転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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ようやくクリイベ(?)の開始です。





第294話 1942年12月24日、サンクトペテルブルグにて(大公位授与式、ロマノフの残滓)

 

 

 

 サンクトペテルブルグにおけるクリスマスの準備は整った。

 街はまるで戦争を忘れたかのように煌びやかに飾り付けられ、冬宮殿前の広場には天辺に金色の星を頂いた大きなモミの木が電飾に輝き市民の憩いとなっている。

 なんかその姿は、”アレクサンドルの円柱”と高さを競ってるようにも見えた。来年はアレクサンドルの円柱にもクリスマス・デコレーションしてみるか?

 

 クリスマス・1週間前より、サンクトペテルブルグのあちこちには市がたち、元気に走り回る子供たちの笑い声やそれを優しく見守る親たち、あるいは将来そうなりたいと微笑む恋人たちにあふれていた。

 

 そこには戦争の暗い影がなく、一時とはいえ戦争の憂いを忘れられればそれで良いと俺は思っている。

 ああ、フォン・クルスだ。

 

 ”バルト海条約機構(Baltische Vertrags Organisation:BVO)”の王国有志連合の使節団は既に到着している。

 まあ、かつての栄華を万全と言えないまでも何とかそれなりに見栄えがするように取り脅したゲストルームは、それなりに満足してもらえたようだ。

 ロシア革命の後、腐れボリシェヴィキの阿呆共は、この宮殿を”エルミタージュ美術館”とかして使ってたから、略奪の限りを尽くされた四大聖堂とかに比べれば保全状態はマシだったとはいえ、やっぱり内部はお世辞にも褒められた状態じゃなかったからな。

 

 そして意外なことにNSRから派遣されてきた給仕をはじめとするホテルスタッフ(?)は意外と言っては失礼だが、かなり優秀だった。

 本当の五つ星ホテルに比べると分からないが、少なくとも高級ホテルになれた上流階級のお歴々から不満や苦情が来るようなサービスにはなっていない。

 ついでに美術館として利用されていた冬宮殿のメリットを生かして、空き時間に見学ツアー(?)を開催してみたが、これが思ったより好評だった。

 まあ、確かに如何にハイソな方々でもロマノフ王朝時代の美術収集品、例えば”インペリアル・イースター・エッグ”なんかをじかに目にする機会はそうそうないだろうしな。

 

 

 

 

***

 

 

 

 そして、そんなこんなでクリスマス・イブ……1942年12月24日の夜にクリスマス・イベントが始まる。

 場所は冬宮殿の中ではなく、宮殿をバックにした宮殿広場の特設ステージ。

 俺の大公位(=Erzherzog)授与式は、サンクトペテルブルグ市民有志オーケストラ(ありがたいことに予想を上回る応募があり、大々的にオーディションを行ったのはご愛嬌)が奏でるバッハのカンタータ第61番”いざ来ませ、異邦人の救い主よ”の中、厳かに始まった。

 いや、この曲のタイトルって……深くはつっこむまい。

 

 本来なら貴族の任命式はその国の王族がってことなんだろうが、ドイツには既にそういうのは居ないので、王家連名の名代としてその……スウェーデンの王子様がその役割を担った。

 いや、これいいのか?

 

 ついで言うと、最初は主に政治的意図を含めてロマノフ家の生き残りにその役目(プレゼンターか?)の依頼がいったらしいが……見事に断られたらしい。

 さもありなんだ。

 前世の名前だとウラジーミル・キリロヴィチ・ロマノフとアンドレイ・ウラジーミロヴィチあたりだろう。

 ウラジーミルの方は、戦時中に亡命ロシア人の御旗としてドイツの味方に付くように要請されたが「ドイツへの協力は帝政ロシアの復活に繋がらない」という理由で協力を拒んだ。

 アンドレイの方は、ロシア革命が起こるとすぐさま国外逃亡し、国外にいる愛人の元へ逃げ込んだ男だ。

 ちなみにこの2人に関係しているのが”ムラドロッシ”という組織で、「帝政ロシア(君主制ロシア)とソ連の現政権のハイブリッド」を目指すという中々に脳味噌お花畑の集団だ。

 ちなみにウラジーミルの死んだ親父のキリルがその首魁で、アンドレイは本人は政治的目論見はなかったが、愛人との間にできた息子がムラドロッシに入り親ソ発言を繰り返し投獄されたって経緯がある。

 ちなみにアンドレイの兄が、ウラジーミルの父のキリルで、この二人は叔父と甥という関係にある。

 

 ちなみに「君主制と共産主義の融合を目指す」というお題目亡命ロシア人組織”ムラドロッシ”ってのは、今生でも存在するが……まあ、ソ連の工作員の温床になりやすいのでNSR(国家保安情報部)の要監視対象組織になってはいるが、基本的にドイツ政府のみならず白系ロシア人組織からも相手にされていない。まあ、本人たちは他の亡命ロシア人組織と距離を置いてるつもりらしいが、基本的には飼い殺し状態だ。

 本来なら独ソ戦開始前に組織ごとソ連に送還しても良いくらいだが、それをしないってことは何か別の使い道があるのだろう。

 

(工作員ホイホイとかな)

 

 ただ……

 

『ふむ。これでロマノフ家は周辺諸国の信用も信頼も完全に失墜したな』

 

 そうやけに楽しげに事の顛末を語るハイドリヒの顔が印象に残る。

 というか、言い回しからして断られる事を前提……というか、むしろ「断られる」という実績が欲しかったんじゃないだろうかね?

