モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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63話〈それは、新たなる始まり〉

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

1月1日 時刻ーーー6:02

 

 

 

場所ーーーアステール郊外

 

 

 

…街の外れの名も無い森の中で、誰かがアステールの街を見下ろしていた。

 

 黒いTシャツに赤色のパーカーを羽織り、首にはヘッドホンを掛けてパソコンを片手に持っている。

 

髪は銀髪で、瞳は青かった。

 

「…シグナルロスト。へぇ……まさか、対新人類部隊が全滅するなんて…。驚くべき力だ。流石は覚醒新人類。」

 

 パソコンの画面を眺めながら、面白そうに呟いた人影。…声は男性のモノだった。

 

「…ま、全滅した以上、此処にこれ以上居る必要は無いかな??」

 

 彼は立ち上がる。そして、自分の後ろに控えている1機の戦闘機と、そのパイロットに向かって口を開いた。

 

「帰ろうか。…取り敢えず、作戦は失敗って事で。…ウチのスパイ君もなんか死んだみたいだし、回収も不可能。ーーーやる事はもう無いよ。」

「了解です。ーーー()()様。」

 

 パイロットの声が静かに聞こえ、戦闘機が動き出す。

 

 テラと呼ばれた男ーーーまだ少年にも見えるーーーは、戦闘機に乗り込みつつ、そっと呟いた。

 

「さて…もう、ハッキングをする必要は無くなったな。ーーーーまさか〈ノーマン〉が大量発生するなんて、思っても見なかったけど…恨まないでくれ。ーーーーコレが俺の仕事だったんだ。」

 

 彼がそう言って、パソコンを1回叩いた瞬間、アステール中の防衛システムが復旧された。ーーーーシステムにハッキングを掛けていたのは、彼だったのだ。

 

……ネオを連れ戻しに来た〈対新人類部隊〉の円滑な行動を可能にする為だったのだが、思わぬ混乱を生み出してしまった様だ。…まさかあんな異常現象が起こるなんて、思っても無かったのだから仕方の無い事だろう。

 

ーーーーまぁ、テラにとっては、アステールがどうなろうと知った事では無い。せいぜい頑張れ、と勝手な応援を心の中で呟きながら、テラはアステールを離れるのであった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「………根っこが、消えた…。」 

 

 

場所は変わってアステール。

 

 

ーーーー瓦礫の上に座り込んでいたバサラが、空を見上げて呟いていた。

 

 

「…何だったんだありゃ?」

 

 彼はおそらく激しい戦いを繰り広げていたのだろう。彼の服はあちこちが破れ、側の斬魔刀ヴァジュラも刃こぼれしている様だ。

 

 

ーーーー差し込む朝日が、頬を照らす。

 

 

「…朝、か。」

 

辺りを見渡しながら、バサラは呟いた。

 

 

…酷い有様だ。街の至る所から真っ黒な煙が上がり、ドミノ倒しの様に倒れた建物が彼方此方に散見される。

 

 空を覆う光る根が消えた事で、もうこれ以上ノーマンが生まれ出る事は無くなったが、彼等が残した破壊の痕は大きかった。

 

「酷くやられたな…。」

 

そう呟くバサラ。

 

「ーーーーアイツら、無事か?」

 

 彼は、他のイースターのメンバー達と連絡を取ろうと、胸ポケットから携帯を取り出し、画面を一眼見て顔を歪ませた。

 

「…げ。ーーーー画面割れてる……。」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「……終わっ…た??」

 

 

 此処はアステールの繁華街。ーーーー戦いの痕が色濃く残る中、ハレルヤ達は空を見上げていた。

 

 辺りにはノーマンの残骸が散らばっている。チロチロと火の手が至る所で上がっていた。

 

「…みたいね。ーーーー元の空が戻って来た。」

 

 アルセーヌが、煤の付いた顔や手を真っ白なハンカチで拭き取りつつ、答えた。

 

「……本当だ…朝日が…。」

 

 東の空を眺めて、ハレルヤはそっと呟いた。ーーーいつの間にか、朝日が昇っていたのだ。差し込む光が、今まで闇に隠れていた街を照らし出していく。

 

「凄い有様ね。……元に戻るのには、時間かかるんじゃ無いかしら…。」

 

