負完全ウマ娘   作:Minus-4

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今回は難産でした。
それとUA 40,000ありがとうございます。
キリがいいので50,000目指して頑張ります。


第−13箱『そうは行くかよ』

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最終回とは、突然訪れるものだ。

 

 

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〈続いて4枠7番、スクリプトロンガー!ここまで不運に襲われましたが、無事出走するようです!〉

 

〈学ラン風の勝負服ですね。彼女の印象には何故かマッチしています、似合っていますね〉

 

スクリプト(球磨川)がジャージを投げ捨て、勝負服姿をお披露目すると、一際大きな歓声が上がった。ウマ娘となって耳が良くなったスクリプト(球磨川)は、その歓声の中に「いつものやってくれー!」という声があったことも当然聞き逃さなかったようだ。

 

『えー、マジ?わざわざ倒れたいとか、物好きな奴らもいたもんだぜ。しょうがないなあ。えー。』

 

『モブキャラのみなさーん!』

 

『こんにちはーっ!!』

 

そして、予想通りに複数の人間が倒れるのだった。

しかし、なんだか以前より倒れる人数が減っている気がするなあと思い、スクリプト(球磨川)は首を傾げながらパドックの舞台から降りた。

 

 

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「いやスクリプトさん、絶対私の方が歓声大きかったですって」

 

『いやいやスペちゃん、絶対僕の方が歓声大きかったって。』

 

「お二人さんさあ、セイちゃんのことも忘れないでほしいな〜」

 

パドックの裏での緊張は一体どこへやら。

地下バ道で和気藹々と話すのは、スペシャルウィーク、スクリプトロンガー(球磨川禊)、セイウンスカイの3人である。

 

少し離れた所でチラチラと3人を見ているのは先ほど王の威圧を振り撒いたキングヘイローその人であった。

 

「所でキングはいつまでその威圧続けるわけ?」

 

『そうそう。僕が唆したとはいえ、そんなんじゃレース前に疲れちまうぜ。』

 

「えっ嘘っ私は威圧なんてしてないわよ!」

 

「無意識でそれなんですか…?」

 

どうやら威圧するつもりではなく、本人にも何が何だか分かっていない様子だった。一見した限りではその態度は普段通りに見える。

 

「そもそもさっきだって、私は普通に喋っただけなのに何故か皆化け物を見るみたいな目で見てきて…あなた達、何よその顔は」

 

「いや〜そりゃあ、ねえ?」

 

『うん。威圧を振り撒いちゃあいるが、いつものキングちゃんと変わりねえなと思って。』

 

「当たり前でしょう!?ていうかそれよりスクリプトさん!私、あなたが思ってるより気が強いのよ!精々覚悟しておきなさい!」

 

キングはその存在感からは想像もつかないほどの三下ムーブをかまし、「おーっほっほっほ!!」と高笑いをしながら去って行った。

 

「いやマジでスクリプト何したわけ…?」

 

『親と揉めてるみたいだったからさ、『親とか負けとか才能とか存在意義とか気にして走るくらいなら家帰れば?』って言ったらああなっちゃった。』

 

「何してくれてるんですか…」

 

結局のところ、他人の家庭問題に口を出したスクリプト(球磨川)が悪かった。

 

 

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返しウマも終わり、皐月賞も発走直前という所まで来た。

普通ならレース前ギリギリにわざわざ敵に話しかけに行く奴はいない。まあスクリプト(球磨川)は『負完全(マイナス)』なので気さくに話しかけに行くわけだが。

 

『さて、昨日あれだけ君に喧嘩を売っておいてなんだが、今の君に勝てるビジョンが浮かばねえんだよな。逆立ちしても勝てる気がしない。という事で、作戦教えて?』

 

「あなた…おバカなのかしら…?他の娘ならともかく、あなたとスカイさんには教える筈ないでしょう?」

 

恐らくバカ正直に相手の作戦を聞きに行く奴はスクリプト(球磨川)が初めてだろう。今後現れることもないだろうが。というか現れられても困るというのが本音だ。

 

