転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
さて、参考までに篠原たちが乗りつけた”飛燕改”のスペックを簡単に書くと……
・エンジン:カワサキ・マーリン43年式(マーリン61のライセンス生産品ベース)
エチレングリコール混合液対応液冷式V型12気筒48バルブSOHC、パラメトロン式電子制御マルチポイント燃料噴射装置、空冷中間冷却器付二段トルクコンバーター無段変速式機遠心圧縮過給機、中間冷却器用水-メタノール噴射装置
出力:1780馬力、水-メタノール噴射使用時2100馬力
・最高速度:745㎞/h(戦闘重量、高度7200m、水-メタノール噴射使用時。未使用の場合は同条件で704㎞/h)
・限界降下速度:880㎞/h
・航続距離:3000㎞以上(250kg増槽×2を左右主翼に懸架時)
・実用上昇限界:高度12000m以上
・外装ペイロード:800kg(両翼下。例:250kg増槽×2+RP-3ロケット弾×8)
・武装:ホ103改(発射速度800発/分→1000発/分の発射速度向上型)12.7㎜機銃×6(主翼。1丁あたり装弾数300発)
・素材:A7075超々ジュラルミン(サンドブラスト/アルマイト処理。平頭リベット)
・プロペラ:4翅式ロートル・ジャブロ・プロペラ(スピットファイアMk.IXと共通)
・装備:防弾バブルタイプ・キャノピー、層流翼、装甲バスタブ型簡易与圧コックピット、後方警戒レーダー、自動空戦フラップ、セルフシーリングライナー付インテグラルタンク、タンク内不活性ガス発生装置、胴体下改良型NACAタイプエアインテーク、電波高度計連動簡易式慣性航法装置、電波誘導装置、Gスーツ&酸素マスク、対空/対地ロケット弾搭載機能、自動燃料切替装置(増槽が装備されていた場合、自動で増槽の燃料を先に使用する)など
以前、主任設計者の土井氏(転生者)が語った時より高高度向けにセッティング出しが行われているようだ。
正確にはツイン・スーパーチャージャー式過給機は原型のマーリン60同様に基本構造は二速式なのだが、変速にDB600系列のような
ちなみにトルクコンバーター、史実でも1905年にドイツのヘルマン・フェッティンガーにより原型が開発され、日本でも戦後すぐの1951年に量産が行われている。
今生の日本皇国では、次世代戦車のパワーパックへの導入を目論み、陸軍が音頭を取り全膂力開発していたために導入できたようだ。
ちなみにインタークーラーは耐熱性の優れた4000系アルミ製の空冷式(油冷式)に変更され水-メタノール噴射装置を搭載しており、以前の物より大型化し、特に水-メタノール噴射装置を用いた時の過給気冷却効率が向上し、馬力アップに繋がっていた。
あと細かいところだが……頑強な4000番系アルミの鍛造ピストンによる高圧縮、燃焼効率の良いセンタープラグ式のペントルーフ形燃焼室、排気効率のいい耐熱ステンレス鋼製の推進式排気管、BMW801のコマンドゲレートエンジン制御システムとマルチポイントインジェクションの機能を電気回路として統合し、包括制御を行うパラメトロン式電子制御燃料噴射装置の搭載など、「無駄に排気量を上げたり燃費を無暗に落としたりせず総合的な燃焼効率の上昇を図る事により出力を図った」という点は素直に評価できる。
実際、原型のマーリン61が1580馬力ほどだった事を考えると、燃費を上げつつ200馬力アップはかなり健闘している。
また、繊細なはずの燃料噴射装置だがコネクター接続の中央統制ユニット化されており、パラメトロンを用いられている電気回路なので重箱サイズの放熱用のヒートシンク付アルミボックスに収められた現代の基準で決してコンパクトとは言えないが故障した際はユニットごと交換できるようになっているのでメンテナンス性は高いだろう。まあそれはエンジンに限らずあちこちにメンテフリーの部品が使われていたり、適切なメンテハッチ配置がされてるせいもあるが。
というか絶対、自動車技術……というか走り屋ご用達みたいな技術系転生者が開発にからんでるだろ?
