モンスターストライク 〜星ノ呼ビ聲〜   作:犬社長

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90話〈バサラ:オリジン 前編〉

 

 

 

 

ーーーー旧日本領。

 

 

 

 かつて存在していた日本という国が大災害によって滅び去った後、その跡地に付けられた名である。

 

 国土の殆どが星のセラムに覆われ、微かに人類の生存圏が残るだけとなった極東の島国は、もうずっと昔に国としての機能を失った。

 

 今の旧日本を統治しているのは連邦政府であり、そのリーダーを務める男こそが『深町』と名乗る男なのである。

 

 

 

………そして、此処日本はハレルヤとアミダの故郷でもあるのだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 8月8日に輸送機に乗ってアステールを出発したバサラとハレルヤは、その日の夕方過ぎには日本近海に着いていた。

 

 

夕日に照らされて赤々と浮かびながる海面。

 その上を掠める様に、2人を乗せた小型輸送機は飛んでいく。

 

「ーーーー間も無く、指定されていたポイントに着きます。」

 

 海面すれすれを飛ぶ輸送機を操るパイロットが、後ろに控えている2人にそう声を掛けた。

 ここまで低空飛行をしている理由は、連邦政府の探知レーザーを恐れての事である。

 

 

…未だ連邦政府の管理下にある旧日本領。

 間違っても、バサラ達の潜入が露呈する訳には行かないのだ。

 

 

アミダとの合流も、只の砂浜で行われる。

 彼女達が潜入している新人類街『天川市』も、まだ連邦の管理下にあるからだ。

 

 

ーーーーやがて、行手に黒い海岸線が浮かび上がってくる。

 

 

「合流指定ポイントです。…着陸します。」

パイロットの声に、バサラは頷いた。

「あぁ。…お疲れさん。帰りも気をつけろよ?」

「ーーーー承知しています。」

 

 そして、2人を乗せた小型輸送機は人の居ない砂浜に、静かに着陸するのだったーーーーーーーー

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「ハレルヤ〜〜!バサラさ〜〜ん!」

 

 

「……!」

「お、来たか。」

 

 

夕闇の中、2人で迎えを待つ事30分。

アミダとキラリが、遂に2人を迎えにやって来た。

 

…既に太陽は水平線の彼方に沈み、微かに空に紫色の残滓を残すのみとなっている。

 

「アミダ!キラリ!ーーーー久しぶりだな!」

 

 バサラはやって来たキラリに向かって手を上げた。…パチン、とアミダの方からハイタッチが飛んでくる。

 一方でハレルヤは静かにキラリと握手を交わしていた。

 

「久しぶりですハレルヤさん。」

「うん。久しぶり。ーーーー元気そうだね。」

「はい。…ハレルヤさんこそ。」

 

「はいはいはいはい、取り敢えずこっちこっち!!ーーーー開けた所に長居すると危ないからね〜!」

 

 そう言って、握手を交わす2人の背中をアミダが押す。

 ハレルヤとバサラはアミダ達に導かれるまま、砂浜を後にした。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

新人類街〈天川市〉。

 

 

 日本に存在する新人類共同居住区の1つであり、未だ連邦の管理下に置かれている街である。

 

 そしてアミダとキラリは、この街を解放すべく長い間日本領に潜伏し続けているのだ。

 

 

「ーーーー散らかってるけど、入って入って。」

 

 

…此処は天川市の郊外。

 

 街の外周に立っている新人類用のアパートメントの一室に、バサラとハレルヤは案内された。

 

 外には街灯も無く、真っ暗な夜の闇がアパートを包んでいる。アパートの窓からは、街の中心部が見えた。ーーーー中心部も余り明るくは無い。

 

「…今は連邦軍と文字通り街を二分して戦ってる最中なの。もしかしたら、今夜も攻撃があるかも。」

 

 キラリの言葉を聞いたバサラが、街の中心部を見つめながらそっと呟いた。

 

「なるほど。ーーーー戦禍の真っ只中って訳か。」

「そういう事。……でも、今は東京の方が問題だね。」

 

 そう言って、アミダは遮光カーテンを二重に下ろし、外に部屋の灯りが漏れない様にした。

 

「ーーーーこっちへ来て。東京の話をするから。」

 

 バサラとハレルヤを手招きしたアミダは、部屋に置かれているちゃぶ台の上を指差した。

ーーーーそこには、大きな紙の資料らしき物が広げられている。……設計図だろうか??

