負完全ウマ娘   作:Minus-4

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やあ、安心感さん改めガイドラ院さんだぜ。
アンケートに関してだが、流石に裸エプロンは無しだ。
何てったって、小説が消されちまうからね。


第−9箱『人それぞれさ』

「お前ら…なかなかやるな!」

 

「「「「おおーっ!!」」」」

 

スペシャルウィーク、ウオッカ、スカーレット、ゴルシは喜ぶ。何と4人とも立て続けにレースで勝利したのだ。あまりに圧倒的だった為、描写すらされていないが勝ったものは勝ったのだ。

 

であれば喜ぶのも当然だ。彼女らは学生生活真っ最中、いくら褒めようが褒めたりない。

褒めれば褒めるほど伸びる年頃である。

 

ちなみにスズカは喜んではいない。

彼女にとって今や勝利は当然である。

 

なぜなら、先頭だから。

 

だが喜ぶにはまだ早い。

沖野は喜ぶ4人に向け冷や水をぶっかけるが如く、冷酷…と言うほどではないがそこそこ残酷な言葉を口にする。

 

「だが、注目されているのはレース結果だけじゃない」

 

「私たちが可愛いってこと?」

 

「いやまあ、そういう意味でも注目はされてるが…今はそのことじゃない。これを見ろ」

 

そう言って沖野が取り出したのは、チーム〈スピカ〉の活躍…いや醜態を一面に掲載した新聞紙だった。見出しには「チーム〈スピカ〉、レースに勝っても…この有り様」の文字がこれでもかと強調されていた。

サイレンススズカとスクリプト(球磨川)以外はウイニングライブでとんでもない失態を晒していた。

いやまあ、ゴルシは華麗なブレイクダンスで会場を沸かせていたとは思うのだけれど、それでもまともな振り付けでは無かった。

 

「スズカとスクリプト以外4人、ライブもしっかりしろ!ウイニングライブもこなしてこそ、勝利が完璧なものになるんだ」

 

「トレーナーがレースの練習ばっかさせっからだろうが!」

 

「あんたが何とかしなさいよ、トレーナーでしょ!」

 

「まあ確かにレースに集中しすぎた俺の責任でもある。と、いう訳で…」

 

沖野としても多少の負い目はあった訳だ。

懐から取り出したのは、カラオケの料金40%OFF券。

5人からすれば意味が分からない。何故今カラオケに?

 

「カラオケでライブの練習だ。やはり厳しいレッスンでヘトヘトになるより、友達同士で楽しく歌って踊った方が頭には入りやすい。まあ人それぞれだとは思うが」

 

「あっそういえばスクリプトさんは何でここにいないんですか?」

 

スペシャルウィークは当然の疑問を口にする。

一応弁解させていただくが、別にサボっている訳ではない。あれで意外と律儀な奴なので、来ていないという事はつまり。

 

「まさか…誘ってないんですか!?!?」

 

「トレーナーさん…流石にそれは…」

 

「んな訳あるか先にカラオケ行って貰ってるだけだっつうの!スズカもスペに乗っかってんじゃねえよ!」

 

既にスペシャルウィークとスズカはなかよしだった。

悪ノリこそが青春の本質である。

 

 

──────────

 

 

カラオケに向かった一同を待ち受けていたのは、スクリプト(球磨川)ともう1人。予想だにしない人物だった。

 

「「「テイオー!?」」」

 

「スクリプトさんが呼んだんですか?」

 

『いいや僕じゃねえ。その辺のことはテイオーちゃんから直接お話があるぜ。ま、今は歌ってる途中だし少し待っててくれ。』

 

そしてテイオーは何事もなく一曲歌い切る。

踊っていたにも関わらず、その点数は98.874点。

普通に歌っていたとしても難しいであろう高得点を、何でもないように叩き出してのけた。

 

「遅いよみんな!2時間くらいスクリプトと一緒に待ってたんだけど!」

 

『おや、僕じゃあ不満だったかな?それもそうか、自分より下手な奴といても面白くないよね。分かる分かる。』

 