『ちなみに僕は逃げで行くから、精々頑張って追い抜いて行ってくれ。前で待ってるぜ。』

 

そういうとスクリプト(球磨川)はゲートの中に入って行ってしまった。言いたいことだけ言って、勝手にいなくなる。迷惑な奴である。

 

「もう、なんなのよ…」

 

こう言って多少むくれているキングだったが、周りから見れば常に威圧を振り撒き続けるキングの方がよっぽど「なんなのよ」だった。

 

 

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〈G1、皐月賞。三冠の第一関門をクリアするのは一体どのウマ娘か!〉

 

実況の声が響く。それに合わせて観客も声援を上げる。会場の空気は徐々に熱を帯び、今この瞬間、熱により膨れ上がった空気は爆発寸前の様相だった。

 

一転して、ゲートの中はいっそ不気味と形容した方がいいほどの形容し難い圧迫感で満ち満ちていた。原因は4人のウマ娘である。

 

〈狩人〉、スペシャルウィーク。

 

〈奇術師〉、セイウンスカイ。

 

〈偉大なる血族〉、キングヘイロー。

 

〈脚本家〉、スクリプトロンガー(球磨川禊)

 

それぞれがそれぞれの勝機を見出すため、互いに牽制しあった結果、『普通(ノーマル)』や『特別(スペシャル)』には到底耐えられないであろう圧迫感を生み出す事となった。

 

もう大体予想はついているだろうから、先に言ってしまおうか。長ったらしく話したくは無いんでね。

 

先ほど話した4人が上位の一着から四着を独占する。

 

一体どういう順でゴール板を踏むのか、飲み物でも飲みながら予想してくれ。飲み物が無ければ固唾でもいいぜ。

 

さて、出しゃばるのはやめて、語り手に戻ろうか。

 

4人とも策を練っていると先ほどにも言った通り、4人はそれぞれ全く毛色の違う策を採用した。

 

スペシャルウィークは弥生賞での反省を活かし、前と同じく後ろ側から威圧を掛ける事、以前よりも少し早めからスパートをかける事、心臓破りの坂を登る時に無茶な走りをしない事を主軸としたようだ。

 

大外からのスタートとなる為、やはり多少の不利は生じるだろうが、それらの困難を跳ね除けてこその『日本一』である。今日までの自分のトレーニングを信じ、ゴール目掛けて全速力で駆け抜ける心意気だ。

 

セイウンスカイは今日までのスペシャルウィーク、キング、スクリプト(球磨川)の走る時の癖を観察し、徹底的に頭に叩き込んで来た。が、それらの情報はあまり役に立ちそうにない。しかしそれは相手の情報に限る。

 

今回の皐月賞では、仮柵が内側に動いたため、バ場の荒れが無いグリーンベルトが発生している。気付いている奴が他にいないと考えるのは些か楽観的すぎるが…それでも、セイウンスカイにとって有利な条件であることには変わりなかった。

 

出来ることがあるなら、何だってやる。

彼女は勝つために、人事を尽くして天命を待つのだ。

 

キングヘイローは自然体だ。いつも通りに走るつもりでいる。いつも通りでないところがあるとするならば、それは当然、あり得ないほどに研ぎ澄まされた『王の威圧』だろう。やるからには、当然勝つ。勝ちに行く。

 

才能が無いと言われようが、距離が不安だと言われようが、華がないと言われようが、親の七光りだと言われようが、勝てる筈がないと言われようが、実力不足だと言われようが、見苦しいと言われようが、何と言われようが。

 

もう、そんな雑音は、キングヘイローには届かない。

下を向くのはもう飽きた。

目指すのは頂だけである。

 

スクリプト(球磨川)は、いつも通りだった。

特に語ることも無いほどに、それはもう静かだった。

変わったことも特に無い。スクリプト(球磨川)が変わった様子は、それこそトレセン学園生徒会会長ですら発見できないだろう。実際、スクリプト(球磨川)には何の変化もない。微塵もない。

