モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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アンソニー・Dさん、6話以来の登場やな。…彼の存在忘れかけてたよ。




69話〈天空決戦〜解放〜〉

 

 

 

「…何故、私達を助けようと…?」

 

 ネオが警戒を解かずにアンソニー・Dへ話しかける。

 彼は手を軽く上げた。

 

「ーーーーそれが償いだからだ。……罠を警戒しているのなら心配無用。私1人で仕掛けれるトラップなど、此処には無い。」

 

「……どうする?」

 

 ネオがニュウの顔を見て、尋ねて来た。ニュウは少し思案してから頷く。

 

「…良いんじゃないですか?ーーーココは話にノっておきましょう。」

「……分かった。」

 

 2人は意見を纏め、アンソニーに向き合う。

 

「…で、具体的には何を?」

 ネオの彼への問いに、アンソニーは手招きした。

「…案内する。ついて来て欲しい。」

 

 歩き出すアンソニー。2人はその後へ続く。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 何回か廊下を曲がり、扉を抜けて進んでいくと、やがて研究室らしき一部屋にたどり着いた。

 

「…入ってくれ。」

 アンソニーに手招きされて部屋に入る2人。

「……今更ですけど、僕達を勝手に連れて来て貴方は大丈夫なんですか?ーーーー立派な利敵行為なのでは…。」

 ニュウの問いに、アンソニーは部屋の椅子に座り込みながら、自嘲気味に口を開いた。

「ふふ…今更だな。だが大丈夫だ。…自分のしている事がどんな行為か位、理解出来ているさ。」

 ニュウは肩をすくめた。

「ーーーーそうですか。まぁ、なら良いです。」

「…座るか?」

 アンソニーは手で向かい側の椅子を指し示して来たが、2人は断った。

「いえ。このままで。」

「そうか。…では先ず、自己紹介から行こうか。ーーーー私は連邦の研究員『アンソニー・D』…短い間だろうが、宜しく頼む。」

 

 次にネオが口を開いた。

 

「…貴方が研究員なら知ってると思うけど、ネオです。」

 ニュウも一応挨拶しておく。

「ニュウです。ーーー知ってると思いますが。」

 アンソニーは頷いた。

「あぁ。……前に此処の警備をしているを見た事がある。今は人員も入れ替わったがな。ーーーーま、良い。時間もあまり無い、早速本題だ。」

 

 そう言ってから、アンソニーは椅子の上で姿勢を正し、真剣な声で話し始めた。

 

「……では、私が君達に出来る事を伝える。ーーーー残念ながら、私の[研究議会]での権限は低くてね。何でも出来る訳じゃない。…だが、助けになる筈だ。」

「構いませんよ。内部からの助けは貴重ですから。…コレは良い意味で、予想していなかった事ですし。」

「……だろうな。」

 

 アンソニーは微かに笑った。そして続ける。

 

「……先ず、私なら逃走経路の確保が出来る。ーーー格納庫の輸送機を使うと良い。…アレなら、沢山の人を乗せられる。君たちの目的はリンボの新人類解放なのだろう?ーーーどんな逃走方法を計画していたのかは知らないが、格納庫の輸送機を使えば沢山の人を乗せられる。」

 ニュウは頷いた。

「…あぁ、なるほど。ーーーーそれは助かりますね。」

 

 続いて、アンソニーは指を2本立てる。

 

「ーーーー次に、内部からのコントロールルームへのアクセスだ。…私はザーギンを止める権限を持たないが、監視カメラと隔壁へのアクセスなら可能だ。コレでリンボまでの扉を全て解放出来る。」

 

 そう言ってから、彼は手を下ろした。

 

「ーーーー後は、内部情報の伝達と言ったところかな。……今の内に知りたい事があるのなら言ってくれ。答え得る限り、全て答えよう。」

 

 ニュウとネオは顔を見合わせた。…ネオが、自分には何も無いと言う様に肩をすくめたので、ニュウは此処に侵入した時からずっと気にしていた事を彼に問う事にした。

 

「ーーーーリンボの皆んなは……元気ですか…?」

 

 脳裏に浮かぶ沢山の顔。……自分が此処を離れている約4ヶ月の間に、彼彼女等の身に何か起きてはいないか、皆んな元気なのか、それとも『終了』されてしまった人も居るのか、ずっと彼は気になっていた。

