転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

325 / 439
今回はちょくちょく名前は出てくるけど、掘り下げてはこなかったこの男について書いてみようかと。
ある意味、真なる”人民の敵”かもしれません。

あー、それと今回はイラストを複数入れてあるのですが、年齢制限に引っかかるような代物ではないですが、ちょっと閲覧注意でお願いします。
なんせベリヤですので。





第322話 ある意味において最強の敵になりえる男、ラヴィアン・ベリヤ ~その男、”狂悪”につき~

 

 

 

 サンクトペテルブルグを攻略するのに必須なノブゴロド攻略でさえも、現状では圧倒的に兵力が足りないと現実を突きつける名将ジェーコフ。

 

「同志元帥」

 

 そう静かな調子で声をかけたのは、何故か未だにソ連という国家の実質No.2、NKVD(内務人民委員部)長官でありながら兼任で人民委員会議副議長の椅子に座っていられる”ラヴィアン・ベリヤ”NKVD(内務人民委員部)長官だった。

 人類史上、トップランカーにいる”害悪”の一人だと史実では記録されているが……

 この世界線では何というか……ちょっと”変”なのだ。

 まず、メガネはかけているが髪は後退していない。むしろふさふさだ。これはギリ20世紀生まれで史実より少しだけ若いことも影響しているのかもしれない。

 なのでパッと見て史実とは別人に見える。

 「無意味な粛清をやり過ぎたエジョフやその一派」を根こそぎこの世から人民解放したのは、功績と言えば功績だろうか?

 ただし、ある意味においてプライベートは史実よりも酷いかもしれない。

 史実では「ベリヤのフラワーゲーム」、気に入った10代を中心とした少女を拉致し、遊びで慰み者にし、最後は殺害して証拠隠滅をしていた。

 まあ、国家権力を笠に着た極悪な性犯罪者だ。

 しかし、この世界線のベリヤは……そんないつの世にもいる「場当たり的な犯行を行う刹那的快楽主義者(サイコパス)」などではなく、遥かにシステムマティックだ。

 

 共産主義を標榜し、貧富の格差を無くしたという”建前”ではあるが……生活貧窮者は絶対になくならない。

 つまり、どんな社会だろうと育てられなくなり「子捨て」を行う親などどこにでもいる。

 更にこんな時代だ。「親が戦死した戦災孤児」などごまんといる。

 もしくは、ドイツ軍から逃げ出した際に親からはぐれた子供もだ。

 よほど地域コミュニティがしっかりしているのならともかく、そうでないなら国家その物に余裕がない現状で、見ず知らずの子供を養うのは困難だろう。

 本来は消えゆく運命(さだめ)のか弱く幼い命の筈だが……

 ベリヤはNKVD長官に就任以来、そう言う子供たちをベリヤは「積極的に保護」していた。

 男の子は、「ドイツやその他の裏切者に復讐を誓う少年は良き兵士になる」と赤軍や関係各省と連携して作った「荒事の専門教育を行う寄宿学校」に入れていた。

 やっていることは、妙にルーマニアのチャ○シェスクに似ている気もするが……

 10代中盤以降の「労働力として期待できる」少女は、足りない労働力を補う為に職業訓練寄宿学校を作り、「職業婦人」とするべく送り込んだ。

 無論、軍を志願した少女は赤軍への入隊も援助した。

 と、ここまでがこの世界線で知られているベリヤの”表の貌”。つまり、ソ連では珍しい”慈善家”としての顔だ。

 しかし、本当にベリヤが悪質なのは、此処から先の”裏の貌”だ。

 

 史実のベリヤとこの世界線のベリヤは、好みとする女性の年齢層が違う。

 あえて年齢は皆さんの想像にお任せするが……この世界線のベリヤは”幼子”しか愛せない。

 そして、好みの幼女が苦痛に歪むのは好まない。

 むしろ好むのは「自我や自尊心が壊れるほど快楽に溺れた顔」であり「快楽以外何も考えられなくなった”純粋な存在”」だ。

 例えばピアスを入れられた痛みに失禁するのではなく、ピアスの痛みすら快感になり放尿する方が好みで、故に”特殊な薬”を使う。

 幼い少女は好きだが、より興奮するのは「腹の膨らんだ幼子」であり、故に”排卵誘発剤”を使う。

 そう、後年明らかになった「ベリヤに殺された子供」の死因は物理的な暴力などではなく、突発的な病死以外の死因のそのほとんどが「薬物中毒(オーバードーズ)」か「幼齢出産に起因する合併症」だと言われている。

 

