モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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母親の言う事なんて、誰が聞くものか。


〜フィンランド民謡 イエヴァンのポルッカ〜より



78話〈聖戦 Ⅱ 〜Sillä ei meitä silloin kiellot haittaa〜〉

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

ーーーーもうもうと土煙が街に上がる。

 

 

 〈大聖堂〉の真ん中ーーー1番大きな塔の上で、フェルシアは市街地の方を見つめていた。

 

「…ねぇ。アレ、墜落しちゃったよ〜?」

 

ーーーー隣から、フェルシアでもジョルノロキアでも無い少女の声が、話しかけて来る。

 

フェルシアは横目で、声の主をそっと見た。

 

……ゆらゆらと揺れるコードのような尻尾と、肩に刻まれた『Ⅸ』の刻印が目に入る。

 

「ーーーー大丈夫よ。…アナテマシリーズが反応している。生きているわ。」

 フェルシアの声に、少女は安堵した様に頷いた。…微かにモーターの回る音がする。

「そっか。じゃあ、安心だね!ーーーーネオを生きたまま手に入れなくっちゃ、お父様に怒られちゃう。」

 

 そう言う彼女を側に、フェルシアは市街地の方へ視線を戻した。そして小さく呟く。

 

 

「……さぁ、早くおいでなさいカノン。待っているわよ………。」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

[グローリー6番街 イースターside]

 

 

 

 

空にはためく純白の翼。

 此方を見下ろす顔には目など無かったが、何故か強い視線を感じて体に力が入る。

 

「話には聞いてたがーーーー」

 

 バサラが、空高くを舞う()()()()使()()を睨みながら口を開く。

 

「ーーーーアレが、アナテマシリーズの最新型か…。一瞬、なんだか分からなかったぜ。」

隣でカノンがポツリと呟いた。

「……私も知らないタイプ。何して来るか分からないから、気をつけた方が良い。」

それを聞いたバサラが、カノンの背中を軽く押した。

「ーーーー取り敢えずカノン。お前はフェルシアと戦うつもりなんだろ?……先に行ってろ。最新型はコッチでなんとかしとく。」

「…?ーーーーでも……。」

 

 カノンは一瞬躊躇ったが、彼女が動く前にアナテマシリーズの方が動き出した。

 

『『『『キャァァァァァァァァ!!!』』』』

 

 まるで女性の絶叫の様な声を立てて、空から此方に向かって来るアナテマシリーズ。(以下、最新型と呼称)

 

 その勢いのまま、最新型は背中から無骨な鉄剣を取り出して斬りかかってきた。

 

「ーーーうらぁ!!」

「ーーーよいしょお!!」

 

 バサラの翳した『ヴァジュラ』と、アミダが構えた『インフィニティ・ブレード』が、迫り来る鉄剣を一本ずつ受け止める。

 更に空から最新型が2体舞い降りてきたが、ネオが投擲した鳥葬ノ槍(スカイ・ブリアル・スピア)とキラリの放った矢に、それぞれ翼を撃ち抜かれて大地に落ちた。

 

「……行きなよカノン!!ーーーーこんなヤツら、チャチャっと片付けて後を追うから!!」

 アミダが返す刀て最新型に切り付けながら、カノンに向けて叫ぶ。今、迷っていてもしょうがない。ーーーーカノンは皆んなに頷き返すと、走り出した。

 

『ーーーーーーーー!!』

 

 行かせまいと、空から更に1体の最新型が舞い降りて立ち塞がる。

 

「…させませんよ。」

 

ーーーーしかし、カノンに向かって攻撃しようとした瞬間、飛んできた銃弾に撃たれて転がった。

 

ーーーー見ると、ニュウが青紫に光るレールガンを構えている。彼の隣にはアルセーヌが居て、空になったスタミナミンのボトルを持っていた。…HMGモードで消費した気力を、スタミナミンで回復させたのだろう。

 

「ニュウ…君!」

「ーーー流石に1人だけではアレですから。…僕も大聖堂まで付き合います。アナテマシリーズが、これだけって事は無いと思いますし。」

「…ありがとう。じゃあ…お願いするね。」

「もちろん。」

 

 カノンの声に、ニュウは素早く頷いた。カノンは緑の翼を広げる。

 

