負完全ウマ娘   作:Minus-4

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あいも変わらず趣味回です。
そろそろダービーに入れるはずなので頑張ります。

突貫工事なので誤字多いかもしれません。
見つけたら報告お願いします。


第−17箱『全員纏めて』

「エルコンドルパサーさん、今の調子はいかがですか?」

 

「もちろん快調デース!だって私、ターフを舞う〈怪鳥〉って呼ばれてますから!」

 

勝負服を身に纏ったエルが茶目っ気たっぷりに冗談(キディング)を口にすると、会見の会場は記者達の笑い声で満たされた。場の空気は暖まり、もはや居心地の良ささえ感じる。

 

既にNHKマイルカップを勝ち前途洋々、気分は高揚。向かうところ敵なしのエルは、それでも油断していなかった。

 

「ダービーを走るにあたって、誰をライバル視していますか?」

 

記者からの質問は中々のキラーパスだったが、この手の質問にどう答えるかは、既に心の中で決めていた。いつも通り不敵な笑みで、余裕たっぷりに──。

 

「スペシャルウィーク」

 

というわけにもいかず、敵意全開野心剥き出しの宣戦布告をした。それもそのはず、近頃のスペシャルウィークは何だか様子が違う。

 

皐月賞までの鬼気迫る迫力が無いのだ。相手が普通のウマ娘だったなら、エルとて「諦めたのかな?」と思っていただろう。しかし相手はスペシャルウィーク。

 

側から見ている限り、今のスペシャルウィークには油断も隙もない…いや、()()()()。以前とは違って、今まで常に集中して行っていたトレーニングの合間合間に、気を抜く場面が確かに出来ていた。

 

()()()()()()()()()()

 

編入してからはや数ヶ月、スペシャルウィークには『ウマ娘の基礎』が備わり始めていた。それはスペシャルウィークの戦法が、今までの『天性の身体能力による力押し』だけでは無くなったということを意味する。

 

ここに来て、スズカがチーム〈リギル〉を離れた皺寄せが来た。常に背中を見せ続ける先立がいれば、ウマ娘はそれをどうしても追い越したくなるものだ。

 

その結果、スペシャルウィークの競争本能は、生まれて初めて昂っている。今までは『本能』の走りと『理性』の走りがレースによってはっきりと分かれていた。しかしスクリプト(球磨川)とスズカのおかげで、あるいはそのせいで、スペシャルウィークは『完成(ジエンド)』に限りなく近づいた。

 

だから。

 

「油断は、しません」

 

会場の温度が底冷えしたように感じられた。

文字通りに、氷点下まで。

 

 

──────────

 

 

「セイウンスカイさん、今の心境を一言!」

 

「皐月賞負けたのに3番人気とは、セイちゃん期待されるのには慣れてないんだけどなあ。じゃあ、勝ったらびっくり?それならあっと驚かせて見せますとも〜」

 

セイウンスカイはいつも通り、ふわふわとした語調で掴みどころがない。一体次は何を仕掛けてくるのだろうか。記者に限らず、皆が気になっているところだろう。

 

「ちなみに今回は、どういった作戦で…」

 

「全員惑わしてやる」

 

またやってしまった、と記者達は思った。

普段冷静で、戦意を表に出すことの少ないセイウンスカイですらこうなるのだから、ウマ娘にとって、それほどまでに日本ダービーというのは大きいものなのだ。

 

「おっと、こりゃ失礼。セイちゃんってばうっかり」

 

「「はは…」」

 

記者達は苦笑いするしかなかった。

正直、自業自得だが。

 

 

──────────

 

 

「……あー、スペシャルウィークさん…?その、髪色はどうしたのでしょう…?」

 

『ああ、これは…癖です。緊張しちゃうと思ったので、『負完全(マイナス)』のモードで今日は来ました。』

 

「癖…なるほど…」

 

果たしてなるほどで済ましていい問題なのだろうか?とその場にいる全員が思ったが、無理に聞き出しても碌なことにならない予感がしたので、記者達は詮索をやめた。

 

懸命な判断である。

 

「スペシャルウィークさん、今度のダービーはズバリ勝てそうですか?」

 

『あー、正直怪しいですかね…キングさんやスカイさん、それにエルちゃんまでいるとなると…勝てないかもって思います。』

 

