モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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ちょっと過去回想の最後の方は端折ってます。(申し訳ない)

…いやでも、全部みっちり書いてたら…多分、今回でも終わらないし……。ハイ。







82話〈聖戦 Ⅵ 〜目醒め〜〉

 

 

 

 

 

薄暗い部屋の中で、カノンは蹲っていた。

 

 

 みぞれに濡れて泥に汚れた服は、元々自分が着ていたいつもの白い服に変えて貰い、ズレた包帯は巻き直されている。

 

 

外は依然として雨。

 

 

 屋根を叩いて流れる雨音が、部屋にこだましていた。

 

 

 

「カ…カノン………。」

 

 自分の後ろで、少年がおずおずと呟くのをカノンは聞いた。隣には少年の母親も居る。

 

 カノンは彼等に背を向ける様に蹲ったまま、口を開いた。

 

「……貴方達は、なんなの?ーーーー本当に世界の敵なの??」

「…え??」

 

 

ーーーーソレは、純粋な問いかけである。

 

 

 カノンは今まで、新人類の事をずっと敵だと思って来た。旧人類を傷付ける者。恐るべき力を持った、世界を脅かす脅威だと。ーーーーしかし、今日の出来事のせいで、カノンは何をどう考えたら良いか全く分からなくなってしまった。

 

 自分達を脅かす者ならば、なんでこの家族も、あの見知らぬ他人の筈の老人も、自分を助けたのだ???

 

 自分を助けた事。そこには何の裏も打算も無い。ーーーーソレにカノンは気付いたからこそ、この優しさの源が分からなくなったのだ。

 

カノンは言葉を続ける。

 

「私は、貴方達とは違う。……私は貴方達と戦う者。ーーー連邦兵なんだよ。連邦は世界の敵である新人類と戦っている。……正義の為に。そうなんでしょ…?」

 

 カノンのカミングアウトに、少年と母親は顔を見合わせた。

カノンは更に続けていく。

 

「私はそう教わったの。……でも、今は何もかも分からない。自分が教わったアナタ達と、今私の目の前にいる貴方達は余りにも違うんだ。…………敵だって、思えないんだ。」

 

そう言って、カノンは口を閉ざす。

 

 

 

ーーーー暫しの沈黙。

 

 

 

「……あのーーーー」

 

 やがて、少年が口を開いた。…言葉を選ぶ様に、ゆっくりと話しながらカノンの方へ歩いていく。

 

「……多分…いや…絶対に、その教えは間違ってる。僕達は…皆んな同じな筈なんだ。ーーーちょっと他と違う力を持っただけ。……別に誰かを傷付けるつもりも無いし、世界をどうこうしようとか、そんな思想も無い。……ただ、大袈裟に恐れられてるだけなんだよ。どっちがどっちの敵で、どっちがどっちの味方とか…そんなんじゃなくて……えっと……。」

 

口篭る少年。母親が横から話を継いだ。

 

「嘗て世界を脅かした新人類が居るのは事実よ。…でも、だからと言って全ての新人類がそうとは限らないの。ーーーー人は力を恐れる者。私達が抑圧されているのは、偏に私達が力を持っているから。だけど、この力が悪い物であるとは私は思わないの。……傷付ける為だけの力じゃなくて、きっと人の役に立つ為の力なんじゃないかって、私は信じてるのよ。」

 

 カノンは、管理棟前の広場で自分を助けてくれた老人を思い出した。

 

『ーーーー最後に人助けに使えたなら、本望じゃ!!』……彼の最後の言葉が、脳裏によぎる。

 

 彼は自らの力でカノンを助け、ソレを本望と言って死んでいったのだ。

 

 

 ソレはカノンが思い描いていた、誰かを傷付ける為だけに力を振るう新人類の姿では無かった。

 

寧ろ、その逆ーーーーーーーーー

 

 

「私、沢山の貴方達を殺してきた…。沢山の貴方達を傷付けてきた…。それは全部、ぜんぶ間違いだったの…?じゃあ……お母様は私に嘘をついてたの…?」

 

