モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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ちょっと色んな奴らが好き勝手しだしたので、現在の状況を纏めときますね。

奇巌城(エギーユクルーズ)待機組〜

アルセーヌ・・・奇巌城(エギーユクルーズ)を操作中。

カノープス&サテライト・・・奇巌城(エギーユクルーズ)内部でタルタロスにハッキング攻撃を実行中。

ハレルヤ&カノン・・・奇巌城(エギーユクルーズ)の上空で、連邦の空対空兵器ピキュールドラゴンと戦闘中。今のところ2人が優勢だが、フェルシアが向かって来ているので、如何なるか分からん。

〜タルタロス侵入組〜

バサラ&アミダ&キラリ・・・第3アケロンにて、警備ロボットのザーギン及び門番のエーテルと交戦を開始。但し、バサラは負傷している。

アルスラーン・・・とある実験室にて、番人のニルヴァーナと交戦を開始。

アビス・・・タルタロス中心の大会議室にて、看守コキュートスと交戦を開始。

ネオ&ニュウ・・・アンソニー・Dと共に、リンボから新人類を解放。現在、脱出の為に〈格納庫〉へ移動中。

〜連邦側〜

テラ・・・コントロールルームにて、カノープスのハッキングに対抗中。

ゾルゲ・・・ニュウ達を止めるべく、格納庫に眠っている『新兵器』を起動させに移動中。

ドクトゥール・フォリー・・・ゾルゲに命令され、コントロールルームにて全体の指揮を取ることに。……しかし、彼には彼なりの考えがある様だ。

Dr.マター・・・作者が存在を忘れていた()多分元気。

以上。……コレ全部自分一人で書き上げなきゃならんのか…(戦慄)


70話〈天空決戦〜激動〜〉

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

奇巌城(エギーユクルーズ)上空〜

 

 

 

 

バササッッッ!!!

 

 

……ピキュールドラゴンとはまた別のナニかが立てる風切り音が聞こえた時には、ソレは彼等の直ぐ側まで近づいて来ていた。

 

 

「な?!だ、堕天使?!?!」

 

 

ソレを見て、思わずそう口走るハレルヤ。

 

……彼の目の前に迫った黒い翼の影が、パチン!と指を鳴らした気がした。

 

 

ーーーーエナジーサークル。

 

 

次の瞬間、夜空に青い光の輪が出現する。

 

 

 破壊的なエネルギーが凝縮したその輪は、勢いよく広がってハレルヤの腹部に命中した。…吐血して空を吹き飛ぶハレルヤ。

 

「ハレルヤ!!……今のはーーーーーーーー」

 

 カノンが、翼を広げて彼を受け止める。そして、彼を打ちのめした輪が広がった方を睨んだ。

 

 そんな彼女の前に、ハレルヤを吹き飛ばした張本人が立ち塞がって口を開く。

 

 

「うふふふふふ、久しぶりね。……私の可愛い子。」

 

 

「…私の…子???」

 

 ハレルヤはカノンに抱えられたまま首を傾げた。一方のカノンはハレルヤを抱いたまま、立ち塞がる堕天使の様な人影を睨んで口を開く。

 

「……どうして此処に…()()()が…。」

「お、お母様?!」

 

 ハレルヤが驚嘆の声を漏らした。カノンを生み出した親の事ならハレルヤも知っている。…つまり、いま自分達の目の前に立ち塞がった、堕天使の怪物の様な見た目の人影はーーーーーー

 

「グ、グローリーの大司教……フェルシア…??」

 

……堕天使ーーーー否、フェルシアはニヤリと微笑んだ。

 

「正解。……驚きでしょ??私もよ。たまたま用事でタルタロスに訪れたら、長い間離れ離れだった我が子に会えたんですもの…!」

 

 偽りの無い、心底嬉しそうな笑顔を浮かべて、フェルシアはその歪な黒翼を広げた。

 

「……さぁ、お母さんの元へいらっしゃいなカノン!……感動的な再会を愉しみましょう!?」

 

カノンは拒む様に首を振った。

 

「嫌。……私はお母様の元へは行かない。私の居場所はもう見つけたんだもの。」

 

フェルシアは笑みを絶やさない。

 