 破壊され尽くした街を見渡しながら、アルセーヌが小さく呟く。ひっきりなしに鳴っていた警報サイレンも止み、街は死んだ様に静まり返っていた。ーーーその静けさが、寧ろ街の惨状を浮き彫りにしている気がする。

 

……何時も、絶えることの無い喧騒に包まれた街だったのにーーーー……。

 

 

 

ーーーーブブブブブ。

 

 

ふと、ハレルヤの青いコートのポケットが揺れた。

 

「…あ、電話。……バサラさんだ。」

 

画面を確認し、電話に出るハレルヤ。

 

 

 

ーーーー内容は、『取り敢えず全員集まれ。』だった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

場所ーーー〈アステール支部〉

 

 

時刻ーーーAM 6:35

 

 

 

「ハル〜!!!無事だった〜?!」

 

 

 ハレルヤが屋敷に帰り着いた頃には、もう殆どのメンバーは屋敷に戻っていた。

 

 

「うん。…何とかね。アルセーヌが一緒に居てくれてだいぶ助かったよ。…1人だったら間違い無く5回は死んでた。」

 

 屋敷のドアを開けるや否や、半分抱きつく様に飛び込んできたアミダを軽く受け止めつつ、ハレルヤは答える。

 

 

 屋敷自体は、奇跡的にもノーマンの破壊の影響を受けていなかった。

 

 仲間達も、みんなボロボロだが誰1人として欠ける事なくーーーーーーあれ?

 

 

「ネオと…ニュウは?」

 

ハレルヤの問いに、その場の全員が首を捻った。

 

「来ないんだよな。ーーー電話にも出ないし。」

 

ーーーーと、バサラ。

 

「…心配。」

 

 カノンがそう言った。…彼女の隣には、友達の少年一家が不安げな顔で集まっている。(戦いの中で、結局家が半壊した為、一旦カノンと一緒に来たのだ。)

 

「取り敢えず、死なないでくれると良いが…。」

 

 ハクビに包帯を巻いてもらいながら、アルスラーンが呟いた。

 

ーーーと、その時。

 

 

「おーい!イースター!無事か〜ッ?!」

 

 

「ん?」

「ーーー誰か来た?」

「…お、この声は…。」

 

 外から誰かが呼ぶ声が聞こえた。…うち何人かには、聞き覚えのある声だった様だ。

 

 シャイターンがそっと部屋から出ていく。そして、玄関のドアが開け閉めする音と共に、すぐに戻って来た。

 

…後ろに、オーステルンの艦長『ゼウス』を連れて。

 

 

「わ、ゼウス!?」

「おー、ゼウスの爺さん!」

 

 

アミダが驚き、バサラが立ち上がる。

 

 ゼウスはぐるりと部屋を見渡して、ニカッと笑った。

 

「無事そうだな!いやー、良かった良かった!あんだけの騒ぎがあった後だからよぉ。くたばって無いか心配だったぜ俺ぁ。」

 

「…心配どーも。ーーー態々来てくれたのか?…アンタも今大変なんじゃねぇのかよ?」

 

 バサラが空いている椅子を差し出しつつ、ゼウスに問い掛ける。ゼウスは座り込みながら、首を振った。ーーーよく見ると、彼もあちこち傷だらけだ。

 

「良いのさ、良いのさ。ーーーま、確かに面倒事はいっぱいだがな!」

 

ーーーと言って、笑うゼウス。

 

「じゃあ、手伝いに行ってやれよ爺さん。ポセイドンとか、今1番大変なんじゃねぇのか??…俺達は、あんまし気にすんな。オーステルンはあくまでも〈イースター〉を表立って支援とかはしない…その筈だろ?」

 

 バサラの軽く呆れた様な問いに、ゼウスは頷きながらも口を開く。

 

「まぁな。…だが、此処はアステール。街を挙げてイースター様万歳してる所だ。…気にするこたぁ無えよ。ーーーそれに、ポセイドンの方がこの街の事は分かってる。…正直、俺が口出しするのは野暮だったぜ。」

 

 

 そう言ってから、ふとゼウスはネオが居ない事に気付いた様だ。

 

 

「ーーーーてか、ネオ嬢ちゃんは何処だ?居ねぇみたいに見えるが……。」

「あー…。いや、それがなーーーーーー」

 

 