「いやそうじゃなくて!集合時間から2時間遅れるってありえないでしょ!マイペースすぎだよ!」

 

「いやすまん、たづなさんに怒られててな。『これ以上ふざけたライブをさせるなら打ち首にするぞ』って」

 

「クビの方がマシなことってあるんだ」

 

まあ流石に意訳ではある訳だが、要するに上からのお叱りだ。エンターテイメント性も重要ではあるが、ウマ娘は決してタレントという訳ではない。トレセン学園の生徒たるもの高潔であれという事だ。

 

「ってか、なんでテイオーがいるんだよ?」

 

「俺が呼んで」

 

『僕が連れてきた。』

 

「まあつまり、テイオーが歌とダンスの先生だ。見ただろ今の」

 

「それで、スクリプトは見本ってワケ!」

 

「テイオーが先生なのはまあ分かるけど、スクリプト先輩が見本?」

 

「いえーい!」

 

『いえーい。ピースピース。』

 

一同の頭に浮かぶのは疑問符。

テイオーがダンスが上手いのは分かったが、スクリプトが見本とは。自らを『負完全(マイナス)』と称している割に、なかなか多才ではないか。それとも晒し者という意味だろうか?

だとすると前回のウイニングライブがまともであった事に説明がつかないし…。

 

うーんうーんと唸っている皆を見てスクリプト(球磨川)は内心複雑だった。『勝負に勝てない』と皆には言っただけで『何も出来ない』と言った覚えは無かったのだが。

なんだか落ち込んできた。

 

「こいつの走りに惚れてスカウトしたんだけど…ってスクリプトどうした?なんかどんよりしてるぞ」

 

『いや、でしゃばって目立つ様な真似しなきゃよかったかなって思って。』

 

「そっ、そんな事ないですよ?私スクリプトさんのダンス見たいなぁあはは…」

 

「てかスクリプト、上手いんだからそんな卑下しなくてもいいと思うけどなー」

 

『そうかい、よーっしじゃあここはひとつ!僕が一肌脱いでダンスの見本を見せてやるぜ。』

 

「お前立ち直り早いな…」

 

先ほどのどんよりしたオーラは一瞬にして霧散、そこにいたのはいつも通りのニヤケ面を浮かべたスクリプト(球磨川)だった。

 

 

──────────

 

 

『ワイクルー。』

 

『フラ。』

 

『コサック。』

 

『ベリーダンス。』

 

『K-POP。』

 

『サンバ。』

 

『京劇。』

 

『カポエイラ。』

 

『パラパラ。』

 

『マンボ。』

 

『バレエ。』

 

『能。』

 

 

Do you know "Naatu"?("ナートゥ"をご存じか?)

 

 

「「おおー!!」」

 

「スクリプトさん凄いです!あんなにいろんな種類のダンスを…!」

 

「お前それでマイナス名乗るのは無理があんじゃね?」

 

13種類のダンスを踊り切り、凄い凄いと持て囃されるスクリプト(球磨川)であるが、その表情は平時と何ら変わらない。いつも褒められれば嬉しくなり、耳やら尻尾やらが少なからず暴れるのだが、()()()()()()()()()

 

「まあ上手いんだけどねー…さて、ここでクーイズ!スクリプトのダンス、何がダメだったでしょうか!」

 

「ええっ!?ダメな所があったんですか!?」

 

「あったよー、それもとびっきりダメなとこ!どーこだ?10…9…8…」

 

「えっえぇー!?」

 

どうやら何か致命的にダメな所があるらしい、が…スズカ以外のチーム〈スピカ〉は気付かない。実を言うとゴルシは道化を演じているだけなのだが。

 

「はいダメー!時間切れー!正解言っちゃっていい?」

 

『どうぞ、テイオー先生。好き勝手言ってくれ。』

 

「それじゃ遠慮なく。簡単に言っちゃうとね…」

 

「心が込もってない。」

 

「心が…ですか?でも上手に見えたんですけど…」

 

