……視界いっぱいに、白と翠の光が迸る。
ーーーー凄まじい速度で飛び出したカノンが、アルセーヌに突撃していったのだ。
その右手には、大天使ミカエルが身に纏っていたとされる、巨大な甲冑の手甲が装着されている。
ブォンッ!!…と、空気を切り裂いて唸る一撃。
それをアルセーヌは滑る様に回避すると、そのままカノンの懐に入る。
「…っ!」
そして、脚で下から斜め上に蹴り上げる様な蹴りを放ったが、カノンは翼をはためかせて飛び上がる事で回避。
すると、アルセーヌが空に飛んだカノン目掛けて片手を振る。
ーーーードッッ!!
その手から闇色の波動が幾つか放たれて、カノンを襲った。
翼を広げて、迫り来る波動を回避するカノン。ーーーーしかし、回避した筈の波動が、部屋の天井に当たって跳ね返ってきた。
「わ?!」
空中で身を捩って躱すカノン。避けきれないと判断したものは、手甲で弾き落とす。
ーーーー全てを捌き切ったカノンが、再びアルセーヌの方に向き直った時、彼女は驚く程近くにいた。
「ちかーーーー」
「…部屋の中じゃ、やり難いわ。ーーーー場所を変えましょ。」
肩を掴まれ、そのまま窓の向こうへアルセーヌと一緒に放り投げ出されるカノン。
窓にぶつかるーーーーーーーーと思った瞬間、
「フォール・イン・ザ・ダーク。」
アルセーヌの技名発声と共に、カノンの体を薄紫の光が包んで、カノンとアルセーヌは窓を
ーーーーふわっ……とした、浮遊感を感じる。
(
ここが何処だか自覚した途端、紫色の光が消えて、カノンはオーステルンの鋼鉄製の地面に叩き付けられた。…どうやら、
「ッ!!」
素早く起き上がるカノン。少し離れた所にアルセーヌが、ストッ…と着地する。
「…よく考えたら、部屋の中では全力が出せないものね。ーーーー貴女も私も。」
アルセーヌが歩きながら口を開いて、そう言った。
カノンは特に答えずに、その手の内にガブリエルの剣を生成する。そして生み出された剣を握り、アルセーヌに向き合った。
「ーーーー行く。」
そう呟いて、カノンは飛び出す。…狙うはアルセーヌ。前方に突き出した剣の一撃が、彼女を貫こうとしてーーーーーーー
「ヒドゥン・イン・ザ・ダーク。」
ーーーースカッ
アルセーヌの体が突然薄くなり、刺突は彼女の体を透過して空を切った。……対象の実体を一瞬消失させる技の様だ。
すぐにアルセーヌの体は元に戻ったが、刺突が空振りになったカノンは、体勢を崩しかけてしまっていた。
「…ふっ」
素早く足払いをかけるアルセーヌ。しかしカノンは崩れた姿勢から地面を蹴って、ソレを回避。回避した体勢のまま体を宙で捻り、上から彼女に斬りつける。
「…っと!」
それを跳んで避けたアルセーヌだが、微かに前髪が切れて宙に舞った。
地面に着地するカノン。
頭の中で、幼き日のフェルシアの教えが甦り、反響する。
『ーーーーどんな体勢でも、すぐに反撃に移れる様になっておきなさい、カノン。…例えばーーーー』
カノンは頭を振って、幻聴を掻き消した。……今の
(お母様の教えに頼らずに!!私は勝つ…!!)
そう心の中で自分に言い聞かせる様にカノンは宣言すると、アルセーヌに突撃していく。
ーーーーバッ!!!
再び放たれる闇の波動。…それを避け、カノンはアルセーヌに肉薄する。
「……しっ!」
アルセーヌが放ってきた手刀の一撃を半身で躱すと、そのまま腕を掴んで投げ飛ばそうとするカノン。しかし、アルセーヌが再び自らの実体を消した事で、投げは不発に終わる。
「はっ!」
そしてカノンの投げを無効化したアルセーヌが、実体を再び取り戻して回し蹴りを放ってきた。
ソレを半歩後ろに下がって回避。手に握ったガブリエルの剣を、ミカエルの手甲に変化させ、アルセーヌの肩に思いっきり握り拳を叩き込む。
「ーーーーーーーーッッ?!」
インパクトの瞬間、アルセーヌは自分から後ろに飛ぶ事で衝撃を多少和らげたが、ソレでも完全にゼロには出来ずに吹き飛ばされた。
『ーーーー良くやったわね、カノン。……ゼロ距離戦闘では、如何に相手の攻撃を無力化して勝負を仕掛けるか…が鍵よ。ーーーーミカエルの甲冑による殴打が有効的ね。』
フェルシアの教えが、また1つ脳裏によぎる。
……また自分は、彼女の教え通りに動いていた。
(違う…!こうじゃ無い…!)
