モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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今気づいたんだが、61話の次が63話になってた……。

すぐに直しときました。マジで気付かなかったわ()


あと、今回の話は自分史上ぶっちぎりで長い話です。…ゆっくり読んでネ。





71話〈天空決戦〜終局〜〉

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

迫り来る、鋼の軍団。

 

 

ーーーーそれを迎え撃つは、ネオとニュウ。

 

 

 

 

「……いっぱい来たね。」

 

ネオの呟きに、ニュウは頷いた。

 

「ええ。此処で僕達を止め切る気なんでしょう。向こうからして見れば、もう後が無いですし。」

 

ーーーーそう言ってから、彼はネオより一歩前に出る。そして彼女の方を振り向き、片手を上げた。

 

「……少しだけ、僕に任せて下さい。こう言う大群相手にピッタリの能力があるので。」

 

ネオは頷いた。

 

「分かった。ちょっと任せるね。」

 

ーーーーそう言って一歩下がった彼女の前で、ニュウは腰を落とし気味に構える。すると、彼の手の内に〈セラムキューブ〉が浮かび上がって変形を開始した。

 ガチャガチャと紫のパーツが宙に具現化し、空中で組み合わさって彼の手に装着される。

 

全てが終わった後に、彼の手に出現していたのはーーーーーーーー

 

 

「……マシンガン??」

 

 

ーーーーーーーー紫色に光り輝く、身の丈程の巨大な機関銃だった。

 

 

「ーーーー《ヘビーマシンガン・モード》。……見た目そのまんまですけど、僕はそう名付けました。」

 

彼はザーギンに向けてソレを構え、口を開く。

 

「ーーーーこれが僕の〈レールガン・モード〉に継ぐ、二つ目の覚醒能力です。」

 

 その言葉が終わると同時に、彼の構えたHMG (ヘビーマシンガン)の銃口が猛烈に火を吹いた。

 

ダラララララララララララララララララララララララッッ!!!!!

 

 

…凄まじい属性弾の雨嵐が、ザーギン達に吸い込まれていく。

 

『ーーーーーーーー!?!?』

 

 数瞬は耐えてみせたザーギンだが、すぐに自慢の装甲が限界を迎えて穴だらけになり、床に倒れ伏していった。

 

 ボロ雑巾の様になって格納庫の床に次々と倒れ込むザーギン達。飛び散る無数の弾丸と爆発の火花が合わさって、まるで戦場の様な光景を目の前に広がらせていく。

 

「……これは…凄い。」

 

 爆発四散しながら吹き飛んでいくザーギンを見て、ネオはポツリと呟いた。

 

ーーーー彼1人で、ちょっとした軍隊並みの力を持つことが出来るのでは??と言う思いが頭をよぎる。

 

……そして彼が射撃を止めた時、格納庫に残っているのは僅かな数のザーギンだけとなっていた。

 そのザーギンすら、何体かは弾丸を受けて動きが鈍っている。

 

「……ふぅ。」

 

 ため息を吐いて、ニュウはふらっと体制を崩した。咄嗟にネオが彼を支える。

 

「大丈夫??」

「…まだまだですね…。コレ、体力の消耗がかなり激しい能力なんですよ……ゴホッ。」

 

 咳き込むニュウ。……とは言え、それだけの消耗に見合った破壊力を《ヘビーマシンガンモード》は秘めていた。

 

 実際、ザーギンは大きく数を減らしている。…ネオですら、コフィンブレードが無いと斬れない様な堅牢な装甲を、木っ端微塵にしてしまう程の圧倒的弾幕。

 

「ーーーーううん、凄いよ。…あとは私がやるから、体を休めてて。」

 

 ネオはそう言うと、残ったザーギンに駆け寄った。

 動きの鈍ったザーギンを素早くコフィンブレードで切り倒し、反撃してくる他のザーギン達も、電撃と剣で制圧していく。

 

……やがて最後のザーギンが床に倒れ込み動かなくなると、格納庫は静かになった。

 

 その間、僅かに2、3分程。…体力を消耗しているニュウの方に一切の攻撃を与えさせる事なく、ネオはザーギンを倒し切ったのだ。

 

「……よし。コレで全部だね。」

 

 コフィンブレードを床に突き刺し、ネオはそっと呟く。その時、ニュウが立ち上がって怪訝そうに口を開いた。

 

「ーーーーん…?たしかにザーギンは全部倒しましたけど……ゾルゲは何処へ…??」

「あれ?」

 

 ネオが辺りを見渡してゾルゲを探す。…先程ザーギン達に命令を出したのを最後に、その姿が見えない。一体、彼は何処にーーーーーーーー

 

 

「…死ねぇい!!!」

 

 

ーーーー瞬間、格納庫の奥から光弾が飛んできた。

 

「…ッッッ!!」

 

 残像すら残る程の速度で放たれた光弾が、空気を切り裂いてネオを通り過ぎ、後ろのニュウに襲いかかる。ネオは咄嗟に床を蹴った。…蹴った床が砕ける感覚を足裏に感じながら、ニュウと光弾の間に瞬間的に移動、そしてコフィンブレードの腹で光弾を弾き飛ばす。

 

 バチュゥンッ!!ーーーーと激しい音がして、弾かれた光弾が格納庫の中に鎮座していた輸送機の一つに命中。…そして激しい爆発が起きる。

 

「…え?は??」

 

 ニュウはどうやら何が起こったのか理解出来なかった様だ。…ただ目を丸くして、炎を上げて燃える輸送機とネオを交互に見ている。

 

「危なかった…!」

 

 ネオはホッと胸を撫で下ろした。…今の光弾はかなりの威力だった。もしもニュウがマトモに食らっていれば、危なかっただろう。

 

光弾が飛んできた方角を睨みつけるネオ。

 

 

「…む。今の速度に追いつくと言うのか…。予想以上の機動性じゃな…。」

 

 その方角から、ゾルゲの声が聞こえて来る。ネオがコフィンブレードを構えると、ゾルゲがゆっくりと格納庫の奥の暗闇から歩み出て来た。

 

「………Dr.ゾルゲ。」

 

ネオの言葉に、ゾルゲは吐き捨てる様に喋り出す。

 

「ーーーー実に忌々しい。……アビドの奴め、貴様の行いが全て間違っていたとは言わんが、ネオを遠回しに覚醒させてしまったのはいかんな。……とんでもない事になったモノだ…。」

 

そう口走るゾルゲの背後の闇がゆらりと揺らぐ。

 

「…??(彼の後ろに……何か居る??)」

 

 ニュウがそっと横に立つ気配を感じながら、ネオはゾルゲの奥の暗闇に目を向けた。

そんな彼女の前で、ゾルゲは話し続ける。

 

