モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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85話〈At the very Ending〉

 

 

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

…………

 

 

 

ーーーーーーーー()()()()()()()()()

 

 

 

 

「………わたし…生きてる……?」

 

 

 自分の口から出たのは、びっくりするほど掠れた声だった。ぼやける瞼を擦ろうとするが、腕が動かない。…と言うか、感覚が無かった。

 

 仕方ないので目をパチパチと瞬かせていると、突然上から誰かに顔を覗き込まれる。

 

「よぉ。やっと起きたかーーーーーーー()()()()()。」

 

「……??」

 

 そう声を掛けられた彼女ーーーーフェルシアは、自分を覗き込む男を見つめ、小さく口を開く。

 

「……〈クロノス〉のゼウスじゃない。…と言う事はーーーー」

 

 フェルシアは目だけを動かして、辺りを見渡した。どうやらココは病室の一角の様なスペースで、自分はベットの上に寝かされているらしい。

 

「ーーーー此処はクロノスの内部かしら?」

 

ゼウスは静かに頷いた。

 

「あぁ。」

 

それを見て、フェルシアは微かにため息をつく。

 

「…グローリーは敗けたのね。そうでしょう?……そうで無かったら、私が敵の要塞内にいる筈ないもの。」

 

ゼウスはまた頷いた。

 

「その通りだ。ーーーー今、グローリーはクロノスの〈移動要塞脚部拘束用装備:ロックチェーンEL〉によって、我々の拘束下にある。加えて軍部も制圧済み。………戦争はアンタらの敗けで終わったぞ。」

 

 フェルシアのベットの横にある窓から、外に目を向けてゼウスは続ける。

 

……外には、グローリーが見えていた。その2本の鋼鉄の脚部には、途轍もない大きさの鎖が何本も突き刺さっている。その鎖の先端はオーステルン改めクロノスに繋がっていて、まるで鎖に繋がれた鳥の様だった。

 

「…そう。………私の臣民達は無事なんでしょうね。」

 

 フェルシアからの問いかけに、ゼウスは頷いて答える。

 

「安心しろ。…非戦闘用員に手を出す様な卑劣な真似はしない。ーーーー拘束時に軍隊との衝突なら少しあったが、イースターの連中のお陰でそこまで大きな戦いにはならなかった。……アイツら様様だな。」

 

それを聞いたフェルシアは、またため息を吐いた。

 

「………完敗ね。これ以上ない程の。」

 

ゼウスは首を振る。

 

「いや。そんな事もないぞ。ーーーー俺たちだって、主力航空戦力の大部分をだなーーーーーーーって、なんでオレがアンタを慰めてんだ…?」

「知らないわよ。…それに、慰めなんて結構。重要なのは結果だけよ。」

 

ーーーーーーフェルシアがそう呆れた様に呟いた時、2人のいる部屋に別の誰かが入ってきた。

 

 

白い髪に翠の瞳の少女。………カノンである。

 

 

 いつも着ている白いコートは脱いでおり、少しサッパリした格好になっていた。

 そんなカノンは、部屋に入ってくるなりフェルシアの方を見て口を開く。

 

「あ、お母様……。」

 

 なんとも言えない表情でポツリと呟いたカノンに対して、フェルシアは態とらしく揶揄う様に声を掛けた。

 

「あらあら、カノン。………ちゃんとトドメは刺さなきゃ駄目よ??お陰で生き残っちゃったじゃない。」

 それを聞いたカノンが、困った様に眉を顰めて呟いた。

「私だって本気でやったよ。……でも、お母様が思ったよりタフだったからこうなっちゃったの。」

 

 少し呆れている様なトーンの声を聞いて、フェルシアは微かに微笑んだ。

 

「…ふふ。頑丈なお母さんで悪かったわね。…でも、今までトドメを差すタイミングなんて幾らでもあった筈だけど…?」

「………うん。確かにあったよ。…でも、私のする事はお母様を殺す事じゃない。私がするべき事は、お母様を止める事。あの時、止める事は出来た。ーーーだからトドメを差す気にはならなかったの。」

