モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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75話〈開戦前Ⅱ〜模擬戦〜〉

 

 

 

 

……視界いっぱいに、白と翠の光が迸る。

 

 

ーーーー凄まじい速度で飛び出したカノンが、アルセーヌに突撃していったのだ。

 

 その右手には、大天使ミカエルが身に纏っていたとされる、巨大な甲冑の手甲が装着されている。

 

ブォンッ!!…と、空気を切り裂いて唸る一撃。

 

 それをアルセーヌは滑る様に回避すると、そのままカノンの懐に入る。

 

「…っ!」

 

 そして、脚で下から斜め上に蹴り上げる様な蹴りを放ったが、カノンは翼をはためかせて飛び上がる事で回避。

 

 すると、アルセーヌが空に飛んだカノン目掛けて片手を振る。

 

ーーーードッッ!!

 

 その手から闇色の波動が幾つか放たれて、カノンを襲った。

 

 翼を広げて、迫り来る波動を回避するカノン。ーーーーしかし、回避した筈の波動が、部屋の天井に当たって跳ね返ってきた。

 

「わ?!」

 

 空中で身を捩って躱すカノン。避けきれないと判断したものは、手甲で弾き落とす。

 

ーーーー全てを捌き切ったカノンが、再びアルセーヌの方に向き直った時、彼女は驚く程近くにいた。

 

「ちかーーーー」

「…部屋の中じゃ、やり難いわ。ーーーー場所を変えましょ。」

 

 肩を掴まれ、そのまま窓の向こうへアルセーヌと一緒に放り投げ出されるカノン。

 

窓にぶつかるーーーーーーーーと思った瞬間、

 

「フォール・イン・ザ・ダーク。」

 

 アルセーヌの技名発声と共に、カノンの体を薄紫の光が包んで、カノンとアルセーヌは窓を()()()()()

 

ーーーーふわっ……とした、浮遊感を感じる。

 

奇巌城(エギーユクルーズ)の外…?!)

 

 ここが何処だか自覚した途端、紫色の光が消えて、カノンはオーステルンの鋼鉄製の地面に叩き付けられた。…どうやら、奇巌城(エギーユクルーズ)からオーステルンの外縁部へと、叩き出されたらしい。

 

「ッ!!」

 

 素早く起き上がるカノン。少し離れた所にアルセーヌが、ストッ…と着地する。

 

「…よく考えたら、部屋の中では全力が出せないものね。ーーーー貴女も私も。」

 

アルセーヌが歩きながら口を開いて、そう言った。

 カノンは特に答えずに、その手の内にガブリエルの剣を生成する。そして生み出された剣を握り、アルセーヌに向き合った。

 

「ーーーー行く。」

 

 そう呟いて、カノンは飛び出す。…狙うはアルセーヌ。前方に突き出した剣の一撃が、彼女を貫こうとしてーーーーーーー

 

 

「ヒドゥン・イン・ザ・ダーク。」

 

 

ーーーースカッ

 

 

 アルセーヌの体が突然薄くなり、刺突は彼女の体を透過して空を切った。……対象の実体を一瞬消失させる技の様だ。

 

 すぐにアルセーヌの体は元に戻ったが、刺突が空振りになったカノンは、体勢を崩しかけてしまっていた。

 

「…ふっ」

 

 素早く足払いをかけるアルセーヌ。しかしカノンは崩れた姿勢から地面を蹴って、ソレを回避。回避した体勢のまま体を宙で捻り、上から彼女に斬りつける。

 

「…っと!」

 

 それを跳んで避けたアルセーヌだが、微かに前髪が切れて宙に舞った。

地面に着地するカノン。

 

 

 頭の中で、幼き日のフェルシアの教えが甦り、反響する。

 

『ーーーーどんな体勢でも、すぐに反撃に移れる様になっておきなさい、カノン。…例えばーーーー』

 

 カノンは頭を振って、幻聴を掻き消した。……今の動き(反撃)は完璧な動きだった。でも、そうじゃない。ーーーーコレは自分で身につけたものじゃ無い。教えられた物だ。

 

(お母様の教えに頼らずに!!私は勝つ…!!)

 

 そう心の中で自分に言い聞かせる様にカノンは宣言すると、アルセーヌに突撃していく。

 

 

ーーーーバッ!!!