 カノンは手の中にオーバル型のセラムキューブを展開させて、それを睨み付けた。

 

「私は…この力を、新人類と同じ力を、人を殺す為だけに使ってた。ーーーーでも、貴方達は違った。人を助ける為に使ってた……。」

 

 カノンは、まるで忌まわしい物を捨てるかの如く、セラムキューブを持つ手を振り回す。

 

 しかし、どれだけ懸命に手を振っても、セラムキューブはカノンの側から離れない。常に彼女の手のある位置に浮かび上がってくる。……逃れられぬ宿命の様に。

 

カノンは声を大きくした。

 

「私の方が、誰かを傷付ける者になってた…!私の方が、誰かを不幸にする者になってた!!……私は、私は何をして来たの??コレは本当に世界の為だったの…???」

 

 言葉を紡ぎながら、尚もセラムキューブをーーーー自らに与えられた力の証を、捨てんと手を振り続けるカノン。

 

 そんなカノンの手を、少年は思わず受け止めて強く握っていた。

 

「…!!」

 

 目を見開いたカノンは、そのまま少年にもたれかかる様に体を寄せると、震える声で呟く。

 

「ーーーー私の力は何の為にあったの?…私は何の為に存在していたの?……この…胸の痛みはなんなの??この『感情』を、私は知らないの。………だから、もし貴方が知っているのなら教えて欲しい。この苦しみはなんなの??」

 

震えるカノンの手を握ったまま、少年は静かに答えた。

 

「……それは『悲しみ』だよ。カノン。キミは今、悲しんでいるんだ。僕達はキミの力になってあげたい。……でも、僕達はキミがどんな事を今までして来たのか知らないし、キミがどんな人なのかも正直よく知らない。ーーーーだから、話してくれる…??キミが連邦兵なら、一体どう言う経緯でここまで来たのか、何をしていたのか全部。お願いだ。」

 

「…………。」

 

 

 カノンは少年の手のひらの温もりを感じながら、こくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、カノンは少年と彼の母親に全てーーーー文字通り、生まれた時から今に至るまでの全てーーーーを話して聞かせた。

 

 カノンが話している間に雨は止んだらしい。屋根を叩く音はすっかり止み、開けてある窓からは穏やかな太陽の光が差し込んでいた。

 

 

「ーーーーん〜…なるほど……。まさか、そんな経緯があったなんて……。」

 

 

カノンの話を聞いて、唖然とした様に呟く少年。

 

「人工的に造られた新人類…。そんなモノを連邦は手に入れていたのね………。」

 

 母親は、カノンの出自に少なくない衝撃を受けた様だ。

 

一方で、話し終えたカノンは暫く黙り込んでいた。

 

………正直な話、少し怖かったのだ。

 

……自分の事を知れば、この人達は自分を恐れてしまうのではないかーーーと思ったからである。

 

 

ーーーーしかし彼等は驚きこそすれど、カノンに恐怖を抱く事は無かった。

 彼女の力になりたい……それは、この程度では揺るがない、彼等の強い思いだったのだ。

 

 

「しかし、随分と連邦も酷いことするね……。ーーーー人を造り、偽りの思想で操るなんてさ。」

 

 少年がそう言って、慰める様にカノンの背中を叩いた。…ちょっと痛い。

 そして、少年はカノンの背中に手を当てたまま、彼女の顔を覗き込んで話を続ける。

 

「ーーーーて事はさ。カノンって何も知らない訳だよね?その……戦いの事以外は。」

 

カノンは頷いた。

 

「うん…。知らない。……何もかも。だから、教えて欲しい。私はこれから……何をするべきなのか。…どうしたら良いのか。」

 

少年はニッと笑う。

 

「うん、良いよ!…今までキミが知らなかった事……全部、僕達が教えるよ。これからの事も、ね。」

 

 部屋に差し込む光の中で、カノンの手を取ったまま少年はそう答えた。

少年の母親も頷いて口を開く。

 

「ーーーええ。取り敢えず貴女は此処に住むと良いわ。……貴女には、帰って来れる場所が必要でしょ?」

 