「うん、スクリプトのダンスは下手じゃないどころか上手いよ。でも、()()()()()()

 

『そういうこと。いくら『負完全(マイナス)』とはいえ、動きを真似するくらいならちょっと時間をかければ出来るようになる。文化祭とかでやれば盛り上がるんだろうね。』

 

要するに、スクリプト(球磨川)のダンスは見よう見まねの所謂猿真似でしかない。凡人でも3日あれば一曲分の振り付けなんて覚えられるだろう。だが、そこに心は果たして込められているのだろうか。

 

「だからね、ライブっていうのは応援してくれた人たちに、感謝の気持ちを伝えるためにある…と言っても過言ではないんじゃないかな。中央のトレセンにいる娘はきっとそう思ってるはずだよ。多かれ少なかれ」

 

自信満々に語ると言うことは、つまりそれは共通認識である。チーム〈スピカ〉は何かと自己完結させてしまう傾向にあるので、このように外部からテコ入れを行う必要があったという訳だ。

テイオーを呼んだのにはそういった意味もある。

 

「なるほど…確かにレースに勝ったからって…」

 

「気が抜けてたかも…」

 

「テイオーさん、スクリプトさん…ありがとうございます!これでまた一つ日本一に近づきました!」

 

上から順にウオッカ、スカーレット、スペシャルウィークの発言だ。テイオーとスクリプト(球磨川)は鼻高々である。ダメ出しされた奴が鼻高々というのもおかしな話ではあるのだけれど。

 

「そういえば何でテイオーさん来てくれたんですか?」

 

「カイチョー命令でね、『ウイニングライブを疎かにする者は学園の恥』だからライブ教えてあげてって!」

 

「うえぇ…」

 

当然、本当にここまで強い言葉を使ったわけではない。

のだが。「会長命令」という言葉の強さに気圧されてスペシャルウィークは萎縮した。こうなると本気で練習に取り組むしかなくなるだろう。

 

テイオーとスクリプト(球磨川)の作戦通りであった。

 

 

──────────

 

 

「テイオー、〈スピカ〉に入らねえか?ウチ来たら可愛がってやるぞ?」

 

「うーん…ちょっとゴルシに可愛がられるのは怖いからいいかな」

 

「やっべえ大失敗じゃん…やっぱ拉致か?」

 

「まあまあ、テイオーにも考えがあるさ。ウチのチームは放任主義だからテイオーにはあってるとは思うが…そう強制するもんでもない」

 

『僕とスペちゃんもいるし、これ以上高望みはできねえって顔だね。』

 

「お前こういう時だけ鋭くなるよな」

 

一同が帰路に着く頃には太陽は天辺から既に西に傾き、空はオレンジ色で影は薄紫に見える時間帯…即ち、夕方である。沖野としては是非ともテイオーが欲しい所ではあるのだが、人生万事塞翁がウマ。

良いことづくめとは行かないのが人生であると割り切っていた。大人になるというのは、人生のあらゆる事に見切りをつけて妥協する事である。高望みはしない。

 

「さーて、勝つ準備もできた事だし。スペシャルウィーク、スクリプトロンガー!三冠ウマ娘、取りに行くぞ!」

 

「ええーっ!?」

 

この男、毎度の事ながら唐突すぎる。体が大人のそれなだけで、大人ではないかもしれない。この場合、『日本一』を目指しているというのに、自分の路線も定めていないスペシャルウィークにも問題があるようにも思えるが。

 

とにかく、こんな帰りがけに突然口にするほど、三冠ウマ娘は軽いものではない。ウマ娘に限らず、この国にする人間はそのことを知っているだろう。

それはスクリプト(球磨川)も例外ではない。

 

『沖野ちゃん、盛り上がってる所悪いんだけどさ。本気で僕が三冠取れると思ってそれ言ってるのかい?だとしたら節穴だぜ、その目。』

 

だから反発するのも致し方ない。

この前は偶然『勝ち』の方から来ただけであって、自分の力では勝っていない。こいつは本当にそう思っていた。

 