 

 アンソニーは微妙な顔になる。

 

「ーーーーここ最近、連邦は『新人類の覚醒実験』を進めていた。…正確にはDr.アビド氏が1人でしていた様な物だが……。その所為で、かなりの新人類が実験体になってしまった。ーーーー数は減ったよ。残念ながら。」

「………。そう、ですか……。」

 

 ニュウは見るからに項垂れた。……彼の手が震えているのにネオは気付く。

 

「…ニュウくん。」

 

 そっと彼の肩に手を置いた時、アンソニーが床に目を落としながら、話し始めた。

 

「…今まで行われて来た実験の中でも、特に非道い実験だった。ーーーー同じ場所にいながら、私は止められなかった……すまない。どんな非難も受けるよ。」

 ニュウは小さく首を振る。

「ーーーーいえ。……大丈夫です。」

 

 思う所はある。…だが、今は言うべき時じゃ無い。ーーーなにせ、あと少しで囚われた皆んなに手が届くのだ。全て終わった時に、この人とは話そう。

ーーーーそうニュウは思って、アンソニーに頭を下げた。隣でネオがふと口を開く。

 

「…覚醒実験…って、何??」

 

 アンソニーは手を組んだ。

 

「……端的に言えば、君の様な存在を作り出す事だ。ーーーー全ての新人類は、潜在的に力が眠っている。それを引き出す方法を模索するのが、覚醒実験。ーーーーだが、実験などしなくとも君は覚醒に至った様だがな…。」

 ネオは自分の手を見つめた。

「ーーーー私、覚醒してる…ってこと?」

 

 アンソニーは頷く。

 

「ああ。…連邦にあった1年前の君のデータと、今の君の能力には相当差がある。ーーーー覚醒新人類であると見て、間違いない。」

 

 彼は机の上のタブレット端末を手で動かしながら、言葉を続ける。

 

「……今の君をアビド氏が見たら、狂喜乱舞する様な性能だ。完成された新人類が、更に覚醒し、文字通り世界最強にして最高の人類が生まれた。ーーーーそういえば、アビド氏はどうなったんだ?…君たちがここに居ると言う事は……」

 

 アンソニーの問いに、ネオは静かに答えた。

 

「私が…殺した。」

「そうか。」

 

 たった一言呟いて、アンソニーはタブレット端末に目を戻す。

 

「ーーーーだろうな。まぁ、因果応報だろう。…私も受けるべき報いだがね。」

 そう言うアンソニーに、今度はニュウが問いかける。

「…結局、『完成された新人類』ってなんだったんですか?ーーー何を持って、完成なんです?」

 

 アンソニーは首を振った。

 

「…ただの根拠の無い話だ。ーーーー連邦は研究によって、新人類という存在の理論上の最大値を設定した。それに最も近いのがネオだった…と言う事に過ぎない。……〈星痕〉が齎す〈星の花〉ーーーー今はもう〈アメノミハシラ〉だったなーーーーのシグナル受信。〈セラムキューブ〉の複雑化に、〈星のセラム〉の浄化能力など。……君自身の研究自体、その特殊性から殆ど進んでいないのが現状だな。」

 

 そう言って、アンソニーはタブレット端末をまた机に置く。ネオは暫く黙っていたが、やがて小さく呟いた。

 

「……星の花の…シグナル…。」

 

 彼女は自分の胸……星の形のアザが浮かぶ所に手を当てた。そして、自分の中で何かを納得したかの様に頷き呟く。

 

「そっか……それが歌の正体だったんだね…。」

 

 アンソニーは肩をすくめた。

 

「…結局、なんのシグナルなのかは分からずじまいだがな。ーーーーこう言うのは、北極禁域監査局が詳しいだろう。もっとも、監査局も今以上の情報など持っていないだろうが。」

 

「ーーーーほんとに〈星の花〉関連は分からない事だらけですね…。」

 

 ニュウの呟きに、アンソニーは肩を竦めた。

 

「人知を超えた存在なのだからな。仕方ない。ーーーー取り敢えず、動こうか。……長居は最早出来ない。リンボへ案内しよう。」

「えぇ、頼みまsーーーー」

 

 

ーーーーーーーーガタァンッ!!!