瞬間、報道陣からざわめきが上がった。

それもそのはず、今の今まで負けん気全開ポジティブ娘としてやってきたのに、負ける気全開ネガティブ娘に早替わりしていたからだ。目の前のこいつは一体誰なんだ?と錯覚してしまうほどに。

 

『でも、気づいたんですよ。気付かされたんです、私。誰が強いとか、誰が弱いとか、そういうのって関係ないんですよね。大事なのは自分の気持ちだって分かったんです。』

 

「と、いうと…?」

 

「勝つのは私です」

 

髪の毛から白みが抜け、普段通りのスペシャルウィークが会見に現れた。やはりこちらの方が全体的に安定感があるように見えた。

 

えっボケろ?っあ、えっと、そういうことで私からはこれで以上です…」

 

目の前で髪の色が元に戻り、記者達は一瞬呆気に取られたが…まあウマ娘だし『領域』とかの効果でそういうこともあるか、と思って深くは考えなかった。それよりも、スペシャルウィークの口から飛び出した発言をメモに取る事に精を出していた。

 

「ちょっとゴルシさん、ボケろって…できるわけないじゃないですか!」

 

「ちぇっ。スクリプトならやってくれるのにな〜」

 

奴はいつも通りに平常運転だった。

今日も海は大荒れのようだった。いつも通りに。

 

 

──────────

 

 

「キングヘイローさん、今の心境は?」

 

「そうね、世論では距離不安だとか実力不足だとか言われているけれど…それでも敢えて私は言わせてもらうわ。()()()()()()()。皐月賞で一度壁を越えたのだから、二回目だって越えられるはずでしょう?」

 

あまりにも威風堂々としている。さすがは(キング)である。

その気高さは、到底クラシックの娘のものとは思えない。

 

「キングヘイローさん、今回はどういった作戦で行くのでしょうか?」

 

「そうね、私は気高き(キング)ではあるのだけれど、やはり2,400を優雅に走り切るのは無理があるわね。だから、みっともなくても泥臭くてもいいから勝ちに行くわ」

 

キングはそこまでいうと一度佇まいを正してから息を吸い、高貴さを滲ませながら宣誓した。

 

「勝者はこのキングよ」

 

その身から溢れるオーラは、まさに(キング)と呼ぶに相応しいもので、狭い会見場が王宮であるかのように感じられた。

 

「依然変わりなく、ね。キングに刮目なさい」

 

ウィンクのファンサービスをする余裕まで見せつけたキングは、やはり「オーッホッホッホ!」という小物臭い高笑いを発しながら、この場を去って行った。

 

 

──────────

 

 

「……えーっと、スクリプトロンガーさん、大丈夫ですか…?」

 

『んん、あー、だいじょぶ。昨日眠れなくてさ。眠気は無いんだけど、体は眠りたいみたいだね。それもこれも僕は悪くないが。』

 

両目の下にくっきりとした隈を携えたスクリプト(球磨川)は、インタビューだというのに髪はノーセット目はボヤボヤ勝負服はゆるゆるという、何ともだらしない印象を与える見た目をしていた。

 

「寝不足というと、やはり…緊張で?」

 

『そうそう、すっごい緊張して眠れなくって、しょうがないから沖野ちゃんのとこに行ったんだよな。それでなんだかんだで一緒に眠って、沖野ちゃんの匂いを嗅いだら妙に目が冴えて眠れなく』

 

「とんでもない嘘つくな!!お前は俺を社会的に抹殺したいのかよ!?」

 

たまらず叫んだのは沖野だった。

そりゃそうだろう。やっている事が完全に名誉毀損だ。こんな事鵜呑みにされて週刊誌にでもすっぱ抜かれようものなら、沖野の人生はたちまちお釈迦である。

 

「あ、あはは…えっとそれで、スクリプトさん。意気込みの方をお願いします」

 

『そうだね。それじゃあ物申させてもらうとしよう。スペちゃん、エルちゃん、セイちゃん、キングちゃん。君たちは僕より早いし僕より強いし僕より運がいい。だけど生憎、逆境に立つのには慣れすぎるほどに慣れすぎているからね。この程度どうって事はない。だからつまり、いつも通りってことさ。』

 

そう言うとスクリプト(球磨川)は、いつも通りに口の端を吊り上げて笑い、何の感慨も無さそうに、何の興味もなさそうに言った。

 

『全員纏めて台無しにしてやるぜ。』

 