心の中で歯噛みするカノン。
彼女の前で、倒れ込んでいたアルセーヌが起き上がり、口を開く。
「ーーーーんしょ……。ふぅ…今まで貴女と矛を交えた事は無かったけど、やっぱり強いわね。」
カノンは首を小さく振った。
「ううん。……コレはお母様からの貰い物でしか無い。ーーーーお母様に勝つには、自分だけの戦い方が必要……。」
カノンの呟きを聞いて、アルセーヌは目を細める。
「……別に、貴女1人だけがフェルシアと戦う必要は無いのよ?ーーーー貴女は1人じゃ無い。…仲間達の力を借りたって構わないのに。」
彼女の問いに、カノンは目を軽く伏せて呟いた。
「ーーーーコレは贖罪なの。……お母様がして来た事と、ソレに加担した自分に対する、贖罪なんだ。だから、私が1人でやるべき。」
「…………。」
無言でカノンを見つめるアルセーヌ。一方で、カノンはずっと昔の記憶を思い出していたーーーーーーーー
◇◆◇
ーーーー初めてこの世に産まれた時、カノンは何も知らなかった。
…身体は既に成長した見た目だったが、その精神は無垢な赤子其の物だったのだ。
自分の頬を、黒い手袋がそっと撫でた時の感覚を、未だに覚えている。…生まれ出てから最初に目にした物。
「ーーーー
特に意味も無く、顔の下がポッカリと開いて空気を震わせた。
まだその時は、カノンは自分の姿すら知らなかった。今開いたのが『口』で、自分は『声』を出したのだと言う事すら、わからなかったのだ。
……その第一声を聞いた『黒い手袋』が、自分に声をかけた。…視界の中に、艶やかな2つの丸い煌めきが映り込む。ーーーーソレは『人の目』だった。
「ーーーーようやく目覚めたのね……私の可愛い子。」
…初めて聞いた音の震え。ソレが意味するモノが何なのか、カノンは知らなかった。ただ、頭の中に疑問符を浮かべーーーーいや、疑問すら抱く事をせず、ただ目の前に映り込んだ丸い煌めきを見つめるだけだった。
「…………ぁ。」
ーーーー何も理解していない。それでも、何故か口が開いてカノンは再び声を出した。……放たれたのは、自分でも意味を分かっていないコトバ。
「カア、サマ……?」
目の前の丸い2つの煌めきが、強い光を湛えたーーーーーーーー。
◇◆◇
ーーーーこの世には私達と違うモノが居るの。
それは何なの?
ーーーー新人類よ。
シン…人類……?
ーーーーーーええ。彼等は星のセラムに耐性を持つ者。……そして、恐るべき〈セラムの力〉の使い手。
ーーーー彼等はとても危険な存在。大災害の日以降、新人類によって幾つもの国が滅び、沢山の旧人類が死に絶えたわ。……彼等は、旧人類たる私たちの〈敵〉なの。
…??ーーーでも、お母様。私も星のセラムに耐性を持っているよ。〈セラムの力〉も使えるし……私も
ーーーーいいえ。貴女は違うわ。……新人類にも、私達に力を貸してくれる者が居るように、私たちの味方も居る。ーーーそれに貴女は私の子で、私の味方よ?…心配する事は無いわ。ふふ………。
ーーーーだから、カノン?……貴女はその〈力〉を、私たちの為に使いなさい。その力で、私達を脅かす〈敵〉を斃すのよ。
テキを、斃す……
ーーーーええ。貴女に宿った〔天使の力〕なら、私達を導いていけるわ。私の為に戦ってくれるわよね??
うん。それがお母様の望みなら、私は戦う。…お母様の為、グローリーの民の為に。
ーーーーええ、嬉しいわ。やっぱり、貴女は私の最高の娘ね。…………ねぇ、カノン?
