東方紅妖記   作:くるくる雛

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皆さんどうもくるくる雛です
昼に投稿はした、だが夜にしないとは言ってない。
それではどうぞ。


番外編 フランと鍋月

 檻から解放されて三日後、そして幻想入りして一週間経った朝。

レミリアに腕前を買われ早速台所の一角を担うことになった鍋月は改めて使い終わった調理器具を洗いながら備品を確認していく。

備品は不足どころか材料さえ揃えば五つ星の料理人を5人招いても全員が一度に充分に腕を振るうことができるほどの揃いっぷりであった。

乾いたタオルで調理器具に付いた水分を徹底的に拭っていく。

すると周りの妖精の視線を感じる。

どうした鍋月が聞いたところ、さっと拙速に拭いあとは自然乾燥に任せるようだ。

ふと視線を出入り口に向けると他の妖精メイドとやり取りする咲夜がこちらを向いて口を開いたのが見えた。

 

「鍋月さん。お嬢様がお呼びに。食堂に出頭してください。」

 

「僕にですか?」

 

 コクリと頷くと咲夜は失礼しますと丁寧なお辞儀をして部屋を後にし料理の積まれたカートを押していった。

鍋月はカラカラと鳴る車輪の後をたどった。

 

 

 

 

 

「ごきげんよう。やっぱり料理の腕は並のメイドから逸脱して美味ね。」

 

 食後故だろうかナプキンで口周りを拭っていたレミリアは鍋月をまずは褒め称えた。

こうして誉めてもらえるのは初めてのことで、ほとんど感想は咲夜からの伝聞でしか聞けずそれ故新鮮味を帯びていた。

 

「満足いただき恐縮です。」

 

「それはそうと、一つ相談があるの。」

 

「何で?」

 

 ふと視線を外し食堂の出入り口であるはずの大きな扉を見ると扉を少しだけ開けてその隙間から二人のやり取りを見る金髪の少女の姿が見えた。

檻に放り込まれていた際に何度も訝しげにこちらを見ていた子だ。

「今日休暇を与えようかなと思って呼んだのよ。たまには人里でゆっくりしなさい。」

 

 そういうのは昨日の夜に言えよと内心つぶやくがそんな鍋月もお構いなしに話は進んでいく。

結果、主な内容は“私の代わりにフランと一緒に人里で遊んできて“と休暇とはかけ離れ、そしてどちらかというとゲームのボーナスステージのような雰囲気を帯びていた。

かつて戦果を上げに上げていたバトルジャンキーの軍人はその国の党首にもう休めと言われてもずっと前線いたのを椎唄から聞いていたが相手は髭の男性ではなく吸血鬼の美少女だ。

断ろうにも断れないし、断りたくもないという心情が彼の目からうかがえた。

 

「分かりました。」

 

「決まりね。ちょっと時間をもらうわ。その間に支度してて」

 

 レミリアは扉でこっそり見ていたフランを捕まえてはそのまま廊下に消えた。

 

 

 

 

 

「何するのー。」

 

「アイツが来てから人に興味持ってたわね。」

 

「確かにそうだけど。」

 

「人里に行きなさい。面白いものが見れるわ。」

 

「今日晴れてるじゃん。」

 

 レミリアはフランの最後の言葉を無視して重く威風堂々とした扉を押して開ける。

すると丁度入ってすぐの目の前にお目当ての魔法使いがいた。

 

「パチェ?暇?」

 

「珍しくね、今日は何?」

 

 ぱたんと本を閉じて笑うとレミリアの用件を聞いた。

 

「吸血鬼としての力を一時的になくすとかできない?」

 

「へっ?そんな魔法あるわけ…あ。そういえばあったわ!最近完全に安全が証明できて尚且つ人間になれる方法!!」

 

