オリジムシ・ヒンナヒンナ   作:ヤナ麻呂

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前書きに間違って書いちゃった…。



二話 母

ミーシャの家は大通りに面した形であった。しかし他の家に比べるとあまり綺麗とは言えない状態だった。

 

「さぁ入ってスギモトさん、私はお母さんに今日あったことを話してくるから」

 

「お邪魔しま〜す…」

 

ミーシャの家は窓が割れ内側に細かいガラスの破片が残っている。

 

「(これは外から割られたのか…?)」

 

「スギモトさーんお母さんが挨拶したいからこっちに来てくれないかだってさ」

 

「はーい」

 

杉元がドアを開けるとミーシャに似た髪の長い女性がベッドに寝ていた。

 

「初めまして杉元佐一です。娘さんには色々とお世話になって…」

 

「いえいえ此方こそ娘を家まで届けて下さって…ミーシャの母のマーシャと申します」

 

「キィッ!!」

 

「まぁ!!貴方がスギモトさんのちっちゃなお友達ね」

 

「コイツはインポちゃんって言います。顎の所撫でると喜びますよ」

 

マーシャはインポちゃんを撫でながらミーシャの方をジッと見るとニヤリと笑い

 

「それにしてもミーシャったら男性の方を家に連れ込むなんてしかもこんなイイ男を…」

 

ミーシャは顔を真っ赤にして

 

「スギモトさんはそんなんじゃないから!!初対面だもん。スギモトさん風邪引いちゃうから早く服脱いで!!」

 

ミーシャに押し出され部屋から出るときにマーシャが杉元に

 

「スギモトさん…お話したいことがあるので着替えたらもう一度部屋に来て頂けませんか?」

 

            ∶

            ∶

 

「もうっ!!お母さんったらすぐあんなこと言って私が前学校いけてたときに男の子と遊んでた時も同じ事言ってからかってくるんだよ」

 

「仲良さそうじゃないか。良いことだと思うよ」

 

「それはそうだけど…スギモトさん服のサイズ合う?」

 

「あぁピッタリだ。ありがとう」

 

「それじゃあ私買い物行ってくるからお母さんの事よろしくね」

 

「いってらっしゃーい」

 

ミーシャが家を出ていくのを見送ると杉元はマーシャの部屋の前に立ちノックをする。

 

「どうぞ空いてます。そんなに気を使わなさらなくても結構ですよ」

 

マーシャはベッドに寝たまま杉元を迎える。

 

「まずはスギモトさん…ありがとうございましたあの子を家まで無事に送り届けてくださって」

 

「いやいやむしろこっちが助けてもらったというか…立派な娘さんですよ」

 

「そう言って頂けると…本当に私達には過ぎた娘です」

 

マーシャが枕元にあった写真立てを手に取る。そこには子供たちを中心にした四人家族が笑顔で写っていた。

 

「大体の事情はミーシャが話したとおりです。…下の子はアレックスと言います。二週間前に感染が発覚し連れて行かれました。この怪我はその時のものです」

 

「怪我の具合はどのくらいなんだい?」

 

「少々打ちどころが悪かったみたいで…自力で歩くのは難しいかと…」

 

「ここの官憲ってのは一般人にも容赦ないんだな」

 

「憲兵だけじゃありませんよ。ここでは基本的に感染者に人権はありません。それは感染者を庇った人も同じです。大抵は白い目で見られますが中には家に火をつけられたところもあるみたいです」

 

「そうか…家の窓が割れてたのはそういうことか…」

 

「えぇ…」

 

「アンタ達はこれからどうするんだ?このままここで暮らすのはあまり良くないと思うが…」

 

マーシャは杉元の目を真っ直ぐと見ると 

 

「ここから五日ほど歩いた所に炎国の移動都市『龍門』があります」

 

「それがどうした…ってオイ!!」

 

マーシャは苦しそうに体を起こすと両手をついて杉元に頭を下げる。

 

「スギモトさんにお願いがあります。どうか娘と一緒に龍門まで行ってくれないでしょうか。もちろんお金など必要なものはこちらで取り揃えます。どうか…どうかお願いします…」

 

「頭上げてくれよ…そんなこと言ったってあんたはどうすんだ?」

 

「私は後で夫と一緒にこの街を出ます。夫は今中央で仕事をしていてこっちに来るまでだいぶ時間がかかるようで…」

 

「そうか…このことミーシャさんには…」

 

「まだ…」

 

「…俺は別にマーシャさんの言う通りにしてもいいと思っている。別に行く宛なんてないしな」

 

「そうですか!!ありがとうございます…」

 

マーシャは杉元の言葉を聞くと手で顔を覆い涙を流す。

 

「だけどあの子がどうしたいのかしっかり話し合って欲しい。あんたからしたら子供かもしれないがもう自分で考えて行動できる子だ」

 

「えぇ…わかりました。娘と話をします」

 

しばらくすると玄関の方からドアが開く音が聞こえミーシャが帰ってきた。

 

「お母さん、ただいま…」

 

ミーシャは浮かない表情で部屋に入ってくる。

 

「ミーシャ、大事な話があります」

 

「え…なに?どうしたの急に…」

 

「この前龍門に避難するという話をしましたね。あなたにはできるだけ早くチェルノボーグを離れスギモトさんと一緒に龍門に行ってほしいの」

 

「ちょ…ちょっと待ってよ!!お母さんはどうするのさ!!

