ほどほどに頑張ります。
さて、
めでたしめでたし。
「な訳あるかアホ。スクリプトさんよー、スペに勝ったのが嬉しくてたまらねえのは重々承知してるんだがな、勝ち逃げはダメだろうよ」
『えーっ、別にいいだろう?僕の人生において記念すべき2回目の勝利だぜ?ちょーっと羽目外してスペちゃんを『
なんというか、いちいち人の揚げ足を取るのが上手いやつだった。それでいて、取られた足は下に下ろせないのだからタチが悪い。
が、やはりそこはゴールドシップ。
元より地に足などついていないので問題は全く無かった。
寧ろ取った足の力が強すぎて、
こちらも元より宙ぶらりんだったが。
「お前さー…流石にありゃあ無えわ。見たかよクラスメイト達の顔をよ。『純粋無垢な天真爛漫黒髪娘が夏休み明けに金髪ヘソ出し舌ピギャルになってた』みたいな表情だったぞ」
『おいおい、そんな高尚な物と一緒にしないでくれよ。僕のはもっと低俗で醜悪で下劣だぜ。敢えて例えるなら《数多のスキルで蹂躙劇、ただし仲間になったら3巻で退場》みたいな。そういう呆気ないものさ。』
一応僕も聞いてんだから、僕のことを貶すのはやめて欲しいもんだぜ。それにあの時は珍しく死ぬ気で時間を稼いだんだからよ。寧ろ感謝して欲しいくらいだ、全く困っちゃうな。
「とにかくだな、最低でも釣り人と王と鳥と武士には説明しとけって。いらん誤解を招いてスピカが潰れんのがいっちゃん困んだよ。って言っておけば動いてくれるか?これでもまだ足りないようなら次は手が出るぞ」
『おお、怖い怖い。で、断った場合僕はどうなっちまうのかな?』
「まず耳が6つに増える」
『説明してくるよ。』
正直なところ耳が6つに増えたらどうなるのかとか、そもそもどうやって増やすのかとか、そういう好奇心はあったようだが…『まず』という前置きから分かる通り続きがあるようなので、流石の
「あっそうだ、トレぴから伝言。『スペの為にありがとう』だとよ」
『どいつもこいつもお見通しってわけだ。あーあお手上げだぜ全く。』
中央トップクラスのトレーナーにその場しのぎの嘘も誤魔化しも通用しているはずもなく、目論見をあっさり暴かれた
──────────
『──と言うわけなんだ。ね、スペちゃん?』
『はい!スクリプトさんが言うには私は『負けを知らなすぎる』らしいので、一旦『
「話し方がスクリプトと同じになってる…なんていうか、不気味デース!」
「いや、えー…?っスゥーー…いや、えぇ…?うん…?」
「えっと…どういうことかしら?混乱してるのは私だけじゃあ無いわよね?」
「安心して下さい…私もです…ちょっと理解が追いつかないですね…」
意外にも、最も飲み込みが早かったのはエルであった。
器量が大きいというよりは、もっと単純に考えることを放棄しただけなのかもしれないが。
ちなみに現在
スペシャルウィークの白くなった髪は注目を集めたが…すぐ近くでオグリキャップとタマモクロスが白米をかき込んでいた為、すぐに注目はそちらに移ってしまったようだ。
タマモクロスは既にお腹いっぱいのようで、顔面が蒼白になっている。もはやこれは、合法的な拷問と呼んでも差し支えないだろう。
それはそれとして。
『要するに、だ。このじゃじゃウマ娘は相対的に見れば『勝ち』もいいところだってのに、自分は『負けた』からダービーに出る資格はないって言っててね。『
「最大級の侮蔑でしかない…つまりは愚弄であると、そういう事ですか?」
『正解だぜグラスちゃん。どの口で『負け』とか言ってんだ、一変『
「うーん、まあ…理屈としては…分からなくもない…いや、分からない…」
「っていうかスクリプトさんっ!」
キングは、何だか前にも聞いたことがある出だしで叫んだ。当然、『王威』は出ていない。食堂であんなもん出されても困るのだが。
「そもそもそれはどうやったのよ?あなたの『領域』って何かを消す効果なんじゃ無かったの?」
『そいつは至極当然の疑問だね、キングちゃん。そうだな、何から答えるとするか…。』
そう言った
『僕には『
場が静まり返った。
1秒。
2秒。
そして、3秒たっぷり使った後に、大声が響いたのだ。
「「「えぇーっ!?!?『領域』が2」」」
「あ"ーっ何か昼飯食うたら走りとうなってきたわ!!ひっさしぶりに思いっきり誰かとレースでもしたい気分やなあ"!!オグリもそう思うやろ!?」
「ああそうだな!!私もちょうどそう思い始めていたところだ!!えーっと、ところでタマ!!君もレースをしたいということだが、ここは一つ、私とレースしないか!?」
「おっノリも都合もええなあ!!オグリとレースすんのはあの『有馬記念』ぶりかぁ!!いやあこいつは楽しみやわぁ!!どれ、ここは先輩であるウチが格の違い見せたるわ」
「ああ!!楽しみだ!!では今からコースに行こう!!ああ、そうだ!!タマ!!君の言ったこと一つだけ訂正させてもらう!!見せつけるのは私だ」
瞬間、食堂は上も下も右も左も分からなくなるくらいにしっちゃかめっちゃかの大騒ぎとなった。
なんてったってあの〈葦毛の怪物〉と〈白い稲妻〉のドリームマッチをその目で見られるチャンスが舞い込んで来たのだ。ウマ娘なら誰だって騒ぎたくもなる。
『知らぬ人なぞ知らぬ』とまで評されるこの2人のウマ娘が、何故こうも目立つ真似をしたのか?
