……ネオの後を追って歩く事暫し、二人は〈オーステルン〉の外周部に辿り着いていた。
移動要塞都市の外周部には、基本的に居住地などはない。
…ノーマンが襲来した時に、奴らの攻撃を最もよく受ける場所だからだ。
そんな所に、住宅など建てれまい。
代わりにあるのは、巨大な砲門…そして、馬鹿デカい機関銃たちである。
コレはすべて、都心部を守る為の対ノーマン用の武装設備だ。昇り始めた朝日を浴びて鎮座するソレ等は、非日常的な強い存在感を放っている。
そんな外周部の隅ギリギリ……あと一歩足を踏み出したら、要塞都市から落ちて行ってしまう所に、下に続く階段があった。
そこを下っていくネオ。
「……下へ降りるんですか??」
「ーーーーーーうん。…この街の、〈脚〉へ向かう。」
「〈脚〉か…。なるほど。」
ニュウは呟いて彼女の後を追った。…なるべく、直ぐ右隣に広がる虚空を見ない様にしながらーーー……
「…こんな所、落ちたらタダじゃ済まないな。」
一応、柵で仕切りがあるとはいえ、何かの弾みで柵が無くなれば、上空何百メートルから地上に向けて真っ逆さまだ。……そこまで考えて、ニュウそれ以上、考えるのを辞めた。
ーーーーーーーーー暫く下っていくと、やがて少し広くなった場所…踊り場の様な所に出た。
ーーーーーーーーー直ぐそばに巨大な歯車と、ソレによって動く太い金属の脚が見える。……動きに従って金属同士の擦れ合わさる音が、あちこちから聞こえて来た。
ーーーーーーーーー全部で6対12本有るこの巨大な脚が、この移動要塞都市の全てを支えているのだ。
「……おぉ…。コレが〈オーステルン〉の脚部か。デカいな…。」
そうニュウが金属の脚を眺めながら1人呟くと、誰かーーーネオでは無い声が二人に掛けられた。
「…ああ。来てくれたんだね。」
「…?」
振り向くと、繋ぎの作業着を来た中年男性と目があった。
ニュウにとっては初めて見る顔だが、ネオは知っている様だ。軽くお辞儀をして口を開く。
「…おはようございます。」
「あぁ、おはよう。ネオちゃん。……朝から悪いねぇ。
ネオは頷いた。
「はい。ーーーーーーーーー案内してもらえますか?」
「勿論。」
中年男性はネオを手招きして、歯車と歯車の間に作られた通路を歩き出す。ニュウも後に続く。……頭上にまで張り出した歯車や金属部品の数々は、まるで金属の森の様な印象を彼に与えた。
「ところでーーーネオちゃんの後ろのお兄さん、誰だい?…新しい人?」
先を行く中年男性が、此方を振り返って声を掛けてくる。
「あー、ハイそうです。…昨日ここに来まして。」
そうニュウが言うと、中年男性はちょっと感慨深そうに頷いた。
「そっか……ネオちゃんも先輩になったんだね。」
「……先輩では無い気がします。」
そうネオが言った。
中年男性は続ける。
「ネオちゃんが〈イースター〉に来たのは…去年の初めぐらいだったかな?それ以来1年以上、新人は来なかったからねぇ。別に先輩名乗ったって良いんだよ?」
ネオはただ黙っていた……。
ーーーーーーーーーやがて、3人の行手に何やら奇妙な光が見えて来た。
…と、言ってもこの世界に住む人たちにとっては、見慣れた光とも言えるが………。
「……コレは………〈星のセラム〉の結晶??」
ニュウが、目の前を見つめてそう呟く。
「…結構な量だね。」
ネオも
ーーーーーーーーー二人の前にある巨大な歯車には、七色に光り輝く水晶の様なものが、沢山こびり付いていたのだ。
歯車一つだけでは無い。…その奥の機械類にも沢山の水晶が付着しており、オーロラの様な光を放っている。
先程の妙な光の正体は、この歯車に付着した結晶が微かに放つ光だったのだ。
…ここで少し、〈星のセラム〉の結晶とは何か、説明しよう。
