負完全ウマ娘   作:Minus-4

24 / 26


RTTTの熱に浮かされ書いたので、勢いだけで書いてる場所がいくつかあります。ぜひ笑ってやってください。




第−22箱『甘やかすよりは』

 

 

暖かい。

 

菊花賞当日、京都レース場は秋らしからぬ気候だった。大凡の気温は21℃、天気は先ほどまで曇っていたが、運の良いことに突然雲が散り、晴れ間が広がっていた。

 

暖かい日差しが全てを等しく照らし、少しだけ残った大きめの雲は夏を想起させる。木枯らしが吹いて枯葉が舞うことはなく、心地よい涼風が吹き、やや青々とした芝が風に揺られている。つまりは、絶好のレース日和。

 

いっそ昼寝でもしたくなるような、そんな一日。

 

 

──────────

 

 

「それにしても、まさかみんな応援に来れないなんて……今まで来てくれていた分、ちょっと寂しいですね」

 

『しょうがないさ。競馬……じゃない、レースは年末の方に多いし、沖野ちゃんもスズカちゃんも忙しいだろうからね。』

 

スペシャルウィークとスクリプト(球磨川)はパドックでそんな会話をしていた。もっとも、二人とも応援が無いだけで調子が変わるほど柔でも無いのだが。

 

「そういえば今日は晴れてよかったですね!レース場に入る前まではどんより曇ってたのに、入った瞬間晴れるなんて、何か運命的なものを感じます!」

 

『運命、運命ねぇ……。やっぱ僕たちの日頃の行いが良いからだと思うんだけれど、キングちゃんはそこの所どう思う?』

 

「そうねぇ……」

 

「うっひゃあ!?」

 

突如自分の後ろから現れたキングに驚いたスペシャルウィークは、それこそ聞いた方が驚くであろう声量で叫んだ。その声に驚いたウマ娘全員の耳と尻尾が一斉にピンと張っていたため、この場面は動画に残して拡散され、ややバズることになる。

 

「ちょっと何よ!人の声にそんなに驚いて!」

 

「いやっだって、キングちゃんってもっと存在感強くなかったですか?今はほとんど感じなかったから……」

 

「ああ、それは……ほら、ここ最近の私って事あるごとに王威……つまり『領域』を使ってたじゃない?だから使ってない時は存在感が薄いのかしらね。まあいまいちよく分かっていないのだけれど」

 

「ええ……それって不便じゃないんですか?」

 

「特に。だってスペシャルウィークさんだけよ?私に気づかない時があるの。最近存在感が強い、というよりキャラが濃い人とよく関わっていたみたいだし、感覚が少しおかしくなっちゃってるのかもしれないわね」

 

言われてみれば確かにそうかも、とスペシャルウィークは地下バ道を歩きながら思った。スピカの面々に加え、エルやグラス、果てにはスクリプト(球磨川)とかいう厄ネタと常日頃関わっているのだ。

 

「スクリプトさん、責任とってくださいね」

 

『いや僕だけのせいじゃないから。僕は悪くない。』

 

 

「じゃあ私のせいかもね〜」

 

 

「ッ!?」

 

セイウンスカイはそう言って突然現れ、話に割り込んできた。どこからともなく、突然現れたのだ。三角形の形で会話していた()()()()()()

 

あまりにも現実離れしたその光景による困惑からいち早く復活したのは、やはりスクリプト(球磨川)だった。

 

『……やあ、セイちゃん。最近見なかったけど、元気だったかい?』

 

「元気だよ。調子だって最高。今日の私は一味どころか三から四味は違う」

 

『君が自信満々にそんな言葉を口にするとはね。だけどセイちゃん、僕の前ではともかく、この二人の前ではそんな事は言わない方が良かった。』

 

 

『滾っちまうからね。』

 

 

スクリプト(球磨川)がそう言うと、高圧的なオーラと高貴なオーラが噴出した。スペシャルウィークもキングヘイローも普段は朗らかだが、こと勝負事となれば、挑発は真正面から捻り潰したくなるタチだからである。

 

そこにさらに『負完全(マイナス)』特有の纏わりつくようなオーラが加わり、セイウンスカイは三つの威圧の増幅点で、その全てを一身に集めることになった。二秒でもその場にいれば、たちまち精神が削られていくことだろう。

 

 

「それで?」

 

 

しかし飄々としているセイウンスカイは、特にそれらを気に止めることなく、ついでに欠伸や伸びをしたりしていたので、誰の目から見てもセイウンスカイが怖気付いていないことは明白だった。