 誤解の無いように言っておくが、厳密に言えば与えたのは麻薬ではない。

 確かに催淫作用がある物ではあろうが。

 しかし、それよりも危険なのは成長抑制剤(・・・・・)の少女たちの”自発的な過剰摂取(・・・・・・・・)”なのかもしれない。それも排卵誘発剤や他の薬と併用(・・)してだ。

 実際、この手の人間用の薬剤は実在する。

 例えば、「特発性中枢性思春期早発症」の治療に使われる”Gn-RHアゴニスト(あるいはLH-RHアナログ)”という薬物は、性ホルモンの合成・分泌を抑制する働きがある。

 

 

 

 無論、保護した幼子全員がベリヤの眼鏡に叶うではない。好みから外れれば、普通の戦災孤児施設に送られる。

 だが、ベリヤに見初められ、”ベリヤの人形館(・・・)に運び込まれた、”消えても誰の不都合のない幼女”は、「この時代のソ連ではありえない何不自由ない生活」と引き換えに、親の顔さえもすぐに思い出せなくなる「快楽に嗤う」生き方しか選択肢がなくなるのだった。

 そして真に悪質なのは……ベリヤが「困窮し、餓死直前のような生きるために”何でも許容する”状態まで追い詰められた幼い女の子」を最も好むというところではないだろうか?

 それがベリヤという男だった。

 

 そう、ベリヤはソ連や共産主義に忠誠を誓っているわけでも、スターリンを個人崇拝をしているわけでもない。

 ただ、”自分の楽園”を守り維持するために今の地位に居た。

 その為には、顔の知らない人間が何人何処で死のうと気にすることはなかった。

 

 そして、そんなベリヤの内面をスターリンは熟知していた。

 故にベリヤだけは自分を裏切らないと確信していた。

 なぜならベリヤの耽溺する『倒錯の人造楽園』は自分の下でしか維持できないと理解していたからだ。

 それはベリヤ自身が国家の頂点に立つことで忙殺により瓦解する、脆弱な物であるということもだ。

 ベリヤは、能力や性的趣向に関わらずトップに立つ意志の無い”使われる側の人間”だった。

 共産主義の首魁が損得勘定を一番信頼するというのも、何とも皮肉な話ではあるが。

 

 

「どのぐらい兵数が必要か?」

 

 ベリヤは、メガネの奥で目を細めた。

 

「多ければ多いほど。上限は我が国で生産・備蓄できる食糧で」

 

 そう答えるジェーコフに、

 

「なるほど……」

 

 ベリヤは思案し、

 

 

【挿絵表示】

「同志書記長、国際旅団(・・・・)方式が使えるかもしれません」

 

 ”国際旅団”とは?

 以前、ジブラルタル海峡の現状を描いた際、スペイン内戦にも触れてその時に少しだけ話題を出したのだが……

 スペイン内戦で存在した時期によっては85%が55ヵ国以上から集まった各国共産党員で、その内訳は知識人や学生が20%、労働者が80%だったという”外国人(・・・)義勇兵旅団”のことだ。

 もう編成や内訳からして誰が裏で糸を引いて、どういう性質の部隊だったか分かるだろう。

 こんなのが6万人もスペインにいて、聖職者の虐殺なんかをやっているのだ。

 

「ベリヤ君、詳しく」

 

да(ダー)。同志書記長」

 

 ベリヤはコホンと咳払いし、

 

「我々が現在、徴兵を行っているのは『ソヴィエト連邦内の辺境』まででしかありません。ですが国際共産主義の理想に共鳴し共感し恭順しようとする革命同志は世界中に存在します。例えば、我が偉大なる祖国に隣接する国家だけでもモンゴル、共産中国、北部朝鮮などは我らが同志でしょう。東アジアは人口密集地です。呼びかければ、他の国々からも同志が集まるでしょう」

 

 そう、この世界線にも”チョイバルサン”、「モンゴルのスターリン」は存在していた。

 そして、1930年代末期の中国全土の人口は約5億とされ、朝鮮半島38度線以北は、まるで歴史が前倒しされるように共産化していた。

 旧仏領インドシナも日本皇国のテコ入れで”ベトナム王国”として独立予定なので、そのあたりから喰い詰めた赤色人民もやって来るかもしれないが……

 

 少なくとも「兵の人材供給源」としては申し分のない土地がユーラシア東部に集中していたのだ。

 しかもその輸送は、アメリカ合衆国がシベリア鉄道に連結された”米国満州鉄道網(American Manchuria Train Network:AMTN)”で率先して運んでくれるだろう。