「本気だ。そもそもお前は現時点で他の奴より優れ…いや、お前風に言うのであれば()()()()()()()()()()()()()()

 

『ふーん、言ってみなよ。それがどんな所だろうが僕が三冠を狙える理由にはならねえと思うけど。』

 

()()だよ。お前が抱くその劣等感は、言い換えちまえば憧れだ。前にも言ったと思うけどな。それに、知ってるかスクリプト?短所と長所ってのは表裏一体なんだぜ」

 

スクリプト(球磨川)とてそんな事は分かりきっていた。だが、分かっているのと、分かっている事を伝えられるのでは話が違ってくる。要するに、沖野は先ほどの問答はスクリプト(球磨川)が戯れているだけだという事を看破していた。

 

『あーあバレてたか。でも沖野ちゃん、確かに内心を見透かす事は得意なようだが、そんなんだといつかきっとバカを見るぜ?』

 

「バカで結構。バカやるのも好きだし、バカを見てる方が人生楽しいだろう?」

 

『そこまで言うならしょうがない。バカを見るのが好きな沖野ちゃんのために、最低最悪の愚か者(マイナス)の生き様を見せてあげようか。』

 

だからここまでは既定路線。

沖野もスクリプト(球磨川)も悪ふざけに興じただけであった。

周りから見れば、一瞬ものすごい険悪なムードだったので、止めようか迷う程度には分かりづらいものであったが。

 

「さて、話の続きだ。スペ、スクリプト、お前らは今年三冠ウマ娘に挑戦できるんだから当然してもらう」

 

「確かに…そのくらいの気概じゃないと『日本一』になれませんもんね」

 

「そうだ。皐月賞、日本ダービー、菊花賞。この三冠制覇は『日本一のウマ娘』への最短ルートだ。当然、厳しい戦いにはなるが…やるだろ?」

 

「はい!自分の夢のためにも、お母ちゃん達のためにも!」

 

スペシャルウィークは既に固まっている。体が、ではなく決意が。なので、躊躇なんてしない。目標ははっきりと定まっているからだ。

 

「というわけで、スペシャルウィークは弥生賞。スクリプトロンガーはスプリングステークスに出走してもらう。どちらもG2、三着以上で皐月賞の優先出走権が得られる。まずはそこから、勝ちに行くぞ!」

 

「はいっ!」

 

『はーい。』

 

スペシャルウィークは気合十分とばかりに威勢のいい返事をする。気合を入れるのには少々早すぎるが…それでもやる気があるのはいい事だ。

一方スクリプト(球磨川)はといえばいつものようにやる気があるのか無いのか分からない返事だ。しかし、これでやる事はやるのだからよく分からない。

 

スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)は応援を受けて、ますますやる気になった。応援もそれを受けて張り切るのも、何度も言うように早すぎるのだが。

 

 

──────────

 

 

「スペちゃん、何だか調子が良さそうですね〜?」

 

「はい!何だか最近寝つきが良くて!」

 

「それは良いですね〜、健康にもお肌にも良さそうで」

 

教室内で言葉を交わすグラスとスペシャルウィーク。

レースで緊張して眠れないなどということも無く、どうやら快眠できているようだ。とても良い、非常に良い。

この快眠が同室のスズカと、お節介焼きのスクリプト(球磨川)によるマネジメントが原因である事には、今のところ気づいていないようである。

照れ隠しが下手なのだ、2人とも。

 

「ここまで2連勝…その調子でできていればきっと問題ないですね。緊張せずに、リラックスして勝負に臨めば良いと思いますよ?」

 

「うん、そうしてみる!…っと、所でその足、もしかして…」

 

「え?ああ、ちょっと怪我をしてしまって〜。怪我さえしていなければ、弥生賞で皆と戦ったんでしょうけどね〜」

 

「そうなんだ…早く良くなってね!」

 

「はい♪」

 