 目が輝きその旨をフランの右手を掴んでいるレミリアに伝える。

内容はレミリアですら理解できない程難しい無いようだったため取りあえず一定時間ーパチュリーが言うに12時間ーだけ人間として生きられて、それ以降は吸血鬼になるようだ。

 

「私じゃなくてフランがなるけど問題ないわね?」

 

「本人が人間になってみたかったらね。準備はすぐよ。」

 

 その言葉に嘘をつけないフランがぐぬぬと歯軋りさせるのを見てふっと肩をすくめて図書館の暗がりの中にパチュリーとレミリア、フランの陰は消えていった。

その後、少し広めの儀式の間のような広く荘厳な部屋でフランは楽しみと不安に心を動かされながらパチュリーの展開した魔法陣の中央に立つ。

 

「いい?」

 

 声も出ずただ頷いただけのフランを見るとパチュリーはぶつぶつと詠唱し始める。

すると魔法陣の青白い光は徐々に輝いていき、やがて魔法陣と同じくらいの光の柱がフランを包む。

光の柱は5秒と持たなかったが、パチュリーはフランの背中を見て、よしと頷いた。

よく見ると、不気味な羽は消えていていて、どこから見ても金色の髪を持つ可憐な異国の美少女になっていた。

 

「え?え?翼がない!?」

 

「落ち着いて、またポンって現れるから。」

 

 付け加えるようにパチュリーは窘めた。

その後落ち着いてレミリアも参加してこの魔法の効果についての話を言い聞かせた。

メリットは徹頭徹尾、正真正銘の人間になれて、太陽の下でも行動が可能になる。

デメリットは人間の間吸血鬼特有の能力ー飛行能力含むーが使用できなくなること、時間制限があることだけだ。

パチュリー曰く、この魔法の存在は大分前から吸血鬼の奇襲に用いられていたが、そんなことする必要性がなくなったために廃れていき、やがて本の中の魔法になってしまったという。

 

「流石じゃないパチュ。フラン、支度よ?」

 

「お姉様は行かないの?」

 

「行かないわ。ちょっと用事があるの。」

 

「こーかいしても知らないよー。さくやぁ!」

 

 そう言ってべーと舌を出して見せて廊下に出ておめかししにまっしぐらに走っていった。

 

 

 

 

 

もうそろそろで約束の時間だ。

鍋月は支給された金色の懐中時計をまじまじと見ていた。

今彼の服装は、黒いチノパンに白いデニム生地のジャケットであり、ジャケットの胸元からは赤いインナーシャツが垣間見える。

フランとのコンタクトは僅かながらあったものの、まだ会話はしていない。

あまり興味を持たれなかったということなのだろうと合理化した。

 

「遅くなって申し訳ございません。」

 

「大丈夫ですよ。」

 

 すると咲夜がフランを連れて現れる。

約束の時間は護れているからまあいいかと鍋月は気楽に話す。

そして連れていたフランに目を向ける。

奇妙な禍々しさと不気味さを放っていた翼はなくなっており、愛くるしい美少女に進化していた。

 

「アンタが連れて行ってくれるのね、よろしく。」

 

 腕組みをしてフランは口を開く。

突っ慳貪になるのも無理はない、もしかしたら、本来レミリアと行きたかったから心の何処かでべそをかいているのでは、そう思えるようにも感じた。

 

「よろしくお願いします。」

 

「じゃあ、行くわよ。咲夜、行ってくるよ。」

 

「行ってらっしゃいませ。」

 

 言葉に棘があるフランが先に紅魔館の扉を開けて出て行く。

それを追うように鍋月も出て行った。

 

 

 

 

 日差しがこれでもかと地面を照らしてくる中、フランは久しぶりに出てきた外を見回した。

木々が生い茂り、道端では花が健気に咲いていた。

前に出てきたのは冬の夜であったため虚しさに駆られたが、今回は違った。

 

「こんなに綺麗だったんだ。」

 