 

(いやいやそれはおかしいでしょう?驕るつもりは無いけれど、私の威圧はさらりと受け流せるほど軽いものじゃない……それに加えてスペシャルウィークさんの体が震えるほどの威圧と、スクリプトさんの『負完全(マイナス)』のオーラもあるのに……これが演技じゃ無いとすれば、私の勝ち目はかなり薄い……けどまあ、精一杯やりましょう)

 

(ふーん、セイちゃんってば健気にも効いてないフリなんてしちゃって、本当可愛い子だぜ。ここまでしなければならない程の策があるってんなら、それにわざと乗ってやるのも吝かではねえが……正直見当も付かないし、僕は僕でやりたいようにやろーっと。)

 

(スカイさん、ダービーの時とはまるで違う……前より力がこもってないように見えるのに、それでも底が知れない……きっと夏から今まで、私達以上に追い込んで追い込み切ってきたんだ。元から油断なんてするつもりはなかったけれど、そもそもここまで仕上げてくるのが想定外……どうやらスカイさんの事を下に見てしまっていたみたい……反省して対策しなきゃ)

 

(って思ってるんだろうなぁ)

 

「結局根性なのよね……」

 

『いいや、才能だよ。結局のところね。』

 

「いえ、結局心の持ちようだと思いますけど」

 

「いやいや、結局は努力だよ〜」

 

四人は笑みを貼り付け、心理的なアドバンテージを得る為に余裕であることを装った。実際には、誰一人として、余裕のかけらの一つも有してはいなかったのだが。それからしばらくして、四人は示し合わせたように真剣な表情になり、そして地下バ道からターフの上へと向かっていった。

 

『一応言っとくけど、今日の僕は本気だぜ。元箱庭学園生徒会副会長として、一つくらい冠を取っとかないと後輩に示しがつかないからね。』

 

「ええ、勿論。当然私も本気で行くわ。元々できることが多いわけでも無いし、だったらできることだけ精一杯やって見せる」

 

「当然、私もです。ダービーウマ娘として、無様な走りはしません。どんな策でも正々堂々、真正面から飲み込んでみせます」

 

「んー……そういうの思いつかないな。でも、勝つよ。今日は私が勝って、それでみんなの泣き顔でも拝ませてもらうことにする」

 

四人はそれぞれ、菊の冠に向けた意気込みを口にして、薄暗い地下バ道から光の当たるターフへと足を進めていった。

 

 

──────────

 

 

声、声、声。

テレビの画面越しからでも分かるほどに、京都レース場は過去最高クラスの盛り上がりを見せていた。『黄金世代』()()のうち、四人が揃い踏みである今回の菊花賞はやはり人々にとっても、またウマ娘にとっても一大イベントだった。

 

「さて、マックちゃん。今アタシらはトレセン学園内の食堂にある巨大モニターでスクリプトとスペのゆう志を見届けているわけだが」

 

「ゴールドシップさん、それは分かっているのですが……なぜ『勇姿』の勇が平仮名なんでしょうか?」

 

「ほら、最近『女優』とか『サラリーマン』とか、そういうの厳しいだろ?ゴルシちゃんはその辺も気にしてるってわけよ」

 

「あなた漢字間違えてません?『雄志』は心持ちの話であって、見届けるのは『勇姿』ですわよ」

 

「やっべ普通に間違えた……おふざけや戯れ事じゃなく普通に間違えたわ」

 

「頭良いんだか悪いんだかいまいち分かりませんわ……」

 

大仰な動作で分かりやすく落ち込んでいることを表現しているゴルシを奇異の目で見る者はそこにはいなく、寧ろ黄色い声が飛んでいた。マックイーンは正直さっさとこんな異様な空気はお終いにして欲しかった。

 

「それより、ゴールドシップさん。どうしてわざわざ食堂に集まったんです?お二方の応援ならスピカの部室でも事足りると思うのですが……」

 

「んー?いやそりゃあ、大勢で応援した方が楽しいからだろうが。それにこれだけ人がいればスピカに勧誘し放題だしな!」

 

マックイーンの質問に、ゴルシは()()()()()()()()()()()()()。つまり、普段とは様子が違う。何かがおかしい。そして、マックイーンはそこに気づかないほど愚かなウマ娘ではない。

 

「……本当の目的は何なのですか」

 

「あちゃー……やっぱマックちゃんにはバレるか。一応今の演技でスクリプト以外は騙せるんだけどなぁ……」

 