まあ高度に合わせた適切な空燃比制御でオリジナルの60系マーリンに比べても出力だけでなく燃焼効率の向上で燃費も向上しているし、何よりエンジン全体の過負荷が小さくなったので副次効果で耐用時間もかなり上昇(マーリン格型の平均耐用時間は300時間前後と言われており、それが500時間以上まで上昇している)しているのは皇国としてはかなりのメリットかもしれない。
まあ、要するに”空の化物”だ。というか出てくる時期を2年くらい間違えてないだろうか? 史実の米国ウォーバードでまともにやりあえるのP-47シリーズの完成形P-47Nとかのクラスになるんじゃないだろうか?
搭載ペイロードP-51Hより低いが、トレードオフするように機体耐G限界強度を下げず(上限7.33G仕様のまま)に軽量化(高性能化)を果たしているようだ。
せっかく自動空戦フラップと初歩的とはいえGスーツを導入するのに高G限界を下げるのは「勿体無い」というのは、実にハイマニューバー機大好きな皇国らしい選択だ。
ネタばらしになってしまうが、43年デビュー空軍戦闘機のもう一方の片割れである四式戦”疾風”は、Fw190の影響をかなり受けている初期のマルチロール・ファイターとしての色合いが強いペイロード1tを越える戦闘機なので、少なくとも45年登場予定の「皇国空軍最後のレシプロ戦闘機」の登場までは、おそらくこの”飛燕改”こそが空軍最強の空戦能力になると目されている。
ちなみに当初は威力に優れた20㎜機銃の搭載案もあったが、全力生産が始まったばかりのそれは対地攻撃も主任務に入れた”疾風”に優先的に回される事になったそうな。
それでも従来型より素材や構造の見直しで全体強度強化しつつ発射速度を向上させたホ103改と新マ弾(薄殻徹甲榴弾)の威力ならば、当面は重装甲の米ソ機にも対抗できると判断されたようだ。
ちなみに最近前線配備が始まった新マ弾、空気信管との技術交換でドイツから導入された”薄殻榴弾(Minengeschoss)”の技術を導入して開発された新型機銃弾で、ボートテイル状に空力処理された精密プレス加工の薄殻弾殻にタングステン合金の貫通弾芯(ペネトレーション・コア)と顆粒状のコンポジションB炸薬を仕込み、遅延作動の空気信管と組み合わせるという物だ。
要するに「貫通した後に目標内部で爆発する徹甲榴弾」という鬼畜仕様弾というイメージで良い。
20㎜弾にも同じく新マ弾が採用されているらしい。
蛇足ながらアメリカ産の
そして今生ではそれが不可能で、現在の米国主要航空機用アルミ合金は米国で20年代に開発された”アルコア24S(A2024、超ジュラルミン)であり、悪い素材ではないのだが……
ちなみに航空機用アルミでワールドスタンダードなのはA2024の方で、A7075は現在皇国の最重要国家機密扱い。
驚くべきことに、クルスすらその存在や製造法をドイツに告げていないのだ。
まあ、その素材の差がいつどのような形で出てくるかは不明だが、ペイロードとのトレードオフだけで「耐G限界(強度)を維持したまま軽量化を図る」のは難しかったかもしれない。
☆☆☆
さて、とりあえず到着当日は流石にメンテと休息に使ったが、翌日よりお互いにお手並み拝見ということで、英国王立空軍(RAF)と日本皇国空軍(IAF)との選抜メンバーによる空中交流戦と相成った。
そして、篠原の相手はいつの間にか大尉に昇進しているクレタ島で親交のあったRAFの”ジャック・ヘンリー・レイシー”だった。
「これは酷い。性能差があり過ぎる」
まあ、結果は篠原の勝利だ。
というか”飛燕改”とレイシ―の”スピットファイアMk.IX”では確かに性能差があった。
エンジンに負荷をかけないために水-メタノール噴射装置は未使用が条件で、最良高度だとマーリン66(Mk.IXは61ではなく66が標準になっていた)は1705馬力、飛燕改も同じような高度で最高出力の1780馬力をキープできる。
馬力差は大きくはないのだが……まず、二段スーパーチャージャーの性能自体は大差なくても最高出力をキープできる高度上下幅がカワサキマーリン1943式が勝っていた。
そしてエンジンが無ければ飛行機は飛ばないが、エンジンだけで性能の全てが決まるものでは無い。
エンジンが良くても機体設計に失敗して台無しになった機体は存外に多い。
Mk.IXは素性は良いのだが、いかんせん基本設計が41年登場のMk.Vだ。設計思想がやや古い。というかMk.Vを改修してMk.IXを作れるのが強みでもあったのだ。
