モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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8話 〈怠惰するべからず〉

 

 

……ネオの後を追って歩く事暫し、二人は〈オーステルン〉の外周部に辿り着いていた。

 

 

 

 

 移動要塞都市の外周部には、基本的に居住地などはない。

 

…ノーマンが襲来した時に、奴らの攻撃を最もよく受ける場所だからだ。

 

そんな所に、住宅など建てれまい。

 

 代わりにあるのは、巨大な砲門…そして、馬鹿デカい機関銃たちである。

 

 コレはすべて、都心部を守る為の対ノーマン用の武装設備だ。昇り始めた朝日を浴びて鎮座するソレ等は、非日常的な強い存在感を放っている。

 

 

 

 

 そんな外周部の隅ギリギリ……あと一歩足を踏み出したら、要塞都市から落ちて行ってしまう所に、下に続く階段があった。

 

そこを下っていくネオ。

 

「……下へ降りるんですか??」

 

「ーーーーーーうん。…この街の、〈脚〉へ向かう。」

 

「〈脚〉か…。なるほど。」

 

 ニュウは呟いて彼女の後を追った。…なるべく、直ぐ右隣に広がる虚空を見ない様にしながらーーー……

 

「…こんな所、落ちたらタダじゃ済まないな。」

 

 一応、柵で仕切りがあるとはいえ、何かの弾みで柵が無くなれば、上空何百メートルから地上に向けて真っ逆さまだ。……そこまで考えて、ニュウそれ以上、考えるのを辞めた。

 

 

 

ーーーーーーーーー暫く下っていくと、やがて少し広くなった場所…踊り場の様な所に出た。

 

 

ーーーーーーーーー直ぐそばに巨大な歯車と、ソレによって動く太い金属の脚が見える。……動きに従って金属同士の擦れ合わさる音が、あちこちから聞こえて来た。

 

 

ーーーーーーーーー全部で6対12本有るこの巨大な脚が、この移動要塞都市の全てを支えているのだ。

 

 

 

「……おぉ…。コレが〈オーステルン〉の脚部か。デカいな…。」

 

 そうニュウが金属の脚を眺めながら1人呟くと、誰かーーーネオでは無い声が二人に掛けられた。

 

「…ああ。来てくれたんだね。」

 

「…?」

 

振り向くと、繋ぎの作業着を来た中年男性と目があった。

 

 ニュウにとっては初めて見る顔だが、ネオは知っている様だ。軽くお辞儀をして口を開く。

 

「…おはようございます。」

 

「あぁ、おはよう。ネオちゃん。……朝から悪いねぇ。()()()()()()()。」

 

ネオは頷いた。

 

「はい。ーーーーーーーーー案内してもらえますか?」

 

「勿論。」

 

 中年男性はネオを手招きして、歯車と歯車の間に作られた通路を歩き出す。ニュウも後に続く。……頭上にまで張り出した歯車や金属部品の数々は、まるで金属の森の様な印象を彼に与えた。

 

「ところでーーーネオちゃんの後ろのお兄さん、誰だい?…新しい人?」

 

 先を行く中年男性が、此方を振り返って声を掛けてくる。

 

「あー、ハイそうです。…昨日ここに来まして。」

 

 そうニュウが言うと、中年男性はちょっと感慨深そうに頷いた。

 

「そっか……ネオちゃんも先輩になったんだね。」

 

「……先輩では無い気がします。」

そうネオが言った。

 

中年男性は続ける。

「ネオちゃんが〈イースター〉に来たのは…去年の初めぐらいだったかな?それ以来1年以上、新人は来なかったからねぇ。別に先輩名乗ったって良いんだよ?」

 

ネオはただ黙っていた……。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーやがて、3人の行手に何やら奇妙な光が見えて来た。

 

 

…と、言ってもこの世界に住む人たちにとっては、見慣れた光とも言えるが………。

 

 

「……コレは………〈星のセラム〉の結晶??」

 

 

ニュウが、目の前を見つめてそう呟く。

 

「…結構な量だね。」

 

ネオも()()を見て呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー二人の前にある巨大な歯車には、七色に光り輝く水晶の様なものが、沢山こびり付いていたのだ。

 

 歯車一つだけでは無い。…その奥の機械類にも沢山の水晶が付着しており、オーロラの様な光を放っている。

 

 

 

 先程の妙な光の正体は、この歯車に付着した結晶が微かに放つ光だったのだ。

 

 

 

 

 

…ここで少し、〈星のセラム〉の結晶とは何か、説明しよう。

 

