タルタロス編最終話にして、ネオとニュウの関係性についての着地点となる話でもあります。
今回も一万文字越えなので、ゆっくり読んでネ。
◇◆◇
……タルタロスが遠く離れていく。
ーーーー耳元には強い風。体は金属質の腕でガッチリと拘束され、浮遊感が全身を包む。
自分は連れ去られようとしているのだーーーーと、ネオは理解した。
…そして、横からドクトゥール・フォリーの声が聞こえてくる。
「…幾ら君が優れた覚醒新人類と言えど、翼無くして空は飛べまい。ーーーーこのまま、大人しくしているんだな。」
「…!!」
横を振り向けば、赤い色合いの人型ロボのボディが目に映った。ーーーーエール・ソレイユだ。……如何やら、コックピットの中から語りかけられているらしい。
……そしてネオが下を見てみると、足元には虚空の空が広がっていた。雲海に遮られ、地上が見えないほど高い。
ーーーーまぁ、当たり前だろう。此処は成層圏なのだから。
(やられた……!今の自分には、空を飛ぶ力がない…!)
心の中で歯噛みするネオ。…彼女は〈リバースモード〉に覚醒した結果として、〈シールド〉と〈スピード〉の2つの形態を失っていた。
自分の力なら、エール・ソレイユの拘束を振り切って脱出する事自体は容易。
……だがそれをしたら最後、自分は地上に向かって真っ逆さまである。
(
ーーーーココで1つ。……彼女には、物質再構築の力で足場を創る能力が有る事を覚えているだろうか?(62話参照)
この能力さえ有れば空に何時でも足場を創れるので、自分の居る高さなど関係ない。
しかし、この力をネオはまだ、使いこなせていないのだ。…再構築とはイメージする力。
元々ある物を何か別の物に変える事ならイメージしやすくとも、何もない場所に何かを作るのはイメージし難い。
……例えば貴方が空から落下しているとして、果たして自分の足元に立てる足場があると強くイメージ出来るだろうか?
ただのイメージじゃない。足の裏に感じる感覚、足場の硬さや大きさまで、しっかりとイメージする必要がある。
『落下する恐怖』と言う、根源的恐怖に打ち勝って空に立つ。……ネオはまだ、その領域には至っていなかった。
ーーーー正確には、ニュウが一度殺された時に彼女はその領域に至っていたが、まだそれを再現する事が出来ていなかった。
(どうするーーーーーーーー?!)
焦る思考の中でネオは、タルタロスの方角から何かが煌めいたのを感じた。
…何かが落ちていく。
ーーーーいや、アレは…………
「ニュウくん……?!」
◇◆◇
……気が付いた時には、ニュウは船外に飛び出していた。
「ニュウッ?!何をするんだッ!?」
背後からアンソニーの驚愕した声が聞こえてくる。ーーーーが、すぐに風の音で聞こえなくなった。
…もちろん、死にに行った訳じゃ無い。だが、自分でも何で飛び降りる事にこんなにも躊躇いが無いのか謎だった。
(ーーーー自分には翼が無いんだぞ???何でこんなに冷静に飛び降りれるんだ???)
頭の中で自問自答しつつも、何故かニュウには謎の自信があった。
何故だろうか?
(……何だろう?この暖かさは……。僕の心臓から…光が漏れている気がする。いや、実際に光が漏れている…???)
ーーーーそう言えばネオさんが、自分の心臓はネオさんの欠けた〈セラムキューブ〉で出来てるって…言っていたようなーーーー。
ーーーーとニュウが思った瞬間、彼の胸が十字に光り、彼の周りに機械めいた青紫のパーツが現れた。
ーーーー機械の翼と、靴と一体化したスラスターの様な
「…〈
ほぼ無意識のうちに、ニュウは
…その瞬間、それらのパーツが輝いて彼の体に装着される。
ーーーーそして、ニュウは
「ッ!!……そうか…僕の所に移ったんだ!ネオさんの前の能力が…!!」
…自分の心臓の代わりを務めている、ネオの〈セラムキューブの欠片〉。偶然か必然か…その欠片には、彼女の持っていた前の能力が宿っていたのだ。
(ーーーー僕は………飛べるッ!!!)