 

カノンの返事を聞いて、フェルシアは少し笑う。

 

「…んふふ……なるほどね。だけど……もしも私が今、これからも嘗ての様な行いを止めないって言ったら…貴方は如何するつもり??」

 

 試す様な問いかけに、カノンはフェルシアに向かって歩み寄りながら、躊躇いなく口を開いた。

 

「なら今度こそ倒すよ。今のこの場で、直ぐにでも。」

 

 ベットの枕元でゼウスが、おぉぅ…と小さく呟く。フェルシアを見つめながら、カノンは真剣な口調で声を紡いでいった。

 

「…一つ言っておくけど、私はお母様が生き残った事について喜んでは無いから。ーーーー必要とあれば、今この場でトドメを差す。でも、お母様が今までしてきた事を止めるのであれば、生かしては置くつもり。生き残ってしまったのなら、これからは償いの為に生きて。……私もそうするから。」

 

 強い意志のこもった口調で言ったカノン。フェルシアは小さく息を吐いて、ポツリと呟いた。

 

 

 

「………やっぱり完敗よ。」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

〔オーステルン中枢内 医務室〕

 

[カノン視点]

 

 

 

「………やっぱり完敗よ。」

 

 そう呟くフェルシアの隣にカノンは立った。ーーーそして、ベットの上の彼女を見下ろす。

 

……フェルシアの身体は、生きている事が不思議なぐらいボロボロだった。ーーーーこうさせたのは自分だが、流石に何も思わない事は出来ず、微かに顔が曇る。

 

 その表情の変化を感じ取ったのか、フェルシアが微かに顔を動かして口を開いた。

 

 

「ねぇ…カノン。」

「なに?」

 

「ーーーーーーーー私の身体…どうなってるのかしら??」

 

カノンは、少し目を逸らしながら小さく答える。

 

「えっと……先ず、左腕は無くなってる。」

 

 それを聞いたフェルシアは、何処か納得したかの様に吐息を漏らした。ーーーー片腕がなくなった事に、本人も薄々勘づいていたのかもしれない。

 

「やっぱりね。…道理で感覚がない訳よ。…右手は無事かしら?」

「うん、右手はね。」

「ーーーーそう。書く事には困らないわね。…で、他には?」

 

 カノンは、自分が知る限りのフェルシアの容態を彼女に教えた。

 

「全身裂傷、大量出血、肋骨破損に頭蓋損傷。あと、肺に穴が4ヶ所空いてるし腹部の筋肉が衝撃で破裂してる。………普通、死んでる。なんで生きてるのか逆に聞きたい。」

 

 つらつらと並べ立てられた容態に、思わず笑いが込み上げてしまうフェルシア。ーーーー確かに、なんで自分は生きているのだろうか??

 

「…あー…その事だがな。」

 

ーーーーと、此処でゼウスが横から口を挟んできた。

 

 彼は何やら紙の束のようなものを手に持っている。…それに目を落としながら、彼は話を続けた。

 

「ーーーー怪我の治療ついでに、アフラ・マズダーの奴がアンタの身体を軽く検査したみたいなんだよな。……で、分かった事がある。」

 

彼は手に持った紙を捲りながら続ける。

 

「ーーーーどうやら、フェルシアの体に宿っている壊獣の力が、フェルシアを延命させてるらしい……ぞ?ーーーーまぁ、オレは学者じゃないから詳しくは知らんが、このデータ資料を見た感じだとそんな結論に達したっぽいな。……てか、アンタ自分の身体を弄ってたのかよ。」

 

 ゼウスの声を聞いて、フェルシアは少し納得がいったかの様に頷いた。

 

「…アナテマの恵みね。ーーーー嘗て連邦の研究員のフォリーが、壊獣の死骸を旧人類の肉体に移植して、新人類と同じ存在を生み出そうとした研究があったの。」(第70話より。)

ゼウスの片眉が上がる。

「へぇ……。いかにもって感じの実験だな。」

 