 そう言って微笑む少年の母親を見た時、ふとカノンの頭の中にフェルシアの姿がチラついた。

 

(…帰って来れる場所…か。)

 

ーーーーほんの1日前まで、ソレはグローリーだった。そう思った時、ふと『お母様は私の事を待っているのだろうか?』ーーーーと、カノンは思ったのだ。

 

 そんなカノンの表情の変化を感じ取ったのか、少年の母親が顔を覗き込んでくる。

 

「…まぁ、何か思うことがあるなら、無理にとは言わないわ。ーーーもしも貴女が、やっぱりグローリーの育て親の所に戻りたいと思うのなら、なんとかしましょう。…正直言って、ココからグローリーに向かうのであれば、徒歩以外に方法が無いけれど…。ーーーーま、貴女程の新人類なら、なんとかなるかもしれないしね。」

 

少年が首を傾げて口を開く。

 

「えー…?でも、母さん。そんな事したら、またカノンは嘘ばっかり言う人たちの所に逆戻りだよ??……良いの??」

 

母親は静かに答えた。

 

「…少なくとも、カノンは新人類の本当の姿を知ったわ。……一度見た真実は、何百もの嘘に勝るのよ。ーーーそれに、昨日の今日では直ぐに決められないかも知れないしね。……だって、ココに住むかグローリーに戻るかでは、これからの人生が変わってくるのも。……考える時間も必要よ。」

 

 母親の答えを聞いて、カノンの方に目を移す少年。…その目が『どうするの?』ーーーと、問いかけていた。

 

カノンは暫く黙り込んでから、そっと呟く。

 

「………ちょっと、1人になっても良い?」

 

「勿論よ。ーーー今はしっかり考えなさい。…ほら、一旦部屋から出るわよ、──。」

 

 母親が少年を引っ張るようにして部屋から出て行った。2人が出て行って静かになった部屋の中で、カノンは窓から空を見上げる。

 

 

ーーーー視界の先には、空を飛ぶ鳥の群れがあった。

 

 

…バラバラに飛んでいるように見えて、実はみんな同じ方向を目指して飛んでいる鳥達。

 

「…………。」

 

それを眺めながら、カノンは物思いに耽る。

 

 

ーーーーこれから、どうするか。少なくとも、もう前の様に新人類を見る事はできない。…彼等の優しさの面を知ったのだから。

 

 だけど、きっとフェルシアはーーーーーーー連邦は、その面を見ようとしないのだろう。自分がグローリーに戻ってフェルシアにこの事を言っても、おそらく相手にされない。

 

………新人類は悪である。新人類は悪でなければならないーーーーと連邦は考え、人々に教え込んでいるのだから。

 

 

 だが、もうその教えに従う必要も意味も無かった。カノンは連邦が隠して来たモノを、今日この目で見たのだから。

 

「……新人類は、敵なんかじゃなかった…。私達と同じだった。世界を脅かすモノじゃなかった。…お母様は間違っていた。間違った道を私は辿っていた。」

 

湧き上がる、母親への否定の感情。

 

 今まで母親を肯定しかしてこなかったカノンにとって、ソレは初めて感じる感情であり、少し戸惑いを覚えるものだった。

 

 

ーーーーーーーしかし、カノンの意思はその時決まったのだ。

 

 

「……新人類達と同じ道を進む事を、お母様は是としない。でも、お母様の示す道を進む事は、私が望まない。」

 

 

 カノンは空を見つめて口を開く。…それは、生まれて初めて自らが自らの意思で紡ぐ、己を決定する言葉だった。

 

 

ーーーー2人の道は分たれている。もう交わる事は無い。

 

 

 ならば、これからどうするか?ーーーーその答えはただ一つ。

 

 

 

「………ごめんなさいお母様。()()()()()()()()。」

 

 

 

ーーーー己が正しいと思った(ミチ)を、進むのみだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

………こうして、カノンの世界は全てが変わった。

 

 

 

 連邦の教えとは違う世界をカノンは知る為に、アステールに留まる判断をしたのだ。

 