「……だが、だが、じゃ。お前達の持つ恐るべき覚醒の力に、唯わし等が震えているとでも思うたか??…いや違う。覚醒実験が始まってから、わし等は準備を進めていた。もしも覚醒新人類の反乱が起きた時、ソレを速やかに鎮圧する為の兵器をな…!」

 

 ガシャリ!!……彼の後ろの闇から金属の足音が聞こえて来る。

 

「ーーーー見せてやろう。……我らが連邦の技術の結晶を!星の光を呑む者を!!」

 

ゾルゲが声を張り上げる。

 

ーーーーそして、彼の後ろから巨大なロボットらしき物が姿を現した。

 

「……ッ?!大きい…!」

 

ソレを見上げて声を漏らすネオと、

 

「…機械の……ケンタウロス…??」

 

ソレの見た目を見て呟くニュウ。

 

 

ーーーーそして、ゾルゲの張り上げた声が格納庫に響き渡る。

 

「……これこそ連邦の最終兵器!!その名は『デスアーク』!!ーーーー星光を呑みて暗黒を統べし、我等最後の希望なのだッ!!!」

 

 その声が合図であるかの様に、デスアークが2人の前に躍り出た。

 ガシャリッ!!……と、金属の触れ合う音が格納庫に響く。

 

「…これが…アンソニーさんが言いかけてた新兵器…!」

 

ニュウが、若干の畏怖を感じさせる口調で呟いた。

 

『ーーーーーーーー。』

 

 一切の声を上げる事なく、ジロリと2人を睨みつけるデスアーク。

 その見た目は、確かにニュウが言った通り、装甲で全身を覆った機械仕掛けのケンタウロスだ。

 

「…驚いただろう??我々には新人類程の個々の力は無いが、培って来た技術がある。……今度はザーギン共の様には行かんぞ。」

 

 ゾルゲが2人を見て、そう言った。…そしてその言葉が終わると共に、デスアークが動き出す。

 

 グアッ!ーーーーと、勢い良く足を跳ね上げ、2人を押し潰さんと迫るデスアーク。

 

 

ーーーーソレを避ける2人。

 

 

 重厚な足音が響き、さっきまで2人が立っていた場所にデスアークが着地。ひび割れた床が破片を舞わせる。

 

『ーーーー。』

 

 デスアークがネオの方に向けて、徐ろに左手を翳した。ーーーー翳した手に暗い光が宿っていく。

まるで暗く輝く星を思わせる光ーーーー。

 

「〈星のセラム〉の光…?!」

 

 ネオがそう言った瞬間、デスアークの手から光弾が放たれた。ーーーー光速に迫る勢いで放たれる光弾。

 

「く…。」

 

 ネオはソレをコフィンブレードの腹で受け止めると、一気に床を蹴った。デスアークが更に光弾を放って来るが、ソレ等は全て走りながら回避し、床を更に蹴って勢いよく跳び上がる。

 

「はッ!!!」

『ーーーー!!』

 

 振り下ろされるコフィンブレード。対するデスアークは、自らを庇う様に両腕をクロスして構えた。

 

 

ーーーーギャリィィンッッッッ!!!

 

 

 デスアークの腕と、上段から叩き付けられたコフィンブレードがぶつかって、激しい金属音が響き渡る。

 

 インパクトの衝撃に姿勢を崩したデスアーク。ネオが更にコフィンブレードをデスアークの腕に押し込むがーーーーーーーー…

 

「……ッ?斬れない?!」

 

ーーーーなんと、デスアークの腕は断たれなかった。……よく見ると、腕とコフィンブレードの間に、薄っすらと障壁の様なモノが張ってある。

 

「まさか…バリアの能力が使えるの…?!」

 

 そうネオが声を漏らした時、デスアークが交差していた腕を広げて、彼女を振り払った。

 

地面を擦る様に着地するネオ。デスアークが床を蹴って彼女に迫る。ーーーーが、唐突に横から飛んできたロケット弾(マーキングミサイル)に不意打ちされ、爆炎と共に吹き飛ばされた。

 見ると、ニュウが〈セラムキューブ〉から創り出したバズーカ砲を構えて立っている。

 

「援護します!」

「ありがと、でも気を付けて!」

 

 そうネオがニュウに返した時、爆炎の向こうからニュウに向かって数多の光弾が飛来して来た。ーーーーデスアークの反撃だ。

 

「!!」

 

 すかさずニュウの前に立ち塞がったネオが、床を対象に自らの能力ーーーー物質再構築を使用する。…再構築能力によって、金属の床の一部が防壁の形に変化し、デスアークの光弾を受け止めた。

 

「床が壁に…!ーーーーそうか、再構築能力はそんな使い方も…。」

 

 ニュウが感心した様に呟いたのも束の間、防壁は立て続けに襲い来る光弾によって砕け散り、デスアークが勢い良く突っ込んでくる。

 

「〈レールガン〉!!」

 

 叫んだニュウが、バズーカ砲をレールガンに変えて射撃。放たれた光速の弾丸が、迫り来るデスアークの腹や頭部に当たり、火花と装甲の破片が散る。

 

『ーーーーーーー。』

 

…しかし、デスアークは直ぐに自分の前にバリアを張る事でニュウの弾丸を防ぎ始めた。…レールガンの弾でも、バリアは簡単には破れない様だ。

 

「…あのバリア、硬い!」

 

 そう呟いて、ニュウは射撃を止める。ーーーー2人に向かって突進して来るデスアーク。

 

ソレを横に避ける2人。

 

『ーーーーーーーー。』

 

 突進が避けられたと見るや、すぐさまデスアークは方向転換し、2人に向けて両手を構えた。

 その手に光り輝くエネルギーが溜まっていき、無数のホーミング弾となって解き放たれる。

 

「ホーミング攻撃?!…やっぱり、セラムの力を使ってるのか…?!」

 

 飛来するホーミング弾をレールガンで撃ち落としながら、ニュウは呟いた。

 

 遠くから戦いを見ているゾルゲが満足気に口を開く。

 

「…そうだとも。デスアークは〈星のセラム〉から取り出したエネルギーで動く兵器…。このタルタロスを空に浮かべる力と同じモノじゃ。現在この世に存在する、どんな燃料よりも優れたエネルギー源である〈星のセラム〉。ーーーーソレを僅かにだが、コントロールする術を我々は手に入れた。」

 

…ゾルゲが語る中、デスアークの体に星の光が満ちていく。何か、大技を放とうとしているのだろうか?