 

 

 再び放たれる闇の波動。…それを避け、カノンはアルセーヌに肉薄する。

 

「……しっ!」

 

 アルセーヌが放ってきた手刀の一撃を半身で躱すと、そのまま腕を掴んで投げ飛ばそうとするカノン。しかし、アルセーヌが再び自らの実体を消した事で、投げは不発に終わる。

 

「はっ!」

 

 そしてカノンの投げを無効化したアルセーヌが、実体を再び取り戻して回し蹴りを放ってきた。

 ソレを半歩後ろに下がって回避。手に握ったガブリエルの剣を、ミカエルの手甲に変化させ、アルセーヌの肩に思いっきり握り拳を叩き込む。

 

「ーーーーーーーーッッ?!」

 

 インパクトの瞬間、アルセーヌは自分から後ろに飛ぶ事で衝撃を多少和らげたが、ソレでも完全にゼロには出来ずに吹き飛ばされた。

 

 

『ーーーー良くやったわね、カノン。……ゼロ距離戦闘では、如何に相手の攻撃を無力化して勝負を仕掛けるか…が鍵よ。ーーーーミカエルの甲冑による殴打が有効的ね。』

 

 

フェルシアの教えが、また1つ脳裏によぎる。

 

……また自分は、彼女の教え通りに動いていた。

 

(違う…!こうじゃ無い…!)

 

心の中で歯噛みするカノン。

 彼女の前で、倒れ込んでいたアルセーヌが起き上がり、口を開く。

 

「ーーーーんしょ……。ふぅ…今まで貴女と矛を交えた事は無かったけど、やっぱり強いわね。」

 

カノンは首を小さく振った。

 

「ううん。……コレはお母様からの貰い物でしか無い。ーーーーお母様に勝つには、自分だけの戦い方が必要……。」

 

カノンの呟きを聞いて、アルセーヌは目を細める。

 

「……別に、貴女1人だけがフェルシアと戦う必要は無いのよ?ーーーー貴女は1人じゃ無い。…仲間達の力を借りたって構わないのに。」

 

彼女の問いに、カノンは目を軽く伏せて呟いた。

 

「ーーーーコレは贖罪なの。……お母様がして来た事と、ソレに加担した自分に対する、贖罪なんだ。だから、私が1人でやるべき。」

「…………。」

 

 無言でカノンを見つめるアルセーヌ。一方で、カノンはずっと昔の記憶を思い出していたーーーーーーーー

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ーーーー初めてこの世に産まれた時、カノンは何も知らなかった。

 

 

…身体は既に成長した見た目だったが、その精神は無垢な赤子其の物だったのだ。

 

 

 自分の頬を、黒い手袋がそっと撫でた時の感覚を、未だに覚えている。…生まれ出てから最初に目にした物。

 

「ーーーーA()………。」

 

 特に意味も無く、顔の下がポッカリと開いて空気を震わせた。

 

 まだその時は、カノンは自分の姿すら知らなかった。今開いたのが『口』で、自分は『声』を出したのだと言う事すら、わからなかったのだ。

 

……その第一声を聞いた『黒い手袋』が、自分に声をかけた。…視界の中に、艶やかな2つの丸い煌めきが映り込む。ーーーーソレは『人の目』だった。

 

「ーーーーようやく目覚めたのね……私の可愛い子。」

 

…初めて聞いた音の震え。ソレが意味するモノが何なのか、カノンは知らなかった。ただ、頭の中に疑問符を浮かべーーーーいや、疑問すら抱く事をせず、ただ目の前に映り込んだ丸い煌めきを見つめるだけだった。

 

「…………ぁ。」

 

ーーーー何も理解していない。それでも、何故か口が開いてカノンは再び声を出した。……放たれたのは、自分でも意味を分かっていないコトバ。

 

 

「カア、サマ……?」

 

 

 目の前の丸い2つの煌めきが、強い光を湛えたーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

ーーーーこの世には私達と違うモノが居るの。

 

 

それは何なの?()()()

 

 

ーーーー新人類よ。

 

 

シン…人類……?