 

そう、本当に変わっていないのだ、昔から。

自分は変わりたくない、変わるつもりもない。

けれどどうしようか?このままでは勝てない。

 

ならば、自分以外の全てを変えてしまえ。

 

スクリプト(球磨川)の顔には、口の端が三日月のように吊り上がった笑顔が浮かんでいた。この場合は浮かんだというより、引っ付いたといった方が正しいのかもしれなかったが、どちらにせよこのレースの結果には関係のないことだった。

 

そう、何もかもが関係ないのだ。

結末はとうに決まっていた。

今までのツケが今になって回ってきただけだ。

 

悪いのは寄りかかる相手を間違えた彼女だ。

 

僕も、彼女も悪くない。

 

そして今、時間にして約2分の、短すぎる一世一代の大舞台の幕が開いた。

 

〈スタートしました!飛び出したのはセイウンスカイと…スクリプトロンガー!まずは〈奇術師〉と〈脚本家〉がレースを引っ張る展開か!〉

 

〈前回とは打って変わって逃げを選択したようです。何をするか分からないのがスクリプトロンガーの魅力ですね〉

 

いつも通り少しだけ飛び出したセイウンスカイのすぐ後ろにスクリプト(球磨川)が付ける形でレースは始まった。後方ではキングヘイローとスペシャルウィークが互いに牽制し合う形である。

 

中団に付けている娘たちは、前からの『ずらし』と『負完全(マイナス)』のオーラ、後ろからの『王威』と〈狩人〉の威圧により、スタミナや精神を大きく削られながら走る羽目になった。

 

距離にして大凡200mで、今年の皐月賞は実質4人立てのレースに成り下がった。

 

「そういえばさ〜スクリプト。スピカ勢はどうやら『領域』とかいうのを持ってるそうじゃない。どういうものなのか教えてくれたら嬉しいな〜」

 

『そのうち分かるからそれまで待っておきなよ。釣り人なんだし、待つのは得意だろう?』

 

大勢の心を打ち砕いておきながら、当の本人たちは呑気なものだった。

 

 

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「ひえーえげつないことするなあ」

 

「ゴルシだったら()()、突破できる?」

 

テイオーは尋ねる。

正直言って雨でずぶ濡れの洋芝でも走った方がマシな空間は、テイオーからしてみればたまったものではない。

ならば、隣にいる破天荒なパワー系ウマ娘ならばどうなのか、という好奇心ゆえの質問だ。

 

その質問に対し、ゴルシは何でもないかのようにあっさりと答えた。

 

「余裕だろ」

 

「えぇ〜ホントに〜って…ホントっぽい顔してる…」

 

テイオーが言う『ホントっぽい顔』というのはよく分からないが…とにかく、ゴルシは嘘をついているようにも誤魔化しているように見えなかった。

 

「そもそも大体よー、どれだけ広く見積もったとして、あの威圧空間は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだろ?」

 

「えっ?あぁ、確かに…4人の間にいる娘に比べて追い込みの娘たちは楽そう…かも?」

 

「正解。ゴルゴルポイントの贈呈だ。まあ総合的な実力であの4人に劣ってるから追い抜けはしない。けどアタシならいける」

 

繰り返しになるが、嘘や誤魔化しでこんなことを言っているわけではない。あくまで事実の一つとして、淡々と述べているだけだ。

 

「折角今回の皐月賞ではグリーンベルトができてんだからよー、そこ走って体力温存して、最後に最後方からぶち抜いて終わりだろ。アタシが出てたらそうやって勝つぜ…ま、それはスクリプトがいない場合の話だけどな」

 

「えっ?何回も質問して悪いんだけど、何でそこでスクリプトが出てくるのかボクには分かんないんだけど、どういうこと?」

 

「何でって…あー、スクリプトの『領域』まだ見てないんだっけテイオーは。ほら、ゲートの下、目ぇ凝らしまくって見てみ」

 