 ふと言葉を漏らし目を輝かせる。

吸血鬼であるが故に天敵となっていた太陽をもものともしない言いようであった。

改めてパチュリーの魔法の凄さをフランは体感した。

 

「でも何でアンタなのよ。」

 

 胸に突き刺し、抉るようにフランは鍋月に言った。

確かにレミリアは用事であり行けないのは分かる。

でも何で咲夜とじゃないの?おかしいじゃん?と訴えてくるような視線を向けつつ。

 

「人里に詳しそうだからってお嬢様が。」

 

 その問いかけに鍋月は肩を竦めて答えた。

するとフランはぐぬぬと歯軋りした。

よほどレミリアと行きたかったようにも思え、気まずささえ感じた。

 

「そんなことより、ほら、見えてきましたよ。人里。」

 

 気まずさをごまかすためそんなことを言って人里を指差す。

人里はどこか懐かしい外の世界の田舎を彷彿させる建物が並んでいて、その規模もなかなかの広さを持っていた。

通りは人で賑わっているのが、鍋月達のいる小高い丘からでも分かった。

 

「ふーん、そこそこ広いのね。行くよ!」

 

「えっあ、待ってください!」

 

 突然フランが人里に向かって駆け出した。それを鍋月が追いかけていった。

 

 

 

 

 

 人里は道で見たものより大きく、昼間ということもあり、賑わっていた。

鍋月にとっては、これで二度目の来訪になるが、そのときは紅魔館に行くといって余裕の顔すら見せなかった。

それ故に改めて人里をじっくり見れた。

 

「おや、君たちはここらで見ない顔だな。最近こっちにきた新入りか?」

 

 するとほんのりと菫色のかかった長髪を腰まで長く垂らした女性が目の前に現れた。

新入りとは何のことかと鍋月は首を傾げた。

 

「あ、すまない自己紹介が遅れたな。私は、寺子屋と自警団を兼任している上白沢慧音だ。」

 

「あ、あの僕達観光客なんですけど。お勧めの場所とか、あります?」

 

 厳密には観光客ではないが、もしここで紅魔の人間であることをバラしてしまうと何が起こるか想像が付かないためである。

人里での紅魔館の良い評価も悪い評価も鍋月は聞いたことがないからだ。

 

「お勧めか…週に一度あの家の隣で人形劇をやっていてな今日はその人形劇の日なんだ。ここ人里の名物の一つでもあるから、見ておいて損はないと思うぞ。」

 

「そうですか。ありがとうございます。」

 

「今日は寺子屋が休みだから人里をうろついている。もし何か質問があったら一声かけてくれ。」

 

 それでじゃあと慧音はお辞儀をして人混みの中に紛れていく。

 

「さて、お嬢様。人形のやか「あの絵本欲しいなぁ。」

 

 話を聞いていたのかそうでなかったのか分からないがフランは近くの本屋に目を輝かせていた。

そう言えばフランはあまり遊ぶものとか読み物は持ってなかったかなと普段の振る舞いから推測する。

遊び盛りの年齢で遊び道具も遊び相手がいないのは流石にと思い、

 

「分かりました、一度寄ってからにしましょう。」

 

 鍋月はフランに微笑みかけて言い聞かせる。

するとフランの顔はぱあっと笑顔になり、目の輝きが一層増した。

鍋月は鍋月なりに用事があったから好都合であった。

 

「いいの!?行こ行こ!!」

 

「はい、お嬢様。」

 

 本屋の品揃えは中々豊富だが、本自体はほぼ手書きである。

この時代の外の世界を考えてみれば普通なのだが、それより、活字印刷の技術が無いのに本の量と個々の価格が常軌を逸していた。

というのも、中世のころ、本は貴重であったため高価で貴重品であったためである。

 

「料理の本、料理の本。」

 

 そう言いつつ棚と睨みを利かせていた鍋月にフランが彼の足をつついて振り向かせようとしている。

鍋月はそれに気づいて一冊の分厚い本を手に取り振り返る。

 

