モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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80話〈聖戦 Ⅳ 〜因縁は斯くして始まった〜〉

 

 

 

ーーーー迫り来る九つの刃。

 

 

 

 ノインの尻尾から放たれたソレを、ネオは同じ数の剣を生成する事で防いだ。

 

 空中に生み出された剣と、鋭い刃がぶつかり合って火花を散らす。

 

「…それぐらいでッ!!」

 

ノインが叫んで、更に刃付きの尻尾を振るう。

 

「…!!」

 

 残像すら残る勢いで振るわれた尻尾が、ネオを後退りさせた。

 

「まだまだ!」

 

ーーーー更に追撃は続いていく。

 

 黒いコードの様な尻尾の先端から分たれた、9本の細い尾。それら全てが、鉄すら切り裂く切れ味の刃を持ってネオを追い詰めるのだ。

 

(速い……!)

 

 高速で繰り出される尻尾の斬撃の連鎖から、ネオはなんとかして逃れようと動くも、ノインの尻尾は驚くほど遠くまで伸びてくる。

 

「無駄よっ!!(あたし)の尻尾からは、逃げれないんだから!!」

 

 休みなく斬撃を繰り返しながら、ノインが少し自慢気に叫んだ。それと同時にネオの肩に刃が擦り、白いコートが切れて血が舞う。

 

「…っ!」

 

…このコートに傷が付くのは嫌だった。

 ネオは切られたコートを《再構築》で修繕し、攻撃の合間を縫って《霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)》を高次元より顕現させる。

 

 そして、空間の裂け目より出現した大剣を握り、自らに施した《パワーオーラ》によるバフを利用して素早く構えた。

 

 

ーーーーガキィンッッッ!!!

 

 

 ネオの体を守る様に構えられた霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)と、ノインの尻尾の刃が纏めてぶつかり、喧しい音を立てる。

 

 重量のある霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)はノインの攻撃をビクともせずに防いだばかりか、逆にノインの尻尾が弾き飛ばされる事になった。

 

ノインの尻尾攻撃が一瞬止まったのを見て、ネオは勢い良く霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)を横薙ぎに振り回す。

 

 ドンッ、と大気を裂いて放たれた斬撃波がノインに襲い掛かった。ソレを猫のように跳び上がって回避するノイン。跳び上がったノイン目掛けて、剣を投擲するネオ。

 

 ノインは、素早く尻尾で剣を弾き飛ばして地面に着地。ーーーー着地した瞬間、ネオが霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)を携えて突撃する。

 

 それもノインは後ろに跳んで回避すると、コチラに掌を向け、炎を纏った誘導弾(ホーミング)を放ってきた。

 

「ーーーー!?」

 

 咄嗟に霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)でホーミング弾を受け止めるネオ。

 

 ズドンッ、と大きな爆発が生まれ、一瞬視界が火に遮られる。

 

(セラムの力ーーーー?!)

 

 

 視界が元に戻った時、ネオの目の前にノインは居なかった。

 

 

(ーーーー横…っ!!)

 

 真横から気配を感じたネオは、素早く霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)で防御体勢に入る。

 

 コンマ1秒後、横から飛んできたノインの尻尾が霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)に激突した。

 

 

再び激しく散る火花。

 

 

 しかし今度はノインは弾き飛ばされる事なく、むしろ大きくコチラに踏み出して来る。

 

 霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)は巨大ゆえ、懐に入られると扱い難い。それを見越しての接近行為だろう。

 

「ーーーーえいッ!!」

 

 至近距離から、ノインが右脚をしならせて蹴りを放ってきた。風を切る音を立てながら迫る中段蹴り。

 

「ふッ。」

 

ネオも咄嗟に右脚で蹴りを返す。

 

 両者の足裏が空中で激突し、戦いの舞台となっている広場に衝撃波が走った。

 

椅子と簡易テーブルが宙を舞う。

 

 

ミシッ…、という音がノインの脚から聞こえた。

 

 

ーーーー身体と身体がぶつかった時の違和感。……そして、彼女の膝に普通の生物には付いていないであろう球体関節が見えたネオは、思わず口を開いてノインに問い掛けていた。

 

「……貴女…ロボット…??」

 

 蹴りを防がれたノインが、ネオから何歩か距離をとってから問いに答える。

 

「その通り!あたしはお父様に生み出された機械生命ーーーー〈人造臣機〉。お父様の命令に従い動く、忠実な(シモベ)にして最愛なる家族なの!!」

 

これまた自慢気に口を開いて説明するノイン。

 