「あらぁ〜^^反抗期??これが所謂『反抗期』ってモノなのかしらぁ???うふふ、母親って大変ね。でも、親らしい悩みを抱えられてお母さん嬉しいわぁ。……一度してみたかったのよ、反抗期の娘とのやり取り。ん〜、こんな感じなのねぇ。」

 

「な、何だこの人……。」

 

 早口で捲し立てるフェルシアに、少しハレルヤが引いた様に呟いた。カノンは険しい顔でフェルシアを睨み付けたまま、ハレルヤに囁く。

 

「ハレルヤ、飛べる?」

 

頷くハレルヤ。

 

「…あ、ああ。もう大丈夫だよ。ありがとうカノン。」

 

 カノンはハレルヤを離すと、フェルシアに向かい合って口を開いた。

 

「お母様とは、私が戦う。……これは私にさせて欲しい。」

「…!」

 

ハレルヤは軽く息を飲んだ後、頷いた。

ソレを聞いたフェルシアはニコリと笑う。

 

「あら、結局私と遊んでくれる事にしたの??親想いのいい子ね。」

 

 カノンは心底嫌っていそうな顔を浮かべて、フェルシアを睨んだ。

 

「……お母様と敵同士になった日からずっと、お母様とイースターの皆んなが戦う時が来たら、私がやると決めていただけ。」

 

 そう言った後、翠の剣を構えて翼を大きく広げるカノン。

 

「……お母様を倒して、私は真の意味で自由になる。」

 

フェルシアの顔に益々強い笑みが浮かんだ。

 

「うふ。……私の事をそんなに長く想ってくれてたなんて、お母さんは幸せ者ねぇ。ーーーー良いわよ。ハグしてくれれば嬉しかったけれど、反抗期なら仕方ないわね。」

 

彼女はカノンの前で黒翼をマントの様に広げた。

 

 

……微かに地平線が薄紫に変わり始めた、星煌めく早朝の夜空に天使と堕天使が向かい合う。

 

 そしてハレルヤの見る先で、2人の天使は激突したーーーーーーーー

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「ーーーーくたばりなさいッ!!!」

 

 

第3アケロン付近の廊下に、緑の閃光が無数に走る。

 

そして、白い廊下の壁が次々と崩れて行った。

 

「ーーーーッ!!…自分達の研究所なのに、随分とめちゃくちゃにするんだね!」

 

 立ち込める煙の中から飛び出しながら、アミダは目の前に立ち塞がる人影に叫ぶ。

 その人影ーーーーエーテルは、なんて事は無いかの様に口を開いた。

 

「ーーーーココには壊れて困る物なんて無いからね。ソレに言われてるのよ、どんな犠牲を払っても侵入者を倒せって!!」

 

 エーテルは、手を前に翳す。すると、その掌に緑色のセラムキューブが浮かび、ソレが光って無数の〈ホーミング弾〉が放たれた。

 

 

……ドドドドドドドドォンッ!!

 

 

 アミダが剣でホーミング弾を斬り払うと、払われた弾丸が壁や天井にぶつかって爆発が起きる。

 

 さっきからこの繰り返しだ。……既に廊下はボロボロになり、壁を隔てた先にあった部屋が見えてしまっている。

 

 

「……くっ。」

 すぐ隣で、バサラの声がした。ーーーー見ると、キラリを庇う様に斬魔刀ヴァジュラを構えたバサラが、汗をかすかに流しながら立っている。

 

「バ、バサラさん…ごめんなさい。私がホーミング弾に狙われるせいで…!」

 

 後ろでキラリが彼の背中を支えながら、申し訳無さそうに言った。バサラが首を振る。

 

「いや、良い。ーーーーホーミング弾がクソなだけだ。この程度の負傷で、倒れる程俺はヤワじゃねぇ。」

 

 彼は、最初に不意打ちで放たれたエーテルのホーミング弾から2人を庇う為に、身を挺して全弾を受けたのだ。……想像よりもずっと酷い傷を負っているはずだが、彼の佇まいからはソレを感じない。

 

……そして彼は、ホーミング弾を迎撃する芸当が出来ないキラリを庇ってさっきから戦い続けている。

 キラリとしては、なんともいたたまれない展開だった。

 

(……私がこの2人みたいに、ホーミングに対処出来ないからーーーー)

 

 顔を曇らせて俯くキラリ。ーーーーだが、ココは戦場。曇っている暇なんてないのだ。

 

