この春に晴れて大学生になったのですが、思ったより忙しいので更新がこの先遅くなると思います。暇ができたら書き進めるので気長にお待ちください。
日本ダービーの後日談……というよりは宝塚記念の後日談と言った方がいいだろうか。何があったかはわざわざ説明せずとも分かるだろうが、サイレンススズカが圧勝して幕を閉じた。
今まで散々圧勝してきたかのように思えたが、実は今回が初のG1勝利であった。当然、スピカはお祭りムードである。なにせダービーウマ娘とグランプリウマ娘を同年に輩出したからだ。これは紛れもない快挙である。
それから。
マックイーンが正式にスピカに入部する運びとなった。送り迎えはもちろん麻袋で行われた。計画犯ゴルシ、実行犯ゴルシの拉致計画は、思いの外難航したようなのだが……まあそれは別の話。
じゃれあうマックイーンとゴルシを見たスペシャルウィークは「2人はウマが合うんですね!」とか言っていたが、彼女の目は節穴なのだろうか。でなければ洞穴だろう。
それから。
合宿で海に行って、BBQをしようとしたら
スペシャルウィークとマックイーンが激怒し、
それはともかくとして、夏合宿で1番イかれていたのは間違いなく沖野だろう。海でツイスターゲームはまだ分かる。普段より不安定な足場は、いつもなら使わない筋肉も鍛えてくれるだろう。
しかし海でペーパーテストをするのはもうよく分からない。学園から持ってきた備品の机が潮風でダメになるだろうし、そもそもそんなものは学園でやればいいというのに。テイオーは「全然海関係ないじゃん!!」と吠えていた。下手したらスピカで1番まともなのは彼女なのかもしれねえな。
それから、ではなくこれから。
トレセン学園ではウマ娘ファン待望の一大イベント、ファン大感謝祭が幕を開けようとしていた!!
以上、安心院さんのあらすじのコーナーでした。
チャンネルはそのままで頼むぜ。
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ファン大感謝祭当日。
トレセン学園は熱気に包まれ、いつも以上に活気で満ち溢れていた。生徒だけでなく、近隣住民やファンの皆様も浮き足立っているように見える。大分騒がしいが、お祭りであるならば騒がねばなるまい。
「今日はみんなで楽しみましょうね!」
「ええ、そうね。ちなみにスペちゃんは何を食べる予定なの?」
「焼きにんじんと焼きバナナと焼きリンゴと焼きナスと焼き鳥と焼きマシュマロと焼きとうもろこしと焼きそばと焼き芋と焼き蛤と焼き肉と焼き魚と焼きうどんと焼きおにぎりと焼き餅と焼き栗と焼きビーフンと焼き餃子と焼き飯とたこ焼きとお好み焼きともんじゃ焼きと串焼きとイカ焼きと鯛焼きです」
『それはまた胸焼けしそうだね。いいこと教えてあげようかスペちゃん、そういうのってやけ食いっていうんだぜ。』
「あっあと焼売ですね」
「スペちゃん、無理して『焼』が付く食べ物を挙げなくてもいいのよ?」
スズカと
こいつはマジだ。
『……ところでさ、スペちゃん。僕とスズカちゃん以外はどっか行っちまったわけだが、どうする?』
「えっあっ!?今日はみんなで楽しむって言ったのに!?」
『テイオーちゃんはルドルフちゃんの所へ、ウオッカちゃんとスカーレットちゃんはどちらが多くの店を回るか競走へ、ゴルシちゃんとマックイーンちゃんは焼きそば売りに行ったぜ。』
「もう、みんな自由なんだから……じゃあ私たちは3人で楽しみましょうか」
「しょうがないですね……よしっ、こうなったら誰よりもお祭りを楽しみます!!」
良い意味でも悪い意味でも、チーム〈スピカ〉の連中は自由奔放だった。奔放というか、奔走というか。それとも傍若無人だろうか。
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「よーし皆!アタシに着いてきな!」
そう言って子供たちを引き連れて走るのはヒシアマ姐さんことヒシアマゾンと、「ちびっこ探検隊」という看板を掲げたナリタブライアン……こいつは、ナリタブライアンなのか?いやまあ、どう見てもナリタブライアンか。
「随分楽しそうだな。最初はあんなに嫌がってたのに」
「んなっ…そっ、そういうお前こそ楽しそうじゃないか…」
ヒシアマゾンは照れで頬を赤く染めながら答えた。もっとも、「照れ」というよりは「気恥ずかしい」といった感じに見えたが。ともかく、2人は子供を引き連れて走っていたのだが、そこに不純物が1人紛れ込んできた。