「……そうね。ただ、失敗続きで上手くいかなかった。そこで私がその理論に改良を加え、新人類と壊獣の合成体であるアナテマシリーズを生み出す事に成功したーーーー。」

ゼウスが顔を顰める。

「ひでぇモンだ。やっぱ、アンタらの人体実験には吐き気がする。」

 

フェルシアはそれには触れずに、話を続けた。

 

「ーーーーそしてゼウスの言う通り、私自身も壊獣と自らを合成して力を手に入れたのよ。……そして今回はその力に助けられた、と言う訳ね。」

 

ーーーーそう締めくくるフェルシア。そして一息付いてから、彼女は話題を変えた。

 

「ま、私の耐久性についての話はこれぐらいにしてーーーーーーー」

 

彼女はゼウスの方へ目を向ける。

 

「ーーーーゼウス?今後私と私の国はどうなるのかしら??」

「あぁ。その事だがなーーーーーーー」

 

 ゼウスは、紙の束をベットの横に置いて口を開いた。

 

「グローリーに対しては特に何もしない。……但し、アンタの身柄は預からせて貰う。俺たちはこれから戦いで失った航空機や武器弾薬の補充のため、アステールへ向かうつもりだ。……アンタはそこで降ろす。ーーーーで、暫くの間はソコに居て貰う。」

「……グローリーに対する人質という訳ね。」

 

ゼウスは頷いた。

 

「そういう事だ。ーーーー連邦に対する牽制にもなるしな。」

 

 それを聞いたフェルシアは、少々自嘲気味に呟いた。

 

「多分、牽制にはならないでしょうけれどね。ーーーー貴方も分かってるでしょ?……対外的には、この戦争は私が独断で仕掛けた物になってる。……連邦的には、反乱分子になり得る私の国から力を削げればそれで良かったのよ。」

 

フェルシアはため息をついた。

 

「ーーーーで、まんまと私は力を削がれちゃった訳。虎の子の〈アナテマシリーズ〉もほぼ倒され、大型兵器の〔アナテマの扉(アナテマゲート)〕もなくなり、ただの弱小国家に成り下がった。……はぁ。大口叩いちゃったのにねぇ……。」

 

 しょんぼりとした雰囲気漂う彼女に、ゼウスが声を掛ける。

 

「……でも、実際は連邦の指示があったんだろ??ーーーーコレに関しては世界中が確信してる。連邦政府はアンタに戦争の責任を全部擦り付けて、自分達は知らんぷりするつもりだ……ってな。」

 

フェルシアは頷いた。

 

「当たりよ、当たり。大当たり。……もとより、そのつもりでしょ。ーーーーだから私の身柄を拘束した所で、連邦に対する保険にはならないわ。……負けた私なんて、どうでもいいもの。」

 

「全く、ひでぇモンだ。捨て駒みたいに自分達の味方を扱いやがって。ーーーーアンタは敵だが、その身の扱われ方には同情するね。」

 

 ゼウスの声を、フェルシアは顔を振って突っぱねた。

 

「…同情も結構よ。こうなる可能性はあったんだから。……だけど、私の国の臣民達が心配ね。ーーーー貴方達に対して、無謀な反乱を企てたりしなければ良いんだけど。……と言うか、企てても勝ち目ないし。」

 

 自分より、グローリーの住人達のことに思いを馳せているらしいフェルシア。そんな彼女に、カノンが声をかける。

 

「大丈夫みたいだよ。みんな意外と今回の結果に納得してる。」

 

フェルシアは片眉を上げた。

 

「あら、そう。……もしかして、私愛想つかされちゃった??」

カノンは首を振った。

「ううん。………あの時、私の覚醒を見た人達が沢山居たの。特に大聖堂の人達は、私達の戦いの決着も直接見届けた。ーーーーところで、お母様はグローリーの人たちに天使を信仰させてたでしょ??……その所為で、覚醒した私を見た結構な数の人達が、私こそが本物の天使だと信じ込んじゃったみたいで……。」

 

 カノンは少し困った様な顔になって先を続ける。

 

