モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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Re:繰り返し 再び

Birth:誕生 出産






62話 〈再誕〜Re:birth〜〉

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

 

 

 

[ アステール郊外 霧の森 ]

 

 

 

 

 

 

ザリッ……ザリッ……

 

 

大地を踏み締める音が、霧の森に微かに響く。

 

 四方から差し込むライトが、自分を照らし出して全方位に影を作る。

 

「………。」

 

 ネオは、ゆっくりと歩いていた。ーーー自らの周りを、数多の剣がグルグルと回っている。

 

 彼女の視界の先には、銃を構える兵士たち。彼等の後ろで、戦闘機が1機、空に飛び立った。ーーーその中から、老人の声(Dr.ゾルゲの物だ。)の声が響く。

 

 

 

「ーーーーー撃て。」

 

 

 

ーーーー次の瞬間、ネオと相対する兵士たちが、手に持った自動小銃を発砲する。

 

 霧の森の闇に、激しいマズルフラッシュが幾つも煌めき、ネオを狙って無数の弾丸が飛来する。

 

ーーーネオは、あくまでも連邦政府の()()対象だ。…その弾丸は、彼女を殺す為に放たれた訳ではない。負傷させ、捕らえる為に放たれたのだがーーーーーー

 

 

ーーーーガキーーーーーンッッッ………!!!

 

 

 ネオは飛来した弾丸を回避する事なく、自分の周りを回る剣で全て弾き飛ばした。

 

 ネオと、その後ろに横たわるニュウを避ける様に、弾き飛ばされた弾丸が虚しく散らばる。

 

「んな……?!」

 

兵士の1人が、驚いた様に声を漏らした瞬間、ネオが動いた。

 

 

ーーーーボッッッッ!!!!

 

 

 自らの周りの空気を吹き飛ばす様に、彼女が地を蹴って兵士たちへ突っ込んで行く。

 

 踏みしめられた地面に放射状のひび割れが生まれ、砕けた大地の破片が辺りに舞う。

 

「はっっっや?!」

 

ーーーー兵士の1人がネオに発砲するが、撃ち抜いたのは、ただの青い残像だった。

 

「へ…?」

 

 ネオを一瞬で見失い、唖然とした兵士の鳩尾に巨大なコフィンブレードが、横薙ぎに叩きつけられーーーーーーーー

 

 

ーーーードンッッッ!!

 

 

 人の身体が、枯れ葉の様に宙に舞う。ーーーフルアーマーと言っても差し支えの無い、重装備の人間が、ただの細い身体付きの女性に吹き飛ばされる様は、少しシュールな光景とも言えよう。

 

「くそッ!?」

 

 一瞬で距離を詰められたが故に、兵士たちは銃では無く近接武器ーーー暴徒鎮圧用の電流の流れる警棒の様な物ーーーで、接近戦を挑む。

 

 

ーーーだが、それでは余りにも無力だった。

 

 

「ぎゃあーっ!!」

 

ーーー1人

 

「がふっ??!!」

 

ーーー2人

 

「ひでぶっ!」

「ぐはっ?!」

 

ーーー3人、4人

 

 

 次々とネオに倒されていく兵士達。ーーー彼らの名誉の為に言っておくが、彼らは連邦政府の対新人類部隊…つまり、対新人類戦闘のスペシャリスト達である。決して弱くは無い筈なのだ。

 

 

ーーー惜しむらくは、彼は覚醒新人類と戦った事が無かった、という事だろう。

 

 

 

「ーーー地上戦は不利だ!……《ロックチェーン》を発動しろ!!」

 

 

 上空から地上で戦う部隊を見下ろしつつ、ゾルゲは命令を下す。

 

「…了解!ーーーロックチェーン、発動しますッ!!」

 

 この命令に応えたのは、ネオの周りを取り囲む戦闘機群だ。

 

 

ーーージャララララララッッッ!!!

