転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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一応、来栖が仕事をしてるみたいですよ?
外交官の仕事からどんどん外れていきますがw




第120話 スピリッツとフォード式大量生産法

 

 

 

「あー、つまりシェレンベルク君は、フィンランド軍にソ連規格の装備を回せと」

 

「目下の近々の供給先はそこでしょうが、南部戦線や中央線戦でも需要は高いでしょう。特にウクライナは現在のストック分の部品でも欲しいはずです。後は閣下の私兵たる”リガ・ミリティア”でも需要があるでしょうな。無論、バルト三国にも」

 

 使えそうなT-34とかの部品でも見繕って、とりあえずウクライナに送ってやるか。

 T-34は、砲弾には強いが、加工精度やら品質やらの問題で、耐久性や信頼性は低いんだよな~。性能のばらつきや不良品率高いし。

 正直に言えば、「つよつよ兵器だが、ただし使い捨てである」なんて感じだ。

 よく、「表面仕上げは荒いが、中身に手は抜いてない」ってコメントも聞くが、そりゃ設計の話で内部の部品の仕上げは正直、ドイツの基準なら確実にはねられる物が多い。基本的には「不良品の多さを、全体の製造数の多さで補うドクトリンに適応した兵器」だろう。

 それはともかく、

 

「私兵言うなし」

 

 言うに事欠いてなんてこと言いやがる!

 

 いや、でもリガ市で結成された”バルト三国義勇兵団(リガ・ミリティア)”の皆さん、付き合い良いから助かってんのも確かなんだよな~。

 しかも彼ら、俺が頼む仕事のせいか自衛隊チックな側面……工兵やら土木作業やら救助作業やらの非戦闘的側面支援の腕前メキメキ上げてきて、つい給料をはずみたくなるんだよ。

 

 実はクリスマスには、一人一瓶ずつウォッカ……は量が量だけにそこまで手に入らないから、かき集めたアルコール度数高めの蒸留酒(スピリッツ)をボーナスとして進呈しようと思ってる。いや~、この時代だと3万本くらいの発注を一気に引き受けてくれる業者とか中々無いのな。

 という訳で、ぶっちゃけもういくつかの業者に発注してる。当然、俺のポケットマネーでだぞ?

 こんなものは経費で落とせんし、第一、(いき)じゃないだろ?

 金なんて生きているうちに使うもんだ。これが正しき資本主義のあり方ってな。

 

 それに心配せんでも前世のメジャーリーガーの平均年俸並の高給取りになってしまった(何故だ?)し、少しは還元しないと何か落ち着かない。

 小市民? ほっとけ。

 まあ、年に1回くらいはな?

 もしかしたら、神を信じぬロシア人にも前世の日本的な意味でクリスマスくらいは定着するかもしれんし。

 

 

 

「”リガ・ミリティア”はあくまで義勇兵団だ。いいな? まあ、それはともかく言いたいことはわかった。最初は供与、お試し期間ってことで良いが、何度も取引するなら薄利多売でも良いから販売って形にはしたいところだな……」

 

 ソ連崩壊の原因が、「武器を無料でばら撒きすぎたため」ってのが一因だしな。

 それに今の俺は、サンクトペテルブルグの住人を食わせる義務がある。税金とるなら当然だ。

 

「となると、”魅力的な商品開発”ってのが必要になってくるな」

 

 さて、どんなもんがあるかねぇ

 

「現在のサンクトペテルブルグで即時生産可能な物を先ずはリストアップ、そして短時間で製造再開可能な物も改めて調べておくとするか」

 

 短機関銃はどこにでも売れそうだし、ロケット弾も空対地・地対地問わずに新しいウエポンシステムだから、売り方を間違えなければ大きな需要を見込める。

 大砲系は売り先を選ぶが、すぐにでも生産再開できそうなのが美味しい。

 

「製造に手間がかかる大物は、まずは種類を絞った方がよさそうだな……」

 

 ドイツやフィンランドが使うなら、ドクトリン的に最優先は機動砲(装甲車両で高速牽引できる大砲の総称)だろう。

 

「とりあえず、”ZiS-3/76.2mm”野砲、”52-K/85mm”高射砲、”M-60/107mm”カノン砲、”M-30/122mm”榴弾砲、”ML-20/152mm”重榴弾砲の5種類でいいか……シュペーア君、これらの砲塔は即時製造、あるいは短期間で製造再開可能かい?」

 

「比較的新しい型の物ばかりですなぁ」

 

 とシュタウフェンベルク君。

 

「ソ連の火砲は、型が古いものはクセが強くて使いにくいのさ。機構的な洗練もいまいちだしね」

 

「はっきりと日数を申し上げることはできませんが、私の記憶している限りではよどの大量生産でない限り、回収できた製造装置や治具でなんとかなるはずです」

 

「結構。試しに製造してみて、増産するなら、新たに必要な装置や設備を手配するとしよう」

 

 ドイツ企業なら、この手の工作機械の製造はお手の物だろう。メートル法万歳だ。

 

「それにしても、それぞれのカテゴリーに一種類ずつですか?」

 

 シェレンベルク、種類が少ないと言いたいのか?

 あー、まあ別に軍事機密って訳じゃないから良いか。

 

「シェレンベルク君、北アフリカでの日本との戦いにおける戦闘詳報は読んだかい?」

 

「そりゃあ、まあ」

 

 あっ、コイツさては流し読みだな?