『……!!』

 

 エーテルの援護をする様に、ザーギン達がビームを放ったり、硬い体を生かして殴り掛かって来る。……その対処もしなくてはならない。

 

「……くっ、硬いんのよアンタたち!!」

 

 アミダが突撃して来たザーギンを躱し、インフィニティブレードを肩口に叩き付けた。……火花が散ってザーギンの肩に傷が入るが、斬り落とすことは出来ない。

 

『ーーーー。』

 

 ザーギンが無造作に腕を払って、アミダを引き離す。その身体にキラリが放った矢が立て続けに命中するが、ザーギンの身体を揺らがせただけで効果はほぼ無かった。

 

「ーーーーソリッドバレットォ!!」

 

 そこでバサラが叫んで、自らの能力である炎の弾丸(ソリッドバレット)をザーギンに浴びせる。

 

『ーーーーーー?!?!』

 

 ザーギンの身体に無数の火花が散って、やっと1機が地面に倒れ動かなくなった。

 

「…やっぱりタフだなコイツら。連邦はとんでもないモノを作りやがって……。」

そう言うバサラに、エーテルが返す。

「ーーーー当たり前よ。ザーギンは新人類対策の為に作られた機械兵だもの。貴方達がどうやってタルタロスにやって来たのか知らないけど、貴方達がココから生きて出る事は叶わないわ!……ザーギン(コイツ)等や私だけじゃ無い…タルタロスには連邦の最新鋭の技術が詰め込まれているのよ。ーーーーそしてその技術は、全て新人類を支配する為の技術!幾ら〈イースター〉が精鋭揃いだろうと、この地獄からは逃れられないわ!!」

 

ソレを聞いたキラリが、顔を顰めて叫んだ。

 

「……貴方だって新人類じゃ無いですか!!なのに、なんで連邦に与するんです?!……何故、私達の様にその力を使わないんですか!!同じ新人類同士…争い合って何の意味があると言うの?!」

 

エーテルはイラッとなったかの様に口を開く。

 

「ーーーー皆んなが皆んな、同じ意見だと思わない方がいいわよ。……私は私の意志があってココにいる。貴方は貴方の意志があってソコにいるのでしょう??……そして、私達と貴方達の意志は相容れない。ならば道は一つ!戦うことのみよ!」

 

「…………!!」

 

口をつぐむキラリ。

 

 エーテルは自分の周りに大量のホーミング弾を浮かび上がらせて、言い放った。

 

 

「戦いなさい。戦うのよ。……()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「シッッッ!!!」

 

 アルスラーンの掛け声と共に、空気を切って〈分身弾〉がニルヴァーナに迫る。

 

「へへ、ムダァァ!!」

 

ーーーーしかし、彼女の分身はニルヴァーナが放った弾丸にヘッドショットされ掻き消えた。

 

「……良い分身だなぁ。2人いるみたいだ。ーーーー注文をつけるなら、内臓も再現してもらいたいねぇ。……これじゃ幾ら撃っても臓物ひとつ撒き散らさないから、撃った気がしないんでね。」

「ほざけ!」

 

 分身弾の影に隠れる様に接近したアルスラーンが、その手に握る〈スレイブエッジ〉を振るう。

 

しかし、その一撃は躱された。

 

ーーーーそして避けざまにニルヴァーナは拳銃を乱射する。……それを叩き落とすアルスラーン。

 面白くなさそうにニルヴァーナが距離をとって呟いた。

 

「弾丸を叩き落とすなよ、超人が。……そんな芸当、出来る奴は限られてるぞ?」

 

アルスラーンはため息を吐いた。

 

「……落とさなければ私が死ぬだろう。」

「コッチとしては死んで欲しいんだよ。」

 

ーーーーそう言って、ニルヴァーナは赤々と爛れているかの様な左手を突き出した。

 

「《パラージショットガン》。」

 

 彼が呟いた瞬間、彼の左手から無数の弾丸がアルスラーン目掛けて放たれる。

 

「ーーーー!!!」

 

 勢いよく飛び退って回避するアルスラーン。…無数の弾丸は実験室の機械に次々と命中して、機械を破壊していく。

 

「今のは……セラムの力?ーーーー貴方も新人類だったのか。」

 