 

「……これは…。」

 

 ハレルヤが何かの設計図に目を通した横で、同じく設計図を読んだバサラがそっと呟いた。

 

 

「……〈神威奈火(カムナビ)〉……。それが、深町って奴が作ってる衛星砲の名前か。確かに、星の花の分体からエネルギーを得ると書いてある。」

「でしょ??ーーーーこんな物が完成したら、私達には打つ手がなくなる。」

「………それだけじゃ無いです。」

キラリが横から口を挟む。

「深町氏によって、私達はもちろん〈11王国連合〉や〈旧連邦〉も一網打尽になってしまいます。……このままでは、彼が世界を制してしまう。」

「ん…?彼は、連邦を裏切るつもりなのかい?」

 

ハレルヤの問いに、アミダは頷いた。

 

「うん。……彼が目指すのは、大災害で滅び去った日本帝国の復活。ーーーー深町にとっては、自らが所属する連邦すら障害にしかならない。そして、彼の目的達成の為に必要なのがーーーーーーーー」

 

「……幽世(ゴースト)か。」

 

アミダの言葉を、バサラが引き継いだ。

 

 

 

ーーーー幽世(ゴースト)

 

 

 

大災害の後から密かに世に生まれた、とある組織。

この組織とバサラには、深い因縁がある。

 

「…じゃあ、アイツが……コクウが居るんだな。ーーーー今、東京に。」

「うん。」

「そうか…………。」

 

バサラは小さく溜め息を吐いた。

 アミダ達は、そんな彼を静かに見つめる。……俯き気味に黙り込む彼の心情は、彼にしか計り知れない。

 

 

………幽世(ゴースト)と、バサラの間にある因縁とは何なのか。

 

 

ーーーーソレを語るには、大災害発生直後まで遡る事となる。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

…大災害が起こる前、この星には《火ノ国》と呼ばれる大国があった。

 

 

ーーーーバサラはそこで産まれた。

 

 

 しかし、自分がどの様に産まれたのか、親は誰なのか、バサラは知らなかった。

 何故なら、彼の住む火ノ国は隣国との激しい戦争を何十年も続けており、バサラの親はとっくの昔にこの世を去っていたのだ。

 

……つまり、彼は戦争孤児だった。

ーーーーでも、彼はソレで良いと思っていた。

 

 そんな彼に、()()()があったのは彼が10歳になった年の頃。

 

 彼の住んでいた(ーーーーと言っても、家無しの浮浪少年同然だったが。)街が、戦火に呑まれた。

 町中を巻き込んだ戦いの中で、彼の周りの人々は次々と死んでいった。……しかし彼には、持って生まれた才能があったのだ。

 

 それは、10歳とは思えない程の大人びた自我の強さと、戦う才能である。

 

 

ーーーーーーーー彼は街の住民の中で、ほぼ唯一と言っても良い生き残りとなった。

 

 

 そんな彼を見て、強い兵士になれると見込みを付けた男が一人居た。

 

 この国を統治する帝に仕える軍〈天部〉を率いる〈天部十二神将〉の1人である。

 

ーーーーその男によって、彼は半ば強制的に〈天部〉に引き込まれた。

 

 

 

そして、そこでとある2人に出会う。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「コイツが今日から新しく入隊する事となった、バサラだ。…精々仲良くしてやるんだな。」

 

 

 肩を掴まれて、半ば引っ立てられる様にバサラは『ソコ』にやって来た。

 

(……不服だ。)

 

 そう思うバサラは、頬を軽く膨らませたまま前を見る。

 

 目の前には、道場の様な広めの空間。床は木で出来ていて、ひんやりと冷たい。

 

目の前には、二人の男女。

 

 一人は薄い茶髪を整えた少年で、隣には薄緑の髪を伸ばした少女が立っている。

 

「ーーーーこいつがコクウで、コッチの女がトコヨだ。」

 

 二人をボケッと見つめるバサラに、天部十二神将の男が軽く二人の紹介をした。

 

「…宜しく。」

「こんにちは〜。同い年が増えて、私嬉しいよ〜。」

 