 

 2人の前で両手を包み込む様に組んだデスアーク。……凄まじいエネルギーがデスアークの内部を流れていくのを感じる。

 

 空気の揺らぎを肌で感じながら、ふとニュウはある事を思い付いた。

 

「…ネオさん。ーーーーアレが星のセラムで動いているなら、ネオさんの力で()()()()()()()()出来るのでは…?」

 

ーーーーネオの持つ〈星のセラム〉を浄化する能力なら、デスアークのエネルギー源を消去する事が可能なのではないか……と思って口にしてみたのだが、ネオは意外にも首を振った。

 

「…無理かも。〈星のセラム〉を浄化する為には、直接セラムに触れる必要がある。……デスアークは星のセラムを完全に内部に隠してるから。…装甲が壊れたら出来ると思うけど。」

「…!!そうですか…。一筋縄じゃ行かないですね…。」

 

 残念そうにニュウが呟いた時、デスアークが動いた。

 両手に溜め込んでいたエネルギーを解放する様に、手を広げて此方へ向ける。

 そして、無機質な機械音声が、デスアークの骸骨を思わせる頭部から聞こえ出した。

 

 

『ーーーーハイウェイ・トゥ・ヘル。』

 

 

 次の瞬間、揺らぐ光の同心円が手を中心に幾重にも浮かびあがり、中心に収縮した光の波動が唸り爆ぜて解き放たれる。

 

 

…大気を灼いて放たれたソレは、正に極太の破壊光線(レーザー)

 

 

「ーーーーーーーーッッ!!(凄いエネルギー…!マトモに受けることは不可能…なら、避けーーーー)」

 

…ネオの思考はそこまで巡って、ふと自分達の後ろに格納庫の扉がある事に気付いた。……このレーザーは、あの分厚い金属の扉すら破壊するだろう。扉が壊れたら、扉の向こうにある廊下にもレーザーは到達するに違いない。

 

……廊下には、ニュウの仲間達が居るーーーー!

 

(ーーーー避けれない!!)

 

 ネオの動きがピクリと止まった。…コレを計算していたのだろうか?ゾルゲの顔に深い笑みが宿る。

 

この間、僅か1秒足らずーーーー。

 

(どうする?……再構築で盾を作る??ーーーーいや、レーザーの威力が〈ジェネレーター〉の比じゃない。盾は心許ない……。)

 

 ネオは頭を高速で回転させた。ーーーーそして、一つの結論に至る。

 

「ーーーーこれなら…!!」

 

 彼女は眼前に迫ったレーザーに向かって、コフィンブレードを突き出した。そしてあろう事か、()()()()()()()()()()()()()()()

 

(お願い…!)

 

 コフィンブレードは謎の空間の穴から何時も現れる。そして、消える時も謎の空間の穴に吸い込まれる様に消えていく。

 

 穴の向こうは完全に謎の異空間であり、まるで無限の広さを持っている様にネオは感じていた。

 

 

……ならば、この穴をレーザーの通り道に開けばどうなるか。

 

 

ーーーーシュンッ………

 

 

 目の前の空間に穴が開き、コフィンブレードが収納されて消えた。ーーーーそして、その穴が閉じ切る前にデスアークの放ったレーザー光線も吸い込まれ、消えていったのだ。

 

 ネオは賭けに勝った。……解き放たれた破壊の力は、塵一つ消し去る事なく虚空の彼方へ吸い込まれたのだーーーーーーーー

 

「…なんっ???」

 

 ゾルゲが唖然とした表情で口を開いた。一方でデスアークも放った大技の反動か、腕から火花を散らしている。動きも鈍くなっている様だ。

 

それを見て、ネオが声を上げる。

 

「行ける!行こうニュウくん!!」

「ッ!!…了解です!」

 

ーーーー格納庫で最後の…恐らくは最後の、戦いが始まった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

〜 タルタロス中心部〈メインエンジンルーム〉 〜

 

 

 

……氷点下の空気を切り裂いて、濃い紫に光る触手が無数に伸びる。

 

 そしてその触手は、空中に突如として出現した分厚い氷の壁に次々と突き刺さった。

ーーーーが、直ぐに氷の壁の方が砕けて、空中にキラキラとした氷片を舞わせる。

 

「チッ!!」

 

 タルタロスの看守コキュートスは、舌打ちすると手に持ったサスマタを振った。

 

…その先端から、冷気の波動が放たれて触手を迎え撃つ。

 

 凍り付き、動きを止める触手。すかさずコキュートスは更なる技を放つ。

 

「ーーーージュデッカ・ブライニクルッ!!」

 

絶対零度の冷気が、宙に螺旋を描いて放たれた。

 ソレは凍った触手を破壊し、その触手を繰り出した張本人たるアビスへと迫る。

 

ーーーーーーーーしかし…

 

 

「……無駄ねーーーー《グリッターボール》。」

 

 

 アビスが軽く放った一撃で、コキュートスのブライクニルは掻き消された。

 

ーーーーギュオンッ!!

 

 放たれた〈グリッターボール〉はコキュートスに向かって飛翔し、彼の真横の壁に着弾して爆ぜる。

 

「ぬ……!!」

 

 爆風に吹き飛ばされて、硬い金属の床を転がるコキュートス。…その白いコートに埃が付いて、黒く汚れていく。

 

「ーーーーならば…!凍てつけ!!」

 

 起き上がると同時に、そう叫んでサスマタを床に突き刺したコキュートス。

 そうする事で、アビスの足元から冷気を放って彼女を直接凍らせようとしたのだが、彼女の周りを漂う〈星のセラム〉が冷気を弾くせいで、彼女を凍らせる事は出来なかった。

 

 

ーーーードドドッッ!!!

 

 

 お返しと言わんばかりに無数の闇の波動が飛んで来て、コキュートスを吹き飛ばす。

 

「がぁ…ッ!」

 

吹き飛ばされて、再び床を転がるコキュートス。

 

「ーーーーぐ…。コレで覚醒していないとは、もはや詐欺だな。…恐るべき深淵の力…!!」

 

 起き上がりながら、ぼやくコキュートス。…そう言いつつも、彼の頭は忙しなく回転していた。

 

…彼の心配のタネは、戦場である〈エンジンルーム〉その物である。

 精密な機械の並ぶこの区画で戦う事自体が非常に危険。下手すれば、メインエンジン機能破損からの、タルタロスの全エネルギー喪失ときて、最終的に地上に墜落……と言う最悪なコンボが決まってしまう。

 

 敢えて部屋全体を凍らせる事で機械の保護を行なっているが、アビスの持つ力の前には、氷の保護など気休めにしかならない。

 

 なんなら、既にエンジンにダメージが入りだし、内部に溜め込まれている〈星のセラムエネルギー〉に狂いが生じ始めていた。

 

(マズい…実にマズい…。このままでは、タルタロスが墜ちる…!)