『やあヒシアマちゃん!強気な顔も弱りきった顔も素敵だったが、今こうして恥ずかしがっている君も可愛いぜ!交際を前提に結婚しない?』
「げえっスクリプト!?やめろまたアタシをそっち側に引き込むつもりだろう!?ブライアンもなんか言ってやんな!!」
「アマさんは料理もできるし掃除もできるしそして何より気遣いもできるからな。良妻賢母というやつだろうか」
「ブライアン!?」
『あっ乗ってくるんだ。いやー意外だったぜ。まさかお付き合いの許可が出るとは思ってなかったし、泣きっ面に蜂だね。』
「いやそれを言うなら棚から牡丹餅だし、泣きっ面に蜂はアタシの方だ!!」
「アマさん、ちびっこ探検隊のメンバーが怖がっているからあまり大きな声は……」
「ブライアンが原因なのにそれを言うのかい……?」
『子供たちが不安そうだし僕はこれで。スペちゃんたちと焼きそば食べなきゃいけないからさ。』
「尚更どうしてここにいる!?さっさとスズカのとこに戻りな!!」
『はーい。』
当然ではあるのだが、
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所変わってここはリギルの執事喫茶。
エアグルーヴ、オペラオー、フジキセキ、そしてシンボリルドルフが執事服をその身に纏い、老若男女を……いや、主に女性を魅了していた。
「……それで、スペシャルウィークが食欲を抑えきれずに暴走したから、スクリプトは暇つぶしでここに来た……そして偶然ここにいたテイオーが悪戯心を発揮して、スクリプトも執事服を纏っている、と……そういうわけだな」
『極めて端的に説明してくれてどうもありがとう。それより、どう?鏡を見てねえからいまいちどうなってるか分からねえんだが…似合ってるかな?』
「君のサービスを所望するファンも多いのだから似合っていないはずが無いだろう。うん、勝負服が学ランだからなのかもしれないが、違和感が無さすぎて違和感を感じるな。完璧な着こなしだ」
『……そう手放しで褒められると、僕と言えど反応に困るな。ルドルフちゃんのことだから適当言ってる訳でもないだろうし。』
「適当な感想を述べているつもりだよ」
『はいはい、状況に適しているって意味での『適当』だろう?さて、それじゃあ僕はモブキャラ共にご奉仕させて頂くとしよう。』
ルドルフは想像の5倍は働く
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更に場を移して、占い屋。
マチカネフクキタルとメイショウドトウが営むこの店には、重苦しい空気が漂っていた。
「すっすすっすっ水晶がっあぁぁ割れちゃいましたぁぁっぁああぁ!?!?!?」
「そんな…!救いは、救いは無いのですか〜!?」
「ありませんッッッ!!!!」
『あのさ、いくら僕が『
そう、
『なんか無いの?ほら、ラッキーアイテムとかラッキーカラーとか。』
「ラッキーアイテムはお古の着物…ラッキーカラーは白と赤ですね」
「救いはあるんですね〜」
『えっマジ?ちょうど持ってんだけど。まさか安心院さん…。』
「そんなピンポイントでラッキーアイテム持ってる人なんて初めて見ましたよ!?早速着替えましょう!」
『えっ今ここで?』
「ここで着替えないと救われないかも…」
そんな期間限定の救済があってたまるか。
『成程ね、僕一人じゃ着物着れないから手伝ってくれようとしてたのか。いやー失敬。他人の厚意に気づかないからいつまでも『
「まあまあお気になさらず!私とあなたの仲ですから!」
「そうですよ、遠慮なさらずに〜」
『今日初対面だけど…。』
なんというか、フクキタルもドトウも愉快なウマ娘だった。
『僕ってば知らず知らずのうちに単独行動してんじゃん。まいっか、どうせスペちゃんはスズカちゃんとべったりでデートでもしてるんだろ。さすがに邪魔する気にはならないかなあ。』
一見人間的に成長しているように見えるかもしれないが、普通に言っていることが無粋なので成長したとは言い難かった。
『ん、ドーナッツ大食い選手権?あーこのままだとタマちゃん負けるなあ。どうせオグリちゃんはドーナッツ食べたいだけだろうし…うん、別にいいよね。『
「スクリプトお前何してくれとんねんコラアアァァァッッッッッッ!!!!!!!!!」
ほら、こういう所だ。