負完全(マイナス)』のオーラを振り撒きながら、全力の5割程度の威圧をしたスクリプト(球磨川)は、やはりヘラヘラとした笑みを顔に浮かべ、ご機嫌そうに会場から去っていった。

 

会場の空気は冷えるところまで冷え切り、この会見は最早会見の体を成さず、そこにあるのは人がぎゅうぎゅうに詰まっただけの密室だった。

 

 

──────────

 

 

日本ダービーが迫ったとある日、チーム〈スピカ〉一行は神社前にある階段でダッシュ練習を行っていた。おおよその狙いとしては体を前に押し進めることと、疲れた時に自分に負けずに足を回すことの2つを重視している。

 

まあ今回の狙いはピッチ走法習得なのだが。

 

「─で、スペとスクリプト以外は脱落か」

 

はぁ…はぁ…なんでっ、あんなに走れるわけ…?」

 

はぁ…そりゃあ…はぁ…スズカ先輩との…はぁ…ちょっと…ヤバい…

 

「おうおう落ち着いてから喋れよ後輩共。そんな状態で話しててもずっと苦しいままだっつーの。アタシみたいに2、3回深呼吸してから話しやがれェェェェェェッッッ!!」

 

はぁ…ゴルシも、大概だと、ボクは思うけどな…あれ、何でいきなり怒ってんの…?こわ…」

 

神社へ続く参道はまさに死屍累々の様相を呈し、沖野がトレーナーバッジを付けていなければ通報されてもおかしくない光景が広がっていた。

 

段々と息も整い始め、みんながさて次に来るスクリプト(球磨川)の走りでも見るか、と集まり始めた瞬間──。

 

『揃いも揃って僕の見学かい?』

 

と後ろから声がした。

 

「うっうわあっああぁぁぁ!?!?ちょっとスクリプト!?本気でビックリしたよ!!」

 

「スクリプトお前、足音消してるのは構わねえんだがよ、記録が40秒切れてないからやり直しな」

 

『こりゃあ手厳しいね。だが心配ご無用。何てったって、僕とスペちゃんは地獄から這い上がってここまで来ているんだから。』

 

スクリプト(球磨川)の言う通り、実際今のトレーニングよりスズカとの併走の方がよっぽど辛かった。前に見える(プラス)見えない(マイナス)は全く別物だと自分で言ったが、心境としてはそれに近いものがあった。

 

と、スクリプト(球磨川)が登頂してから数十秒後、黒い影とでも形容すべきスピードでスペシャルウィークが突っ込んできた。

 

「トレーナーさん、タイムどうですか?」

 

「39.8。文句なしだ、スペ。スズカとの併走のお陰か、息の入りも早くなったな」

 

「あっあはは…そうかもしれないですね」

 

スペシャルウィーク、ここに来て驚異の40秒切りである。ダービーの最終直線が坂であるということを踏まえても、不安要素はほとんど無くなったと言っていいだろう。

 

『すげえなスペちゃん。やっぱスズカちゃんとの併走は効果抜群みたいだね。ところでどうだい、この後僕はスズカちゃんと併走しに行くが…。』

 

「じゃあ私も行きます!今回こそはきっと、スズカさんから先頭を取って見せますよ!」

 

『中々言うじゃないか。言っておくけど、僕だって手加減なんかしないぜ。上ばっか見てると足元を掬われる。覚えとけよ、僕から君に贈る貴重な塩だからね。』

 

塩を贈っているにしては、随分と親切な対応だった。これも、昔のスクリプト(球磨川)であれば到底あり得ないことだったのだろう。

 

「あいつら、元気だな…」

 

男沖野、そろそろ老いを実感し始める歳であった。

 

 

──────────

 

 

「セイウンスカイは柄にもなく必死に全身全霊で努力を重ね、キングヘイローはプライドを捨てて泥臭く泥に塗れながら努力を重ね、エルコンドルパサーは今の自分に満足せずストイックに努力を重ね、スペシャルウィークは今まで教わったことを貪欲に貪り糧にして更に努力を重ねている。さて、スクリプトロンガー。君は一体、どうやってこの大合戦を生き延びる?」

 

『わざわざ僕の部屋に待ち構えて開口一番でそれかい?君も中々暇なんだね…どうやって生き延びるも何も、そもそも僕は死んだって死に切らないんだから周りの策を台無しにして自分勝手に走るだけさ。で、君は暇なのかな?』

 

「いいや、暇などではないさ。君に会いたいから無理矢理時間を作ってここに来たんだ」

 