「なんだか……本物の天使に負けたのなら仕方ないよね〜、みたいな感じになってるの。……しかも、私を勝手に崇め出した人も居るし。崇めるのは勝手だけど、なんだかむず痒い気持ちになるんだよ……。」

 

 微妙な顔付きで、そう述べるカノン。(ーーーーちなみに後でこの話を聞いたネオが、めちゃくちゃ共感した様に何度も頷いていたのは別の話。)

 

「ーーーーそれに、ゼウス艦長達の後始末も良かったし。……軍部との衝突こそあったけど、市民に乱暴な真似はしなかったから比較的すんなり受け入れられたみたい。」

 

そうカノンが言う側で、ゼウスは何度か頷く。

 

「ーーーーグローリーは旧人類の国だからな。……新人類とその協力派は、やっぱり恐れられる。……だがカノンも手伝ってくれて、なんとか混乱無く場を収められたんだぜ?」

 

 それを聞いたフェルシアは、若干感心したかの様に呟いた。

 

「へぇ……。正直言って、どうやったのか気になるわね。大した混乱無く場を収めた、なんて。」

ゼウスはカノンの肩を軽く叩いた。

「ーーーーカノンの手伝いあってこそさ。……コイツはな、自分が本物の天使だと思われてる心理を利用して、上手く天使信者の連中をコントロールしたんだよ。………ちょっとした演技と演説込みでな。即興にしては、実に人の心を掴む物だった。…才能がある。」

「あら。…ただの演説で民衆を鎮めたの?ーーーー人心掌握も得意になった物ねぇ…。」

 

 カノンは少し恥ずかし気に顔を伏せた。ーーーー確かにそんな事はした。戦いが終わり、迫るオーステルンと軍部の衝突に対する恐怖から怯える人々に向かって、何とか自分の声を届けようとしたのだ。

 

『自分達に、貴方達を傷付けるつもりは無い』ーーーーと。……少々、大袈裟だったかもしれないが………。

 

「……天使っぽく空に飛んで、背後から後光が射してよ。ーーーーアレは効果抜群だろ。天使信者じゃないオレだって、マジで天使様から有難いお言葉を頂いてる気になったんだ。……グローリーの信者達が即落ちするのも、頷けるね。」

 

ゼウスは回想しながらしみじみと頷く。

 

ーーーーグローリーの人々に語りかけるカノンは、覚醒時の光り輝く見た目と相まって、本当に天使の様に見えた。フェルシアの敗北を信じきれなかった民衆も、カノンを見た瞬間に察した様だった。ーーーーこれには勝てない……と。

 

 もっと間近でカノンの覚醒から決着までを見ていた人達は、もはや信奉の領域に達していた。……わずか1夜にして、カノンがグローリーの信仰を書き換えてしまったとも言える。

 

「ふ〜ん……見たかったわ、ソレ。」

「…動画に残しとけばよかったな。まるでアンタみたいに、ちょっと偉そうな口調でーーーー」

「そ、その話はここまでにしようよ…ね。」

 

 気恥ずかしいさがMAXに達したのか、わたわたとカノンが手を振って話題を変えさせた。

 

 

「ーーーーだ、だからお母様は心配しなくても大丈夫。暫くは私がグローリーをなんとかしとくから。」

ゼウスが頷く。

「……ま、そう言う事だ。グローリーに関しては、少しの間カノンに治安を守らせる。…連邦政府側がどんな対応して来るか、分からないし。ーーーー尤も、連邦側にはそんな余裕ないかもしれないがな。」

 

ソレを聞いて、フェルシアは微かに微笑んだ。

 

「……連邦は今頃慌ててるかしら?ーーーー私が寝てる1日で、だいぶと世界は様変わりしたんじゃ無い?」

 

カノンは頷いた。

 

「うん。変わったよ。…あと、お母様が寝てたのは4日間だから。1日じゃ無い。」

「あら、4日間も??ーーーー寝過ぎたわね…。」

 

 フェルシアは眉を上げた。…思ったより長く昏倒していたらしい。そんな彼女に、カノンは説明を始める。

 