 

 

 鎖の鳴る音と共に、ネオの周囲を飛び交う戦闘機から、1本の長い鎖の様な物が打ち出された。

 

 その先端には、クレーンゲームのアームの様な物が付いており、ソレがバッと広がってネオの体を掴もうと迫る。

 

「ーーー!!」

 

 ガシャーーーンッ、と音を立ててネオの腕や足に絡まる鎖。鎖の先端のアームが、ガッチリと彼女の体を掴んで離さない。

 

…ほぼ全ての戦闘機が、彼女に対して鎖を発射していた。ーーー無数の鎖に繋がれて雁字搦めになっている彼女は、遠くから見れば封印されている様にも見える。

 

 

 『束縛完了』の文字が、ゾルゲの乗る戦闘機のディスプレイに映り込んだ。

 

 

「束縛完了!ーーーこのまま、無力化をーーーーーー」

 

 通信機に入り込んだ誰かの声は、最後まで続かなかった。

 

…何故なら、ネオが内側から鎖を引きちぎる様にして束縛から逃れたせいだ。

 

 

 

ーーーーバキバキバキィンッッッッ!!!!

 

 

 

 彼女を縛っていた何本もの鎖が纏めて粉砕され、破片が大地にガラガラと転がる。

 

「はっ?!?!」

「馬鹿なッ!五ツ星級ノーマンすら拘束できる《ロックチェーン》を、いとも容易くッ?!」

「…人の成せる技じゃ無ぇだろッ!!」

 

パイロットの驚く声が、無線越しに飛び交う。

 

 

「……………。」

 

 ネオが、スッと空へ手を翳した。ーーー戦闘機群に向けられた掌に、微かな光が宿る。

 

「…??何をする気ーーーーーーーー」

 

 

次の瞬間、光が爆ぜた。

 

 

 

バリバリバリバリィッッッッッ!!!!

 

 

 

 

ーーーーそれは、彼女の手から放たれた『電撃』。

 

 

……通常、電撃は物から物へ伝わる。…周囲に触れられる物がない時は、電撃は伝導する対象を見つけられずに不発に終わるのだが、今のネオの電撃は規模が違った。

 

 あまりにも強力すぎる電撃は、周囲の大気中を埋め尽くす程の規模で放たれ、空中の戦闘機を次々と撃ち落としていく。

 

まるで、地上から空に向かって迸る逆向きの落雷の様ーーーーーーーー

 

 

「ぬうっっっ?!?!」

 

 その電撃ーーー『全体即死電撃』とでも言おうかーーーは、ゾルゲの乗る戦闘機も襲う。一条の閃光が翼を掠め、コックピット内部の計器類が次々と火花を上げてショートしていく。

 

「ーーー右翼が破損!」

「なんだよコレ!!自然災害かよ?!」

 

パイロットの狼狽える声。

 

 すぐ側を、電撃に打たれて炎を噴きながら落下していく戦闘機が通り過ぎて行った。

 

「コレは不味いーーーー」

 

そうゾルゲが呟いた時ーーーー

 

 

「…………。」

 

 

 ネオが、ゾルゲの乗る戦闘機に目をやった。ーーー地上から離れているのにも関わらず、直ぐ間近で目を覗き込まれているかの様な、圧を感じる。

 

「こっちをみーーー」

 

 次の瞬間、ネオが跳び上がった。ーーー覚醒した身体能力をフルに使い、大地を蹴って高々と跳び上がる。

 

 

…まるで地から天に駆け上がる青い彗星ーーーー

 

 

「対象接近!!なんて、ジャンプ力ーーーー」

「不味い、回避をーーーーーーーー」

 

ゾルゲとパイロット達は、最後まで言えなかった。

 

 

ーーーズバンッ!!