ーーーーーーーーー大地を漂う〈星のセラム〉は、質量を持った魂の集合体で有ると、少し前に説明したと思う。そして空気より重い…とも。

 

…そんな〈星のセラム〉は、ある程度の量が同じ箇所に溜まると、集まって結晶化する性質があるのだ。

 

 濃度が濃いほど、より巨大で強い輝きを持つ結晶が出来上がる。

 

 こういう結晶は基本地上に出現する物だが、移動要塞都市がセラム濃度の濃い場所を通り過ぎた時などに、脚部の複雑な部品の隙間などに〈星のセラム〉が付着し、ソレが積み重なってやがて結晶となる様になるのだ。

 

…とはいえ、コレで出来る結晶の量は高が知れているので、毎日適度に点検などをしていれば問題は起こらないはずなのだがーーーーーー……。

 

 

 

 

「…うん。確かに結構な量だな。……歯車の動きが悪くなっちゃってるじゃないか。」

 

 ニュウがそう言うと、中年男性が申し訳なさそうに縮こまった。

 

「いやぁ……その、ちょっとサボっててね。…気付いたらコレだよ。」

 

 ネオは軽くため息を吐いて、水晶のほうに進み出た。……その時、七色の光が少し強まり、不規則に輝き出す。

 

「……!これはーーーーーーー。」

 

 ネオが足を止めたと同時に、水晶の一部を砕き破る様にして、黒い中型動物サイズの影が姿を現した。

 

 

ーーーーーーーーーまるで水晶の卵を割るかの様にして産まれ出たソレは………

 

 

 

「一ツ星級〈ノーマン〉??ーーーーーーーーー〈ノーマン〉が湧くまで放置してたなんて……。」

 

ネオが、自分達の前に出現したモノを睨んで呟いた。

 

 

 

……そう、ネオとニュウの前に現れたのは、人類の敵、壊獣〈ノーマン〉だったのである。

 

……等級は最低ランクの〈一ツ星級〉だが、それでもノーマンはノーマンた。

 

 生まれると同時に、此方の存在に気付いて敵意剥き出しの咆哮をあげて来た。

 

 

『ーーーーーーーーーキュオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

「マジか……。一ツ星とは言え、〈ノーマン〉が生まれるとはね。」

 

ニュウが顔をしかめて呟く。

 

 

 

……〈ノーマン〉は〈星のセラム〉から生まれる。……その仕組みは、結晶化しても変わらない。結晶が小さい内は〈ノーマン〉も生じはしないが、如何やら事態はちょっぴり深刻な様だ。

 

 

「……駆除する。」

 

 慌てる事なく〈セラムキューブ〉を手に展開して、ネオはそう呟いた。…中年男性はとっくのとうに随分離れた所まで逃げ出している。…ま、戦う力のない者なら仕方のない事だ。

 

 

 ネオの手の中のキューブが崩れる様にして、彼女の手の内に光となって集まり、一本の剣を形作った。鍔のない長めの握り(グリップ)と、先に行く程細くなっている刀身(ブレード)だけのシンプルな剣だ。

 

 

 武器の生成が終わると同時に、ネオの周りに一ツ星級の〈ノーマン〉達が集まってくる。……自らを排除しようとする意志に反応したのだろう。

 

 

「…案外居る。」

 

 そうネオが呟くと『カチャリ…』という音と共に、彼女の横にニュウが並び立った。

 

 手には紫に光るハンドガン…彼の〈セラムキューブ〉が変化したものだーーーが、握られている。

 

 ネオがチラリと彼の顔を見ると、ニュウは小さく微笑んだ。

 

「ーーーーーーーーーする事あったな。…俺も手伝います。」

 

 

……彼から持ちかけられた加勢の提案。コレを断る理由は無い。

 

 

「……分かった。私は奥の方をやるから手前お願い。」

 

ニュウはハンドガンをクルリと回して頷いた。

 

「ーーーーりょーかい。」

 

 

 

 

 こうして、要塞都市の真下で突発的に〈ノーマン〉との戦いが始まるのであったーーーーーーーーーーーー………

 

 

 

 

 






移動要塞都市とは、ジブリ作品で言うところのラピュタやハウルの動く城のアレ。

ゼノブレイド2で言うところの巨神獣

エヴァで言うところのAAAヴンダー

…そんな感じを勝手に想像してます。空を飛んでいるわけじゃ無いけどネ

追記2023.6.1 セリフ修正 タイトル変更

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