「コレで空から行く。……ニュウ君にも、翼がある筈。行ける??」

「ええ。ーーーー行けます。」

 

 そう言って、彼も彼の翼ーーーー〈スピードモード〉の翼ーーーーを広げた。

 機械の羽が6枚、フワリと展開して彼の体を空に浮かばせる。

 

それをチラリと見たネオが、小さく呟いた。

 

「……直ぐ追いつくから。」

 

ニュウは笑う。

 

「ええ。待ってます。」

 

 その言葉を最後に、2人は飛んでいった。緑と青紫の光が白亜の大聖堂の方へ飛んで行く。

 

 それを横目に、バサラ達は最新型との戦いを再開するのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「アナテマシリーズ、第一防衛戦を突破!!」

「ちッ、制空権を握らすな!!第二防衛線まで一旦後退、体勢を立て直せ!!」

「了解!!!」

「敵の増援、南南東30キロ地点より接近中!!」

「またか…!此方も増援を出せ!」

「ーーーー了解。第四部隊、出撃!!」

 

 

 場所は変わってオーステルン(クロノス)の操舵室。

 

ーーーーーーー部屋の中では、グローリー空軍との間で行われている大規模な戦闘の情報が、ひっきりなしに飛び交っている。

 

 一刻一刻と変遷する戦況を映し出しているホログラムのモニターを睨みながら、ケラウノスは苦い顔で呟いた。

 

「……コレは、ジリ貧だな。コッチより相手の方が頭数が多い。……アナテマシリーズも有るし、今は拮抗してるが、やがて此方の方が不利になるぞ……。」

 

隣から操舵室の職員が1人、口を挟む。

 

「アナテマシリーズの飛行能力はとても優れています。……我が軍の機体は、大部分が大災害直後に製造された旧型機。ーーーースピードや機動力で負けている場面が多い様です。」

「……やっぱ、鬼門はアナテマシリーズか。」

 

 モニターには、次々と光点が増えていく。…アレは全て敵の物だ。

 クロノスからも次々と味方機が出撃して行くが、やはり母数に差がある。

 

 ケラウノスは、艦長席に座り込んでいるゼウスの方を振り返った。

 

「ーーーーこのまま削り合ってても、埒が明かねぇ。……クロノス自体を動かすべきだと思うぜ、叔父貴?」

 

ゼウスは重々しく頷いた。

 

「………やはりそうなるか。良いだろうーーーークロノスを動かせ。」

 

その声に、操舵室は素早く動き出す。

 

「…クロノス、前進します!!!」

 

 誰かがそう声を上げる。ゼウスは立ち上がって、操舵輪を握った。

 

「10キロだ。ーーー10kmだけ、前に出る。第三防衛線の機体は退却させろ。……クロノスの兵装で、第二防衛線より内側に入って来た()()を撃墜する…!」

 

 クロノスは、その鋼鉄の脚を震わせながら移動を開始した。何百tもの重量のある脚が大地を踏み締め、ワッと土煙が立つ。

 

 

ーーーーそして、第二防衛線を突破して来たアナテマシリーズ(TYPE-B)は、一体残らずクロノスの集中砲火に遭う事になるのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

[グローリー6番街上空]

 

 

 

ーーーーカノンと共に、空を飛んで大聖堂へ向かうニュウ。

その行手に、無数の黒い影が立ち塞がる。

 

……人と獣を無理やり繋ぎ合わせ、翼を付けたような見た目の異形ーーーーアナテマシリーズの『TYPE-B』だ。

 

「ーーーーココで立ち止まっては居られない。……一気に突っ込むよ。」

 

 カノンがそうニュウに声をかけて、加速する。ニュウも彼女の後に続いて、TYPE-Bの群れに突撃していった。

 

 

『『『ギャアアアアアアアアアッ!!!』』』

 

 

 絶叫を響かせながら此方に向かって来るTYPE-B。カノンは展開したキューブをガブリエルの剣に変化させ、すれ違い様に斬りつけていく。

 ニュウもカノンの側にくっ付くようにして、レールガンを両手に持ち、迫り来る異形目掛けて電磁砲を撃ちまくる。

 

ーーーー中世の街の空に、無数の閃光と爆発の黒煙が次々と生まれていく。

 

「ーーーーくッ……。数が…多い!!」

 

 続々と迫り来る異形を撃ち落としながら、ニュウは顔を顰めた。アナテマシリーズの製造には、人間の素体が必要と聞く。……ならば、コレほどの数を用意する為に、一体何人の人間を犠牲にしたと言うのだろう??

