風邪ひいた()
◇◆◇
ーーーー廊下を走る固い靴の音が、幾重にも木霊する。
見慣れた無機質な白い廊下は、今は赤い警告灯に照らされていた。道中を塞ぐ扉は、全て解放状態になっている。
「ーーーー止まれ止まれ止まれぇ!!!」
そんな廊下の向こう側から、武装した兵士達が飛び出してきた。
「このタルタロスに乗り込んで、無事で帰れると思うなよっ!?」
そう叫んで銃を撃って来る兵士たち。
「むだ。」
「そこを通しな!」
「退きなさーーーいッッッ!!」
ーーーーしかし、彼等は一瞬の内にイースターの全員から攻撃を返されて全滅する。
「ニュウ!…道が分かれてる!どう進めば良い?!」
…沸き立つ煙を突っ切りながらバサラが声を上げる。
「僕に着いて来てください!!…もしも逸れたら、壁に[リンボ]って書いてある所を目指せば良いです!」
アルスラーンが走りながら呟いた。
「リンボ……。そこにニュウの同胞が?」
「ええ。…新人類収容区域の事を、連中はそう呼ぶんです。」
「…なるほどな。」
ーーーー立ち塞がる警備兵たちを薙ぎ倒しながら進むニュウ達。
…奥へ行けば行くほど、タルタロスの構造は複雑になっていく様だった。
そして、相手の攻撃も激しくなっていく。
「ーーーー被弾するなよ?…私の回復の力は、常に発動するわけでは無い!」
アルスラーンが弾丸の雨を捌きながらそう言った。
「分かってる!」
ニュウたちは、タルタロスの警備兵達と応戦を続けるーーーー
◇◆◇
(一方、コントロールルームでは。)
「ーーーーイースター、全員がR18番ゲートから第3アケロンを通過!……リンボへ向かっています!!」
「…ゲートが未だ閉じない!…部隊を使ってリンボ周辺の警備を固めるんだ!!」
騒がしい室内。ーーーーそこでは、連邦職員が警備隊に指示をひっきりなしに出していた。
そんな室内に、1人の男が入り込んでくる。……銀髪に青い瞳。赤いフード付きのパーカーを被ったその男は、静かにパソコンを取り出すと画面を叩いた。
ーーーータンッ。……と言うキーボードの音がした瞬間、タルタロスのシステムの一部が復旧する。
「…カ、カスパー復旧!!…コレはーーー」
職員が驚いた様に振り向く。ーーーーその視線の先には……
「…テラ様!!!!」
銀髪の男ーーーー連邦のハッカー『テラ』は、パソコンを叩いたままニヤリと笑った。
「…実に幼稚なハッキングさ。ーーーー君たちは侵入者の対処を続けな。……このハッキング野郎とは、俺が戦う。」
そうテラが言ったと同時に、タルタロス内部の隔壁が全て閉じた。ーーーーカノープスのハッキングが解除されたのだ。
「おお!ゲートが閉じた!!コレで脱走の心配は無くなるぞ!!」
喜ぶ職員の前で、テラはキーボードを高速で叩きながら口を開く。
「ーーーさてさてさて……下手人はーーーーアイツか。…俺とハック勝負…やろうぜ??」
ーーーー彼の瞳がギラリと煌めいた。
◇◆◇
ハレルヤとカノンの前で、暗闇に沈黙していたタルタロスに、再び灯りが宿った。
ゴウゥ…………ン。
息を吹き返したかの様に、タルタロスの鋼鉄の機体が震える。
「…なんか、復活して無い??」
ハレルヤの問いに、カノンが頷いた。
「……うん。明るくなった。」
2人がタルタロスを見守る中、〈
「…私のドローンが何個か墜ちた!……逆ハックを受けてるよ!!」
サテライトの悲痛な叫び。ーーーカノープスはPCを叩く手を止めない。…コチラもハッキング攻撃を受けているのだ。
「ーーーー相手のハッカーが出て来やがったな!?…向こうのシステムのうち、内部のシステムの一部が奴らの手の内に戻った!…なんならコッチが攻撃されてるぞ?!」
「…むぅ。カノープスから、ここまであっさりとシステムを取り返すなんて…!…そんなに凄い使い手が向こうに??」
