転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
航空機による艦隊攻撃(厳密には輸送船団攻撃)も潜水艦によるウルフパック戦術も、行われたのは結局、最初のただの1回だけだった。
フランス軍が怠惰だからか? 戦力不足だからか?
否。
ラヴァル的には『アメリカ人の経験値になるつもりはない』。おそらくはそう言う事だろう。
アメリカ軍の学習能力は確かに高いが、それは経験を積み重ねることで真価を発揮する。
例えば、この後の追加の輸送船団はガッチガッチに巡洋艦や駆逐艦、そして輸送船や給油艦から改装され急造された護衛空母(史実のボーグ級やサンガモン級相当)を中心とする護衛艦隊が組まれてはいたが、そこにフランス軍機や潜水艦が「我関せず」と言わんばかりに不用意に襲い掛かることはなかった。
しかし、米国は護衛艦隊を止める訳にはいかなかった。
ここに面白いデータがある。
史実のリバティ船は、終戦までに2700隻以上建造されたが……1946年4月1日までに脆性破壊の損傷と事故が1031件も報告され、うち200隻以上が沈むか、または使用不能になっているのだ。
中でもその代表的な事例であり、リバティ船の欠陥を世に知らしめたのが”スケネクタディ号”だ。
よりよってこの船、試験航海から帰港直後の1943年1月16日、艤装岸壁に係留中、何の予兆もなく上部構造後方から真っ二つに圧し折れたのだ。
天候は極めて穏やかだったので、荒波にあおられ激しく岸壁に衝突したとかではない。本当に何もしないのに自然に船体が折れたのだ。
ちなみにこの種の破壊事故は、重大事故に限ってもリバティ船だけで10件は発生している。
ただこの世界線の不幸は、スケネクタディ号が圧し折れて沈んだのが岸壁ではなく輸送任務中の大西洋上、カサブランカ沖の近海だったことだ。
そう試験航海は無事に終わったのだが、駐モロッコ米義勇軍への追加輸送任務中の深夜に沈んだのだ。
当然、状況的に米海軍上層部は機雷への接触か仏潜水艦の雷撃によるものと結論した。状況証拠が揃い過ぎていたし、物的証拠は乗員と物資共々海の底だ。そして、スケネクタディ号以外にも任務中に沈没するリバティ船が後を絶たなかったこともそれを補強していた。
結局、リバティ船が米国の港に停泊中に沈み、数々の欠陥が判明するのは、史実より遅れること1年以上後の事だった。
アルジェリアから飛び立つ仏爆撃機や攻撃機は、執拗に小回りの利く小規模編隊によるハラスメントアタックを繰り返すことに終始していた。
米陸海航空隊の主任務は、この通り魔的と言うか愉快犯的にも思える航空攻撃を追っ払う事だった。
これはこれで鬱陶しいのだろうが……ただし、これは航空消耗戦という程の規模や頻度で起きているものでは無かった。
米軍基準で言えば、少なくとも史実における南太平洋の激戦とは比べ物にはならない程度の被害だ。
1943年初頭のモロッコは、例えばそういう場所だった。
そしてそんな日々、シャルマン・ドゴールは暗躍を始める……
その日、ドゴールは懐に米国大統領の親書を携え、ラバト宮殿にてモロッコ・スルターン”ムハマドV世”に謁見した。
王宮のあるラバトは(実際に上手く統治できてるかは別にして)自由フランス軍の管轄下になっており、本来は不可能な「少将風情が王と謁見」ということも良くも悪くも深く考えずにできるようだ。
少なくとも、ド・ゴールは「
「今日は良い話を話を持ってきたのだ。かつてより貴殿はスペイン領サハラと
ある意味において、この男は実に無邪気で楽天的である。
「我が”宗旨国たるフランス”は、それに力を貸そうと考えているのだ」
史実でゴーリズムなる言葉を生み出した男は面構えから違う。
ナポレオンの辞書には不可能という言葉が無いそうだが、ド・ゴールの辞書には厚顔無恥という言葉が無いに違いない。
そもそも、モロッコの”真なる独立”を願うスルターンに言う言葉だろうか?
「お話をお伺いしましょうか」
そうムハマドV世は典雅な笑みで応じたのだった。
☆☆☆
「つまり、我々には機甲戦力があっても、占領する兵力が足らんのだよ」
米国からあてがわれた「彼がフランスにいた頃、欲しくてもどこにもなかった」機甲戦力を自慢げに話しながら、ド・ゴールはそう締めた。
ちなみにド・ゴール、熱烈な機甲戦至上主義者でもあり、史実では軍人時代のペタンと袂を分かった理由でもある。
あくまで史実の話だが、実はドイツのフランス侵攻の際、戦車の性能や技術は実はフランスの方が上だったらしい。
当時のフランスには、”ソミュアS35”という中戦車があったが、それがちゃんと戦力化されたのは1938年頃。同時期のドイツ戦車はⅢ号戦車D/E型だ。
性能評価は検索して確認してほしいが……単体でのスペックでなら仏戦車だろう。
だが、肝心の生産体制から運用/戦術までフランスは、第一次世界大戦で登場した戦車という新たなウエポンシステムを活用しきれていなかった。
他にも政治的迷走の余波で開発を含めた戦車の方向性がgdgdになり纏まりが無くなったという体たらくもあるのだが……
ちなみにこの世界線だとドイツ在住の転生者の暗躍(その代表格がヒトラー)もあり、フランス攻略戦には長砲身のⅢ号戦車(J前期型相当)、短砲身のIV号戦車(ガルパン初期車両で有名なD型相当)が既に揃っていたので、フランス戦車に性能自体でも苦戦することはなかったのだが。
「その戦力を供出せよと?」
そう問う若き王に、
「うむ。兵力さえ整えば、ジブラルタル南岸の英国軍など恐れるに足らん。英国人が勝ったのは、まともな装甲兵力のないイタリア人だけで、北アフリカでもギリシャでも、有効な装甲兵力をもったドイツ人には惨敗しておる」
まあ、噓は言っていない。地上戦では確かにそうなのだが……
(ドイツ人には惨敗したのはフランスも同じなのでは?)