 

 

ーーーーーーええ。彼等は星のセラムに耐性を持つ者。……そして、恐るべき〈セラムの力〉の使い手。

 

 

ーーーー彼等はとても危険な存在。大災害の日以降、新人類によって幾つもの国が滅び、沢山の旧人類が死に絶えたわ。……彼等は、旧人類たる私たちの〈敵〉なの。

 

 

…??ーーーでも、お母様。私も星のセラムに耐性を持っているよ。〈セラムの力〉も使えるし……私も()()なの??

 

 

ーーーーいいえ。貴女は違うわ。……新人類にも、私達に力を貸してくれる者が居るように、私たちの味方も居る。ーーーそれに貴女は私の子で、私の味方よ?…心配する事は無いわ。ふふ………。

 

 

ーーーーだから、カノン?……貴女はその〈力〉を、私たちの為に使いなさい。その力で、私達を脅かす〈敵〉を斃すのよ。

 

 

テキを、斃す……

 

 

ーーーーええ。貴女に宿った〔天使の力〕なら、私達を導いていけるわ。私の為に戦ってくれるわよね??

 

 

うん。それがお母様の望みなら、私は戦う。…お母様の為、グローリーの民の為に。

 

 

ーーーーええ、嬉しいわ。やっぱり、貴女は私の最高の娘ね。…………ねぇ、カノン?

 

 

……何?お母様。

 

 

ーーーーーーー()()()()()()

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「ーーーーーーーカノン??カ〜ノ〜ン〜???」

「……はッ!」

 

 

カノンは記憶の海から引き摺り出された。

 

 

 パチパチと目を瞬かせるカノン。すると、自分を覗き込んでいたアルセーヌの紫水晶(アメジスト)色の瞳と目が合う。

 

(あ、そうだーーーー戦いの途中だった…。)

 

 自分が何をしていたのか思い出したカノン。頭を振って、遠い過去に飛んでいた心を今に引き戻す。

 

「ごめん。……ちょっとボーッとなってた。」

 

 アルセーヌは、気にしていないと言う様に肩を竦めた。

 

「良いわよ。……昔の事、思い出していたのね。」

「うん…。普段は思い出す事も少ないんだけど……。こんな時だからかな…?」

 

アルセーヌは小さく頷いた。

 

「そうかもね。ーーーーところで、1つ聞きたいのだけどカノン。」

「……??」

「ーーーー貴女は今、フェルシアの事をどう思ってるの??」

「ーーーー!?」

 

……それは突然の問いだった。カノンは一瞬目を丸くしてから、直ぐに口を開く。

 

「………敵だよ。私の。」

 

「ふぅん……。」

 

 アルセーヌは地面の端っこに座り込むと、何処からともなくグラスと小さなボトルを取り出して来て、優雅な手付きで中身をグラスに注ぎ始めた。…爽やかな香りが風に乗って鼻腔をくすぐる。

 

 見ると、グラスは2つあった。ジッと見詰めるカノンの視線に気付いたのか、アルセーヌがグラスの片方を持ち上げる。

 

「飲む?」

「……うん。」

 

ーーーーどうやら戦いは一旦中断らしい。

 

 カノンはアルセーヌからグラスを受け取って、彼女の隣に座り込む。

 そして、彼女と同じ様に足を地面の端から宙に投げ出して、グラスの中身をちょびっと飲んだ。

 

(……梅酒??)

 

 不思議な味に首を傾げていると、アルセーヌが足下に広がる雲海を見下ろしながら、グラス片手に話し出した。

 

「……本当に、自分の敵だと思ってる?ーーーーもしかしたら違うんじゃ無い??」

 

 その発言の意味がわからず、カノンは疑問符を浮かべた。

 

「……??それってどう言う事…?」

「ーーーー本当はまだ貴女の中に、フェルシアと言う存在への情が残ってるんじゃ無いか…って事よ。」

「情……。」

 

カノンはポツリと呟いた。

アルセーヌは話し続ける。

 

「ーーーー生物学的な繋がりがなくとも、曲がりなりにも自分の育て親なのよ?…長年一緒に過ごし、色んな事を教わってーーーー」

「ーーーーでもその教えは全部間違ってた。」

 

アルセーヌを遮る様にカノンは口を開いた。

 

「………。」

「お母様の教えは、新人類の事なんて何一つ考えて無かった。ただ一方的に新人類は悪だと教え込んで……。」

 