「決まりましたか?」

 

「本見つかったよ。」

 

 そう言ってフランは抱えていた三冊の本を出した。

三冊なのは鍋月が予め三冊までなら買ってあげると釘を刺していたためである。

三冊はどれも絵本で、童話に似たり寄ったりのものであった。

少なくとも、吸血鬼が悪役として出ていないもの選んでいた。

目にかからなかったのがと疑ったが彼女の微笑ましい雰囲気から察した。

 

「じゃあ、お金を払わないと。」

 

「おかね?」

 

 それって何?と言いたげにフランは問いかけてくる。そう言えば世間知らずだったな

 

「価値を具体的に表すものですね。これがあればある分の価値を持つものを交換してもらえます。もし払いすぎた場合はお金は戻ってきますから、大丈夫ですよ。」

 

「じゃあ一つ聞いていい?」

 

「何です?」

 

「ヒトの価値ってこの本何個分?」

 

 えっと鍋月は狼狽える。

まさかこんな質問がフランから飛んでくるとは思ってもいなかった。

しかし、元々人を殺めることに抵抗のないフランだ。

ヒトの価値を知らなくて当然だと思う。

しかし、いくら何でも哲学的過ぎやしないかと心の何処かで思っていた鍋月は苦し紛れに言う。

 

「価値は…」

 

「うん。」

 

 興味津々にフランは見つめてくる。

ここで言い逃れをしたら不味いと思い、ひたすらに記憶と経験から急拵えでかき集めていく。

 

「一人一人差はあるけど計れないほどに高い、かな。でも、捉え方は自由ですよ。」

 

「うーん、難しいなぁ。」

 

 頭上にクエスチョンマークを浮かべているフランは言葉を漏らした。

たとえ素人でも哲学者でも、さらには吸血鬼であってもヒトの価値は分からないであろう。

 

「じゃあ、買ってきますから待っててください。」

 

 鍋月はそう言って店員に会計を依頼した。

それは案外スムーズに済み、本を布製の手提げ鞄に入れて貰った。

鍋月は手提げ鞄を受け取るとフランを呼んで、劇に向かっていった。

 

 

 

 

 

 青空の映えわたる会場には屋根は無かった。

それでもちゃんと舞台があり、来客用の長椅子もあった。

鍋月はフランに席を譲り、その隣に鍋月が座った。

フランの気を遣って大丈夫ですか?と問いかけると気丈にフランは“大丈夫よ、咲夜と同じくらい心配性ね“と言われた。

そして親子連れや子供達、さらには野次のように集まってきた男達まで現れた。

 

「ところで何が始まるの?」

 

「劇ですよ。確か、冒険活劇と言ってたはずです。」

 

 そういった矢先、舞台にこれまた金髪の少女が現れる。

人里の日本的なイメージからはかなりかけ離れていた。

 

「お忙しい中、本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。私、司会進行を勤めさせていただきます。アリス・マーガロイドでございます。以後よろしくお願いします。」

 

 そして人々の歓迎の意を示す拍手が上がる。

それだけでもこの人形劇がどれほど人気なのかが伺えた。

 

「それでは、始めます。」

 

 拍手が止み静寂に包まれるとそう言ってアリスはすっと人形を取り出し、劇が始まった。

人形劇の内容は、少しアレンジされた桃太郎という感じであった。

村を襲っていた悪霊達を退治しに一人の少年が悪霊の根城に道中で仲間を集めながら旅をする。

そこまではだいたい桃太郎と同じで合っていた。それでも、外の世界のそれとは違い、人形が生きているように見えてダイナミックな動きをしていた。

そして悪霊の根城に着くと少年は仲間と共に悪霊を退治していく。

そしてここからが違った。

少年は悪霊に対してもう村を襲わないことを約束させ、もしよかったら悪霊を歓迎すると言った。

何故だと悪霊は乞う。

少年はこう答えた。

 