 対してシュタウフェンベルク君はドイツ人らしく生真面目にうなずいている。

 名前似てるのに、なんか正反対の二人だなぁ~。

 

「日本皇国の戦力に対し、やや過大な評価な気がするが……特に思い出して欲しいのは、”火力の集中”に関する項目だ。重砲の撃ち合いのような場面では、大体日本が優位に戦況を進めてるが、なぜだと思う? ちなみに砲の性能、射程やら発射速度やら砲弾の威力やらは大差ないぞ?」

 

「となれば、数の差ですな」

 

「ああ」

 

 俺は頷きながら、

 

「細かい理由は他にもあるが、一番の差は数の差だ。例えば、日本皇国陸軍の兵員数に対する門数は、英国と並び、ソ連を凌駕し米軍にも並ぶ。理由は何だと思う? 我が国の軍需生産能力は、ドイツとそこまで開きは無いぞ?」

 

「輸送力の差とか……ですか?」

 

「それも否定しないが、根本的な時間当たりの製造門数が日本の方が幾分多いんだよ。日本皇国はいくつも試作を行うが、それを小規模生産して逐次投入し、ロット数で生産を上乗せするドイツ式じゃない。この方法は、確かに現場からのフィードバックを製造にすぐ反映できるが生産効率があまりよくない」

 

 ドイツ兵器ってのは非常に細かいサブナンバーで区分けされていることが多い。

 例えば、先に出てきたJu87は史実では非常に細かく区分けされ、ロットごとの小改良が繰り返されている。

 そのような生産方式であれだけの製造数を作ったドイツも凄いが、

 

「だが、日本はいくつもの試作品の中から実戦を想定したテストを多く行い、時には実戦に試験投入して改良点を洗い出し、とりあえず”これだ!”って現状の完成形が決まったらそれをとにかくそれを規格化して生産する。米国のヘルメス(ヘイムズ)・フォードが完成させた”フォード式大量生産の原理”、その実践だな」

 

 サブタイプ作る工業リソースを量産に転化する……作る種類を絞って、手間をそぎ落とし生産効率を上げ、時間当たりの生産数を上げるのがこの方法の肝だ。

 実はドイツでも国策企業の”AEG”などで先進的な大量生産法が確立されてるが、どうも凝り性というか職人気質な国民性のせいか、改良に改良を重ねてつい製造種類を増やしてしまう悪癖がドイツ人にはあるようだ。

 

「改良を施すなら、段階的に小改良を繰り返すのではなく、一定以上の生産をして改良点がある程度たまったところで一気に製造現場にフィードバックした方が生産効率が良い。日本皇国は国力も労働人口も限られている。なら、それをいかに効率よく製造に反映させるかに、国家の命運がかかっているのさ」

 

 これは、”大日本帝国の失敗と末路”を知る多くの転生者の共通見解だろう。

 例えば、陸軍と海軍で同じ20㎜機関砲なのに使用弾が違うとかアホじゃないかと。

 ただでさえ国力でも工業力でも圧倒的に米国に劣ってるのに、そんなことばかりやったらそりゃ負ける。

 あの戦争は、あらゆる意味で負けるべくして負けたのだ。

 

 

 

「そして現在のサンクトペテルブルグの内包する工業力は、”最盛期のレニングラード”に及ぶべくもない。何しろ根幹の労働人口でさえ、1/3程度だ」

 

 だったら、限られた工業リソースを最大限に活用したいと思うのは当然だろ?

 それに食える仕事があると分かれば外からの流入もあるし、息をひそめている白系ロシア人も安全が確認されれば合流するだろうし、再教育が終われば街の残った住人も生活のために前以上の熱意で働いてくれるだろうから、今後はそれに期待したい。

 

 アカは銃弾で労働管理を行うが、俺達は支払う金で勤怠を管理する。どっちが生産効率が良いか考えなくてもわかる。

 結局、ボーナスなんかも突き詰めてしまえば、「臨時収入による労働モチベーションの上昇」を狙った制度だし。

 要するに、ボーナスは月給とは別に「半期の労働が目に見える形で評価され、それが目に見える賃金という形で現れた」って意味に労働者にとられるから、そりゃテンション上がるだろ?

 経営者の観点からだと別の意味になるが、これは味気ないのでカットだ。

 

「とまあこんな理由で、限られた労働力だからこそ”とりあえず戦場で使える武器”を絞って生産するのさ」

 

(目指せ! 労働者が腹一杯食える街に!ってな)

 

 文字通りの軽工業品、歩兵が持ち歩けるような小火器ならある程度の融通や弾性は持たせられるだろうが、そっちも絞るに越したことはない。

 まずは短機関銃に手榴弾だろう。

 何度でも言うがリム付きのロシアン弾を使う武器や安全装置の付いてない拳銃はいらん。

 50口径以上の機関銃は、特に航空機用機銃はぶっちゃけドイツ製の物の方が明らかに良い。

 

 ああ、航空機用機銃で思い出したけど、

 

「ところで、サンクトペテルブルグにイタリアからのヒコーキ組を誘致し開発計画をテコ入れするってのは、もしかして”メッサーシュミット・スキャンダル”の影響もあるのか?」

 

 その瞬間、シュペーア君とシュタウフェンベルク君は渋い顔をして、シェレンベルクは対照的に面白そうな顔をした。

 反応が両極端なのは、なんでだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




福利厚生と生産計画、うん”総督”のお仕事だねぇ。
少なくとも外交官の仕事ではないw

という訳で、サンクトペテルブルグは、資本主義経済と作る物を絞って品質と生産量を両立させるフォード式生産方式を大々的に導入するみたいですよ?

無論、残存の工業機械や製造装置だけでなく、必要な装置や設備はドンドン導入するつもりみたいです。
何も購入先はドイツだけじゃないし、もしかしたらサンクトペテルブルグでそのうち製造機械自体を作るようになるかもしれません。

さて、次回はドイツを大きく揺るがした”メッサーシュミット・スキャンダル”の話題になるみたいです。
果たして何があったのか?


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