言われた通りにテイオーは目を凝らす。しかし、そこには何もないように見える…が、ゴルシが言うには何かがあるらしい。

 

「何もなくない?」

 

「螺子があるだろ」

 

「えっあれっ?言われるまで無かったのに…いや、()()()()()()()()()?」

 

「そういうこった。はぁ…滅茶苦茶するなあいつ…アタシじゃねーと気づかねえぞこんなの…」

 

「もしかして…ボクたち、気付いてないうちにスクリプトになんかされたの!?」

 

「そうみてーだな。だってあいつ、レースが開始するまでに全員に螺子刺してたから」

 

「全員って…もしかして、観客…全員?」

 

「大正解だテイオー、大ゴルゴルポイントを贈呈だ」

 

どうやら、スクリプト(球磨川)は観客含め全員のバ場に関する興味を消し去ったようだった。テイオーは口を大きく開け、驚きを隠せていなかった。

 

「ていうかなんでスクリプトはそんなことしたの?見た感じ変わったところは他には無さそうだけど」

 

「もっと芝をよーく見ろテイオー。明らかに変だろ?」

 

「変って、()()()()()()()()()()()…あっ!」

 

「そういう事だよ。スクリプト、あいつ…」

 

 

「バ場の荒れを無かったことにしやがった。」

 

 

「反則じゃん…」

 

それでも観客で気づいているのがテイオーとゴルシだけである以上、競争が中止になることは万が一、億が一にも無かったのだった。

 

 

──────────

 

 

『いやあ、快適快適。何てったってセイちゃんの後ろに付けて、最終直線で千切ればいいだけだしね。邪魔してくる後続も今のところいないし、これは僕がG1取るのも夢じゃねえかもな。』

 

(いつまで喋るつもりだ…?そろそろ1,200m、こんなに喋ってたらバテるはずなのに…そもそもグリーンベルトの外を走ってるくせに、息が乱れなさすぎだし…『領域』の効果かな?)

 

相変わらず、レースはセイウンスカイとスクリプト(球磨川)が引っ張る形だ。変わった事といえば、スペシャルウィークとキングが徐々に位置を上げてきたことくらいだろうか。

 

2人に追い抜かれた娘は、揃いも揃って5着を狙っていた。日本ダービーの優先出走権の為である。もっと簡単に言ってしまえば、要するに皐月賞は捨てた。

 

一度でも勝負を捨てた奴は舞台に登る資格など無いというのに、その事に気づかずに、呆れるほど簡単に、この一世一代の大舞台から身を投げ、飛び降りたのだった。

 

そんなの『負完全(マイナス)』ですら無い。

 

そうやって皆が諦め、気づいた頃には(始めからこの展開になる事は分かりきっていたが)4人だけの勝負になっていた。

 

〈ここでスクリプトロンガーの3バ身後ろにスペシャルウィークとキングヘイロー!1番から4番人気が勢揃いだ!〉

 

〈まさしく猛追と言った感じですね。それに脚もまだ残っているように見えます〉

 

〈ここまでレースを引っ張って来たセイウンスカイとスクリプトロンガーには苦しい展開だ!さあ直線が近いぞ!〉

 

(ここだ!ここから攻めないと、間に合わなくなる!)

 

「はああぁぁぁッッッ!!」

 

スペシャルウィークは第4コーナー入口で動き始めた。スクリプト(球磨川)との差は3バ身程、スクリプト(球磨川)の末脚のことを考えると、この辺りから動き始めるのが妥当と言えるだろう。

 

(スペちゃんがここで動く!?そんな筈はない!ここからスパートをかけたってゴール前で垂れる程度の体力しかない筈…ッ!?)

