モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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開戦前の話はここで終わりです。






76話〈開戦前 F 〜記憶、辿っても〜〉

 

 

 

 

 

[1月9日 移動要塞都市オーステルン 中枢]

〜宣戦布告から4日後〜

 

 

 

「〔アナテマシリーズ〕ーーーーグローリーを代表する戦力の名だ。……その正体は、フェルシアの意のままに動く恐るべき怪物…だと聞いている。」

 

 

 

ーーーー中枢の一角、[艦長室]にてーーーー

 

 

 

部屋の中で、話し合う三つの声が木霊する。

 

 そのうちの2人は、お馴染みオーステルンの艦長ゼウスと副艦長ケラウノスだ。

ーーーーそして部屋に居るもう1人は、元連邦の研究者〔アンソニー・D〕だった。

 

 タルタロスで連邦から離反してネオ達について来て以来、彼はゼウス達〈中枢〉のメンバーに、連邦の情報を知り得る限り提供していた。

 

 グローリーについての情報も、彼から大量に齎されている。ーーーーそれを元に、ゼウス達は交戦の準備を進めていた。

 そして今は〔アナテマシリーズ〕についての情報を、アンソニーから聞き出している所である。

 

「…俺達は限られた情報しか知らない。ーーー元連邦の研究議会所属職員として、君からは出来る限りアナテマシリーズについて聴いておきたい。良いかな??」

「勿論です。…知り得るものは、全てお答えします。」

 

ーーーーそう頷いたアンソニーは、一歩前へと進み出た。

 

 

「先ず〔アナテマシリーズ〕ですが、アレは()()()()()()()()。ーーーー初期型のTYPE-A。改良型のTYPE-B。最新型のTYPE-C、です。…TYPE -Cに関しては、連邦は12体の存在を確認しています。」

 

ケラウノスが口を挟む。

 

「ーーーーほぉ、最新型…ね。他のタイプは何体ぐらい居るんだ?」

「…総数不明ですね。ーーーフェルシア自身、国家戦力は秘匿傾向に有りますので。…連邦に申告のあった戦力は、実際より控えめにされているかも知れません。」

 

ゼウスが顎に手を当てた。

 

「不明か……厄介だな。ーーーーケラウノス、コッチの戦力は今どれぐらい揃った?…あと、残ってる民間人の数も教えて欲しい。」

 

 ケラウノスが素早く胸元から紙を取り出した。そして、それを読み上げる。

 

「コッチの兵力は凡そ6000。…アンソニーからの報告では、グローリーは1万人を導入出来るらしいからな。約2倍の兵力差がある訳だ。ーーーーんで、今残ってる民間人は1万人ほどだぜ。……まだ避難は行われてるし、もうちょい少なくなる見込みだな。」

 

ゼウスは頷いて、小さく呟く。

 

「そうか………なんだかんだ、半分は避難したか。…今日の午後にでもフィンディアスがコッチに来るらしいし、その時に一旦都市同士を繋げて、残りを直接避難させるとするかな…。」

「お、フィンディアス来んのか?」

「ああ。ヌアザから連絡があった。…避難民の受け入れと、兵の派遣をしてくれるそうだ。」

「成る程な。…じゃ、兵力は少し増えるな。」

 

ケラウノスは小さく呟いて紙を仕舞った。

そして、アンソニーの方へ向き直る。

 

「ーーーー話の途中で悪かったな。……他にアナテマシリーズについて分かる事は??」

 

アンソニーは首を振った。

 

「ーーーーいえ、これ以上は何も。……何せ、フェルシアはアナテマシリーズに関して、連邦に多くを語らなかったので。」

 

ケラウノスは納得する様に頷く。

 

「隠してる訳か。……そういえば、イースターのカノンもアナテマシリーズだし、まだ連邦も知らないタイプがありそうだな。」

「ええ、あり得るでしょう。ーーーーあと、アナテマシリーズとは違いますし、恐らくお2人ともご存知とは思いますが、グローリーの〈対壊獣兵器〉についても少し情報を伝えて置きます。」