 何しろ、それをやったからと言ってアメリカ人の言う「善良な有権者(しみん)」とやらが死ぬことはないのだから。

 

「見返りは?」

 

 スターリンは、思想家ではあっても夢想家ではない。

 ある一面においては、リアリストですらあった。

 

「ドイツとの戦争の暁には、『世界同時共産主義革命に必要な装備の提供』を」

 

 つまり将来、祖国に戻った時に革命ゴッコをするときのオモチャの供給だった。

 まあ戻れる保証はどこにもないが。

 だがきっと、参加者たちは『国境を越えた汎地球規模の国際共産主義が必ず勝利する』と信じているのだろう。

 あるいはいつか始まる『世界同時共産主義革命の朝』を。

 夢見るのは誰しも自由だ。

 

「良いだろう。ベリヤ君、その方向で進めてくれたまえ」

 

「да」

 

 

 

 しかし、発動したとしても人員を集めただけでは意味がなく、最低限行軍し銃を撃てる程度までに仕上げなければならない。

 そのような条件がある以上、本格的な侵攻作戦はどんなに早くても6月末、急いで7月初旬、普通に考えれば8月決行となる見立てとなった。

 

 無論、8月まで準備がずれ込むようであれば、スターリンは適当な人員を「サボタージュの罪」で粛清するつもりだった。

 これには理由があり、ロシアの主食である小麦の収穫時期が8月であり、それまでにある程度の動員解除を行えるようにしなければならないと考えていた。

 そう、スターリンは8月までに最低限、ノブゴロドを陥落させる腹積もりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはモスクワに隣接するベッドタウン、閑静な街並みの”リュベツイ”の街、厳密にはその郊外にある某所。

 革命前にとある高位貴族が使っていた屋敷を、ベリヤが入手したものだ。

 そして、本日も戻ってくると……

 

 

【挿絵表示】

「「「「おかえりなさいませ♡ ご主人様♡」」」」

 

 身重な(少なくとも見た目は)幼子たちが出迎えた。

 

「ああ、ただいま」

 

 そう会議では決して浮かべぬ微笑みをベリヤは浮かべる。

 そしてリビングでも、

 

 

【挿絵表示】

「「「「「お帰りお待ちしてました。ご主人様♡」」」」」

 

 同じく身重の幼い少女たちが満面の笑みで出迎える。

 更に、

 

 

【挿絵表示】

「旦那様、お帰りなさいませ」

 

 そう一人少しだけ年上に見える少女が心から媚びた笑顔を浮かべる。

 彼女の名は”ニーナ”。ベリヤの留守に館を預かる女主人、公的に『ベリヤの正妻』として書類が提出されている少女(?)だった。

 

「ただいま、ニーナ。変わりはなかったかい?」

 

「ええ。本日も旦那様のお陰で平穏無事ですわ♡」

 

 大げさではない。

 この館は、”ベリヤに(・・・・)忠誠を誓う”NKVDの最精鋭により24時間体制で警護されていた。

 公私混同も甚だしいが、それが許されるのがベリヤだった。

 

「旦那様、お食事は?」

 

「済ませてきたよ」

 

「かしこまりましたわ」

 

 ニーナはにっこり微笑み、

 

「うふふ。今宵の”当番”の()達がお待ちかねですわよ?」

 

「今日はどこのベッドルームだ?」

 

「本日は4人で、第3ですわよ♡」

 

「わかった」

 

 

 

 そして所定の寝室のドアを開けると、

 

 

【挿絵表示】

「「「「お帰りなさいませ、ご主人さま♡ お待ちしてました♡」」」」

 

 それは実に退廃的、あるいはブルジョワ的な光景だった。

 

 

 

 繰り返すが、ラヴィアン・ベリヤは極めて悪質な人間である。

 この男は、けっして暴力で少女たちを壊したりしない。

 ただ、戦争という異常な状況で極限まで追い詰められた幼子たちに「庇護者である親を失い、あるいは引き離され、飢えたり、寒さに震えたり、不条理な暴力を振るわれたりする”怖い怖い外の世界”」と”ろくにPTSDを治療しない状態”で隔離し、「平穏で安全な世界」を提供し、優しく甘い言葉で心を侵食し、対価として差し出された肢体を快楽に染め上げ、強く強く依存させる。

 「自分たちが生きられるのは”この世界”だけ」だと認識させる。

 そしていつしか少女たちは「この館の中だけが自分達の世界」だと強く思うのだ。

 だって”外”は、とても”怖いだけのところ”だから。

 それを少女たちは幼い身をもって知っていた。

 最年長で妻のニーナはロシア革命で、そのほかの少女はその後の粛清や大祖国戦争で……

 