ニュウが念じると、バサッッ!!と機械の翼が広がる。……嘗てネオの力だったその翼は、少し形を変えていた。
おそらく、ニュウに能力の発動権が移った事で変異が起きたのだろう。その翼はネオが使っていた頃よりも、より有機的な見た目に近付いていた。更に数も増えて、三対六枚になっている。
その翼全てをフル稼働させて、ニュウは薄く白む空を翔ける。
ーーーーーーーニュウは、遂に翼を手に入れたーーーーーーーー
「…キミが飛ぶのかよッ?!」
エール・ソレイユのコックピットで、フォリーは驚愕の声を上げた。
コックピット内のレーダーに、迫り来るニュウが光点で表示される。……驚くべきスピードだった。
ーーーーそして、それを見たネオが直ぐに動いた。
バキッ!!ーーーーと言う音と共に、エール・ソレイユの片手が内側から抉じ開けられる。
「ーーーーあ、博士!!ネオが落ちていくのデス!!」
ソワンの声に、フォリーはすかさずもう片方の手をネオに伸ばしてーーーー
……バキュ────ンッ!!
伸ばしたエール・ソレイユの片腕が、撃ち抜かれて爆ぜた。
「チッ…!!」
見ると、ニュウが飛翔しながら此方に〈レールガン〉を向けている。…自分自身が高速で飛翔しながら、此方に正確な射撃を行ってきたのだ。
それを見たニルヴァーナが歓喜の声を漏らす。
「うっひょお!アイツ、良い腕だなぁ!?早撃ち勝負がしたくなってきたぜ!!」
それを聞き流しつつ、フォリーは尚もネオに向かってエール・ソレイユを動かすが、ソレイユがネオに辿り着くより早く、青紫の流星となったニュウが飛んで来てネオを受け止めた。
「ニュウくんッ!」
喜び半分、驚き半分と言った感じに口を開くネオを抱き抱えながら、ニュウは笑う。
「どうもネオさん。……飛んで来ました!」
「…凄いよ!飛べたんだね、君。」
ネオの呆れた様な、驚いた様な声にニュウは軽く首を傾げつつ口を開いた。
「ーーーーそうっぽいですね。…自分でも良く分かんないですけど。」
そう言って、彼は六枚の翼を広げる。……そして、エール・ソレイユと対峙した。
「……驚いたよ。まさか、キミが飛ぶとはね……興味深い。」
本心から驚いているであろうドクトゥール・フォリーの声が、コックピットの中から聞こえてくる。
ニュウは抱えているネオを、より自分の方へ強く引き寄せながら、エール・ソレイユを睨み付けて口を開いた。
「ーーーーネオさんは渡しませんよ。…例えソッチがどんな手段を取っても、絶対に。」
その宣言に、フォリーの顔が歪む。
「ほぉ?……ならばコレはどうかな!?」
…ガチャンッ!
ーーーー音を立ててエール・ソレイユの装甲が展開し、無数の砲門が姿を表す。
そして、其れ等全てが一斉にニュウに向けて射撃を開始した。
「全武装一斉射撃〈フルバースト・オブ・サン〉。……さぁ、なんとかしてみせるが良い!!まともに喰らえば死ぬぞッ!!」
空にフォリーの煽る様な声が響き渡る。
「ニュウくん……!」
心配そうな声を出したネオに、ただニュウは微笑んだ。
「大丈夫です、貴女は死なせない。……僕が護りますから。」
彼の体を暖かい光が包む。……まるで燃えている様だーーーーとネオは思った。
でも、怖くは無い。とっても……優しい炎。
「〈シールドモード〉。」
…ガガガガガ、ガッキ────ンッッッ!!!!