カノープスが口を開く。
「聞いた事がある。ーーー連邦には、とある天才ハッカーが1人いると。……ソイツの名前は『テラ』またの名を『T』!!ーーーー間違い無い!ヤツが出て来たんだ!!」
「な、何それ大丈夫?!」
サテライトの心配そうな声に、カノープスは獰猛な笑みを見せた。…頬に微かに冷や汗が流れど、彼は怖気付いて居ない。
「ーーーーさぁな!だが、丁度良い機会だ!!…天才ハッカーを倒して、俺が真の天才ハッカーになる為のなぁ!!!!」
カノープスは画面の向こうに叫ぶ。ーーーー通話を繋いでいるわけでは無いので、声が聞こえる事は無い。…しかし、カノープスは声を大にして叫んだ。……挑戦する様にーーーー
「ーーーーお前との勝負!!受けて立つぞ!!テラぁぁぁぁ!!!!」
ーーーーその言葉が聞こえた訳では無い。……だが、テラはタルタロスのコントロールルームで微笑んだ。
「…良いね。ーーーー来いよ!」
同時にキーボードを叩き出す2人。戦いは、目に見えないところでも起きているのだーーーーーーー
◇◆◇
一方その頃、タルタロスの一室。
「……遂に、この時がきたのか…。」
1人の男が、モニターを見詰めて呟いていた。
ーーーーモニターには、キラリが映り込んでいる。
「…No.4815、キラリ……。自由を得る事が出来たんだな。良かった…。」
ーーーー男の名は、アンソニー・D。…連邦の研究者である。
「…それに、ニュウとネオ…か。ーーーーしかし、能力の一部がデータに無い…コレは……。」
モニターを見ながら呟いたアンソニーは、そっと指をモニターに滑らせた。
「…私は償わなければならない。ーーーー連邦が君達にして来た事を、最後に償わせてくれ…ネオ。」
彼の呟きは部屋に消えたーーーーーーー。
◇◆◇
「…ふふふ。ーーーまさか向こうから来るとはなぁ…。」
タルタロスの研究室にて、フォリーは呟いていた。…隣には助手のソワンが控えている。
「…今回ここに来たのは、
…そう言って、机の上に置かれている、液体が満ちたガラスケースを叩くフォリー。
中には、心臓(ーーーケテルの心臓だーーー)が、浮かんでいる。……ケースに満ちた液体の中で、それはまだ生きている様に鼓動を繰り返していた。
ーーーー心無しか、その鼓動が速くなっていく様に思える。
「…ふふ…。感じているのか?ネオの気配を……。まぁ、歪とは言え『片割れ』の様なものだからな。」
ケースに触れながら、呟くフォリー。ーーーーそして、彼は動き出す。
「…ソワン。ーーー格納庫にある[エール・ソレイユ]にコイツを積み込め。…何時でも出せるようにしておくんだ。」
「了解デス!博士!」
フォリーは研究室の扉を開いた。
「ーーーーさて……ここから全てが始まるのだ。連邦の時代は終わる。私は私の道を行かせて貰おう。」
彼は歩き出す。……ただ、己の目的の為にーーーー。
◇◆◇
(ニュウ視点)
「…皆んな、扉が閉じてる!」
先を行くアミダが叫んだ。見ると、目の前を重厚な金属の扉が塞いでいる。
「…!リンボまであと少しなのに…!」
歯噛みしたニュウ。ーーーー更に、扉の前には天井に触れる位の大きさの、ずんぐりとした影が立ち塞がっていた。
頭部らしき場所には、横向きにツノのような物が付いており、胸には3つの瞳のマークが描き込まれている。見た目は人型だがーーーー…。
「ーーーー何だアイツ?!…人じゃねぇな!」
バサラが叫ぶ。ーーーーニュウはその影に見覚えがあった。
「…アレがタルタロスの警備ロボットです!!名前はーーーー」
…扉の前の影が動き出す。…頭部に紫色の単眼を思わせる光が宿った。
「ーーーー『ザーギン』!!」
ーーー次の瞬間、ニュウ達目掛けてザーギンがビームを頭部から放って来た。
ーーードキューーーーーーンッ!!