 

ゼウスの眉がピクリと上がった。

 

「兵器?………あぁ。ーーーー〔アナテマの扉(アナテマゲート)システム〕か。」

 

頷くアンソニー。

 

「はい。ソレです。ーーーー六ツ星級ノーマンにも対処可能な、星のセラムエネルギーを利用した大型防衛兵器。ソレがアナテマの扉(アナテマゲート)システム。…ブリタニアの〈聖杯システム〉と同じ、強力な対壊獣兵器です。その気になれば移動要塞都市にも使用可能ですので、ご注意下さい。」

 

ゼウスは苦い顔になって頷く。

 

「ーーーーあぁ。使われない事を願ってるがな。」

 

 

話し合いはまだ続くーーーーーーー

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

…足を床につけば、膝から崩れ落ちそうになる。

 

 

「はっ…はっ…はっ……。」

 

 

 滅多に感じることの無い感覚ーーー『疲労感』が足に伝わってきて、カノンはフラついた。

 

 体勢を立て直し、手に持った剣を握り締めて大きく息を吸う。清涼な空気が肺に入って、体に染み渡る。

 

「……ふぅ。」

 

 一息ついて、再び前を見据えたカノン。……彼女の前には、ネオが立っていた。

 

 

ーーーー此処はオーステルンの軍事施設。

 

 

 昨日、カノンとネオが模擬戦をした場所であり、そして今日も模擬戦の舞台となっている。

 

「…大丈夫?続ける?」

 

 すこし心配そうなネオの問い掛け。ーーーソレにカノンは頷いた。

 

「勿論。…まだ倒れる訳には、行かない。私は…やらなきゃ…。」

 

 彼女の、自らを追い込んでいく様な宣言に、ネオは目を細める。

 

ーーーーカノンは少し焦り過ぎている。……そんな風に思えたのだ。

 

 やっぱりちょっと休ませようか、なんて思っていた時……

 

 

「……お。やってますね〜。」

 

 

ーーーー模擬戦の舞台となっている広間に、来客が現れた。

 

「ーーーーあ、ニュウくん!」

 

 ネオが声を上げると、来客改めニュウが両手を挙げた。

…その手には、何かの飲み物が入ったボトルが3本握られている。片方の腕には、ビニール袋が掛かっていた。

 

「お邪魔してたら申し訳ないですが…。コレ、差し入れ的な物です。」

「ーーー!ありがとう。…今貰うよ。」

 

 コレ幸いにと、ネオはカノンを休ませるべく戦いを中断して、彼の元へ駆け寄る。カノンも戦う相手がいなくなったのでついて来た。

 

「ーーーおぉ…カノンさん、大丈夫ですか?怠そうですが…。」

 

 近づいて来たカノンを一眼見て、心配の声をかけるニュウ。

一方のカノンは首を振って微笑んだ。

 

「心配ありがと。……でも、大丈夫だよ。」

 

 そう言って、ニュウから飲み物を受け取るカノン。ネオも彼からボトルを受け取る。ラベルには「ふぁんた」の文字。

 

「炭酸?」

「そうですね。…シュワシュワでスッキリするのが良いかと思って。」

 

 そう言って、ニュウは自分の分のボトルを開ける。プシュッ、と言う軽やかな音が鳴った。

 

「ーーーーあとコッチは食べ物です。…コンビニで買って来たヤツですけど、良かったら。」

「…分かった。」

 

 彼が差し出した袋の中を見てみる。…サンドイッチが沢山中に入っていた。

 

「沢山買ったんだね。……わざわざありがと。」

「いえいえ。ーーー僕も食べたかったので。」

「…そう。じゃ、コレも貰うね。」

「ええ、どうぞどうぞ。」

 

 袋から1個取り出したネオは、広場の床に手を翳すと〈再構築〉を発動。あっと言う間に床が変形して、3つの椅子に変わった。…肘置きには、丁寧にドリンクホルダーまで付いている。