 

 

 そこまでニュウが言った所で、3人のいる研究室の扉が勢いよく叩き破られて、兵士達が雪崩れ込んできた。

 

 ーーーー無数の銃口がこちらを向く。

 

「…!」

 

 身構えるネオ。兵士の1人が銃をこちらに向けたまま、アンソニーに向かって叫んだ。

 

「…アンソニー殿!!!何をしておられるのです!!ーーーー貴方の行いは連邦への裏切りであります!!!…お戻りをッ!!」

 

 兵士からの叫びに、アンソニーは小さく首を振ってタブレットを持ち上げた。

 

「……監視カメラにはフェイク映像を流しておいたのだが…。ゾルゲ氏やテラの目は欺けんか……。」

 そう言って、彼は連邦の兵士たちに背を向けた。そして、ニュウ達に向かい口を開く。

 

「行こうか。ニュウ、ネオ。」

「ア、アンソニー殿!!!」

 

 兵士が叫ぶが、アンソニーは振り返らなかった。ーーーー次の瞬間、ネオが兵士とアンソニーの間に割って入り、床に手を当てる。

 

「ーーー電撃。」

 

「「「あばばばばばばばばばばばばばば?!?!」」」

 

 一瞬のうちに、廊下は即席電気イスに変わった。体から電気のスパークを散らし、ドミノ倒しに倒れる何十人もの兵士達。

 

 静かになった廊下で、ネオは振り返って口を開いた。

 

「ーーーー行こう。案内お願いします。」

 

 アンソニーが、やれやれと言わんばかりに首を振る。

 

「……驚異的だな。」

「これでも本人曰く、まだ完全に使いこなしていないらしいですよ。」

 

 ニュウも呆れた様に呟くのだった。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 一方、〈奇巌城(エギーユクルーズ)〉ではーーーーーーー。

 

 

 

……ニュウ達がタルタロスの内部で戦う一方で、タルタロスの外でも戦いが起きていた。

 

 

「…くそ!タルタロスの防衛システムの20%が奪還された!!ーーーーサテライトのドローン展開時に『偽装コクーン』は割れている!!撃ってくるぞッ!!!」

 

 奇巌城(エギーユクルーズ)の操舵室で、カノープスが叫んだ。アルセーヌが操縦桿を握りつつ、前を見つめる。

 

 

ーーーウィィ……ン。

 

 

 彼等の前で、タルタロスに取り付けられている無数の砲口が奇巌城(エギーユクルーズ)の方を向いた。

 

「…まだ向こうが使ってくるのは一部の弱い兵装だけだ!!ーーーーこれ以上強い攻撃はさせねぇ様にしないとッ…!」

 

 カノープスが叫ぶと同時に、タルタロスが奇巌城(エギーユクルーズ)に向けて砲撃を開始する。

 

 タタタタタタタタタタ、という音と共に奇巌城(エギーユクルーズ)目掛けて、無数の弾丸が迫り来る。それを目視で確認したアルセーヌが一言呟いた。

 

 

「ーーーー『プロテクション』起動。」

 

 

 次の瞬間、奇巌城(エギーユクルーズ)の周りに、薄いシャボンの膜の様なものが展開され、弾丸がそれに当たって弾かれていった。

 

 

 ガガガガガガガガガッッ!!!!!!!

 

 

 タルタロスから、一旦距離を取る奇巌城(エギーユクルーズ)。それを追うように放たれる弾丸が、夜空に無数の流れ星のように煌めく。

 

「ふ、防げたの…?」

 サテライトの問いに、アルセーヌは苦い顔をしながら首を振った。

「ーーーープロテクションが防げるのは、一定以下の威力を持つ攻撃だけよ!……これ以上強い攻撃が来られたら、プロテクションを破られる!」

 

 カノープスがパソコンを叩きながら、サテライトに叫んだ。

 

「今はタルタロスの無力化に専念するんだ!ーーーー向こうの動力部のアクセス権と外部への連絡機能はまだ、俺の手元にある!…EMPスフィアも未だに健在!!まだタルタロスは空の孤島だ!ちょっと手が出るようになっただけさ!ーーーーでもこれ以上の後退は出来ねぇぞ!?踏ん張れ!!」

 

ーーーーカノープスとサテライトが必死になってタルタロスのシステムをハッキングする中で、タルタロス側でもテラがシステム奪還の為にコントロールルームでパソコンを操作していた。

 