彼女の声に、ニルヴァーナは首を振った。

 

「残念。違うんだなぁ。」

「……??」

 

 首を傾げたアルスラーンに、彼は赤く光る左手をに見せびらかす様にしながら、勿体ぶった説明を始めた。

 

「俺は生まれも育ちも旧人類さ。……ちょーーっと()()()()()に付き合った結果、この力を手に入れただけだ。何の実験だと思う?んん??」

 

 アルスラーンは剣を構え直した。…問答している暇なんてない。

 

「…何の実験でも良い。興味は無い。」

 

ニルヴァーナは肩を大袈裟に竦める。

 

「ほぉ、そうかいそうかい。じゃあ勝手にネタばらしするぜ?ーーーー俺の参加した実験は、旧人類に〈ノーマン〉の死骸を移植し、星のセラムに対する耐性を持たせて新人類の力を与える実験だったのさ。」

「……!」

 

 アルスラーンの動きが止まった。ーーーー彼女の脳裏に、嘗て戦った天聖ケテルの手駒である《聖者》達が過ぎる。

 

 ニルヴァーナは彼女が興味を示したと思ったのか、赤い手を見せびらかしたまま話を続けて行った。

 

「アレはドクトゥール・フォリーさんが最初に始めた実験だった。…ま、余りにも失敗の多い実験ばっかりだったからよぉ、始まって直ぐ頓挫しちまったがな。俺はほぼ唯一の成功体って奴かな?…ま、奴さんの想定とは違ったらしいがね。」

 

彼は更に続けていく。

 

「ーーーーで、この実験は今は形を変えて〈教会国家グローリー〉の『アナテマシリーズ』に受け継がれたそうだぜ?…詳しくはしらねぇが、アンタのトコのカノンって奴もアナテマシリーズなんじゃ無かったか…?ん?」

 

 アルスラーンはそれには答えなかった。ニルヴァーナは口を閉じて銃を構える。

 

「まぁ、良いか。ーーーーおしゃべりはココまでにしておこう。…フォリーさんからは精々頑張って遊べって言われてるし、続きを始めてもいいか??」

 

アルスラーンは剣を構えたまま、口を開く。

 

「ーーーー良いも悪いも、其方が勝手に始めたのだろう。」

 

ニルヴァーナは微かに嗤った。

 

「くくくくく……確かになぁ。」

 

 彼は体を赤いオーラで包み込み、アルスラーンに向かって銃を構えて叫ぶ。

 

「さぁて、あんまり退屈させるなよ??ーーーー《バレット・オブ・デカダンス》!!!」

 

一方、対するアルスラーンは静かに口を開いた。

 

「楽しみに来た訳じゃ無い。ーーーー《スカーレット・アンフィテアトルム》。」

 

 

……両者が放つ必殺の一撃が、実験室で交差した。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

……大会議室は氷に閉ざされていた。

 

 ズラリと並ぶ机と椅子は、いまは最早真っ白な氷の彫像と化して床に散らばっている。

 

 外へ繋がる出入り口も、扉が氷で固められて開かない状態になっていた。

 

 

ーーーーそして、室内だと言うのに吹雪いている。

 

 

「…無駄な抵抗はやめろ。大人しく凍っていると良い。」

 

 落ち着いた青年の男の声と、カラン…と鐘の鳴る音がして、部屋は静かになった。

 

 いや、静かになった訳では無い。……もう一つ、この白銀の檻と化した大会議室に動くモノが有った。

 

「…凍り付くわけには…いきません…。はぁ…はぁ…何回でも、抵抗しますよ…。」

 

 その声の後に、パリィンと氷が割れる音と、コーン…と言う音叉のなる音が辺りに響く。……心なしか、吹雪の勢いが弱まった気がした。

 

 雪の様な白いコートに身を包んだ青年ーーーーコキュートスは、溜め息を吐いて鐘の付いたサスマタを構える。

 

「…よせ。何度やっても同じさ、アビス。私の力が充満したこの部屋は、私専用の処刑台となったのだ。ーーーー大人しくしろ。あまりボロボロになると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃ無いか。」

 

 彼がそう言ったと同時に、サスマタの先端から冷気が噴き出して辺りを満たす。

 