バサラが口を開いた時だった。

 

 

「……来たのでは?」

 

 部屋の扉付近で耳を澄ませていたシャイターンが、そう呟いた。

 

「…ん?」

 

 バサラが首を傾げた時、部屋の扉がガチャリと開いて、今誰しもが思い起こしていた人物が、部屋に入り込んできた。

 

「…あ。ーーーどうも…。」

「ーーーみんな居た。」

 

ーーーーネオと、ニュウだ。

 

 

「ーーーーネオ!ニュウ!!」

「ネオちゃん!!」

 

 バサラとアミダが立ち上がって、ほぼ同時に手を広げた。カノンやハレルヤの顔も、ホッとした表情になる。

 

 部屋に入って来たニュウは、何時ものコートとは違う白い色のコート(ネオの物。)を、体を隠す様に着ていた。……コート以外を身に付けていない様に見えるが、ズボンとかはどうしたんだろうか??

 

「あー……えーっと…。」

 

 ニュウがなんだか挙動不審だ。ネオはいつもと変わらなさそうだが、彼を見る横目に、何か決定的に違う物を感じる。

 

 2人の雰囲気が変わった様な…そんな気がして、ハレルヤが声を掛けにくくなっていると、横からアルセーヌが2人(……主に、恐らく全裸の上にコート1枚を羽織っているだけであろうニュウ。)を、ジッと見つめて口を開いた。

 

 

「なに…?()()()()してたの?」

 

「ーーーいえ。どちらかと言えば、()()()()してました。」

 

 

「「「????」」」

 

 

首を傾げる一同。…ゼウスだけ「お悲しみwww」と笑っている。

 

 その時ネオが手を挙げて、部屋の全員に聞こえるように声を発した。

 

「えっと…ちょっとニュウくんの方から、聞いて欲しい話があるの。……良いかな??」

 

「む。俺も一緒に聞いて良いやつか??席、外すべきかな?」

 

ゼウスの気遣うような問いに、ネオは首を振った。

 

「何方でも大丈夫。」

「おう、そうか。」

 

 ゼウスは聴くことに決めたようだ。彼含め、イースター全員の視線がニュウに向く。

 

 

 彼は暫く視線を彷徨わせていたが、バサラが差し出した椅子に腰掛けると、滔々と話し始めた。

 

 

 

ーーー実は、自分は連邦兵だったという事。

 

ーーー今日、自分がネオを連邦に引き渡すつもりでいた事。

 

ーーー最初から、ネオを連れ戻す目的で此処にやって来た事。

 

ーーーネオを連れ戻せば、連邦に囚われている仲間を解放できる話になっていた事、etc。

 

……彼は全てを隠さずに話し切った。

 

 

「ーーーという訳で、今に至ります。……その…突然の事で、多分混乱を生んでしまうと思いますが……そういう事だったんです…。」

 

 

 彼が口を閉じた後も、暫く誰も何も言わず、誰も身じろぎ一つしなかった。

 

(……え、なに?お通夜??)

 

 そうとまでニュウが思った所で、シャイターンが口を開いた。…手には、チェーンソーがいつの間にか握られている。

 

「やはり、貴方には連邦の息が掛かっていたのですね…。それで私達を欺いて、ネオ様を危険に晒したとーーーそうおっしゃる訳ですね…?」

 

 敵愾心露わにニュウを睨んだシャイターン。彼は暗い表情で俯くと、頷いた。

 

彼女が口を開く。

 

「…ネオ様は、貴方を信じていたのに…。私が忠告した時も、貴方の事を深く信じていたのですよ…?それなのに、それなのに……。」

 

 シャイターンは、なんだかんだイースターの仲間達を皆、大事に思っているのだ。だからこそ、彼女はニュウを赦し難かったのだろう。

 

 彼女は一歩、ニュウに近づいてチェーンソーを構えーーーー

 

 

「シャイターン。」

 

 

ーーーーアルスラーンの一言で止まった。

 

 紅の髪を揺らす彼女は、椅子の上で姿勢を正すと、シャイターンを手で下がらせた。

 

「…確かに、ニュウはネオ達を騙していた。キミが許せないのも分かる。ーーーーだが、今彼がこうして此処に…ネオに連れられて来ているのは、彼女がそうしたいと思ったからだ。少なくとも、ネオは彼を見捨てていない。……彼女の意思は尊重しろ。」