ビームは、避けたニュウ達の真後ろの壁に当たって、爆発が起きる。今ので廊下の一部が融解した様だ。
「…おいおい。自分達の建物壊して良いのかよ?」
避けたバサラがそう呟いた。ザーギンはコチラに素早く接近してくる。ーーーしかも一体だけでは無い。廊下のあちこちから、ザーギンが大量に飛び出して来たのだ。……まるで、ラピュタの機械兵が現れるあのシーンの様に。
「わ!いっぱい来たぁ?!」
アミダが驚く。……ニュウたちは、廊下の真ん中に追い詰められてしまった様だ。
『…………!!』
物言わぬ機械であるザーギン達が、一斉に飛びかかってくる。
応戦するニュウ達。…しかし、ザーギンの物量に押されてメンバーが分断されてしまった。
「く…皆んな!」
叫んだニュウに向かって、バサラの声がザーギンの向こうから聞こえて来た。
「ーーー兎に角、先へ行け!!…俺たちも別々にリンボを目指す!」
「しかし……」
ーーーーここで分断されてしまっては、連邦の思う壺なのでは無いか。とニュウは思ったが、何か言う前にネオが自分の腕を引っ張った。
彼女の瞳と視線が合う。
「…行こう!ニュウくん!ーーーー相手がニュウくんの仲間達を、手の届かない所へやる前に!」
「…!!」
…一瞬躊躇いかけたが、ニュウは強く頷き返した。ネオの言う通りだ。ーーーー連邦に逃げられたら、そこでお終いなのだから。
ーーーー目の前には立ち塞がるザーギン達。それらに向かって、ネオが武器をファンネルの様に投擲する。
ガキィンッ!!
ザーギンの体に剣が突き刺さり、ザーギンが仰け反った。
「…ん。凄く硬い…!」
ネオが呟く。隣でニュウが頷いた。
「ええ!…ザーギン達は新人類制圧用に作られた存在ですから!……並みの新人類じゃ、20人束になっても敵いませんよ!!」
「なるほど…。」
ネオが納得した様に頷いて、手を前に突き出した。
ーーーー突き出された手の前の空間が、青い光と共に歪んで、光の中から棺桶の様な大剣が飛び出して来た、
「それが…コフィンブレード…!」
ニュウが感心した様に呟く。…実物を見るのは初めてだ。
ネオはコフィンブレードを両手で掴むと、一気に振り上げる。ーーーー彼女の身体を、光り輝くオーラ[パワーオーラ]が包み込んだ。
「ーーーこれなら…斬れるかな?」
そう呟いたネオは、ザーギンの群れに突っ込んでいく。…迎え撃つザーギン。
振るわれる鋼鉄の剛腕を躱し、コフィンブレードを振り下ろす。ーーーー並みの攻撃では傷一つ付かない筈のボディが、豆腐の様に斬り落とされた。
ガシャアンッ!
縦半分に分たれて廊下に倒れるザーギン。その奥からもう一体のザーギンが飛び出そうとしてーーーー
ゲシッッ!!!
ーーーーネオの足で蹴り飛ばされた。更に、彼女の足は電撃の力が纏われており、ザーギンの体にスパークが纏わりつく。
その電撃は他のザーギンにも伝導して行き、あちこちからスパークが散る。
電撃に当てられ、動きの鈍ったザーギン達を次々と斬り捨てて行くネオ。
その様子を見ながら、ニュウは呆然と呟いた。
「おぉ…すげぇ。ーーーザーギンってこんなに弱かったっけ…?いや、ネオさんが強すぎるのか…。」
…そう納得して、ニュウはネオを追う様に先へ進む。
『……!!!!』
ザーギン達が、行かせないと言わんばかりに四方八方から攻撃をして来る。それらを躱し、反撃しながら進む2人。
ーーーーーーーガシッ!!
「っ!」
ネオの振り回したコフィンブレードが、1体のザーギンに横から掴んで止められた。間髪入れずに、別のザーギンがネオの身体をその剛腕で捕まえる。
「……わっ。」
持ち上げられるネオ。ーーーーザーギンが彼女を握り潰そうとして……。
ーーーードキューーーンッ!!
