杉元がミーシャの方を向くと既にミーシャは自分の家に向けて走り出していた。
「待ってくれ!!ミーシャさん!!」
しかし声が届かないのかミーシャは止まらない。
「畜生!!おいッアンタはどうすんだ!!」
杉元が入国管理官に声を掛ける。
「連絡を…いや本部まで走るか…?」
杉元は舌を鳴らすと混乱している男に詰め寄り
「オイッ!!俺は今からあの子とあの子の母親を連れてここから脱出する!!ここの門は絶対に閉めるなよ。わかったな!!」
狼狽えていた男は杉元を見ると
「…はいっ!!わかりました。奴らどうやら武装しているようです。お気をつけて!!!」
「あんたもな。死ぬなよ!!」
そう言うと杉元はミーシャの家に向けて走り出す。家の方に近づくにつれて悲鳴、爆発音が大きくなってくる。
「嫌ぁ!!離して!!!」
見ると若い女性が白い仮面をつけた集団に髪を掴まれ家から引き摺り出されている。
「ッ!!」
杉元が声をあげようとした瞬間大きな鉈が振り下ろされ辺りは静かになった。その後白い仮面をつけた集団は新しい獲物を見つけたのか女性の遺体を残しその場から去っていった。
「(あんなのが街をうろついてんのか?早く二人を連れてここから脱出しないと…。)」
杉元は担いでいた袋から小銃を取り出すと先に銃剣を付け走り出した。ミーシャの家の近くまで来ると辺りには滅多刺しにされた人々が転がりどこかで火の手が上がったのか少し焦げ臭い。
やっとミーシャの家に着くと玄関の先で倒れる血塗れの女性とそれを庇うように覆い被さる少女、それを囲み鉈を振り上げる白い仮面の集団が目に入る。杉元は銃床を力強く握るとやり投げの容量で投げた。
「なっ!!」
突然仲間の胸に銃剣が突き刺さるのを見てたじろぐ白い仮面たち、その隙に女性と少女を回収する。やはり血塗れの女性はマーシャだった。這って逃げようとしたところを斬りつけられたのか背中に大きな傷が走っている。
「マーシャさん…。」
「貴様ッ!!よくも同志をッ!!」
白い仮面をつけた者たちは半円状になって杉元を取り囲む。
「(盾持ちが2、鉈を持ったヤツが2、あれは弓矢か?)」
「この償いはお前らの血を持って償わせてやる!!」
杉元は今にも殺そうと向かってくる集団を片手で制すとミーシャ達を見て
「…場所を変えよう。あまり子供に見せたくない」
白い仮面達は顔を見合わせてから大声で笑い
「あぁ!!安心しろお前を殺した後に後ろのガキもまとめてぶっ殺してやるよ」
そう言うと男たちは杉元を取り囲みミーシャ達から離れていく。少し歩いた先で男たちは足を止めると
「ここならいいだろう。悲鳴は聞こえるだろうが、あんまり離れすぎるとガキを殺すときに少し面倒だ」
杉元は三十年式小銃に付けた銃剣の切っ先を男たちに向け安全子を左に倒して解除する。
「隊長…。あの男が持ってるの銃じゃないですか?」
「あぁ?安心しろ。アイツが持ってるようなでかい銃はサンクタしか扱えねぇんだ」
杉元はボルトを操作し一発目を薬室に送り込む。
「アイツはどう見てもサンクタに見えねぇし気をつけりゃあいいのは先っぽの銃剣だけ…」
乾いた音が響くと先頭で話していた男は一瞬体を固くすると仰向けに倒れた。
「はぁ?!撃って来たぞ。盾構えろッ早くしッ…」
そう言った男は最後まで言い切ることなく銃剣を仮面の下に刺し込まれ血を噴き出しながら絶命する。
「う、うおおおっ!!!」
盾を持った男が二人同時に突進してくる。片方を銃床で殴りつけ仮面ごと顔を叩き潰すと薬室に残った空薬莢を排莢しもう片方の男に向ける。
「ちょ…待ッ」
杉元が引き鉄を引くと男は白いコートを赤く染めて膝から崩れ落ちる。
そして足元でもがく顔が潰れた男にとどめを刺すと最後に残った男を睨みつける。
