前回の宣言通りネオ達の話は一旦置いておいて、アルスラーンとアビス・ハレルヤの話に入ります。
…と、言いたかったけどそんなこともなかった()
……因みにネオ関連の話は、多分この章の最後くらいにならないと進まないと思うので、気長にお待ちください。
取り敢えず、
◇◆◇
アルスラーンには、嘗て大事な人が居た。
……自分を地の底から救い上げてくれた、偉大な存在が。
『……お前…良い目をしているじゃないか。』
そう言われた日の事を、未だ覚えている。
差し出された手を握った時の、あの分厚い手の皮の硬さも。
『お前の名は?ーーーー俺はライオ・アルスラーンだ。…ライオとでも、呼んでくれ。』
ーーーーアルスラーンにとっての偉大な存在にして、永遠の師。彼の名は、『ライオ・アルスラーン』。
史上初めて新人類の為に立ち上がり戦った〈適応型新人類〉にして、イースターの前身である組織〈ニュースター〉を設立し、アルスラーンとバサラを導いた男である。
◇◆◇
日時:[8月7日]
場所:[新人類街 アステール]
元イースター支部であるアルスラーンの屋敷に、何人かの人々が集っていた。
部屋に居るのは、イースター所属でアステールに支部を置く《スターダスト アリデット支部》の代表者でもある〈獅子王アルスラーン〉。
そして、彼女と同じイースターメンバーのアビス。
隣には、イースター所属にして〈教会国家グローリー〉の大司教も務めているカノンが座っている。
更に彼女達の側には、バサラとアルセーヌーーーーそして、彼等と同じイースターメンバーであり、スターダスト支部の1つ《ウルトゥル・カデンス》の代表者でもある、ハレルヤまで居た。
ーーーーーーーイースター所属のメンバーの、約半数が此処に集っている訳だ。
そんな彼等が集まってしている話題は1つ。
「……ネオが安否不明とはな……。」
ーーーー
事の発端はこうだ。
8月2日、《アンナスル・アッターイル支部》代表者のニュウから『作戦行動中に連邦の奇襲に合い、ネオ含むエージェント達が敵の攻撃によって生死不明となった。』ーーーーと言う連絡が入ってきた。
彼等は、連邦のゲリラ攻撃を受けた新人類街の援護へと向かっていた途中、連邦の機械戦力による強襲を受けたらしい。
当初は只のドローン兵器による攻撃だったのだが、ニュウが迎撃の為に場を離れた直後、伏兵のキャノンアークによってネオ達の乗る航空機が撃墜されてしまった。
ーーーー直ぐに生存者確認調査が、アッターイル支部とシグナス支部、そして神聖国家ブリタニアの協力の下で行われたが、ネオ達の乗っていたVTOL機が墜落した場所は、流れの激しい川の真上だった為機体の引き上げは難航し、更に殉職したと思われるエージェント達の遺体も、流されたのか殆ど見つからなかった。
見つかったネオの存在を証明する物はただ一つ、彼女が持っていたヘッドホンの断片のみ。
……生存は絶望的だろうーーーーと言うのが、大多数の見方であった。
「……でもよ。俺は信じられねぇんだよ。ーーーーネオがこんなあっさり死ぬだなんてな。この目で見るまでは、絶対信じねぇ。」
バサラの呟きが部屋に響いた。
カノンが横から口を挟む。
「…グローリーの対応として一応捜索部隊を送っておいた。…でも、本当は私自身でも探しに行きたいんだけどね………。」
アルスラーンが溜息混じりに口を開く。
「ニュウが拒んだんだろう?…私もだ。」
彼女は、顔を少し曇らせながら話を続ける。
「どこもかしこも人手が足りない事を、ニュウの奴は気にしてた。……だからだろうな。私が手伝うと言っても、自分が1人で探すからの一点張りで…。」
「……こんな時にまで他人に気を配りすぎなんだよ、アイツは。」
バサラが半ば呆れた様に口を開いた。
「ーーーーだからよ…俺は今日の夜、アイツに電話するつもりだ。ーーーーんでアイツがどう遠慮しようと、絶対コッチから行ってやる。」
アルスラーンは頷いた。
「勿論、私も同行しよう。ネオの危機はスターダストエージェント全体に取っての危機でもある。……彼女の名声も、スターダストの求心力に大きな影響を与えているからな。死亡すれば、世界に激震が走る。」