理由はもう分かっているだろう。
学園内に情報が回れば、当然今後の
まあ当初の予定では『併走』という設定にするはずだったが、タマモクロスが芸人魂を発揮、『どうせやるならレースにしたろ』とアドリブをぶちかまし、それにオグリキャップが一も二もなく乗っかった結果、両者ともガチになってしまったのだが。
ともかく。
これが何を意味するかというと。
お礼にご飯でも奢らなければいけないということで。
『…財布の中身、残るかな。残ればいいな。』
つまりは、破産だった。
──────────
『で、そうそう。僕には『領域』が2つあんのな。』
「1つでもヤバいのにそんなのが2つ…?いやはや、世界ってのはとことん不条理ですなあ…」
セイウンスカイの嘆きはもっともだ。
並大抵の、つまりは『
そうはならないから、『
そうはいかないから、『
「…まっ、私には元々策をこねくり回すくらいしか能が無いわけだし、やる事は変わんないけどね〜。わーお、セイちゃんってば健気〜」
『うーん、やっぱりこの程度じゃあ折れてはくれないか。ままならないね、人生って奴は。』
「誰が折れてやるもんか。それに私は釣り人だからね、大物の方が寧ろ燃えるって感じかな〜?」
『そうかい。それじゃあその両手に構えた釣り竿からへし折らせてもらおうかな。』
「生憎、折れた時に備えてスペアの竿を用意するのが釣り人なんだよね〜」
ああ言えばこう言う。
こう言えばそう言う。
「そういえば、1つ目の『領域』が『何かを消す効果』だったとして、じゃあ2つ目は一体どんな『領域』なの?って話をしてたんデスよね?実際どういう物なんデスか?」
『どういえば良いんだろうね、この場合は。えーっと、つまり…『みんな『
「随分と開けっぴろげデスね…」
『開き直ってんのさ。』
要するに、隠してもいずれバレるんだからさっさと言ってしまおう、ということだった。見下げた根性である。
「えっと、スペちゃんがそうなった原因は、スペちゃんの胸にこれ見よがしに刺さっているマイナス螺子…で合っていますか?」
『はいっ!皐月賞の後、スクリプトさんがこう…ブスッと!』
「ブスッと…?」
『ああいや…グサっと、だったかな?いやいや、サクっと…これじゃあお菓子ですね。パキッと…いやでも、心は別に折れてないし…。』
「とにかく、皐月賞の後にスクリプトに螺子を刺されて、それから何か、髪の色と精神性以外に異常は無いんですね?」
『特には無いですね。ちょーっと何もかもがどうでも良くなって、目に映る物全てが羨ましくて劣等感が増したくらいです。』
「随分大事な気もしますが…まあでも、私もスペちゃんの発言には少し…いや結構…相当…かなり…本気でカチンと来ましたし…良薬は口に苦し、とも言いますし、これを機に反省して下さいね?」
『うん…私、酷い勘違いをしてたみたい。『自分の夢』さえあれば勝てる、なんて酷い思い違い。『自分の夢』なんて、ここにいる誰もが持っている物なのに。』
スペシャルウィークも皐月賞から今日この時まで、何も考えなかったわけでは無い。寧ろ、1人でいる時間のほとんどを考え事に費やしていた。これも『
「それで?スペシャルウィークさんは、これからどうするつもりで、どうなるつもりなのかしら?」
『日本ダービー1週間前まで、このまま過ごすつもりです。普段の自分がいかに恵まれていたのかをしっかり噛み締めて、本気で勝ちに行く。それが今まで私を助けてくれた人への、最低限のお返しだと思うから。』
「そう、それならいいのよ。このキングのライバルが腑抜けたままだったら、張り合いがないもの。お互い頑張りましょうね」
『はいっ!あ、そうそう、一つだけ言っておきたいことがあってですね…ああ、キングさんだけではなくて、他のみんなにも言っておきたいことなんですけど…』