 

 

 ゾルゲの乗っている戦闘機が、中のゾルゲ達ごと真っ二つに切り裂かれたのだ。

 

「ん……??」

 

 自分の半身が斬り飛ばされた事に、ゾルゲは一瞬気付かなかった。

 

 

(あ、儂ーーーーーーーー)

 

 一拍置いてから、ゾルゲは今自分が縦半分に切られた事に気付いた。

 

 死を悟った瞬間、脳裏によぎる()()()()()。……それは、かつて研究議会の会議の場で、ドクトゥール・フォリーが自分に向かって言った覚醒新人類に対する忠告だったーーーーーーーー

 

 

『ーーーー連邦の永きの発展を願うのなら、新人類を覚醒させる事だけは止めて欲しい。』

 

 

『ーーーーー覚醒すれば、新人類は()()()()へ、間違いなく至るのだから………。』

 

 

 

「ぁ…」

 

 ゾルゲは真っ二つになった体の全ての力を振り絞って、最後に空から自分達を見下ろすネオの姿を、目に焼き付けようとした。

 

 

「ーーーーーーー。」

 

 

 溢れんばかりの(オーラ)を身に纏い、周囲に無数の剣を浮かべて夜空に佇む彼女の姿は、正にーーーーーーーー

 

 

 

 

(ーーー神。)

 

 

 

 

 最後にそう心の中で呟いて、ゾルゲはその人生にピリオドを打った。

 

 

 

「ーーーゾルゲ指揮官、撃墜ッッ!!」

「っざけんなッ?!ーーー何なんだよアイツはッ?!…人の域を超えてるじゃねぇか!!」

 

 司令塔がいとも容易く落ちた事で、部隊に混乱が一瞬生じる。ーーーが、そこは優秀な対新人類部隊。すぐに副司令官がゾルゲに代わって指揮を取り始めた。

 

 

「ーーーもはや、対象の捕縛は不可能!!…危険性を考慮し、対象の殺害も許可するッ!!」

 

 

 下された新たな命令は、ネオの捕縛を諦めた事に等しかった。ーーーーそれは、連邦の意にそぐわないモノだろう。しかし、副司令官は()()()()()()()()()()()()

 

 

ーーーー此処でネオを殺さなければ、彼女は連邦にとっての大きな災いとなる。

 

 

 だからこそ、副司令官は迷い無くネオの抹殺に踏み切った。

 

 

…そして、それが自らの運命を決定する事になる。

 

 

 

 


 

 

 

 

「………。」

 

 

ーーーースタンッ…

 

 

 戦闘態勢をとった彼らの前で、ネオは()()()()した。

 

それを見て、驚くパイロット達。

 

 

「な…?何も無い場所に立ってる!?」

「違う…。足元に、板みたいな足場が出現したんだ……。」

「セラムキューブ変化体か?」

「…だろうな。」

 

 

 そう言葉を交わしたパイロット達は、気を引き締めるとネオに狙いを定めた。

 

 

「……よし、やるぞ!」

 

誰かが喝を入れる様に叫ぶ。

 

「おう!」

 

 別の誰かが、それに応えて叫んだ。ーーーそして副司令官が素早く指示を出す。

 

 

「ーーーー対象からなるべく距離を取って攻撃だ。奴は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。さっきの電撃攻撃にのみ気を付けつつ、遠距離で交戦せよ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

 殺害許可も降りた今、手加減する必要は無い。ーーーー彼等は戦闘機に備え付けてある小型レーザージェネレーターを、フルチャージでネオに向かって撃とうとして…………

 

 

 

「………。」

 

 

ーーーーネオが手を振った。

 

 

 彼女の周りを回る無数の剣が、その切っ先を戦闘機群に向け、残像すら残る速度で放たれる。

 

 

「なっ?!剣が飛んできたッ?!」

 

 

ーーーーズドォーンッッッ!!!

 

 

 戦闘機に突き刺さった無数の剣。ーーーーそれは鋼鉄のボディを、ケーキか何かの様に切り裂いて、中に乗っていたパイロットを正確に刺し貫いた。

 

 更に、放たれた剣のうちの幾本かが戦闘機の燃料タンクを貫いて、爆発を起こす。

 

ーーーー次々と、意思を持っているかの様に飛来するネオの武器。

 それはパイロットを刺し貫き、翼を切り落とし、機体を切り裂いてバラバラにしていく。

 

 

「剣がコッチにーーーー」

「うわぁ?!」

「ぎゃぁーーッ!!」

「くそっ!避けるんだ!!」

「ーーーーダメだ、追尾して来る!!」

「なんだとッ!?」

 