 下僕と家族って両立出来るんだろうか?ーーーなんてネオは思ったが、すぐに思考を切り替えた。

 どうも、グローリー側とは違う目的で動いているらしき彼女から、少しでも情報を得るべくネオは口を開く。…尤も、あまりベラベラ喋ってはくれないかもしれないが。

 

「機械生命……なるほど。……で、貴女の『お父様』は私を攫ってどうするつもりなの?」

 

ノインは指でバツ印を作った。

 

「ん〜残念、流石にそれは教えられないよ。……ただまぁ、敢えて言うなら保険みたいなもの…かな。」

「保険…?」

「うん。お父様は()()()にーーーー……いや、これ以上はダメだね。やっぱり無しで。聞かなかった事にしてね?」

 

そう言って、ノインは尻尾の刃を構え直す。

 

「……ま、話は後でもたっぷり出来るからさ。ーーーー取り敢えず、貴女は連れてくね。」

 

 話は此処までらしい。そう理解したネオは、ノインに倣って霊柩ノ大剣(コフィン・ブレード)を構え直した。

 

「ーーーー貴女のお父さんが何を企んでいようと、私には関係ない。……貴女と一緒には行かないよ。」

 

 

ーーーー向かい合う両者。

 

 

 そして、再び戦いは始まった。さっきよりも、速く激しくーーーーーーー………

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

〔…十数分前…〕

 

 

 

[グローリー 大聖堂5階 懺悔室]

 

 

〈視点:カノン〉

 

 

 

 

 神聖な空気で満たされていた懺悔室に弾けた戦いの閃光。

 

 カノンの透明な翠と、フェルシアの黒に限りなく近い青が、部屋のど真ん中で飛び散る。

 

 あっという間に、部屋に並んでいた長椅子は次々と壊れ、床に敷いてある真紅のカーペットも、ビリビリに破れて剥がれていく。

 

「ーーーー何度やっても同じなのよカノン!!……貴女は私に生み出された!!…私が貴女に全てを与えた!!それが貴女の限界よ!!ーーーー子が親を超えることは出来ないわ!!」

 

 カノンの剣を歪な黒翼で受け止めながら、フェルシアは叫んだ。

 

 その顔に顔を突き合わせるようにして、カノンは叫び返す。

 

「ーーーー私は、今日此処でお母様を止めてみせる!!親が……子の限界を決める事は出来ないッッ!!」

 

 叫んだカノンは思いっきり力を込めて、フェルシアを弾き飛ばした。

 

「ッッッ!!!」

 

 フェルシアは、懺悔室の壁に嵌め込まれているステンドグラスを割り、大聖堂の外へ弾き飛ばされていく。

 カノンは翼を全力ではためかせて、フェルシアを追い外へと飛び出した。

 

 

 大聖堂の真ん中に聳え立つ1番大きな尖塔。その周りを回るように、空中戦が繰り広げられていく。

 

 

 両者がぶつかり合う度に、塔の何処かが派手に砕け、破片が空に舞う。

 

 やがて、塔の1番上ーーーー大きな時計が有る場所に、フェルシアとカノンはやって来た。

 

 

「ーーーー《模倣必殺(コピー・ストライクショット)ーーーエンジェル・ハイロゥ》!!!」

 

 頂上に着くなり、カノンがフェルシア目掛けて鋭い斬撃を放つ。

 

それを紙一重で回避するフェルシア。

 

 放たれた斬撃は、フェルシアの背後の巨大な時計を砕き、盛大に瓦礫を空に舞わせた。

 

ーーーー空に舞った時計の短針(…と言っても、元が大きいのでちょっとした大剣の様に見える。)を手に取ったフェルシアは、それをカノンに突き出して来る。

 

「《バリア》!!」

 

それを薄紫の障壁で受け止めるカノン。

 

 攻撃を受け止められたフェルシアだったが、意に介さずに次の攻撃へと移った。

 

「ーーー《ダブル・エナジーサークル》。」

 

ーーーーズズンッッ、と2つの破壊的エネルギーの輪が、カノンの前で解き放たれる。

 

 耐え切れず、破片となって砕け散るバリア。ーーーーバリアは一度破壊されると、暫くは張り直せない。

 

カノンは一旦、フェルシアから距離を取った。

 

 時計の短針を剣の様に手に持ったまま、フェルシアが憂う様に口を開く。

 

「ーーーー嗚呼…どうすればいいのかしら…。私は愛する貴女と、こんな無益な戦いはしたく無いのに。」

 

 そう呟くフェルシアに、カノンはガブリエルの剣を構えたまま答えた。

 