ーーーーこのサスマタは、コキュートス自身のセラムキューブによって作られたモノだ。…キューブ自体が尋常では無い冷気を纏っているので、振り回すだけで辺り一体を凍て付かせる兵器と化す。

 

 アビスはその冷気を受けながらも、音叉を構えてコキュートスに立ち向かっていく。…彼女の服はボロボロで、肌から流れた血がそのまま凍り付いて、彼女の白い肌に身体に赤を加えていた。

 それでも倒れる事無く自らの力を音叉に集め、彼女はコキュートスの吹雪に抗う。

 

「……美しく無い。これ以上醜くなる前に凍り付かせ無ければ。」

 

 それを見て、ある種の使命感に囚われたかの様に呟いたコキュートス。

 そんな彼に向かって、アビスは音叉を携え、突撃していく。

 

「…ふっ!」

 

 突撃して来たアビスに向かってコキュートスがサスマタを振るうと、その先端から冷気が刃となって放たれてアビスを襲う。

 

それを弾き飛ばし、駆け寄るアビス。

 

 

コォーーーーンッ!!!

 

 

 彼女の持つ巨大な音叉の杖と、コキュートスの持つ氷のサスマタがぶつかり合い、澄んだ音色が白銀の世界に響き渡る。

 

 

「…それ以上醜くなるな、アビス。氷像になった時の君の美しさを、生傷で損なう訳にはいかないのだよ。」

「気味の悪いっ…!」

 

 

ーーーー両者は一歩も引かずに、互いの武器を打ち付け合う。白い冷気と透き通った紫の光が、何度も何度も大会議室に弾ける。

 

 

「…キリが無いな。………(いて)よ。」

 

 何度か打ち合った末に、コキュートスが徐ろに呟いて、サスマタを地面に突き刺した。

 

 

…パキパキパキッッッ!!!

 

 

 アビスの足元が凍り付き、彼女の足を床に縫い付けた。……身動きが取れなくなった彼女。

 

「ーーーーッ!?(足が凍り付いて……!)」

 

 そんな彼女に向かって、コキュートスはサスマタに冷気を込め、必殺の一撃を放たんとする。

 

「ーーーー堅氷に封ぜよ。《ジュデッカ・アイスストーム》。」

 

 放たれた一撃は、冷気の渦を巻いた一突きだった。真っ白な渦を纏って迫るサスマタ。

 

「くっ…!!!」

 

 音叉の杖を縦に構えてサスマタの一撃を防ぐアビス。……凄まじい激突音が鳴り響き、辺り一面に氷が舞う。

 

ーーーーピシ…ピシ…ピシッ。

 

……杖を伝わって冷気が流れ込み、アビスの両手を凍らせ始めた。

 

(…これ以上は、今度こそ完全に凍り付いてしまう…!)

 

 狼狽えるアビス。……タルタロスの看守を名乗るコキュートスは、今の彼女を超える力を持っていた。

 広い部屋を丸々自らに有利な環境に変え、アビスを追い詰めていく彼。

 

ーーーー対抗する策は…………

 

(ある。……だけど。)

 

 アビスは半分凍り付きながらも、一瞬迷った。…しかし直ぐに迷いを吹き払う。

 

(いや、迷っている暇なんて無い!ーーーーココでやらなければ、いつやると言うの?!)

 

 アビスは覚悟を決めた。…あまりしたく無かった事だ。だが、手段は選んでいられない。彼女は目を閉じて、自分の奥底に意識を集中させた。

 

 

「…??何をーーーーーーーー」

 

 コキュートスが微かに首を傾げた瞬間、アビスはその目を開く。その瞳に〈星のセラム〉によく似た星々の光が宿った。

 

「ーーーーッッ!!まさか?!」

 

 彼女が何をしようとしているのか、コキュートスは瞬時に理解する。

 彼の脳裏を、アビスと言う存在に秘められた特殊な力についての記述が過ったのだ。

 

(…彼女はDr.マターの実験体ーーーー体内に〈星のセラム〉の瘴気を溜め込めるーーーー嘗て連邦と対峙した時に、彼女は一度〈星のセラム〉を解き放った事があったーーーー圧倒的な力ーーーー深淵のーーーー………)

 

 

「ーーーー解き放たれ(オープンアップ)……溢れ出よ(オーバーフロー)。………深き深淵は今、我が魂魄の内に!!!」

 

 