 

 最悪の可能性を想像したコキュートスの顔に、冷や汗が伝う。

 

 

 

……そしてコキュートスは知らぬ事だが、アビス自身も実は不味い状況にあった。

 

 

 

(ーーーーうっ…戦いが長引きすぎてる……。これ以上は、深淵の力を抑え込めない…!)

 

ーーーー深淵、即ち〈星のセラム〉を体内から解放させたアビス。

 深淵の解放は彼女に凄まじい力を与える代わりに、自我に影響を与え、アビス自身を破滅を振り撒く者へと変貌させてしまう。

 しかし、アビスは深層意識を研ぎ澄まして()()()()()()に争い、まだ何とか自我を保っていた。

 

……とは言え、今の彼女は通常状態と暴走状態の狭間…と言ったところ。これ以上戦いが長引くと、深淵が魅せる圧倒的な力の快感に耐え切れなくなる。

 

 実際、先程よりも自分の内側から漏れ出す〈星のセラム〉の量が、多くなって来ていた。荒れ狂う力が自分の中で解放を求め、うねっているのを感じる。

 

(出来る限り深淵を抑え込まないといけないのに…。でも抑え込んだままじゃ、コキュートスを倒し切れない…!)

 

 そう心の中で歯噛みするアビス。……仲間達の安全を考慮すると、これ以上の力の解放は行えない。しかし、今の力をセーブした状態ではコキュートスを倒し切れない。

 

 

 ならばどうするか………その答えが出る前に、コキュートスの方が動いた。

 

「ーーーーこの一撃をもって終わりにしよう、深淵の先導者よ!!…これ以上、この場所で戦い続ける訳には行かないのだッ…!!」

 

 そう叫んで、彼はサスマタを構える。……ここで一気に勝負に出るつもりなのだ。

 

 構えたサスマタと、彼の体を冷気が包み込んだ。彼のコートがはためき、エンジンルームが吹雪で満たされ始める。

 

……間違いなく、彼の持つ最大火力の必殺技が放たれようとしているのだ。

 

 ピキピキ…と音を立てて、アビスの周囲を囲む紫の触手が凍り付いていく。彼女の体を包み込む〈星のセラム〉が揺らいで、冷気が彼女に流れ込んでくる。……息を吸うだけで、肺が文字通り凍り付く程の極寒の空気ーーーーーーーー

 

(…コレは…今の力じゃ防げない…!もっと力を解放しないと……!!)

 

 戦慄したアビスに向かって、吹雪の中でコキュートスが気迫の篭った声で叫んだ。

 

「……その魂まで凍り付けッ!!《ジュデッカ・コキュートストーム》!!!!」

 

 

 放たれるは、絶対零度の巨大な竜巻。ソレは大気を凍て付かせ、アビスに迫るーーーー

 

「…ッ!!〈アビスゲイズ・オーバードーズ〉!!」

 

 攻撃範囲が広すぎて避ける事は不可能ーーーーそう判断したアビスは、迎え撃つ事に決めた。…もはやこれしか道は無いだろう。

 

ーーーー叫んだアビスの胸から歪な十字の光が生まれ、ドッと〈星のセラム〉が溢れ出す。

…アビスの技の1つ〈アビスゲイズ・オーバードーズ〉の力だ。コレは深淵をより深く取り込み、自身に強いバフを掛ける技である。

 

更にアビスは迫り来る竜巻に向かって手を翳した。

 

 

「……ごめん皆んなッ…。ーーーーアビスゲイズ……オーバーフロー!!」

 

 

ーーーー放たれたのは、オーバードーズの力によって威力が底上げされた彼女の必殺技だった。

 

 

 昏い闇の様な紫の波動と、光り輝く白銀の竜巻が激突しーーーーーーーー

 

 

……その瞬間、エンジンルームの全ての計器類の針が振り切れた。

 

 

 

ズドォーーーーーーーーーーンッ!!!!

 

 

 

 

ーーーー大気が爆ぜる。白と紫が混ざり合って、途轍もない衝撃がエンジンルーム全体を揺らした。

 

 

 捻じ曲がり、壊れて吹き飛んでいくエンジン。床と壁がヒビ割れ、砕け散り、散った破片すらも塵へと変わって消滅する程の大爆発。

 

 

 

…爆発の最中で、コキュートスは自分はやり方を誤った事を悟った。

 

 彼は、今のアビスの状態が100%の力を引き出した姿だとばかり思っていたのだ。

 

 しかし、そうでは無かった。…アビスはまだ力を抑えていたのだ。

 

 コキュートスが繰り出した必殺の一撃は、力を抑えているアビスになら打ち勝ち、彼女を凍らせてエンジンルームを守る事が出来た。

 

…だが、アビスはまだ力を残していた。彼の取るべき行動は、力で彼女を抑え込むのではなく、戦う場所を速やかに変える事だったのだ。

 

 

ーーーーしかし、もう遅い。

 

 

 エンジンルームは完膚無きまでに破壊された。この極秘研究施設を空に浮かべていた力は、いま失われたのだ。

 

 そしてエンジンルームで起きた爆発の衝撃は、タルタロス全体にまで響いていくーーーーーーーー

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〜数分前〜

 

 

 

 

……微かに白み出した夜空に、翠の閃光が舞う。

 

 

 タルタロス上空、奇巌城(エギーユクルーズ)の目の前で、カノンは翼を広げ飛翔していた。

 

ーーーー彼女の飛ぶ先には黒い歪な翼を持つ堕天使……否、グローリーの司教にして彼女の生みの親でもあるフェルシアが待ち構えている。

 

 

「はッ!!」

 

 勢い良く接近して、剣を突き出すカノン。ソレを黒い翼で受けるフェルシア。

 

それを見て、カノンは彼女に問い掛けた。

 

「…その姿はなんなの、お母様?!」

 

 フェルシアはカノンの剣を片手で持つと、ニヤリと微笑む。

 

「ーーーーコレはアナテマの恵みよ。カノン。…私は人を超える事に成功したの。…今の私なら、貴女とも同等に渡り合えるわ。」

 

 グイッ、とフェルシアが腕を引く。引っ張られて姿勢を崩したカノン。

 そのままカノンは抱き締められた。……柔らかい感覚と、歪な感覚が同時に彼女を包む。

 

「…ッ!!」

「ずっと、こうしたかったわ…カノン。あの日、貴女と反グローリー勢力によって別れ別れになってから、ずっと…ね。」

 

耳元に、フェルシアの甘い囁き。

 

ミシッ……

 

 締め付けられたカノンの体が軋んだ。ーーーー翼を広げ、フェルシアの拘束(ハグ)から逃れようとするカノン。

 

フェルシアは尚も囁く。

 

「方々を探して探して…貴女がイースターの一員として活動していたと分かった時、私は先ず安堵したわ。…貴女が生きてるって事にね。」

「くっ……離してお母様!」

 