……何?お母様。
ーーーーーーー
「ーーーーーーーカノン??カ〜ノ〜ン〜???」
「……はッ!」
カノンは記憶の海から引き摺り出された。
パチパチと目を瞬かせるカノン。すると、自分を覗き込んでいたアルセーヌの
(あ、そうだーーーー戦いの途中だった…。)
自分が何をしていたのか思い出したカノン。頭を振って、遠い過去に飛んでいた心を今に引き戻す。
「ごめん。……ちょっとボーッとなってた。」
アルセーヌは、気にしていないと言う様に肩を竦めた。
「良いわよ。……昔の事、思い出していたのね。」
「うん…。普段は思い出す事も少ないんだけど……。こんな時だからかな…?」
アルセーヌは小さく頷いた。
「そうかもね。ーーーーところで、1つ聞きたいのだけどカノン。」
「……??」
「ーーーー貴女は今、フェルシアの事をどう思ってるの??」
「ーーーー!?」
……それは突然の問いだった。カノンは一瞬目を丸くしてから、直ぐに口を開く。
「………敵だよ。私の。」
「ふぅん……。」
アルセーヌは地面の端っこに座り込むと、何処からともなくグラスと小さなボトルを取り出して来て、優雅な手付きで中身をグラスに注ぎ始めた。…爽やかな香りが風に乗って鼻腔をくすぐる。
見ると、グラスは2つあった。ジッと見詰めるカノンの視線に気付いたのか、アルセーヌがグラスの片方を持ち上げる。
「飲む?」
「……うん。」
ーーーーどうやら戦いは一旦中断らしい。
カノンはアルセーヌからグラスを受け取って、彼女の隣に座り込む。
そして、彼女と同じ様に足を地面の端から宙に投げ出して、グラスの中身をちょびっと飲んだ。
(……梅酒??)
不思議な味に首を傾げていると、アルセーヌが足下に広がる雲海を見下ろしながら、グラス片手に話し出した。
「……本当に、自分の敵だと思ってる?ーーーーもしかしたら違うんじゃ無い??」
その発言の意味がわからず、カノンは疑問符を浮かべた。
「……??それってどう言う事…?」
「ーーーー本当はまだ貴女の中に、フェルシアと言う存在への情が残ってるんじゃ無いか…って事よ。」
「情……。」
カノンはポツリと呟いた。
アルセーヌは話し続ける。
「ーーーー生物学的な繋がりがなくとも、曲がりなりにも自分の育て親なのよ?…長年一緒に過ごし、色んな事を教わってーーーー」
「ーーーーでもその教えは全部間違ってた。」
アルセーヌを遮る様にカノンは口を開いた。
「………。」
「お母様の教えは、新人類の事なんて何一つ考えて無かった。ただ一方的に新人類は悪だと教え込んで……。」
カノンはグラスを握り締める。
「……お母様は敵。ーーーーそれに、お母様は私の事なんて道具だとしか思ってない。…私に色々教え込んだのも、連邦として役に立つから。お母様は私に情なんて与えなかった。……だから、私の方にもお母様への情なんて無い筈。ーーーー有ったとしても、其れはもう真実を知った日に捨てた。残ってる訳が無い。」
そう言い切って見せたカノン。アルセーヌは暫く黙ってグラスを傾けていたが、やがて徐ろに呟いた。
「心の奥は自分でも解らないものよ。……さっき思い出した記憶の中に、愛情を受けた記憶は無かったの?ーーーー言葉でも、態度でも、本当に何も??」
「愛情………。」
『ーーーーーー愛してるわよ。』
脳裏に、フェルシアがいつの日か言った言葉が甦った。…ついさっき、思い出していたばかりのセリフ……。
「
「……………。」
アルセーヌは無言でグラスを空にする。ーーーーそして小さく息を吐くと、話題を変える様に口を開いた。
「ーーーー本当の事は、本人に会ってみたら分かるかも…ね。ま、それは兎も角として、貴女の特訓に話を戻しましょうかしら?」
「うん。それが良い。」