カノンはグラスを握り締める。

 

「……お母様は敵。ーーーーそれに、お母様は私の事なんて道具だとしか思ってない。…私に色々教え込んだのも、連邦として役に立つから。お母様は私に情なんて与えなかった。……だから、私の方にもお母様への情なんて無い筈。ーーーー有ったとしても、其れはもう真実を知った日に捨てた。残ってる訳が無い。」

 

 

 そう言い切って見せたカノン。アルセーヌは暫く黙ってグラスを傾けていたが、やがて徐ろに呟いた。

 

「心の奥は自分でも解らないものよ。……さっき思い出した記憶の中に、愛情を受けた記憶は無かったの?ーーーー言葉でも、態度でも、本当に何も??」

「愛情………。」

 

 

 

『ーーーーーー愛してるわよ。』

 

 

 

 脳裏に、フェルシアがいつの日か言った言葉が甦った。…ついさっき、思い出していたばかりのセリフ……。

 

()()。……お母様は、私を自分の思い通りに動かしたかっただけ。()()()()言葉は確かに有ったけど、ソレは私を操る為の方便に過ぎない……。」

「……………。」

 

 アルセーヌは無言でグラスを空にする。ーーーーそして小さく息を吐くと、話題を変える様に口を開いた。

 

「ーーーー本当の事は、本人に会ってみたら分かるかも…ね。ま、それは兎も角として、貴女の特訓に話を戻しましょうかしら?」

「うん。それが良い。」

 

 頷いたカノン。アルセーヌはグラスをキューブの中に仕舞い込んで、話し始める。

 

「ーーーー正直な話、私が貴女に教えられるような事はあまり無いわね。……人に何かをーーー特に技術を教えるのは、私苦手なのよ。そもそも貴女と私では戦い方も、能力も違う。貴女は色んな武器の扱いに精通していて、戦いの中で次々と能力を切り替えて戦うスタイルなのよね。……私が思うに、似た様な能力持ちと模擬戦をしてみた方が、得られるものが多い筈よ?」

 

 それは確かに一理あった。…カノンは小さく頷くと、彼女に問いかける。

 

「成る程。……じゃあ、誰が良いの??」

 

アルセーヌは、何故かニヤリとして答えた。

 

 

「ーーーーネオが良い相手になりそうね。」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

〜1時間後〜

〔オーステルン外縁部 軍事施設〕

 

 

 

「ーーーーそれで、私に手伝って欲しい……って訳なの?」

 

 

場所は変わって、オーステルンの軍事基地内部。

 

 

ーーーーアルセーヌに連れられて、カノンはネオの元へやって来ていた。

 

「えぇ。カノンの為に、ちょ〜っと手を貸して貰いたいのよ。」

 

 カノンの隣で、アルセーヌがネオと話をつけている。

 

「でも…私が人に何かを教えられるとは、思えないけど……。」

 

 そう首を傾げて言うネオに、アルセーヌは手を軽く振って見せた。

 

「ーーーー教えようとしなくても良いのよ。…カノン自らが、戦いの中で学んでいくんだから。ーーーそうよね?カノン?」

「うん。……私は自分のだけの戦い方を見つけたいだけ。それには、色んな人との関わりが必要。…アルセーヌは、ネオと戦うのが1番良いって言ってた。」

「……でも…。」

 

ネオは未だ納得いっていないご様子。

そんなネオに向かって、アルセーヌは話を続ける。

 

「ーーーー貴女、ココで自分の能力テストをしてるんでしょ?その延長だと思って貰って構わないわ。」

(ーーーー話の途中でアルセーヌは、遠くで見守っているサテライトとアフラ・マズダーの方をチラ見する。)

「…きっと戦闘データも欲しいでしょうし、テストだと思って付き合ってくれるかしら??」

 

 

……ネオは少しの間思案していたが、やがて頷いた。

 

 

「分かった。……それで良いなら、やって見る。」

 

 

…こうして、ネオとカノンの模擬戦が始まる事となったーーーー

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ザッ………

 

 

 

軍事施設の一角にある広場にて、両者は向かい合う。

 

穏やかな風が、互いの髪を揺らしていた。

 

「…………。」

 