 

セイウンスカイはようやく異変に気付く。1,600m近く走っておいて、今の今までこれに気づかなかったのは、異常と言っても何ら問題は無いだろう。

 

(グリーンベルトがない…いや、全部がグリーンベルトなんだ!何でこんな事に気づかなかった…てかこんなのあり得ない!!明らかに普通じゃないし、レース前まではちゃんとグリーンベルトがあったのに、となると…)

 

「スクリプト…まさかレース開始と同時に『領域』を使うなんて…マジで性格悪いね…」

 

『性根が捻じ曲がってんのさ。『負完全(マイナス)』だからね。』

 

今からゴールまで、万全の状態のキングとスペシャルウィークとスクリプト(球磨川)を相手にできるだろうか。ここまで先頭で引っ張って来た足で?()()()だ。誰よりセイウンスカイが、それを分かっていた。

 

ここで、セイウンスカイの勝ち目は消えたのだった。

 

〈セイウンスカイここまでか!後ろの3人が代わりに上がってくるぞ!〉

 

そこで、卵の殻が割れるような音が響いた。

 

そして、スペシャルウィークは己の勝利を確信し──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…あれ?私の流れ星は?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──4人全員が、闇に包まれた。

 

 

──────────

 

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、プライドが高い。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、気が強い。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、近寄り難い。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、孤高である。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、孤独である。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、羨望の目を向けられる。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、憎悪の目を向けられる。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に、親の言う事は絶対だ。

 

けれど、逆らった。

 

憧れであり、そしてどうしようもなく鬱陶しい母親に。

 

何故か?

 

そんなこと、とうに分かり切っていることだ。

 

色眼鏡をかけているから、分からない。

 

曇った眼で見るから、分からない。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

故に?

 

違う。

 

けれど?

 

それも違う。

 

キングヘイローはお嬢様である。

 

だからどうした。

 

親の言うことなんてどうでもいい。

 

世間の声なんて必要ない。

 

適正距離なんて知ったことか。

 

お嬢様としてのプライドも邪魔なだけだ。

 

確かに、キングヘイローはお嬢様である。

 

それ以前に。

 

 

 

キングヘイロー()はウマ娘なのよ。

 

 

 

好きに走って何が悪いの?

 

 

──────────

 

 

──これは、勝てない。

 

セイウンスカイとスクリプト(球磨川)は瞬時に悟った。

 

「悪いわね、3人とも」

 

「『ッ!?』」

 

ここは最終直線の直前で、どう見てもスパートの姿勢なのに、どうやらキングは話しかける余裕まであるようだ。

 

「王様らしく余裕を持って。お嬢様らしく優雅に。昨日までそんな事ばかり考えていたわ。そんなの、私に出来るはずが無いのにね。私に出来るのは精々足掻く事だけ。だから、キングのプライド(Pride of KING)は捨ててみたの」

 

だけど、とキングは続けて話す。

まだ汗は掻いていない。

 

「だけどいきなり全てを捨て去るというのは難しいわね…恐らく今後、私は暫くこの『領域』を使えなくなるでしょうね。まだそこまでの器でないというだけで、いつかは使いこなせるようになってみせるけれど…とにかく、今日のところは私の勝ちよ。3人は王の戴冠式を存分に楽しんで行ってちょうだいね」

 

キングは茶目っ気たっぷりにそう言った。

優しげに微笑んで。

ご丁寧にウィンクまでして。

 

成程、今後この走りができるとも限らないのであれば仕方ない。今日のところはひとまず、王様に一つ目の冠を譲ってしまおう。

 

「『そうは行くかよ…ッ!!』」

 

否、諦めるはずが無い。勝ちを譲るなどあり得ない。

異常(アブノーマル)』と『負完全(マイナス)』がこの程度で諦めるはずが無い。

 

セイウンスカイは止まりかけた足を死ぬ気で回す。回す。回し続ける。今までレースを引っ張って来たのがなんだ。

()()()()。勝つ為だったら何でもする。天に委ねるなどバカバカしい。彼女が天なのだ。己のことは己で決める。

 

