今回は久しぶりに料理回です。
それではどうぞ。
日が暮れて夜を迎えた守矢神社の屋敷の台所、性別関係無しに久しぶりの外来人で張り切っている早苗は精一杯腕を振るっていた。
が、今回の料理はここ幻想郷の一部の者しか知り得ない外の料理であったため、再現しようと奮闘するが故に不慣れな作業は困難を極めていた。
この地域とは違う材料、違う方法で作った真っ直ぐで黄色く細長い麺の入った木箱はまだ棚の中で寝て、玉葱や、肉は河童に頂いた冷蔵庫の中に切られずに待っている。
それもそのはず、麺に絡める赤い餡に今一つ不足感があり、満足できないのだ。
「うぅ、難しいです。」
「ここは台所かな。あ。」
ふうと壁に持たれると突然鍋月が引き戸を開けて台所に顔を出す。
厨房は明らかに一世紀前の外の世界の庶民の台所と瓜二つであった。
そこであわあわと慌てふためく早苗に気が付いた。
「な、な、鍋月さん!どうして厨房に入ってくるのですか!!」
「え、駄目かい?」
鍋月は悪気もなく首を傾げる。
それもそのはず、彼は料理長なのだからあまり厨房に入ることに気を咎めることは無かった。
しかしそれを頑なに早苗が拒む。
「駄目ですよ!お客様らしく待っててください!楽しみが減りますよ!」
そこで早苗の言いたいことを鍋月は理解し、その意見に大いに共感した。
自分が熱心にやっていることに首を突っ込まれたら迷惑きわまりない、さらにそこで自分のやり方を押し付けて来たら邪魔のレッテルを貼られること間違いないだろう。
それを理解しすんなりと踵を返す。
「じゃ、楽しみにしてるからね。」
「あっ、鍋月…さん、ちょっと宜しいでしょうか?」
戸を閉め切る前に鍋月が振り返って早苗を見る。
戸を挟んでいるとはいえ近く感じた。
身長は霊夢や魔理沙と大差なく、鍋月の首辺りまでしかなかった。
それ故にたかが身長で可愛さを感じてしまい、無意味なときめきが鍋月に降りかかった。
「何だい?」
「その、“ナポリタン“の餡の味を見てほしいのですが。」
体格差もあり、鍋月の態度に多少たじろぐものの、彼女の視線はあちらこちらへ向けられ、不安で勇気を振り絞ってる様が伺える。
もし断られたらどうしよう。
嘘偽りない本心でそう悩んでいるようにも見えた。
「餡…あ、ソースを和訳したらそうなるよな。いいぞ。」
すると鍋月は踵を返して再び台所に踏み入ろうと戸に手をかけた途端、早苗に手を引かれる。
そして壁に押し付けられる。
その気になれば押し退けることも余裕なのだが、不可抗力というべきものを感じ、避けられなかった。
「ありがとうございます!ですが、内緒にしてくださいよ?」
「大丈夫だって。さてと。」
すると鍋月は竹のスプーンで餡を掬い取る。
餡の中身は何も具が無く、ケチャップのようなとろみを持っていた。
鍋月としてはこれだけでも行ける気がして、口に含むと和風ケチャップそのものであった。
それ故に何が足りなく、何を加えるべきかが理解できた。
「味噌はあるか?」
「味噌?これは洋食ですよね?」
「知らないのか?和製だぞ、ナポリタンは。」
味噌を出してきた早苗は驚いた。
ナポリタンという名前こそ洋食そのものだが開発経緯が外の世界の日本という国のとある会社の食堂で考案されたという記録が残っている、言わばなんちゃって洋食なのである。
へえと呆気にとられる早苗をよそに味噌の入った桶の蓋を開ける。
中身は俗に赤味噌と呼ばれる類のものであった。
それをへらを用いて目分量ですくい取り、器を移して、それを溶いて餡に流して混ぜていく。