 カノンは微かな緊張感を胸に抱きながら、およそ20メートル程離れた位置に佇む水色の影を見つめる。

 

……仮にも戦う相手として、ネオと向き合った事は無かった。カノンの中では、ネオは少し引いた立場にいつも居る様な、控えめな少女ーーーーと言うイメージだったのだが………

 

(なんだろう??ーーーーーー他とは違う空気を感じる……。)

 

ーーーーこうして向き合って見ると、彼女はイメージとまるで違った。

 

(まるで……星と向き合ってるみたい……。直ぐ近くにまで迫ってくる…輝く大きな星……。)

 

ーーーーカノンは思わず手を握り締めていた。彼女の後ろの空に、巨大な青い惑星の幻覚を見た気がする。

 

 

「それじゃあ……行くよ…?」

 

 

 見つめる先で、ネオがそっと口を開いた。彼女の片手にセラムキューブが浮かび上がり、それが光って消える。

 

 それと同時に、彼女の足元の空間に丸い窓の様な穴が開いて、巨大な大剣が飛び出して来た。

 

「ーーーーセラムキューブ:霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)。」

 

 独りでに宙に浮かぶ大剣の柄を握り、ネオは構える。カノンもキューブをスラリとした剣に変化させた。

 

「ーーーー《智天使の聖剣(Uriel ‘s Sword)》」

 

 具現化した剣を構え、カノンはネオに頷いて見せる。

 

「ーーーーうん。来て欲しい。」

 

その言葉が合図となって、ネオが動く。

 

 

ーーーードンッッ!!

 

 

 広場の地面を蹴って、カノンに向かって一気に接近。コフィンブレードを振り上げ、上段から叩きつける様に振り下ろして来た。

 

(重い一撃!受けるのは…危険…!)

 

 素早く飛び退って回避するカノン。……地面に叩きつけられたコフィンブレードが、激しい火花を放つ。

 

 

「ーーーーはッ!!」

 

 

 ネオの攻撃を躱したカノンは、直剣を閃かせてネオに斬り込む。ネオがコフィンブレードでそれを受け止め、火花が散った。

 

ーーーー鍔迫り合いは、どう考えても不利。故に、カノンはそのまま勢いよく剣を連続して振るい、ネオに怒涛の猛攻を仕掛けていく。

 

 コフィンブレードとウリエルの剣が互いにぶつかり合い、赤い火花が次々と乱舞した。

 

「ッ…!」

 

 カノンの連撃を煩わしく感じたのか、ネオが一旦距離を取る。そこで、カノンはすかさず次の行動に出た。

 

「《主天使長の短剣(Zadkiel 's Dagger)》!!」

 

 彼女の周りに無数の短剣が生み出され、ネオに向かって勢いよく射出される。

 

空気を切って、迫る短剣の雨。

 

ーーーーネオはそれを一眼見て、目を細める。そして、コフィンブレードを力を溜め込むかの様にグッと構えた。

 

「波ッ!!」

 

そして、一閃。

 

 

ーーーーゴウッッ!!!と、凄まじい勢いで振るわれたコフィンブレードの先端から、巨大な斬撃波が生じて空を奔る。

 その斬撃波に短剣は呑み込まれて、まるで嵐に巻き込まれた哀れな小枝の如く、揉みくちゃになって飛び散った。

 

 パリィン、と短剣が砕ける音があちこちに響く。随分と豪快な対処方法に、カノンが虚を突かれたその一瞬を見逃さず、ネオは次の行動に移った。

 

「セラムキューブ:鳥葬ノ槍(スカイ・ブリアル・スピア)

 

 彼女の声と共に、薄緑に光る槍が空間の穴から飛び出して来て、彼女の手に収まった。

 

「ふッッ!!」

 

 そして、ネオはそれを振りかぶって投擲。ーーーー空気を切り裂いて飛来した槍が、カノンに迫るーーーーーー

 

「《バリア》!!」

 

 

ーーーーコーーーーンッッ!!

 

 

 カノンの1メートル手前で、投擲された槍は阻まれた。…薄紫の半透明な障壁が、槍とカノンの間に浮かび上がる。

 

「……バリア、か。」

 

 ネオは小さく呟くと、地面を蹴った。そして脚を引き、バリアに突き刺さったままの槍の石突き目掛けて、鋭い蹴りを放つ。

 

ガッシャーーーーンッッ!!!