その両腕が弾丸に貫かれた。ネオを取り落とすザーギン。ーーー地面に落下するネオを、滑り込んできた影が優しくキャッチした。
…ニュウだ。
「…ニュウくん!」
「ーーーー大丈夫ですか?!」
彼に抱えられたまま、頷くネオ。
「うん。……でも、今のは…ニュウくんの…?」
ニュウは微笑んだ。
「えぇ。…アビスさんが言ってましたよね。ーーー俺にも、新しい力が宿ってる…って!」
「……!」
目を見張るネオ。
ーーーー彼の彼女を抱える手とは反対側の手に、今までの彼の武器とは異なる見た目の、新しい武器が顕現していたのだ。
洗練されたシャープな見た目で、微かにスパークを宿した銃身を持つ、その武器の名はーーーーーーー
「ーーーー『レールガン・モード』。……俺の獣神化能力の一端です。」
ちょっぴり自慢する様に、ニコッと笑うニュウ。…そして、ネオをそっと床に下ろすと彼女の剣を鹵獲したザーギンに狙いを定め、引き金を引いた。
次の瞬間、放たれた光速の弾丸がザーギンの頭部を貫通して、地に伏させる。…余りの速さに、弾丸の通った場所が歪んで見えた。
ズシンッ!と音を立てて、ネオのコフィンブレードが廊下に落ちた。…それを拾い上げるニュウ。
「…うわ。重っっ?!ーーーーこんな重たい物、よく軽々と振れますね…!?」
「ーーーーバフ掛けないと無理だけどね。」
そう言ってコフィンブレードを受け取るネオ。ーーーバフとは、パワーオーラの事だろうか?
『………。』
態勢を立て直した2人の前に、ザーギン達が壁の様に並んで立ち塞がる。
ネオとニュウは、其々の武器を構えた。
「あと、どれぐらいでリンボに着けるの?」
「…もうすぐですよ。ーーー
ネオは頷いた。
「分かった。ーーーーじゃ、行こう。」
「えぇ。ーーーー行きましょう!」
障害を排除しリンボへ辿り着く為に、2人の戦いが始まるーーーーーーーー。
◇◆◇
…一方、場面は変わってバサラ達。
「…馬鹿みたいに硬いなコイツら!!」
バサラが呆れた様に叫んだ。ーーー彼らの前には、ザーギン達が立ち塞がっている。
「アビスとアルスラーンとも別れ別れになっちまったし…。ちょっとキツイぜ…コレは。」
隣でアミダが頷いた。
「…私のインフィニティブレードでも、相当切らなきゃ行けないの大変…!」
「…私の矢も、あんまり効果が無いみたいだよ…。」
キラリが汗を手で拭いて呟く。
「…とは言っても、コイツら倒さなきゃ先に進めないからな。」
「…うん。そうだね。ーーーーやるしか………」
ーーーーそこまでアミダが言った時、ふとザーギン達の間から、彼等のモノとは違う攻撃がバサラ達に襲い掛かった。
「…ッ!!危ねぇ!!」
…咄嗟にアミダとキラリを庇う様に動くバサラ。ーーー彼の周りに、緑色の閃光が飛び散る。
「ぐはっ?!?!」
その閃光に撃たれて吹き飛ばされるバサラ。
「バサラさんッ!?」
キラリがバサラに駆け寄る。一方でアミダは、その閃光が飛んできた方角を睨み付けた。
ーーーーザーギン達の間から、誰かが進み出て来る。
「…あら。纏めて倒せたら良かったんだけど。」
進み出て来た人影が、そう呟いた。……女性の声だ。
アミダが自らの剣を構えて、その人影と対峙する。
横でキラリが小さく囁いた。
「……気を付けてアミダちゃん…。今までの警備兵とは違う。」
頷くアミダ。
「分かってる。」
その囁きが聞こえたのか、その人影は少し挑発する様なポーズを取った。
「ーーーー当たり前よ!…随分と好き勝手してくれたみたいだけど、ここからはそう上手くは行かせないわ!!」
彼女はザーギン達の前に立って、アミダ達に指を突きつけた。
「私の名は、エーテル!!ーーーー連邦の狂える契約者、タルタロスの門番よ!!」
彼女の側に、緑色に輝く球状の〈セラムキューブ〉が現れたーーーーーーーー。
◇◆◇
ーーーー場面はまた変わって、アルスラーンside。
「ふん!!」
ベコォンッッ!!ーーーーと音を立てて、ザーギンが壁を突き破って吹っ飛ばされて行く。
突き破られた壁に空いた穴を潜り抜けて、アルスラーンは広間の様な場所に辿り着いた。因みに、ザーギン達に追い立てられている内に、アビスとは逸れてしまっている。
……壁を抜けた先に有ったのは、あちこちに奇々怪々な機械類が並び、赤い警告灯が一定間隔で点滅を繰り返している場所だった。