 実際、ロマノフ家の復権だのなんだのってのは、ドイツにとってはあまりメリットがないんだよな。ドイツ勢力圏在住のロマノフの家系って今生でも前世と同じく”ムラドロッシ”と関わってるし。

 ”ムラドロッシ”以外の白系ロシア人組織ってのは基本的に最終目的が「帝政ロシアの復活」だけど、その前提に「共産党打倒」や「祖国奪還」が入ってくる。

 共産党との融和を夢見る”ムラドロッシ”とは根本的に合わないんだよ。

 それが可能かは別にして彼らにしてみれば、「共産主義者を打倒さえすれば、ロマノフ家は自分たちになびく」と思っているのだろう。

 そしてドイツは別にロマノフ王朝の復活を望んでる訳じゃない。

 

(欲しいのは、旧帝政ロシア領土を管理できる人材ってことだろうし)

 

 つまり、別に統治さえできるのならロマノフである必要はない訳だ。

 だからこそ、俺がここに居るって訳だ。

 

 実際、特定の思考でも無い限り、大衆にとっては「食わせてくれる頭目」が一番偉いわけだし、食わせてくれるならそれを受け入れる。

 逆に食わせてくれない為政者は見限られる。

 ロシア革命だろうがフランス革命だろうが、その本質は国民の腹を満たせなくなったって事にその原点がある。

 自分が食うに食えないのに、上流階級が贅沢三昧している……少なくとも大衆にそう信じ込ませる事が出来たら革命は起きるのだ。

 要するに鬱屈した憎悪やら憤懣やらのはけ口として革命は起こる。

 分かり易い例はフランス国歌”ラ・マルセイエーズ”だ。あれなんて”貴族を殺して畑の肥やしにしてしまえ”だぞ?

 悪いが、1世紀前の日本皇国が英仏を天秤にかけて英国と手を結ぶのはそりゃそうよ。

 当時の日本人だって、革命勢力のヤバさは理解したはずだ。

 

 おそらく、ドイツにせよ周辺国にせよ、俺を大公に据えるってのは、「食わせられる側の統治者」と判断できたからだ。

 確かにサンクトペテルブルグ市民を飢えさせる気は無いし、なんなら俺の大したことはない全知全能をそこに全て振り分けてもいい。

 まあ、そこまでしなくとも部下に恵まれたせいでそれなりに上手く回ってはいるがね。

 

 あと為政者、大公を肩書として名乗る以上、「市民の生命と財産」を守るのに全力を尽くすのは当然だ。

 自分たちを守ってくれない領主など見限って当然だ。

 そもそも税を徴収する大義名分の一つが「安全保障」だ。

 金だけ巻き上げて市民の安全を保障しない貴族なんざ淘汰されて当然だろう。

 

 だからこそ、俺はギロチンだの蜂の巣だのになった王侯貴族達の二の轍を踏むわけにはいかない。

 心しろよ、俺。

 

 総督だの、枢機卿だの、大公だのともてはやされたところで、結局は市民の同意が無ければ何もできないのが為政者ってもんだ。

 そして、俺は結局は何処まで行っても宮仕えだ。

 宮仕えであることを逃げ道や口実に使うな。

 俺は正しく公僕なんだと言おうことを忘れるな。

 

 俺あっての市民じゃない。

 市民あっての俺だ。

 

 命を軽んじるな。民を軽んじるな。

 

 それを忘れ驕れば待っているのは破滅だけだ。

 事は俺が破滅するだけじゃすまない。多くの市民を巻き込むんだ。

 手段よりも結果を優先しろ。

 求められるのは、血の高貴さでも高尚な魂の在り方でもない。物事を成し遂げられるのにどんな手段も使うマキャベリストだ。

 

 クリスマス・イブの雪の夜、俺は大公位を示す”バルト大公位勲章”を授かりながら、改めて気を引き締めなおす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、この章のラストイベントの始まりです。
ロマノフの残滓(ドイツ在住組)の顛末は「復権の可能性の喪失」ですw
まあ、「共産主義と共存して君主制復活」なんてお花畑な理想掲げる”ムラドロッシ”と関わっているロマノフの傍流なんて、ドイツ的には復権させる価値はないですからね~w
特にヒトラーは、「理想ばかりで現実見ない人間」は嫌いそうですから。

ご感想、お気に入り登録、評価などして頂けたらとても嬉しいです。




あと、ちょっとご報告なのですが……
この先、かなり執筆が遅れると思います。
実は、ちょっとリアルの仕事関係で色々あり、年末進行なども重なるのであまり執筆時間が取れそうもありません。

なので、更新がこれまでに比べてかなりゆっくりになりそうなのですが、気長にお待ちいただければ幸いです。


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