 生み出した椅子に座り込み、ドリンクホルダーに「ふぁんた」のペットボトルを置いて、ネオはサンドイッチを頬張った。

 

「…ん、美味しい。」

 

ニュウとカノンは唖然として顔を見合わせる。

 

「……ちょー便利ですね…再構築(ソレ)。」

「…だね。床が椅子に変わっちゃった……。」

 

 再構築能力の汎用性の高さに驚きつつ、2人は椅子に座り込んで一息付く。

 

 カノンが空を見上げると、ちょうど青い空を鳥の群れが横切って行くところだった。……鳩だろうか?

 

「…………。」

 

 ボーッとその群れの動きを見ているうちに、カノンの意識はまた遠い過去へと遡り始めたーーーーーーーー

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー鳥の群れが、青い空を横切って飛んでいた。

 

……鳩だろうか?

 

 

 

「あら?…どうしたのカノン?」

 

フェルシアの声が横から聞こえる。

 カノンは目を()()()の窓から機内に戻すと、そっと口を開いた。

 

「鳥が飛んでいただけだよ。お母様。」

 

 フェルシアはその声を聞いて空を見上げた。…しかし、鳥の群れは既に姿を消しいていて、フェルシアの目には入らなかった。

 

「……そう。ーーーまぁ、良いわ。コレから沢山目にできると思うし。」

 

その声に、カノンは首を傾げる。

 

「…今から何処へ行くの?お母様。ーーーーまた、戦い?」

 

フェルシアは微笑んだ。

 

「今日は違うわ。…今日は地上に降りるの。この(ーーーフェルシアは、自分達の後ろに座っている研究服姿の一団を指差す。)人達と一緒にね。」

「……何をしに行くの??」

「調査よ、調査。ーーー地質とか、自然環境とか、動植物の生態とか、そう言うのを調べるのよ。……貴女には、彼等の護衛として働いて貰うわ。」

「……チョウサ?…ソレをして、何になるの?何の意味があるの?」

 

 カノンの疑問は純粋な物だったが、研究者達は苦笑していた。

 

 フェルシアはカノンの頭を軽く撫でて、口を開く。

 

「大事な事よ。…この世に意味のない物は何一つとしてないの。ーーーー正確に言えば、意味のない物は淘汰されて、意味のある物だけが残ったの。今ある物は、全て必要だから存在している。……そういう物よ。」

「……私にも意味があるの?」

「もちろん。ーーーー貴女の存在にも意味はあるわ。グローリーの守護者として……なにより、私の娘としての、ね?」

 

 その声に、カノンは胸に微かな暖かさを感じた。…この暖かさが何なのかカノンは理解できなかったが、何故か聞く事はせずに顔を窓の外に戻すと、再び空を見上げるのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 カノン達と研究者チームを乗せた輸送機が、緑溢れる大地に静かに降り立つ。

 

 

 湿気を含んだ森の空気を感じながら、カノンは周りを見渡した。

 

「此処が…地上。……湿ってる。それに…木が大きい…。」

 

カノンの呟きにフェルシアが微笑む。

 

「ふふふ……初めて見たものね。確かに、この辺りは湿気が多いわ。湖が近くにあるから、ね。」

「木は?この木はなんでこんなに大きいの??」

「木が大きいのは、〈星のセラム〉の所為よ。星のセラムには、自然を豊かにする力があるの。」

「…自然を…豊かに…。そうなんだ。」

「ええ。グローリーに植林されている物より大きく育つわ。」

 

 そう言ったフェルシアは、カノンを手招きする。

 

「…さ、研究者の人達はもう先に行ってるわよ?…興味を惹かれるのは分かるけれど、護衛の仕事を始めなさい。」

「ーーーーうん。分かった。」

 

 カノンは巨大な木から目を逸らすと、フェルシアについて森の奥へと向かって行くーーーーーーーー

 