『捉えようによっては僕が大炎上するなあ。』

 

スクリプト(球磨川)がスズカとの併走を終えて部屋に帰ってくるとそこには、何故かトレセン学園生徒会会長こと、シンボリルドルフが鎮座していた。

 

ちなみに、今日もスズカから先頭は奪えなかった。

 

「ああそうだ。流石の君相手でも、急に押しかけるのはまずいかなと思ってね。私イチオシのリンゴを持ってきた。傷まないうちに食べてくれ」

 

『見た感じ…10個くらいかい?僕1人でこんなにリンゴ食べれないと思うけどな。』

 

「ああいや、そのリンゴは2()()()()仲良く分けてくれ」

 

『……もしかして、またうちの子が迷惑かけたのかな。』

 

「捉えようによってはそうとも言えるかもしれんな」

 

なんてこった、とスクリプト(球磨川)は珍しく頭を抱えた。

いやーすまねえな。だって暇だったんだし、ちょっとちょっかいかけに行くくらいは許しておくれ。

 

うん、やっぱり球磨川くんは厄介ごとの渦中にいる姿が一番似合う。

 

「安心院なじみ、どうせバレているのだし、姿を見せてはどうだ?3人で話し合おうではないか」

 

「うん、君相手に隠し事する方が面倒だし、悪平等(ノットイコール)である僕も久々に他人の前で姿を露わにしてみようか」

 

『安心院さん、まさかとは思うが…スペちゃん達にも姿を見せてないだろうね?返答次第でこっちは君を消さなくちゃあならない。』

 

「おおっと久々に物騒だね。それでこそ球磨…スクリプト(球磨川)ちゃんだ。それに大丈夫さ、僕は生徒会長以外に姿を晒してもいなければ、誰かに存在を気取られるようなこともない。だから君が思ってるように『君が勝った時僕のおかげだと思われる』なんて事は京が一にもあり得ねえから是非安心してくれて構わないぜ(安心院さんだけに)」

 

「ほう、スクリプト…君は中々ナイーヴなのだな。今の君が周りからどう思われているかくらい、とっくに分かっているだろうに」

 

『いやまあ、否定はしないさ。弱いからこそ『負完全(マイナス)』な訳だしね。それより僕が心配してるのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだけだよ。どうやらそんなことはしないらしいけれど。』

 

「流石にそれはクソゲーすぎるからね。僕が出張るとパワーバランスが崩壊してインフレが止めどなく進んじまうから、今回ばかりは傍観者で居続けよう」

 

「ちなみにこれは興味から来た質問なのだが…私と安心院なじみが走った場合、どちらが勝つのかな?」

 

『「100%安心院さんが勝つね。」』

 

「──成程、成程、成程…100%、か…それは()()という意味合いで相違ないかな?」

 

『まあ概ねその通りだね。勝ちウマ(プラス)だろうが負け犬(マイナス)だろうがあくまで平等にすり潰す『悪平等(ノットイコール)』。それが安心院さんだからね。めだかちゃん級でもない限り勝てやしない。』

 

「確かに君が()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()僕が絶対に勝つだろうね」

 

「ふふっ…まだ誰にも話したことのない()()()を何故知っている…と聞いては野暮だろうな。まったく、君の底知れなさはまるで深淵を覗いている時に感じる感覚のようだな」

 

「えっと確か一つ目は…『レース終盤に3回追い抜くと最終直線で速度がすごく上がる』んだっけ?僕の記憶力じゃあこの世に蔓延る全ての生命体を個別認識するくらいしか出来ないから、後は君の口から説明してくれよ」

 

「了解した。一つ目の『領域』は『レース終盤に3回追い抜くと最終直線で速度がすごく上がる』、そして『体に神威を纏って身体能力を強化する』という効果だ。二つ目の『領域』は『レース終盤に先団で詰め寄られると最終コーナー以降に闘志を燃やして速度を上げ続ける』、そして『どこでも走れるようになる』。どんな悪路でも、壁でも天井でも水の上でも。こちらは私が追い詰められた時に使用する『領域』だ。自慢ではないが、私はそうそう追い詰められないから、あまり使う機会は無いがな」

 

『それだけでも十分イかれた性能だと思うんだが…天下の皇帝様的には、やっぱり三つ目は語りたくないのかな?すごい渋い顔をしているけれど。』

 