「あなたが私を揶揄わない時は何か隠している時、そして揶揄う時も何か隠している時ですから……まあカマをかけただけですわよ」

 

つまりゴルシは墓穴を掘った。いずれ自ら掘り返す穴ではあったが。観念というより感心しながら、ゴルシはマックイーンの耳元で小声で話し始めた。周りには決して聞こえないような声量で。

 

「さっきスペからメッセージ来ててよ、『さっきまで曇ってたんですけど晴れて良かったです!晴れ舞台です!』って言ってんだ」

 

「曇っていた……?もう、ゴールドシップさん、また私を揶揄っているのでしょう?だって京都はあんなにいい天気──」

 

 

「違う。目を覚ませ。天気は曇りだ」

 

 

「──あら?急に曇りましたわね……いや、わたくしには何故か晴れているように見えていたというだけで、本当はずっと曇っていた、ということですか?」

 

「そういう事よ。そしてなぜか、アタシを除いた誰一人として、この異常事態に気付いていない。明らかに曇ってるのに実況と解説は『これ以上ない心地よい天気』なんて言ってたからよ、ついにアタシはおかしくなっちまったのかと思った」

 

珍しくしおらしい様子のゴールドシップに、マックイーンはそこそこ驚いた。自分を強く見せる癖のあるこの娘が、まさか自分に向けて弱い部分を曝け出してくるとは微塵も想像していなかったからだ。

 

「絶対に違うと分かった上で言わせてもらいますけれど……心が晴れたとか、そういう言葉遊びなのでは?」

 

「いや、その可能性はない。念のためスクリプトにも『そっちの天気曇ってる?』ってメッセージ送ったんだけどよ、『いいや、晴れてるぜ。夏みたいな雲だってあるし秋とは思えないほど良い気候だ。』って返ってきた」

 

「なるほど、レース前にわざわざ意味のない悪戯を二人で示し合わせてやっている、という風には考え難いですし……つまり、京都レース場で何か、それこそ集団幻覚のような異常事態が発生していると、あなたはそう考えているのですか?」

 

「ああ。ただなマックちゃん、アタシが危惧してるのは京都レース場のことだけじゃあねえんだよ」

 

いつになく真剣なゴルシの声色に、マックイーンの背筋も自然と伸びる。今回の一件は、決しておふざけでも戯言でも無いのだと、そう理解し始めたからだ。なんだかんだ言ってもこの二人の相性はいい。

 

「さっき言ったよな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って。それは()()()()()()()?」

 

「何処までって、それは……レース場と、精々がトレセン学園内くらいではないのですか?仮に出走者の中の誰かの『領域』だったとして、そこまで広範囲に効果があるとは思えないのですけれど……」

 

「アタシもそう思ったさ。それにしてもヤバいが、だったらこの『領域』は何処まで効果を及ぼしてるのかって思った。だから、アタシはワープまで使って、それこそ日本中を駆けずり回ってきた。北は北海道、南は沖縄まで。レースに関するテレビだけではなく、リアルタイムの天気予報とかもきっちり調べてきた」

 

マックイーンは正直、ゴルシの言っていることが信じられなかった。今回の一件は、あのゴールドシップが、普段飄々としていて掴みどころのないゴールドシップが、そこまでするほどの事態である事を信じたくなかったのだ。

 

しかしゴルシはやや顔を青くし、調査の結果を口にした。

 

「──異常は、無かった」

 

「はい?」

 

「だから、異常は無かったんだよ。何も無かった」

 

「ええと、それなら良かったのでは…………ちょっと待ってください、ゴールドシップさん、まさか、『異常が無い』というのは……!」

 

 

「何を見ても、京都は晴れてたんだ」

 

 

マックイーンは絶句した。何か口に出そうとして、しかし二の句を継げなかった。ゴルシが「何を見ても」と言ったということは、文字通りに打てるだけの手は打ったということになる。

 

「アタシだって信じたくねえ。だってそうだろ?何処へ行っても何を見ても、京都が曇っているのを認識しているのはアタシだけだ。今だってそうだ、この食堂にいる奴ら、ここにいないけど部屋や部室でレースを見ている奴ら、果ては……シンボリルドルフまでもが、『京都はいい天気だ』と認識してる」

 

ゴルシは矢継ぎ早に話す。自分一人だけの秘密をさっさと誰かに共有して、肩の荷を少しでも軽くするために。

 