頷いたカノン。アルセーヌはグラスをキューブの中に仕舞い込んで、話し始める。
「ーーーー正直な話、私が貴女に教えられるような事はあまり無いわね。……人に何かをーーー特に技術を教えるのは、私苦手なのよ。そもそも貴女と私では戦い方も、能力も違う。貴女は色んな武器の扱いに精通していて、戦いの中で次々と能力を切り替えて戦うスタイルなのよね。……私が思うに、似た様な能力持ちと模擬戦をしてみた方が、得られるものが多い筈よ?」
それは確かに一理あった。…カノンは小さく頷くと、彼女に問いかける。
「成る程。……じゃあ、誰が良いの??」
アルセーヌは、何故かニヤリとして答えた。
「ーーーーネオが良い相手になりそうね。」
◇◆◇
「ーーーーそれで、私に手伝って欲しい……って訳なの?」
場所は変わって、オーステルンの軍事基地内部。
ーーーーアルセーヌに連れられて、カノンはネオの元へやって来ていた。
「えぇ。カノンの為に、ちょ〜っと手を貸して貰いたいのよ。」
カノンの隣で、アルセーヌがネオと話をつけている。
「でも…私が人に何かを教えられるとは、思えないけど……。」
そう首を傾げて言うネオに、アルセーヌは手を軽く振って見せた。
「ーーーー教えようとしなくても良いのよ。…カノン自らが、戦いの中で学んでいくんだから。ーーーそうよね?カノン?」
「うん。……私は自分のだけの戦い方を見つけたいだけ。それには、色んな人との関わりが必要。…アルセーヌは、ネオと戦うのが1番良いって言ってた。」
「……でも…。」
ネオは未だ納得いっていないご様子。
そんなネオに向かって、アルセーヌは話を続ける。
「ーーーー貴女、ココで自分の能力テストをしてるんでしょ?その延長だと思って貰って構わないわ。」
(ーーーー話の途中でアルセーヌは、遠くで見守っているサテライトとアフラ・マズダーの方をチラ見する。)
「…きっと戦闘データも欲しいでしょうし、テストだと思って付き合ってくれるかしら??」
……ネオは少しの間思案していたが、やがて頷いた。
「分かった。……それで良いなら、やって見る。」
…こうして、ネオとカノンの模擬戦が始まる事となったーーーー
◇◆◇
ザッ………
軍事施設の一角にある広場にて、両者は向かい合う。
穏やかな風が、互いの髪を揺らしていた。
「…………。」
カノンは微かな緊張感を胸に抱きながら、およそ20メートル程離れた位置に佇む水色の影を見つめる。
……仮にも戦う相手として、ネオと向き合った事は無かった。カノンの中では、ネオは少し引いた立場にいつも居る様な、控えめな少女ーーーーと言うイメージだったのだが………
(なんだろう??ーーーーーー他とは違う空気を感じる……。)
ーーーーこうして向き合って見ると、彼女はイメージとまるで違った。
(まるで……星と向き合ってるみたい……。直ぐ近くにまで迫ってくる…輝く大きな星……。)
ーーーーカノンは思わず手を握り締めていた。彼女の後ろの空に、巨大な青い惑星の幻覚を見た気がする。
「それじゃあ……行くよ…?」
見つめる先で、ネオがそっと口を開いた。彼女の片手にセラムキューブが浮かび上がり、それが光って消える。
それと同時に、彼女の足元の空間に丸い窓の様な穴が開いて、巨大な大剣が飛び出して来た。
「ーーーーセラムキューブ:
独りでに宙に浮かぶ大剣の柄を握り、ネオは構える。カノンもキューブをスラリとした剣に変化させた。
「ーーーー《
具現化した剣を構え、カノンはネオに頷いて見せる。
「ーーーーうん。来て欲しい。」
その言葉が合図となって、ネオが動く。
ーーーードンッッ!!
広場の地面を蹴って、カノンに向かって一気に接近。コフィンブレードを振り上げ、上段から叩きつける様に振り下ろして来た。
(重い一撃!受けるのは…危険…!)