「ーーーーこの4日間、世界各地で大きな変遷が起きた。…ざっと挙げるとーーーーーーーー」

 

……そして始まった説明は、フェルシアの予想を超える大事件の連続であった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 グローリーとオーステルンの戦争の結果として、世界で起こった主な出来事は以下の3つ。

 

 

 戦争の終局と結果が齎されたのは、終戦から1日後。新人類派のオーステルンが勝ったと言う結果は、各地の新人類達を大いに騒がせた。

 

 無論、この騒ぎを鎮圧すべく連邦は動き出す。しかし、湧きあがった動乱を完全に消すことは出来なかった。

 

…各地で散発した小競り合い。

 

 

ーーーーそして、遂に[ブリタニア]が腰を上げる。

 

 

 元々、新人類親和派であった移動要塞都市〈神聖国家ブリタニア〉は、この戦いを機に、新人類弾圧を強行する連邦からの離脱宣言を行ったのだ。

 

…これが1つ目の大事件である。

 

 

 

ーーーー連邦政府を最初期から支えてきた大国の離脱。

 それを止めることが出来なかった連邦政府を、各国が見限り始めたのも、当然と言えば当然であろう。

 

 そしてこれを機に、さまざまな移動要塞都市が連邦から離反し始めた。ブリタニアに続いたのは、同じく新人類親和派の[レシアル国]。

 この2つの大国は互いに同盟を結び、連邦政府に対抗する新勢力となった。

 

 一方で、新人類弾圧派側も弱体化する連邦から続々と離脱し、各々が異なる目的を持って動き出す事となる。

 

ーーーー先ず、オークニーのロット王が『ガッチェス』や『バクーレン』などの、連邦創設期より名を連ねていた古参の王達を纏め上げ、『十一王国連合』を設立。

 

 もはや新人類をコントロール出来なくなった連邦政府の解体と、蜂起しだした新人類の鎮圧及び、世界秩序の再構築の為に動きだした。ーーーーーーーこれが大事件の2つ目。

 

 更に、終戦をきっかけとして各国で新人類の反乱が起き、エリンの王である『上王ケアブリ』の失脚や、『マゴスチーネ』が統治していた中規模移動要塞〈マゴスチーネ王国〉が新人類の反乱によって陥落する等、様々な新人類絡みの事件が巻き起こる。

ーーーーーーひとつひとつの事件の規模は小さいが、似た様な事例が世界規模で発生した為、コレを3つ目の大事件と言っても差し支えないだろう。

 

 また、地上に造られた新人類共同生活区域でも、反乱の萌芽が芽吹き始めていた。

 彼等に対して連邦は厳しく目を光らせていたが、次々と連盟からの脱退者を出した事による弱体化は否めず、徐々に新人類管理が行き届かなくなってくる。

 

 

 

ーーーーーーーーこうして世界は変わり始めた。…イースターのタルタロス襲撃から始まった世界の激動は、今ここに極まったのである。

 

 

 

 


 

 

 

 

「……中々大変な事になって来たわね…。」

 

 カノンとゼウスから一通りの出来事を聞き終えたフェルシアは、そっとため息をついた。

 

そして、カノンの目を見つめて口を開く。

 

「ーーーーで、覚悟はちゃんと決まってるかしら???…言ってしまえば、貴方達のせいで世界は混沌に満たされる事になった訳だけど。…それを乗り越えていく覚悟は?」

 

試す様な問い掛けに、カノンは強く頷いた。

 

「出来てるよ。…これから先、何が起ころうと私は目を背けないつもり。」

 

 フェルシアは、眩しいものを見るかの様に目を細める。

 

「そう。ーーーーなら、進みなさい。貴方の前に続く、一本の道を。…私は此処から見届けさせて貰うわ。」

「うん。…見ててねお母様。」

「ええ。見てるわよ。」

 

 互いに目を合わせながら頷き合う2人。…そしてそのまま、2人は互いに無言で暫く見つめあった。何かを言うべきなのだろうが、何を言ったら良いか分からない……。そんな、もどかしい空気が2人の間に漂う。