そして餡を別の小皿に分けて味を確かめる。
トマトの酸味に味噌の深いコクが加わり、旨味の厚みが増したことを確信した。
「この位かな。試してくれ。」
「は、はい。」
ぺろと小皿の餡をなめると先ほどとの味の変貌に驚いた。
まさかこの組み合わせでこんなに変わってくるものなんだ、そういう雰囲気が周囲に伝わっていて、鍋月もそれを確信していた。
「すごいコクじゃありませんか…美味しいです。」
「だろ?それじゃあ俺はこの辺で。」
「あの、ついでで申し訳ございませんが、料理について教えてくださいませんか?たとえばこう、野菜の切り方とか。」
その後、夕食作りを兼ねて料理教室紛いのことをやらされたのは言うまでも無く、その様子を霊夢達に加えて早苗が仕えている神様達にまで見られていたのに早苗が気付いたのは夕飯時だったそうな。
その話のネタもあって、更に会話は途切れることは無かった。
「鍋月、お前よくあそこまで熱心に教えるようになったな。」
麦茶をあたかも酒をすするように飲んでいる椎唄が言う。
席の配置は鍋月と椎唄が長机を挟んで向かい合うように座り、鍋月の左に雛、右に早苗、椎唄の右に魔理沙、左に霊夢であった。
幸か不幸か今日は用事があるらしく先程料理教室を覗いていた神々は物惜しげそうにその場を去っていったと早苗は話してくれていた。
「そりゃ、なぁ。」
「料理教室開けばいいんじゃねえか?」
「悪くないが、今は紅魔館の料理長が安定してるからいい。」
「それもそうか。話は変わるがナポリタン旨いな。」
「東風谷さんは素質がいいからな。」
「いえいえ、鍋月さんの指導のお陰ですよ。」
互いに謙遜しあい会話を交わす外来人二人と現人神一柱のいる一方、机の上に置かれてある置いてけぼりになっていた霊夢と魔理沙は目の前の麺の炒めものをみて色々と物議をかましていた。
「魔理沙、これどういう料理?」
「知るか、外の世界の料理だろ?」
「でも美味しそうな見た目してるのよね、ちょっと試食してみて。」
「何でお前の毒味役受けないといけないんだよ。」
「何で危ない料理扱いされてるんですか!?」
「結構いけるわ。」
早苗の突っ込みを押しのけてそう二人に切り出したのは箸を用いてナポリタンを食べる雛であった。
場はちゃんと弁えてる故か麺をくわえてすするという異国の地では御法度となっている動作を抑えつつも。
「マジか!?」
驚く魔理沙をよそに霊夢が麺を箸で挟んで口に運ぶ。
すると顔は一気に喜色満面になる。
「こんなの初めてよ、魔理沙もほら。」
「そんなにか?」
そういって勧められた魔理沙もまた口の中に短めのナポリタンの麺を放り込む。
すると目が輝くように見開いては驚き
「外の世界の料理も悪くないな。」
「そうでしょう?あ、ちょっと待っててください。」
ふふと向かい側の早苗が微笑んでは席を離れる。
これはしてやられたなと魔理沙があちゃーと額を押さえているのを霊夢がなにやってるのと言いたげな目で見る。
「嫌な予感がするわ。」
霊夢の第六感は奇しくも当たったのか、早苗が両手いっぱいに抱えてきたのは一升瓶であった。
ちなみに、椎唄も鍋月も明日地霊殿に赴く旨はまだ話してなかったようだ。
「さて、ぱーっとやりましょう!!」
毎度のごとく読んでいただきありがとうございます。
早苗さんにナポリタンを作らせたのは単純に味噌を使った奇抜な物を作らせたかったからです。
長野=信州味噌というイメージがあったので。
それと作品中でつくったものは実際に試しております、オムライスの時にも味噌を混ぜると美味しいですよ。
それでは今回はこれまで。