スクリプト(球磨川)は死ぬ気で走る。元より勝ち目など薄いのだ。それが更に薄くなったから何だというのか。状況は変わっていない。いや、寧ろ好転しているまである。

要するに、キングヘイローを抜き去ってしまえば勝ちなのだ。こんなに単純なことをするだけで勝てる。簡単かどうかはさて置き。

 

結論、誰が諦めるか。

 

それが2人の答えだった。

 

それは当然、王も予想していた通りのようで。

 

「へぇ…まあ、そう言うと思っていたわ。じゃあ、精々一緒に足掻きましょう。これでも私、結構ギリギリなのよ」

 

『どの口が言ってんだか…!』

 

「本当にね…!」

 

走る。

 

ただ走る。

 

ただ、好きなように走る。

 

ああ、なんて楽しいのだろう!

 

一生この瞬間が続けばいいのに!

 

確かにその場にいる者はそう思っていた。

 

 

ただし、好きなように走れる者に限る。

 

 

「待って…!置いて行かないで…!」

 

「スクリプトさん…!」

 

 

 

この期に及んでレース中に誰かに頼っているような奴が、勝てる筈が無かった。

 

〈大接戦を制したのはキングヘイロー!!!皐月の冠を勝ち取り、王たる所以をここに示しました!!!〉

 

一着、キングヘイロー。

二着、セイウンスカイ。

三着、スクリプトロンガー(球磨川禊)

 

最後の最後でセイウンスカイが根性で差し切り二着。

スクリプト(球磨川)はゴール直後悔しそうな顔をしていたが、直後にいつもの澄まし顔に戻っていた。

 

「あの、スクリプトさん…」

 

『おや、主人公は遅れてやってくると言うが、どうやら本当らしい。所でスペちゃん、前回といい今回といい、威圧をやってたみたいだね。僕の真似事は楽しかったかい?』

 

言葉の刃がスペシャルウィークに突き刺さる。

 

『ああ、そういえば。僕ってスペちゃんに勝ったんだよね!やったー!いやー、『悪役(マイナス)』の僕が『主人公(スペシャルウィーク)』に勝っちゃったし、どうやらこの世界の最終回は近いらしい。』

 

 

涙でにじんだ視界では、ライブ中に誰が前にいたかなんて分からなかった。

 

 

──────────

 

 

レース後、スペシャルウィークは寮の部屋には戻らずに、夜の河川敷に座り込んでいた。

 

「情けない…お母ちゃんになんて言えば…」

 

今までが順調だった分、一度負けると反動も大きい。

スペシャルウィークはすっかり自信を失ったようだ。

 

スクリプト(球磨川)に酷いことを言われはしたが…いかんせん事実であった為に反論する訳にもいかず、困り果てていたのだった。

 

と、そこへ1人のウマ娘がやって来た。近づいてくるのが足音で分かる。それが誰であるかも。

 

スペシャルウィークはゆっくりと振り向いた。

そこにいたのはスクリプト(球磨川)だった。

 

『やあ、スペちゃん。探したんだぜ?』

 

「スクリプトさん…ごめんなさい!」

 

『えっいきなり?』

 

「私、確かにスクリプトさんの真似をしていました!あの威圧も、レース中敢えて話しかけに行くのも…あんなの、私の走りじゃなかった!だから私の心を折るために、わざと厳しい言葉を吐いたんですよね」

 

『…どうだろうね?』

 

「少しくらい素直になりましょうよ…少なくとも。私にはそうとしか思えませんでした」

 

概ね正解であった。

中々的を射ている。

 

『その調子だと、既に立ち直っているのかな?』

 

「正直…はいとは言えません。今だって落ち込みっぱなしです。でも、ここで諦めるより、進んだ方が後悔しないはず、とも思っています」

 

『成程、つまり自分は『敗者(マイナス)』であるのに日本ダービーに進んで良いものかと、そう言うわけか。』

 

「はい…何だか恥を晒すみたいで…」

 

『やっぱり君は『勝者(プラス)』側の人間だぜ、スペちゃん。』

 