…恐ろしい事に、彼にはまだ声を荒げるほど追い詰められた様子が無い。ーーーーそれだけ、自分の技術に自信が有るのだろう。……現に、少しずつ奪われたシステムが手元に戻りつつある。

 

「ーーーーチェイスビームユニット解放。…とは言え、奇巌城(エギーユクルーズ)はこれだけでは墜ちそうに無いな。レーザージェネレーター解放まで進めないと。」

 

 そう呟きつつ、テラは指を動かしていく。コントロールルームの職員達はテラにアンチハッキングを任せ、各々動き出していた。……混乱していた指令部職員達も、少し落ち着きを取り戻しつつある。

 

ーーーーコレは好ましく無い事だ……ニュウ達にとっては。

 

「……戦闘機格納ハッチへのアクセス権を奪還。ーーーー1番から、7番までのハッチを解放。……対空戦闘用自律兵器『ピキュールドラゴン』…出せるよ?」

 

 テラの声に、職員の1人が声を上げる。

 

「ッ!!了解!!ーーーーピキュールドラゴン…出撃ィ!!!」

 

 その声で、タルタロスの側面…翼の部分に存在する戦闘機格納ハッチがゆっくりと開き、中からどう見ても機械のドラゴンにしか見えないモノが姿を現した。

 

ーーーードクトゥール・フォリーが製造した、タルタロスの警備システム〈対空戦闘用自律兵器ピキュールドラゴン〉である。

 

『…………。』

 

 ハッチの中で、ソレの首が無機質に動き、目に人工の光が宿る。

 

『ーーーー出撃準備、完了。1号機、オールグリーン。』

 

 無機質な機械音声が流れ、それが伝播していく。

 

 

『2号機、オールグリーン』

『3号機、オールグリーン』

『4号機、オールグリーン』

『5号機ーーーー』

『6号ーーー』

 

 

 全部で7機の機械の竜ーーーーピキュールドラゴンは、その緑に光る機体を空に躍らせた。

 

 狙うは奇巌城(エギーユクルーズ)。…狙いを定めたピキュールドラゴンの音声が空に木霊する。

 

『『ターゲットロックオン。溶解殲滅モード、移行。』』

 

 そして、ピキュールドラゴンは足の裏のスラスターからジェットを噴いて、奇巌城(エギーユクルーズ)目掛け迫って行くーーーーーーーー

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

「ちょ…!な、なんか来たよぉ?!ーーーー敵の兵器かも!」

 

 サテライトの声が操舵室に響く。アルセーヌはすぐに外に居るであろう2人に無線で指示を飛ばした。

 

「…頼むわよ!!ハレルヤ!カノン!!」

 

 無線から、2人の声が帰ってくる。

 

「任せてください!」

「了解。やる。」

 

 

 そして、奇巌城(エギーユクルーズ)とピキュールドラゴン達の前に立ち塞がる様にして、ハレルヤとカノンが空に舞った。

 

「…沢山来たね。」

 

 迫り来る7機のピキュールドラゴンを前に、翼を広げたカノンが囁いた。

 ハレルヤは頷いて、手を前に構える。

 

「ーーーーでもやるしか無いさ。… 奇巌城(エギーユクルーズ)が墜ちたら、全て終わる。気を引き締めて行こう、カノン。」

 

 カノンは頷いた。

 

「うん。……やってみせる。」

 

 そして翠に光る翼を閃かせ、ピキュールドラゴンに突撃していくカノン。ハレルヤも足から放つ水流ジェットを駆使して、ピキュールドラゴン目掛けて空を駆けて行く。

 

『ーーーー目標接近。排除する。』

 

 ピキュールドラゴン達が放つ緑色のレーザー光線が、空に無数の軌跡を描いて2人を迎え撃ったーーーーーーーー。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

ドゴーーーン!

「止まれ…グハァ!!」

ザシュ!

「それ以じy…ぐへぇ!!」

ガキーーーーン!

「死n……ぷぎょ!」

チュドーーーン!

「正直言ってその足で踏んで欲s」

ゲシッッ!!