スペシャルウィーク(主人公)といえど、気付かない。

スペシャルウィーク(主人公)だから、気付けない。

一体、目の前にいる大和撫子然としたその少女が、どれだけの苦しみを心に抱き、それをひた隠しているか。

『憧憬』というより、『羨望』と呼ぶのが正しいであろうその感情は、今尚グラスワンダーの身体の内を駆け回っている。その感情が解放された時、どうなってしまうのか。

今は誰にも分からない。本人でさえも。

 

「スペちゃんは調子良さそうだね〜」

 

「あっ、セイウンスカイさん!起きてたんですね…」

 

「うーん、さっき起きたばっかだよ〜?何だかここ最近、調子が悪くってね〜。次も何とかなると良いけどなあ」

 

(ブラフ)である。

彼女が得意とする戦法の一つに、盤外戦術というものがある。この場合は、敢えて調子が悪そうに見せる事で、本番で油断を誘うと言う作戦だ。

この狡賢さは、勝負事において非常に重要である。

 

だが、戦績は嘘を吐くことができない。

 

「またまた〜、セイウンスカイさん2連勝中ですよね?きっと気づいてないだけですっごく調子はいいと思いますよ?ほらー、元気が空回り?みたいな感じで!」

 

「なるほどねえ、その考え方いいかもな〜」

 

セイウンスカイは取り繕う。

考える事こそが彼女の武器だからだ。

彼女は自分の脳内でスペシャルウィークに対する評価を改めた。危険度4から危険度5に引き上げるくらいの感覚で。

 

(前と考え方が違う…入れ知恵された、と言うより中身が丸ごと入れ替わった感じに近いか…スクリプトの影響っぽいな、成程中々厄介…)

 

「それにキングヘイローさんも3連勝中だし…油断なんて出来ないけれど、平常心でいられるようには心がけたいです!」

 

「いい所信表明だね〜」

 

(ちゃんと相手の戦績まで調べ上げてる、意外とデータも重視するタイプか…それにしても、私1人に注目してくれたら足の動かし方とかでやりようはいくらでもあったけど…こうなると揺さぶりも効果薄そうだなあ)

 

この瞬間、セイウンスカイは最重要の標的をキングヘイローではなく、スペシャルウィークに定めた。ここでもやはり、スペシャルウィークに知る由は無いのだけれど。

 

 

──────────

 

 

「さて、おさらいといこう。スペが出走する弥生賞は3月8日に中山レース場で行われる芝2,000m右回り、G2のレースだ」

 

「はい、それで、皐月賞と条件は全く同じ…ですよね?」

 

「そうだ。ちゃんと覚えているようで何より」

 

チーム〈スピカ〉の部室で、沖野とスペシャルウィークはミーティングを行なっていた。三冠への足掛かりとなるレースで作戦をミスって計画が御破算など笑い話にもならない。だから、こうして何度もおさらいをするのだ。

 

「じゃあ問題だ。このレース、最も重要で、最も危険な場所はどこだ?」

 

「ラスト200mの…えっと、妖刀心渡(こころわたり)の坂です!」

 

「違う違う心臓破りの坂だっつーの!『心』しか合ってねえしそんなカッコいい名前でもねえよ!」

 

スペシャルウィークからしても何でそんなカッコいい名前がいきなり出てきたのか分からない。なんとなく響きが似ている言葉を脳内で手繰り寄せたら刀になってしまっただけなのだ。

 

「とにかく!ここまで快調に飛ばしても坂で失速するヤツは多い。体力勝負になるだろうし、そもそも今までで最長の2,000mだ。こう言うと何だが…結局は根性勝負になるだろうな」

 

「根性ならありますよ!毎朝螺子で刺されても最近は声ひとつ上げなくなりました!隣の部屋に迷惑なので!」

 

「そんなもんに慣れんな!スクリプトも『領域』無駄遣いするんじゃねえ!」

 

『起きないスペちゃんが悪いんだよ。僕は悪くない。』

 

実は初めから部室にいたのだ。

ちなみに、ゴルシからもらったルービックキューブで遊んでいた。なぜか9色だったが。

 

「じゃあそれはもういいとして…スペ。今回警戒すべきが誰なのか…分かってるな?」

 