「……そう言えば。」
ーーーーココで、ハレルヤがふと口を開いた。
「ーーーーアミダとキラリは、この事を知ってるのかな?」
バサラが微かに首を振る。
「いや……多分、連絡がまだ行ってないだろうな。ーーーーハレルヤも知ってるだろ?今、あの2人は〈旧日本領〉に潜伏調査中だ。ーーーー未だ連邦の勢力圏内である《旧日本領攻略》は、スターダストにとっても重要な任務。…新人類街の〈天川市〉って所すら、まだ連邦と新人類のゲリラ戦が行われてるって話だ。解放までは遠い。」
彼は難しい顔をしながら話を続ける。
「…ニュウには悪いが、あの2人を引っ張って来る訳にはいかないだろうさ。」
「そっか……。」
ハレルヤもまた、難しい顔をして頷いた。
「ま、兎も角今日の夜だな。ーーーー俺はニュウにコンタクトを取る。…お前らも連絡したかったら、グループで繋いで話そう。…時間はそうだな…アッターイル支部との時差も考慮すると、コッチで夜10時半ぐらいに掛ければいいかな。」
「了解。」
頷く一同。
ーーーー此処で、この話は一旦終了となった。
◇◆◇
ーーーー[同日] PM22:30
大きな月が昇る夜。
アステール支部の屋敷内の一室に、バサラは一台のパソコンを置いて座り込んでいた。周りには、アルスラーン含めたイースターのメンバー達。アルスラーンの仲間であるハクビやフェムト達も居る。
ーーーーパソコンの画面には、呼び出し中を示す受話器のマークが浮かんでいた。
「繋がらんな…。」
アルスラーンの呟きが響く。
「そうだな…。……てか、お前ら自室にいて良いんだぞ??態々一箇所に集まらなくても、グループで繋げられるだろ?」
「…こう言う時は皆んな居たほうがいいんだよ。皆んなが。」
アルスラーンの仲間である獣人少女サクアが、ニコッと笑って口を開いた。
「…ちょっとでも、暗い空気は払拭しないとさ!ーーーーそれに、気になって自分の部屋になんて居れないよ…。」
「まぁ……止めろとは言わねぇけど………お?来たな。」
バサラがパソコンに向き直る。部屋に居る全員が、同じ様にパソコンを覗き見た。
『ーーーーうわ?!皆さんお揃いですか?!』
初手、ニュウの驚いた様な声が部屋に響く。…ビデオ通話になっているのだ。
バサラは周りを軽く見渡しながら口を開く。
「ああ。まぁな。……皆んな、お前が心配で夜も眠れないんだとよ。」
ーーーーアルセーヌが横から口を挟んだ。
「バサラ?あんまり彼を心配させる様な事は、言わない方がいいんじゃない??彼の事だから真剣に捉えちゃうわよ。」
そうアルセーヌが囁いた直後、画面の向こうでニュウが顔を曇らせた。
『ーーーーそうですか。……ご心配おかけして、すいません…。』
「う…あー、気にするな。…眠れないってのは、言い過ぎた。」
『そうでしたか…。でも、心配は心配ですよね……すみません…。』
バサラは手を振る。
「謝んなくて良いって。ーーーーてか、こっちこそ悪いな。こんな時に電話してよ。」
画面の向こうでニュウが首を振った。その顔は、随分と弱々しくなっている様に見える。
『いえ…。構いません。今は誰かと話したい気分ですから…。』
「そうか。」
バサラは一息付くと、再び口を開いた。
「今日電話したのはな。……お前を手伝いに行くって伝える為だ。此処にいる全員でな。」
『えっ…?』
ニュウが驚いた様に首を振る。
『ぜ、全員って…。アルスラーンさんにカノンさんとか、忙しいんじゃ無いですか?!今は何処もーーーー』
「人手が足りない、だろ?」
バサラはニュウの言葉を遮った。
「でもな。ーーーーネオが気になるのはお前だけじゃねぇんだよ。…分かってるだろうけどな。」
「………。」
黙り込むニュウ。
バサラは画面の向こうへ指を向けた。
「こんな時だからこそ、ズバッと言ってやる。ーーーーニュウ。お前は人に頼らなさすぎなんだよ。なんでも1人でケリを付けようとしやがる。……
アルセーヌが、横から補足する様に口を挟んだ。