紹介された二人がそれぞれ軽く挨拶をする。

 

「おう。……これから宜しくな。」

 

…内心、天部に来たのは無理矢理なんだがな…と思いながらも、バサラは一応挨拶をしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 この二人がバサラの今後の人生を変えていく事になるとは、その時の彼には想像もつかない事である。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

ーーーー最初にバサラと仲良くなったのは、トコヨの方だった。

 

 コクウの幼馴染であると言う彼女はバサラの事を気に入ったのか、バサラが一人で居ると良く絡んできて、色んな話を(一方的に)してきたものだ。

 

 コクウは彼女に並々ならぬ感情があるのか、基本彼女と一緒に居た。…と言う事は、トコヨがバサラの所にやって来た時は必然的にコクウも一緒になる訳でーーーーーーーー

 

 

「言っておくが、俺はお前と仲良くする気は無いからな。…トコヨがお前の事を気に入ったから仕方無くーーーー」

「分かってるっての。安心しろ。俺もお前と仲良くする気は無ぇよ。話しかけんな。」

「もぉ……二人ともぉ〜〜。………喧嘩する程仲が良いってのは、こう言う事なのかな??

 

 

ーーーーこんな調子で、バサラとコクウは顔を合わせる度にいがみ合っていた。

 

 バサラとコクウの終わりなきいがみ合い。それがいつの間にか天部の日常風景となっていったのは、言うまでも無い事である。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

ーーーー時は過ぎていく。

 

 

「ねぇ、バサラ。バサラの事、バサラお兄さんって呼んでも良い〜??」

「はぁ?」

「なぜだトコヨ!…コイツの何処に『お兄さん』要素があるんだ!?」

「だってさぁ〜、バサラってなんだか大人っぽいじゃん。…だから、ね?…良い??」

「あぁ……まぁ、別に好きに呼べ。」

「やった!…じゃ、コレからはバサラお兄さんだね!」

 

 

ーーーーその過ぎていく時の中で、少しづつバサラは変わっていった。

 

 

「…ねぇ、2人ともぉ〜。ちょっとぐらいは仲良くしなよ。」

「「誰がコイツと仲良く出来るか!!」」

「あ、今の良い!!仲良い風に見えた!!あははっ!」

「はぁ?!」

 

 

ーーーー多分ソレはトコヨも…そして、コクウも同じ事だったんだろう。

 

 

「なぁ、コクウ。」

「なんだよバサラ。」

「気になってたんだが、お前…俺と同じ戦争孤児なのか…?」

「……どう思う??」

「俺が聞いてんだよ。」

「………………そうだよ。目の前で、親が死んだ。天部の助けは…ギリギリ間に合わなかった。お前は良いよな。親の顔も覚えてなくて。…俺は覚えてしまってるから……死に顔を。」

「覚えてねえってのも、ツレぇけどな。」

「………そうか。」

 

 

ーーーーいつしか、3人はお互いに離れ難い存在となっていった。

それは、嫌じゃなかった。寧ろ楽しかった。

 

 

…そんなある日、トコヨが珍しく真剣な顔で訪ねて来た事がある。

 

 

「ねぇ。バサラお兄さん。」

「ん?なんだ…急に真剣な顔で。」

「……私達の誰かがもしも…これから先、戦死したらって考えてさ。…一応、私達天部の見習い兵士じゃん?ーーーーだから、もし私が2人より先に死んだら、覚えておいて欲しい事があるの。」

「……!!」

 

 その時のトコヨの顔をバサラは今でも覚えていた。…しっかりとした瞳の奥に、あり得るかも知れない未来を見据え、ソレを受け入れようとする覚悟と、でも隠しきれない恐怖が混ざったような顔を。

 

「ーーーーどうか…怒ったり、悲しんだりしないでね。悲しんでも、怒っても、死んだ人は戻ってこないの。…私は運命を受け入れるからさ。2人には、どうか私の事で苦しまないで欲しい。死ねば私は『過去』になる。…もしもそうなったら、2人は『未来』を生きてね。」

「……………。」

 

バサラは何も言えなかった。

 

その時のバサラとトコヨは14歳。

 

ーーーーしかしその時バサラは、トコヨが自分よりも何倍も長い時を生きてきたかのように、感じたのだった。

 