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「えっと、スクリプトさん…その着物は一体何なんでしょう?」
『ああこれ?なんか僕のラッキーアイテムらしいから着てるんだよね。フクキタルちゃんの占いは割と当たるらしいし、素直に言うこと聞いておこうかなって。』
「似合ってるわよ、スクリプト。それが勝負服でも良いくらいに」
『え、嫌だけど。』
「嫌なんデスね…」
日が傾き、そろそろ祭りも終いになる時間帯である。
「それにしても、グラスちゃんってば一体どこにいるんでしょう?色々見て回ったけれど、すれ違うどころか姿すら見えませんでしたし…」
『エルちゃんはなんか知らない?もし知ってる事があるんなら言いたく無いことでも是非言ってくれ。』
「残念ながら知りまセーン…『トレーナーさんには連絡しているので大丈夫』って書き置きだけは残してましたが…それでも心配デス…」
あれで意外と祭り好きの気があるグラスが感謝祭を休むなど、知り合いからすれば信じられない事だった。分かることといえば、相当の理由で休んでいるのだろうという事だけだ。
「怪我が悪化したとかじゃ無ければ良いんですが…」
『うーん、それは無いんじゃないかな。あの子は怪我が悪化したなら『悪化したからまだ皆とは走れない』ってはっきり言うと思うぜ。』
「私もそう思うわ。具体的な原因は分からないけれど」
「グラスと一緒に回りたかったのに何の説明も無しにワタシだけ置いて行くなんて……グラスは薄情者デス!今度目の前で抹茶飲んでやります!」
「中々地味な嫌がらせを…」
『じゃあ僕は派手に嫌がらせしようかな。』
「絶対ダメデース!!!」
とエルが叫んだタイミングで、
周りを見る限り、メッセージは
いくら何でも驚きすぎと言わざるを得なかった。
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ここは砂浜。トレセン学園から少し離れたところにあるこの穴場に、2人のウマ娘がいた。1人は
「ええと…その着物は一体?」
『ああこれね。今日のラッキーアイテムだったから着たまま来ちゃった。』
「なるほど…ああそうだ、まずはご足労いただきありがとうございます、スクリプト。それと、無理を言って来てもらってごめんなさい」
『いやいや、感謝はすれど謝ることなんて一つも無えんだぜ、グラスちゃん。さて、ぐだぐだと話を引き延ばすのもなんだし、とっとと本題に入ろうか。
「そこまでお見通しとは……いや、もしかしてかなり分かりやすかったのでしょうか…?」
『ここ最近君が思い悩んでたのは知っていたし、まあ少し考えれば分かることだよね。その悩みがどれほど重いのかまでは分からないけれど。』
そこまで説明すると、グラスは恥ずかしそうに口を一文字に結び、耳をぺたりと下ろしてしまった。暗闇で分かりづらいが、その頬は赤く染まっているように見える。
「んんっ!とにかく、私はあなたに教えを乞いたいんです。そう、本題はそれです。『領域』の本質が一体どういったものなのか、私に教えてくれませんか?」
グラスが上半身を90度倒す。
『ああ、なんだ。そんなこと?それだったらお安い御用だぜ。困った事があったら人に聞くのは良い手段だと思うよ。』
「本当ですか!ありがとうございます!正直、承諾してもらえるだなんて思ってもいませんでした!それでは早速『領域』を──」
そう言ってグラスは
ザクっという音と共に、自分の足に螺子が刺さって動かせなくなったからだ。
「──え?」
『いやあまさかグラスちゃん、僕がわざわざ他人に塩を贈るとでも?愉快すぎて涙が出てくるぜマジで。今まで僕の何を見て来たのかな。』
脳が段々と状況を理解する。理解するにつれ、感覚が明瞭になる。明らかになっていく。明らかになってしまった。次の瞬間、グラスは声なき悲鳴を上げた。
「─────ッッッ!!」
『もしかして僕が応援の言葉でもかけに来たと思った?慰めの言葉でもかけに来たと思った?それとも発破をかけるとでも思ってたのかな?だとしたら相当おめでたいよ。だって僕がかけに来たのは
「なっ…なんでっこんなことを…!」
『
そう言われてグラスは痛みで鈍る頭をフル回転させ、自分の何がダメだったのかを考えた。しかし、一向にそれらしい答えは出てこない。
『それにしてもまさか。グラスちゃんがそんな甘い考えで動くとはね。しょうもねえ。大方怪我して走れなくなった自分が情けなくて、走れなくなっていく自分が怖くて、走れている僕らが羨ましいんだろ。ふざけるなよ。『