 

「ーーーーそんじゃあ、俺は操縦室に戻るぜ。……今からアステール目指して動かないといけないからな。」

 

ーーーー2人の間の空気を読んだのか、そんな事を口にしてその場を離れていくゼウス。…パタン、とドアが閉まる音が響く。

 

「………。」

「…………。」

 

 彼が部屋から出ていった後も、暫く2人は無言だった。

 

……袂を分かってから長い間、2人は会う事も話す事も無かった。タルタロスで敵同士として出会ってからは、互いに敵として会話する事はあったが、いざ互いのしがらみに決着が着いた後でこうして顔を合わせると、お互いにどう接すれば良いかよく分からなくなったのだ。

 

 

「…………ねぇ。」

 

 

 暫く続いた沈黙を破ったのは、フェルシアだった。

 

「なに…?」

 

若干の素っ気なさが残る声で、カノンが答える。

 

「……此処で指一本動かせずに寝ているのは、暇なものね。」

「そうだね…。」

 

ーーーー再びの沈黙。

やがて、フェルシアが口を開く。

 

「ーーーー良かったら……」

 

 一旦ここでフェルシアは迷う様に口を閉じるも、直ぐにまた開いた。

 

「…貴女さえ良かったら、話してくれる…?私の元から去った後の事。貴女が大切に思ってるアステールの日々の事を…。ーーーーずっと知りたかったのよ。貴女がどうやって生きて来たのか。」

「………!」

 

カノンは少し目を見開いてから、そっと頷いた。

 

「……うん。良いよ。」

 

 彼女はベットの端に腰を下ろして、少し言葉を探す様にしながら話し始めた。

 

「えっと……じゃあ先ずーーーーーーーーーーー」

 

 

 

 

 

ーーーー互いの間に空いていた空白を埋める様に、2人は話す。

 

 

 やがて、オーステルンに鎖で繋がれているグローリーから、讃美歌の歌声が微かに漏れ始めた。

 天使信者の住民達が、毎日欠かさず行なっている讃美歌斉唱の時間だ。

 

 

静かに始まり、御空に響く歌声。

 

 

薄っすらとした蒼穹に、鳥の群れが飛んでいる。

 

 

……きっと、帰るべき場所へ帰るのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇〔side???〕◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

………篝火が燃えている。

 

 

木張の薄暗い室内に、1人の男が居た。

 

…白い衣装に身を包み、揺らぎの無い佇まいで闇の中に立っている。

 揺らめく炎が男の体を左右から照らし、幾つもの影を木の床に落としていた。

 

 

ーーーーギシ…ギシ…ッ

 

「……!」

 

……と、ここで男の耳が、木の床を踏んで誰かが歩いてくる音を聞きつける。

 

 

「ーーーー失礼。」

 

 

……そう一言いって、男のいる室内に別の男が入り込んできた。

 

ーーーーこの世の全てを見下す様な、冷たい瞳。………グローリーでネオと戦った人造臣機ノインの生みの親、『ウンエントリヒ』である。

 

「ーーーーーーー結局、ネオは手に入らなかったな。」

 

 男は、入室してきたウンエントリヒに向かって小さく声を掛けた。

 

「構わない。……もとより、保険の様な物だ。我々の手に負えるものでも無かったしな。」

 

 静かに答えるウンエントリヒ。そのまま、彼は部屋の隅へ目を向けた。男も、彼の見る方へ目を向ける。

 

 

ーーーーそこには、木造の部屋には明らかに不釣り合いな、巨大な機械が置いてあった。

 

…部屋の半分以上を埋めているその機械は、篝火に照らされて沈黙を保っている。……よく見れば、真ん中に人が1人が入れる程のガラス張りの細長いスペースがあり、その中にはゆらゆらと煌めく〈星のセラム〉が漂っていた。

 

「……()()も、あと少しで完成だ。ーーーー最後には深町氏の協力も必要。……彼の目指す大日本帝国の再興などに興味は無いが、我々には必要な人材だからな。」

 