 

 パニックに陥る操縦士達。残光を引いて夜空を飛び交う無数の武器が、戦闘機を次々と破壊して回る。ーーーまるでファンネルの様だ。

 ただでさえ先程の電撃で半数が墜ちていたのに、今の攻撃で更に頭数が減ってしまった戦闘機部隊。

 

 それでも残った者達が、何とか反撃しようとネオに向かって攻撃を開始した。

 

「小型レーザージェネレーターァ!!発射ッ!!」

 

 ドキューーーーーーン……と音を立てて、戦闘機の両翼からレーザー砲が発射される。

 

 放たれたのは、アステールの防衛システムにも備わっている『レーザージェネレーター』の小型版だ。……元に比べて小さいが、元々が直撃さえすれば六ツ星級すら倒し得る最強兵装ゆえ、小型になっても威力は凄まじいものがある。

 それこそヒト1人程度、骨も残さず消し飛ばせるだろう。

 

 

 ネオの四方から迫る光の波動。ーーー彼女は動かない………

 

 

 

ズドドドドドドォンッッッ!!!

 

 

 

連鎖する爆発。

 

 

ーーーーしかし、放たれたレーザーが彼女の体に触れることは無かった。

 

 

 その手前で、彼女が宙に浮かべた丸い盾の様なもので、全て防がれたからだ。

 

今日何度目かの驚きに騒ぐパイロット達。

 

「防いだ???」

「嘘だろ!小型とは言え、レーザージェネレーターだぞ?!」

「てか、盾なんてさっきなかった筈じゃ?!」

「確かに…。どっから出て来たんだ……??」

 

 

「……いや、まさか…創ったのか……その場で…。」

 

ーーー誰かがそう声を漏らした。

 

 

 

コツ……コツ……コツ……コツ……

 

 

 

硬い足音を立てて、()()()()()()()()()

 

 

ーーーー見ると、彼女の足元に、キラキラと煌めく光と共に透明な水晶で作られた道の様な物が、彼女の歩みに合わせて作られているのが見てとれた。

 

 先程ネオの身を守った盾は、いつの間にか消えている。

 

ーーーそしてパイロット達の目には、ネオが作った水晶の道が、ネオが通り過ぎた場所から砕けて消えていく様子が見えていた。

 

 

 

「物質の……自在な創造と、消失のコントロール……??」

 

「そんな事…人の身で出来るのかよ……いくら新人類の能力でも、限度があるだろ?!」

 

 

誰かが、唖然となって喚く。

 

 

ーーーーネオの歩みは止まらない。空に道を創り出し、戦闘機部隊の残党へと歩みを進めて行く。

 

…と、その時。

 

 

「撃てーーっ!!」

 

 

 地上の部隊が、空を歩くネオ目掛けて射撃を開始した。……彼女の足元に創造された道に弾丸が当たって、火花が散る。ネオがゆらりと地上を見下ろした。

 

 

「…よせ!!相手は、高所に居るんだぞーーーー」

 

 

戦闘機部隊の忠告は、一足遅かった。

 

 

ーーーーパチン。

 

 

 ネオが指を鳴らした瞬間、凄まじい電撃が真下に向かって打たれ、地上部隊を包み込んで爆ぜた。

 

 

「ちっ!!」

 

 

 地上部隊が雷撃に呑まれて、次々と蒸発していく。ーーーこれ以上はやらせないと、戦闘機部隊は彼女に攻撃を開始した。

 

夜空を彩る曳光弾。そして放たれるミサイル。

 

 しかしネオは其れ等を回避し、無数の剣を創造しては、ソレを自在に操って戦闘機を撃墜していく。

 

 

「だ、ダメだ!能力が規格外過ぎる!!」

 

 無線越しに聞こえる部隊員の声。ーーーその声も、すぐに爆音と共にノイズの彼方へ消えていった。

 

 副司令官の男は、彼女に向かって攻撃をしながらも、其れ等全てを防ぎきって此方に向かって来るネオの姿を見て、小さく呟いた。

 

 

「ーーーー化け物(モンスター)め。」

 

 

 

 彼の乗る戦闘機の眼前にネオが迫り、彼の視界は炎に包まれた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ヒューーーー……

 

 

 戦闘機部隊を全滅させたネオが、空から勢い良く重力に引かれて落下して来る。

 

「……来るぞ…!」

 

身構える地上部隊の生き残り。

 

 

ーーーーズドォーンッ!!