 

 

……初めて見る、グローリーでは無い世界。旧人類とは違う人達。

 

 

 

そして、流れていく月日。

 

 

 

「ーーーーカノ〜ン!…ご飯出来たってさ〜!食べる〜??」

「うん。食べる。」

 

 

 

 その中で感じる、自分を受け入れてくれた家族の温もりとーーーー

 

 

 

「…これは何?」

「本だよ。…ホン。ーーーー知らないの??」

「…そういえば…大聖堂に書庫があったかも…?興味なかった。」

「えぇ〜?!勿体ないよソレ。…本は良いよ。本は。人間の作った文化の極みさ。読んでみなよ。…まぁ、昔のしか無いけど。」

「……分かった、読んでみる。」

 

 

 

ーーーー今まで知らなかった事の数々。

 

 

 

「…そうだ。カノンって読み書き出来る??」

「出来るよ。…お母様に教えてもらった。」

「じゃ…数学は??」

「出来るよ。ーーーこれも教えてもらった。」

「…マジで?ーーーー僕、サッパリなんだよね…。一応、この街の学校出てるんだけどなぁ…。」

「……教えてあげよっか?」

「トホホホ………面目ない…。」

 

 

 

 そしてカノンは知る。まだこの世には、自分の知らない事が沢山あるのだという事を。

 

 

 

「…ねぇ。この壁にある写真はなんなの?」

「あぁ。これはお父さんが撮った写真だね。ーーー僕が小さい頃に、お父さんはアステールで流行った病気に罹って、死んじゃったらしいんだけどさ。……撮った写真は残ってるんだ。ほら…コレは赤ちゃんの頃の僕。不思議だよね…昔はこんなに小さかったんだってさ。」

「へぇ…。コレは?大っきい湖。」

「あぁ…。コレは僕も見た事ないんだけどさ。()って言うんだって。大災害前は夏になると遊びに行けたらしいよ。」

「ふ〜ん…。貴方も見た事ないんだ…。じゃあ、一緒に見に行けたら良いね。」

「そうだね。……いつか見に行こう。」

 

 

 

アステールでの日々は、穏やかに過ぎていく。

………時折、連邦との軋轢を感じながらも。

 

 

「ーーーー獣神祭??アステールでもやるんだ。」

「うん。…カノンも流石に獣神祭は知ってたか。」

「グローリーでも毎年するから。…参加しないけど。」

「そっか。……ま、こっちでも参加する必要は無いよ。ーーーーあんなの、連邦が〈隔離区域〉に良いイメージ持たせるためだけの、マッチポンプなんだからね。」

「そうなの?」

「あぁ。確かに此処の獣神祭は賑やかに行われるけど、だからと言ってみんな楽しんでる訳じゃ無い。……殆どの人たちが、無理にやらされてるのさ。」

「そう……辛いね……。」

「…殺されるよりかはマシだけどね。」

「……。」

 

 

 

………やがて、時の流れと共に周りの世界は変わりだす。

 

 

 

 

「…新人類優生思想??」

「母さん、何それ?」

「…私も漏れ聞いただけだから良く知らないけど、最近あちこちで事件を起こしてる新人類の集団らしいわ。既に、複数の連邦所属都市が被害に遭ってるそうよ。」

「……そう。お母様の所…大丈夫かな…。」

「ふふ…。やっぱりお母さんが心配?」

「あ……えっと……。」

「ふふふ、良いのよ良いのよ〜。貴方の育て親なんですものね。…貴女の事はちゃんと育てていたみたいだし、心配になるのも分かるわ。」

「……ココにも、いつか新人類優生思想達が来るのかな…。」

「さぁ…どうかしら……?確かに彼等は、連邦管理下の街から新人類を解放する為に動いてるみたいだけど、この街が如何なるかは分からないわね…。」

 

 

 

……流れる月日の中で、少しずつ台頭してくる新たな勢力〔新人類優生思想〕。

 連邦に混乱を齎していく彼等は、遂にアステールにもその姿を現した。

 

 