「お母様が、新人類をもっと大切にしてくれるのなら…彼等の命を、尊重してくれるのなら、私だって戦わないよ。でも、それをする気は無いでしょ?」

「世界の為なのよカノン。世界の為なの。……貴女だって昔は賛同してくれた筈よ?」

 

カノンは首を振る。

 

「……ソレは間違った教えだった。確かに賛同した時もあったけど、正しい事を知っているのに、間違った事をまた繰り返す気にはもうなれない。」

 

フェルシアはため息を吐いた。

 

「……どこで間違えたのかしらね。()()()、貴女がアステールに辿り着かなければ、イースターに会わなければ、きっと今頃私の隣に立って、共にイースターと戦っていたでしょうに。……あんな、()()()()()()()()()()()()()じゃなくて。」

「…?」

 

 フェルシアの言葉の一部が分からず、カノンは首を傾げた。

 

「……『模造品の模造品』?また何か生み出したの?お母様。」

 

 フェルシアは頷いた。ーーーーそして、街の方を指差す。

 

「ーーーー今は見えないでしょうけれど、私は貴女が居なくなってから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ーーーーその名も、〔()()()()()()()〕。……貴方の代わりになれば良い。…そう思っていたわ。」

 

 自分がいなくなってから、自分の代わりになる者を作っていたーーーー。

 

…ソレは、カノンに対して『貴方の代わりは他の誰かでも務められる。』と、言外に言っている様なものであるとカノンは思った。

 

 

 フェルシアは、やっぱり自分をただの都合の良い道具に過ぎないと、考えていたのだ………

 

 

ーーーーーーーそう思った時に、カノンの心に湧き上がって来たのは何故か、自分を都合良く使っていたフェルシアに対する、怒りの感情では無かった。

 

(……なんだろう…。この感情は…怒りじゃない……。)

 

 

 それは胸が空く様な…空虚になってしまったかの様な感覚だった。

 

 

(ーーーーこれは…悲しみ。…私、悲しんでる??)

 

青空の下で、カノンは少したじろいだ。

 

…フェルシアが自分の事を()()思っている事なんて、もうずっと前から理解していた。彼女本人に直接聞いた訳では無いが、カノンはそう信じて疑わなかった。

 

 だから、悲しむだなんて今更な話なのだ。

 自分はフェルシアに対する尊敬とか、崇拝とか、そう言う過去の感情は捨てた筈なのだ。

偽りの家族愛などは、もう捨てた筈なのだ。

 

 だから今更それをーーーーー元々嘘だった家族愛を否定されたからと言って、何を悲しむ必要があるのだろう??

 

 

なのに、何故かすごく悲しい。

 

 

『まだ貴方の中に、彼女への情が残ってるんじゃーーーーーーーー』

 

 アルセーヌの声がまた脳裏に木霊する。そんな筈ないと、カノンは否定して来た。……今だってそうだ。そんな筈はない。フェルシアが与えたモノは、愛じゃない。…だから、自分にだって彼女に対する愛なんて無い。

 

造られたモノと、造った者。

 

……それだけの筈だ。自分の事を親と呼ばせたのはフェルシア。全部、家族ごっこーーーーーーー

 

 

ーーーー本当に?

 

 

頭の中で誰かが言った。

 

 

ーーーー最初に目を開けた時、貴女はフェルシアの事をなんて呼んだ?『母様』って呼んだんじゃないの??

 

 

ーーーー親は子を愛するものだよ。善人は勿論のこと、悪人でもね。貴女はそれを無垢な状態でも感じ取ったから、あの時フェルシアを母様と呼んだんじゃないの??

 

 

 脳裏の声を、カノンは首を振って遠ざけた。今は、自分の内面に苦悩している場合では無いのだ。

 

 戦う姿勢を整えたカノンの前で、フェルシアは話を続ける。

 

 

「ーーーーーーーでも、失敗だった。貴女にしか、心は宿らなかったの。心の無い、只のカノンの見た目をしただけの人形。……()()()()()()()()()()()()。そして私は気付いたの、やっぱり貴女は私に取っての大切なモノなんだって。……手の届かない遠くに行ってから気付くとは、滑稽よね。」

 

 カノンはフェルシアを見つめる。…彼女の言葉は、やっぱり信じられなかった。……その『愛』も。

 

「ーーーーねぇ、カノン。私は貴女に戻って来てほしいわ。イースターじゃなくて、私の所に来なさい。……また一緒にーーーー」

「ーーーーそうやって、私に嘘つかないでよお母様!」

 

 カノンはフェルシアの言葉を遮って叫んだ。ーーーーそして、ガブリエルの剣で斬りかかる。

 