 

「ーーーー危ないよ!!」

「ッ?!」

 

 カノンの叫びが聞こえたと思った瞬間、ニュウの翼の1つが下から飛んできたナニかに、撃ち抜かれ砕けた。

 

 見下ろすと、真っ白な鎧に身を包んだ人々が此方に銃口を向けていた。

 

「…人!?」

「グローリーの軍隊だよ。アナテマシリーズだけが、グローリーの戦力じゃ無い!」

 

 カノンがそう言うと同時に、無数の銃弾が下からニュウを狙って放たれた。咄嗟に〈シールドモード〉を展開、前方に出現した巨大な盾で弾丸の雨を防ぐ。

 

「…くっっ!!ーーーーコレ、ネオさん大丈夫か…!?」

 

 弾丸を防ぎながら、ニュウは最新型と戦闘中のネオ達の事を心配していた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーニュウの危惧通り、6番街で最新型と戦闘を繰り広げているネオ達の元にも、グローリーの軍隊が迫る事になる。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「ーーーーーーーー此方、グローリー防衛軍であルッ!!〈反連邦団体イースター〉に告ぐ!!即刻、戦闘行為及び破壊行為を中止して投降せヨッ!!!」

 

 

ーーーーそんな声が、拡声器に乗って白亜の街に響いた。ネオ達が見ると、戦闘の舞台となっている道いっぱいに広がる様にして、真っ白な鎧を身に付けた兵隊達が展開している。

 全員、カノンが使う白い銃に良く似た銃を構えていた。

 

 

「来たか、グローリー軍。まぁ…そりゃ来るよね……。」

「…うぇえ!?グローリーの軍隊?!ーーーー職業軍人と戦った経験なんて、正直無いよ〜!?」

 

ハレルヤとアミダが其々口を開く。

 

「ーーーー悪いが、投降する気は無いんでなぁ!!…無駄な人死には出したくねぇから、引っ込んでてくれ!!」

 

 バサラが兵隊達に叫び返した。……無論、これで「分かりました。」と引き下がるグローリー軍では無い。

 

「ーーー我々には、ネオとカノン様以外への射殺許可も下りていル!!……速やかに投降せよ!!コレは最終通告ダ!!」

 

 リーダー格らしき男の声を聞いたアルセーヌが、他人事のように呟いた。

 

「カノン、様……ね。あと、連邦はまだネオを諦めていないのかしら?」

 

ネオが嫌そうな顔を浮かべる。

 

「私はもう、連邦のものじゃ無いのに……。」

 

そう呟いたネオの隣で、バサラがまた叫ぶ。

 

「断る!!!……こっちもコッチで、引き下がれないんでなぁ!!」

 

「ならば、コチラも止むを得ないッ!!ーーーー撃てェ!!!」

 

 

 

ーーーーーーー閃光。そして、轟音。

 

 

 

 グローリー軍から、大量の銃弾がバサラ達目掛けて撃ち込まれる。律儀に民家の屋根の上で待っていた最新型も、射撃開始に合わせて攻撃を再開してきた。

 

「ーーーー〈再構築(リビルド):ブロック〉!!」

 

 ネオがすかさず再構築能力を発動。すると、バサラ達とグローリー軍を隔てる様に床が変形してブロック状の構造物となり、縦に積み重なる。

ーーーー撃ち出された弾丸は全て、そのブロックの壁に当たって弾かれた。

 

 それを確認するや否や、ネオはブロックの上から飛び出し、グローリー軍へとダッシュで接近する。

 

そして、走りながらセラムキューブを展開。

 

 

「〈セラムキューブ:葬送ノ太刀(ヒューネラル・ロングソード)〉。」

 

 

ーーーー彼女の声と共に、キューブが変形して蒼い太刀となる。

 

 生み出した太刀を携えて、ネオはグローリー軍の只中へと突撃していった。

 

「なッ??!正気であるかッ!?」

 