 アビスが叫んだと同時に、コキュートスのサスマタが砕け散った。更に彼女を中心に、暗い紫の光がドッと溢れ出す。…そして溢れ出したソレは、真っ白な世界を濃い紫で染め上げていくのだ。

 

「ッッッ!!!深淵(星のセラム)を、解放したのかッッ!?!?」

 

 溢れ出した光から逃げる様に後ずさるコキュートス。驚きに目を見張る彼に向かって、紫の光が触手の様に伸びて来る。

 

「ーーーー凍れ!!!」

 

 コキュートスが手をかざすと、強い冷気が吹き付けてその触手を凍らせた………が。

 

 

………バリィンッッッッ!!!

 

 

 その氷は直ぐに砕け、弱まるどころか寧ろ勢いを増した触手がコキュートスを吹き飛ばした。

 

「ぐはぁっ?!」

 

 大会議室の壁に叩きつけられるコキュートス。……彼の目の前で、アビスの力は益々増していく。

 

……彼女の内に眠っていた〈星のセラム〉の瘴気が今、特大の爆弾の様になって解き放たれようとしているのだ。

 

(ーーーーコレは不味い。……このエネルギーが解き放たれたら,この部屋だけじゃ無い…周りの区画が丸ごと吹き飛ぶッ…!!)

 

 コキュートスは戦慄を覚えつつ、なんとかアビスを冷気で抑え込もうとする。

 しかし、さっきまであんなに簡単に凍らせられていたのが嘘であるかの様に、アビスの体が凍り付く気配が無い。……彼女の体を渦巻く紫色の〈星のセラム〉が、彼の冷気を弾き飛ばしてしまうのだ。

 

 冷や汗を流した彼の前で、アビスが嗤った。……普段の彼女から想像もできない様な、妖艶で壮絶な微笑み………。

 

 

「…アビスゲイズ・オーバーフロー。」

 

 

ーーーーそっと囁く様な声がした。

 

 

ドッッッッッッッ!!!!!!

 

 

 次の瞬間、彼女を中心にして、凄まじいエネルギーの爆発が起きる。紫の光が球状に膨れ上がり、大会議室の天井も壁も床も何もかもを破壊して、コキュートスを飲み込んだ。

 

「ーーーーーーーーッッッッッッ!!!」

 

……足元の床の感覚が消え、コキュートスは大会議室の真下に大量の瓦礫と共に落ちた。

 

(……不味い!この真下には……タルタロスの動力部が…!)

 

 落下しながらコキュートスは体制を整える。……そして、埃に塗れた金属製の硬い床の上に転がる様に着地した。

 ガラガラガッシャン、と壊れた建材が落下してきて喧しい音を立てる。

 

「……くそ。」

 

 コキュートスが上を見上げると、紫の光をまるで後光の様に背後に従わせたアビスが、ゆっくりと舞い降りてきていた。

 

……ボロボロの服が〈星のセラム〉で変質したのか、彼女の衣装そのものが様変わりしている。…たなびく髪の毛が、まるで別の生き物の様だ。

 

「くっ……なんて醜い姿…。ーーーーソレが、深淵の先導者としての君の姿か…!」

 

 苦虫を噛み潰したかの様な顔で言い放つコキュートス。その声に、アビスはただ嗤うだけだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

あぁ……なんて心地良い光。

 

…自らを抑え込む事無く、全てを解き放つ解放の悦び。

 

「ふふ…ふふふふふ……ふふふふふふふふッ!!」

 

…あぁ、愉悦極まりない(面白い)

 

 

 

……いや、面白がってる場合じゃ無い。

(………気を、気を確かに持つのよアビス。ーーーー深淵を解放しても、ソレに飲まれてはいけない…!!)

 

 アビスはコキュートスを見下しながらも、心の中で自我を保つべく必死になっていた。

 

 自らの内に溜め込んだ星のセラムを解放する事。…ソレがコキュートスに打ち勝てるほぼ唯一の手段であった。ーーーーだから彼女は、ソレを実行したのだ。

 

…しかし、これにはリスクがある。

 

 嘗て悲しみに任せて深淵を解き放った時、彼女は街を一つ壊滅させてしまった。ーーーー今回は己の意志で解き放ったとは言え、上手く制御しないと前の二の舞になる。……タルタロスを破壊してしまったら、仲間達が危険に晒される事になるのだ。

 

(…解き放つ快楽に身を委ねてはダメ。ーーーー上手く、上手くコキュートスを倒す為だけに意識を集中させるのよアビス!!)