もがくカノン。

 フェルシアは意に介さず、口を開いて話し続ける。

 

「貴女がちゃんと私の言う事を聞いて、一緒に来てくれれば良かったのだけれども…。まぁ、反抗期だから仕方ないわよね。ーーーー良いわよ…。反抗期の娘をちゃんと矯正して、正しい道に導いてあげるのも親の務め……だものね?」

 

 その囁きの直後、カノンの鳩尾にフェルシアが振るった黒翼がめり込んだ。

 

「かひゅッ……?!」

 

……骨が砕けたかと思う程の衝撃が胸から背中に抜けていき、タルタロスの方向へ吹き飛ばされるカノン。

 

 そのままタルタロスの甲板に叩き付けられる。そして、甲板を何度かバウンドして転がった。

 

「くっ…ーーーッ!」

 

 甲板の上で胸を押さえて蹲る彼女。…鳩尾を殴られた衝撃で、上手く息が吸えていない。

 

「カノン!!!」

 

 見かねたハレルヤがフェルシア目掛けて殴りかかるが、間に割って入って来たピキュールドラゴンに弾かれる。

 

「くそ…!」

「貴方はそこでフォリーの(ロボット)と遊んでなさいな。ーーーーまだ数は残っているでしょう??」

 

 その声と共に、ピキュールドラゴンがハレルヤを取り囲む様に彼に迫った。

 

『…対象ロックオン。速やかに殲滅を行う。』

 

無機質な機械音声が空に響く。

 

「ぬぅ……。邪魔だよッ…!!」

 

 フェルシアへの攻撃を諦めて迎え撃つしか無いハレルヤ。

 

 

 フェルシアは戦う彼を後ろに、タルタロスの甲板の上に降り立った。そして、カノンへ歩いて近付く。

 

 

「…私は貴女の全てを知っているわ、カノン。だって私がデザインしたのですもの。…長所も短所も、全てを知り尽くしているの。ーーーー例えば、貴女のバリア能力。コレは密着する程近付く事で、展開したバリアの内側に入り込んで無効化出来る……。さっきの様に、ね。」

 

 カツ、カツ、と甲板の上に足音が響く。…カノンはふらつきながらも立ち上がって叫んだ。

 

「……《智天使の模造聖剣(Uriel 's Sword)》!!」

 

 その叫びと共に、彼女の片手に光り輝く長剣が出現する。それを見て、フェルシアはニッコリと笑う。

 

「あら。私がちゃんと教えた通りに力を使ってるのね。……お母さんの教えを守ってくれてるみたいで嬉しいわぁ。良い子良い子。」

「ーーーもう喋らないでお母様ッ!!」

 

 迫真の声で叫んで、フェルシアに突撃するカノン。彼女の振り回す剣の軌跡が、幾重にも重なってフェルシアを襲う。

 

しかし、その攻撃は全て翼で弾かれた。

 

「…その攻撃は知ってるわ。私が教えたのだから。」

 

 フェルシアの落ち着いた声がカノンの耳に入る。…彼女は顔を顰めて、次の一手を放った。

 

「〈座天使の模造聖槍(Raphael ’s Spear)〉!!」

 

 剣が槍に変化して、フェルシアに突き出された。…鋭い刃先が彼女の胸を貫かんと迫りーーーー

 

「それも知ってるわよ。」

 

ーーーー蹴りで先端を蹴り上げて止められた。そのまま一気に距離を詰めてくるフェルシア。カノンは槍を素早く反転させて反対側の石突をつきだし、フェルシアを弾こうとする。

 

「ーーーーそうするわよね。」

 

しかしフェルシアはそれを読んでいた。

 

ーーーー石突を片手で上から押さえ込む様に防がれ、逆に蹴りを浴びせられる。

 

「ッ!!」

 

 蹴りはバリアで防いだが、カノンが反撃する前にフェルシアの方が距離を取った。

 

「だったら……ッ〈燭天使の模造聖銃(Michael ’s Rifle)〉!!」

 

ーーーー槍がまたまた形を変え、今度は一挺の小銃の形を取る。

 それをフェルシアに向けて構え、引き金を引くカノン。放たれたのは無数の散弾だった。

 

フェルシアは片手の指を鳴らす。

 

 

「…《エナジーサークル》。」

 

 

ーーーーギュンッッッ!!!

 

 彼女を中心にして広がった破壊的エネルギーの環が、散弾を呑み込んだ。

 

「…っ!」

 

 勢い良く迫る青いサークルを、飛んで回避するカノン。そして空中で翼をはためかせ、再び発砲する。放たれた散弾を素早く躱したフェルシア。

 

「まだまだ…ッ!」

 

 カノンは銃を両手で構え、散弾を上空から撃ち続ける。フェルシアはタルタロスの甲板をジグザグに飛び回って、ソレを回避し続けた。

 

「ふふ…。そんなんじゃ当たらないわよ?もっとしっかり狙いなさいな。」

「ーーーー!!」

 

 フェルシアの煽る様な口調に、少しずつ冷静さを欠いてきたカノン。

……もとより、彼女とばったり出会った時点で冷静さは失いかけていたのだが、自分の攻撃が悉く通用しない事で更に焦りが生まれていた。

 

「ん〜、焦ってるわね。…コレはお母さんからの忠告だけど、戦いの場では冷静さを欠いた方が先に負けるのよ?」

「…っ。」

 

……その甘い囁きが、カノンの精神を更に逆撫でしていく。そして気が付くと、フェルシアが目と鼻の先に迫っていた。

 

「…!!」

 

 反射的に引き金を引くーーーーが、フェルシアが銃口を手で逸らしていたので、放たれた散弾は何者も穿つ事なく散った。

 

 トン……と腹に手が当てられて、フェルシアの声が囁く。

 

「…ほら、まんまと近づかれちゃったでしょ?焦りは自分の視野を狭めるわ。焦ったら負けなの……こんな風にね。」

 

 その囁きと共に、カノンの腹部に閃光と激痛が走った。

 

 

「ーーーーーーー〈()()()エナジーサークル〉」

 

 

……彼女の目の前で弾けたのは2つのエナジーサークル。無慈悲に発生した破壊の閃光が彼女の体を呑み込んで、タルタロスの甲板に再び叩き墜とした。

 

 

ーーーーガッシャーーーーーンッッ!!!