 リーダー格の男が真っ直ぐ此方に向かってくるネオを見て、驚いた声を漏らす。すぐさまネオに向かって射撃が始まるが、ネオは太刀で銃弾を弾き飛ばしながら走り続けた。

 

「……一応、峰打ちにしとく。」

 

 チャキッと刀を捻り、ネオはグローリー軍の兵士達に斬りつける。峰打ちとは言え、彼女の振るう一太刀一太刀には、鎧を砕き割るほどの威力が込められていた。

 

 グローリー側も銃を捨てて軍刀で反撃を試みるものの、ネオの敵では無い。

 次々と軍刀を叩き折られて、地面に虚しく倒れていく兵士達。

 

 それを見かねたのか、最新型が空から飛び込んでくる。

 

「……!!」

 

 そして最新型は此方に手を翳すと、丸い小さな光球を放ってきた。

 見た目は小さいが、尋常では無い威力のエネルギーが込められている事に気付いたネオは、素早く飛び退って回避。

 

 

ーーーーズムッッッ!!!

 

 

 床に着弾したエネルギー弾が一瞬で巨大化し、辺りを包み込んで爆ぜた。

 

「く……。」

 

 爆風で少し吹き飛ばされながらも、空中で体勢を整えて着地するネオ。

そんな彼女に最新型が突っ込んでくる。

 

「ーーーふッ!!」

『ギャアアッ!!!』

 

交差する鉄の剣と、蒼い太刀。

 

最新型の力は思いの外強く、ネオは後ずさる。

 それでも返す刀で反撃しようとした時、最新型は翼を広げて飛び上がった。そして、彼女の太刀の届かない所まで行ってしまう。

 

「また飛んだ…。」

 

空を舞う最新型を睨んで、ネオは呟いた。

 

「ーーーーなら……!」

 

 ネオは、素早く無数の剣を周囲に生成。ーーーーそれをファンネルのように最新型目掛けて、一斉に投擲する。

 

 しかし、最新型は滑るような挙動で其れ等を回避すると、ネオ目掛けてまた突っ込んできた。

 

「っと……!」

 

 それを回避し、自分から離れていく最新型目掛けて、再び武器を投擲。だが、コレも躱される。機動力が段違いだ。

 

「……もう、私は武器を飛ばしてくるって警戒されてる。ーーー武器の投擲では、遅過ぎてアレを撃ち落とせない……。」

 

 ネオは思案するように小さく呟いた。相手は、戦い方をヒットアンドアウェイに切り替えている。もう、最初のように槍で落とす事も出来なさそうだ。

 

「今のうちだッ!!撃て撃てェーーーーッ!!」

「……ッ!」

 

 思考を巡らすネオ目掛けて、無数の銃弾が飛来した。……グローリー軍が、体勢を立て直して再び戦いに参戦して来たのだ。

 

 最新型と軍隊。その両方と戦うのは中々に難しい。

 ネオは地面を蹴って、最新型との戦いに集中すべく移動する事にした。バサラ達も、軍隊と最新型との混戦を避ける為にバラけたようだ。

 

「ーーーーアッチに行ったぞッ!!」

「追いかけろ!!避難シェルターには近付けるなよ!?」

 

 軍隊が、散らばったネオ達を追いかけて移動していく。こうして、戦いは街全体に広がっていくのだったーーーーーー

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

[グローリー 大聖堂前 大広場]

 

 

〔ニュウ・カノンside〕

 

 

 

 立ち塞がるアナテマシリーズを打ち倒し、軍隊の妨害もなんとか越え、遂にカノンとニュウは大聖堂に辿り着いた。

 

 閉ざされた巨大な城門を手で押すと、すんなりと開く。ーーーーまるで、迎え入れられているみたいだ。

 

 

「……中に敵はーーーーーーー居ないか…。」

 

 念の為にクリアリングをしたニュウだったが、大聖堂の内部には敵が配置されていなかった。

 

 扉をカノンが後ろ手で閉めると、外界の喧騒がスッと遠のき、痛いまでの静寂が辺りを満たす。

 

………いや、微かに何か聞こえる。ーーーー讃美歌だろうか…?