「なあ、マックイーン。アタシは怖いんだ。アタシ一人だけ幻覚を見てるとかだったらさ、それならそれでいいかって思えるんだよ。だけど、()()()()()()。スペもスクリプトも、それどころか日本全域を巻き込むレベルの異常現象なんて、それはもう『領域』なんかじゃあない。もっとヤバい、未だ知られていない他の何かだ」

 

「ゴールドシップさん……」

 

「これは何なんだ?誰がやった?どういう効果なんだ?一体いつから?おかしいのはアタシか?世界の方か?それともどっちもか?あんなの何処でも見たことがない。どの世界線でも見たことがない。だけどスクリプトがやってるわけじゃない。これは何なんだよ、何なんだよ、何なんだ?なあマックイーン、助けてくれ。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マックイーンは、まるで何も知らない子供のように恐怖に震えるゴルシの体を抱きしめた。一体何が起きているのかとか、何をそんなに怖がる事があるのかとか、そういう疑問の一切合切をひとまず置いておいて、怯える目の前の娘を安心させてあげなければ、と思ったからだ。

 

「……マックイーン……」

 

「……とりあえず、落ち着きましたか?知らない事は知ってしまえば怖くなんてありません。菊花賞が終わった後、お得意のワープで京都に飛んで、その後聞き込みでもすればよろしいではありませんか。そうすれば『未知』は『既知』へと変わります。ゴールドシップさん、あなたは幸運ですわよ。今日だけでとっても賢くなれるのですもの」

 

「ありがとう……おじいちゃん……」

 

「そこはせめておばあちゃんにしてくださいませ!!あとあなた実は結構余裕あるでしょう!!」

 

「バレた?」

 

このあとゴルシは、いつもの流れ通りにダイヤモンド並みの強度を誇る目を潰されることとなった。完全に自業自得である。

 

 

──────────

 

 

──違和感。

スクリプト(球磨川)は発送直前のゲートの中で、言いようのない違和感に苛まれていた。違和感の発信源は、()()()()()()()()()()()()

 

芝の様子がおかしい。空の様子がおかしい。空気の様子がおかしい。皆の様子がおかしくないことがおかしい。おかしいと感じていることがおかしい。自然なのに不自然なのがおかしい。何かがおかしい。とにかくおかしい。

 

考えても考えても、全てがおかしいことの理由が『領域』以外に見つからなかった。しかし走り始めてもいないのに『領域』を使う理由が分からない。そしてその中で、セイウンスカイだけが一切の違和感を発していないことに違和感を覚えた。

 

だから、話しかけてみることにした。

 

『セイちゃん、一つ質問があるんだが、何かした?』

 

うん、色々とねいや?別に何もしてないけど」

 

『そっか、それなら別にいいんだけどさ。ほら、いきなり天気が晴れるのってやっぱり『領域』以外に説明のしようがないし、もしかしたら君の仕業かなーって。』

 

やっぱ鋭いねぇ、大正解あはは〜そんなわけないじゃーん。セイちゃんは今日も平常運転ですよっと」

 

(うーん、僕の見立てが当たるとはね。確実にセイちゃんは何か隠している。いっそのこと『大嘘憑き(オールフィクション)』で全部なかったことにするのも視野に入れるべきかな。物語的にはつまらなくなるだろうけど。)

 

スクリプト(球磨川)はそこまで考えて、一旦レースに集中することに決めた。意識を素早く切り替え、ゲートが開くのを待つ。セイウンスカイがハナを取りに来ることを予想し、それよりも先にハナを取る。今日の作戦は『逃げ』に決めた。今決めた。

 

そして、無機質な音を立ててゲートが開く、と同時に()()が勢いよく飛び出し、好スタートを決めた。そして、それはスクリプト(球磨川)の計画、スペシャルウィークの計画、キングの計画が破綻したことを意味する。

 

 

「じゃあ私は後ろからのんびり行くね〜」

 

 

セイウンスカイが最後方に付けたからだ。

 

「なっ……スカイさんが……『追い込み』!?」

 

「待ちなさいよあなた追い込みなんてできるの!?」

 

『おいおいセイちゃん、奇を衒った事したって勝てるとは限らねえぜ?』

 

「奇策だって自覚はあるけどさ、それにしたって、そんなに私ばっか見てて良いのかな〜?前見なよ前」

 

三人は言われた通りにセイウンスカイを見ることをひとまずやめ、誰もいないはずの前方に目を向けた。するとそこには、セイウンスカイを含めた四人以外の出走者全員がいた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 

スペシャルウィークとキングは瞬時に察した。()()()()()()()()()()()使()()()()()。効果について詳しい事は何も分からないが、少なくとも自分の走りを強化するタイプではない事は確かだった。

 

一方スクリプト(球磨川)はといえば。

 

天才(プラス)が『負完全(マイナス)』の真似事するなって言ってなかったっけ?言ったよね、何回言ったら分かんのかなマジで。』

 

((嫌な上司みたいな詰め方してる……!))