ーーーー無数の火花が薄明の空に散る。
エール・ソレイユが放った攻撃が、彼が前方に展開した巨大な盾によって、全て防がれたのだ。
青紫に輝くその盾ーーーーまるで、神話に登場する女神アテナが持っているとされる『イージスの盾』に良く似た形ーーーーが、音もなく消える。
ニュウは勿論、ネオも無傷だった。……ただ暖かくて優しい炎が、2人を包む。この炎はニュウの胸から全身に広がっている様に見えた。
「…なるほど。」
フォリーはコックピットからニュウの姿を見て、納得する様に呟いた。
「…身体を包む、六枚の翼。そして、その炎は『神』への愛と情熱……か。」
エール・ソレイユがニュウから距離を取る。
「……まるで
ゆっくりと2人から離れていくエール・ソレイユ。追う気は無かったものの、去り際のフォリーの台詞が気になったニュウは、最後に彼に向かって問い掛けた。
「貴方は何をしようとしているんですか??……僕には、貴方は連邦の理想とは違うナニかを目指している様に見える…。一体、何が目的なんですか…???」
その問い掛けに、フォリーは静かに淡々と答えた。
「……私は自分の崇高なる知的欲求を満たしたいだけさ。この世の全てをこの目で見て、この耳で聞いて、この頭に焼き付け、この口で語りたいだけだ。ーーーー『百智を極めし者』……それに成れるので有れば、『人』としての
ソレイユの姿が、薄明の空の雲海に消えていく。最後にフォリーの声が、小さく響いた。
「覚えておきたまえ…人は神に成れる。……ネオが成った様にね。
雲海の白雲がソレイユの姿を完全に呑み込み、フォリー達は姿を消した。
それを黙って見送った2人だったが、背後から地鳴りの様な音が聞こえて来た事で、我に返って振り返る。
振り返った先では、いま正に
「ーーーー!!タルタロスが……落ちていく…。」
それを見たニュウが、そう呟く。ポツリと、まるで現実味の無い物を目の当たりにした様に……。
ーーーー2人の見る先で、空を飛ぶ地獄が地に墜ちていく。
既にエンジンルームから出た火が、タルタロスの7割を呑み込んでいた。
タルタロスを浮かべていた翼が折れ、船体の装甲が内側からバラバラと剥がれて風に舞っていく。
小規模な爆発が、立て続けに内部でも外側でも発生していた。
呆然とそれを見つめるニュウ達の視界の先に、空を飛ぶ輸送機が映る。…操縦席から、アンソニーが手を振った。ーーーー皆んな、脱出出来たようだ。
ーーーー遠くに、点々と黒い影が見える。……アレはおそらく、タルタロスの職員達が乗っている脱出艇だろう。
脱出艇には攻撃機能が無い為、彼らに出来る事はただ尻尾を巻いて逃げる事のみだ。
続いて、タルタロスから離れていく
アンソニーの操縦する輸送機が、
「終わったんだ……本当に……。」
もう一度ポツリとニュウが呟く。ネオはふと彼の顔を見上げて、ちょっと驚いた様な表情になった。
ーーーー彼は、泣いていたのだ。
「……本当に…皆んな、自由になったんだ……。」
声を震わせて彼は呟き続ける。……長年の理想が遂に叶ったのだ。連邦兵になった瞬間からずっと、願い続けていた理想がーーーーーー
「もう皆んな何処にだって行ける。ーーーーどんな事をしても良いし、どんな物を欲しがっても良いんだ。どんな夢を見ても…どんな思いを持っても……もう決して、それが制限される事は無い。」
彼の頬を涙が伝う。
それを見たネオは微かに微笑んで、そっと身体を動かした。
足を空に伸ばし目を閉じて、自分が立てる場所がココに有るのだと、強くイメージする。
…先程のような落下への恐怖は一切無かった。
だって、何かあったとしても、その時は彼が受け止めてくれるのだから。…絶対に。
カツン…と硬い水晶の立てる音がして、ネオは空に出来た足場に立つ。
ニュウも翼を閉じて、その足場に立った。
2人の目の前で炎を吹き上げながら、タルタロスが雲の中へ消えていく。…この感じだと、地上に墜ちる前に爆発して空中分解しそうだ。
「……良かったね。」
ソレを見ながら、ネオはそっと口を開いた。
「えぇ…皆んな自由になれた。」
ニュウの言葉に、ネオは軽く彼の肩を突く。
「え?」
「…貴方も、だよ。」
ネオのその言葉に、ニュウの目がパチクリとなった。ネオは続ける。労わるように、優しく………
「ニュウくんはずっと、ずっと、仲間達の自由の為に生きて来たんでしょ…?自分の自由すら犠牲にして…連邦の言いなりになって。…私は全部を知った訳じゃ無いけれど、きっと色んな目に遭って来て……。」
ーーーー東の空から、一条の光が姿を現した。ソレに照らされながら、彼女は続ける。
「…でも、今日で全てが終わった。だからもう、貴方も自由なんだよ。ーーーーどんな事だって出来るし、何を欲しがっても、何を望んでも良い……。ーーーーあ、そうだ。」
ふと、思い出したかのように自分の白い服を片手で軽く摘んで、彼女は口を開く。
「ーーーー誕生日に貰ったコレのお返しがまだだったね。」
そう言ってから、彼女は呆然となった彼に向かって手を差し出す。
……そして、微笑んで言った。
「ねぇ、ニュウくん。………何が欲しい???」
ニュウは目を見開いた。
「…何が…って……。」
「何でも良いよ。何でも言って。今なら、何だって出来る気がする。」
ネオはそう言う。……自分でも不思議な程の万能感が、全身に満ちていた。何故だろうか?彼の胸から溢れた、柔らかくて暖かい光のお陰だろうか?