 

 

 ネオが、地面に叩きつけられる様に着地する。

 

 

 ブワッと舞い上がった土煙を切り裂いて、ネオは飛び出した。

 

 

「ーーー疾ッ!?」

 

 爆速で接近したネオが、コフィンブレードを振るい兵士達を薙ぎ払っていく。

 

ーーー殺害命令が出された今、兵士達はもう遠慮などせずに銃を撃ちまくって攻撃していくが、ネオに当てることは叶わなかった。

 

「……。」

 

 迫る銃弾を剣で弾きながら、ネオは手を地面に勢い良く押し当てる。

 

 

 

ーーーーバッカァーーーーーーンッッッ!!!

 

 

 

 次の瞬間、ネオを中心にして大きな地割れが生み出された。

 

 

「じ、地割れッッ?!」

「はぁ?!あり得ねぇ!?」

「うわぁぁぁぁーーーーっ!!」

 

 

 避ける事も叶わず、地割れに呑まれていく兵士達。ーーー彼等を呑み込んだ後、ネオが手を離すと同時に地面は元の形に戻って閉じた。……何事も無かったかのように。

 

 

「ーーー嘘だろ!?」

「落雷に地割れ…もう災害だろ、コレ!」

 

 立ち込める土煙の中、僅かに残った兵士達が喚いている。そんな彼等に向かってネオが迫っていく。

 

「ーーーこの…!!」

 

 兵士が射撃をするも、弾丸は全てネオが創り出した盾で防がれ、カウンターで飛んできた剣に、装備ごと刺し貫かれて生き絶えた。

 

 

「ぎゃっ!!」

「あぐっ?!」

「ひぎっ!!」

「いやd…。」

 

 

ーーーー他の兵士達も同じような末路(みち)を辿る。……もはや、コレは戦闘では無い。ーーーーーーーーただの鏖殺だ。

 

 

 

「くそぉ…くそぉ!!何なんだよ…お前は一体、()()()()()()んだよッ?!?!」

 

 

 死屍累々の中で、最後の1人が半狂乱になりながら、ネオに向かって問い掛けた。

 

 銃のトリガーはもう引けない。……マガジンに弾が残っていないからだ。それでも、最後の兵士は銃口を歩くネオに向けていた。ーーー銃を下ろした瞬間、自分の死が決まる…そんな気がしていたのだ。

 

 

「…………。」

 

 彼女は口を開かない。ーーーーーただ、最後の1人に向かって歩いて近付いて来るだけだ。

 

 後ずさる兵士。……しかし、すぐ後ろにあった仲間の屍に躓いて転んでしまった。

 

 

「……あ。」

 

 

 ネオを見上げるような格好になる兵士の男。ーーーーその時、彼は見た。

 

 

ーーーーーーー()()()()()()()()()()()

 

 

声も上げずに、静かに、その頬に涙の筋を作ってーーーー

 

 

(……泣いてーーーーーーー)

 

 呆然としてしまった兵士の男に、コフィンブレードが静かに突き刺さる。…ネオの泣き顔が、彼の見た最後の景色となったのだ。

 

肉の断たれる音が辺りに微かに響く。

 

 

 

ーーーーそして、霧の森に生きて動く者は、彼女ただ1人となった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

時刻ーーーAM5:55(日の出5分前)

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面に横たわる無数の兵士達の屍の上で、ネオは立っていた。

 

 身に纏う服に乱れは無く、返り血の一滴も付いていない。コフィンブレードに、ただ一筋の血の痕があるのみだ。

 

 