 

 

 そのまま甲板を砕き割って、カノンは船内へと放り込まれる。瓦礫の中で血を吐いて倒れる彼女を外から見下ろして、フェルシアは口を開いた。

 

「ーーーー昔を思い出すわね。こうやって、戦い方の手解きをしていた日の事を……。流石に、血を吐かせる程本気じゃ無かったけれど。」

「けほっ…、かはっ、うぅ……。」

 

 昔を懐かしむかの様に呟きながら、カノンが開けた穴を通って船内に入り込むフェルシア。

 

 そして硬い足音を響かせながら、カノンに歩み寄ってくる。痛みに身体を震わせながらも、起き上がろうともがくカノン。

 フェルシアは彼女の側まで来ると、優しく声を掛けた。

 

「さぁ、目は覚めたかしら?……貴女は私の元に帰るのよ、カノン。ーーーーイースターから戻ってらっしゃい。貴女の居場所はソコじゃ無い。……私に造られた、『アナテマシリーズ』の一員として果たすべき役目があるのよ。貴女の仲間も沢山いるわ。」

 

カノンは首を振った。

 

「けほっ……嫌だ。アナテマは皆んなを不幸にする……私はこの力を幸せの為に使うって……決めてるんだ…。」

 

 フェルシアが我儘を言う子供を見るような目付きになった。

 

「あら、これだけ言っても聞かないの?しょうがない子ね……ならーーーーーーーー」

 

ーーーーその時、カノンはフェルシアの上に空いた穴から、ハレルヤが飛び込んできた事に気付いた。……その両手に具現化しているガントレットに、青い光が宿っているーーーーーー

 

 

「ーーーー《革命の双龍砲》ッッッ!!!」

 

 

 フェルシアの不意をついて、ハレルヤの叫びが木霊した。

 

「あらーーーー」

 

 驚き振り返ったフェルシアに、2本の青い光の奔流が降り注ぐ。カノンは咄嗟に自分の身をバリアで包んで、巻き添えにならないようにした。

 

 

……ドゴーーーーーンッッッ!!!

 

 

 青い爆発が辺りを包み込み、カノンは思わず目を閉じる。……自分の身体が、誰かにサッと抱えられる感触を感じたーーーーと思った瞬間には、自分はタルタロスの外に出ていた。

 

「…ごめん。ロボット(アイツら)の相手に手間取った!」

 

 目を開くと、直ぐ目の前にハレルヤの顔があった。…自分は彼に抱えられているのだと、カノンは自覚する。

 

 ちょっと恥ずかしいな…なんて思ったのも束の間、フェルシアの声が下から聞こえてきた。

 

「ハレルヤ、だったかしら?……良い一撃ね。翼が痛むわ。痛みを感じるなんて、久しぶりよ。」

 

 船内から再び甲板に出てきたフェルシアが、身体に付いた煤を払い落としながらそう言っている。彼女の翼からは煙が上がっていたが、ダメージは少なそうだ。

 

「ーーーーカノンは手出しするなって言ったけど……流石の俺も、彼女が痛めつけられてるのを黙って見てる様な人間じゃ無いんだよ。」

 

 ハレルヤが空からフェルシアを見下ろして言い放つ。フェルシアはニヤリと笑って翼を広げた。

 

「良いわよ。今度の相手は貴方と言うわけね?」

 

そう呟いてフェルシアが飛び立とうとした時ーーーー

 

 

 

ズドォーーーーーーーーーーンッ!!!!

 

 

 

ーーーー凄まじい衝撃が、タルタロスを揺らした。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〜メインコントロールルーム〜

 

 

 

 

「ち、中央のメインエンジンルームにて爆発と火災が発生ッ!!…タルタロスの主機が喪失しましたぁッ!!」

 

 タルタロス内部のコントロールルームに、切羽詰まった職員の絶叫が響き渡った。

 

 それと同時にタルタロスの内部電源がプツリと落ちて、部屋が暗くなる。

 

「非常用予備電源を入れろ!今直ぐにだ!!」

「は、はい!!」

 

 少し経ってから、部屋に灯りが戻った。…とは言え、さっきより付いている電気の数が少ない。

 

パソコンを叩いていたテラが顔を顰めた。

 

「ちっ。……予備電源じゃ無理があるだろ。まだEMP攻撃を継続して食らってるんだぞ??貧弱な予備電源だと、出来る事が一気に限られるじゃないか…。」

 

 そんな彼のぼやきを聞きつつ、ドクトゥール・フォリーは椅子から立ち上がった。手にはUSBメモリが握られている。

 

「…?フォリーさん、ソレは??」

 

 テラが目ざとくメモリの存在に気付いて、彼に問いかけた。

フォリーは軽く答える。

 

「なぁに。私の長年の研究データをメモリに入れただけさ。……タルタロスと一緒に、私の努力の結晶が鉄屑になってしまうのは嫌だからね。」

 

 そして彼はメモリをポケットに入れて歩き出した。

 

「ど、どこへ行かれるのですか??フォリー殿!!」

 

 驚いて尋ねる職員に向かって、フォリーは淡々とした口調で口を開いた。

 

「ここから脱出するのさ。ーーーータルタロスはもう墜ちる。…エンジンは壊れ、通信機器は繋がらず、移動能力も無い。オマケにアンソニー氏は裏切り、リンボの新人類は解放された。……新兵器(デスアーク)も芳しい成果が無いようだし、コレは我々の負けさ。」

 

 彼はそう言って、扉に向かった。そしてクルリと部屋の面々を振り返って、手を軽く振る。

 

「ーーーー君達も早めに脱出した方がいいぞ?…特にテラくん。君の頭脳が失われるのは連邦に取っての損失だ。さっさと見切りを付けて、逃げる事をお勧めするよ。」

 

テラは苦い顔になった。

 

「……ちっ、コレはプライドにクるなぁ……。」

「プライドより命さ。…死んでしまったら、プライドもクソも無いだろう??それじゃ、私は失礼するよ。」

 

 テラにそう言ってから、フォリーはメインコントロールルームから退出して行った。

 

 

後には、唖然とした職員だけが残される事となったのだーーーー。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ーーーーメインエンジンルームで起きた爆発。これは、コキュートスとアビスの戦いが原因で発生した物だった。

 

その爆発はタルタロス全体を揺らし、艦内の状況を一変させる。

 

 

 

 


 

 

 

 

〜第三アケロン付近 廊下〜

 

 

 

 

爆発の振動は、廊下で戦うアミダ達とエーテルの元にも訪れた。

 

 

 

「…?なんだ今の爆発?」

「え?何??何が起きたの?!」

「っ!ーーーーコレは……!!」

 

…驚いて、一旦戦いを止める両者。電気が一瞬消え、少し暗くなってからまた点く。

そして、警報が廊下全体に鳴り響き始めた。

 

「…!!主機喪失?!ーーーー嘘でしょ…?!」

 

 警報の意味を知っているのか、エーテルが青褪めて呟く。

 

「しゅ、主機喪失??なにそれ、どう言う事??」

 

…思わずアミダはエーテルに向かって問い掛けていた。エーテルもエーテルで、律儀に答えてくれる。

 