「アッ、シアワセ‼︎」

「……さっきの何?」「さぁ…?」

 

 

 

……静まり返った無機質な廊下に、次々と戦闘の喧騒がもたらされて賑やかになっていく。

 

 戦いの渦中に居るのはネオとニュウだ。後ろにアンソニーも続いている。

 

ーーーー立ち塞がる兵士たちとザーギンを、コフィンブレードとレールガンで蹴散らしながら進んで行くネオとニュウ。やがて、先頭を走るニュウが叫んだ。

 

「ココです…!ココを曲がれば……リンボです!!」

 

ーーー曲がり角を曲がるネオ達。…曲がった先には、巨大な金属の扉があった。ーーー金庫の扉のような、光沢のある表面に大きく『リンボエリア』と掘られている。

 

「ーーーーよし。…私が扉を開けよう。下がってくれ。」

 

 リンボエリアの出入り口付近にある小さな端末に、アンソニーが自分のタブレットを翳す。ーーーーガチャンッ!、と音がして金属の扉が開かれた。

 その先へ駆け出すニュウ。幾つかの小さなゲートーーーー恐らく出入りする人を検査する為の物だろうーーーーを潜り抜け、内部へ入り込む。ネオとアンソニーも後に続いた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 最初にリンボの中に入ったニュウ達が見たものは、床に倒れ込む兵士の姿だった。

 戦闘があったのだろう。……白い壁には煤や爆発痕が点々としている。

 

「ーーーー兵士が…倒れてる??」

 

 ネオが手に持った剣で延びている兵士を軽く突いてから、首を傾げて呟く。……自分達以外に、イースターのメンバーがリンボに辿り着いていたのだろうか…?しかし、扉にはロックが掛かっていた筈ーーーー

 

 

ーーーーその時、部屋の奥から少し警戒する様な小さな声が聞こえて来た。

 

 

「………ニ、ニュウ兄???」

 

 その微かな声を聞いたニュウが、ハッと顔を上げる。……見ると彼の視界の先、小さなドアの向こうから子供の顔がコチラを覗き込んでいた。

 

「……!!」

 

 ニュウが息を呑んでそのドアの方へ駆け出す。するとドアが開いて、その向こうから沢山の子供達が溢れるように飛び出して来た。ネオ達と同じぐらいの年齢の人もいる。

 

「皆んなッッ!!!」

「ニュウ兄ーーーッ!!!」

 

 ドッとニュウの体に子供達が群がった。バランスを崩し、尻餅をつくニュウ。

 

「戻って来た!戻って来たんだねニュウ兄!!」

「おかえり、ニュウ兄ちゃん!!」

「急に暗くなって怖かったよぉ!!」

 

 子供達の声で、リンボが満たされて行く。小さな子供達が彼に群がる中で、少し離れた所から歳上の人達がやって来た。…うち1人の少女らしき人が、彼に駆け寄る。

 

「ーーーーニュウくん…!」

 

 そう言ったまま、次の言葉が出てこないであろう彼女に向かって、ニュウは軽く手を上げて笑った。

 

「やあ。……ただいま。」

「……ッ!」

 

 その声で皆んなの顔に笑顔が浮かんだ。

 

 そしてニュウは勢い良く立ち上がる。

 

「さて…。確かに『ただいま』だけど、もう此処に『ただいま』を言う必要は無くなるね。ーーーー僕は皆んなを此処から連れ出しに来たんだから。」

 

 彼の言葉に、皆んなが顔を見合わせた。子供の1人がおずおずと尋ねる。

 

「…連れ出す……?何処へ連れて行ってくれるの?ニュウ兄ちゃん。」

 

 ニュウは優しく笑った。

 

「ーーーー何処でも……好きな所へ行けるよ。だって…」

 

 

 彼は手に持っていた銃を消すと、両手を彼等に差し出した。

 

 

「ーーーー()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

タルタロス内部『コントロールルーム』

 

 

 

「ゾルゲ殿!!リンボから新人類達が脱走を開始していますっ!!」

 

 監視カメラを確認していた職員からの報告を受けて、ゾルゲは顔を顰めた。

 

「ぬぅ……どれだけの兵士とザーギン共を配置したと思っとるんだ!!ソレら全てが取るに足らないと?!……ぐぬぬ…おのれぇ…!!」

 

 ゾルゲは手に持った杖を強く握りしめる。……杖が軋んで音を立てた。

 

「…どうも、リンボ内部でも新人類の暴動があったようです。その所為で対応が遅れ、更にアンソニー殿の裏切りも。」

 

