっていたーーーーーー

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 イースターのアステール支部でも、皆が異変に気付き、飛び起きて外に出ていた。

 

「ーーー空に…光る根っこが…。」

「何これぇ?!……世界の終わり!?」

 

 ハレルヤが空を見上げて呟き、次にアミダが街を見下ろして叫ぶ。

 

一方で、アビスは頭を抱えて震えていた。

 

 

「あ、あぁ……コレは…コレは…ッ。」

 

「ーーーどうしたアビス?!…大丈夫か?!」

 

 倒れそうになるアビスを、アルスラーンが抱き止めて心配そうに叫ぶ。

 アビスは、声を震わせながら、空を這う根を見上げた。

 

「……星のセラム…!!…混沌が、うねっています…ッ!…そして…感じる…感じます………誰かの、痛みを…悲しみを……!!」

 

「…は?ーーーまさか、星のセラムと同調してーーーーーー」

 

 アルスラーンがそこまで言ったところで、突然彼等全員に、鋭い頭の痛みの様なものが走った。

 

「いっ…!?」

「あぐっ!!」

「…ッ!な、なに?!」

 

ーーーパチリと稲妻が弾ける様な痛み。…そして、何だか形容し難い感覚が、全員を包み込む。

 

 

 

ーーーこの現象は、アステール全土…言い換えれば、光る根に覆われた範囲内の、全ての人間を対象にして、同時に起こった。

 

 

 

ーーーノーマンと戦うバサラにも、

 

「イテッ!……何だ今のッ!?」

 

ーーー違う場所で戦っていたカノンにも、

 

「…!!ーーー今のは……。()()()()()…??」

 

ーーーゼウスと一緒に、コリントス宮殿を飛び出したケラウノスにも、

 

「いてぇ?!」

「…どうしたケラウノス?」

「分かんねぇ…。ーーー稲妻みてぇな痛みと、なんだか…()()()()()()()()()()()様な……。」

「…は?」

 

 首を傾げるゼウス。ーーーどうやら、彼は何も感じなかったらしい。

 

ーーーそして街中の住民達にも、それは広がっていった。

 

「…なに!?」

「痛い!」

「ッ!」

「わッ?!」

「痛ッ!…()?!」

「…何だ今のッ?」

 

 誰しもが、脳裏に走るチリッとした痛みに頭を抱え、そして直ぐに消えていったその痛みに、今のは何だったんだろうと首を振る。

 

 

ーーーアステール支部の前にいるハレルヤ達も、一瞬で過ぎ去ったその痛みに、訝し気に首を傾げた。

 

「…今のは…何だったんだ…。…一瞬痛みが…走って……アレ??」

 

 ハレルヤがアミダと顔を見合わせて、ふと何かに気付いたかのように声を上げた。

 

「…ん?ーーーあれ??」

 

 一方で、アミダも何かに気付いた様に、ハレルヤの顔を指差した。

 

「ーーーハレルヤ…。キミ、()()()()()()……?」

「…え。…アミダも…片方の目が……。」

「…うそ?!」

 

 ハレルヤの困惑した声に、アミダが自分の片目を押さえる。

 

ーーー2人だけじゃ無い。此処にいる全員が、片目に変化が起きていた。

 

「何だコレは……。」

 

 アルスラーンが、呆然と呟く。サクア達も、お互いの変わった目を見合わせて驚いていた。

 

 ハレルヤはアミダの片目ーーー()()()()()()()()に変色した目を見詰めて、唖然となって口を開いた。

 

 

 

「ーーーこれじゃ、まるで………()()()()()()()()。」

 

 

 

 つーーっ、とアミダの片目…青く輝きを放つ瞳から、涙が流れた。ハレルヤの変化した方の瞳からも、何故か勝手に涙が流れる。

 

「…え…。」

「何これ……悲しく無いのに……私、すごく悲しい…。」

 

 

 

…あらゆる感情が混ざり合っている。ーーー誰しもが、直感的にそう感じた。

 

「……ネオ。」

 

 アルセーヌが光り輝く根を見上げながら、ボソリと今此処に居ない彼女の名を呟いた。

 

 

 

 

ーーーこの時、誰しもが泣いた。理由もわからずに泣いた。…そして、誰しもが『霧の森』の方へ目を向けた。

 

 

「……ネオ?」

「ネオちゃん…?」

「ネオ…なのか…??」

「ネオ……。」

「ネオ…?」

 

 

ーーーそして、彼女を知る者は、皆彼女の事を何故か思い浮かべた。

 

 

 この街を包み込んだ謎の現象の中心点。ーーーそこに、ネオが居るのだろうか……??

 

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオン………。』

 

 

 街中に、ノーマン達の咆哮が響き渡る。ーーー不思議と、その咆哮も泣いている様に思えた。

 

 

ーーー突如アステールの街に訪れた未知の災害。ソレは、時の流れと共にさらに混沌と化していくーーーーーー………。

 

 

 

 







な に こ の カ オ ス 

原作どこ?…ココ?

 ま、色々謎が多いと思いますが、(ハッキングって何やねん、連隊の意味分かっとんのか、光る根っこは何やねん、展開雑やねん、etc ……)ーーー全部、未来の自分に丸投げしときますね()きっと、次回の話を書く未来の私が何とかしてくれるでしょう!

じゃ、また次回。

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