お母さん置いて私だけ逃げるなんて出来ないよ!!」

 

「私は後でお父さんと一緒にここから離れます」

 

「それなら私も残ってお父さんを待つよ!!」

 

「ミーシャ…外に出れるあなたならここで感染者を庇った人がどんな目に遭うか一番よく知っているでしょう…」

 

「ッ!!…でもっ!!」

 

「龍門は感染者に対する当たりもあまり強くないと聞きます。ミーシャ…私はあなたに生きていて欲しいの。もう家族を失いたくないの…」

 

「いやっ…でもっ…。」

 

ミーシャはボロボロと泣き出してしまう。そんなミーシャをマーシャは抱きしめると

 

「約束します、龍門で必ず合流しましょう。私達はもう二度と離れ離れにはなりません」

 

「約束だよ…絶対だからね…」

 

「えぇ…龍門で家族揃ってご飯を食べましょう。もちろんスギモトさんも一緒ですよ」

 

「あぁご一緒させてもらうよ」

 

不意に杉元の腹からグゥ~と情けない音が鳴る。

 

「ヤダァ…こんな時に」

 

杉元が思わず赤くなり軍帽で顔を隠すと

 

「ぷっ…スギモトさんたらっ…」

 

「恥ずかしいから笑わないでぇ…」

 

「よしっ!!ご飯にしましょう!!お母さん腕によりをかけて作っちゃうわ!!」

 

「ちょっと無理しないでよ!!」

 

「短い時間なら大丈夫よ。リハビリにもなるし!!」

 

「あっでもお母さんまた食べ物売ってくれなくて…」

 

「…あぁそれなら俺が買ってくるよ」

 

            ∶    

            ∶

 

それから数日間いつも暗く静かだったミーシャの家は明るく笑い声が絶えることはなかった。

そしてさらに数日後。

 

            ∶ 

            ∶

 

「お母さん本当に大丈夫?ご飯は作り置きしたし、必要なものは買い溜めしたし…。」

 

「もう心配しすぎよ。大丈夫龍門で会いましょう。スギモトさんどうか娘をよろしくお願いします。」

 

「あぁ任された。」

 

「あっ!!そうだスギモトさんこれを…」

 

そう言うとマーシャは杉元にガラス張りの黒い板のようなものを渡す。

 

「何かあったときに必ず役に立つ筈です」

 

「ありがとう。ミーシャさんは必ず龍門まで送り届けるよ。あんたも気をつけてな」

 

「じゃあ行って来ます。お母さんまたね!!」

 

杉元とミーシャは龍門に向けて歩き始める大通りを通り過ぎある程度歩くと目の前に大きな門が見えてくる。どうやらあれが出国ゲートのようだ。

 

「出国ですか?」

 

きっちりとした制服に身を固めた男が話しかけてくる。

 

「あぁそうだ。」

 

「旅行者の方ですか。そちらのお嬢さんもご一緒ですね」

 

「なるべく早く頼むぜ」

 

「はいっ…はいっ…これで手続きは終わりです。お待たせしました。いやぁ最近出国する人が多くて多くて、有力な貴族の方たちなんて皆居なくなっちゃって…」

 

「へ〜大変だな。ミーシャさん準備出来たみたいだからもう行こう…ミーシャさん?どうかしたの?」

 

「いや…何か首筋がチリチリして嫌な予感が…。」

 

ミーシャの視線の先で光が煌めくと数秒後に杉元たちを爆音が襲った。

 

「キャアッ!!!」

 

「何だァ!!!」

 

杉元は咄嗟にミーシャを物陰に隠すとと入国管理官に詰め寄った。

 

「オイッ!!アンタ何が起きたか分かるかッ!!!」

 

管理官は通信機から耳を離すと顔を青くして

 

「暴動です…たった今チェルノボーグ全域で大規模な暴動が発生しました…」

 

「おいっ!!ミーシャさんやばいぞっ!!」

 

しかしミーシャは杉元の声に耳を貸すことなく一点を凝視している。

 

「今の爆発…お母さんの家の方だ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【ミーシャとマーシャの話し合いの後の話】

「スギモトさんに買いに行かせるなんて…いいよお客さんなんだから座って待ってて」

「いや…手持ち無沙汰も辛いしさ、それに食事はみんなで作るから美味しいんだよ」

「でも…」

杉元はミーシャと一緒に店まで行く。店の主人はミーシャの顔を見るとあからさまに嫌そうな顔をした。

「…ミーシャさんはここで待ってて」

「あっ…」

「ごめんくださ〜い。このメモに書いてあるやつが欲しいんですけど」

杉元は笑顔で声を一音高くして話しかける。次の瞬間顔に水をぶっかけられた。

「アンタあの感染者野郎の連れだろ。アンタに売るもんなんてこの店にないよ!!!」

店の主人が冷たく言い放つと

「………………」

杉元は無言で店のシャッターを閉じた。

その日のミーシャの晩ごはんはとても豪華だった。
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