『知ってるんだぜ。ここ最近君が寝不足になってまで何かやってるってことくらい。君の性格ならビデオ研究でもしていたのかな?そんなことしてたって一文一銭の得にもなりやしないっていうのに。』
「そんな、ことは…!」
『あるんだよ。見るだけなんて生きていれば誰でもできる。聞くのだって誰でもできる。今の君は誰にでもできることしかやってねえんだよ。アイデンティティなんてない。存在意義なんてない。『
『それに君はまだ
「だったらどうすれば良かったんですか!?ジュニアチャンピオンになったっきり、皆と並んで走ることも競うことも争うことも出来なかったんですよ!!怪我で足踏みをしている間に他のみんなはどんどん成長していって私だけが仲間はずれみたいになって!!それでも置いていかれないようにデータ収集して倒れそうになる程筋トレだってして、寝る時間だってかなり削られたけれど、それでもめげずに頑張って!!それで一体どうすれば…」
『いやだから知らねえって。そこを自分で考えろって僕は言ってんだぜ。心が弱ってるからって『
再びグラスは黙り込む。あまりにも話が通じない、価値観が違いすぎるためだ。グラスとしては行き詰まった時に他人の力を借りるのは当然のことなのだが、かの『
少しだけ頭の作りが違う。少しだけ心構えが違う。たったそれだけのことで、ここまで真逆の意見になってしまう。何を隠そうこの2人、最高に最悪な相性なのだ。壊滅的に歯車が噛み合わない。そもそも歯車の回転の向きが真逆なのだ。つまり、そりが合わない。
「でも、これ以上どうしろって……」
『そこがダメならグラスちゃんは一生そのままさ。君はもっと苦しまないとスペちゃんには勝てねえぜ。じゃ、そろそろ眠いし僕は帰るよ。足は元に戻しとくから帰りたいと思った時に帰ればいい。それじゃまた今度ね。』
そう言うと
──────────
「……君は本当に損な役回りが好きだな。もしかしたら友人を1人失うかもしれないんだぞ?」
遠くから隠れて監視していたルドルフが
『その時はその時さ。それに、嫌われるのには慣れてる。憎まれるのも疎まれるのも僕にとっちゃあ親愛なる隣人くらいには身近なもんなんだぜ。』
「私から言わせて貰えば、君はもっと自己評価を高くした方がいい。謙遜が美徳だと考えているのならそれは間違いだ。行きすぎた謙遜は皮肉や嫌味、ひいては侮りだと捉えられるぞ」
『別にそういうんじゃないさ。それに、本当のことを言って何が悪い?正論が時に暴言足り得ることは知識の片隅に入っているが、正直そんなこと気にしながら話したこともないしね。あとは、そうだな…。』
「どうせ君のことだ、グラスワンダーが極限まで突き詰めていないのが気に入らないんだろう?それに会話の節々に少しヒントを加えたり…なんだかんだ口では言いつつも、中々君は友達思いだからな、君の意図にグラスワンダーが気づいてくれればいいのだが」
『気づいてもらわなきゃ困るんだよね。『
「だから敵に塩を贈っていると…そういうことだな。それにしては些か甘すぎるように見えるが?」
『僕は友達には甘いのさ。それこそ角砂糖とかより全然甘い。…さて、わざわざ嫌われ役を買って出たんだ。これで『何も分からなかった』とか『何も変わらなかった』とか抜かしたら今度こそ存在をなかったことにしてやるぜ、グラスちゃん。』
「そうならないことを願っているよ。まあもしそんなことをしようとしたら私が生徒会長権限で君を拘束するのだけれど」
『やれるもんならやってみなよ。』
2人の物騒な会話は、寮に着くまで一度たりとも途切れることは無かった。やはりどこか似ているところがあるからだろうか。
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「私に足りないもの…」
「私がまだやっていないこと…」
「私が避けて来たもの…」
「スクリプトさん、きっとこれは、あなたなりのアドバイスなのでしょうね」
「ならば…私は私にできることをしましょう」
「いつかあなたと走る日まで、文字通りに、死ぬ気で」
今、ここに火種が生まれた。荒れ狂う彼女の心の火は、この瞬間に初めて隠しきれなくなったのだった。
色々書きたいことがありすぎて散らかりっぱなしです。
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