「ーーーーアステールの皆さん!!!……あなた方が連邦に囚われる世界は、もう終わりです!!!」

 

「……我々は、下等な旧人類の下劣なる魔の手より、あなた方を救い出す為にこの地を訪れました!!」

 

 彼等のリーダー……9人の[天聖]達は、アステールの人々にそう語り掛ける。

 

 連邦に長い間抑圧されていた新人類達は、その言葉に深く耳を傾けた。

 

『ーーーー新人類こそがこの星の正統なる支配者である。』と言う考えは過激だが、過激ゆえに抑圧された人々の心に火を付ける。

 

「如何でしょう?!我々と共に、連邦へ反旗を翻しませんか!?ーーーーそして、あの下等なる旧人類の支配から、共に脱却しましょう!!!新時代を築き上げるのです!!我々を支配してきた彼等に、我らの苦しみを思い知らせ、支配される恐怖を刻み込むのですッ!!!!」

 

 

誰しも、その火に酔いしれる。

 

 

「彼等に苦しみを!!」

「ーーーー恐怖をッ!!!」

「我々こそが!!()()()()()!!!」

 

 

 

ーーーーこうして、アステールは新人類優生思想の手に堕ちた。

 

 

 

 

「……ねぇ、コレは良い事なのかな。」

 

 カノンは復讐の火を燃やす人々を見て、そう思った。ーーーー新人類が支配されなくなる。それ自体は、勿論良い事なんだろう。

 

……でも、このやり方は違う気がした。このやり方をしてしまえば、間接的に連邦の思想の正しさを証明してしまう気がしたのだ。

 

 即ち、新人類は旧人類を傷つけて世界の平和を乱す悪であると云う、間違った思想をーーーー。

 

 

「良い訳ないわ。……でも、今人々はそれを望むのかもしれない。押さえつけられてきた日々は……あまりにも長過ぎたーーーーー。」

「僕は気に入らないな。()()思想だなんて。……自らこそが絶対であると決め付けて、違う方の人間をとことん脅かすなんて、やってる事は連邦政府と同じじゃないか…!」

 

 

……間違った方向に進んでいる。しかし、その時のカノン達には流れを変える力は無かった。

 

 

 だが、新人類優生思想の嘯く新たな時代が訪れる事は終ぞ無かったのだ。

 

 

 

ーーーー

 

ーーーーーーーー

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『……アステールの反乱軍に告ぐ。天聖達は我々が無力化した。ーーーー即時停戦し、投了せよ。』

 

 

空を舞う戦闘機。

燃える地平線。

はためく丸い龍の旗。

 

 

ーーーーー連邦政府が再びアステールに返り咲いたのだ。……優生思想の統治は、一年にも満たない短な期間だった。

 

 

こうして再び始まったかに見えた連邦の支配。

 

 

……だがしかし、世の中は二転三転する物である。

 

 

 

 優生思想との度重なる戦いで疲弊した連邦。…そんな連邦から、優生思想に取って変わってアステールを奪還した者が現れた。

 

 

 

ーーーーーーーーそれこそ、反連邦団体〈イースター〉である。

 

 

 

 元連邦の移動要塞〈クロノス〉を改造した移動要塞都市〈オーステルン〉と、その艦長〔ゼウス〕の下、連邦からアステールを奪還した〈イースター〉。

 

 

ーーーー彼等の掲げし思想は、新人類の自由。

 

 

 連邦の支配から脱却しつつも、優生思想の様に憎しみを憎しみで塗りつぶすのでは無いやり方。……誰しもが己の生きたいように生きる自由なる世界。新人類は特別でもなんでも無い。普通の人間のように世界を謳歌できる世界。優劣とかの無い、平等な世界。

 

 

 イースターとオーステルンは、そんな理想を掲げてアステールに現れた。

 

そしてそれは、カノンの運命を再び変える。

 

 

「……イースターと共に行きなよ、カノン。」

「え…?」

 

 アステールが真に解放された時、少年はそう言った。その時カノン達は、アステールの復興の為にあちこちを回っていて、イースターのメンバーとも少し繋がりが出来ていた。

 