「争いがあるのは憎しみや私利私欲のせいだ。君たちはそのせいで悪霊になったのかどうかは僕にはわからない、でも心を開いて接したら分かり合える。そう信じているからだ。」

 

少年の一声はおぉと鍋月を含む観客を圧倒した。

そのとき、黒い布を被っていた悪霊は白く染まっていった。

そのあと少年は宝物も取らずに幽霊と共に村に帰り村人に事情を説明し、和解した。

 

「めでたし、めでたし。」

 

そう言うとスタンディングオベーションが巻き起こり、誰が覚えていたのかハイファイブまで鳴った。

 

「よい子にしていた子供達は前に来てね!ご褒美を上げるよ!」

 

 アリスが籠を出して爽やかな声で言うと子供達が前に一列に並んでいった。

何かなと気になったフランはさり気なくその中に加わった。

そして帰ってきたフランを見た。

手には桃色の飴玉があった。

 

「綺麗だけど。何これ?」

 

 フランは鍋月に問いかけた。

そう言えば紅魔館で飴を舐めている面々はいなかったなと回想した。

 

「それは飴玉というお菓子です。」

 

「お菓子?」

 

 そう言ってフランはすぐさま飴玉をひょいと口の中に放り込み、鍋月のあっという声に止まることなくかみ砕こうとするが、あまりにも硬く、ゴリという音が響いた。

 

「固い…本当にお菓子?」

 

「それは舐めるものですよ。」

 

「本当に?」

 

 そう言ってフランは口の中でコロコロと飴玉を転がす。

するとすぐにフランの顔は喜色満面に包まれた。

 

「甘くておいしい!!」

 

「でしょう?帰りに売ってたら買ってあげますよ。」

 

「いいの!?」

 

「はい。」

 

 やったーと笑顔になるフランはさらに質問を投げかける。

 

「ねぇねぇ、あのお人形って貰えるのかな?」

 

「あの人形ですか?」

 

「うん。」

 

 流石に商売道具を売ってくれそうにはなさそうだなと鍋月は思った。

彼にとっては商売道具は人生を共にする仲間のようなものでもある。

それを易々と売ってくれるわけ無いのは知っていたが、フランの笑顔に屈して、決心した。

 

「ちょっとここで待ってていただけますか?」

 

「いいよ!」

 

 にっと笑うと可愛らしくスカートを抑えて足をぷらぷらとさせていた。

それを背に鍋月はアリスを呼び止めて歩いていった。

 

「ふふふ、また可愛い嬢ちゃんだぜ。」

 

 フランの後ろにいた輩達は怪しく呟いた。

 

 

 

 

 

「あの、アリスさん?」

 

 そう言うとアリスは振り向き、首を傾げる。

 

「どなたでしょうか?人里ではあまり見ない顔ですね。」

 

「始めまして。自分は、鍋月守同と言います。ちょっとよろしいでしょうか?」

 

 早速交渉に入る。

内容は言わずもがな、人形を譲ってくれないかという話だ。

その答えにアリスはあぁそういうことですか、と納得すると言葉をつなげる。

 

「レプリカの人形なら売ってますので、お買い上げになられますか?」

 

 意外な答えに鍋月は驚く。その様子を見てアリスは言葉を連ねる。

 

「いるんですよ。人形が欲しいっていう方々。そういう方々は申し訳ありませんがレプリカで我慢してもらっているんです。いいですか?」

 

 そう言ってレプリカの人形を見せるように抱きかかえる。

今はとにかく人形が手にはいるだけでも感無量だ。

 

「はい!お願いします!」

 

 交渉が成立した途端、フランのいた観客席が騒がしくなる。

少しうつけな雰囲気を持つ男達が騒いでいた。

 

「またあの方々ですか。」

 

 溜め息混じりに呟いたアリスに鍋月は問いかける。

彼女曰くいつも自分の劇にいちゃもんつけたり観客にちょっかいを出してくる男達のようだ。

 