ーーーー辺りには墜落した戦闘機の残骸が散らばり、ソレから漏れ出した燃料が引火して、あちこちでブスブスと燻っている。

 

 空には光る木の根。ーーー北の方角に見えるのは、〈星の花〉だ。

 

 

「…………。」

 

 

 彼女はただ立ち尽くしていた。…その手から、コフィンブレードがズルリと滑り落ちて、地面に埋まるように消えていく。体を包むオーラも、スッと消えていった。

 

「…………。」

 

 フラフラとしながらも、彼女は歩き出した。目指すは、()の元。

 

「……ニュウ…くん……。」

 

ーーー不思議な感じだ。霧の森でコレほどの戦いが起きて、辺りが滅茶苦茶になったのに、ニュウの周りだけ綺麗なままになっている。

 

 

 もはや、周りに散らばる兵士と同じく、息絶えて只の屍と化した彼の前に、ネオは崩れるように座り込んだ。

 

 

「……ねぇ…起きてよ…。ーーー起きて、教えてよ……。」

 

 

彼を抱えるようにして、ネオは声を漏らす。

 

 

「ーーーねぇ…全部…全部嘘だったって言うの……?自由で良いって言ってくれた事も、手を引いて助けてくれた時の事も、全部ぜんぶ嘘だったって言うの???」

 

 

ーーーー答えは無い。…しかし、彼女は彼を抱きしめたまま、感情に任せて言葉を迸らせた。

 

 

「ーーーーもしそうなら…もしそうなら、『ごめん』って謝ってそれっきりだなんて、赦さない。死んで償おうたって赦さない…!ーーーわかる…?」

 

 

彼女は肩を震わせて俯いた。

 

 

「…皆んな言ってる……私は変わったんだって。ーーーー私も、何となく自分が変わったんじゃ無いかなって、思ってた。」

 

 

彼女の手が、彼の顔に触れた。

 

 

「……私は変わった。貴方が私を変えた。……()()()()()()()んだよニュウくん………。」

 

 

 俯いた顔が彼の胸に当たる。…鼓動を刻むことの無い胸に。

 

 

「だから………だから責任…とってよ。このまま死んでサヨナラなんて、そんなの無いでしょ………。」

 

 

ーーーーあとは言葉にならなかった。死屍累々の中で、たった1人、彼女は泣いていた。

 

その涙が、彼の顔に落ちてーーーーーーーー

 

 

 

 

『ーーーーーーーーーー。』

 

 

 

「…え?」

 

 

()()()()()()()

 

 

 固まるネオ。ーーー自分の後ろに、()()()()。近いようで、遠い様な、不思議な気配。

 

 

「…………あ…。」

 

 

 おずおずと振り向いた時、彼女の目には大きな〈星の花〉が映り込んでいた。

 

…そして、いつの間にか周りの景色が〈霧の森〉では無くなっていた。

 

 

(……何?…何処…?)

 

 

ーーーー真っ平らな、何処までも平たい、鏡の様に揺らがない水面にネオは立って居る。

 

 真っ暗な空には、何千何万という星屑。水平線の彼方まで、星が埋め尽くしている。コレはまるで…宇宙の縮図ーーーー……。

 

(あ…誰か、居る……。)

 

 空から視界を水面(みなも)に戻した時、自分の先に誰かが立っているのに彼女は気付いた。

 

 

ーーーー自分に似ている。…最初はそう思った。

 

 女性的な体型で、衣類は纏っていない様に見える、ーーーと言うのも、全体が光で包まれていて、ぼんやりとしか見えないのだ。顔も良く分からない。

 

 しかし、胸に自分と同じ十字架の様な『星の紋章』が光り輝いている事だけは、ハッキリと分かった。

 

 頭の上には、丸い輪が浮かんでいる。…周りには、常に花びらが待っている様な気がした。

 

「………あ。」

 

 

 ふと、ネオは気付いた。……その人影の腹部あたりから、長い根の様なものが伸びている。

ーーーーそれはフワリと宙に浮いていて、目で辿っていくと自分の後ろ、水面に横たわるニュウの元まで伸びている様だった。ーーーーそして、彼の心臓のある場所に繋がっている。

 

 

「……根っこ……いや…。」

 

 

ーーーー臍の緒???