 

……森では、思っていた以上に危険な事は起きなかった。一度、トラックぐらいの大きさのあるワニが川から襲って来た程度で、しかも其れはカノンの相手にはならなかった。

ーーーーそして、特筆するべき事も無いまま、アッサリと地上調査は終わりを告げたのだ。

 

 

「……何も起きなかった。」

 

 およそ半日程で終わった調査の帰り道、カノンは少しつまらなさそうに呟いた。

 

 上を見上げれば、夕日色に染まった空。…黒い鳥の影が、朝見た方向とは真逆の場所目指して飛んでいる。

ーーーーあの群れも、自分達と同じ様に帰るべき場所に帰るのかな、なんて思いながらカノンが歩いていると、フェルシアが隣から声を掛けてきた。

 

「…カノン。ちょっとコッチに来なさい。……見せたい物があるの。」

「???」

 

 カノンは首を傾げながらも、フェルシアが手招きする方へ歩いて行った。

 

「良いのお母様?そっちはチョウサ団の人達と逆の方向だよ?」

「彼等には寄り道するって言ってあるわ。…それにそんなに時間も掛からないから、おいでなさい。」

「………分かった。」

 

 フェルシアが何をしたいのかカノンは分からなかったが、取り敢えず彼女の後をついて歩いて行く。

 

 樹高何十mはある樹々の間を抜け、歩いて行くフェルシア。ーーーーその後を追いかけ歩くカノンの視界が、突然パッと開けた。

 

 

「…………わ。『湖』??」

 

 

 カノンは小さく呟く。……そこに広がっていたのは、巨大な巨大な湖だった。

 揺らめく湖面に、夕日の赫が反射して宝石の様に煌めいている。

 

「……そうよ。大きな湖でしょ??コレを見せたかったの。」

 

 フェルシアの声が横から聞こえてきた。カノンは頷く。

 

「うん……すごく…大きい。それに…何だろ、この感じは……。」

 

 輝きを放つ湖を見つめるカノンの胸に、1つの感情が浮かび上がってきた。

 初めて感じるこの感情が何なのか言い表せないでいると、フェルシアが横から口を挟んで来る。

 

「〈感動〉よ。ーーーーソレは、美しい物を美しいと感じる心。本来なら、〈アナテマ〉の1人である貴女には()()()()()感情。……だけど()()()としては、貴女にこの感情を知って欲しかったの。ーーーー教えられて良かったわ。」

「………かん、どう。ーーーーコレが、ウツクシイもの…なんだね……。」

 

 そう呟いたカノンは、フェルシアの方をチラリと見た。

 

………その時の彼女の顔はーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「ーーーーニュウくん。頬っぺたにパン屑付いてる。」

「え、マジです?…どっちですか??」

「右……もうちょっと左…そうソコ。」

 

 

ーーーーカノンは、記憶の彼方からゆっくりと引き戻された。

 

 

「………。」

 

 目をパチパチさせる。…直ぐに意識は今に戻ってきた。

 

「ーーーーコレか……ありがとうございます。」

「ううん。たまたま気付いただけだから。」

 

 目の前でネオとニュウが話をしている。カノンは手に持った「ふぁんた」に目を下ろした。…蓋を開けっぱなしで放置していたのか、シュワシュワと炭酸が抜け続けている。

「…………。」

 そっと彼女はソレを飲んだ。…オレンジの味が喉を伝って流れ込む。

 キュッと蓋を閉めてホルダーに掛けると、カノンはサンドイッチを手に取った。

 食べながら、ぼんやりと昔の記憶に思いを巡らせる。

 

(……どうしてだろう…お母様の元に居た時の事は、私の中では忌むべき記憶の筈なのに……思い出すのは何故か暖かい記憶…。)

 

アルセーヌの言葉が頭に過る。

 

『ーーーーまだ彼女への情が、残っているんじゃーーーーーーー』

 

(情……?ーーー情って何なの?……アルセーヌの言っていた〈愛情〉なの??…愛情って何??)