 その中でカノンの特殊な出自と、天使の力と言う新人類の中でも特異的な力が、イースターの目に留まっていたのだ。

 

「…君は世界を見るべきだ。ーーーーー知らなかった世界をね。イースターと一緒にオーステルンに乗れば、君は世界を見れる。…アステールに居ただけじゃ、きっと分からない世界を。…それに、君ならイースターでも上手くやってける筈さ。」

 

 きっとそれは、少年の本心だったんだろう。カノンはイースターにいる人達と何度か話を交わしていた。

 

 アミダ、アルスラーン、アビス……今まであまり触れ合ってこなかった少年の家族以外の人達。ーーーー何より、自分と同年代(少なくとも見た目は。)の同性との話は、結構楽しかった。…だから多分、少年はカノンの為を思って言ったに違いない。

 

「……でも、私は貴方と一緒が良いよ。ずーっと一緒が。」

 

 カノンが思わず呟いた時、少年の顔は真っ赤になった。

 

「???」

「…あ…えっと…うん…。し、知らないよね。…今の言葉のニュアンスなんて。教えてないし………。」

 

 何故かしどろもどろになりつつも、少年は口を開く。

 

「…僕は母さんを置いてけないよ。ーーー家族ごとオーステルンに移る手も有るけど、この地には父さんが眠ってるんだ。…多分、母さんは離れたく無い筈。……だから、僕は一緒に行けない。でも、コッチでもイースターの一員としてやってけるみたいだし、コレから年に2、3回オーステルンはアステールに寄るみたいだからさ。……いつでも会えるよ。ーーーーキミは行くべきだ。キミには色んなことを知って、幸せになって欲しいんだよ。」

「……私が…幸せに……?」

「うん。ーーーー世界を知る事は良いことさ。今までもそうだったでしょ??……それに、イースターに入ればきっと…その天使の力を人の為に使える筈だ。誰かの為にその力を振るう事。…それがカノンの望みなんじゃないかい???」

「誰かの為に……この力を…。皆んなの為に……。」

 

 

 

 この声に背を押されたカノンは、イースターに加入する事になった。少年の家族から離れて、新たな世界へ向かう。……それは、再びカノンの中の世界を変えていく。

 

 

 

…でも、カノンの心はいつもアステールの日々と共にあった。あの日々が、あの時の経験が、今の自分を作り上げている。ーーーーそうカノンは誇りに思い、彼等の為に戦うのだと心に決めていたのだ。

 

 

 

ーーー

 

 

ーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーだから…!!私はお母様を止めに来たんだ…!嘘偽りの世界を…今ココで終わらせに来たんだ…!」

 

 

 

 

長い回想を終えて、時は現在(いま)へ戻る。

 

 

 

 

 バキッ!ーーーーと音を立てて、カノンは〔アナテマの扉(アナテマゲート)〕のパネルから、体を引き剥がした。

 

 自由になった体から緑に輝く翼を広げ、カノンは〈グローリー〉の上空でフェルシアと向かい合う。

 

「貴女は……」

 

 カノンの強い意志が篭った眼を見て、フェルシアは小さく呟いた。

 

「…貴女は、多くの事を見てきたのね。グローリーでは無い世界を…。」

 

その呟きにカノンは頷く。

 

「うん。……色々知ってきたよ。知らなかった事、いっぱい。」

 

フェルシアが少し遠い目になった。

 

「…そう。色んな事を知って……貴女は大きくなったのね…。」

 

 まるで、長年会っていなかった子供の成長に驚く親のように、フェルシアはしみじみと呟く。

 

「だけど……私にも私の思想と理想があるわ、カノン…!貴女が新人類を大切に思うように、私は連邦の人々とこの国の臣民達を大切に思っているのよ!!」

 

 カノンの翼に対抗するかのようにして、天空に広げられるフェルシアの黒翼。

 

「だったら、新人類を縛るのも止めてよお母様!ーーーーお互いが手を取り合える道が、必ずある筈なんだから!!」

 