素早く飛び退って回避するカノン。……地面に叩きつけられたコフィンブレードが、激しい火花を放つ。
「ーーーーはッ!!」
ネオの攻撃を躱したカノンは、直剣を閃かせてネオに斬り込む。ネオがコフィンブレードでそれを受け止め、火花が散った。
ーーーー鍔迫り合いは、どう考えても不利。故に、カノンはそのまま勢いよく剣を連続して振るい、ネオに怒涛の猛攻を仕掛けていく。
コフィンブレードとウリエルの剣が互いにぶつかり合い、赤い火花が次々と乱舞した。
「ッ…!」
カノンの連撃を煩わしく感じたのか、ネオが一旦距離を取る。そこで、カノンはすかさず次の行動に出た。
「《
彼女の周りに無数の短剣が生み出され、ネオに向かって勢いよく射出される。
空気を切って、迫る短剣の雨。
ーーーーネオはそれを一眼見て、目を細める。そして、コフィンブレードを力を溜め込むかの様にグッと構えた。
「波ッ!!」
そして、一閃。
ーーーーゴウッッ!!!と、凄まじい勢いで振るわれたコフィンブレードの先端から、巨大な斬撃波が生じて空を奔る。
その斬撃波に短剣は呑み込まれて、まるで嵐に巻き込まれた哀れな小枝の如く、揉みくちゃになって飛び散った。
パリィン、と短剣が砕ける音があちこちに響く。随分と豪快な対処方法に、カノンが虚を突かれたその一瞬を見逃さず、ネオは次の行動に移った。
「セラムキューブ:
彼女の声と共に、薄緑に光る槍が空間の穴から飛び出して来て、彼女の手に収まった。
「ふッッ!!」
そして、ネオはそれを振りかぶって投擲。ーーーー空気を切り裂いて飛来した槍が、カノンに迫るーーーーーー
「《バリア》!!」
ーーーーコーーーーンッッ!!
カノンの1メートル手前で、投擲された槍は阻まれた。…薄紫の半透明な障壁が、槍とカノンの間に浮かび上がる。
「……バリア、か。」
ネオは小さく呟くと、地面を蹴った。そして脚を引き、バリアに突き刺さったままの槍の石突き目掛けて、鋭い蹴りを放つ。
ガッシャーーーーンッッ!!!
ネオの蹴りで槍がバリアに深々と押し込まれ、カノンのバリアは砕け散った。
「うっそ!?」
反応する暇なく、ネオの蹴りで再度加速した槍の先端が、カノンの胸にめり込む。
「かはッ?!」
残像すら残る勢いで吹き飛ばされたカノンは、広場の端っこにバウンドして転がった。
「けほッ……そんな風に…槍を使ってくるなんて…。」
胸を押さえながら、カノンは起き上がる。……ネオの槍の先端には、刃が付いていなかった。まぁ、付いていたら今頃串刺しだっただろうが。
「…ごめん。今のは…痛かったよね…。」
ネオが申し訳なさそうな顔をして謝って来たが、カノンは首を振って口を開く。
「これは模擬とは言え、戦いだから。…傷付くなんてのは承知の話。寧ろ、もっとやって欲しい。」
「え。……カノンって…そんな趣味ーーー」
「無いよッ?!?!ーーーーそうじゃなくて!今なら何か掴めそうな気がしてるって事だよッ!?」
在らぬ疑いが掛けられそうになって、カノンは全力で首を振った。
ネオがちょっぴり微笑む。
「分かってる。……冗談だよ。」
「冗談って……。ネオ、冗談なんて言うんだ。…意外。」
「ちょっと本気で思った所もあるけど。」
「ねぇ!(怒)」
カノンは頬を膨らました。ネオは微笑みを浮かべたまま、頭を下げる。
「…ごめんね。ーーーーで、どうする?続ける??」
ネオからの問いかけに、カノンは頷いてみせた。
「もちろん続けるよ。ーーーーまだまだやる気はあるから。」
「分かった。なら、再開しようか。」
「うん。……さっきの手はもう食らわない。」
2人は頷き合い、最初の位置に戻ると再び戦いを始めるのだったーーーーーーー
◇◆◇
「……実に凄い事になっているね。」
アフラマズダーが、両者の戦いを観察しながらポツリと呟く。
「ーーーでしょ?良い実験結果が取れるんじゃない?」
直ぐそばで観戦しているアルセーヌが、ニヤリと微笑む。サテライトがそんな彼女に話しかけた。
「ーーーー確かにそうだけど…。何か、アルセーヌ先輩が1番楽しそうにしてるんですが……。もしかして先輩、あの2人を戦わせてみたかっただけなんじゃ??」
アルセーヌは軽く肩を竦めた。