ーーーーーーーーー大地を漂う〈星のセラム〉は、質量を持った魂の集合体で有ると、少し前に説明したと思う。そして空気より重い…とも。
…そんな〈星のセラム〉は、ある程度の量が同じ箇所に溜まると、集まって結晶化する性質があるのだ。
濃度が濃いほど、より巨大で強い輝きを持つ結晶が出来上がる。
こういう結晶は基本地上に出現する物だが、移動要塞都市がセラム濃度の濃い場所を通り過ぎた時などに、脚部の複雑な部品の隙間などに〈星のセラム〉が付着し、ソレが積み重なってやがて結晶となる様になるのだ。
…とはいえ、コレで出来る結晶の量は高が知れているので、毎日適度に点検などをしていれば問題は起こらないはずなのだがーーーーーー……。
「…うん。確かに結構な量だな。……歯車の動きが悪くなっちゃってるじゃないか。」
ニュウがそう言うと、中年男性が申し訳なさそうに縮こまった。
「いやぁ……その、ちょっとサボっててね。…気付いたらコレだよ。」
ネオは軽くため息を吐いて、水晶のほうに進み出た。……その時、七色の光が少し強まり、不規則に輝き出す。
「……!これはーーーーーーー。」
ネオが足を止めたと同時に、水晶の一部を砕き破る様にして、黒い中型動物サイズの影が姿を現した。
ーーーーーーーーーまるで水晶の卵を割るかの様にして産まれ出たソレは………
「一ツ星級〈ノーマン〉??ーーーーーーーーー〈ノーマン〉が湧くまで放置してたなんて……。」
ネオが、自分達の前に出現したモノを睨んで呟いた。
……そう、ネオとニュウの前に現れたのは、人類の敵、壊獣〈ノーマン〉だったのである。
……等級は最低ランクの〈一ツ星級〉だが、それでもノーマンはノーマンた。
生まれると同時に、此方の存在に気付いて敵意剥き出しの咆哮をあげて来た。
『ーーーーーーーーーキュオオオオオオオオオオオッ!!!』
「マジか……。一ツ星とは言え、〈ノーマン〉が生まれるとはね。」
ニュウが顔をしかめて呟く。
……〈ノーマン〉は〈星のセラム〉から生まれる。……その仕組みは、結晶化しても変わらない。結晶が小さい内は〈ノーマン〉も生じはしないが、如何やら事態はちょっぴり深刻な様だ。
「……駆除する。」
慌てる事なく〈セラムキューブ〉を手に展開して、ネオはそう呟いた。…中年男性はとっくのとうに随分離れた所まで逃げ出している。…ま、戦う力のない者なら仕方のない事だ。
ネオの手の中のキューブが崩れる様にして、彼女の手の内に光となって集まり、一本の剣を形作った。鍔のない長めの
武器の生成が終わると同時に、ネオの周りに一ツ星級の〈ノーマン〉達が集まってくる。……自らを排除しようとする意志に反応したのだろう。
「…案外居る。」
そうネオが呟くと『カチャリ…』という音と共に、彼女の横にニュウが並び立った。
手には紫に光るハンドガン…彼の〈セラムキューブ〉が変化したものだーーーが、握られている。
ネオがチラリと彼の顔を見ると、ニュウは小さく微笑んだ。
「ーーーーーーーーーする事あったな。…俺も手伝います。」
……彼から持ちかけられた加勢の提案。コレを断る理由は無い。
「……分かった。私は奥の方をやるから手前お願い。」
ニュウはハンドガンをクルリと回して頷いた。
「ーーーーりょーかい。」
こうして、要塞都市の真下で突発的に〈ノーマン〉との戦いが始まるのであったーーーーーーーーーーーー………
移動要塞都市とは、ジブリ作品で言うところのラピュタやハウルの動く城のアレ。
ゼノブレイド2で言うところの巨神獣
エヴァで言うところのAAAヴンダー
…そんな感じを勝手に想像してます。空を飛んでいるわけじゃ無いけどネ
追記2023.6.1 セリフ修正 タイトル変更