と、丁寧に前置きした上で…どうしても一波乱起こさないと気が済まないのかもしれないが…普段の彼女であれば絶対に言わない言葉を口走った。
『日本ダービーで私が勝ったら、皆さん体操服はブルマにして下さいね♪』
「「「『………。』」」」
「スペちゃん…私も、ですか…?」
『えっ?はい。』
「……」
ていうか、花も恥じらう乙女達が揃いも揃って固まっちまってんじゃねえか。あーあ、どうすんだよこれ。
──────────
空を鳥の大群が滑空する時間帯──即ち夕方である。
チーム〈スピカ〉の面々は、ランニングコースの途中にある公園で休息を取っていた。
沖野は何だか機嫌が良いらしく「よーっし、たい焼き奢ってやるよ」と、普段の彼からは想像できない太っ腹さを見せつけた。たい焼き如きで何言ってんだって話ではあるが。
「で?スクリプト先輩は何でそんなにたい焼き食うのが下手なんだ?」
「なんかブチブチ音が鳴ってるし…たい焼きから出る音じゃないわよ!?」
『いやー、癖なんだよね。手を汚すのが。』
「ワケ分かんないよ…?」
あまりにもあんまりなたい焼きの食べ方は、あまりウケは良くなかったようだ。当たり前である。ちなみに具はつぶあんのようだ。
『ゴルシさん何味ですか?』
「からし」
『私はわさびです!気が合いますね!』
「本当にスクリプトみてえな滅茶苦茶具合だなオイ!」
スペシャルウィークとゴルシは…批判等々一切諸々を恐れずにはっきり言ってしまえば、イカれていた。
「ていうかスペちゃん、本当に髪真っ白じゃん!監督トレーナー監修スクリプトのイメチェンとはいえ激しすぎない?」
「もはやイメチェンっつーか…」
「キャラチェンって感じよね…」
スペシャルウィークはスペシャルウィークにあらず。
そう言っても差し支えがない程度には、別人のオーラを纏っていた。
『皐月賞でみっともなく負けたので心機一転!堕ちたら後は這い上がるのみなので粉骨砕身!もう一度基本に立ち帰り、追いかける立場として頑張ります!』
「やあやあスクリプトさんやい、お前の説明ではマイナス螺子刺した相手はお前と同じになんだよな?」
『そうだね。つまり、今の僕はそこそこの上昇志向を持っているということに他ならない。新しい場所に来たから心機一転、勝てる保証もないから粉骨砕身、そもそも追いかけられるのは趣味じゃねえから追いかける立場。後はほどほどに頑張ろう。こんな感じ。』
「随分とニュアンスがズレちまってるような気がするが…まあ宇宙から見ればそんなズレ、微々々々たるもんか」
『物事を俯瞰する位置が高すぎだぜ。君は神にでもなるつもりかい?』
「ああ、成れるなら成りたいと思ってるぜ。逃げを司る神『バク神』と対を成す存在、追込を司る神『ゴル神』にな」
『夢が大きくて良いね。大きすぎる夢は不可能なものにしか見えねえが、君ならあるいは、と思ってしまうのは何故だろう。』
「あ?夢だぁ?夢なんてものは何処にもねえよ。此処には無いし彼処にも無い。過去にも無ければ未来にだってありはしない。アタシは現実の話をしてるんだぜ、スクリプト。そんなこと言ったらお前の夢だってデカすぎて現実味が無えってもんだろうがよい」
『おや、君に僕の夢を話した覚えはこれっぽっちの一欠片もありはしねえんだが…まあいいさ、ついでにここで正解発表でもするかい?』
「いや、別にいい。その反応をするって事は当たってそうだしな。
『おーい、スマホのキーボードが1つずれてるぜ。』
ゴルシは「
──────────
「…うん、見た目、脚の方は問題ねえな。スペの身体能力がスクリプトと同じになってるってのもまあ分かった。仕上がり方が同じだからな」
『ん?問題ない?おいおい、沖野ちゃんともあろう者が、そんな単純なこと間違えちゃあダメだろう?
