転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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来栖がフォン・クルスになる日がいよいよ迫ってきたようですよ?




第195話 ”ミントブルーの聖十字”卿は、白ロシアの現状を憂う

 

 

 

 1942年3月31日、俺はなんか久しぶりにベルリンに来た気がしていた。

 おかしいな?

 まだ、ドイツに来てから1年も経ってないはずなんだが?

 ああ、来栖任三郎だ。今、ベルリンの総統府のすぐそばにある超が付く高級ホテルのスィートルームにいる。

 ただし、もうすぐ”ニンゼブラウ・フォン・クルス・デア・サンクトペテルブルグ”になるらしい。

 それは良い。

 いや、良くはないが諦めた。

 人間、諦めが肝心だ。

「なんでスペルが”Ninseblau von Cruz(・・・・) dir Sankt Petersburg”なんだよ? ”Kurus”とかじゃないんかい!?」

 

「どう考えても、Cruzの方が欧州人にはなじみがあるスペルだしな。発音は同じ”クルス”だし」

 

 いけしゃあしゃあと言うハイドリヒに、

 

「違うよな? ”Cruz”ってのは、ポルトガル語で”十字架”だ。”聖ペテロの街の十字架”とかって宗教的な意味を持たせようとしてるよな?」

 

「ちなみにニンゼブラウってのは聞きなれない響きだから、市民の間では”Minzeblau Cruz(ミンツェブラウ・クルス)(ミントブルーの十字架)”って愛称が既に広がってるぜ? あるいは”Sankt Minzeblau Cruz(ミントブルーの聖十字)”とか。どうやらサンクトペテルブルグとひっかけたらしいが、良いセンスだ」

 

「おまっ……人の苗字と名前を勝手に融合しよってからに」

 

 よりによって”ミントブルーの十字架”ってなんだよ?

 新しい宗教モニュメントかなんかか?

 

 ついでに言えば、ミントブルーを色(チョコミントアイスの水色)として認識しているのは戦後の日本人くらいで、海外だと”ミントグリーン”だ。

 ただし”ミントブルー(デルフィニウム・ミントブルー)”という鮮やかな青の花はあるから、多分そっちの色の十字架とかだろう。

 まあ、デルフィニウム自体が欧州だとメジャーな花だから理解できなくもないが……

 

「……まさかNSRが裏で糸を引いてるんじゃないだろうな?」

 

「まさか。そこまで暇じゃないさ。良いじゃないか? ミンツァブラウ大公、悪くない響きだ」

 

 いや、なんか前世のチョコミントアイスを思い出すんだが? ”歯磨き粉風味”でお馴染みの。

 

「それよりも礼服に袖は通したのか?」

 

「まあな」

 

 仕立ての良い漆黒のショートフロックコート、ただしトラディショナルな金ボタンのダブルブレスト(二列ボタン)の前合わせで、開襟で襟の部分が妙にデカく、服と反転して白色だ。

 

「なあ、(今生には存在しない)アルゲマイネSSの将官用礼服だか準礼服だかにこんなデザインなかったか?」

 

「知らない記憶だな。SSなんて単語は聞いたことがない」

 

 噓つけ。知らなきゃこのデザインにはならんぞ?

 

「本来の物に比べればショート丈とはいえ、フロックコートは立派な正装だ。何か問題が?」

 

 いや、まあ今生にSSもいなけりゃ、このデザインの軍服は存在しない。

 軍は、普通にドイツ国防軍だし、NSRの何というか……戦後のドイツ軍(ドイツ連邦軍)って感じだ。

 基本カラーもアッシュグレーで、普通にシングル・スーツタイプだし。

 問題が無いと言えば無いんだが……

 

「……ドイツは、いや総統閣下は俺に何をさせたいんだよ?」

 

「特に何も」

 

「はぁ?」

 

「お前に公式に権力と権限を与える。共産主義者を地上から間引きするアイデアを出し、好きなようにサンクトペテルブルグという街が持つ工業力を使えばよい」

 

 ハイドリヒの野郎はニヤリと笑い、

 

「つまり、今までと同じだという事だ。まあ、ドイツ人になる以上は、今まで以上にアテ(・・)にするかもしれんが……今日まで日本外務省の職員のお前だ。今更、宮仕えは嫌だとは言わんだろ?」

 

「そりゃ言う訳ないけどな……」

 

 はあ、まあそういうことならって感じだな。

 

「細かい事を言うなら、サンクトペテルブルグ総督としての職務と責務、バルト三国義勇兵団(リガ・ミリティア)に加え、亡命ロシア人による軍団統括権限も与えることになるが……」

 

「言っておくが、それ全然細かくないからな? 特に最後は、完全に新しい業務じゃねぇか」

 

 あー、あの赤軍崩れの連中を面倒見ろってのは、本決まりだったのか。

 

「やはり、ドイツ軍の一部として使うには、少々問題があってな。敵として戦っていた相手との軋轢の解消は、簡単ではないんだ」

 

「まあ、そりゃそうだろう。万事が万事、フォン・パンヴィッツ中将とシュクロやクラスノフ、クバン(クバーニ)・コサック騎兵旅団のようにはいかんか」

 

 ヘルマン・フォン・パンヴィッツ騎兵中将は、ドイツ軍の中でロシアから迫害されて逃げ出してきたり、ウクライナなんかで息を潜め死んだように暮らしていたコサックたちをまとめ上げ、戦力化することを提言した人物で、コサック騎兵旅団の司令官。

 シュクロやクラスノフはコサック側の司令官だ。

 彼らは今、その機動力を生かして地元と言ってよいウクライナやベラルーシで共産パルチザン狩りに勤しんでるはずだった。

 特にベラルーシ。

 あそこは粛清で相当殺されてるはずなんだが、伝統的に親ロシアだ。

 正直、あの感覚は理解の範疇外だ。

 

