転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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ちょっとだけ、総統閣下がフォン・クルスに踏み込みます。






第198話 Gott ist in seinem Himmel, mit der Welt ist alles in Ordnung. ~されど、赤色の暴虐は止まず~

 

 

 

Gott ist in seinem Himmel(天に召します我らが主よ), mit der Welt ist alles in Ordnung(世は事において他になし)(God's in his heaven,all's right with the world.)……ですか?」

 

「”ピッパが通る”の一節だな。ブラウニングかね?」

 

 日本では”春の朝”として有名だが、

 

「”赤毛のアン”ですよ」

 

 俺はそう返し、

 

「神は天に在るだけで、人の世は回る。信仰は認めるが、宗教は政治に口出すべきではないと。まあ、当然の事ですね。神の理と人の理が一致するわけはない。天上と地上では法則から違うでしょうから」

 

 少なくても、人の理で転生なんて御業(みわざ)は出来んし。

 

「個人的な見解ですが、宗教家と革命家と軍人は、政治をすべきではないですね。宗教家は地上では物理的に不可能な神の摂理を振りかざし、革命家は理想を重んじるばかりに現実を見失い、軍人は何でも力で解決できるという”甘え(・・)”が出る」

 

 そして、どいつもこいつも結末は万能感に支配されて己を見失い、腐敗する。

 どこぞの歴史家が語った『権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する』は正しい。

 王侯貴族が絶対権力で無くなった中世以降、宗教家と革命家と軍人という家柄に捉われない新たなパワーエリート層は、特に絶対権力を得やすい。

 そんな実例は、歴史では幾らでも転がっている。

 

 中世のキリスト教、例えば十字軍の実態はどうだった?

 日本史における戦国時代の石山本願寺や比叡山延暦寺は?

 神仏の名の下に、連中は何をしていた?

 

 今のソ連はどうなってる?

 ポルポトは何をやった?

 無辜な民の流血を嫌った革命家は、果して何人いる?

 

 軍人は世界中の軍事政権の末路を考えればわかる。

 何なら、「東条英機内閣時代の大日本帝国の失策」でも調べてみればよい。

 むしろ変な笑いが出てくること請け合いだ。

 

「餅は餅屋、ドイツの表現なら”Schuster, bleib bei deinem Leisten.(靴屋は靴型にこだわる)”でしたか? 何事もその道の専門家に任せるのが一番だ」

 

「その見解は一致してるようで何よりだ」

 

 総統閣下は満足げに頷くと、

 

「ではフォン・クルス。”正教会の旧ロシア帝都(サンクトペテルブルグ)での信仰復活”というあまりにもシンボリックな事象に、何を求めるか問おう」

 

 それに関しては簡単だ。

 

「私が求めるのは二つ。ソ連国内の離間・分断工作と、白系ロシア人の民心統一」

 

 現在、ソ連と呼ばれる地域だって「信仰を捨てきれぬ人々」は必ず潜んでいる。

 前世で、ソ連崩壊後のロシア正教復権の素早さを考えると、相当数の隠れ信者が息を潜め隠棲してると考えて良いだろう。

 

「赤い大地に住む”隠れ正教徒”の受け皿を標榜することで、信仰心というハーケンを打ち込み、少なからずソ連という血塗れの岩壁を砕くのが目的の一つ。もう一つは、現在ドイツ勢力圏にいる白系ロシア人の……殺害された皇帝に代わる”精神的支柱”を再建立する事です」

 

 先も挙げた「ソ連崩壊後のロシア正教の復権」に関するエピソードだ。

 共産主義という”無神論信仰(・・・・・)”を喪失したロシア人の心の拠り所として21世紀に入りロシア正教は勢力の拡大、信仰の獲得を成し遂げている。

 実はその兆候は戦時下の1943年に既にソ連であり、どれ程聖職者を殺しても信仰の瓦解や撲滅ができなかったため、ドイツの侵攻に対してソ連人民の士気を鼓舞する必要もあり、スターリンは渋々教会活動の一定の復興を認め、空位となっていた総主教の選出も認めた。