 

「……こんな時に呑気な事言ってる場合じゃないですが…綺麗ですね。大聖堂の中。」

 

 ニュウは、油断なく辺りを見渡しながらも、自分の感想を呟いた。

 彼の目には、綺麗な大理石の壁や天井を支える柱、そして床に敷かれた赤い絨毯が映り込んでいる。……上を見上げれば、巨大なステンドグラスが壁に沿うように嵌め込まれていた。

 赤い絨毯に、ステンドグラスを通して差し込んできた日光が、影と光の模様を描いている。

 

「………ここまで私と来てくれてありがとう。」

 

 カノンが先立って歩きながら、ニュウに感謝の言葉を述べた。

 

「ーーーーココから先は、1人で行く。お母様との決着は、私がつけるから。」

 

 ニュウも、当然カノンの望みは知っている。故に彼は頷いた。

 

「えぇ。ーーーーでも、せめてフェルシアの居る場所の近くまでは、僕も行きます。…何があるか分かりませんし。」

 

……特に断る必要は無かった。

カノンは頷く。

 

「分かった。……たぶん、この中では何も起きないと思うけど。」

 

 そう言ってから、迷いなく歩き出すカノン。ニュウも、その後に続いて歩く。

 途中、何度か讃美歌の声が聞こえてきた。……誰か…沢山の人が歌っているみたいだ。

 

「…大聖堂の中は、いつも讃美歌が鳴ってるんですか…?」

ニュウの問いに、カノンは首を振る。

「違う。…たぶん、避難して来た民間人が祈ってるんだと思う。大聖堂は避難シェルターの代わりも果たすから。」

「民間人……。ーーーグローリーの市民は、オーステルンの人達みたいに避難しなかったのか…?」

 

ニュウの呟きに、カノンは自分の見解を答える。

 

「連邦の支援を受けれるのであれば、避難してた筈。……けど、連邦はグローリーの戦争に関わらないつもりだから、避難の手を差し伸べなかったんじゃないかな。」

「……仮にも同じ連邦の仲間なのに、酷いですね。」

 

 ニュウがそう言った直後、カノンは歩みを止めた。目の前には綺麗な両開きの扉がある。………なんとなく、冷たい風がドアの隙間から吹いてくる気がした。

 

 何も言われなくとも、ニュウは理解した。…この先に、カノンを生み出し、育て上げた人物ーーーーフェルシアがいるのだ……と。

 

 此処に来るまでの間に、四度ほど階段を登って来た。おそらく此処は、大聖堂の5階に位置する場所なのだろう。

 カノンの言う通り、道中で戦いは何も起きなかった。だが、コレからは間違いなく戦いが始まる。フェルシアとカノンの戦いが。

 

「…この先ですね。」

「うん。ーーーーココからは、本当に私が。」

 

ニュウは頷く。

 

「ええ。……気をつけて。ーーーー自分の意思を、ぶつけて来てください。」

 

カノンは微かに微笑んだ。

 

「……うん。」

 

そして、彼女は両開きの扉に手を掛けーーーー

 

 

 

 

その中へ、足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

〔グローリー 大聖堂 五階 懺悔室〕

 

 

 

 

 

ーーーー扉の向こうには、ズラリと並ぶ長椅子があった。

 

 

 扉に背を向けて並ぶ長椅子。その椅子が向いている方向には、大きな銀の十字架が1つ。十字架の奥には、ステンドグラスが嵌め込まれた壁。

 

 日の光を受けて輝くステンドグラスは、全て天界に座すとされる天使達の姿を描いていた。

 それらは、とある1つのステンドグラスを囲むように、円形に配置されている。

 

 ラファエル・ガブリエル・ウリエルといった、名のある天使達に囲まれる様にして壁に嵌め込まれているモノこそ、()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………。」

 

 カノンはただ歩みを進める。……目指すは銀の十字架。()()()()()()()1()()()()()()

 

 

「…来たわね。カノン……。」

 

 

 その女性ーーーーーーーーフェルシアは、待っていたかのように両手を広げた。

カノンは懺悔室の真ん中で立ち止まる。

 

「ーーーー来たよ。お母様。」

 

カノンの声に、フェルシアはニコリと微笑む。

 

「…えぇ。おかえりなさいーーーと言った方がいいかしら??」

「要らない。ーーー私は帰ってきたんじゃない。戦いにきたの。」

 