 

 ネオの蹴りで槍がバリアに深々と押し込まれ、カノンのバリアは砕け散った。

 

「うっそ!?」

 

 反応する暇なく、ネオの蹴りで再度加速した槍の先端が、カノンの胸にめり込む。

 

「かはッ?!」

 

 残像すら残る勢いで吹き飛ばされたカノンは、広場の端っこにバウンドして転がった。

 

「けほッ……そんな風に…槍を使ってくるなんて…。」

 

 胸を押さえながら、カノンは起き上がる。……ネオの槍の先端には、刃が付いていなかった。まぁ、付いていたら今頃串刺しだっただろうが。

 

「…ごめん。今のは…痛かったよね…。」

 

 ネオが申し訳なさそうな顔をして謝って来たが、カノンは首を振って口を開く。

 

「これは模擬とは言え、戦いだから。…傷付くなんてのは承知の話。寧ろ、もっとやって欲しい。」

「え。……カノンって…そんな趣味ーーー」

「無いよッ?!?!ーーーーそうじゃなくて!今なら何か掴めそうな気がしてるって事だよッ!?」

 

 在らぬ疑いが掛けられそうになって、カノンは全力で首を振った。

ネオがちょっぴり微笑む。

 

「分かってる。……冗談だよ。」

「冗談って……。ネオ、冗談なんて言うんだ。…意外。」

「ちょっと本気で思った所もあるけど。」

「ねぇ!(怒)」

 

 カノンは頬を膨らました。ネオは微笑みを浮かべたまま、頭を下げる。

 

「…ごめんね。ーーーーで、どうする?続ける??」

 

ネオからの問いかけに、カノンは頷いてみせた。

 

「もちろん続けるよ。ーーーーまだまだやる気はあるから。」

「分かった。なら、再開しようか。」

「うん。……さっきの手はもう食らわない。」

 

 

 2人は頷き合い、最初の位置に戻ると再び戦いを始めるのだったーーーーーーー

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「……実に凄い事になっているね。」

 

 アフラマズダーが、両者の戦いを観察しながらポツリと呟く。

 

「ーーーでしょ?良い実験結果が取れるんじゃない?」

 

 直ぐそばで観戦しているアルセーヌが、ニヤリと微笑む。サテライトがそんな彼女に話しかけた。

 

「ーーーー確かにそうだけど…。何か、アルセーヌ先輩が1番楽しそうにしてるんですが……。もしかして先輩、あの2人を戦わせてみたかっただけなんじゃ??」

アルセーヌは軽く肩を竦めた。

「まさか。…確かに、戦わせたらどうなるか気になっていたのは、事実だけれども、ちゃんとカノンの為でもあるからね?」

 

 そう言って、アルセーヌは2人の方を手で指し示した。

 

「ーーーー見てみなさい。…覚醒新人類であるネオの持つ力は、全てにおいて規格外。それでも、カノンは圧倒される事なく食らい付いている。攻撃を受ければ、それを学習して対策する。ーーーーネオの戦いは完全な我流。…基本の型など無く、時と場合に応じて、その戦い方を変化させて戦う。カノンが模擬戦(コレ)から得る物は多い筈よ。」

「……………。」

 

3人の見守る先で、更に白熱する戦い。

 

 

「《聖天使の審剣(Gabriel ‘s Sword)》!」

「セラムキューブ:火葬ノ剣(クリメイション・ソード)。」

 

 

 両者が生み出した武器と武器が、何度も打ち合って火花が散る。

 

「まだまだッ…!」

 

 カノンが緑の翼を煌めかせ、ネオに迫っていく。

 

「…!!」

 

…空中に舞う剣の軌跡が、ネオを四方から追い詰める。彼女はソレを受け止め、躱しながら、自らの中に力を練った。

 

(……少しだけ、()()()みようかな。カノン相手なら、大丈夫だと思うしーーー。)

 

 そう心の中で呟いたネオは、スッと目を細めた。思い浮かべるのは、自分の中に()()()()力を流し込むイメージ。

 

ブンッ……

 