「別に、本当に愛してなんていないくせに!!ーーーーそうやって今まで私を騙して利用してたくせに!!」

「ーーーー私が貴女を愛していたのは事実よ!カノン。ーーーー掛けた愛情を否定されたくは無いわ!」

 

 

 口論を交わしながら、空中で幾度となくぶつかり合う2人。

 

 

 カノンは、フェルシア目掛けて矢継ぎ早に攻撃を繰り出しながら、叫び続ける。

 

「ーーーーじゃあ、何でカノンシリーズなんてもの作ったの?!…別に誰だってよかったんでしょ!!ーーーー自分を盲信してくれる存在が居れば!!…偽りの『愛』を囁かないでよ!!」

 

 叫びながら『これじゃあ、まるで嫉妬だーーーー』とカノンは思った。自分じゃ無い何かに、自分の代わりをさせようとした事に対する嫉妬。

ーーーーでも、おかしな話しだ。本当にカノンに愛が与えられていないのなら、カノンが此処まで心を乱すことはない筈なのだ。

 

 ヒトは、他者から与えられた物を識っていく。フェルシアが愛をカノンに与えていないのであれば、どうしてカノンはこんなにも心悲しませるのだろう?

 

………愛情を知らなければ、ソレを否定されたと思い込んだ所で痛くも痒くも無い筈なのに。

 

 何故か酷く心乱しながらも、カノンは攻撃を続ける。

 フェルシアは、それら全てを捌きながら叫び返した。

 

「ーーーー私は、()()()()()()って言ったじゃない!カノジョ達には、心が無かった!貴女の様な『人間の心』が!……心を持った唯一のアナテマシリーズだった貴女を、私は実の娘の様に思って来たわ!…だから、教えたの!ーーーーただ道具として貴女を使うだけなら、全く意味の無い『感動の感情』を!…覚えてる?」

 

 カノンの脳裏に、ずっと昔の記憶が過ぎる。ーーーー地上の森で、綺麗な湖を見せられた日の事を。

 

……あの時、フェルシアはどんな顔をしていた??

 

 カノンの脳裏に、夕陽に照らされたフェルシアの横顔が浮かび上がる。

 

 

…その顔は、笑っていた。何の歪みも企みも無い、純粋な笑顔ーーーーーー

 

 

「ーーーーッ…!」

 

 生じた一瞬の隙を見逃さずに、フェルシアはカノンの横腹を足で蹴り飛ばす。

 

「ーーーーかはっ?!」

 

 強烈な一撃に吹き飛ばされるカノン。そのまま、大聖堂の後ろーーーー〔アナテマの扉(アナテマゲート)〕を構成している、1枚の大きなパネルに叩き付けられた。

 

 パネルがひび割れ、背中を強打したカノンは咳き込んだ。

 

 そんなカノンの前に、黒翼を広げたフェルシアが立ちはだかる。

 

「……貴女には心がある。ちゃんとした、人の心が。…だから分かる筈よ。私が貴女を愛していた事が。…どうして、それを頑なに否定するの?…どうして、嘘だって思い込もうとするの??」

 

 カノンは動こうとしたが、パネルの亀裂に体が挟まってしまったのか、身動きが取れなかった。

その格好のまま、カノンは口を開く。

 

「……()()()、気付いたから……お母様が私に嘘を言っていたって。お母様は、私に何も本当の事を教えてなかったって。」

 

 フェルシアに向かって話しながら、カノンの意識は『あの日』へと遡っていたーーーーーーー

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()カノンは、反連邦勢力ーーー所謂、レジスタンスーーーが拠点としている地上施設へ攻撃を仕掛ける為に、グローリー軍と行動を共にしていた。

 

 辺りには、旧人類にとっての毒である〈星のセラム〉が霧の様に立ち込めている。……空を見上げれば、まるで星雲が地上に降りて来たかの様な、輝きを放つ光の粒子の雲を見る事ができた。

 

 カノンは複数のアナテマシリーズーーー改良型(TYPE-B)よりも獣感の強い、初期型(TYPE-A)ーーーーを引き連れて、森を進んでいた。

 少し前には、防護服に身を包んだ軍隊がゆっくりと行進している。

 

(あと少しだ…。)

 

カノンはそう思った。

 

 特に緊張は感じなかった。ただあるのは、フェルシアから命じられた事をこなそうとする意思のみ。

 

 戦いに対する恐怖もまた、何も感じなかった。……死地に身を置きながら、完全に冷静を保っている事。ーーーーそれは、生物として異常な事であるが、カノンにその自覚は無い。

 

「止まれ。」

 

軍隊の1人がそう言って立ち止まった。

 

 カノンも立ち止まって、軍隊が待機している先へと目をやる。

 