…多分そうだ。彼の光が、自分にも力をくれているんだ。
「…………。」
思いがけず、と言った感じで黙ってしまったニュウ。
ニコリとして、彼の返事待ちをしているネオ。
暫くニュウは口をつぐんでいた。
ーーーー彼は今まで、他人の自由を求めて来た。それ以外は、何も要らなかった。自分自身に、心の底から渇望するモノなど何も無かった。
「……あ。」
ふと、自分の手を見る。……皆んなの自由は手に入った。ならば、この手の内に、今度は何を望む??
「なん、でも………。」
今までずっと、
顔を上げると、彼女の顔。…昇る朝日に照らされた、透き通った幻のような姿がそこにあった。
ーーーーこの幻には消えて欲しく無い。
…そう思った。
だから、手を伸ばした。
消えない様に…確かにしっかりと、自分の近くに、ココにソレが居られるように……。
「ーーーー貴女を、望んだら駄目ですか…?」
喉のーーー否、胸の奥を
「ーーーーうん、良いよ。」
笑って彼に囁いた。
……伸ばした手と手が、そっと触れ合ったその次の瞬間ーーーー
ズド──────ンッッッ!!!!
2人の目の前で、タルタロスが爆ぜた。…空中で発生した大規模な爆発が、成層圏の雲海を衝撃波で吹き飛ばしていく。
周りの空から一切の雲が消え、東の空には昇り出した太陽が、西の空には沈みゆく満月がハッキリと見えた。
……やがて爆発は収まり、何処までも広い空だけが残る。
空の半分は青く明るく、半分は未だ黒くて暗い、朝と夜の境界線ーーーーーーーそこに2人は立っていた。………立って、互いの存在を感じ取っていた。今までよりも、深く強く…その手の平から。
連邦はネオを自分達の物にしようとしていた。
しかし、彼女は連邦の物にはならなかった。
次に新人類優勢思想が、彼女を自分達の物にしようとした。
しかし、彼女は彼らの物にはならなかった。
イースターが、彼女を迎え入れた。彼女は帰れる場所を見つけた。
しかし、それでも彼女は孤独である自由を望んでいた。
故にイースターは、彼女を自分達の物にはしようとしなかった。
ーーーーされど、他の人々は違った。
誰しもが彼女の力に野望を抱き、彼女を
……ソレが『ネオ神話』。
だが、ソレはもう終わった。
1人の少年が、彼女を望んだ。彼女はそれに応えた。
◇◆◇
〜タルタロス爆発の数分前〜
ーーーーアビスは目を覚ました。
起き上がり、自分は何をして居たんだっけ?と、一瞬首を傾げる。
「……あ!そうだ、私…タルタロスをーーーー」
直前の記憶が戻ったのも束の間、彼女の視界に燃え盛る炎と噴き上がる黒煙が映り込んだ。
「…う、凄い煙…ゴホッ。」
思い出したかの様に、肺が過剰な二酸化炭素を排出せんと稼働を始める。
アビスは服の切れ端で鼻と口を抑えながら、姿勢を低くして動き出す。…だいぶと床が斜めになっていた。これでは床と言うより、坂だろう。
「……く、やっぱり深淵の力が強すぎた…。皆んなは大丈夫かな……。」
携帯を取り出そうとしたが見つけられ無い。戦いの最中で何処かに行ってしまったようだ。仕方なく、先に進む。
ーーー出口を探して這っている内に、前方の方に明かりが見えた。坂となった床の一部が、エンジンルームで発生した爆発で吹き飛んで外と繋がった様だ。
(…!外に出れる…!)