 

 彼女は埃まみれの床に降り立ちながら、アビスは深い息を吐く。…そして、辺りを見渡した。

 

……不思議な場所だ。等間隔で丸い巨大なエンジンの様な物が並んでいて、壁には無数のパイプが張り巡らされている。

 そして、あちこちに取り付けられた計器類が、常に針を忙しなく動かしていた。

 更に奇妙な事に、この機械達からは〈星のセラム〉の気配を感じるのだ。……まるで〈星のセラム〉で動いているかの様に……。

 

「ーーーー何の部屋なの?ココは。」

 

思わず口に出すアビス。

 

 ソレに答える義理はコキュートスには無かったが、彼は反射的に答えていた。

 

「タルタロスの心臓。ーーーー〈メインエンジンルーム〉だ。……この船を動かす為の〈星のセラム〉を溜め込んでいる場所でもある。」

 

アビスは周りをぐるりと見渡した。

 

「セラムを…?ーーーータルタロスは〈星のセラム〉で動いてるの…?」

「ああ。…〈星のセラム〉からエネルギーを取り出す事に成功した、Dr.マター氏の尽力の賜物だ。……僅かな量でも、タルタロスを空に浮かべるだけの力が手に入る。」

「ふぅん……。」

 

 アビスは納得する様に頷いて、足を踏み出す。……すると彼女の周りの計器類の針が、カチャカチャと乱れ出した。

 

それを見て、コキュートスは顔を顰める。

 

(…アビスの力に、エンジン内のセラムが反応している…。コレではタルタロスの航行に影響が出てしまうな…。)

 

 心の中で苦々しく呟いたコキュートスは、なるべく素早く戦いを終わらせるべく、再びサスマタを手に生成して構えた。

 

切っ先をアビスに向け、口を開くコキュートス。

 

「ーーーーココで暴れてもらっては困る。その深淵、解き放たれるべきでは無いのだ。その醜き姿、もはや氷像にする価t…」

 

ーーーーコキュートス目掛けて、不意打ちの様に紫の触手が放たれた。

 

「ぬぅッ!!」

 

 それを払い落とすコキュートス。サスマタと触手がぶつかり合って、激しい衝撃波が起きる。

 

…パサリと彼の帽子が床に落ちた。

そしてアビスは彼に向かって口を開く。

 

「醜い醜いと煩いわね。……さっきから結構気にしてるのよ?」

 

 コキュートスは帽子を拾い上げて埃を払うと、深く被り直す。

 そしてあえて挑発する様に微笑んで口を開いた。

 

「…精神的な揺さぶりが掛けられたのなら、良し。ーーーーそれに、私は自分の価値観を他人に合わせて歪めたく無い派でね。」

 

 アビスは黙って手を前に翳した。…その手の平に輝く紫の光が満ちていく。

 それに対抗するかの様に、コキュートスもサスマタに白銀の冷気を纏わせた。

 

 

〈メインエンジンルーム〉に場所を移して、両者の戦いは更に激しくなっていくーーーーーーーー。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

……格納庫への扉は、とてつもなく大きかった。

 

 

「…でかい。ーーーーだけど此処の中に入れば、脱出まで後少しなんですね…?」

 

ニュウの問いかけに、アンソニー・Dは頷く。

 

「あぁ。内部に〈大型輸送機〉が幾つもある。……一機でも此処の全員を乗せるのには、十分だ。」

 

 その声に、彼らの後に続く新人類達の間に騒めきが広がった。

 

「出れるんだ…!本当に此処から……!」

「行きたかった…外に行ける!!」

 

ネオはそれを横目に見ながら、ニュウに囁く。

 

「ニュウくん。……格納庫までの道のりで一度も連邦兵に合わなかったけど、どう思う??」

 

ニュウはレールガンを構えて囁き返した。

 

「…兵が尽きたってことは無いでしょう。ただ、少なくなってはいるとは思います。ーーーーですから闇雲に凸らせるのでは無く、こっちの行動を予測して対策を取ろうとする筈です。……つまり、この格納庫で一悶着あるかも知れません。気を付けて行きましょう。みんなは一旦此処で待機してもらった方が、良いかも知れないですね。」