 

ーーーーちょっとした森の中の窪地……そこに、野営地らしき物があった。勿論、カノン達の物では無い。

 

「あれがレジスタンスの野営地だな…。」

「ああ。近くには大災害前の廃墟を流用した拠点がある。ーーーーそこを叩くのが、今回の任務だ。」

 

軍隊の兵士たちが囁きを交わす。

 

「しかし…ここ最近はレジスタンス活動が活発になって来たな。」

「……そうだな。〈ティタノマキアー事変〉やら、ライオ・アルスラーンの蜂起やら、色んな事件が起きてるしな。それに、未だ〈星のセラム〉は広がり続けてる。一体、世界はどうなっちまうってんだ。」

 

 そんな囁きを聞いた兵士の1人が、ふと空を見上げて呟いた。

 

「……そう言えば……今日、やけに〈星のセラム〉濃度濃くないか…?」

「…だな。ーーー高濃度の〈星のセラム〉からは、ノーマンも出現する。気をつけた方が良いかもな……。」

 

誰かがため息を吐いた。

 

「厄介極まりないぜ…。新人類は良いよなぁ……こんな通気性最悪な防護服なんて着なくとも、こんな霧みたいなセラムの中で生きられて。」

 

 それを聞いたリーダー格の兵士が、厳格な口調で口を開いた。

 

「ーーーーそれが、新人類がヒトでは無いと言う事の証明だろう。……彼等は排斥されるべき脅威。…便利で良いな、などと思うな。」

 

…すこし静まり返る部隊。

 

やがて、リーダー格の兵士が再び口を開く。

 

「進むぞ。ーーーー奴らは我々の接近に気付いていない。今がチャンスだ。」

「……了解です。」

 

軍隊の面々は、そっと頷きを交わしてから進んでいった。

 

カノンも後に続く。

 

 

……そして彼等は遂に、野営地の目と鼻の先に辿り着いた。

 

 

「野営地の守りは手薄。行くぞ!ーーーαチーム、突撃ッ!!」

 

 リーダー格の男の声に合わせて、部隊が一斉に動き出す。

 

ーーーー最初に野営地に投げ込まれたのは、閃光弾だ。

 

 パッ、パッ、と連続して爆ぜる閃光が野営地を照らし出す。素早く野営地へ突撃していくグローリーの兵士達。

 

 カノンは、彼等の後ろでアナテマシリーズに命令を下した。

 

「行け。」

 

『ギイィヤァァァァァァァァッッ!!!』

 

 絶叫を上げながら、翼を持つ異形が空を飛ぶ。ーーーーそして、目に付くもの全てに襲い掛かり始めた。

 

 野営地のレジスタンス達は、完全にパニックになってしまった様だ。

 

ーーーーそれでも、何人かの新人類が此方に攻撃を返してくる。…彼等の持つ力の象徴ーーーーセラムキューブの輝きが、野営地にポツポツと瞬き、反撃が始まった。

 

「ーーーー敵の攻撃が来るぞッ!!」

 

 部隊の誰かが叫んだ直後、辺りに爆発が連鎖した。爆炎の合間から、キラキラと多色の〈属性光〉が光る。

 

 何人かの兵士が、攻撃を受けて傷付き倒れ込んだ。……穴の空いた防護服の隙間から〈星のセラム〉の光が入り込み、身体を蝕んでいく。…まるで、光に肉体が溶けていく様に………。

 

「あ…っ…俺の体が、光にーーーーーーー」

「……ぐ…あ…ッ…。」

 

 星のセラムは毒だ。旧き人類の体を蝕み、素早くかつ確実に死に至らせる。

 

 何人かが倒れたが、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。まだ此方の方が数に分があるのだ。このまま押し切るつもりで、兵士達は前に進む。

 

「…前方から、《ソリッドバレッーーーーぎゃあッ!!」

 

 報告をしていた兵士が1人、飛んできた《ソリッドバレット》に体を撃ち抜かれて倒れ込んだ。

誰かが叫ぶ。

 

「しゃがめ!!地形に隠れろ!!」

 

 乱反射する属性貫通弾が当たりを撃ち抜いていく。ーーーー攻撃の合間を縫って、兵士たちは自動小銃(ライフル)を撃ち続けた。

 

「…ッ、ーーーージャムった!」

「代われ!俺が前に出る!」

「すまん!…こんな時に。」

 

 森に絶え間なく鳴り響く銃声。旧人類の軍隊は自らの持つ武器、新人類のレジスタンスは、自らに宿る異能で戦っていく。

 