「なんでまた。」

 

「たぶん嫉妬です。」

 

 するとその男達の中に嫌がるフランを見つけた。

攫おうとしているのは火を見るより明らかであった。

その途端、自身の心は急に焦りだした。

仮に今人の姿をしているとはいえ吸血鬼だ。

それが明るみに出たら目も当てられない。

それに人になっているのが祟っていつもの力が出せないでいる。

このまま攫われたらまずい。

そう確信し、アリスに叫んだ。

 

「俺の連れが危ない!自警団を呼んできてくれ!早く!」

 

「何ですって!?」

 

 アリスはその意味を早急に理解しては何か人形を飛ばすのを見る間もなく、鍋月は男達を追った。

 

 

 

 

 

 フランは瞬く間に男達に囲まれていた。

男達の目線はひどくやらしく、優しさの欠片もない下心が伴っていた。

顔を不機嫌そうにさせてフランは言った。

 

 

「何?」

 

「お嬢ちゃん、俺たちと遊ばない?」

 

「嫌、アイツといた方が楽しいもん。」

 

「アイツより俺たちの方が遊ぶのが上手だよ。」

 

「すぐに忘れちまうって。楽しすぎてね。」

 

 そう言って刈り上げた男がフランの右手首を掴む。

こんなものと振り払おうとする。

しかし、悲しいかな、今はただの人間だ、吸血鬼のときの馬鹿力も壊すことも叶わない。

ただ虚しくあったのは絶望的な力の差と人間に対する負の感情であった。

 

「ほら、早くこい!」

 

「嫌だ!離して!」

 

「はなさねぇよ!」

 

 こんなに騒がしくしているのに、周りの野次はただ見てるだけ、やっぱり物語の勇者は夢の中にしかいなかった、そう確信した。

それでもまだアイツに期待している自分の心情はより複雑になっていった。

どうしてこうも人という物は違うものかと心から嘆いた。

 

 助けて、そう願ったまま男達に引きずられるようになってしまっていたその刹那、鈍い音がフランを掴んでいた男の頬に襲いかかりそのまま気絶した。

 

「何だテメェ!?」

 

「人が楽しんでるときにチャチを入れやがって!只で済むと思ってんのか!?」

 

「うるせぇ、少し黙ってろ。」

 

 自身の拳で人を初めて殴った。

その事実を再認識するとふうとため息を吐き出し、自身の背中からおどろおどろしく、恐れるべきもの、殺意と揶揄されても可笑しくない雰囲気を醸し出す。

それは野次にまで及び、一目散にそこから逃げ出そうとするもの、その場で固まるものまでいた。

それも気に咎めずフランをそっと引き寄せ話す。

 

「大丈夫ですか?」

 

「遅いじゃない、馬鹿。」

 

 フランは涙を浮かべた。

出る言葉は雰囲気と奇妙に合ってしまい、まるで雛鳥を失った親鳥のように激昂していた。

そして身体に謎の自信のようなものが巡り巡っていく。

 

「すいませんお嬢様、それとあと少し用ができました。」

 

 無意識に展開された殺意の波動は強まったまま、鍋月は怒り、拳を固めた。

それに恐れおののき部下の一人がつぶやく。

 

「兄貴!まさかこいつがこの小娘の言う『アイツ』なのか!?」

 

「ふ、ふん!こんなの見掛け倒しだ!束でかかるぞ!」

 

「あいよ!」

 

 すると男達は一斉に鍋月にかかる。

多勢に無勢、鍋月は何の抵抗もできず男達にやられると思いフランは叫んだ。

 

「逃げて!」

 

 だがそのフランの願いも無視し鍋月は男達相手に戦うことを決意した。

相手の数は10人。

数的には圧倒的に不利であるし、いかつい体つきのした人々だ。

質的に見ても難しいだろう。

 