 ネオの手に持たれていた赤色の剣(火葬ノ剣(クリメイション・ソード))が、崩れる様に消滅して、コフィンブレードが代わりに飛び出してくる。

 

 それを振って、カノンを自分の側から引き離すと、ネオは大剣を腰だめに構えた。

……剣に青い光が満ちる。

 

 

「ッッ!?…ネオの周辺に空間歪曲!ーーーーエネルギーが高次元から流れ込んでいる?!」

 

 見ていたアフラマズダーが、思わずと言った感じで口を開いた。

 

 カノンも一眼見て、コレはやばいのでは?ーーーと冷や汗をかく。……コレは模擬戦の筈だが、この一瞬だけ真剣勝負になってしまったかの様だった。

 

 

(何か…凄いのがくる…ッ??)

 

避けようとカノンが翼を広げた瞬間ーーーー

 

 

 

「ストライクショット:シザリアン・セクション」

 

 

 

 ネオがコフィンブレードを真っ直ぐ振り下ろした。ーーーーーーーー次の瞬間、空気が歪む。

 

 

 振り下ろしたコフィンブレードが地面に当たり、鋼鉄製の地面がいとも容易く真っ二つになる。剣先からは、凄まじい破壊の斬撃波が解き放たれ、直径500m程はある広場を横二分に切り裂くと、広場の向こうにあった兵器類を収納してある倉庫に命中。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………あ。」

 

 

 ネオがやりすぎた事に気づいた時には、既に時遅く、彼女の目の前には業火が広がる事となったのだーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「ーーーーあ〜〜……まさかグローリーとの戦争前に、物的被害が我が軍に出るとはなぁ………。いや、嘘だろオイぃ………。」

 

 瓦礫の山となった倉庫の前で、ケラウノスは頭を抱えて呟いた。勿論、中にあった兵器類はゴミ同然となっている。

 

「ごめんなさい………。」

 

 地面に正座したネオが、しゅん…と項垂れた。

 

「いや……まぁ施設使用許可出した時には、こんな事になるなんて俺ァ思わなかったけどさ。ーーーとは言え……」

 

 ケラウノスは、サテライトとアフラマズダーの方を見た。(あとアルセーヌ。)

 

「お前ら3人とも、見てたんなら止めろよぉ?!ーーーーどう考えてもやばいって気付くだろうがッ!?」

「は、はいぃ………。」

 

サテライトもネオと同じ様に縮こまる。

 

「すまぬな、ケラウノス副艦長。……余りにも興味深い現象だったので、つい止めるのを忘れてしまった。」

 

 アフラマズダーの方は、バツが悪そうな顔になりながらも、縮こまりはしなかった。

 

「学者として、好奇心を刺激されるのは分かるけどよぉ。ーーーー出来れば止めて欲しかったぜ?ーーーーーーったく……ただでさえ、ウチの戦力は少ないってのに……。」

 

 暫くケラウノスは頭を抱えていたが、やがて溜め息を1つ吐いて口を開いた。

 

「ま、起きちまったもんはしゃーねーか…。嘆いても時が戻るわけじゃねぇし。ーーーー壊れたのは施設の一部だけだしな。ま、今後ココで模擬戦する時は、気ぃつける様にするんだな。」

「…はい。すいません。」

 

 お咎めは以上だったが、最後にネオは倉庫の修復だけでもしようと申し出る事にした。

…兵器類は構造を理解していない以上、ハリボテにしかならないが、倉庫なら〈再構築〉で新造できる筈だ。

 

 

「ーーーーほぉ…。あんなにでっかい建物も、再構築出来んのか??」

「…うん。ーーーサテライト達曰く、再構築に限界は無いみたいだから…。せめて倉庫だけでも、直させて下さい。」

ケラウノスは頷いた。

「…ん。分かった。正直、俺も見てみたいんだよな。アンタの〈再構築〉ってヤツ。……やってみてくれ。」

「はい。」

 

 

 

……と言う事で、ネオは倉庫の再構築に取り掛かる。

 

 

「……よし。ーーーー再構築(リビルド)……開始。」

 

 

 両手を構え、瓦礫を対象にして能力を使用。ーーーー記憶を頼りに、倉庫を組み立てていく。

 

 浮かび上がった瓦礫が、一旦光の粒子となって崩れ、再び寄り集まって倉庫の形を成していくその様は、かなり神秘的でもあった。

 