「クソがッ!!死ねッ!!!」
男がボウガンを発射すると杉元に命中する。
「そんな白石のチンポより小さい矢じゃ日露戦争帰りは殺せねぇぞ」
杉元は歩みを止めることなく男の手からボウガンを叩き落とす。
「ひ、ひぃっ!!」
男は逃げようと杉元に背を向けるが襟首を掴まれ顔を石畳に叩きつけられる。
「これからアンタに何個か質問をする。協力しないならお前を殺す。」
「離せッ!!この野郎ぶっ殺してやる!!!」
杉元は無言で石畳に顔を叩きつける。男の仮面が剥がれ前歯と一緒に血が滴り落ちる。
「お前ら何人いる。目的は?」
「どんなに弾圧しゃれても我ら感染者の恨みの炎は決して消えにゃぃ!!いちゅか必ずお前たちを焼き尽くす!!!レユニオン万ざッ…」
「もういい」
杉元は銃剣ので男の首を掻き切った。
「ミーシャさんの所に戻らないと…。」
杉元が戻るとミーシャはマーシャの傷口を手で押さえ必死に血を止めようとしていた。マーシャは薄く目を開き杉元を見ると微笑み
「あぁ…スギモトさん…来てくださったんですね…。」
「お母さん喋らないで!!」
ミーシャは泣きながらマーシャの血を止めようとする。マーシャはミーシャの頭を撫でると
「…ミーシャ聞いて…お父さんから連絡があってね…アレックスが…あの子が生きてるのがわかったって…」
マーシャは嬉しそうな顔を浮かべるがどんどん青白くなっていく。
「…もう喋らなくていい。傷が酷い」
杉元は膝を付きマーシャを支える。
「ミーシャ…聞いてるの?アレクセイが生きてるって…。あの子泣き虫だから早く迎えに行かないと…」
マーシャの意識がどんどん薄れていく。
「お母さんッ!!分かった!!分かったからしっかりして!!」
「スギモトさん…そこに居ますか…?」
「あぁ…ここに居るよ。」
マーシャは杉元の耳に顔を近づけると
「娘を…どうか…お願い…します…」
「わかった」
杉元の声が届いたのかマーシャは杉元から顔を離すと
「皆で…一緒に…ご飯を…食べましょう…」
杉元はマーシャから力が抜けていくのを感じた。
「…ミーシャさん。マーシャさんを部屋に寝かせてくるよ…」
杉元は家に入りマーシャをベットの上に寝かせる。ベットの下に割れた写真立てを見つけるとマーシャの手にしっかりと持たせて顔まで毛布をかけた。
急ぎ足でミーシャの所まで戻ると既にミーシャは涙を拭き立ち上がっている。
「ミーシャさん。大丈夫かい…?」
「…えぇ。出口まで急ぎましょう。こんな所で立ち止まってられないわ。早く弟を見つけ出してお母さんを安心させてあげないと…。」
「そうか…よしッ急ごう!!」
杉元たちは門に向けて走り出す。ようやく門にたどり着いたが十数人程度のレユニオン兵が門の近くをうろついている。
「(くそッ!!突破できるか?ミーシャさんを連れて…)」
「おい皆、逃げようとした馬鹿がまた引っかかったぞ」
「(しまった!!気づかれた)」
杉元たちを見つけるとレユニオン兵はジリジリと間合いを詰めてくる。
「(無理矢理突破するしかねぇか…)」
「おいッ!!ミーシャさん掴まってくれ!!」
「なっ!!嫌よ私も戦うわ!!」
「ミーシャさんが戦えば逆に足手まといだ!!」
「ッ!!」
杉元は冷たく言い放つとミーシャを小脇に抱えレユニオンに向かって突撃する。杉元の気迫に飲まれたのかレユニオンは杉元を止めることができない。
「もういいッ!!門を閉めろ!!」
隊長格の男が叫ぶと門は重い音を立てながら閉まっていく。
門が閉まるまで後3m、2m、1m…。
「俺は不死身の杉元だあああ!!!!!」
杉元がミーシャを連れて門に滑り込むとほぼ同時にチェルノボーグ市の門は完全に閉じられた。
菊田特務曹長の筋肉ヒンナヒンナ