「まさか。…確かに、戦わせたらどうなるか気になっていたのは、事実だけれども、ちゃんとカノンの為でもあるからね?」
そう言って、アルセーヌは2人の方を手で指し示した。
「ーーーー見てみなさい。…覚醒新人類であるネオの持つ力は、全てにおいて規格外。それでも、カノンは圧倒される事なく食らい付いている。攻撃を受ければ、それを学習して対策する。ーーーーネオの戦いは完全な我流。…基本の型など無く、時と場合に応じて、その戦い方を変化させて戦う。カノンが
「……………。」
3人の見守る先で、更に白熱する戦い。
「《
「セラムキューブ:
両者が生み出した武器と武器が、何度も打ち合って火花が散る。
「まだまだッ…!」
カノンが緑の翼を煌めかせ、ネオに迫っていく。
「…!!」
…空中に舞う剣の軌跡が、ネオを四方から追い詰める。彼女はソレを受け止め、躱しながら、自らの中に力を練った。
(……少しだけ、
そう心の中で呟いたネオは、スッと目を細めた。思い浮かべるのは、自分の中に
ブンッ……
ネオの手に持たれていた赤色の剣(
それを振って、カノンを自分の側から引き離すと、ネオは大剣を腰だめに構えた。
……剣に青い光が満ちる。
「ッッ!?…ネオの周辺に空間歪曲!ーーーーエネルギーが高次元から流れ込んでいる?!」
見ていたアフラマズダーが、思わずと言った感じで口を開いた。
カノンも一眼見て、コレはやばいのでは?ーーーと冷や汗をかく。……コレは模擬戦の筈だが、この一瞬だけ真剣勝負になってしまったかの様だった。
(何か…凄いのがくる…ッ??)
避けようとカノンが翼を広げた瞬間ーーーー
「ストライクショット:シザリアン・セクション」
ネオがコフィンブレードを真っ直ぐ振り下ろした。ーーーーーーーー次の瞬間、空気が歪む。
振り下ろしたコフィンブレードが地面に当たり、鋼鉄製の地面がいとも容易く真っ二つになる。剣先からは、凄まじい破壊の斬撃波が解き放たれ、直径500m程はある広場を横二分に切り裂くと、広場の向こうにあった兵器類を収納してある倉庫に命中。
「…………あ。」
ネオがやりすぎた事に気づいた時には、既に時遅く、彼女の目の前には業火が広がる事となったのだーーーーーーーー。
◇◆◇
「ーーーーあ〜〜……まさかグローリーとの戦争前に、物的被害が我が軍に出るとはなぁ………。いや、嘘だろオイぃ………。」
瓦礫の山となった倉庫の前で、ケラウノスは頭を抱えて呟いた。勿論、中にあった兵器類はゴミ同然となっている。
「ごめんなさい………。」
地面に正座したネオが、しゅん…と項垂れた。
「いや……まぁ施設使用許可出した時には、こんな事になるなんて俺ァ思わなかったけどさ。ーーーとは言え……」
ケラウノスは、サテライトとアフラマズダーの方を見た。(あとアルセーヌ。)
「お前ら3人とも、見てたんなら止めろよぉ?!ーーーーどう考えてもやばいって気付くだろうがッ!?」
「は、はいぃ………。」
サテライトもネオと同じ様に縮こまる。
「すまぬな、ケラウノス副艦長。……余りにも興味深い現象だったので、つい止めるのを忘れてしまった。」
アフラマズダーの方は、バツが悪そうな顔になりながらも、縮こまりはしなかった。
「学者として、好奇心を刺激されるのは分かるけどよぉ。ーーーー出来れば止めて欲しかったぜ?ーーーーーーったく……ただでさえ、ウチの戦力は少ないってのに……。」
暫くケラウノスは頭を抱えていたが、やがて溜め息を1つ吐いて口を開いた。
「ま、起きちまったもんはしゃーねーか…。嘆いても時が戻るわけじゃねぇし。ーーーー壊れたのは施設の一部だけだしな。ま、今後ココで模擬戦する時は、気ぃつける様にするんだな。」
「…はい。すいません。」
お咎めは以上だったが、最後にネオは倉庫の修復だけでもしようと申し出る事にした。
…兵器類は構造を理解していない以上、ハリボテにしかならないが、倉庫なら〈再構築〉で新造できる筈だ。
「ーーーーほぉ…。あんなにでっかい建物も、再構築出来んのか??」
「…うん。ーーーサテライト達曰く、再構築に限界は無いみたいだから…。せめて倉庫だけでも、直させて下さい。」