 

カノンは食べる手を止めていた。

 

(……愛情。)

 

彼女の目は、目の前の2人に向けられる。

 

「ーーーーてか、ネオさんの再構築便利過ぎません??…もしや、僕のコートの破れも直せるんじゃ無いですか…?」

「え、破れたの?何処??」

「…コンビニから此処に来る途中で、停めてあったバイクに引っ掛けちゃいまして……裾がちょっとだけ…。」

「本当だ。……多分直せるよ?やろうか??」

「あー、じゃ、お願いしても…?」

「分かった。…………はい、直ったよ。」

「うわ、マジ便利ぃ!!」

 

 カノンの前で、互いに気負うことなく話す2人。この2人の間にあるモノは、何なんだろう?

 

 そんな事を思っていると、ネオがカノンの方を向いた。そして首を傾げて口を開く。

 

「…?ーーーどうしたの…?」

「あ。何でもない。ーーーー模擬戦、再開しようか。」

 

 カノンは、食べかけだったサンドイッチを口に放り込んで立ち上がった。

 

「…一個で良いんですか…?沢山買ってきたんですけど。」

ニュウの声に、カノンは頷く。

「うん。…元々、沢山食べる方じゃ無いから。」

「あ、そうですか。」

 

 ニュウは頷き返して、袋の口を閉じた。そして、2人に向かって手を振る。

 

「じゃ、僕は此処で観戦してましょうかね。ーーーー2人とも、頑張って下さい。」

 

 彼の声にカノンは無言で、ネオは一言「うん。」と頷いてから、模擬戦を再開すべく広場に向かう。

 

 

………鳥は相変わらず空を飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

[1月12日]

〜宣戦布告から()()()

 

 

 

場所〔教会国家 グローリー〕

 

 

 

ーーーー〈超弩級移動要塞都市グローリー〉。

 

 

 ソレは嘗て連邦によって造られた、最初の移動要塞都市の内の一機。

 

 その外観は、一言で表すなら「機械の孔雀」だろう。

 

 2本の長い〈脚〉で大地を動き、他の移動要塞都市に比べても全高が高いのが特徴で、その姿は正に優雅な鳥の様。

 

 そして更に特徴的なのが、要塞後部にある巨大なパネル状構造ーーーーいわば、孔雀の尾羽に当たる部分である。

 

 鏡の様なパネルが何枚も集まって、あたかも孔雀の広げられた羽の様に見えているソレの名前は、〈アナテマの扉(アナテマゲート)〉。

 

 アンソニーの言っていた、対ノーマン用兵器である。

 

 

……特筆すべきはその大きさか。グローリー自体も非常に巨大な移動要塞都市であるのだが、〔アナテマの扉(アナテマゲート)〕はグローリーを見下ろすほどに、高く大きく造られているのだ。

 

 その兵器に守られる様に、都市部が広がっている。ーーーーアナテマの扉(アナテマゲート)の根元にあるのが、フェルシアの居城である〈大聖堂〉だ。

 12本の白亜の塔を持つ〈大聖堂〉は、もはや巨大な城の様でもある。

 

ーーーー更に、その城の手前には何千人も入れる様な大広場があり、その広場の周りには城下町が広がっていた。

 

 そしてその大広場は今、沢山の人で埋め尽くされていた。……全員、白を基調とした服を身につけた人々ーーーーグローリーの住民達である。

 

 彼等は、此処に大司教フェルシアの演説を聴きにきていたのだ。………基本、フェルシアが自ら人前に出て演説をする事は滅多に無いので、誰しもが一体何が行われるのだろう、と少し興奮気味に囁き交わしている。

 

「ーーーーーーあ、フェルシア様!」

 

 誰かが大聖堂の方を指差して、そう口を開いた。広場の人々は一斉に大聖堂の方を見る。

 

 

ーーーー大広場に向かって張り出した〈大聖堂〉のバルコニーに、フェルシアの姿があった。

 