傾斜がかなり激しくなって来たが、なんとか床に空いた穴の所まで移動して穴を覗き込む。
……穴の向こうには、澄み切った空が広がっていた。
「よし、行ける…!」
自分を鼓舞し、穴の向こうにダイブ。ーーーーそのまま澄み切った空へ落ちていく。
視界から黒煙を噴き上げるタルタロスが遠ざかっていきーーーーーーーー
キラッ……
「……!」
アビスの視界の端に、此方に向かって飛んで来る青い光ーーーーハレルヤの姿が映り込んだ。
◇◆◇
「ーーーーギリギリセーフ!!」
タルタロスの下部から落ちて来たアビスを、空中で素早くキャッチして、ハレルヤはそう叫んだ。
因みにもう片方の手にはカノンを抱えている。
「ハレルヤ……。」
「良かった!バサラさんが連絡繋がらないって言ってからさ!…未だ中に居るかもって思ってたんだ!!」
「……他の皆んなは…?」
アビスの問いに、ハレルヤは顎で空を指した。ーーーー見ると、空を飛ぶ
「皆んな無事さ。アルスラーンさんもバサラさんも
その言葉にホッとなって、思わず体の力が抜けてしまった。
「そう………良かった………。」
「後はニュウ達とリンボの新人類だけどーーーー」
ハレルヤがそこまで言った所で、反対側に抱かれているカノンが彼の服を引っ張って話を止めさせる。
「…先に此処から離れた方が良い。ーーー多分、もうすぐタルタロスは爆発する。」
そうカノンが言っている内にも、タルタロスは激しく炎を噴き出し続けている。…船体の表面に亀裂が入り、今にも内側から砕け散りそうだ。
「っ!…そうだね。ーーーー直ぐに
ハレルヤは話を止めて、2人を両手に抱えたまま
ーーーー3人が立ち去ってからほんの少し後で、カノンの言った通りタルタロスは爆発して空の藻屑となるのだった………
◇◆◇
一方、タルタロスから脱出艇に乗り込んだ職員達は大慌てだった。
脱出艇には攻撃機能が無い為、
とは言え、やれる事ーーーーと言うか、やらなければいけない事はある。
「敵の通信妨害エリアからは離れました!……首都アークに連絡を入れます!!」
「ああ!伝えろ!!大至急だ!!…コレは前代未聞の大失態だぞッ!!」
ーーーー報連相は超大事。…職員達は、このタルタロスの真下に位置している首都アークへ、この出来事を伝えるのだった。
あわよくばアークから助けが来て、新人類達を奪還してくれるのではないか……と言う望みを賭けてーーーー。
しかし、結局アークは
……連邦の技術は、連邦すら欺いたのだ。
◇◆◇
……さて、此処から先に書くべき事は余りにも多い。
故に、軽くダイジェスト形式で『タルタロス襲撃事件』と、それを発端とした世界の激動について触れるとしよう。
先ず、タルタロスに封じ込められていた新人類達は、全員オーステルンに保護される事となった。
そして、元連邦の研究員アンソニー・Dによって、タルタロスで行われていた秘密の人体実験の記録と、実際に実験の対象となっていた新人類達からの証言がオーステルンに齎される。
連邦が、秘密裏に非人道的な実験を行っていたと言う証拠を得たオーステルンは、世界的に有名な動画配信者であるノアに依頼を出して、コレを世界に発信。
この
コレを受け、連邦加盟国であり新人類弾圧反対派の『ブリタニア』と『レシアル』の二大大国が、連邦に実験の情報開示を要請。
翌日、連邦はこの要請を棄却。
そして更に翌日、事態は大きく動く。
◇◆◇
『♬ まもなくかなたの ながれのそばで …♪』
…讃美歌が青い空に響いている。
『♪ たのしくあいましょう またともだちとーーー』
澄み切った歌声が、幾重にも重なって美しい旋律となっていく。
その歌声が微かに聞こえて来る中、グローリーの大司教フェルシアは綺麗な椅子に深く腰掛けていた。
彼女の背後にあるステンドグラスから差し込んだ光が、彼女のいる広い部屋に複雑な光の模様を描いている。
……よく見ると、そのステンドグラスは天使を象った物だった。
「連邦は、もう終わりかしら……ね。」
連邦の未来を冷静に判断して、小さなため息を吐くフェルシア。
その呟きに、側で聞いていた水色髪の研究者然とした女性が反応する。
「ま、色々ヤってた皺寄せが来てしまった…って事よねぇ〜。フェルシア様も、危ないんじゃ無い〜??反感なら結構買ってる筈よぉ?」
随分と馴れ馴れしい口調の女性に、フェルシアは眉一つ動かさずに自分の見解を述べる。
「……新人類達の間に蔓延していた反連邦感情が、一気に噴き上がろうとしているわ。ーーーー今まで連邦を疑いはすれど、明確な証拠が無くて追及出来ず燻っていた『ブリタニア』と『レシアル』に、タルタロスの実験体からの証言なんて言う、特大の燃料が投入されてしまったのですもの。」
彼女は、机の上に置かれてある大型のタブレット端末に目を落とした。…画面には、『タルタロスに囚われていた新人類達の、衝撃の証言記録まとめ(動画付き)』なるブログのページが映っている。
……僅か1日2日の内に、この驚くべき情報は世界を回った。
連邦は今まで新人類に対して、非人道的な実験はしていないと言い張って来ていた。ーーーしかし蓋を開ければ、連邦は平気な顔で非道な実験の数々を行っていたのだ。
ーーーー眠っていた反連邦感情の火が、燃え始めていた。
故に、連邦はその火を消そうと動き出すーーーー。
ーーーージリリリリリリリリ………!!!