 

(嫌な上司みたいな詰め方してくるじゃん……)

 

嫌な上司の詰め方でセイウンスカイに詰め寄っていた。ついでとばかりに『負完全(マイナス)』特有の不気味さも醸し出してはいたが、ここ最近はみんな慣れ始めてしまったため、あまり効果があるようには見えなかった。

 

『はぁ……お節介かもしれねえけどさ、一応これでも僕は、らしくもなく君のためを思って言ってるんだぜ。君は自分らしく走ってると思ってるのかもしれねえが、()()は僕に影響を受けて真似してるだけの猿真似だ。そんな『過負荷(マイナス)』は君には必要……』

 

「いやいや、ちょっと待ちなってスクリプト。そもそも間違えてるよ。私はプラスかマイナスかで言えば、間違いなくマイナス側でしょ。自分に出来ないことをやってる奴がいたら嫉妬するし、レースで負ければみっともなく憤怒したりする。何でもかんでも欲しがる強欲な奴だし、だけど本気で何かに取り組む事は出来ない怠惰な奴。だから私にはマイナスが……」

 

『いやそもそも『過負荷(マイナス)』じゃなくて『マイナス』な時点で違うんだって。っていうかさ、君が言ってる事は大半の生命体に当てはまるから。占いと同じ手口だぜそれ。』

 

「えっ、あっうん……いやでも」

 

『そもそも『過負荷(マイナス)』っていうのは生まれつき劣等感を抱えてる奴らのことだから。ダービーまで絶好調だった君が言っても説得力無いって。』

 

「えっと、あの……スクリプトさん……」

 

「その辺でやめてあげたらどうかしら……」

 

『断る。僕はこう見えても案外お節介焼きなところがあるからね、思い上がった、いや、遜ったバカを存分に叩かせてもらう。分かるかい、セイちゃん、君は出過ぎた釘だ。叩かれないなんて甘い考えは捨てろ、引っこ抜いて全身を露わにして、恥ずかしい辱めを受けさせてやる。ほら、恥ずかしがれよ。』

 

「キングさん、私たちは前行きましょうか……」

 

「そうね……あの二人はともかく、私たちは『追い込み』なんて出来ないもの」

 

 

──────────

 

 

スクリプト(球磨川)はレース中にも関わらず、矢継ぎ早に話し続ける。セイウンスカイがああ言えば、スクリプト(球磨川)がこう言う。キングとスペシャルウィークが不憫に思って途中で止めに入っても、その勢いは止まるところを知らなかった。

 

『さて、セイちゃん。ここまで言ってもまだその『過負荷(マイナス)』もどきを使い続けて走っている奴ら全員を危険に晒し、あまつさえ『過負荷(マイナス)』を自称するなら、正真正銘の『負完全(マイナス)』としては、次は実力行使も辞さない構えだけど。』

 

「いやもうほんと、私が間違ってました……」

 

2,000mに渡ってスクリプト(球磨川)はセイウンスカイに『過負荷(マイナス)』の何たるかを叩き込み、そろそろレースも終盤というところでセイウンスカイはようやくレースに集中できる環境に復帰した。

 

『つまるところ、君のその『過負荷(マイナス)』もどきは()()()()()()()。そこまで鍛えられてるんだからさ、最後の最後で楽な方に逃げるのやめようぜ。年中楽ばっかしてる僕が言うなって話だけど。』

 

「うん……ま、そうだね。そこまで言われると何だかズルしてる気分になるし、折角の大舞台なんだ。最後くらいは実力勝負してみるのもまた一興かな〜」

 

セイウンスカイはそう言うと、体からふっと力を抜き、その場から消え去った。

 

『……まさか、ここまでとはね……もしかしたらマジで『過負荷(マイナス)』だったのかもな……。』

 

スクリプト(球磨川)()()()()()()()()()そう口にした。

 

 

──────────

 

 

「まさか、まさかまさかまさか、スカイさんの『領域』の効果って……!!」

 

「してやられた……ッ!!レースが始まる前から、いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「大正解。私の『過負荷(マイナス)』もどきの効果は『あり得ない可能性を現実にしているように見せる』。だから曇ってるはずの空は晴れてたし、『逃げ』てるはずの私が『追い込み』の作戦を取ってるように見えたってこと〜」