「……もうちょっと、私達を頼りなさい。頼って良いのだから。困った時は助け合い…でしょ?ーーーーま、私みたいな盗賊が言うのも変な話だけれど。」
「カァ!」
…アルセーヌの肩に止まっているカラスのヘンドリックス4世も、相槌を打つ様に鳴く。
ニュウは微かに俯いた。ーーーーそして、小さく呟く。
『…………ありがとうございます…。』
「おう。…当たり前だ。」
バサラがニュウに向かって頷いて見せた。そして話し始める。
「ーーーーじゃ、俺達は明日ココを立ってソッチに………」
ーーーー♪♬♫ーーーー♪♬♫ーーーー♪♬♫
バサラの声は、彼の携帯が鳴り響かせた着信音に遮られた。
「…ん??悪りぃ、ちょっと待て。」
こんな時に誰だよーーーーとバサラが携帯を見ると、呼び出し人はまさかの《アミダ》であった。
「アミダ…??アイツ一体……ーーーーーーーーもしもし。」
眉を顰めながらも電話に出るバサラ。
即座に、アミダの焦りを伴った様な声が飛び込んで来た。
「もしもしバサラ!?ーーーーエマージェンシーだよ!!緊急事態!!」
「はぁ?!」
コッチもコッチで緊急事態なのだが、と思いながらアミダの話を聞くバサラ。…一応全員に聞こえる様、スピーカーをオンにして話している。
しかし、続くアミダの話はイースターのメンバー(とりわけ、バサラ)を大きく驚かせる物だった。
「ーーーー
『「「「はぁっ?!?!」」」』
今この場にいる全員の声が一つに重なった。
◇◆◇
「そりゃ、どう言う事だよアミダ?!…なんで、あの
バサラと同時に、アルスラーンも声を上げる。
「ーーーーソレも気になるだろうが、私としては『2本目の星の花』と言う単語が聞き捨てならんな。どう言う事だ……!?」
続いてサクアが声を上げた。
「てか、アミダ!?ーーーーコッチもコッチで大変…」
『いや、こっちは平気ですから先にソッチの話をーーーー』
『あー!ちょっとストップ!!私は聖徳太子じゃないよぉ!!』
アミダが電話の向こうで叫ぶ。
そして、アミダは順を追って話し始めた。
『先ずね。キラリが旧東京に潜入してたの。ーーーーそこで、日本領管轄を任されてる『深町』ってヤツが、とある計画を立ててたみたい。』
「…………深町。」
ハレルヤが、凄まじく苦い顔つきで呟いた。…声には、怒りすら滲んでいる。
カノンが首を傾げた。
「…その計画って?」
『大日本帝国復活計画…だってさ!訳わかんないよね!?』
「大日本…」
「帝国復活??」
アミダの声に、皆んなして顔を見合わせる。
復活とは、どう言う意味だろうか…?
『ーーーーで、それには
「…
バサラが小さく呟く。
『だから、深町は
ここで、アルスラーンが口を挟んだ。
「……ん、ちょっと待てアミダ。ーーーー2本目の星の花の話は何処で出てくるのだ?」
『大丈夫。コレから話すから。ーーーーと言っても、私達も全てを知った訳じゃない。ちょっとキラリが怪しまれちゃってね。……潜入は、途中で打ち切ったんだ。』
「なるほど?」
アミダは話を続けていく。
『ーーーー大災害が起きた日、現れた星の花は1つじゃ無かった。……〈本体〉は北極に生えてきたけど、それとは別に世界各地に〈分体〉が現れたんだよ。……今はもう、〈ア目標〉の破壊を最後として分体はこの世から消えたけど、本体は破壊出来ずに未だ残ってる。』(1話参照)
バサラが頷いた。
「……あぁ、そうだな。その通りだ。」
『でも、深町は何らかの手段で星の花を再生させる事が出来たみたい。ーーーー最初は連邦主導の実験だったけど、グローリー戦争終了後に連邦が弱体化したのを見て、深町は自分の野望の為に再生した星の花を使おうとしてるんだ。間違いなくね。』
「あの理外の存在を、か。……やれるのか??」
アルスラーンの問い掛けに、アミダは首を振った様だった。
『分からない。ーーーー方法があるんだと思うけど、さっきも言った通り途中で調査を打ち切ったから。……でも、キラリが一個だけ得た資料があるの。そこには、
またまた驚きに包まれるバサラ達。