 職員の言葉に、ますますゾルゲの苛立ちは募る。

 

「……奴らはどうせ〈格納庫〉へ向かうに違いない…。ーーーーならば此方から先回りしてやるわ!……ちょうど、格納庫には『新兵器』が眠っておる筈。…それのサビにしてやるわい。」

 

 その呟きに、職員の1人が片眉を上げる。

 

「……『アレ』ですか?」

「あぁ、そうじゃ。アレ以外にあるか?新兵器が。」

 

 アビドはそう言うと腰を上げた。

 

「ーーーー『アレ』の起動権限はわしにしか無い。格納庫にはわしが出向こう。」

 

 歩き出すゾルゲ。横に彼の警備の為に兵士達が並ぶ。

 

 彼等がコントロールルームの扉に近付いた時、入れ替わりになる様にしてドクトゥール・フォリーがやって来た。

 

「……お、これはこれはゾルゲ氏。何方まで…?」

 

 ゾルゲはフォリーの横を通り過ぎながら、口を開いた。

 

「格納庫だ。ーーーーあの裏切り者共に目に物見せてやるのだよ。」

 

 フォリーはニヤリと笑う。

 

「……なるほどねぇ。新兵器か。」

 

 ゾルゲはニヤつく彼に向かって指を差して言い放つ。

 

「ーーーーわしが格納庫にいる間、お主がコントロールルームで指揮を取れ。緊急事態だ、嫌とは言わせん。」

 

 フォリーは尚もニヤついたまま、頷いて見せた。

 

「分かっているさ。ーーーー私もココに用があったんだ。」

 

 その言葉に少しの引っ掛かりを覚えたゾルゲだが、追求はせずに部屋を出て行った。

 

「……新兵器、か。さて……何処までやれるかねぇ。」

 

 フォリーはさっきまでゾルゲが座っていた椅子に座り込み、ハッキングの影響で未だにノイズの走るモニターを眺めながら、胸元からUSBメモリを取り出すのだった。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー空に無数の光が舞う。

 

 

 夜空に舞っているのは、連邦の兵器ピキュールドラゴン。

 

 

 そしてソレに相対するは、ハレルヤとカノン。

 

 

 〈奇巌城(エギーユクルーズ)〉を巡って、空で繰り広げられる激しい戦い。……ソレをタルタロスの甲板から見上げる人影があった。

 

 両者がぶつかり合い、爆ぜる閃光に彩られていく夜空を見上げながら、()()はため息を吐く。

 

「……こんな所で(まみ)えるなんて。運命とは粋な計らいをしてくれる物ね。」

 

 そう囁く様に口を開いた彼女に、後ろからタルタロスの警備兵が恐る恐ると言った感じで声を掛ける。

 

「あ、あの…船外は危ないですよフェルシア様。早く中にお戻りを…。」

 

 彼女ーーーーフェルシアは片手を振った。

 

「何年間も離れ離れだった()()()が、直ぐそばまで来てるのよ?……もっと見てたいじゃない。」

「は、はぁ……。」

 

 フェルシアの見る先で、ピキュールドラゴンが1機撃墜されて雲海に落ちていく。……カノンの銃で撃ち落とされたのだ。

 

「…うふふ。やるわね、流石よカノン。……その調子、その調子。」

 

 フェルシアは嬉しそうに微笑む。……どっちの味方だよ、と警備兵は後ろで突っ込んだ。

 

「…見ないうちに強くなって……。ちょっと挨拶して来ようかしら?…うん、ソレが良いわね。じゃ、行ってくるわ。」

「はぁ………うん?!え?は?!ちょっと……フェルシア様!?!?」

 

 フェルシアは甲板から身を乗り出す。警備兵は慌てて彼女を止めようとした……が、彼女が空に身を投げ出す方が早かった。

 

 

ーーーーバササッ!!!

 

 

 翼の翻る音と共に、体の一部を歪な黒翼に変えたフェルシアが空を舞う。……警備兵は唖然とすることしか出来なかった。

 

 

「あはははははッ!!……コレが『母娘の感動の再会』って物よね!!私のカノン!!!」

 

 

 一瞬なうちに、歪な天使の様な姿に変わったフェルシアが、狂気的な笑いを響かせながら空を駆けていく。

 

 

ーーーーその姿は、さながら堕天使の様であった……

 

 

 

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