強いて言うならMk.IXの方がやや軽いというのが強みだろうか? パワーウエイト・レシオはMk.IXが僅かに優れる。
それらのせいでトップスピードは高度によっては50㎞/h以上開き、上昇率は機体が軽い分、Mk.IXが少しだけ上だけどそれも高度対応力の差で一定高度以上になると覆されるといった具合だ。
まあそんなこんなで、素直という評価を受けたことのない英国人の特質をレイシ―は発揮し、なんと予備機の操縦権を獲得してしまった。
まあ元々、原型の”飛燕”からして英国の緊急援助用戦闘機(当時のスピットファイアの互換機)として開発されたのが始まりだし、飛燕改自体にも必要なら(例えば、グリフォン・エンジンが遅れたり失敗したりした場合)英国に輸出する話も水面下で動いていた。
そんな理由でコックピット周り、特に計器類なんかのインターフェース周りや操縦桿やスロットルレバー、ペダルなんかの操縦系は意図的に「スピットファイアパイロットが直ぐに操縦できるように」に配置してあった。
「ファンタスティック!」
飛燕改を操縦するなりレイシ―はそう叫び、そして日英の上層部の「高度な政治的取引」とやらが発生して、「飛燕改を英国導入する場合に備えた予備性能テスト」という名目で、まんまと予備機の飛燕改を自分の愛機にしてしまったのだ。
英国人というのはどいつもこいつも……という奴である。
とここまでは
実はレイシ―、何というか階級やパイロット以外にも軍人として語るべき約束、まあ具体名は避けるが「パイロットとして各国の戦闘機の性能を調査する調査員」的なことをやっていたのだ。
そしてこの頃、ようやく本国では初期型グリフォン・エンジンを搭載したスピットファイアが小規模生産されて実戦配備たのだが……
ところがぎっちょん!
ジブラルタルで遭遇した「ひとつ前のマーリンをカスタムしたエンジン」を搭載した親愛なる同盟国の液冷戦闘機があっさりその性能を超えていたのだ。
そして結論として、
「どう考えても、エンジン性能を引き出すにはグリフォン用に主翼も胴体も用意するのが最適解じゃないか」
と本国空軍のお偉いさんに報告を送ったのだ。
そして英国はチャーチル首相→吉田欧州統括で”飛燕改”の輸入可能かを問い合わせた。
その結果、
「対応可能。なんなら英国式イスパノ20㎜機関砲搭載型も用意できる。ただし、20㎜カノン・カスタムの納品開始は早くても1943年後半になる」
と色よい返事が来たのだ。
ちなみに史実では、英国はライセンス生産しているイスパノ・スイザHS.404/20㎜機関砲の作動不良に悩んでいた。
転生者が跋扈してるというか王様が転生者の今生の英国だけあって、HS.404のライセンス獲得直後から改良を続け、最近になってようやく史実の”イスパノMk.V”準拠の「使える20㎜機関砲」の大量生産にこぎ着けたのだが……まるでそれを見透かしたような返答に思わずRAF幹部は変な笑みを浮かべた。
まあ同じ20㎜でも薬莢サイズが日英では違う(将来的=30㎜時代には統一する予定)ので機関砲自体は英国で用意することになるだろうが、これで目途は経った。ちなみにブリティッシュ・イスパノ20㎜機関砲はサンプルとして既にそれなりに日本に持ち込まれているので設計反映にはおそらく問題は無いだろう。
そして英国はとりあえず即時用意できる2000丁(500機分)ほどの20㎜機関砲を初期導入分に取付できるよう日本へ船便で送りつつ、グリフォン搭載のスピットファイア生産計画を凍結して、「グリフォン・エンジンに最適化した新しい戦闘機」に全力を傾注することを決定する。
そう、これにより英航空省要求仕様F.18/39に基づき開発されたが史実では不遇機、不運な歴史の仇花になってしまった”マーチン・ベイカー MB5”、後の史実には存在しない量産型”マーチン・ベイカー・ゼファー”はこうして産声をあげたのだった。
どうやら前身のMB3は事故を起こしたが、ベイカー大尉は九死に一生を得て(切り株にぶつからなかったか?)怪我と火傷はしたが一命をとりとめ、マーチンは親友を失わずに済んだようだ。
グリフォン・エンジンの優先供給と英空軍の大幅なテコ入れなどが追い風となり、MB5は43年中に試験飛行を開始。お披露目でエンジンが止まることもなく量産型の”マーチン・ベイカー・ゼファー”は奇しくも1944年5月23日に初号機がデビューを果たし、マーチン・ベイカー社最後の戦闘機であると同時に英空軍最後のレシプロ戦闘機として大戦末期の空を舞い英国空軍史にその名を残すことになる。
……一言言っていいだろうか?