「ああ。これは私にとっても切り札だし、というかそもそもあまり使いたいものでもないからな。心を強く保たねば、きっと私はこの『領域』に甘えて皇帝とは名ばかりの愚人に成り果てるだろうからな」

 

『参考程度に聞かせてもらうんだが、僕の『過負荷(マイナス)』とどちらが上なのかな?比べるべくもないとは思うんだが。』

 

「私の『領域』の方が上だ。というより、この『領域』より上が存在しないと思っている。だって、私の三つ目の『領域』の効果は『"絶対"の力でレース序盤から終盤にかけて速度が上がり続け、持久力が回復し続ける』…つまりは、勝つ。()()()()()()()()()()()()()()()()。レース以外で使えば、トランプでも花札でも囲碁でも五目並べでもチェスでもマンカラでもドミノでも麻雀でもルドーでも将棋でもオセロでもジャンケンでもボウリングでもスキーでもスケートでも野球でもサッカーでもバドミントンでもクリケットでも卓球でもテニスでもバスケでもバレーでもラグビーでもハンドボールでもゴルフでもビリヤードでもダーツでもラクロスでもドッジボールでもカーリングでもホッケーでもクレー射撃でも剣道でも弓道でもテコンドーでも柔道でも薙刀でも空手でもボクシングでも水泳でもフェンシングでもサーフィンでもウエイトリフティングでもエアロビクスでもダンスバトルでもカヌーでもカバディでもボブスレーでもリュージュでも体操でも縄跳びでもトランポリンでもピアノのコンクールでもスポーツクライミングでも雪合戦でも口論でもクイズ大会でも綱引きでも料理大会でも写真コンテストでも釣り大会でも美術鑑賞会でも漫画賞でも数学オリンピックでもインターネットゲームでもライブのチケットの抽選でも何でもかんでも私が勝つ。ちなみに普段使いはとてもいいぞ。使っているだけで疲れが徐々に取れて頭も冴えてくる」

 

『なんだそれ…ちょっとくらいその才能を僕に分けてくれてもいいのになあ。とことんこの世ってのは理不尽だぜ。』

 

「ありがとう会長さん。さて、スクリプト(球磨川)ちゃん。ここまで長々と後付け設定の説明みたいな事をして来たのには、当然意味がある。シンボリルドルフがここにいるのにも当然理由がある。さて、何でしょう?」

 

『そんなのは一つしかない。わざわざ僕のために会長殿が時間をとって『領域』を教えてくれるってことだろう?じゃなきゃあこんなにベラベラと『領域』について話したりしないさ。』

 

「正解だ。今後君の同期達は次々と『領域』に目覚めるだろう。()()()()()()()()()()()()()に、この私が直々に『領域』の何たるかを叩き込んでやる。覚悟しろ。多分分かりやすすぎて引くぞ」

 

『えっそんなに?なんか嫌なんだけど…っていうかさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

「私レベルになれば見ただけで『領域』が分かる。しかし君のは分からなかった。理解が及ばなかった。ならば『領域』ではない他の何かであるのだろう。君が言うにはマイナス…いや、『過負荷(マイナス)』だったか。それは君の身体の潜在能力ではなく、君の心の特殊能力なのだろうな」

 

『皇帝サマは目まで肥えてると来た。あーあー、アホらし。これじゃあ意地張って隠そうとしてた僕がまるで道化だぜ。』

 

「正直なところ、ダービーまでに君に『領域』を叩き込めるかは分からない。どうしても最後は君自身の問題だからな。それでもいいだろうか?」

 

『いや、最後に一つだけ聞かせてほしい。どうして君は、僕にこんなに肩入れしてくれるのかな?確かに自分1人では厳しいってのは分かってたし、ありがたい話ではあるんだが…僕ってば、君に迷惑しかかけていないと思うんだけど。』

 

「……君は、もしや。初対面の時に私が言ったあの言葉の意味を、理解していなかったと?そういうことか?」

 

『初対面の時…ああ、『これから先困った時は呼んでくれ』だっけ。言葉の通り受け取ったけど、それが何か問題なのかな。』

 

スクリプト(球磨川)ちゃん。どう考えてもあれは『友達になろう』って意味だと思うぜ。人付き合いが下手な僕でもそれくらいは分かるのに、まさか君は言葉を額面通り受け取って、深く考えなかったと?だから友達が出来ねえんだよ、『負完全(マイナス)』。それに、ルドルフちゃんは一度だって『一度だけ力を貸す』だなんて言ってないぜ」