ケラウノスは頷いた。
「…ん。分かった。正直、俺も見てみたいんだよな。アンタの〈再構築〉ってヤツ。……やってみてくれ。」
「はい。」
……と言う事で、ネオは倉庫の再構築に取り掛かる。
「……よし。ーーーー
両手を構え、瓦礫を対象にして能力を使用。ーーーー記憶を頼りに、倉庫を組み立てていく。
浮かび上がった瓦礫が、一旦光の粒子となって崩れ、再び寄り集まって倉庫の形を成していくその様は、かなり神秘的でもあった。
「うおぉ………すっげぇ……。コレが再構築…もはや創造の類だろ…。」
ケラウノスが唖然となって呟く。
「……ゲームみたいね。」
アルセーヌが感想を述べた。ーーーー確かに、ガコンガコンと倉庫が完成していく様はとても現実離れしていて、建築系ゲームの様にも見える。
「ん、出来た。」
ーーーー凡そ1分程で、倉庫の再構築は終了した。ちょっと形が違うとは言え、新築の家の様にピカピカになった倉庫。それを見て、ケラウノスが自嘲気味に笑う。
「……こりゃ、この世から大工の仕事は消えるな。」
周りで事態を観察していたオーステルンの自警団や、施設の鎮火に来た消防隊の皆さんも、ただ唖然として突っ立っていた。…なんか絶望した顔の人も居る。きっと副業が大工なんだろう。
「……どう、かな??ーーーー上手くいったと思うんだけど…。」
「あぁ。バッチリだ。…寧ろ、ちょっとデカくなってないか?ってレベルだな。ーーーー助かったぜ。建て直しには費用も資材も掛かるしよ。」
ケラウノスは満足した様に頷くと『もう壊すんじゃ無ぇぞ。』と言って、去っていった。
後に残されたネオ。その後ろ姿にカノンが話しかける。
ーーーー先程の一撃を、カノンはなんとか回避する事に成功していたのだ。
「お疲れ様。」
「あ、うん…ありがと。」
ネオの横に立って、彼女が造った倉庫を見上げるカノン。
「すごいね…再構築。あっという間に綺麗になった…。」
「ーーーーうん。上手くいって良かった。こんなに大きな物を、再構築した事無かったから。壊した時はかなり焦った……。」
「……びっくりしたよ、あの一撃。…死ぬかと思った。」
ネオは申し訳なさそうに目を伏せた。
「アレは、自分の出力ミスだった。……もうちょっと押さえておけば良かったのに…。カノンの事も考えてなかった。ごめん。」
「避けれたから良いよ。ーーーー兎も角、今日はありがとう。…私の為に付き合ってくれて。迷惑じゃ無かったかな?」
ネオは首を振る。
「ううん。大丈夫。ーーーーで、何か掴めた?」
カノンは首を傾げた。
「……うーん…まだ分かんない。ーーーーでも、戦いの中で何かを掴めそうになったって言う感覚を得ただけでも、今日は収穫だったと思う。もしかしたら、明日も来るかも?」
「ーーーそう……。分かった。」
頷いたネオ。そんな2人の横に、アルセーヌがそっと立った。
「お疲れさま、2人とも。ーーーー最後ゴタゴタしたけど、悪くない戦いっぷりだったわよ。良いもの見たわ。ふふふ…。」
カノンがジト目になる。
「ーーーーーーむ…もしかして、ただ私たちを戦わせたかっただけだったりする……?」
「…そうじゃないわよ。」
「本当に…?」
「本当よ。…何時もの疑う事を知らない純粋無垢なカノンは、どこに行ったの??」
「今日は居ないよ。疑心暗鬼のカノンなら居る。…なんか怪しいよ?アルセーヌ。」
「あらら、私は怪しくないわ。…そうでしょ?ネオ??」
(ネオは微妙な顔になった。)
「ーーーーーーえっと、怪盗だから……ね。」
「あら、厳しい。」
空が微かに暗くなってきた中で、3人は帰路に着くのだったーーーー。
コフィンブレードに漢字を当ててみました。
あと、その他の武器類にも漢字を当てて見たんですけど、如何ですかね…?(無いと文章が寂しくて…。)
武器の名前は、葬式とか死に関する物から取ってます。
「セラムキューブ:〇〇」←武器の展開時の口上。
逆に武器を使用した技名は、出産や誕生に関する物から取ってます。
「ストライクショット:〇〇」←技発動時の口上。(区別大事)
開戦前の話は次回で終了。
次次回から、グローリーと戦う予定です。
じゃ、また次回( ´ ▽ ` )ノ