「グレネードは?」

「さっき使いました!…今は手持ちに無いです!」

「ーーーー遮蔽の向こうの敵が厄介だ!!…ひたすらコッチに属性弾を撃ってくる!」

「ソリッドバレット持ちにも警戒しろ!…俺達は1発でも食らったら、お終いだぞ!」

「ちっ。アイツらに弾切れの概念は無いからな…。」

 

 

ーーーー旧人類は、道具を用いなければ戦えない。だが、新人類は違う。彼等には生まれながらにして、戦いの為の力が宿っている。たった1人の新人類だけでも、やろうと思えば完全武装の兵士と戦えるのだ。

 

 

 拡散弾1発、レーザー1本、どれをとっても旧人類が単独で出せる破壊力では無い。…故に新人類は恐れられたのだろう。誰しもが、無差別に人を傷付ける力を持つのだから。

 

 

ーーーーだからこそ、力は必要とされる。

 

 

「…私が行く。」

「カノン様…!」

 

 

ーーーーカノンの様な力を持つ存在が、連邦には必要だったのだ。

 

 

ドンッ!!ーーーーと、大地を蹴ってカノンは飛び出した。

 

 カノンの接近に気付いたレジスタンスの誰かが、此方に攻撃を放ってくる。

 

ーーーーしかし、それはカノンが展開したバリアによって防がれた。

 

「んな…!?」

 

「ーーーー眠りなさい。」

 

 強引に敵の攻撃を突破したカノンは、遮蔽物の裏に隠れていたレジスタンス達を一刀の下に斬り殺す。

 

 倒れ伏すレジスタンス達。乱れた攻撃網を縫う様に、アナテマシリーズが突っ込んでいく。

 

「…な、なんだこの怪物ッ!?」

「ひっ…!」

「ぎゃあッッ?!」

 

 獲物を屠るが如く、レジスタンスを殺害していくアナテマシリーズ達。

 初期型(TYPE-A)に特殊能力は無い。ーーーーしかし彼等の持つ残虐性は、他のTYPEを超えている。

 

『ギャギャギャ!!』

『ギィイッ!』

 

 レジスタンス達の四肢を引きちぎり、剰えちぎり取った手足を武器の様に使い出すTYPE-A。

 

 薬指に指輪を付けた手が、棍棒の様に振り回されてレジスタンスを襲う。

 

別の個体は、包帯を巻いた人の足を振り回していた。

 

 四肢が振り回されるたびに、辺りに飛び散る鮮血。……それは、正に地獄その物といった風。

 

「………。」

 

 誰かの写真が入った金のロケットを踏み砕いて、カノンは前に進む。ーーーー背後に地獄を引き連れて。

 

 

「ーーーーお前ら、ここは俺に任せて撤退しろ!!行け!!!」

 

 ココで新手のレジスタンスの男が、突然カノンの前に飛び出して来た。そしてアナテマシリーズを殴り倒し、カノンに殴りかかってくる。

 

「…無駄。」

 

 カノンは、翳した手の先にバリアを生み出して拳を防いだ。

 

 バリアと拳がぶつかって、甲高い音が鳴る。ーーーー塞がれるもお構いなしに、拳で乱打し続ける男性。

 

「うおおおおおおおッッッ!!!!」

 

 アナテマシリーズが割って入ろうとしたが、容易く殴り飛ばされていった。……ここは俺に任せろと言うだけあって、かなり強い。

 

ーーーーだが、多勢に無勢。カノンのバリアの向こう側から軍隊による援護射撃が入り、瞬く間に男は無数の銃弾に撃ち抜かれた。

 

 倒れ込む男の首を、TYPE-Aが爪で斬り落としてトドメを指す。ーーーー男の首を持ち、勝鬨の様に吠える異形。カノンは無表情で前に進んだ。……彼の命懸けの抵抗に、なんの心も揺らがせる事なく。

 

「ーーーー隊長!レジスタンスが逃げます!!」

「分かってる!確実に此処で仕留めろ!!」

 

 足早に移動を開始するグローリー軍。ーーーー戦いは此方が優勢で終わる……と、誰しもが思った時。

 

 

 

『フォォォォォォォォォォン…………。』

 

 

 

鯨にも似た、透き通った咆哮が空に響いた。

 

 同時に、森の空に浮かぶ〈星のセラム〉の雲が割れて、中から漆黒の巨体が現れる。

 

 

ーーーー凡そ生物とは思えない、無機質な姿。………〈壊獣 ノーマン〉だ。

 

「…ッ?!ノーマンです!!…あの大きさから見て…五ツ星級…ッ?!」

「マジか…!こんな時にッ!!」

 