「主機……つまり、タルタロスのエンジンが壊れたって事よ。そして、エンジンが壊れたらタルタロスは墜落するわ!!」

 

「「「えっ!?」」」

 

ーーーーその場にいた全員が顔を見合わせた。……心なしか、床が傾いてきた気がする。

 

「こりゃ、逃げた方がいいな。」ーーーーとバサラ。

 

エーテルも頷いた。

 

「逃げる事をお勧めするわ。死にたくなければ…ね。」

 

 敵に逃亡する事を提案されるとはこれ如何に……と言った感じだが、今この場でお互いの意見は一致した。互いに背を向け、脱出の為に動き出す。

 

 

「ーーーーとりあえず2人とも聞いてくれ!ーーーー俺たちはまだタルタロスの外側に近い所にいる!このまま来た道を引き返した方が、早く外に出れる!行くぞ!!」

「ん、分かったバサラさん!」

「了解ですっ!」

 

ーーーー来た道を戻って退却を始める3人。エーテルはエーテルで、彼等とは反対側に走り出した。

 

「もう…!一体誰なのよ?エンジンルームでドンパチやった馬鹿は…!」

そう愚痴を言いながら、走り去っていくエーテル。

 

 

 こうして、第三アケロンでの戦いは突如として中断したのだ。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〜ドクトゥール・フォリーの研究室内〜

 

 

 

 

「ーーーーお?!」

「ーーーーっ!」

 

 アビスとコキュートスが引き起こした爆発の揺れは、ニルヴァーナとアルスラーンの戦いも止めさせた。

 

…部屋が小刻みに揺れて、パラパラと塵が落ちてくる。

 

「今のは……。」

 

 アルスラーンが訝しんだ時、ニルヴァーナが何やら無線機のような物を取り出して、誰かと会話を始め出した。

 

「もしもし。…あぁ、フォリーさん?……ほぉ?エンジンがイカれた??…なるほどなぁ。ーーーー了解、俺も乗せてってくれよな?」

 

 プツ、と無線機のスイッチを切ってからニルヴァーナはアルスラーンに向けて軽く肩を竦めて見せる。

 

「悪いが、お遊びはここまでだな。ーーーータルタロスの主機がブッ壊れた。……此処はあと10分ちょっとで地に墜ちる。逃げるんなら、今のうちだぜ?」

「何だと…?」

 

 驚いて口を開いたアルスラーン。間を置かずに、今度は彼女の携帯が鳴り響いた。発信主はバサラだ。

 

「ーーーーもしもし、私だ。」

 

 ニルヴァーナ()の前だが、アルスラーンは通話に出る。すると、走りながら喋っているようなバサラの声が、聞こえてきた。

 

『出てくれたかアルスラーン!……どうやらタルタロスが墜落するらしい!!お前も引き返せ!!俺は他の奴らにも連絡を取る!』

「ーーーー!!そうか……リンボの新人類はどうなったんだ??」

『分からん!ニュウに今から掛けるから切るぞ??奇巌城(エギーユクルーズ)で会おう!』

 

 通話はソコで終わった。アルスラーンが顔を上げると、ニルヴァーナと視線が合う。…彼が、だから言っただろ?と言わんばかりに目配せした。

 

「…理解したか?ーーーーなら逃げな。俺も逃げるからよ。」

「ーーーーあぁ。決着はまたの機会に持ち越しだな。……出来れば2回と会いたくは無いが。」

ニルヴァーナが、態とらしく溜息を吐いた。

「あーあ。ひでぇ事言ってくれるじゃねぇーか。……お前と戦うのは楽しかったのによぉ。」

「こっちは楽しみに来た訳じゃ無いのだよ。」

 

 顔を顰めてそう言ったアルスラーンは、踵を返して走り出す。既に、廊下が微かに斜めになり始めていた。

 ニルヴァーナも、彼女の姿が消えるのを見てから研究室から出て行く。

 

「…さてさて。ーーーーフォリーさんの言う通り、俺も格納庫へ急ぐか…。くくく…タルタロスが地に墜ちる瞬間を特等席で見れるかな??」

 

 まるでこれから面白い物が始まると言わんばかりに、笑いながらニルヴァーナは消えていった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

〜格納庫〜

 

 

 

 

爆発の揺れは、勿論格納庫にも響き渡った。

 

「な、なんじゃ!?」

 

 ゾルゲが驚いて辺りを見渡す。デスアークも異常を感知したのか、動きを止めた。

 

そして警報音が鳴り響き出す。

 

「…こ、この警報は…まさか。」

 

 その意味を知っていたのか、ニュウが驚いた顔で呟いた。首を傾げるネオ。

 

「なんなの…?」

「主機喪失です。……タルタロスのエンジンに、なんらかの異常が発生したと言う事ですね。ーーーーつまり……墜落の危機ってヤツですよ。」

 

ネオが目を見張った。

 

「それって、大変じゃない?!」

「えぇ。さっさと脱出しないと、皆んな地上の染みになっちゃいます。」

 

 彼がそう言う間にも、床が徐々に傾いてきたのをネオは感じ取った。

 

……もはや、此処でデスアーク相手に戦っている場合では無くなった様だ。早く新人類の皆んなを連れて、此処から出なければならない。

 

ーーーーしかし、ゾルゲは諦め悪く叫ぶ。

 

「行かせんぞ?!ーーーー死ならばもろともじゃ!!デスアークは未だ健在…!お主達は此処で止めてみせる!!裏切り者とイースターをこの世から消し去れるのであれば、タルタロスの消失ぐらい軽い物だッ!!」

 

 その叫びと共に、デスアークが再び動き出した。…大技を放った影響で動きはだいぶ鈍っているが、バリア能力があるせいで中々トドメが刺せない。

 

「く…厄介な…。バリアさえなんとか出来ればーーーー」

 

 ニュウが歯噛みした時、格納庫の暗がりが声が聞こえてきた。

 

 

「……止まれデスアーク。」

 

 

ーーーーガクンッ、とデスアークが縫い付けられたかのように停止する。

 

「んなッ?!」

 

 驚いて、声がした方を振り返ったゾルゲ。ーーーー暗がりの中から、ドクトゥール・フォリーが歩み出て来た。…デスアークを止めたのは彼のようだ。

 

 そして彼の後ろには巨大なロボットーーーーエール・ソレイユが佇んでいる。…コックピットには助手のソワンと、彼等に合流したニルヴァーナが乗っていた。

 

「諦め給えゾルゲ氏。……デスアークは未だプロトタイプ。頼みの綱の必殺技も効果無しなのならば、もうソイツに出来る事は無い。ーーーーと言うか、退いてくれないか?エール・ソレイユを発艦させたいのだが、君達が邪魔なんだよ。」

 