 

 

…結局、それに対する返事は出来なかった。

 

ーーーーしておけば、多少は今の自分の心も変われたのかもしれない。

 

 

 

 

……そのトコヨとの会話から1年後ーーーーバサラが天部に来てから、5年の歳月が経った時の事だった。

 

 

 

 

バサラとコクウ、そしてトコヨが15歳になった年。

 

 

ーーーーそれは、この星に星の花が顕現した年。………即ち、世界の形を大きく変えた忌むべき《大災害》が起きた年であった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

全てが変わった日。

 

 

人類の時代が確かに終わった日。

 

 

それが、大災害。

 

 

 

 

……()()()、北極に出現した〈星の花本体〉及び世界各地に出現した〈星の花の分体〉によって、世界は〈星のセラム〉の瘴気に包まれ、人々は次々と死んでいった。

 

 富める者も貧しき者も、男も女も、老いも若いも、皆平等に死に招かれた。

 

 

ーーーーーそして、世界を満たす星のセラムの一部となったのだ。

 

 

 

ーーーー世界はあっという間に混沌に包まれた。

 

 僅か1日で30億を超える人類が死に至り、星のセラムから生まれた〈壊獣ノーマン〉が、世界のインフラを破壊して回った。

 

 ワシントン、北京、パリ、東京、世界のあらゆる主要都市は死の都となり、続く壊獣の攻撃によって全ては廃墟と化した。勿論、火ノ国もーーーーーーーー。

 

 

「ーーーー急げ、バサラ!!」

 

 火ノ国に訪れた星の花による破局。空を埋め尽くす壊獣の群れと、バサラ達〈天部〉が戦っている。

 

 既に華やかだった火ノ国の都は壊獣によってズタズタに破壊され、あちこちに炎が立ち込めている。

 

 それだけでは無く、大地を少しずつ()()()()が満たそうとしていた。

 

ーーーーその星々に呑み込まれた人は、光となって消滅していく。…アレこそが、人類を侵す魂の瘴気ーーーー〈星のセラム〉だ。

 

 助けたいが、近付けば自分達が星々に呑み込まれる為、どうする事も出来ない。

 

 あちこちから聞こえる悲鳴の中、この世の地獄と化した街をバサラ達は戦っていた。

 

「くそ…!!ダメだ!何処もかしこも、光に呑み込まれ始めてるッ!!」

 

 銃を手に持って応戦していたコクウが、顔を顰めて言い放つ。

 

「諦めんなコクウ!!…なんとかして、この状況を打開するんだ!!」

「バサラお兄さんの言う通りだよコクウ!!諦めるのは早いよ!!」

 

 バサラとトコヨは、コクウと共に壊獣と戦っていた。しかし、果てぬ壊獣の猛攻を前に、バサラ達はピンチに陥っていたのだ。

 

 

ーーーーとその時、そこに何人かの人たちがやって来た。

 

 

「お前ら若い見習いは下がってろ!!ーーーーココは我ら〈天部十二神将〉が引き受ける!!!」

 

 

…やって来たのは天部の幹部達。天部十二神将である。

 

 そのうちの1人、バサラを天部に引き込んだ男が、彼の得物である《斬魔刀ヴァジュラ》を掲げて叫んだ。

 

「天部の力、見せてやるぞ怪物どもッ!!ーーーーこの国を滅ぼさせはしねえッッッ!!!」

『おおおッッッ!!!!』

 

雄叫びと共に戦場へと駆けていく〈天部十二神将〉達。

 

「十二神将……!」

 

肩で息をしながら小さく呟くバサラ。

 

 壊獣の群れは恐ろしい力を持っている。だが、この国最強の力を持つ彼等ならきっとーーーー

 

 

 

ーーーーしかし、そんな期待は淡く打ち砕かれた。

 

 

 

「ーーーーッ?!2人ともッ!!!早く走って!!()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

トコヨが自分達の真横を指差して叫ぶ。

 

 見ると、人々を飲み込んで消していった星のセラムの光が、輝く津波になってバサラ達の元に押し寄せていた。

 

「「なっ!?」」

 

避けようにも、避けられない距離と範囲。

 

 

ーーーーそのまま、バサラ達3人は星のセラムの奔流に呑まれていくのだった…………

 

 

「うおおおおおおおッッッ?!?!」

 

 

自分の周りを、光が埋め尽くす。

 

 ただの光の筈なのに、バサラは海の波に揉まれたかのように地面に押し倒された。

 

 自分達の背後で、天部十二神将達が同じように光に呑まれて消滅していく。

 

 肉体が光となって消滅した後には、彼らの身につけていた衣服だけが残った。

 

(嘘だろーーーーーーーー)

 

 天部十二神将が、この国最強の兵士達が、あっさりと光に還ったのを見て、バサラは戦慄した。

 

自分もああなるのだろうか??