空を見上げた兵士が恐れる様に叫んだ。

 

『フオォーーーーン…!』

 

 トビウオに似たカタチをしたノーマンは、最初に目についたであろうレジスタンスの飛行船に狙いを定める。

 

 そして、無数の誘導弾(ホーミング)を生み出すと、飛行船に向けて放った。狙われた哀れな飛行船は、回避も出来ずに轟沈する。

 

 壊獣の前には、新人類も旧人類も等しく〈人間〉。破壊すべき対象なのだ。

 

「…全部隊に告ぐ。撤退だ。…五ツ星級なら、今の我々では勝てない。レジスタンスに注意が向いている内に、速やかに離脱する。」

 

 隊長の男がそう口を開いた。ーーーー誰も異議を唱える事なく、全員がその場から立ち去りだす。

 

しかし、ノーマンは目ざとく彼等に気付いた。

 

『……ウオォオォォンッッッッ!!』

 

空に響く咆哮。

 

 振り返ったカノンの目に、眩い光が飛び込んできた。

 

(ーーーーレーザー!!)

 

 咄嗟にバリアを展開して身を守るカノン。…降り注いだ特大(EL)サイズのレーザー光線が、部隊の側を掠め爆ぜる。

 

「ーーーーうわぁあぁっ!?」

 

 巻き込まれた兵士達が、あっという間に蒸発した。隊長の男も今ので死んだ様だ。…死とは実に呆気ないものである。

 

「隊長!!くそ…!」

 

歯噛みする残された兵士達。

 

「ーーーー行け。」

『ギィヤァアァァァ!!!』

 

 カノンはアナテマシリーズに命令を下し、ノーマンに向かわせた。……多少の足止めになれば良いと思ったのだがーーーーーー

 

 

ボボボボボボォンッッッ!!!

 

 

 立ち向かっていったアナテマシリーズは、ノーマンが放った何十と言う数の誘導弾(ホーミング)に撃ち抜かれ、あっさりと爆散していった。

 

……稼げた時間など、5秒に満たないだろう。

 

「…ダメか。…なら、私が止めるしか無い。」

 

 カノンはそう呟くと、翼を広げて飛び立った。ーーーー五ツ星級ノーマンは、単独での討伐は不可能な存在である。……それはカノンも理解していた。

 

(…倒せなくとも、時間が稼げれば良い。ーーー軍隊が離脱するまでの…3分位は。)

 

ーーーー倒すのではなく、あくまでも足止めの為にカノンは立ち向かう。ガブリエルの剣を生成し、ノーマンに向かって初っ端から必殺の一撃を放った。

 

 

「ーーー《終わりの審剣:壮烈》!!」

 

 

 振るわれたガブリエルの剣がノーマンの身体を切り裂いて、血の様に星のセラムを舞わせる。

 

……かなり深く斬り付けたつもりだったが、思ったより浅かった。

 

『フォォォォン……。』

 

 傷を負ったノーマンが唸る。……それにしても、この個体はかなりデカい。適当に振り回した体の一部に当たるだけでも、致命的なダメージを受けるだろう。

 

 

ーーーーキラッ!

 

 

ノーマンの顔に当たる部分が光る。

 

(レーザーが来る!)

 

 カノンは翼を広げ、回避行動に移った。ーーーー直後、放たれた極太のレーザーが空を灼く。

 

…なんとか避ける事に成功したカノン。そのまま剣で切り付けようとした時、ノーマンが突然消えた。

 

「…な、」

 

 背後に気配を感じる。ーーー振り返るよりも先に、バリアを張ったカノン。叩きつける様に振るわれたノーマンのヒレの一撃が、バリアに当たって甲高い音を立てた。

 

(……さっきのはーーーーワープ??)

 

…五ツ星級ノーマンは、アビリティと呼ばれる特殊能力を持つ。先程急に目の前でノーマンが消えたのは、《ワープアビリティ》による物だろうと、カノンは推測した。

 

『フォォォォォォォォォォン!!!!』

 

 攻撃を防がれたノーマンが吠える。ーーーー同時に、カノン目掛けて無数の誘導弾(ホーミング)が迫り来た。

 

「これはーーーー。」

 

 バリアを張って受け止めるカノン。しかし最初のレーザー攻撃や、続くヒレの一撃などを防いで耐久値が減っていたバリアは、全てを受け切れずに割れてしまう。

 

「くッッッ!!」

 

 ガブリエルの剣でホーミング弾を凌ごうとしたカノンだったが、流石に数が多過ぎて食らってしまった。

 

 爆発に飲み込まれ、宙を回転しながら舞う。更に追撃と言わんばかりに、ノーマンはレーザーを放ってきた。

 