 

一瞬にしてハナに現れたセイウンスカイは、既に競り合いを開始していたキングとスペシャルウィークに向けて、さらりとネタバラシをした。

 

「スクリプトさんはっ、まだ後ろに!?」

 

「うん、最後方も最後方。だけど今過去に類を見ないくらいの猛追してきてるし、追い抜くついでにみんなの疲労を「なかったこと」にして()()()()調()()()()()()()っぽいから……」

 

「じゃあ、スクリプトさんの『領域』がもうすぐ来るってことね……上等じゃない……!キングの生き様見せてやるわ……!!」

 

残り800m。

 

セイウンスカイはここまで温存してきたスタミナを使い、徐々に速度を上げていく。それにスペシャルウィークとキングも付いていき、今の内にスクリプト(球磨川)との距離を取ることを選んだ。

 

「ふぅっ……やっぱズルした方がっ、楽だったなぁ……!」

 

「はっ、はぁっ、まだ、まだ足りない……!」

 

「大丈夫大丈夫、行ける、行けるわ……」

 

残り700m。

 

後方から不気味な気配を感じる。三人は掛からない程度に速度を上げていき、今のうちに少しでもスクリプト(球磨川)と距離を開けておこうともがく。それでも、少しずつ、しかし着実にスクリプト(球磨川)の『領域』との距離は近づいていく。

 

(くっそ、このままじゃ勝てない……!普通に走ってれば勝てたかもしれないのに、土壇場で『過負荷(マイナス)』もどきに頼ったせいで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……『あり得ない可能性を現実にする』せいか……!)

 

(まだ、まだ走れるでしょう私!!スクリプトさんの『領域』に呑まれた時点で私のレースが終わるなら、ゴールまで『領域』に追いつかれなければいいだけの話……だけど、今の私にそんなことが……いや、やるのよ!下を向くな!前だけ見て、泥臭く突っ走ることだけ考えなさい!!)

 

(ぐっ……勝つ、勝つ!!『勝った時のことを考えろ』なんて考えるな!!ただ我武者羅に、一生懸命に、狂ったみたいに前に出ろ!!『負完全(マイナス)』を打ち倒すことは出来ない、なら相手はスクリプトさんじゃない!!勝つのは、自分に対してだ!!外じゃなくて内を見ろ!!少し景色が暗くなるくらい、なんてことないはず!!)

 

残り600m。

来る。

 

 

 

 

 

やあ、遊びに来たぜ。

 

 

「何だ、()いねスクリプト!もっと後ろにいて欲しかったな!できればレース終わるまで!」

 

『まだ話す余裕があるって事は、本格的に『過負荷(マイナス)』もどきを使うのはやめたらしいね。あーあ、騙されてやんの。あれ使ってれば勝ててたと思うなー。』

 

「それもお得意の大嘘でしょ、まったくもー、スクリプトってもしや性格滅茶苦茶悪いッ……だろ!」

 

『逆にいつから性格いいと思ってたのか甚だ疑問だね。『負完全(マイナス)』を自称する奴の性格がいいとでも思ったかい?』

 

「確かに……言えてるね!!」

 

(何で話す余裕があるのかしら……!私なんて前向いて走るだけで精一杯なのに……!)

 

『おや、キングちゃん、辛いなら諦めてもいいんだぜ?皐月賞ウマ娘の君を責める奴なんていないさ。』

 

「っ……諦め……ても……っいいえ!!誰が諦めるもんですか!!あまりキングを舐めないで!!」

 

『そうかい。じゃ、その選択を後悔しながら負けてくれ。僕は悪くない。悪いのは君だ。』

 

 

『僕は悪くない。』

 

『君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い  

 君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い。』

 

『君が悪くて』

『いい気味だ。』

 

 

それは悪感情。それは呪詛。それは『負完全(マイナス)』。

その全てをまともに浴びながらも、気高き王は前だけを見据え続ける。勝ちの目など一つもない。仮にスクリプト(球磨川)の『領域』を跳ね返したとして、待っているのはほぼ万全のセイウンスカイと『領域』を持つスペシャルウィーク。

 

 

「そんなの諦める理由にならないのよッ!!」

 

「私の名前はキングヘイロー!!」

 

「誰よりも強い勝者ッ!!」

 

「その未来は輝かしく!!」

 

「王の名を負うウマ娘!!」

 