「……ふむ。まるで趣味の悪い研究室だな…。」
そうアルスラーンが呟いた時、奥からせせら笑うような声が聞こえて来た。
「ははははは。……確かになぁ。」
「ーーーー!!!」
身構えるアルスラーン。ーーーー彼女の視界の先から、1人の男が歩み出てきた。
彼は真っ赤な髪の毛を右目を覆う様に伸ばし、黒いマントに身を包んでいる。
「…誰だ。」
そこそこの美男子然とした顔に、その美しさを帳消しにしてしまう程の、獰猛な笑みを浮かべて立っている男。……彼は、アルスラーンの誰何にニヤリと笑って答えた。
「ーーーー名前を聞かなきゃ戦い始められねぇのか??…まぁ良い。知りたいなら教えてやろう。」
バサッと彼はマントを靡かせて両手を広げる。ーーーー身体の左側が、まるで赤熱しているかの様に真っ赤に染まっているのを、アルスラーンは見た。
「俺の名は、ニルヴァーナ!!!ーーーー連邦の爛れし闘神、タルタロスの凶兵だ!!!……さぁ、愉しもうぜ?!」
アルスラーンの前で、ニルヴァーナは両手に拳銃を持つと、その銃口を彼女に向けたーーーーーーーー。
◇◆◇
ーーーーまたまた場面は変わり、アビスside。
「……?此処は…?」
ザーギン達に追われ、アルスラーンと逸れた先でアビスが辿り着いたのは、会議室の様な所だった。ーーーーと言うか、そこは実際に会議室だった。
オンライン会議用の大きなスクリーンが壁に取り付けられており、その方向を向く様に椅子と長机が並んでいる。
ーーーーそしてそのスクリーンのど真ん中に、この場には不釣り合いな物があった。
…其れは、まるで氷で作られた椅子の様な物だ。しかも、上に誰か座っている。
「……誰ですか?」
アビスの誰何に、椅子の上に座り込んでいる人影がスッと立ち上がった。
カシャリ……と氷が崩れる様な音がして、その人影が歩き出す。
「……!」
辺りの温度が一気に下がった気がして、アビスは思わず体を震わせた。
「……イースターのアビス…だな。」
人影が呟いた。ーーーー彼の手の中にセラムキューブが現れ、一本の刺股に変わる。…刺股に付いていた鐘がカラ…ン、と鳴った。
「ーーーー貴方は?」
アビスは身構えながら、再度誰何した。その人影は顔を上げる。ーーーー氷の様に冷たい眼差しが、アビスを捉えた。
「……私の名はコキュートス。ーーーー連邦の堅氷、タルタロスの看守さ。」
…アビスの前に立ちはだかるコキュートス。彼の名乗りと同時に、周りが凍り付いていくーーーー。
◇◆◇
(ニュウ視点)
ーーーー最後のザーギンが爆散して倒れ伏す。
「コレで最後?」
コフィンブレードを軽く振って、ネオは呟いた。ニュウは頷く。
「えぇ。……ひとまず、最初の難関はくぐり抜けた様ですね。」
戦いが終わり、静かになった廊下を歩く2人。ニュウは廊下の壁に書かれた文字を見て、そっと呟く。
「…リンボまであと少しです。恐らく、向こうも警備を固めているでしょうから、気を付けて下さい。」
「うん。分かってる。」
互いに警戒しながら廊下を歩き続けるニュウとネオ。ーーーー曲がり角を曲がった瞬間、銃弾が飛んで来た。
「っと!!」
慌てて飛び退るニュウ。ーーー弾丸が床を穴だらけにしていく。
「やっぱり、待ち伏せされてますね。ーーーーリンボには簡単には行かせない、と言う事ですか……。」
「…無理やり突破出来るかな?」
「ま、ネオさんなら可能でしょうね。……向こうの弾切れを待って行きましょう。」
そう呟いたニュウ。……しかし、廊下の向こうからの銃弾の雨は直ぐに止んだ。
「……?静かになった??」
早すぎる静寂の訪れにニュウが首を傾げる。ーーーーすると、廊下の向こうからコチラに語り掛ける声が聞こえて来た。
「ーーーー出てきて良いぞ。」
「…?」
恐る恐る角から顔を出すと、床に倒れ込んだ兵士の姿が目に入った。その背後に立っているスーツ姿の男もーーーー
「……誰?」
ネオがニュウの隣から、声を掛ける。
スーツ姿の男は静かに答えた。
「私はアンソニー・D。……君達に危害を加える気は無い。ーーーー私と一緒に来てくれ。…私なら、君たちの助けになれる。」
「「ーーーー??」」
ニュウとネオは顔を見合わせたーーーーーーーー。