転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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まあ、割と「いつものアカ」な状況だったり……




第267話 「これはひどい」と狙撃手は呟くが、実は平常運転と言えば平常運転な事態

 

 

 

 1942年10月28日、その日はギリシャ王国の歴史の1ページに”栄光の日”と記載されるべき吉日だった。

 

『ようやく朕が黄金の甲冑を脱ぎ、公の場に出れる日が来たことを心より嬉しく思う』

 

 その言葉から始まった”ギリシャ王国全域の国土回復(レコンキスタ)完了(・・)宣言”に、ギリシャ国民は大いに沸いた。

 パレードする皇国海軍陸戦隊や陸軍の戦車の重厚な勇ましさに歓声を上げ、上空で曲芸飛行を披露する戦闘機隊に感嘆の声を上げ、目に映る位置に来た皇国戦艦の巨大さ、そして撃たれる号砲(祝砲)の大きさに驚愕の声をあげた。

 

 そして、日本とギリシャ王国の国旗が街のあちこちに交差するように掲げられるのを見て、自分達こそが勝利者だという実感を嚙みしめるのだった。

 

 

***

 

 

 

 そして、そんな慶事……祝福の空気の中、ギリシャで戦い、随分と仲間を減らしたイタリア将兵は誰に見送られることなくひっそりとギリシャから隣国トルコへと送り出された。

 彼らもまた、すぐに本国へ戻れるとは思っていなかったし、「ギリシャで民兵に怯えるよりは、トルコでの捕虜生活の方がいくらかマシ」と割り切っていた。いや、諦めていたと言い方を変えた方が良いかもしれない。

 第一次世界大戦直前にイタリアがトルコに吹っ掛けた”伊土戦争”という衝突があった(実はリビアが生まれるきっかけになった戦争でもある)し、別にイタリア人もそれを忘れた訳ではないが、その最中に当時はオスマン帝国の領土だったセルビア・モンテネグロ(ツルナゴーラ)、ブルガリア、ギリシャが起こした”第一次バルカン戦争”→第一次世界大戦という流れがあり、伊土戦争自体が停戦という終わり方をしたのでそこまで恨まれていないだろうという見解と、日本が交渉の中心にいる手前、トルコも無体なことをしないだろうという目算もあった。

 イタリア軍、捕虜になった方が冷静に考えているような気もする。

 事実、その目論見は見事に的中しているのだからタチが悪い。

 

 

 

 そして、その数日後、イタリア人の密使が命からがら国境を越えて北のアルバニアからやって来た。

 

「まあ、こうなることは予想していたんだけどねぇ」

 

 使者の手紙の内容に幣原は、小さく溜息をもらす。

 日本本国からの許可はもう得ていた。

 

 そして、現状のアルバニアの情報収集も終わっている。

 アルバニアに駐留するイタリア軍は既に完全編成の1個師団程度、3万人に満たないまでに瘦せ細っているという。

 ただ、幸いというべきかアルバニアで抵抗運動を繰り広げている共産パルチザンの勢力はさほど大きいものでは無く、また小勢力同士が結束したのはまだ今年の初めの事であり、集合体となったパルチザンの組織名も未だ決められてない様子だった。

 一応、ようやくリーダーシップを取れる”ホッジャ”なる人物が出てきたらしいが、パルチザン全体の掌握には至ってないらしい。

 

 これは、前述のようにアルバニアが統一国家になったの近年の事であり、まだ民族としての統一意識が低かった事が影響していた。

 また、イタリア人によるアルバニア人師団も編成されていたが、全体的に士気が低いのも同様の理由だろう。

 

「これじゃあ戦争しに行くというより、まるでイタリア人を救助しに行くようなものだねえ」

 

 そう苦笑する幣原であったが、

 

(これじゃあ、いずれ来る”チトー君”との会談の方がよっぽど面倒かもね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

************************************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1942年11月1日、実はギリシャ国王のレコンキスタ完了宣言の10日以上前に主だった戦闘を終わらせていた皇国軍は、十分な休息と補充を終えた部隊からギリシャとアルバニアの国境を越えた。

 

 大義名分は「イタリア軍の駆逐とアルバニアの国家主権の回復」。

 実際、それに噓はなかった。

 先遣隊は陸海空で10万ほど。

 まあ、十分な戦力だった。戦力だったのだが……

 

 

 

「こ・れ・は・ひ・ど・い」

 

 あー、ヘイシロー・シモサだ。

 違う違う。下総兵四郎だ。

 

 思わず一字区切りの平仮名でコメントしてしまうほど、アルバニアはしっちゃかめっちゃかだった。

 なんせ、街のあちこちに死体が転がったまま放置され、イタリア軍は首都ティラナに寄り集まって「自衛のための戦闘」に徹してる真っ最中だった。

 日の丸を掲げた軍隊を見た途端、武器を投げ捨て白旗掲げて走ってくるんだから、その状況のひどさがわかると思う。

 誰だ? 今、「いつものイタリア軍じゃん」とか言ったの。

 いや、真面目にリビアやギリシャと比べ物にならないくらい酷いんだって。兵は怯え切ってるし。

 

 

 

***

 

 

 

 状況は把握できた。

 あのさ、ギリシャの王様が以前、「共産主義を捨てられないのなら、国から出てけ」って言ったの覚えてるか?