……彼女の机の上にあった真っ赤な固定電話が鳴り響いた。…滅多に鳴り響く事の無いーーーそれこそ、国家存亡の危機ぐらいにしか鳴らない筈の、真っ赤な電話。
……それが鳴った。
「ーーーーーー連邦の中枢からお電話ですよ、フェルシア様。」
ーーーと、水色髪の女性。
フェルシアは、まるで予想していたかの様に落ち着き払って、赤い受話器に手を伸ばす。
「…こちら、フェルシアよ。」
「ーーーー私だ。」
受話器の向こうから、冷徹な空気を纏う声が響いた。……誰かなんて、誰何する必要はなかった。
「ご無沙汰しておりますわ、アーク様。」
…通話の向こうの主は、連邦の
彼の声が受話器越しに響くだけで、周りの空気が一気に張り詰めた様な…そんな気になって来る。
そんな空気の中で、あくまでもフェルシアは冷静に彼と話を交わす。
「ーーーー本日はどの様な御用件でしょう?」
「…分かっている筈だ。」
フェルシアは軽く目を閉じた。アークの感情を感じさせない声が、部屋に木霊する。
「…いま、世間を騒がしているモノについて知っているだろう。」
「ええ。理解しておりますわ。…オーステルンとイースターが齎した、タルタロスの実験記録ですわね?」
「ーーーーそうだ。…あのオーステルンと、イースターについてだ。」
アークの声に、ほんの一瞬苛立ちに似た感情が発露したが、直ぐにそれは消え失せた。…また淡々とした冷徹な声に戻って、アークは続ける。
「…今まで私はオーステルンとイースターを泳がせていた。…何故か分かるか??ーーーーーーそれは、奴等から動く事が無かったからだ。」
ーーーーしかし、と前置きしてアークは話を続けていく。
「ーーーー流れは変わった。…奴らは動き始めた。連邦の平和を乱すためにだ。……私が望むのは、新人類達が我々連邦の法に服すこと。例え反感を持っていようとも、ソレを表に出させずに抑え込めているのなら、私はそれを平和と呼ぶ。しかし、もはやそれは破られた。」
「………。」
黙って話を聞くフェルシア。
………遠くから讃美歌の歌が木霊する。
『♬ 神さまのそばの きれいな川で ♪』
『♪ …みんなであつまる日の ああなつかしや ♫』
讃美歌の優しい旋律。ーーーーアークの声が、その旋律を裂いて冷たく響いた。
「これ以上は看過できん。……連邦総帥アークの名の下に、〈教会国家グローリー〉に命じるーーーーーーー。」
『♬ 水晶よりすきとおる ながれのそばで… ♪』
「ーーーー反連邦団体イースター及び、その存在を黙認し協力する超弩級移動要塞都市オーステルンをーーーー」
『♫ …主をさんびしましょう みつかいたちとーーーー。』
「ーーーー消せ。」
讃美歌が終わった。
作中で使用した歌詞は、『まもなくかなたの』 聖歌687番より抜粋したものです。
次回 新章〈グローリー編〉で会いましょう。
あ…あとちょっとで終わる…長かったぁ…マジで………。