「いいや、問題ない」と沖野は言い、
「やっぱりな。お前、そこそこ走れるようになってるぞ」
『僕は『
「俺は何もお前が成長したなんて一言も言ってねえよ」
『え…ひど…。』
「お前いちいちめんどくせえな!!」
沖野が堪らず大声で吼えたタイミングで、スペシャルウィークが『私から説明しても良いですか?』助け舟を出した。
ちなみにゴルシはからしたい焼きをテイオーの口に突っ込んでいたため、助け舟は出さなかった。
「ああ、今スペはマイナス…いや、『
『では、スクリプトさん。説明しますね?そもそもスクリプトさんって日を追うごとに劣化していく消耗品じゃないですか。』
図星だった。
『でもその劣化を日々誤魔化して生きているわけです。自分は『
図星だった。
『でもね、スクリプトさん。それはあなたの本質ではないんです。昔どうだったかは知りませんが、少なくとも、今、この瞬間は。私はあなたと同じだから分かるんです。あなたが見ている世界が。あなたが自分をどう見ているか。あなたは自分を大切にしている。いいや、大切になんてしていないさ。あなたは仲間を大切にしている。いいや、仲間なんて鬱陶しくて堪らないね。あなたはこの残酷だけれど美しい世界を愛している。いいや、いつかぶっ壊してやりたいくらいだぜ。そう見ている。そう見えている。そうとしか見えない。なんて醜く美しい自己矛盾、二律背反、ダブルスタンダード。』
図星だった。
『私は、スクリプトさんが羨ましくて堪らない。』
何を言っているのか分からなかった。
『あなたは短所が多いです。誰の目から見ても。でもそれって片方だけしか見てませんよね。誰も月の裏側を地上から肉眼で確認できないのと同じですよ。コインでも、カードでも、人格でも、名前でも、精神でも、この世に存在するものには全て表と裏があるんです。所謂表裏一体。それは短所も同じなんです。』
何を言いたいのか分かってしまった。
『つまり、片方が短ければ片方が長い。片方に存在しないのであれば、それは裏側に全てがあることを意味します。数直線で例えれば、あなたは全てがマイナスです。文句の付けようが無いくらいに。普通に考えればマイナスっていうのは悪いことのように思えます。だけど、全然そんな事はないんですよ。この場合は、スクリプトさんは『
何も言い返せなかった。
『考え方、言い方の問題なんです。確かに、スクリプトさんの余りにも余りある『
何も。
『何が言いたいかっていうと、スクリプトさんは
また。
『結局は、スクリプトさんの脚は劣っているけど優れているし、優れていても劣っているんですよ。つまり、
『主人公』に。
──────────
『……完敗だ、スペちゃん。ここまで完膚なきまでにやられたのはいくら僕といえど、片手で数えられる程度でしかない。ああ…でも、そうか。思えば僕は、ここ1番って所で毎回ボロボロになっていたな。』
思い返されるのは、箱庭学園での日々。
『でも、スペちゃんに言わせれば、僕は常に負け続けて勝ち続けていたということになるのか。確かに、最終的には毎回どうにかなっていた気もするし。』
そして視線をスペシャルウィークに合わせ、少しだけ迷い…スペシャルウィークの体に突き刺さっているマイナス螺子を消した。
「…いいんですか?私、正直まだ皐月賞は『負けた』と思ってますよ?」
『ああ、構わねえよ。僕と同じとこまで堕ちて、それでいて尚且つ他者に対する優しさを失わないってんなら…その優しさは君の本質ってわけだ。人間、追い詰められると本性が出るって言うだろう?』
『それだけのことさ。』と言い、
「なあスペちゃんよお、『
「あっ抜け駆けは無しだよゴルシ!ボクだって聞きたいことあるんだから!あの長い話はどこからスペちゃんでどこからマイナスだったのとかさ!」
「スペちゃん…大丈夫だった?ごめんなさい、私…何もしてあげられなくて…」
「あっスズカさん、全然大丈夫ですよ!元はと言えば自惚れてた私が悪いワケですし!」
「今度何かあったら、どんなことでも力になるわ。必ず私に相談してちょうだいね」
「はいっ!」
やはり『
『主人公』…。
スペシャルウィークねぇ。
皐月賞の掲示板は菊花賞まで終わったら書きます。
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スクリプトウマ娘ストーリー1話
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生徒会庶務に無理矢理任命されたスクリプト