痛む体を捻って、なんとか回避する。

 

そのまま更に必殺の一撃をカノンは放った。

 

「ーーー終わりの審剣ーーー《壮絶》!!」

 

 何本も纏めて生成されたガブリエルの剣が、ノーマンに降り注ぐ。ーーーーまるで、剣の雨の様に。

 

 

『フォォォォォォンッッッ?!』

 

 

 次々と体に剣が突き刺さって苦しむノーマン。ーーーやがて耐え切れなくなったのか、ノーマンの体がパッと消えた。…倒したわけでは無い。《ワープ》で攻撃範囲外から離脱したのだ。

 

(やっぱり、ワープ能力持ち…。)

 

心の中で呟くカノン。

 

ーーーーワープしたノーマンは、カノンの頭上に現れる。2つの必殺の一撃を食らってダメージを受けている様だが、まだ倒れる程では無い様だ。

 

一方、カノンは限界が近かった。

 

 ホーミング弾を連続して被弾したせいで、身体のあちこちがボロボロになって血が流れている。

 更に、消耗の激しい必殺の一撃(ストライクショット)を連続使用した事で、スタミナ面でも限界が近かった。

 

(……でも、流石に軍隊は離脱出来たはず。ーーーー後は、私が上手くこのノーマンから逃げ出せればーーーー)

 

そう考えるカノン。

 

 しかし、ノーマンはそれを許さなかった。カノンの目に、無数のホーミング弾の輝きが映り込む。

 

(ここに来て……また、ホーミング攻撃か…。)

 

 心の中で呟いたカノン。ーーーーバリアは割れ、直ぐには張り直せない。そして自分はダメージを受け過ぎている。……喰らえば、今度は死ぬだろう。

 

ーーーーならばもう、一か八かの特攻をするしか道は無い。……ホーミング攻撃を回避しつつ、ノーマンを攻撃。致命傷を与える事が出来れば、なんとかなる可能性もあるし、なんとかならないかもしれない。

 

 生きるか死ぬか……。どんな強者でも、すくんでしまう様な状況だろう。ーーーーしかし、カノンは死を恐れない。その感情を、カノンは知らない。

 

 故に、カノンは無表情で突撃していく。死ぬのなら死ぬで良し。グローリー軍は離脱できた。…母様の国の役には立てた。ーーーーなら、それで良いではないか。

 

『ーーーー!!』

 

ノーマンが目を見張った……そんな気がした。ーーーーそれは、生き物であれば必ず感じる筈の、『死の恐怖』を感じる事なく立ち向かってくるカノンに対する驚きの感情だろうか?

 

 

ーーーーーーズドンッッッ!!

 

 

 カノンの繰り出した剣の一撃が、ノーマンに突き刺さった。更にカノンは、剣を突き刺した状態のまま変形させるーーーーガブリエルの剣から、白い翼の意匠の付いた銃へ。

 

「《ホワイト・フェザーバースト》。」

 

 銃口の先端をノーマンの体内に突き込んだまま、カノンは最後の一撃を放った。ノーマンの体内で放たれた破壊の奔流は、出口を求めて内側で荒れ狂う。

 

 

『フォォォォォォォォォォンッッッ?!?!』

 

 

 ノーマンは苦悶の咆哮を上げ、最後の足掻きと言わんばかりに《ワープ》してカノンから逃れようとした。…生み出された空間の歪みーーーー〈ワープホール〉が、ノーマンとカノンを包み込む。

 

 自分までワープホールに巻き込まれた事にカノンは驚いたが、離脱するより早く、ノーマンが爆ぜた。

 

 

カーーーーーーーンッッッ!!!

 

 

 特徴的な撃破音が鳴り響き、ノーマンはワープホールの中で爆散する。

 至近距離から撃破時の爆発を受け、死にはしなかったものの、意識を手放すカノン。

 

 一方、ワープホールは能力の行使者が居なくなっても消滅する事なく残り、内部に気絶したカノンを残したまま素早く閉じた。

 

 

 

ーーーーこの時、グローリー軍はカノンを見失った。

 

 

彼女は、空間の歪みの彼方へ消えてしまったのだ。

 

……しかし〈()()()ホール〉である以上、ソレは何処かに繋がっている筈である。

 

 

 

ーーーーだが、カノンが何処へ飛ばされてしまったのか。…それは本人以外分からなかった。

 

 

 

 






カノンの離脱イベどうなるかと思ってたが、こうなったか……。

ちょっと長くなりそうなので、過去編の一部を次回に持ち越します。

ほな、また次回。( ´ ▽ ` )ノ

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