 

ーーーーそう思ったのも束の間、バサラの身体から力が抜けて来た。

 

 

(……あぁ。死ぬんだな…俺。皆んなと同じように…光になってーーーーーーーー)

 

 

…ここでバサラの意識は、()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

ーーーー目が覚めた。

 

 

 

「……青天井か。」

 

 

 仰向けになったまま、馬鹿馬鹿しいほど青い空を見上げてバサラは呟く。

 

「…………ココは…天国か?」

 

 ぼんやりと呟くバサラの耳に、側から聞き慣れた声が聞こえて来た。

 

「ーーーーいや。残念だが違うな。………地獄さ。」

「コクウ!?」

 

ガバッと起き上がるバサラ。

 

 

 

……起き上がって周りを見渡した時、バサラは心の底から戦慄した。

 

 

「……なんだコレ……。()()()()()()()()()…!」

 

 

ーーーーそう。見渡すばかりに広がっていたのは、真っ平らな世界。

 

 

 華やかな火ノ国の都の跡など何処にもなく、只々何もかもが薙ぎ払われた後の世界が広がっていたのだ。

 

 

壊獣達は、文字通りこの国を更地にしていった。

人の作り上げた物は、何もかも消え失せた。

 

ここに居るのは、バサラとコクウ2人だけーーーーーーーー

 

いや、もう1人いた筈だ。

 

 

「おい……トコヨは…?」

「……………。」

 

コクウは何も言わずにこちらを見た。

 

 その目の中から、一切の光が消え失せている事にバサラは気付く。

 

「…………見ろ。」

 

 コクウが、手に持っていた布切れをバサラに突き出した。

 

 それはただの布切れではなく、ちゃんとした女物の服でーーーーーーーー

 

 

 

「あ。」

 

 

 

…それが何であるか気付いた時、バサラの思考は止まった。

 

 

「………トコヨは…光になったよ。」

 

 

 コクウの声が力無く響く。…この、何もかも無くなった世界に。

 

「握った手が光になる瞬間を、そして光に還るアイツの顔を、俺は見た。………()()だ。ーーーーまた俺のすぐ側で、大事な人が死んでいったんだ……。」

「コクウ……。」

 

 腹が立つほど青い空の下で、コクウの周りだけ暗く濁っている様な気がして、バサラはそっと彼の側に歩み寄った。

 

「………トコヨは……そのーーーーーーーー」

 

 

…何を言えばいいか分からない。

 

 

ーーーーそんな時、ふと1年前にトコヨが自分に向けていったセリフが頭を横切った。

 

 

「……コクウ。…昔、トコヨがある事を言ってた。」

 

 バサラの声に、微かに顔を上げるコクウ。今の彼の心にどうか響く様、バサラは1年前にトコヨが自分に伝えた話を彼に伝えた。

 

 

 

「ーーーーーーーーそんな事…アイツがお前に……?」

 

 

 話が終わった後、コクウが唖然とした表情で小さく呟く。

バサラはそっと頷いた。

 

「あぁ。……だから、アイツの為にも俺達は先へ進まなきゃならねぇ。…未来を生きろ、とアイツは言ったんだ。」

ーーーーそう言いつつ、バサラは更地となった都を見渡す。

「ここから離れよう、コクウ。……なんで俺達だけが生き残ったのかは知らねぇが、生き残ってしまったからには先へ進まねぇと。」

「未来…………か。」

「あぁ。ーーーー行けるか?コクウ。…街の外に避難した人達が、どっかに避難してるかもしれない。……探そう。そして、次を考えるんだ。」

 

 