 

(だが、そんな美味しい役回りをスターリン風情に譲ってやる必要はない)

 

「スターリンは劣勢になれば、士気の鼓舞の為にロシア正教の一部活動再開を言いだすでしょう。だから先手を打ち、”旧帝都”で信仰の復活をアピールし、二番煎じの手を打ちにくくさせることも狙いです」

 

「実に重畳」

 

 ヒトラーはそう頷き、

 

「すると君は、正教に改宗する気はないと?」

 

「今のところ、改宗する気も帰依する気もないですよ。どちらかと言えば私の立ち位置は”イスカリオテのユダ”に近い」

 

「そのこころは?」

 

「銀貨30枚で信仰を商取引する現実主義者。あるいは裏切り者」

 

 どっちも俺には合う気がする。

 

「我は信徒に非ず、使徒に非ず、地上代行者に非ず、されど信仰の復活と信仰の自由を庇護する者なり。共産主義者にダメージを与えんがために……言うなれば、そんなところです」

 

 ほら。神にも信仰にも真摯じゃないだろ?

 ある種の背徳であり、背信者でもあるな。

 およ? なんか総統閣下が形容しがたい表情をしてるんだが……

 

「ふむ……君は、信仰の復活宣言、その演説において思いのたけを聴衆にありのまま伝えるのか?」

 

「ま、まあ、演説が必要ならそうしますね」

 

 いや、何が言いたいんだ?

 

「必要だな。そうであるならば余計に」

 

 ん? どういう意味だ。

 

「総統閣下、純粋性は人間の美徳かもしれませんが、行き過ぎたそれは毒でしかないと私は考えるんですよ」

 

 何事も、”過ぎたるは猶及ばざるが如し”だ。

 原理主義ほど厄介なものは無かりけりってな。

 

「確かに宗教は為政者にとって便利な道具ではあるが、適切な親密度と適度な距離感が肝要という事に関しては同意だな」

 

 まあ、意思疎通はできてるよな?

 

「であるならば、相応に振舞うのみです」

 

「なるほど。サンクトペテルブルグ四大聖堂復元についての意図は理解した。予算も承認しよう。どうせ戦時中に終わる作業ではない。10年、あるいは20年単位の分割払いと考えればそこまで大きな予算は必要ないだろう。それに人手にも心当たりがある」

 

 前世の知識だと、例えば前述の”ハリストス復活大聖堂(血の上の救世主教会)”はあまりにも荒らされていて、復元まで27年の歳月がかかったという。

 まさに四半世紀がかりの大事業だ。

 あっ、言い忘れていたがハリストスは元はギリシャ語の”Χριστός(フリストス)”、つまり”キリスト”の事だ。

 正教会(東方正教会)ってのは、ギリシャ正教から始まってる(だから、正教会全体を”ギリシャ正教”って呼ぶ事もある)から、そのギリシャ語綴りと読みがロシア正教なんかのスラブ系正教会に伝わって訛りキリル文字の”Христос(ハリストス)”になったって経緯がある。

 

「人手とは?」

 

「本日式典を行ったベルリンの”ハリストス復活大聖堂”は、ロシア革命当時に脱出に成功したロシア正教の聖職者たちの避難先だ。その際、復元に役立つだろう多くの資料を持ち出しているし、きっと役に立つだろう」

 

 あー、なるほど。

 これも俺の知ってる歴史との大きな差異だ。

 史実のドイツなら、とてもじゃないがロシア正教徒の居場所なんてなかっただろう。

 むしろ弾圧されていたはずだ。

 実際、その時の信徒や聖職者は欧州のみならず、最終的にアメリカやカナダにも亡命している。

 

 だが、今生のドイツは、史実よりも遥かに大々的に白系ロシア人を受け入れているし、ナチズムもソフティケートされてるせいで共産主義者や社会主義者に対する弾圧は過激だが、スラブ人や正教も含めたキリスト教徒全般に対する弾圧は今じゃあすっかり鳴りを潜めている。