「お嬢様、すいませんがその命令はきけません、少し離れていてください。…てめえらお嬢様に涙を流させた罪は重いぞ。覚悟はできて…いやする必要もねぇ!」

 

 すると鍋月は咄嗟に左に飛び、左端の男に手を組んで作った拳を振り下ろす。

それをもろに項に受けた男は地面にたたきつけられて伸びてしまう。

それに気づいた隣の男は喚きながら持ってた材木を横に凪ぐ。

しかし、鍋月はそれをこれ見よがしと首尾良く材木を分捕り持ち主の後頭部を殴る、そのとき勢い余って割れてしまい、それを蹴って誰も他の男のところに飛ばす。

 

「袋叩きだ!やってしまえ!!」

 

 男達は咄嗟に包囲した。

連携の取れているところ、元々山賊か何かだったのだろう。

しかし、鍋月はそれも気にしなかった。

一気に男達が各々に蹴りや突き、さらには材木を振りかざす。

流石にマジギレの鍋月でも避けられず、ダメージを受けてしまう。

しかし、彼の中に巡るアドレナリンのおかげで痛覚は馬鹿になり、服が傷と泥に、肌は傷と血にまみれていく体を気にも咎めず、一人、また一人と気絶させ、地に沈めていった。

やがて、あと二人になった頃にはもう鍋月は何故立っていられるというような傷だらけの姿で息を荒げることなく立っていた。

 

「この!化け物が!」

 

「化け物だからどうした。お前等の方が人の皮を被った化け物だろう?」

 

 息を荒げ血に染まった痰を吐き捨てる。

すると鍋月は突然苦痛に苛まれ、ひざを地面に突いて額を押さえ混乱し始める。

アドレナリンが切れたのだろう。

 

「何だが知らないが、神は俺を選んだようだな。行くぞ!」

 

「おう!」

 

 その頃にはもう頭痛はどこに行ったのか分からないが、引いていた。

しかし、肝心の体は言うことを聞かなくなっていた。

流石に限界か。でもよくやったよ俺。

そんな自分の声が聞こえてきた。

ただ見ることしか叶わなくなっていた。

動こうとしたら、その次は絶対に起き上がれないだろう。

そのとき、フランは二人の浮浪者の目の前に立ちはだかった、このままでは材木の餌食になってしまう。

 

「お嬢様!?」

 

「大丈夫、もうカッコつけなくていいよ。カッコつけなくていいから。」

 

 こんな状況にも関わらず、その言葉に少し嬉しさを感じた。

しかし、甘んじてはいられない。

もしここでフランの言葉を受け入れたらこれまで何のために叩かれていたのだろう。

 

「二人仲良くオネンネしな!」

 

「させるか!」

 

 残った力を振り絞り、フランを後ろに引っ張り、自らがフランの盾になる。

 

「馬鹿が!自分からやられに行きやがった!」

 

「やっぱり復讐の今ほど楽しいことはないなぁ!!」

 

 今になって、理由は違えどやっぱり自分の扱いは変わらないなと呪った。

何度も叩かれてきた背中は不思議と痛みを伝えなかった。

すると何か物凄い鈍い音が首領の額を襲う。

 

「そぉい!」

 

「なっ!なんだお前!自警団か!?」

 

 遅れて現れた慧音は名乗りもせずに相方にもお得意の頭突きを入れる。

 

「私の役職が分かっていたら結構だ。」

 

 地面にだらしなく伸びた男に吐き捨てるように言った。

ふうと息を吐いて慧音は部下の勇ましい自警団員が意識を失った男達を縄で縛り付けて連れて行くのを目で追っていた。

少し離れたところで鍋月は仰向けに倒れふうと息を吐きリラックスしていた。

まだ動こうにも動けないほど疲労が溜まっていたのだ。

フランは走って近寄り手を握り涙を流し叫んだ。

 

「馬鹿!何でこんな状態で私を庇ったのよ!」

 