 

 

 ネオがソレを認識した時、ニュウの胸に繋がるソレが急速に黒ずんだ。

 

「ーーーー!」

 

 何故か()()()()()はいけない気がして、ネオは黒ずんだ根…或いは臍の緒を、思わず掴んだ。

 

 

『……彼に生きて欲しいの?』

 

 

 光る人影が、沈黙を破った。ーーーまるで歌う様な声が、脳裏に直接流れ込んで来る。

 

 ネオは頷いた。ーーーいきなり話しかけられた事に、驚きはなかった。…寧ろ、今まで何度も何度も、この声を聴いてきた気がする。

 

『…なら、何をするべきか、分かってるでしょ…?』

 

問いかける様な声。

 

「何を……するべき…か…。」

 

 おうむ返しに呟いた時、ネオは自分のセラムキューブが、カチャカチャと音を立てている事に気が付いた。

 

「ーーーー!!」

 

 見ると、セラムキューブが今にもバラバラになりそうに震えている。

 

「……こうすれば…良いの…?」

 

そう呟いて、ネオはセラムキューブの制御を解いた。

 

 パキーンッ、と音を立てて、セラムキューブが分裂する。ーーー元々、ネオのセラムキューブは、複数のキューブが集まって構成されていた物だ。ソレがバラバラになった…と言う事である。

 

 

ーーーーそしてソレが、ニュウの周りを取り囲んだ。

 

 

彼の亡骸が、宙に浮かび上がる。

 

 

「………そう…。」

 

 

 ネオは手を翳した。ーーー何をすれば良いか教えられても無いのに、彼女は何故か理解できた。

 

 掌が光って、セラムキューブ達が、変形していく。ーーー内、1個が紫色に変色して、彼の胸の中…心臓のあるべき場所に埋まる様に消えていった。ドクン……と鼓動の様な音が一瞬聞こえて、彼の胸が紫色に光る。

 

 

 他のキューブは、根の様な形に変わっていく。ニュウを囲む様にして根が絡まり、織り合わさり、やがて人1人が入れる程度の繭の様な形になる。ーーーー或いは、()かもしれない。

 

 

 中にニュウを内包した繭ーーー或いは卵ーーーは、ネオのセラムキューブと同じ薄い青色をしていた。…彼女のセラムキューブで作られているから、当たり前とも言える。

 

 

……ズッッ。

 

 

ーーーー続いて、()()()()()()()()()()()()()()()。…アステールの空を覆い尽くしていた、根状構造物そのものだ。

 

 アステール側から見れば、光る根が突然〈霧の森〉の方に吸い寄せられて行く様に見えただろう。

 

 

…この根の正体は、アステールの周囲を包み込んでいた〈星のセラム〉が凝縮した物である。ーーーーつまり、莫大な量の〈星のセラム〉と言う訳だ。

 

 

 ソレが、ニュウを内包する卵に全て注がれていく。…卵の周りを星のセラムが雲の様に覆い隠し、キラキラと輝いている。

 

青い卵の表面が、()()()()()()()()()

 

 

ネオは手を翳したまま、目を瞑った。

 

 

ーーーー胸が熱い。お腹の辺りが熱い。…自分の胸に刻まれた星の紋章が、凄まじい熱を帯びて光り輝いているのが分かる。

 

…そこからまるで、()が出て伸びて、枝に変わり、身体中に伸び広がっていく様な……そんな気がした。

 

 

『…神が輪廻を創り出し、数多の命を輪に乗せた。』

 

 

 光る人影の声。神聖な儀式の最中に述べられる呪文の様に、声は唄う。

 

 

『楽園を継ぐ者よ。自らの輪廻の中に、彷徨える魂を迎えたまえ……。』

 

 

 ネオが金色に染まりきった卵に、手を差し伸べる。ーーーーまるで迎え入れるかの様に………

 

 

『ーーー今ココに、〈三位一体〉は満たされん。』

 

 

 そして、ネオは朗らかな顔で笑って囁いた。母親の様な、深い慈愛の感情を込めてーーーーーーー

 

 

 

「ニュウくん……。ーーーー()()()。」

 

 

 

ブチッ……

 

 

 光り輝く人影の腹部から、臍の緒が千切れ落ち、溶ける様に消えた。

 

 

 

『「ーーーー再誕(Re: birth)」』

 

 

 

カッ!!!!