両者の間の空気が、一気に張り詰める。

 

「…哀しいわねぇ。ーーーー()()()()()()愛娘(まなむすめ)と、殺し合わなきゃならないなんて。戦争は残酷よ。カノン。貴女はもう、イースターの思想に染まってしまったと言うの??……穢れを知らず、疑いも知らない純粋な貴女は、消えてしまったの??」

 

『愛して育てた。』ーーーーその言葉を聞いて、微かにピクリと揺らいだカノンだったが、直ぐに険しい顔になって口を開いた。

 

「…穢れ??ーーーーむしろ、あの時の私の方が穢れの中に居た。…罪の無い人々を、偏見を持って傷付ける日々。確かに私は疑う事を知らなかった。お母様の教えが、全て正しいのだと思っていた………。」

 

…今だって、カノンは純粋すぎだとか、もうちょっと疑う事を知った方が良いとか、仲間から茶化される事はある。

 でも、かつての自分の『純粋』は、そういう次元の話では無かった。

 

 昔の自分には、善悪の区別すら無かったのだ。……それは最早『純粋』では無い。唯の『無知』だ。

 

「ーーーーーー私は井の中の蛙だった。毒水の中に住み、歪んだ井戸から歪んだ空を見て、それが世界の全てだと思い込んでいた。……でも、今は違う。正しいことが何か、分かったのだから。」

 

 自分を井戸から引っ張り出してくれたのは、イースターの皆んなーーーーーーーそして、自分に真実を教えてくれた『少年』だった。

 

「……私は、お母様を止めに来た。もうこれ以上、罪の無い人々から明日を奪わせない為に。」

 

 口を閉じるカノン。フェルシアはいつの間にか、笑みを消していた。

 

「……カノン。今の私がどれだけ辛い事か、解る??」

 

フェルシアは心底悲しそうな声で呟く。

 

「私は貴女を愛し、大切に育ててきたわ。…自分が、間違った事を貴女に教えていたつもりなんて無い。私は人類の為に、正しい事をしたのよ?世界の為にもね。ーーーー何かを大切に思う気持ちは同じ筈なのに………分かり合えない。……これほど悲しい事は無いわ。」

 

 それを聞いて、カノンはアルセーヌとの模擬戦以降、ずっと心の中に残っている疑問を口に出した。

 

 

「ーーーーーーーお母様は、本当に私を愛しているの?」

 

 

……自分の中にある、何故か暖かい思い出。その暖かさの正体は『フェルシアから受けた、母親の愛情。』なのではと、アルセーヌは推測していた。

 

 でも、本当のことは分からない。フェルシアはカノンを操り易くする為に、偽りの愛を囁いていたのかもしれない。

 そもそも、フェルシアの教えが嘘偽りだったと知った時から、カノンはフェルシアの全てを疑うようになった。

 

 

だから……例え今此処でフェルシアがーーーーーーーー

 

 

「ーーーーもちろん、()()()()()()()()()。」

 

 

「……信じられない。」

 

 

ーーーー()()言ったとしても、信じられる訳が無かった。

 

 フェルシアは、余りに多くの『嘘』を彼女につき過ぎたのだ。

 

 

 カノンはセラムキューブを変形させ、ガブリエルの剣を具現化させる。

 

 フェルシアも、黙って自らの体を変化させた。……美しい身体が、歪な堕天使のような見た目へ変貌を遂げる。

 

 

「……さしずめ、親子喧嘩と言った所ね。ーーーこれだけは、経験したくなかったわ。」

 

 漆黒の翼を広げて呟くフェルシアに、カノンは静かに言葉を返した。

 

「罪を償う時なんだよ。私も、お母様も。」

 

フェルシアは、もう何も言わなかった。

 

 2人はお互いに同じタイミングで、足を前に踏み出しーーーーーーー

 

 

 

 

ーーーー懺悔室に、翠と青の閃光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 






今回はいつもより短め…だったのかな?

因みに私の脳内では今、ネオとカノンがネギ振ってます。

サブタイはその場のノリと勢いで決めるから、こうなっちゃった…。

(蛇足:此処だけの話、サブタイに英語が使われてる話は、書き終えた時の作者のテンションが高めだった時です。…もしくは、深夜テンションでおかしくなってるかの二択。)
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