 ある意味、壮大で矮小ななマッチポンプだ。

 だが、そんな事実は少女たちにはどうでも良い。

 だって、もう「閉ざされた小さな世界」が全てなのだから。

 だから、ベリヤにもっと気持ちよくなってほしくて、もっとベリヤと気持ちよくなりたくて進んで”お薬”をねだる。

 ベリヤの寵愛を失い、”怖い外”へ追い出されるのが怖いから、率先して成長抑制剤を打つ。

 ベリヤの子供を身籠るのは、悦びしかない。

 だって、そこには確かな”繋がり”ができるのだから。繋がりは縛られるのではなく、”この世界”に自分を繋ぎとめてくれる心の鎖……だから、排卵誘発剤を使うに何の抵抗ももない。だってベリヤという鎖に雁字搦めにして欲しいから。

 それが少女たちの価値観だった。

 倫理観なんかない。正気なんていらない。それが育つ前に此処へ来たのだから。”この世界”に必要のない物だから。

 だから、誰もこの”人形の館”から逃げ出そうとは思わない。

 長く生きることに価値はない。だって”外の世界”に出ればどうせすぐに死んでしまうのだから。

 繰り返すが、「この館とベリヤだけが世界の全て」だ。

 

 そしてベリヤにとっても、”真に護るべき者”は、この館の中にしか存在しない。

 本質的な意味で、他の人間なんて「心底どうでもよい」。

 だから、この「閉ざされた小さな世界」を耽溺する為に、ソ連に力を尽くす。

 

 その単純な根源的理念こそが、この世界線のラヴィアン・ベリヤという男の全てだった。

 

 一言言わせて欲しい……

 ”転生者(サクセサー)”が、歪んでないと、異常でないと一体誰が決めた?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、今まで詳細を暈してきたラヴィアン・ベリヤ、満を持して登場です。
今まで小物っぽい、あるいは大して史実と変わらない存在のように書いてきたのは……すみません。ミスリードを誘ってました。

あと、こいつのフルネーム、前に違う名前で出てきたことがあったら修正しますので教えてくださると助かります。
実は史実の名前をもじってつけるのがルールのこのシリーズですが、ラヴィアンはフランス語の
”La vie en”
人生とか生命とかって意味で、同じくフランス語の慣用句”La vie en Sun”は「太陽のごとく永遠に燃えたぎる人生」、一文字違いの”La vie et”は「人生と価値をもたらす」、有名な”La vie en rose”は「バラ色の日々」……どれも強烈な皮肉ですね。この男と少女たちに対する。

ルーシというのは「強き者を尊ぶ」なぜなら「強さこそ絶対」ですから。
ベリヤは逆に「脆弱で儚い者を溺愛する」タイプです。
それこそ、『自分の楽園以外では生きられない存在』を。

そして、”カティンの森”以外にも様々数々の惨劇と陰惨な流血の首謀者、この男の恐ろしさは『空虚さ』かもしんないです。
この男、『自分の楽園』以外は本気で価値を見出していない……無価値なものです。
そしてソ連に忠誠を誓うのも、「楽園を維持するためには必要だから」であって、それ以外の理由はありません。
そして、だからこそ『倒錯した人造の楽園を耽溺する』こと意外に関心のない本質をスターリンに見抜かれ、逆に信用されているんですね。
だって絶対にトップに立って国盗りしようなんて思わないでしょ?
『虚構の楽園』を愛でるのに、今の地位や権力が”丁度良い”んですから。
ソ連にとってバフにもデバフになる男、それがベリヤです。

正直、今回のイラストはまあ、その何と言いますか……うん、生理的嫌悪感で低評価とかドカッとくるかもなぁ~とは思いましたが、どうしても「ベリヤの狂気」をビジュアル化したくて入れてみました。
いや、この見た目の少女(見た目と年齢が合ってる保証はどこにも無いですが)たちが、「この現状を全肯定して望んで受け入れる」状況こそ、狂気以外何物でもないかな~と。

まあ、史実のベリヤのような「使い捨て」にしないのが良いのか悪いのか……
長々と書いてしまいましたが、ぶっちゃけ

『クルスの狂気と真っ向からぶつかれる、対になる違う方向性のSAN値直葬系転生者(サクセサー)キャラを(ソ連)側に出したかった』

というのが、この”整った容姿をしてるけど陰険メガネ”が生まれた理由かもです。

次回は、お久しぶりなキャラたちが出てくるかな?

それでは次回もどうかよろしくお願いいたします。





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。