 

人々が、ワッと歓声をあげる。

 

 フェルシアはそれに片手を上げて応えた。ーーーーますます上がる歓声。

 

 その歓声に頷きを返し、彼女は手を下ろす。キィーーンと、拡声器の立てる音が広間に響いた。

 

 さっきまでの大歓声が嘘の様に、広場はしん…と静まり返り、聴こえるのは何千という群衆の息づかいだけとなった。

 

 

『ーーーー天の恵みに感謝を。……おはよう、グローリーの臣民たち。』

 

フェルシアの声が木霊する。

 

『ーーー急な呼び出しで、申し訳なかったわね。だけれど、大事な事だからよく聴いて欲しいわ。』

そう言ってから、彼女は手を少し広げた。

『今、世界は混乱に包まれようとしている。オーステルンが擁するイースターと呼ばれる者達の手によって、新人類解放への圧力が高まっているの。』

 

 広場の人達は互いに頷きを交わした。イースターのタルタロス襲撃は、もはや世界の知る所であるからだ。

 

フェルシアは続ける。

 

『ーーーー連邦は私達旧人類の未来を憂い、私達グローリーにイースターを討てと命じた。…しかし、いざ私達が宣戦布告すると、連邦は全ての責を私たちに押し付けてしまったの。』

 

 群衆はまた頷きを交わした。フェルシアは微かに感情を込めた口調で、先を続ける。

 

『ーーーー旧人類の未来とこの国の未来、私は何方も守りたい。今の連邦は、もはや自己保身しか考えていない俗物に成り下がったわ。……故に私達グローリーは、連邦から離脱する事を検討しているの。』

 

広場が多少騒めいた。

 

『イースターとの戦いが終わった暁には、グローリーは連邦から脱退する。…コレから少し状況は苦しくなるかも知れないけれど、貴方達には力を合わせて頑張って欲しいのよ。……大丈夫、私は貴方達を信じてるわ。何故なら、貴方達は信心深き善人なのですもの。私が言うのだから、間違い無いわ。』

 

 この言葉に群衆は心打たれた様だ。既に、フェルシアを崇める様に手を組んでいる人も居る。

 

 フェルシアは両手を広げた。……背後の空に浮かぶ雲から、斜めに光が差し込む。

 

『宣戦布告から1週間、私はイースター、連邦、その両方に対抗できる様戦力を整えてきた。……恐るべき新人類に、この世界を好きになどさせないし、成り下がった連邦に私たちの未来を決めさせる事も、もうさせないわ。』

 

フェルシアは腕を合図の様にあげる。

 

 

ーーーーバサバサッ!

 

 

…それに反応したのか、空から『ナニか』が舞い降りて来た。

 

 ソレは真っ白な色で、天使の様な翼を持ち、限り無く人に近い体型をしていたが、顔は目の無い鳥の様な顔だった。

 

ーーーーズシン…。

 

 空から舞い降りて来た()()()()()使()()()()()()()。其れ等は1体1体が、大聖堂の12本の尖塔の頂点に1体ずつ降り立つ。

 頭上の空から差し込む光と合わせて、ソレ等は恰も天使の様に見えていた。

 

「ア…アナテマの天使…!」

 

 白亜の塔に降り立ったソレ等を見て、群衆は息を呑んだ。ーーーー彼等には、ソレはとても美しい光景に見えたのだ。

 

 白い羽がフワリと辺りに舞う。…雲の裂け目から差し込む光と、塔の上に佇む白いアナテマシリーズを背景にして、フェルシアは声を上げた。…人々の心を揺さぶる様に、鼓舞する様にーーーーーーーー

 

 

 

『今こそ、戦いの時。私達の新たな道は、ここから始まる。ーーーーさぁ……()()()()()()()()()!!』

 

 

 

 

 大広場を、感激に満たされた歓声がつんざいたーーーーーーーー。

 

 

 

 

 







開戦。



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