 

「その通りだ。君は聡明なようだったし、通じると思っていたが…残念だ。まさか私1人で友達が出来たと勘違いして喜んでいるだけだったとは…悲しみを抑えきれないよ」

 

『そのわざとらしい泣き真似をやめてくれ…ハンカチで目尻を拭いちゃあいるが、布が乾いたままだから悲しんでないのはバレバレだぜ。泣き落とししようったってそうはいかないさ。』

 

「ふふっ、通じるとも思っていないさ。そもそも、私が戯言めいた冗談みたいなことを言ったせいで通じていなかったのだし、責任は私にもあるからな。それでは今一度、聞かせてもらおう。生徒会長としての私ではなく、一個人としての、ただのウマ娘のシンボリルドルフと、友達になってはくれないだろうか?」

 

『当然、大歓迎さ。むしろこちらからお願いしたいくらいだったぜ。やはり持つのは権力を有した友人に限るね。これから頼りたい時は無闇矢鱈に頼りに行くから、覚悟しておいてほしい。』

 

「では友達になったことだし、遠慮は必要ないな」

 

『おいおいおいいくら何でも変わり身が激しすぎるぜそりゃあないだろう!?まさか君たち結託して僕を騙したって言うのかい!?』

 

「概ねその通り。発案は僕だ。君は『友達』とか『仲間』とかそういう言葉に弱いからね、きっと乗ってくれると思っていたよ。さて、ここからは安心院さんとルドルフさんによる地獄phase2だ。しっかりついてきてくれよ?でないと、うっかりぶっ殺しちまうかもしれねーからさ♡」

 

「すまない、スクリプト…だが、効果は保証しよう。これが終わった時、君はきっと今までよりも勝利に貪欲になっているはずだ」

 

『ちくしょう、また勝てなかった…。』

 

おっと、安心院さんってば今の今まで話に夢中になってナレーションを忘れていた。まあいいか。会話文だけで大体伝わるだろう。

 

 

伝わるだろ?

 

 

──────────

 

 

『ふう…酷い目に遭った。』

 

僕とルドルフによる地獄phase2を終えたスクリプト(球磨川)はやはり眠ることができず、『大嘘憑き(オールフィクション)』で眠気を誤魔化して登校していた。

 

「スクリプトさん…何だか日に日に隈が酷くなってるような…大丈夫ですか?」

 

「スクリプト、眠れない時はホットミルクを飲むといいらしいわよ。今度作ってあげましょうか?」

 

『ああいや、自業自得だから別に構わないさ。いやあそれより、こうして3人で登校しているだけで何だか感動してきたよ。友人って本来こうあるべきだよね。』

 

あまりに疲れたせいで何でもない日常に感動するようになっている。そうなるにはまだ若すぎるのだが、あまりの疲れに精神が老いているのかもしれない。

 

「スズカさん…なんかスクリプトさんが捻くれた思想を持った中学生みたいなこと言ってます…」

 

「みたいじゃなくて、スクリプトは捻くれた思想を持った中学生じゃない。スペちゃんが言ってることは何も間違ってないわよ」

 

友人2人もだんだんとスクリプト(球磨川)に対して遠慮が無くなってきていた。良いことなのか悪いことなのかいまいち分からないが、本人が気にしていないのでどうでも良いことなのだろう。

 

『そういえば僕って中等部3年なのか。すっかり忘れてたぜ。』

 

「スクリプトさん、あの…ほんとに一回休んだ方が…」

 

「もしかして、私との併走のせいかしら…」

 

スクリプト(球磨川)があまりにもあんまりなせいで、スペシャルウィークは本気で心配し始めるし、スズカは本気で落ち込み始めた。まだまだ夏が始まってすらいないと言うのに辺りの雰囲気はどんよりとし始め、空気感はさながら夏休み後半の肝試しのようだった。

 

最終的に学校に着く頃にはひと段落ついていたので良かった。あのまま登校しようものなら沖野が理事長秘書に呼び出しを食らうところだったからだ。

 

後日スペシャルウィークとスズカから『眠れない時にどうぞ』という付箋を添えてミルクやハチミツ、そして茶葉とポットが贈られてきたという。スクリプト(球磨川)は友人達の優しい心に触れて涙を流した。




勝手に三つ目の『領域』とか生やして大丈夫か?って思ったけどやりたかったのでやります(天衣無縫)

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