「それが私!!キングヘイローなのよ!!」

 

 

キングヘイローはなりふり構わずに、纏まり切っていない『領域』を無理矢理発動させ、世界に罅を入れる。

 

『流石キングちゃん。そうでなくっちゃあ、僕としても折り甲斐がない。どうか君はそのままでいてくれ。折れた時が楽しみだ。』

 

「黙りなさい。王の御前よ!!」

 

残り500m。

 

やはりここで動いたのは、『世代の大将』と名高いスペシャルウィークだった。

 

『私のこともッ、忘れないで下さいよ!!』

 

『まさかここで()()を使ってくるとはね。てっきり忘れたもんだと思ってたが、覚えてたんだ。』

 

スペシャルウィークは『負完全(マイナス)』に成り下がり、スクリプト(球磨川)と相似な存在になることによって『領域』による負荷を無効化した。しかし、それでは絶対に、何があっても勝つ事は出来ない。

 

『だから、スカイさんを捉えます、捕らえます!!今から、100mでッ!!追いつく!!追い抜く!!置いて行ってやる!!』

 

「ッ……どこに、そんな脚を……!」

 

『教えませんッ!!考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えに考え抜いてから聞いてくださいッ!!』

 

 

『その間に置いて行きますから。』

 

 

スペシャルウィークがそう言うと同時に、その顔から全ての表情が消え、反転した『領域』が発動する。地上の全てが空へと吸い込まれて行き、『領域』の世界は草の一つさえも生えていない死の大地と化す。プレッシャーは更に増し、唯一『領域』の発動が出来ていないセイウンスカイは、まともに走れるわけが無かった。

 

呑まれ、罅割れ、化ける。

 

そして、負ける。

 

 

 

 

 

 

 

また、負けるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなのいやだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。

 

 

 

それだけは、絶対に、いやだ。

 

 

 

今まで間違え続けてきた。今まで怠け続けてきた。今まで他人を羨んでいた。今まで自分を貫き通して来なかった。今まで負けてきた。

 

 

きっと今までなら諦めていた。

 

 

だけど、もう諦めない。

 

 

だから、負けない。

 

 

 

 

「勝つのは私だぁぁッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

セイウンスカイから、『過負荷(マイナス)』とは別の、もっと別の何かが溢れ出す。その瞬間、空も、陸も、人も、『異常(アブノーマル)』も、『負完全(マイナス)』も、その全ては等しく、母なる海へと還る事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを呑み込む闇は、さざなみに飲まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「……ここは、スクリプトさんとは別の『領域』……」

 

「なるほど、スカイさん、あなた……この土壇場で、自分の『領域』を見つけ出したのね」

 

そこは穏やかな海の上。少し大きい筏の上に四人は立っていた。そして、そこにいる全員が何となく、セイウンスカイの勝ちを確信していた。

 

「……それにしても、まさか皐月賞での意趣返しをされるとは思ってもいなかったわ。あの時は王宮で、ダービーは闇と星の降る野原。そして今日は海の上……どうやら一つとして同じ『領域』は存在しないようね」

 

「意趣返しのつもりは無かったんだけど……まあでも、結果的にそうなっちゃった。これでおあいこって事で、許して欲しいなって思ったり」

 

「許すも何も、別に気にしてませんよ!ですよね、キングさん、スクリプトさん!」

 

スペシャルウィークの言葉に、セイウンスカイは首を傾げる。それに対してキングとスクリプト(球磨川)は当然と言ったふうに頷き、そして一斉にセイウンスカイに獰猛な視線を向けた。

 

 

「まだ諦めてなんていませんから」

 

 

「知ってる」とセイウンスカイは返した。

 

レースは終盤。

しかし、勝負はまだ終わっていない。

 

 

ここからは、『領域』の勝負ではない。

 

 

 

 

 

 

 

『勝ちたい』と強く願ったものが勝つ。

 

 

 

セイウンスカイが逃げる。それをスペシャルウィークとキングヘイローが猛追する。差して、差されて、時折順位が入れ替わる。スクリプト(球磨川)が威圧に緩急をつけて緊張と緩和によりリズムを乱し、セイウンスカイが『領域』の効果で後続を躊躇わせる。スペシャルウィークはそれらを一身に受けつつも我を貫き、キングヘイローは宣言通り王道を突っ走る。

 

しかしそれでも、ここまで約3000m走ってきた適正外の脚に、ゴール前の坂は少々無理があったようだ。

 

「くっ……まだっ、こんなところで……後少し……!」

 