 

それを聞いていたアンソニーが頷いた。

 

「そうだな。……ソレに格納庫には、『アレ』が眠っている。」

 

ネオが首を傾げた。

 

「アレ??アレって何?何のこと?」

 

 ニュウもよく分かってはいない様だ。…彼も不思議そうな顔つきになっている。

 

アンソニーが険しい顔で口を開く。

 

「ーーーー『新兵器』だ。……つい最近、タルタロスでテストを行う為にプロトタイプが納品された。その兵器の名はーーーー」

 

『ーーーー入らないのかね??ならば此方から開けてやろうか?』

 

「「……!!!」」

 

 

 アンソニーの声を遮る様に格納庫の中から、拡声器で増幅された声が聞こえて来た。

 

 そして、ニュウ達の目の前で格納庫の巨大な扉が開いて内部が露わになる。

 

すかさず身構える2人。

 

……何故なら、格納庫の中にズラリとザーギン達が並んでいたのだ。

 

 

 そして、ザーギン達を引き連れる様にして老人が1人、立っている。

 

 

「ゾルゲさ……ゾルゲ…!」

 

 その老人を見て、ニュウが声を漏らした。目を見開くネオ。

 

「あの人が、ニュウくんに私を攫わせようとした、Dr.ゾルゲ……!」

 

彼女の顔が険しくなった。

 

「アンソニーさん。……ニュウくんの仲間たちを、一旦廊下の端まで退がらせて。」

 

彼女は一歩足を踏み出して、アンソニーに囁く。

 

「…あぁ。分かった。」

 

 アンソニーは頷くと、新人類達を退がらせた。ーーーこれから戦いが始まる……ソレを理解した子供たちが、脱兎の如く廊下に退避していく。勇気を出して戦おうとする子も居たが、ニュウが押し留めて退がらせた。

 

ゾルゲが苦々しく叫ぶ。

 

「…タルタロスを滅茶苦茶にしよって……。この、裏切り者共め!!…総帥閣下にわしは何と言えば良いのだッ!?あの方は世界の平穏を望んでいらっしゃると言うのに!…お前らのせいで、全部メチャクチャじゃ!!」

 

彼の目がギロリとニュウに向いた。

 

「ニュウ!……貴様、やけに時間をかけていると思えば、イースターの思想に絆されたか!!ソレでよくもまぁ、のこのこと…どの面下げて来やがった!!!ーーーー許さん、許さんぞ!!わしの手で殺してやるわ!!」

 

 その罵倒を聞いたネオが、手をギュッと握りしめた。…コフィンブレードは収納してあると言うのに、彼女の体に〈パワーオーラ〉が纏わりつく。

そして、彼女は静かな怒りを込めた声で呟いた。

 

「……貴方が、ニュウくんを苦しめてた……!!」

 

 スッと音もなく彼女はゾルゲに向かって飛び出した。ーーーーその速さたるや、彼女の動きに気付けたのはニュウだけだろう。

 

 ゾルゲからしてみれば、突然30mは離れた場所に居た筈のネオが、いきなり目の前に現れた様に見えたに違いない。

 

 

「…ゑ?」

 

 

べキィッッッッッッ!!!!!

 

 

 ゾルゲの顔面に、彼女の渾身の握り拳が突き刺さった。

 

 

「がっ、ぁぁぁぁぁッッッッ?!?!」

 

 

……軽く10mは吹き飛んで床に転がるゾルゲ。

 

 

 あまりの高速パンチに、ザーギン達ですら反応が遅れている。

 

「…許さない…!」

 

 ゾルゲを殴り飛ばしたネオが、仁王立ちになってそう言い放った。

 

 ゾルゲがふらつきながら立ち上がる。…今のであちこち折れたのだろう、おぼつかない声で彼は叫んだ。

 

「ふが…ば、何をしでいる、ザーギン共!……コイヅらを排除しろ!!」

 

思い出した様にザーギンが動き出す。

 

 

ーーーーそして、格納庫で戦いが始まった。

 

 

 







やったぜ。


アビドさんがあっさり死んじゃったから、ゾルゲさんは出来るだけ長く苦しんで死ぬ様に努力するよ。
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