 巨大な機械を見上げながら、そう呟く男。ーーーー揺らめく炎に照らされる彼の肩には、何やら2文字の漢字が見える。

…暗がりで良く見えないが、『幽世』と書かれている様だ。

 

 

「……本当にあと少しなんだな?()()()。……『帰魂(リボーン)』の完成は。」

 

 

 ウンエントリヒが、男に向かって小さく尋ねた。機械を見上げる男ーーーーコクウは、静かに頷く。

 

「あぁ。……我ら『幽世(ゴースト)』が望む世界。死者なき世界は、直ぐそこだ。」

 

 そう呟いたコクウの目は、部屋を埋める巨大な機械に注がれたままだった。ウンエントリヒもまた、自らが『帰魂(リボーン)』と呼んだ機械を見上げたまま、微かに呟く。

 

 

 

「もうすぐ会えるな。………ミリア。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の反対側に付いている窓から、月が光を落とす。

 

 窓の外には、少し傾いた巨大な電波塔の様なものがあった。その真下には、町が作られているのだろう。ネオンの明かりが数多く蠢いている。

 

 

ーーーーここは嘗て大災害により滅び去った、とある極東の()()()()()の跡地………

 

 

 

 

ーーーー今は連邦の管理下となっているその国の嘗ての名は、()()と言う。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇〔side??????〕◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーピチョン、ピチョン、と水の滴る音がする。

 

 

 此処は洞窟の中なのだろう。湿った空気が辺りに漂っていた。

 

凸凹とした鍾乳石に覆われた地下の空洞。

 

 人の手など入らないはずのその空間に、明らかな人口の異物があった。

 ソレは黒い金属製の丸い繭か、或いは巨大な卵の様な物である。…表面には無数のコードが貼り付き、周囲に置かれている大量の機械に繋がっていた。

 金属の球体の上部は蓋が開く様に開いていて、中には謎めいた液体が満ちている。

 

 

 

「ーーーーククククク…遂に…遂にだ…!遂にこれから始まるぞソワン…!私の神への道が!!」

 

……洞窟の中に、歓喜に満ちた叫びが木霊する。

 

「うるさいデスよ。博士。…洞窟にワンワン響いてます。」

 

 うんざりした様な女性の声が、歓喜の叫びの後に続いた。

 

 

ーーーーーーー連邦所属の科学者にして、今歓喜の叫びを上げた張本人である『ドクトゥール・フォリー』は、首をぐるりと回しながら自分の助手ーーーーアムール・ソワンを睨む様に見つめる。

 

「今此処には我々しか居ないのだから、どれだけ騒ごうが如何でも良いだろうソワン君??」

 

ソワンは、やれやれと肩を竦めた。

 

「ま、そりゃそうデスけどーーーー。」

 

 フォリーは両手を突き上げる。……叫ぶ彼は、半裸であった。

 

「ならば問題あるまい!!……この気持ちの昂りを、抑えることなど不可能ッ…!!何故なら、今から私の願いが叶うからだぁ!!!くわぁーーーっはっはっはぁーー!!!」

 

「…なんつーハイテンションなんだ。……学者ってのは、訳わかんない事で盛り上がれて良いよなぁ。…俺ぁ、銃撃ってねぇとハイになれねぇってのに。」

 ソワンの隣に立つ3人目の人物ーーーータルタロスでイースターと戦った男、ニルヴァーナが若干引いた様に呟く。

「銃撃ってハイになる人も嫌デスけどね……。」

ソワンが、微妙な顔つきでそう呟いた。

 

 ニルヴァーナが心外と言った顔つきになって、ソワンの肩に手を置く。

「おいおい。そりゃあ、キミが人を撃ち抜く楽しさを知らないからであってなーーーーーーー」

 

 人を撃つ快楽について熱く話し始めたニルヴァーナだったが、途中でフォリーが話に割り込んできた。

 

「…はいはい。そこまでだ2人とも。……私の話を聞いて貰えるかな??」

「ーーーーうわぁ、さっきまでハイテンションだったのに急に素に戻らないでください博士!?」

 