「なんじゃそりゃ?!ーーーー衛星兵器だと?!この大災害後の世界にそんなモノお出しされた日には、お終いじゃねぇか!!こちらとら、20年以上もの間、宇宙開発は止まってるんだぞ?!……開発技術も人と一緒にほぼ失われたんだ!……そんな時に衛星兵器だなんて…俺達には対抗手段が無いぞ??」
「反撃手段の無い超高度から、一方的に蹂躙されるだけだ。……我々には壊獣への対抗手段は数あれど、宇宙まで届く攻撃手段など無い。」
アミダが声を大にした。
『だから言ったじゃん!!緊急事態なんだって!!ーーーー既に星の花は再生している!……その衛星兵器が出来上がれば、世界のパワーバランスがまた崩れ去る!……スターダストの総力を上げて、コレを止めないと!!』
バサラ達は顔を見合わせた。……そうしたいのは山々だがーーーー。
「アミダ。……1つ良いか?」
ハクビが最初に口を開く。
『……なに…??』
「多分君達はまだ知らないだろうけれども、
ハクビのその声に、アミダはたっぷりと沈黙してから、思いっきり叫んだ。
『エマージェンシーじゃんッッッ?!?!』
『………やはり、バサラさん達は東京に回ってください。』
アミダに対する説明が終わった後、ニュウがそっと口を開いた。
「ニュウ…?」
『ーーーーアミダさんが伝えてくれた情報は、確かに緊急事態です。……僕の事より、目に見える脅威を取り除く事が世界の為にも繋がります。……ネオさんは……僕もこう言いたくはありませんが……もうーーーー』
「それ以上言うな。ーーーーお前が、他でも無いお前が、そんな弱気になってどうする。」
アルスラーンが少し厳しい口調でニュウの話を遮った。
そして、彼女はバサラとハレルヤを見て口を開く。
「今此処に、二つの緊急事態が発生した。……どちらも、一刻を争う問題だ。どっちがどうとかは無い。」
そう言って、アルスラーンはバサラとハレルヤを指差す。
「ーーーーバサラ、ハレルヤ。……君達は日本領へ行ってくれ。」
「えっ。」
ハレルヤが驚いた様に顔を上げた。バサラも同じく顔を上げる。
「おい……ニュウがーーーー」
「ーーーー私たちは、ニュウのネオ捜索の為にアッターイル支部へ向かう。君達2人は、アミダと日本で合流するんだ。」
「しかし………。」
『行ってください。』
「!」
いいのか?と躊躇うバサラに、声を掛けたのはニュウだった。
『……僕に全てを割く必要はありません。アミダさんの話も聞いていました。…アルスラーンさんが手伝ってくださるのなら、僕はそれで良いです。……ハレルヤさんも、日本に対しては何か思う所があるのでしょう……?』
「……。」
ハレルヤは俯いた。
ーーーー無論、思う所が無い訳じゃない。
『ーーーーだったら、行ってきてください。……僕の事なら、大丈夫です。コレは遠慮なんかじゃありません。ーーーーアルスラーンさんやカノンさん達が来てくれると言ってくれたから、そしてその言葉に甘えてみようと思ったからこその言葉です。』
「良いのか?」
バサラの念押しに、ニュウは頷いた。
『はい。』
「そうか。ーーーーなら、そうしよう。緊急事態が一つ増えたんだ。……仕方のない事か。」
バサラはそう言うとサッと立ち上がった。
「俺は予定変更だ。ーーーー今から仮眠をとって、準備してから日本領へ向かう。……アルスラーン。ネオの方は頼んだぞ。」
「あぁ、もちろん。」
バサラの真っ直ぐな眼差しに、アルスラーンは微笑んで頷いたーーーー
◇◆◇
こうしてバサラ達は、アルスラーン率いるネオ捜索隊とバサラとハレルヤによる日本領潜入組に別れ、別々に行動する事となった。
………コレは、また一つ大きな戦いへと繋がっていく。
アステールと日本の経度はあまり変わらない設定なので、時差は余りありません。
あと、星の花の分体に関する記述は45話にあります。一応、深町氏が成長について研究していたって言う記述がね。
だから、星の花には〈本体〉と〈分体〉が存在するって言うのは後付けじゃないです。……今まで殆ど言及が無かったせいで、後付けにしか見えないケド。
で、分体はもう全部連邦によって破壊済みです。1話冒頭付近で、なんかわちゃわちゃしてたの覚えて……るわけないよね。うん。私が読者だったら覚えてないよ。
ほな、また次回。