キングヘイローが最初に落ち、スペシャルウィークがそのタイミングで再び『領域』を発動、セイウンスカイに詰め寄る。

 

坂を登りながらもスペシャルウィークは少しずつセイウンスカイとの距離を縮め、その差は既にクビ差程だった。半バ身差でスクリプト(球磨川)、根性だけで走っているキングはそこから三分の四バ身ほど後ろに付けている。

 

落ちたとはいえ十分チャンスはある。結局の所、菊花賞は初めから終わりまで四人で潰し合うレースだった。

 

「うああああぁぁぁっっっ!!!」

 

「はああああぁぁぁっっっ!!!」

 

セイウンスカイとスペシャルウィークの叫び声が響く。力の限りを尽くして前へ前へと進み、なりふり構わず、一心不乱に突き進む。そうやって思い切り走って走って、走り切った先で。

 

 

先にゴール板を踏んだのは、セイウンスカイだった。

 

 

残り、0m。

 

菊花賞、決着。

 

 

──────────

 

 

「はぁっ、はぁっ……勝った……?」

 

 

セイウンスカイは膝に手をつき、掲示板を見上げる。

そこには「確定」の文字と、一着が二枠四番である……つまりセイウンスカイであることを証明する表示があった。

 

 

「勝った……」

 

 

息を整えてからスタンドの方に目を向ければ、先ほどまで全く気づいていなかったが、自分に向けて大勢が歓声を向けている事が分かった。それを見て、聞いて、段々と実感が湧いて来た。目尻が潤む。

 

 

「勝った……!!」

 

「勝った!!私がっ、勝った!!」

 

「うあああぁぁぁっっ!!!!!」

 

そこからは、もう歯止めが効かなかった。今まで負け続けていて、ここ半年間はいいところも見せられなくて、しかしそれでも最後の冠だけは被ることができたという安堵や安心、興奮や歓喜などがない混ぜになり、セイウンスカイは再び人前で涙を流した。

 

(……きっと、次こそは!あなたたちに勝ってみせるわ!)

 

四着に沈んだキングヘイローではあったが、彼女がこの程度で心折れるはずもなく、むしろ再び奮起した彼女の魂は、しばらくの間鎮まる事はなさそうだった。

 

(……今回はダメだったけれど、だったら、次こそ勝ってやる!本当の意味で『日本一のウマ娘』になるために!)

 

二着のスペシャルウィークも同様に奮起し、次セイウンスカイと走る時には絶対に負けないことを自分に誓った。

 

そして、三着だったスクリプト(球磨川)はというと。

 

 

 

何も感じていなかった。

 

 

──────────

 

 

その夜、スクリプト(球磨川)の寮の部屋ではスクリプト(球磨川)ともう一人、得体の知れない美少女……というか僕が話していた。

 

「さて、()()()()()。今日君はセイウンスカイちゃんに『領域』と『過負荷(マイナス)』ごと飲み込まれてしまったわけだが、何か感じたかい?」

 

『いいや?特に何も。だってさ、考えてもみなよ。僕はいつも通り、絶対に勝てない相手に負けただけで、これって自然の摂理だよね。つまり僕は悪くない。』

 

「そうだね、君は悪くない。で、これからはどうするのかな。またチーム〈スピカ〉で少しずつ少しずつ甘くなっていくのかい?」

 

『まっさかー。僕は『負完全(マイナス)』なんだぜ?むしろ僕の側にみんな染まってほしいとすら思ってるけど。それに僕は、甘やかすよりよりは苦々しい体験をさせるほうが好きなんだ。』

 

「そうかい、そうかい。そいつはいいね、最低で最高、いかにも君らしい。それじゃ、今日のところはこの辺で。本当はもう少し話しておきたいところなんだが、まあ君も疲れてるだろうし、気配りができる僕はこの辺で退場するよ」

 

『そう。それじゃおやすみ。そういうことを言う時点で気配りはできて……来るのは焦らす癖に帰るのは一瞬なの、本当によく分かんないな。』

 

スクリプト(球磨川)は呑気にもそんなことを口にして、明日の朝何を食べるかについて考えていた。

 

 

 

安心院なじみの目的地も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徐々に以前の自分に戻っていることも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そろそろだ。

楽しみで仕方がねえぜ。

 

 

 

 

 






最近の生きる楽しみはRTTTとシングレとギャルウィークです。生活がウマ娘に侵食され尽くしています。助けてください。

感想・評価よろしくね。

GLタグはつけるべき?

  • べき
  • べからず
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。