 

「……畏まりました。」

 

 シャイターンはチェーンソーを下ろす。ニュウの顔は暗い。

 

 

 机の反対側で、バサラが『なんてこった』と言わんばかりに額を押さえて首を振った。

 

「んマジかぁ……。こりゃ、一本取られたってヤツか??ーーーしっかし、連邦もひでぇ物々交換を申し込んでくるもんだなぁ。」

 

そう言って、彼は笑う。…笑うだなんて、意外だった。

 

「ま、話聞いた感じだと…お前はもうその任務を棄てた、って事で良いんだよな?」

 

頷くニュウ。バサラは続ける。

 

「なら、良いじゃねぇか。それで。…お前は()()()()()()()()()だ。ーーー今までと同じ…いや違うな……今度は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。ーーーーそれで良いだろ??」

 

「バサラさん………。」

 

 

 言葉に詰まったニュウ。ーーーまさか、こんなにあっさりと受け入れられるとは思いもしていなかった。

 

 ハレルヤ達を見ても、彼等も特に口出しなどをするつもりは無い様だった。

 

「……本当に…良いんですか…?」

 

ーーーーアミダと目が合う。彼女は軽く笑って肩を竦めた。

 

「まぁ…コレでさ、ネオちゃんが攫われてたら絶許だったけど。…ニュウ君は、それをしなかったんだから。…それに、ネオちゃんが許してるし。」

 

 その言葉に、ただただニュウは頷いて身体を震わせた。…こんな風に言われるとは、思っていなかった。シャイターンの反応の様に、もっと非難されるーーーーされて然るべきだと思っていたと言うのに………。

 

「……なんで…なんで皆んな、こんなに優しいんですか……。もっと、怒ったって良いのに……。もっと、憎んだって良いのに……。ーーー僕のした事は、それ程の物だったと言うのにッ………。」

 

 泣きながら呟くニュウ。背中にポンとネオの手が置かれたのを感じた。

 

 バサラが軽く頭を掻きながら、気遣うように口を開く。

 

「あー…まぁ、なんだ…取り敢えず服、ちゃんと着て戻ってこい。な?ーーー落ち着いたら、聞きたい事もあるからよ。」

 

 優しさすら滲むその声に、ニュウはただ頷きを返すことしかできなかった。涙が溢れ出して、頬を伝う。

 

「……それじゃ…その…ハイ。…着替えて来ます。」

「おう。ゆっくりしろ。」

 

ーーーー立ち上がり、部屋から出て行くニュウ。ネオがそっと彼の後をついて行った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー2階の廊下を歩くニュウとネオ。

 

 窓から斜めに差し込む朝日が、自分と隣のネオを照らしていた。

 

「……ネオさん…。」

 

朝日の中で、小さく呟くニュウ。

 

「…なに?」

 

 彼女は首を傾げた。朝焼け色の髪が、フワッと揺れる。

 ニュウは、自分の客室の前で立ち止まって口を開いた。

 

「ーーーー本当に貴女は僕を赦したんですか…?」

 

彼女がキョトンとした顔になる。

 

「…赦すって…貴方のやった事?」

 

「……はい。」

 

「うーーーん………。」

 

ネオは顎に軽く指を当てながら、少し首を傾けた。

 

「…ショックはショックだったけど、それって貴方の仲間の為にした事なんでしょ?貴方に悪意があった訳じゃ無い。…それに、貴方は言ってくれたから。ーーー自由で良いって。」

 

「………。」

 

「ソレが嘘だったとは、私は到底思えないの。ーーー嘘じゃ無いんだよね?」

 

 ニュウは頷いた。ーーー今までの日々は、嘘に塗り固められていた日々だった。……でも、『自由で良い』と彼女に言った言葉だけは、本心だったと自信を持って言える。

 

「…だったら良いよ。……でも、」

 

 そう言ってから、ネオは少し意地悪っぽい顔を浮かべた。

 

「ーーー後で裏切るって分かってるのに、そんなこと言って私に希望をあげちゃった罪は大きいから、責任……とってね?」

 

 どんな責任取らされるのか、ニュウはちょっと怖くなったが、取り敢えず何度も頷いておいた。

 