 

 

ーーーー閃光。

 

 

 卵が勢い良く砕け散って、光が辺りに満ちる。広がる輝きが、この不思議な空間を埋め尽くし、全てを真っ白にしていく。

 

 砕け散った卵の破片が、寄り集まって元の形ーーーセラムキューブの形ーーーへと戻った。

 

 1つだけキューブを欠いた状態で、彼女の手元に戻るセラムキューブ。

 

 そして光の中から、ニュウの体がゆっくりと落ちてくる。ーーーー彼の服は、何故か消え失せていた。

 

「……っあ…はぁ…はぁ…はぁ……ニュウくん…!」

 

 まるで激しい運動をした後の様に、汗を流し、荒い息を吐きながらも、ネオは空から落ちて来る彼を抱き留めた。

 

 自分と彼を、透き通った根か何かが繋いでいる様な、そんな気がする。

 

「……生きてる…?生きてるよね……?」

 

 彼の熱を持つ肌を、ただただ彼女は抱き締めていた。トク…トク…、と心音が耳に響く。

 

 

 

ーーーーいつの間にか、不思議な世界は消え失せて、ネオは〈霧の森〉に戻って来ていた。

 

 

……地平線の彼方から、オレンジの暖かな光が差し込んで来る。

 

 

ーーーー日の出だ。

 

 

 空には、もう()()()()。…不自然なまでに大きく見えていた〈星の花〉も元の大きさに戻って、彼方の空に消え入りそうな位、小さくなって見えている。

 

……優しい風が、2人を揺らす。

 

 

 

「………あれ…?」

 

 ネオの耳元で、小さな呟きが聞こえた。ハッとなって、彼の顔を覗き込むネオ。

 

 

…彼の紫の瞳が、ゆっくりと瞬いてネオを見つめた。何が起きているか分かっていない様な、困惑の表情が浮かぶ。

 

 

「ーーーーネオ……さん…??」

 

 

 彼の声を間近で聴いて、ネオは思いっきり破顔した。…泣き笑いだったが。

 

「〜〜〜〜〜ッ!!」

 

 声も出せずに、ネオはニュウを抱き締めた。…ミシミシと彼の全身の骨が軋んでいる気がするが、そんなのはお構い無しだった。

 

「…え?ん?あ?…うぇ…??」

 

 ニュウは理解が未だ追いつかず、彼女に抱き締められるままだったが、周りの状況を見て少しずつ理解が追いついて来た様だった。

 

 

…地に横たわる連邦の兵士達。…辺り一面に散らばる戦闘機の残骸。

 

ーーーー何が起きていたかは、一目瞭然だったのだ。

 

 

「あ………。」

 

 

 全てを理解したニュウの目から、一筋の涙が零れ落ちた。

 

 あんな事をしたのに、彼女の心を酷く傷付けてしまったのに、それでも尚、彼女は自分の為に………

 

 

「あぁ………そうか……僕……僕は…。」

 

 

おずおずと彼女の背中に手を回したニュウ。

 

 

 

ーーーー〈霧の森〉に差し込む柔らかな朝日が、2人を照らし出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 ネオ:リバースモードのリバースは、reverseではなくRe: birthだったと言うオチ。

 ケテルの三位一体理論は、ここで生きてくるんですねぇ!!

 あと、やっぱりと言うか、能力設定が無茶苦茶やな。…ネオの能力盛りすぎた。
 能力は原典と同じ、物質の再構築なんですけどネ……。どう戦闘に描写すれば良いのやら…。

次回、多分4章最終話。
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