”スパイトフル”じゃないんかーいっ!!
いや、史実と違ってマーリン・スピットファイア(航続距離の長いMk.Ⅷとの派生開発らしい)の艦上戦闘機版である”シーファイア”が史実より年単位での前倒し開発、大量発注、43年からの配備で儲かってるのスーパーマーリン社の倒産は、少なくとも戦時中は無いだろう。
というか、MB5が選ばれた(スパイトフルに繋がらなかった)のは、スーパーマーリン社がシーファイアの生産で手いっぱいだったせいじゃないだろうか?
そして、マーチンは友人が危うく命を落としかけた事に、史実と同じくかねてより構想していた火薬式射出座席を開発(圧縮空気式射手座席はドイツのハインケル社が先んじて開発していた)し、マーチン・ベイカー社はその業界で世界随一の企業へと成長してゆくことになる。
そして、スパイトフルが空中に飛ぶんじゃなくて計画が宙に浮いたスーパーマーリン社は、生産中のシーファイアのノウハウ+グリフォン・スピットファイアのノウハウからゼファー(MB5)と同じ二重反転プロペラ対応のグリフォン89エンジン搭載の次期艦上戦闘機”シーファング”の開発にスパイトフル開発に必要とされる筈だったリソースを全て傾注することで45年初旬より生産を開始し、こちらはこちらで英国海軍最後のレシプロ艦上戦闘機の栄誉を賜ることになった。
という訳で、
Out→グリフォン・スピットファイア、スパイトフル
In→MB5(ゼファーとして量産される)、シーファング(海軍制式戦闘機)
ということになりました。
MB5ゼファーとグリフォン・スピットファイアとスパイトフルが中止となり開発リソースが次期海軍主力戦闘機に集中できたためにシーファングの開発が前倒しになり、功を奏したようです。
ちなみに”シーファイア”、細かく書くと「航続距離の長いMk.Ⅷを開発する際、本格的にスピットファイアを改設計するので、それと並行して海軍仕様スピットファイアが開発された」ようです。
裏話からいうと、アツタ・マーリン搭載の液冷艦上爆撃機”彗星”を英海軍が”コメット”として同盟国価格で全機お買い上げした(皇国海軍は金星遠因搭載の三十三型彗星と入れ替える形で随時売却)の際に二十番型のゼロ戦を一緒にある程度購入しており、それを参考にシーファイアを開発したので、離発艦に問題ありとした脚部問題が解決すると同時にドロップタンクが採用となったので、「使える英国製20㎜機銃の開発成功」と相まって最初から「ちゃんと使える艦上戦闘機」になったようですよ?
シーファイアの本格量産と配備が始まった43年度の英海軍空母機動部隊は、多分、史実より強いです。
まあこの先、英軍が空母同士の殴り合いをやるのか不明なのですがw
次回もよろしくお願いします。
ちょっと愚痴っぽくなってしまいますが、連載再開してから投稿するごとに評価が下がり続ける感じになりまして、結構モチベーションが下がってきてます。
モロッコは何とか終わらせる目途は立ってるのですが、現在の書き溜め分が無くなると徐々に更新が遅くなるかもしれません。
申し訳ありませんが、ご理解いただけると幸いです。