「うおぉ………すっげぇ……。コレが再構築…もはや創造の類だろ…。」

 

ケラウノスが唖然となって呟く。

 

「……ゲームみたいね。」

 

 アルセーヌが感想を述べた。ーーーー確かに、ガコンガコンと倉庫が完成していく様はとても現実離れしていて、建築系ゲームの様にも見える。

 

 

「ん、出来た。」

 

 

ーーーー凡そ1分程で、倉庫の再構築は終了した。ちょっと形が違うとは言え、新築の家の様にピカピカになった倉庫。それを見て、ケラウノスが自嘲気味に笑う。

 

「……こりゃ、この世から大工の仕事は消えるな。」

 

 周りで事態を観察していたオーステルンの自警団や、施設の鎮火に来た消防隊の皆さんも、ただ唖然として突っ立っていた。…なんか絶望した顔の人も居る。きっと副業が大工なんだろう。

 

 

「……どう、かな??ーーーー上手くいったと思うんだけど…。」

「あぁ。バッチリだ。…寧ろ、ちょっとデカくなってないか?ってレベルだな。ーーーー助かったぜ。建て直しには費用も資材も掛かるしよ。」

 

 ケラウノスは満足した様に頷くと『もう壊すんじゃ無ぇぞ。』と言って、去っていった。

 

 

 後に残されたネオ。その後ろ姿にカノンが話しかける。

ーーーー先程の一撃を、カノンはなんとか回避する事に成功していたのだ。

 

「お疲れ様。」

「あ、うん…ありがと。」

 

 ネオの横に立って、彼女が造った倉庫を見上げるカノン。

 

「すごいね…再構築。あっという間に綺麗になった…。」

「ーーーーうん。上手くいって良かった。こんなに大きな物を、再構築した事無かったから。壊した時はかなり焦った……。」

「……びっくりしたよ、あの一撃。…死ぬかと思った。」

 

ネオは申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「アレは、自分の出力ミスだった。……もうちょっと押さえておけば良かったのに…。カノンの事も考えてなかった。ごめん。」

「避けれたから良いよ。ーーーー兎も角、今日はありがとう。…私の為に付き合ってくれて。迷惑じゃ無かったかな?」

 

ネオは首を振る。

 

「ううん。大丈夫。ーーーーで、何か掴めた?」

 

カノンは首を傾げた。

 

「……うーん…まだ分かんない。ーーーーでも、戦いの中で何かを掴めそうになったって言う感覚を得ただけでも、今日は収穫だったと思う。もしかしたら、明日も来るかも?」

「ーーーそう……。分かった。」

 

 頷いたネオ。そんな2人の横に、アルセーヌがそっと立った。

 

「お疲れさま、2人とも。ーーーー最後ゴタゴタしたけど、悪くない戦いっぷりだったわよ。良いもの見たわ。ふふふ…。」

カノンがジト目になる。

「ーーーーーーむ…もしかして、ただ私たちを戦わせたかっただけだったりする……?」

「…そうじゃないわよ。」

「本当に…?」

「本当よ。…何時もの疑う事を知らない純粋無垢なカノンは、どこに行ったの??」

「今日は居ないよ。疑心暗鬼のカノンなら居る。…なんか怪しいよ?アルセーヌ。」

「あらら、私は怪しくないわ。…そうでしょ?ネオ??」

(ネオは微妙な顔になった。)

「ーーーーーーえっと、怪盗だから……ね。」

「あら、厳しい。」

 

 

 空が微かに暗くなってきた中で、3人は帰路に着くのだったーーーー。

 

 

 






コフィンブレードに漢字を当ててみました。

あと、その他の武器類にも漢字を当てて見たんですけど、如何ですかね…?(無いと文章が寂しくて…。)

 武器の名前は、葬式とか死に関する物から取ってます。
「セラムキューブ:〇〇」←武器の展開時の口上。

 逆に武器を使用した技名は、出産や誕生に関する物から取ってます。
「ストライクショット:〇〇」←技発動時の口上。(区別大事)

開戦前の話は次回で終了。
次次回から、グローリーと戦う予定です。

じゃ、また次回( ´ ▽ ` )ノ
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