「英雄はいつも馬鹿ですから。大丈夫です、僕は死にませんから。それに、傷は男の勲章って言いますしね。」

 

 得意げに鍋月は冗談をかましてにっと笑う。

しかしフランの涙は止まることはなかった。

むしろ増すばかりだ。

 

「でも、でも!何で!?」

 

 フランは泣きわめいてうずくまり、

鍋月の手を涙で濡らしていた。

そこへ慧音が駆けつけてきた。

 

「大丈夫か?」

 

「まったく、遅いですよ。ほとんど片付けてしまいましたから。」

 

「本当にすまない。だか、お手柄だ。」

 

「何を。」

 

 傷だらけの鍋月からしたら今お手柄と言われても皮肉にしか聞こえなかったため、つっかかったが、すぐにむせてしまい、言葉が続かない。

慧音は水筒を取り出し鍋月に手渡し、言葉を続けた。

 

「あの男達をようやく捕まえられそうだ。感謝する。」

 

「そーですか…」

 

 ぶっきらぼうになりながらも鍋月は水筒の水を一口飲んで返した。

すると疲労はみるみるうちに抜けていった。

フランは言葉も出さず、ただ泣き疲れて可愛らしく胸の上ですーぴーと寝ていた。

 

「これは今から治療を受けに行った方がいいな。」

 

「大丈夫、自然治癒に任せますから。」

 

 そう言ってゆっくりと立ち上がり、寝ているフランを背負い、慧音の制止の声も聞かず大事にならない内にそそくさとその場を去った。

その後入れ替わるように烏天狗の記者が現れて取材をし、その号外で鍋月の存在がほぼ英雄のような形で人里に知れ渡ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 寝ているフランを背負いつつ団子屋とアクセサリーを売ってた店で紅魔館の面々にちょっとした手土産を買ってから帰路に立つ頃には既に日が西に沈む頃合いだった。

夕暮れの人里はまた美しく、溜息の出るほどノスタルジックであった。

鍋月は眠っているフランを背負って紅魔館への道を歩いていた。

歩いてもらうより、こうして背負っていた方が自分としては嬉しかった。

幼い娘を背負う父親の感情を実感すると歩みを強めた。

そのとき、フランは寝ぼけ眼で起きては目の前の広く頼もしい背中に目を奪われた。

まるで幾度となく戦火をくぐり抜け、強さが実証された盾。

そんな背中であった。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

 

「あ、お嬢様、起きていたのですか?」

 

 フランはその背中に問いかけるとその背中はそっと優しく答えた。

鍋月はふと思い出したように人形を手渡す。

あの悪霊をも助けた少年の人形であった。

 

「買っておきましたよ。」

 

「ありがとう!ねぇ、何個か質問があるんだけどいい?」

 

 フランは喜んで人形を片手で抱えると背中にしがみついて問いかける。

 

「構いませんよ。」

 

「アンタじゃなくて、お兄ちゃんって呼んで良いかな?私をフランちゃんって呼んでも、気兼ねなくタメ口で話していいから。というか、そうしてもらうから。」

 

 鍋月は破顔して頬を真っ赤に染めた。

個人的にはアンタ呼ばわりよりお兄ちゃんと呼んでくれた方が嬉しい。

否、本望だったが、いきなりお兄ちゃんとなるのは流石に性急過ぎやしないかと思ったが本人が許可するどころか、向こうから許可を乞うてきている。

それにたいする答えは提案されたときから決まっていた。

 

「勿論です…勿論さ。フランちゃん。」

 

 群青に染まっていく夜空には星が瞬き始めていた。




1万文字を超える今回の話のご愛読ありがとうございましたー。
作品が始まる一週間前の話ですが、番外編扱いにしました
今回は第三編は出来上がってるけど第四編が詰まってるという理由とこちらの事情により投稿しました。
それでは皆様また次回本編にてお会いしましょう。
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