 急に落ち着いたトーンになったフォリーに突っ込むソワン。そんなソワンを無視して、フォリーは話し出す。

 

「…君達にも言った通り、私はこれからこの[人工融合装置]に入って眠りにつく。」

 

ーーーーと言って、フォリーは黒い巨大な卵型の機械を叩いた。

 

 

「ーーーーそしてこの中に入っている、歪な覚醒者である〈天聖ケテル〉の心臓を私自身に移植する。」

 

 

 フォリーは、2人に向かって説明を続けながら、黒い卵型機械の上へと登って行った。(側面に小さなタラップが付いているのだ。)

 

「嘗て私が作った旧人類と壊獣を融合させる実験。……その結果はニルヴァーナ君を除いて悲惨な結末だったが、私の手元にデータは集まっていた。」

 

 彼は喋りながら、機械の中を覗き込む。……中には、複数の金属パーツと、ロボットアームが備え付けられていた。……謎めいた液体で満たされている中心には、脈動を続ける〈天聖ケテル〉の心臓が手招きする様に浮かんでいる。

 

「ーーーーそして今…私は私自身に実験の成果を試す訳だ。まるで、グローリーのフェルシアが自らをアナテマシリーズの1体にした様に…ね。」

 

 ギラつく目でそれを眺めていたフォリーは、満足そうに何度も頷く。

 

「……我が研究のノウハウを生かした、覚醒新人類と旧人類の融合合体…まさに禁忌…!ーーーーだが、コレをすれば私は『神』へ至れる…。これは進化では無い…『神化』だ。旧人類である私が、科学の力で神へと至るための、偉大なる合体の儀ーーーーさしずめ、()()()()と言ったところか…。ふふふふふ……素晴らしい…素晴らしいぞ…!」

 

 最後に彼は、機械の卵の頂点からソワン達2人の方へ振り向いた。

 

「……さて、覚醒新人類と旧人類の物理的な融合は、慎重にやらねば。急がば回れ、とも言うしな。……もしかしたら、私は1ヶ月は出てこないかもしれない。或いは1年…神化に失敗すれば永遠に、だ。」

 

彼は両手を広げ、2人に向かって話しかける。

 

「ーーーーソワン、ニルヴァーナ。…私が神化の眠りについている間、此処を守れ。常に此処にいる必要は無いが、定期的に私が生きているかだけでも見にきてくれれば良い。頼んだぞ?」

 

「はい。任せて下さいデス!!」

「あぁ。こんな洞窟まで来る奴は居ないと思うけどな。……もしも来たら、俺が殺しとくよ。」

 

ーーーーフォリーの声に、頷いた2人。

満足気に笑うフォリー。

 

「くくくく……では、また会おう。…何時になるかは分からんが、楽園でな。」

 

 彼は狂気的な笑みを浮かべたまま、機械の中へ身を沈めていった。

 

 

 そして彼を包み込んだ鋼鉄の卵の蓋が閉じ、フォリーの姿を完全に隠すのだったーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

変わり始める世界。

 

 

裏で蠢き出す者達。

 

 

その渦中でイースター達は動き出す。

 

 

ーーーー全ては、新人類の自由の為に。

 

 

………もう誰にも、自由を奪わせない為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、1年と6ヶ月が経った

 

 

 

 

 

 

 

 

 








獣神化はこじつけ感強かったけど、神化合体は違和感なく出せたんじゃないでしょうか??


…とりあえず、コレで5章は終わりです。

いやぁ、長かった…。結局、自分はフェルシアをただの悪役として書くことは出来ませんでした。最初はただの悪役として書き始めたんだけどね…。

その結果がこのフェルシア生存ENDな訳ですが、まぁ…ヨシとしましょう。カタルシスはそんなに無いかもしれないケド。

……と言う事で、次回はこの話から1年半後に時が飛びます。ーーーー6章〈幽世編〉でお会いしましょう。
ほな、また( ´ ▽ ` )ノ
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