「分かってます。分かってます。…もし償いに死んでくれって言ったら、喜んで死にますよ。」

「……言う訳ないよ。そんなので償って欲しくなんて無いし。」

 

 真剣な、そしてちょっぴり呆れた様な声が返って来たーーーーーー。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー数分後

 

 

 

 

 コートをネオに返し、着替えを終えたニュウは、1階の応接間に戻って来た。

 

「…すいません。お待たせしました。」

「いやいや、全然待ってねーよ。安心しろ。」

 

 

小さく笑うバサラ。ーーーそして、彼は話し始めた。

 

 

「ま、取り敢えず聞いておきたいんだがよ。ーーーーニュウは作戦を辞めた……つまり、連邦から離反したって事だろ?」

 

頷くニュウ。

 

「そうですね。」

「つー事はだ。…フェムトの時みたいに、連邦兵がお前を粛清しに来るって事も、あり得る訳だよな…?」

 

 奥の方で話を聞いていた元連邦兵のフェムトが、顔を歪ませた。

 

「…あり得る。ーーーー連邦なら、絶対そうするよ。」

 

 一方で、ニュウは頷きつつも、少し違う見解を持っていた。

 

「ーーー確かに、僕は連邦の機密情報をいくつか持ってます。ーーーーたとえば、『連邦極秘研究施設』の場所…とかですかね。」

 

 キラリが「えっ。」と言った感じで顔を上げた。

 ニュウは話を続ける。

 

「…連邦としても、極秘研究施設に関する情報は、何としても隠しておきたい所ですし、離反がバレたら口止めにくるでしょう。」

 

ーーーーただ、と前置きしてニュウは話し続ける。

 

「ーーーーネオさんが、連邦部隊を丸々一個壊滅させちゃったんで、情報の伝達が多分、一旦途切れたと思うんですよ。」

 

 バサラ達(特にゼウス。)が驚いた顔になった。

 

「ーーーー強すぎだろ嬢ちゃん?!…強いとは思ってたけどよ。…1人で部隊一掃はレベルがちげぇな。」

 

 唖然として呟くゼウス。ネオはちょっと首を縮めた。

 

「…いや…。私自身でも、何であんなに戦えたのか分からなくて……。何だか、気が付いたら全部終わってたみたいな感じだった……。」

アルセーヌが顎に手を当てながら呟く。

「ーーーーやっぱり、意思の力は偉大ね。…貴女の強い感情が、貴女により高次の力を与えたのよ。」

「…意思。」

 

囁く様に呟くネオ。

 

「ーーーー僕も驚きましたよ。…僕の場合、どう考えても死んだ筈なのに、気付いたら生き返ってるんですから。…コレもネオさんの力……なんですかね?」

 

 隣でそう言うニュウ。アビスが首を傾げつつ、口を開いた。

 

「…どうでしょう。ーーーどんな力を持ってしても、死者は生き返らない筈ですが……。でも、もし死者蘇生の力が本当に有れば、それは……。」

 

 そこまで言って、アビスは口をつぐんだ。彼女の過去を聞いた事がある者として、彼女が何を思ったかニュウは分かってしまった。他の人達も理解したのだろう。皆んな黙ってしまう。

 

 少しの間生まれた沈黙を破る様に、アミダが口を開いた。

 

「……てか、ニュウ君のほんとの一人称『僕』なんだね〜。すっごいナチュラルに聞き流してたけどさ。…一人称まで嘘つく意味あった??」

「…いや、何となく…。気分で。」

 

 なんじゃそりゃ、とアミダが首を小さく振る。

 

「ーーーまぁ、兎も角。…一旦情報が途切れたので、連邦側が色々知るのは少し遅れる筈なんですよ。…すぐにどうこうって訳は無いと思います。」

「…とは言え、連邦の知る所となれば不味いだろうな。……前の様に、新人類部隊などを送り込まれると困るなぁ……。」

 

 アルスラーンがそう言った。…たったの2ヶ月前に屋敷を戦場とされた身にとっては、またそうなる可能性があるのは複雑なのだろう。

 

「ーーーーニュウよ。」

 

ーーーー今度はゼウスが口を開く。

 

「はい。」

 

 ゼウスに向き直るニュウ。……今思えば、彼に会うのはコレが初めてだ。

 