「えっ?いやでも、四着ですよ?勝ったなんてとても…」

 

『日本ダービーに出られるのは18人だけで、その内の1人に選ばれた。何を恥ずかしがることがあるんだい?僕なら出られるだけで狂喜乱舞だぜ。』

 

「でも…それじゃ『日本一』には」

 

『成れないね。今の君じゃ到底『日本一』なんて成れたもんじゃない。もし『負け』がどういうことなのか分かってればここまでするつもりじゃなかったんだが…これで僕はいろんな奴に嫌われるだろうね。』

 

そういうと、スクリプト(球磨川)は螺子を取り出した。

しかし、いつもの螺子とは形状が違う。

 

 

却本作り(ブックメーカー)。』

 

 

スクリプト(球磨川)が取り出した螺子は、マイナス螺子だった。

当然、今までの螺子とは気配が違う。

スペシャルウィークは体を縮こまらせ、耳を絞り、怯えている様子だった。

 

「ス、スクリプトさん…それ…刺さないですよね?また、そうやって脅してるだけですよね!?」

 

『いいや、脅しでも何でもないさ。大丈夫。『敗者(マイナス)』の気分を味わうだけだからさ。それに、未だに『勝者(プラス)』の気分でいる君が悪いんだぜ。』

 

『僕は悪くない。』

 

そして、スペシャルウィークの身体にマイナス螺子が捩じ込まれた。同時に、髪の毛から色素が失われて行き、目から光が消え、精神が『負完全(マイナス)』へと成り下がり、引き摺り込まれて行き──。

 

 

『…なんか、どうでも良くなっちゃいました。』

 

 

スペシャルウィークは、文字通りの『敗者(マイナス)』となった。

 

 

──────────

 

 

「さて、どこまで予定通りなのかな」

 

「どこまでって、そりゃあ全部に決まってるだろ?ここまで事がうまく進むと、ついつい調子に乗りたくなってくるぜ。わっはっは」

 

「趣味の悪いことを…事前に君から聞かされていなければ、私は今頃スクリプトを神威で焼いていただろうな」

 

「そりゃそうさ!誰だって怒るぜあんなことされたら。っていうか、僕としては毎朝螺子で刺されても反撃すらしないスペちゃんの方に驚きを禁じ得ないぜ」

 

「彼女は朗らかな性格…朗らかで済ませていいものか、とは思うが…とにかく温厚だからな。少し話しただけだが、ひしひしと伝わって来たよ」

 

「少し話しただけで他人の内面がわかるくらいには目が肥えてるんだから、()()がスペちゃんにとっていかに有益か、分かってるんだろ?シンボリルドルフ」

 

「ああ、正直なところ、半信半疑だったが…その通りだよ安心院なじみ。確かにスペシャルウィークには経験が足りていない。藁にすら縋れない、絶望の経験が。一度どん底まで叩き落とされて、そこから這い上がって来なければ『日本一』になど到底成れないぞ」

 

「君も中々厳しいことを言うじゃあないか、生徒会長」

 

「当然だ。もっとも、これは期待の裏返しでもあるわけだが。彼女ならば必ず、『日本一』に成れると私は信じているのでね」

 

「君を差し置いてかい?」

 

「それは保障しかねるかな」

 

「ははっ、君も中々我が強いねえ」

 

「〈皇帝〉だからな」

 

生徒会室での密談はここで終わった。

安心院なじみがスキルを使って姿を消したからだ。

 

その思惑は、依然彼女の胸の中にある。

彼女の目論見を、スクリプト(球磨川)は未だ知らない。




今までの話全部編集したらここすきがズレて大変なことになってしまいました。ここすきしてくれた人、申し訳ない。

感想・評価よろしくね。

もしおまけを書くとしたらどれがいい?

  • スクリプトウマ娘ストーリー1話
  • スクリプトがゲームで実装された時の性能
  • 生徒会庶務に無理矢理任命されたスクリプト
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