 

 どうも、総統閣下自身が「彼らもドイツ人(われわれ)同じく(・・・)共産主義者の被害者」というスタンスをとり、「同情すべき人々」と評した事が大きい。

 更に活躍したのがゲッベルス宣伝省で、ロシア正教の聖職者たちに起こった悲劇……修道士は何かを聞き出すための拷問ではなく、「共産主義者が聖職者達が苦しむ様を見て楽しむ」為の”遊びの拷問”で殺され、修道女は輪姦されながら殴られ、あるいはナイフで刻まれ比喩でなく嬲り殺しにされた。

 その事実を赤裸々にまとめたものを本でラジオで映画で、あらゆるメディアを用いて大々的に発表したのだ。

 

 これは現在も「共産主義者に対抗する啓蒙活動」として続いており、今やその運動はドイツ勢力圏やドイツ友好国全域で行われている。

 予想だが、日英にも近々それらの記録が、公式に開示されるだろう。

 

 こんな胸糞悪いこと現実にあったのか? フィクションでないのか?と思うかもしれないが……では、史実にあった実例をあげよう。

 日本正教会の京都主教を務めていた”ペルミの神品致命者聖アンドロニク(ウラジーミル・ニコリスキイ)”は、自ら掘らされた墓穴に生き埋めにされた上で銃殺されたという公的な記録が残っている。

 ちなみに執行したのは、”チェーカー”だ。

 そして、この拷問大好き弾圧組織・虐殺機関は、チェーカー→GPU→NKVD→KGBと続いてゆく。

 無論、組織が改変される度に犠牲者はソ連の拡大に比例して増大していった。

 この手の行動を好むのは、何もエジョフやベリヤだけではないのだ。

 

 

 

 また、レーニンがトロツキーとモロトフに宛てた「教会財産没収、聖職者銃殺指令」という二通の書簡が、ソ連崩壊後に発見されている。

 ちなみに”ロシア革命の20年代、ロシアのみに限って”という条件で絞ってみても、判明しているだけでも聖職者だけで20万人、宗教を理由に50万人が殺害されている。

 

 そんな状態であるため、ドイツには欧州有数の白系ロシア人の巨大コミュニティーが存在しており、虐殺から逃れた聖職者たちも自然と集結していた。

 

「フォン・クルス、今回の任命式を”ハリストス復活大聖堂”で行うのは、ただの政治パフォーマンスではないのだよ?」

 

「……つまり、参列していた聖職者達は私を品定めしていたと?」

 

 別に不快なわけじゃないが。

 

「自分達の未来を託すのだ。彼らにもそのくらいの権利はある」

 

「ごもっとも」

 

 それは納得するが、

 

(となれば……)

 

「総統閣下、”正教の復活”を宣言した後なんですが……」

 

 これだけ材料が揃っているのなら、

 

「教会の破壊と略奪、聖職者虐殺(・・・・・)の咎で、スターリンとソ連国家首脳部全てを国際司法裁判所に告発しませんか?」

 

 そして、重要なのは……

 

「当事者、”復活した正教会(・・・・・・・)”から」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




残念ながら、ロシア革命当時~30年代に起きたボリシェヴィキによる聖職者の虐殺は、厳然と資料が残っている事実なんですよね~。

量産型エジョフや量産型ベリヤが腐るほどいたのが、当時のチェーカーです。
そして、その伝統が脈々と受け継がれて現在に至ると。
現在のウクライナの惨状を見ると、いやホントに何も変わってねぇと呆れるばかり。

そして、少しだけ腹を割って話したことで、何やら確信を得られたのか、何やらまた愉快なことを、今度は総統閣下に言いだすフォン・クルスw

コヤツ、アカの嫌がることを的確に実行して行きます。
いや~、宗派が違うとはいえ、同じ十字教徒はどう思うでしょうね?w

そして、ヒトラーは確信する。

ヒトラー:「あっ、コイツ絶対、信仰復活宣言でやらかすな」

だから、あえてそれを推す方向にw

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