「お前はコレからどうする気だ?…話を聞く所によれば、元々囚われた仲間達の為に動いていたのだろう??…ここで辞めた事で、仲間達を助ける事は出来なくなったのでは無いか??」

「…………!」

 

 黙るニュウ。ーーーーゼウスの言う通り、元々ネオを連れ戻そうとしていたのは、仲間達を解放する為だった。

 

ーーーしかし、自分はあの時、咄嗟に彼女の方を選んでいた。…後悔は無いが、仲間達の事を諦める事は正直出来そうに無い。

 

(…だよな。…僕の仲間達は…僕を待ってるんだ。ーーー極秘研究施設で今もまだ……。)

 

…そうは思っても、果たして今の自分に出来る事はーーーーーーーー

 

 

 

「…じゃあ、コッチから迎えに行こうよ。」

 

 

 

 隣でそんな声が聞こえて、ニュウはハッと顔を上げた。

 

「つまりーーー嬢ちゃん??」

 

 ゼウスの声。発言者のネオは彼の肩を持ちながら、部屋の皆んなに聞こえるように言葉を続ける。

 

「ーーーーずっと囚われてて、今も助けを待ってる人が居るのなら、コッチから行けば良いでしょ??…ニュウくんは、極秘研究施設の場所を知ってる。ーーーそして、今ここにはイースターが全員揃ってる。」

 

「アレか。……カチコミかけるのか。連邦極秘研究施設に。」

 

バサラがネオの意を汲んで呟いた。ネオは頷く。

 

「うん。……ただ、コレをすると〈イースター〉は、本格的に連邦と敵対する事になる。…今までは、お互いに手出しせず睨み合ってた状態だった。でも、コレをすれば均衡は崩れる事になってしまう。」

 

「あぁ…。まぁ、確かにね。」

 

…と、ハレルヤ。

 

ーーーーだけど、と前置きして、ネオは話し続ける。……この場にいる誰しもが『ネオってこんなに喋る人だったっけ?』と思う位には、今の彼女は饒舌になっていた。

 

「ーーーーイースターが本来するべき事って…多分コレなんだと思う。…連邦の体制に反し、新人類の為に動く事……コレが本当にするべき事なんだよ。ーーーー私達は、ちょっと立ち止まり過ぎてた。……そんな気がするんだ。」

 

 そう言うネオの脳裏に過るのは、かつて地下世界で相対した天聖ケテルが、自分に向けて言い放った言葉だった。

 

ーーーーイースターは新人類の為に、何もしていないーーーと、あの男は言ったのだ。

 

 その時は否定していたけれど、確かにそうだったのかも知れない。…イースターの名は、確かに抑止力にはなっていた。アステールの解放でイースターの果たした役割は、大きいだろう。

 

 でも、それだけだ。ーーー世界にはまだ、解放されていない新人類の街がある。解放されて居ない新人類達がいる。…ニュウの仲間の様に。

 

……もしかしたら、今が全てを変えるチャンスなのでは無いだろうか??

 

 

「ーーーー嬢ちゃん……。」

 

 ゼウスの感心したかの様な声がする。

 彼の方を向き直ると、彼は笑って居た。

 

「くくっ。はっはっはっは……一昨日の俺と同じこと考えてやがる。…俺もな、実は今言おうとしてたんだよ。『助けに行ってみないか?』ってな。」

「マジかよ爺さん。ーーーーあんた、良いのか?…俺達が連邦とコトをマジで構えたら、1番危険に晒されるのは〈オーステルン〉だぞ?…俺たちの拠点なんだからな。」

 

 バサラの問いに、ゼウスはやや複雑な顔をしながらも、頷いて見せた。

 

「…それについては、コトが起きてから考えるさ。迷ったらやってみろ…ってな!ワッハッハ!!」

 

アルスラーンがため息を吐いた。

 

「…やはりと言うか…盤石な統治者には、余り向いていないお方だな。ーーーだからこそ、オーステルンを生み出せたのだろうけども。」

 

ゼウスがガハハと笑いながら口を開く。

 

「そうそう。よく言われるぜ!…あの〈ティタノマキア事変〉も、ぶっちゃけノリと勢いでやったもんだし、今回もなんとかなるぞ!多分な!」

「あの世界を震撼させた事件が、ノリと勢いって……。」

 