 日本人の多くが知らない事実だが、1930年代のスターリンの起こした”大粛清”で当時のベラルーシ共産党全メンバーの実に40%が粛清対象となった。

 その状況で、ドイツ占領下で潜伏したベラルーシ共産党の構成員は、ドイツ軍に対する鉄道網の破壊を含めた大規模なサボタージュを計画・実行していた。

 例えば、前世だとベラルーシだとよく1943年3月に起きたとされる”ハティニ村の虐殺”の話題が出たが……あれもきっかけは、ドイツの指揮官(ベルリン五輪の金メダリスト。国民的英雄だった)が共産パルチザンに殺害されたからだ。

 虐殺現場とされるハティニ村が標的にされたのは、その襲撃の前日に共産パルチザンに宿を提供したことが一因となっている。

 ちなみに前世のベラルーシ、戦前の人口は920万人でその1/4強にあたる220万人が戦争の犠牲になったとされるが……果して「本当にドイツ人に殺された」のは何人だろうか?

 

 少し面白い、あるいは興味深い話をしよう。

 この世界では相対的未来の話なので、実際に似たような事例が起こるか謎だし、あくまで前世の記憶と思って聞いて欲しいんだが……

 「ナチスドイツの虐殺」の代表として他も同じような事例が無数にあるのにハティニ村が選ばれたのは、「カティンの森とロシア語の発音が似てるから」という説がある。

 カティンはロシア語発音だと”カティニ”であり、ハティニ村と確かに似ている。

 ちなみにハティニ村の虐殺についての「ハティニ村の生存者」という男の”証言を基にした小説(・・)”が発表されたのが1971年で、著者は勲章をいくつも貰った筋金入りの元共産パルチザン(なんと15歳で共産パルチザンになったらしい)のベラルーシ人だ。また、その小説を元にした”ソ連(・・)映画”が封切られたのは、1985年。監督は”スターリングラード生まれ”のロシア人だ。

 つまり、この時代は冷戦の真っただ中だ。

 ロシア人が「カティンの森がソ連によって行われた戦争犯罪」だと認めスターリンやベリヤの署名入りの命令書を公開したのは、ソ連崩壊後の90年代に入ってからだ。

 上記の小説やら映画やらは、ソ連が「カティンの森の虐殺は、ナチスがやった」とほざいていた時代の作品である。

 つまり、「ハティニ村を殺ったのがナチスなら、カティニの森もナチスに違いない」と思わせる為の印象操作の疑いがあるのだ。

 実際、2008年に公開された歴史家監修の”ハティニ村の事例”検証映画では、その可能性を指摘している。

 

 他にもある。

 ハティニ村を襲撃したのは、実際にはドイツ人ではなくウクライナ人が主力の部隊だったのだが、その事実は上と同じくソ連崩壊後の90年代まで公表されなかった。

 要するに、冷戦時代はずっと「ソ連により事実は捻じ曲げられていた」訳だ。

 

 虐殺が起きたって事実その物を否定する気はない。

 だが、真相なんて物のは永久に出てこないだろう。ましてや前世のことなど調べようがない。

 歴史は勝者によって作られるし、死人に口なしは確かに正しい。

 多分、それが答えなのだろう。

 

 だが、第二次世界大戦のロシアとベラルーシの関係は、どうにも仄暗いものが多過ぎる。ぶっちゃけ、かなりソ連のプロパガンダ臭がする。

 何も第二次世界大戦に限った話では無くて、俺の記憶では21世紀に入っても大差なかったが。

 「欧州(ロシア含まず)最後の独裁者」なんて呼ばれる男を国主として容認してる風土は、もうこの頃にはあったって事だろう。

 

 

 

 

「だからといって、元日本人になる俺にロシア人捕虜、いや寝返り組を投げるか? 普通」

 

「お前なら、他のドイツ人より上手く扱えるだろ? 特殊な人種感のないお前なら」

 

 また微妙に否定しづらい事を……

 

「以上の理由から、お前には”元帥待遇”が与えられる。無論、軍の正規階級ではないがな」

 

「当たり前だ。正規軍人なんて流石にやってられんわ」

 

「ただし、”サンクトペテルブルグ総督の宝杖”は授与されるからな?」

 

「マヂか……」

 

 それ”元帥杖”とどう違うんだ?

 

「それと、まさか ”バルト海特別平和勲章”は忘れてないだろうな?」

 

「……ちゃんと持ってきてるよ」

 

「ならばよし。式典には必ずつけてこいよ?」

 

「あいよ」

 

 なんつーか、気が重いってのはこういう気分を言うんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに作者は現場を見た訳ではないですが、ベラルーシに関してはこんな話伝わってきてます。

ベラルーシには、スターリンの犠牲者の慰霊碑がいくつもある。
だが、政府はそれを撤去しようと動いているし、実際に反対する住民デモを鎮圧して撤去した事例も多い。
理由は、スターリンの復権がなされ、国をあげて「偉大な強権国家」への回帰が国是とされたから。

これ、21世紀に入ってからのエピソードで勿論、今の「欧州最長の長期政権」の大統領が就任してからの話です。
ベラルーシに観光旅行へ行った人たちの、「ベラルーシは素晴らしい国」だの「言われてるほどひどくない」という意見も聞かれますし、別に良い思い出にケチをつける気はありませんが、まあ闇やら暗部やらが垣間見える場所にどこの国も外国人観光客は入れませんわな。

その素晴らしい国らしいベラルーシが、今、何をしているかと言えば……って奴です。

この195話を描き始めたのがちょうど8/15で、思い出してつい描きたくなったんですよねー。


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