 そして、皇国軍とやり合っても勝てないとふんだELASの一部が、実際に越境してアルバニア入りしたらしいんだ。

 

 最初は、共闘してイタリア軍を駆逐してアルバニアを共産主義国家にしようとしたらしいんだが……案の定と言いますか、アカお決まりの内ゲバが始まったらしい。

 ソ連から政治指導員が軍隊引き連れて入り込んでいたならまだしも、ドイツとの戦争が始まった途端に居たはず”ソ連からの援助者”は何時の間にかいなくなってたらしい。

 多分だけど、「アルバニアにかまけている暇はない」とかって本国から帰還命令が出たんだろうさ。

 

 また、アルバニア側で絶対的なイニシアチブをとれる人間がいなかった事も災いした。

 いや、正確に言うならば最近、「イニシアチブを取れる人間(=ホッジャ)が、何者かにより”暗殺(・・)”されていた」ようだ。

 それを好機として捉えたELAS残党がアルバニア共産パルチザンの指導権を握ろうとして、アルバニア人の決定的な反感を招いたらしい。

 どうやら、アルバニア人はホッジャを暗殺したのもELASと考えたらしいが……正直、それに関しては確証が持てない。

 前世記憶頼みになっちまうが、ホッジャってのはスターリニズムの信奉者で、共産主義原理主義者だ。教条的過ぎて、身内からも煙たがられてたし、またお決まりの粛清で随分と恨みを買っていたようだ。

 つまり、殺される理由は事欠かない。

 

(イギリスやドイツのエージェントの仕業って可能性すらあるしなぁ)

 

 重要なのは、ELASがアルバニア入りしてからホッジャが死んでるってことと、そして内ゲバを押さえつけられる人間はいなくなったって事だ。

 オスマントルコの色合いを強く残すイスラム教が主流アルバニアと、トルコから独立したキリスト教国家(ほら、国旗にも十字架入ってるし)のギリシャ……元々、仲は良くないけど、宗教を捨て民族の隔たりを無くしたという”建前”の共産主義だけど、人の染みついた本質ってのはそう簡単に変わるもんじゃない。

 

 ホッジャが生きてた頃に始まった弱い内ゲバ……最初は、「どちらがよりイタリア人に過激な行動を取れるか?」で争ったらしい。

 要するにハーグ陸戦条約もジュネーブ条約もへったくれもない殺し方をされ始めたイタリア人は、残り少ない物資を持ち寄って首都に集結。自分と仲間と自身の身を守るための戦闘に徹することにしたようだ。

 そして、共産パルチザンは地方からイタリア人を駆逐した=勝利宣言したまでは良かったけど、今度は途端に起きたホッジャの死をきっかけにアルバニア人の共産パルチザンとギリシャ人の共産パルチザンが今度は血みどろ抗争(間違ってもこれを戦争とは言わん)を始めたってわけ。

 

(こりゃ完全に治安出動だわ……)

 

 本当に面倒くさいことになったもんだ。

 

(ん? たしかコソボってすぐそばだったような……)

 

 一瞬、頭に浮かんだのは前世の”コソボ紛争”。

 まさか、これが土地柄のせいとか言わないよな……?

 

「あー、早くキレナイカに帰りてぇ」

 

「おやぁ? もうナーディアちゃんが恋しくなりましたか?」

 

 そういえば、もう2ヵ月くらい顔を見てないか……

 

「……そうかもな」

 

 小鳥遊君、(ひと)恋しいっていうのは、こういう気分を言うのかねぇ?

 羞恥と快楽で理性が蕩けた顔と香ばしい黄金水の匂いが妙に懐かしいなぁ。

 

「ありゃま。これは思った以上に重症か?」

 

 ほっとけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、侵攻していたはずのイタリア軍が、いつの間にかご当地アルバニア共産パルチザンと、出稼ぎ(?)のギリシャ共産パルチザンの内ゲバに巻き込まれていたというオチw

これもよくあると言えばある構図ではあるんですけど。
まあ共産主義者だけではないんですが、彼らもまた”粛清”と称しての内ゲバは十八番と呼べるほど得意技ですからね~w
スターリン時代に限らずソ連は全般的にその典型だし。



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