 フェムトが若干引いたように呟いたが、ゼウスは気に留めない。

 

 一方でニュウは、首を勢い良く振りながら口を開く。

 

「ーーーーい、いや…有難いですけど…正直言って、無茶苦茶難易度高いですよ。…そもそも、場所が場所ですから。」

 

キラリが身を乗り出して尋ねる。

 

「何処なの??…極秘研究施設の場所って。」

 

ーーーーニュウは何も言わずに、指を天井に向けた。

 

「……?」

 

 首を傾げた彼女に、ニュウは告げる。…極秘研究施設の場所を。

 

 

「ーーーー()ですよ。…()()2()0()()()()()()()ーーー空の果て……どんな移動要塞よりも高い場所に有るんです。ーーーー連邦極秘研究施設〈飛行型移動要塞タルタロス〉が。」

 

 

「ーーーー空ぁ?!」

 

アミダがビックリした様に口を開いた。

 

「えぇ!!ーーー飛んでんの!?移動要塞が?!」

 

アルスラーンが納得いった様に呟く。

 

「空の果てを飛ぶ、タルタロス(地の底の果て)か…。地上をどれだけ探しても、見つからない訳だ。ーーーとなると、行くには飛行機が必要だな。」

 

「ほう…だったらイースター号が使えるか?」

 

バサラの声に、ニュウは首を振った。

 

「…アレでは無理ですね。ーーー仲間達は、あそこに200人近く居るんです。イースター号には、詰め込んでも30人位しか乗れないですよね?…あと勿論、セキュリティも半端では無いですし、イースター号じゃ接近も不可能ですよ。」

「ーーー確かになぁ…。可哀想なイースター号…お前の出番、あの1話だけかぁ()」

 

「ん〜、となると…200人近く入れる、この支部レベルの大きな飛行船が必要…と。」

 

ゼウスが顔を顰めた。

 

「ーーー貨物輸送用航空機ならいっぱい乗るし、いっぱい有るが……いかんせん、ただの輸送機だからなぁ…。」

「無えか…。だよな…そんなモン、容易く見つかる訳無いよな。」

 

ーーーたくさん人が乗れて、(…できれば、このイースター支部の屋敷と同じ位の広さが好ましい)空を飛べて、研究施設のセキュリティをくぐり抜けられ、かつ戦う事も可能な飛行船は無いのだろうか??ーーーーいや、無いんだr……

 

 

「ーーーー有るわよ。」

 

 

アルセーヌがボソッと呟いた。

 

「有るんかい!!!」

「有るのかッ!!!」

「有るんですか!?」

 

バサラ達が揃って突っ込む。

 

 アルセーヌは、なんて事はない様に、窓から見える街の外れを指差した。

 

「私が、ナニでこの街に来たか忘れたのかしら?……私の〈奇厳城(エギーユクルーズ)〉なら、全ての条件を満たせるわ。…何せ、城なんだから。200人位は、お宝のけて詰め込めばなんとかなるし、飛行能力も備わってる。…あと、防衛設備も有るわよ。簡単な物だけど。」

 

「いや……神?」

 

ニュウの呟きに、皆が一斉に頷いた。

 

「あと、それにーーーー」

 

…コレは言うつもりなかったけど、とアルセーヌは言ってから言葉を続ける。

 

「…最近、『偽装コクーン』なる物を、裏ルート()で手に入れたのよね〜。まだ使ってないけど、コレって使えるかしら?」

 

「天才ですか?」

 

 ニュウは、もうそれしか言えなかった。裏ルートってなんだよ…とか、偽装コクーンって連邦の最新技術じゃなかったっけ?技術流出してね?…とか、色々ツッコミ所は有ったが、兎も角にも、求める物が最高の形で現れたのだ。ーーーー使わない手はない。

 

 

「なら決まりだな。」

 

バサラが、すっくと立ち上がって口を開いた。

 

 

「……俺たち〈反連邦団体イースター〉は、コレより連邦極秘研究施設〈タルタロス〉に囚われている同胞解放の為、〈タルタロス〉へ向かう。ーーーコレは実質的な宣戦布告みたいな物だ。……気ィ引き締めて行くぞ。」

 

 

 

 彼の声に、その場の誰しもがーーー特にネオがーーー強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







此処から、世界は変わりだす。



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