「はい。多分…セイウンスカイさん…だと思います」

 

「今度は正解だ。中々やるぜ、あいつは。きっと今も俺たちを出し抜く策を考えて実践し続けている。欺く事にかけては一級品だ」

 

「分かりました…要警戒ですね!」

 

覚悟を決めたスペシャルウィークに、抜かりはない。

戦績を調べたのも誰を警戒すべきか考えたのも彼女自身だ。沖野としてはもう少し教え子の手助けをしたかったのだが…そこは放任主義、やりたいようにやらせたようであった。

 

「はい次!スクリプト!」

 

『はいはい。やればいいんでしょ?もう、沖野ちゃんったら心配性だねえ。もうこれでミーティング何回目?』

 

「ミーティングってのはやればやる程強度が上がるんだよ」

 

『あれっ今って刀の話してる?』

 

していない。

 

「スクリプトが出走するスプリングステークスは3月22日に中山レース場で行われる芝1,800m右回り、こちらもG2のレースだ」

 

『まあ僕は既に阪神の2,000mを走り切っているし、それなら殆ど同じ条件のスプリングステークスを走った方がいいって判断だよね。』

 

「そうだ。とはいえ前述の心臓破りの坂からのスタートになるからかなりパワーが必要になる」

 

『第1コーナーまでの距離は200mと短い。どうしたって内枠が有利気味になる…があまりハイペースな『逃げ』をする娘はいない…で合ってるかな?』

 

「その通り。前半はペースが上がりづらい代わりに後半はハイペース気味になる…しかし大半の娘は1回目の坂で体力がかなり削られる。そこで…」

 

『僕の『過負荷(マイナス)』の出番ってわけだ。幸い、周りにバレないようにスタミナを回復することができるし、スタート直後が坂になっている分僕は有利にレースに臨むことが出来る。』

 

「そういうことだ。要するに()()()()()()()()()()()()()()()()()。お前は勝ちとか負けとか考えず、回復したい時に『領域』を使って、最終直線で本気で走ればいい。お前1人の力で勝つ訳ではなくても、()()()()()()。これなら納得できるだろう?」

 

『ああ、そうだね。なにせ僕は勝敗を意識すると、体がガチガチに固まっちまって全然動けなくなっちまうからね。胸を張って『勝った』とは口が裂けても言えねえが…少なくとも『負けではない』のなら、やはりこの案が1番いいかもね。』

 

「──よし!ミーティング終わり!」

 

「えぇっ!?」

 

阿吽の呼吸で()()()()をさっさと終わらせてしまった2人にスペシャルウィークは驚愕する。

いやだって、私の時はあんなに丁寧に時間をかけていたというのに。まるで流れ作業みたいではないか。

 

『スペちゃんどうしたんだい?そんなに驚いちゃって。』

 

「あんなに高速で終わるミーティングは果たしてミーティングと呼べるんですか!?」

 

「まあ…お互い分かりきっててやってるしな。スクリプトは一回話したこと忘れないし、そこは個人に合わせたやり方が1番いい。スペも嫌だろ?10分間で全部詰め込んでそれを何回も何回も暗唱するの」

 

「…それは…確かに嫌ですね」

 

『あくまで僕は僕、スペちゃんはスペちゃんだ。だから走り方もミーティングの仕方も人それぞれさ。』

 

「なるほど…確かにそうですね」

 

スペシャルウィークは納得した。

何だか最近納得尽くめのような気がする。

それだけ学んでいることも多いということだろうか、と思いつつ、スクリプト(球磨川)と共にトレーニングへと向かった。

 

 

──────────

 

 

そして来たる3月8日。

弥生賞が、始まる。




物語シリーズが続くと聞いてワクワクしながら描きました。テンションがおかしい状態で書いたので文章もおかしいかもしれません。
誤字脱字に気づいたら是非教えていただけると幸いです。泣きはしませんが喜びます。

感想・評価よろしくね。

『領域』とは別のスキルとか『過負荷』覚えさせるのはあり?

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