 それを聞いたコクウは、静かに頷いた。ーーーーだが、彼の瞳にはまだ闇が渦を巻いている事に、バサラは気付かなかったのだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

何も無くなった大地を、2人はトボトボと歩く。

 

 空には雲一つなく、透き通った空の青さが嫌でも目についた。

 

「みんな……皆んな…死んだんだ。光の波と、化け物に襲われて……」

「ーーーーしっかりしろコクウ…!ーーーー兎にも角にも…歩き続けるしかないんだ…!」

 

 力無く歩きながら、譫言の様に虚な目で呟くコクウを引っ張るようにしてバサラは歩き続けた。

 

ーーーーと、その時。

 

 

カラン………

 

 

「…あ?ーーーーコレは………。」

 

バサラの足が、何かを踏んだ。

…足を退けてみると、そこには一振りの太刀が落ちていた。

 

 そっと拾い上げると、見事な紋様が刻まれた鞘が太陽の光を浴びて美しく輝く。

 

バサラはソレに見覚えがあった。

 

「コレって……天部十二神将の……」

 

ーーーーソレは、バサラを天部に引き入れた男が持っていた火ノ国の国宝〈斬魔刀ヴァジュラ〉だったのだ。

 

「…って事は……此処で十二神将達は死んだのか……。」

 

 見渡しても、他に十二神将太刀の痕跡を示すものは何も残っていない。何故この太刀だけ残ったのか謎ではあるが、何か縁らしき物を感じてバサラはソレを持っていくことにした。

 

こうして、2人はまた歩き続ける。

 

 行く当ては無い。ーーーーただ、もしかしたら山の方に避難した人達が居るかもーーーーと言う希望的観測の元、2人は歩き続けた。

 

 

………そして2人が山に近づいてきた時、どこからともなく飛行機が立てる様な轟音が響いてきた。

 

 

「……?」

「ーーーーコレは……」

 

2人は空を見上げる。

 

 

ーーーーそこには、丸まった龍の刻印が刻まれた鋼色の戦闘機が飛んでいた。

 

 

ーーーーそして、此方に向かってきていたのだ。

 

「アレは……世界連邦政府の軍事機か……?」

 

 そう呟くバサラ。そして、彼の見立ては間違っていなかった。

 

 

『生存者を発見。ーーーーこれより回収する。』

 

 

 おそらく、生存者を探しに来たのだろう。ーーーー連邦の戦闘機はバサラ達に気付くと、ゆっくりと地上に舞い降り始めた。

 

ーーーーこれで助かった。……その時バサラ達はそう思ったし、実際その時は本当に助かった。

 

 

ーーーー但し一つ言っておくが、これは過去の話なのだ。

 

故に、これから先の時代に起こる事を思い出してほしい。

 

 未だ本人達に自覚は無いが、バサラ達は星のセラムに一度は呑まれ、瘴気から力を得て新人類となった。

 そんな新人類と化した人々へ連邦が何をしたか。……その結果、どんな悲劇が齎されたのかをーーーーーーーー。






バサラ過去編の前編が終了です。後編は次回。

……だいぶと改変しました。まぁ、バサラさんの世界観をネオの世界観にぶっ込んでる時点で、基礎設定改変祭りなんですけどネ。

原典には名前が登場しなかったコクウの幼馴染ですが、コッチでは名前を付けときました。

トコヨちゃんです。
元ネタはまんま『常世』の読み方から。なんの捻りもない()


◇◆◇


さて、ちょっと長くなりますが1つ宣伝と言い訳をさせて下さい。

私、1週間ほどコロナで倒れている時に何も書く事が出来ず、モチベが死ぬほど下がりました。
結果、この小説が書きにくくなり、リハビリの為に3ヶ月ぐらい前から妄想していたエヴァンゲリオンの二次創作を書いてみたんです。

そしたらそっちにハマっちゃったの()

モチベ回復のために描いた作品にモチベを吸われる…と言う本末転倒事案が発生し、気が付けば私はエヴァの二次創作を投稿していました。
(作者ページから飛んで見れます。良かったら覗いてみて下さい。)

……これからは、コレとエヴァの二刀流に暫くはなりそうです。1作品すらヒイヒイ言いながら書いてるのに、二刀流とか馬鹿です。

…どうから生暖かい目で見守って下さい。
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