とムハマドV世と思ったが、それを口にするほど状況判断のできない男ではない。
「そして、今の私にはドイツ人の戦車を打ち破れるだけの装甲兵力が集結しているのだよっ!!」
おそらく米国より供与された16両のM4中戦車だと思われるが……
「ふむ。英国軍については理解しました。しかし、ジブラルタル南岸には日本人の装甲部隊もいますよね?」
「東洋人の作った戦車など、物の数ではないのだよっ! 確かに75㎜砲搭載で火力は高く重装甲だというが、足の遅いドン亀ではないかっ!」
そう苛立ちを隠そうともせずド・ゴールが叫んだのは、かつての祖国が誇る重戦車”シャールB1(ルノーB1)”シリーズを思い出したからだ。
しかし最終型である”B1ter”に至っても、戦車としての総合力は、既に米国では旧式と認識されつつあるM3中戦車シリーズに劣るのだ。
そして、「日本人の戦車は(フランス人が負けた)戦車に劣る」という先入観。まあ、一式にせよ一式改にせよT-34より直線スピードが劣るのは確かではあるが、それでもシャールB1より時速換算で20㎞/h近く速いのだが。なんなら初期型M4より速いくらいだ。
北アフリカでレアな日本人とドイツ人の装甲直接対決をしていた頃にアメリカで亡命政権モドキを作っていたド・ゴールは、どうやらその詳細を知らないらしい。
まあ、それはこの男だけを責めるのは不公平かもしれない。
アメリカもまだ日独戦車の詳細は掴んでいなかったし、そうであるが故に初期型のM4中戦車ですら「長砲身型IV号戦車に勝てる」と思っているのだろう。
ちなみに徐々にV号戦車”パンター”と置き換わっているIV号戦車の最終型ですらも48口径長75㎜砲を搭載し、T-34/76、75㎜砲搭載の初期型M4中戦車のいずれも1㎞以遠からのアウトレンジで撃破可能だ。
もっとも米陸軍は、独はともかく「戦う可能性が低い」日本戦車にはあまり気を使う必要がないと思っているのかもしれないが。
多分、「75㎜砲を旋回砲塔に積んだそこそこ強い戦車だが、絶対性能は良くて独ソ同格戦車と同等かそれ以下。M4で十分対抗可能」という感じではないだろうか? 少なくともAGF(グルタミン酸調味料屋ではなく陸軍地上軍管理本部の方)はそう思っていそうだ。
まあ、”史実なら”あながち間違いではない。
「なるほど。いいでしょう。歩兵中心になってしまいますが、5万人程度は用意できると思いますよ?」
そうムハマドV世は、微笑みながら色よい返事をするのだった。
☆☆☆
「陛下、あのような無礼極まりない俗物の頼みをお聞きになってよろしかったのですか?」
すると若き王は側近の言葉に笑みの種類を変えて、
「政を為すは人にありさ。それも裏を返せば同時に不要な人間もいるという意味だよ。過度な愛国者も過激な独立主義者も、今は不要だ」
この男は決して愚王ではない。
故に物事を成すには好機があることを知っていた。
つまり、今は独立すべき”旬”ではないのだと。
「せっかくだから、服役中の軍人崩れやフランス人の厄介な置き土産にしていった武器もつけるとしよう。これで少しは街が静かになるだろう」
実際、小銃や機関銃などの小火器などだけでなく、「重くて持ち出せないから」という理由で野砲などの古い火砲類も旧支配者のフランス人に捨て置かれたのだ。
無論、砲弾もセットで。
いや、固定式で動かせない要塞砲などならともかく、せめて牽引砲くらいは持ち出して欲しかったところである。
おかげでそれらが治安悪化に拍車をかけているのだ。古い武器だろうと弾が撃てれば人は殺せるのだ。
「おそらく、ある程度は英国人に削られる土地は増えるだろうが、国全体から見ればどうということはない。いずれにせよ、世界全体で群雄割拠のこの時代、モロッコの独立を果たし、なおかつジブラルタル海峡を制御するなど夢のまた夢さ」
どこか諦観を滲ませながらも、薄っすらとした笑みを浮かべ……
「それにしても……知らないというのは、実に幸せな事だと思わないか?」
「御意にございます」
忘れてはならないのは、この若き王は”現地の長”だということだ。
そして地元であるが故に良く見える目もよく聞こえる耳も持っていた。
リバティ船、戦時じゃなければ超大問題になりそうな安普請についてw
そして、それが史実では起きなかった誤認に……ラヴァルの嫌がらせは、存外に尾を引くようですよ?
そして、実は一筋縄ではいかないムハマドV世陛下でしたw
この時、まだ40歳にもなっていない若い王様なのですが、伊達に王様やってるわけじゃないようで中々に強かなようですよ?
何しろ、ド・ゴールに協力するふりして色々押し付け、国家の治安回復に有効利用しよう……結果的に英国人にまとめて始末させようなんて考えているんですから。
ド・ゴールは足りない兵力手に入れられて幸せ、ムハマドV世は国家の安寧に不要なモノを押し付けられて幸せのWin-Winです(スットボケー
ムハマドV世:「皆で幸せになろうよ」
あれ? それどっかで聞いたことがあるような……
しかし世の中、何があるかわからない物で、自体は思いもよらぬ方向に。
次回もよろしくお願いします。