 そうカノンはフェルシアに向かって叫ぶと、右手を突き出した。

 

ーーーー彼女の周囲に、無数の剣が浮かび上がる。

 それを見たフェルシアは、全身に昏い青の光を宿らせて叫び返した。

 

「ーーーーなら、その世界の可能性を私に見せてみなさいカノン!!貴方の思想と理想の先の世界を!!」

 

 

そして、2人は同時に動き出すーーーー

 

 

「ーーーー終わりの審剣《壮絶》!!!」

 

カノンの放つ必殺の一撃(ストライクショット)と、

 

「……《(アワ)レミノ黒光(コクコウ)》。」

 

 フェルシアが放つ、青を通り越して最早黒い光の波動が空中で激突した。

 

 

ーーーーーーー激しい閃光の連鎖が、天を埋め尽くす。

 

 

 カノンが放った無数のガブリエルの剣が、フェルシアの放つ漆黒の波動にぶつかって、次々と砕け散っていく。

 

…だが、ただ砕けているだけでは無い。剣が1本砕ける度、黒い波動の勢いは弱まっていく。

 

ーーーーーーー相殺しているのだ。

 

 

「ーーーーこれだけで……終わらない…!」

 

 カノンは剣を投擲しながらも、自分自身も翼を広げてフェルシアの元へ飛ぶ。

 

 そして、空を埋め尽くす閃光に身を隠すように、カノンはフェルシアに素早く迫った。

 

ーーーーだが………

 

「それは読んでるわよカノン!」

「ーーーー!」

 

 波動を放つのを止めたフェルシアが、カノンの動きに合わせるように飛び掛かってきたのだ。

 

 すかさずカノンが振ったガブリエルの剣と、フェルシアの翼が衝突して火花が散る。

 

 その場で素早く剣戟を繰り出すカノン。空に翠の軌跡を書いて振るわれる剣が、フェルシアの翼と交わって激しい衝撃波を宙に振り撒く。

 

 

ーーーー足りない。

 

 

……激しく攻防を入れ替えながら、カノンはそう思った。

 

 

…自分には、何かが足りない。

 

自分の力には、足りない物がある。

 

 

 ネオとの模擬戦の中で、感じた『何か』ーーーーそれは、自分の力に対する『物足りなさ』だった。

 

 

 ネオはあれ程の強力な力を、どうやって手に入れたのだろう??

……どうやって自分の物にしたのだろう??

 

 それが分かれば、自分はもっと強くなれる。……そう思った。

 

 だが、それが何だったのか……今まで分からなかった。

 

 

「ーーーーその程度かしら?!カノン!!様々な世界を見てきたのでしょう!?貴方の守りたい物、貴方の理想はこの程度のモノなの!?」

 

「ッ?!」

 

 

ガツンッッ!!!

 

 

 フェルシアの繰り出した一撃がカノンの身体を打ち、再び〔アナテマの扉(アナテマゲート)〕を構成するパネルに叩き付けた。

 

 さっきより激しく叩き付けられた所為か、叩き付けられたパネルだけでは無く、その上下左右のパネルにもヒビ割れが入る。

… 〔アナテマの扉(アナテマゲート)〕を動かすエネルギーである〈星のセラム〉が、ヒビ割れから水蒸気のように漏れ出し、風に吹かれて消えていった。

 

「……く…。」

 

 痛みに顔を顰めるカノン。その脳裏にフェルシアの声が木霊する。

 

この程度か?と問う声がーーーーーーー。

 

「……この程度ーーーーじゃない…!」

 

痛む体を起こして、カノンは声を上げる。

 

 自分の理想の世界。…それは決して()()()()()では無い。

 

 

 脳裏に浮かぶ、少年とその家族。そして、イースターの仲間達と沢山の新人類達。

 

 

 彼らが幸せに生きていける世界が、自分の理想なのだ。……決してこんな所で、倒れて終われるモノじゃ無い筈なのだ。

 

(ーーーー私はあの人達に幸せになって欲しいんだ…!)

 

 

ーーーーどうして?