そんな彼の声にゾルゲが食って掛かった。

 

「な、何を消極的な!!…デスアークはまだ倒れておらん!!勝手に逃げ出すなよフォリー!!敵前逃亡など、わしは許さんぞ!?」

「もう壊れかけでボロボロじゃないか。…それに見たまえ。リンボの新人類にはまんまと逃げ出され、タルタロスは墜落を始めた。コレは我々の負けさ。」

 

 フォリーが指差した先には、格納庫に入ってきたアンソニーと新人類達の姿があった。…タルタロスが墜落すると知って、アンソニーが彼等の脱出の為に手早く動き始めたのだ。

 

「アンソニーさん!来たんですか!?」

「ーーーーああ!皆んなを輸送機に乗せる!…ニュウとネオも乗るんだ!!間も無く此処は墜落するぞ!!」

 

 ニュウとネオは互いに顔を見合わせ頷く。…ゾルゲとフォリーは、この際放っておいて良いだろう。

 

2人の後ろでゾルゲが叫んだ。

 

「おのれアンソニー!!…貴様、イースター共に手を貸すのかッ!?」

 

 叫ばれたアンソニーは、新人類全員が巨大な箱型の輸送機に乗ったのを確認してから、ゾルゲの方に向かって歩いて近付いた。

そして口を開く。

 

「あぁ。それが私の償いだ。無論、コレだけで償い切れるとは思っていない。」

 

 彼はそう言ってからネオ達の方を見て、手で先に行くよう促した。

 

「ーーーーだから、私はこのタルタロスと運命を共にする事に決めた。…嘗て、自分の手の届く範囲に助けられる命が在りながら、見殺しにして来てしまった事への償いの為に、私はこの命を捧げるつもりだよ。」

 

その宣言を聞いて驚いたネオとニュウ。

 

「アンソニーさん……。」

 

「償いさ。……果たして私の命1つで赦されるのなら良いがね。」

 

 清々しく笑って言ったアンソニー。一方で、ネオは大きな溜息をついて首を振る。

 

そして彼に近付くと、彼の腕を掴んで止めた。

 

「…ネオ??」

 

「なんで……なんで男の人って、死んで罪を償おうとする人達ばっかりなの??ーーーー死んだってなんの意味も無いのに。」

 

 若干、呆れたようにネオが口を開く。ーーーーそして彼を引き戻した。

 

「ーーーー償いは生きてこそ、だよ。…死は赦しじゃない。貴方は他の人に比べたら良い人。…だからこそ、これから先ずっと生きて償わなきゃ。死んだらダメ。」

 

アンソニーは唖然としたように声を震わせる。

 

「……そ、それで良いのか…?私は……」

「良いんだよ。…死んで償うなんて思わなくて。」

 

それを傍で聴いていたニュウも頷いた。

 

「若干、耳が痛いですが……俺もそれで良いと思いますよ。やっぱり生きてる事が1番ですから。」

「ーーーー!!」

 

 アンソニーはただ黙って俯いた。……そして、顔を上げる。その彼の目には、光が宿っていた。

 

「分かった…。君達が私にチャンスをくれるのなら、私は答えてみせよう。ーーーーこの命、新人類の為に使うと誓おうじゃないか…!」

 

ネオは嬉しそうに頷いた。

 

「うん、それが良いよ。…私たちと一緒に行こう。」

 

 

「ーーーーーーー行かせんと言っているだろうがぁッ!!」

 

 

和んだ空気を切り裂いて、ゾルゲが叫んだ。

 

 そして素早く胸元から拳銃を取り出して、アンソニーに向けるゾルゲ。指が引き金を引きーーーー

 

……パンッ!!

 

乾いた銃声。…ただし、銃を撃ったのはゾルゲでは無い。

 

 

「…私は行く事に決めた。悪いなゾルゲ殿。」

 

 

ーーーーアンソニーは、煙を上げるリボルバーを仕舞い込んでそう呟いた。ドサッと崩れ落ちるゾルゲ。

 

「…く…クソ…。だ…だが、お前の罪は消えんぞ…!忘れるな…貴様とワシらは同じ穴の狢なのだと…!幾ら償おうとも…刻まれた罪は決して消える事はないのだ…ッ!」

 

 血を流し、地べたに這いつくばりながら吐き捨てたゾルゲに向かって、アンソニーは静かに言い放った。

 

「確かに同じ穴の狢。ーーーーだが、狢にも住む穴を選ぶ権利ぐらいはあるだろう。…私はこの()を出ていく事にした。もはや会う事もあるまい。」

 

横から、ニュウもゾルゲを見下ろして口を開く。

 

「それに、罪は消えない方がいいんです。……消えなければ、何時でも罪を思い出して、自分を戒めれるじゃないですか。」

 

 ゾルゲは体を怒りに震わせて何かを言おうとしたが、もはや口を開く気力すら無いようだった。

……やがて彼の体から力が抜け、ゾルゲは自らから流れ出した血溜まりの中で事切れた……。

 

 

 

ーーーーいま此処に、タルタロスの新人類を巡る争いは決着したのだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………感動的だな。だが、無意味だ。」

 

 

 

 

ドンッッッ!!!!!

 

 

 

 

 ニュウのすぐ横を、エール・ソレイユが音を立てて通り過ぎていった。

 

ーーーーそして通りすがりに巨大なそのアームで、ネオの体を捕まえて船外に飛び出していったのだ。

 

 

「え。」

 

 

「ーーーーネオさんッ!?」

 

 

 まだ開き切ってすら無い格納庫のハッチを吹き飛ばして、ネオを捕まえたエール・ソレイユが白み始めた夜明けの空に舞う。

 

ーーーーそして、ドクトゥール・フォリーの声が響き渡った。

 

 

「ーーーー連邦はもう終わりだ。……だが寧ろ、私にとってはコレからなのだ。ーーーー『人』が『神』へ至る為の道……私の目指すモノはすぐソコにある!!預けていたネオは返して貰おう。」

 

 

 ニュウ達の目の前で、エール・ソレイユが大空に広げた翼がキラリと光ったーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 





最近、自分の中でキャラの力関係がよく分かんなくなってきてる。

脳内的には↓

ネオ>ニュウ≧アビス(深淵解放)>イースターの皆さん>キラリとアステール組(ハクビ達とか)

…って感じなんだよね。で、このままだとネオとニュウ以外が雑魚になるんだよ。
 そして、この物語はタルタロス編の終了をもって、全体の70%が終わるんですよね。
 これから先、仲間達でパワーアップイベントが有りそうなのはバサラとカノンかな?…すると、アミダとアルスラーンがハブられンゲル……。

強さの描写も難しい所だけど…ま、頑張ります。

あと、次回でタルタロス編は終わりッス。

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