 

 

…と、誰かが心の中で問いかけた。

 

 

カノンは無意識のうちに、その声に答える。

 

 

「そんなの決まってる。………()()()()()()()。」

 

 

また心の中で声がした。

 

 

ーーーーそう。……なら、それを力に変えて戦えるね?

 

 

(ーーーー!!!)

 

 

 その時、カノンの中にある種の天啓が舞い降りた。……ソレは気付きとも言う。

 

 

(…そっか。ーーーー『好き』は『力』になるんだ。)

 

 

それに気付いた時、何故か微笑みが溢れた。

 

(ネオはニュウ君が大好きだから。ーーーーその『好き』で強くなる…。)

 

 微笑むカノンの周りに 〔アナテマの扉(アナテマゲート)〕のパネルから溢れ出した〈星のセラム〉が漂い出す。

……其れ等は、まるでカノンに吸い込まれていく様に微かに輝きながら、空中を流れていく。

 

(ーーーー私は、皆んなが好き。あの人達だけじゃない。イースターの皆んなも、皆んな皆んな…私にとっての『好き』な人達。この人達の為に私は強くなりたい。)

 

温かい物が自分の胸に灯った気がした。

 

 

ネオとニュウの間にあった物。

 

そして、自分と少年の間にもあった物。

 

 それだけでは無い。ーーーー自分と、皆んなの間にあった物。

 

 

(気付いてないだけだった。……私の力…私だけの力になるものは、私の中にずっと有ったんだね。)

 

 

ーーーー自分は、何もかも他者から与えられてきた存在。能力も見た目も存在価値も造られた存在。

 

 だけど、この心に刻み込まれた意志は、感情の数々は、他の誰に与えられた訳では無い自分だけのオリジナル。

 

 

ーーーー即ち、

 

 

「………これが『愛情』なんだ。」

 

 

 

 

 カノンがそう呟いた瞬間、 彼女に感応するかの様に、〔アナテマの扉(アナテマゲート)〕から〈星のセラム〉が激しく溢れ出した。

 

ーーーーそして、溢れ出したセラムエネルギーはカノンへ収縮していく。

 

 大量に溢れ出すエネルギーの流れ。…機械制御されていないその力は、(ゲート)の性能の限界を超えて溢れ出し、次々と(ゲート)を構成するパネルを破壊し始めた。

 

 それを見て、目を見開くフェルシア。

 

「ーーーーッ?!コレは……セラムエネルギーが…カノンに流れ込んでる…??」

 

 

 バキバキと音を立てて、パネルが崩壊していく。砕けた破片が辺りに舞い、星のセラムは益々勢いよく溢れ出す。

 

 

その中心にカノンは居た。

 

 

(……凄い。星のセラムが……私の中にーーーー。)

 

 

 

 

…セラムの力は感情や意志によって強くなる。

 

 その心に抱く想いが、より強ければ強い程、力は強くなるのだ。

 

 

……遂に見つけた、自分だけの力ーーーー愛情の力。

 

 

その想いは、カノンに新たな力を与える。

 

 

ーーーーキラリ…

 

 

…と、カノンの胸に翠に輝く十字の光が宿った。

 

 

「…………まさか。」

 

フェルシアが、呆然と呟く。

 

 

 

「《覚醒》………?」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー今ここに、『覚醒天使』が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 






……ちょっと唐突感はあったかも知れん。


ーーーーんで、カノン覚醒やったー、ってなってる所申し訳無いけど、次回はカノン以外の人物の戦いにフォーカス入るかと…。

だって、ネオとノインの戦いにケッチャコ付けなきゃいけないし、
ニュウくんとバサラさんとハレルヤは、合流させるつもりだし、
アミダ・キラリ・アルセーヌの3人組はカノンシリーズと戦い始めたし、
…そもそも、オーステルンとグローリー空軍はどうなってんだ問題もあるしね。

 なんなら、アナテマの最新型全部で12体居る筈なのに、まだ全部出てきてないんよ。……何処居んねん。

ま、未来の私がなんとかするでしょう!
んじゃまた次回。
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