転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
『へぇー。あの”地獄のスモレンスク”を生き残るなんて、貴女やるじゃないっ!』
それがリーリア・リトヴァクが覚えている限り、最初にクリスティアーナ・フォン・ホーエンツォレルンの言葉として認識したセリフだった。
第一印象は、『良くも悪くも物怖じしな良い育ちのお嬢さま』。
言葉には元ソ連人のロシア人(厳密にはリーリアはモスクワ生まれのユダヤ人)である自分に特に悪意も偏見も感じなかった。
そして、クリスティアーナが正真正銘のホーエンツォレルン家の直系、お嬢さんどころかガチなお嬢様だということに心底驚いたが……
本人曰く、
『所詮、滅んだ国の没落貴族よ?』
なんて言い回しが、多分だが気に入り始めたきっかけだったと思う。
なんとなく、本当になんとなくだがウマが合った。リーリアには他に言いようがない。
そして、気がつくといつの間にかつるむようになっていた。
リーリアは、『野心や野望を抱きながら飛ぶ』というクリスティアーナの在り方が、自分ではありえないからこそ眩しく見えた。
リーリアにとって飛ぶことは”渇望”その物だ。空に焦がれるあまりに心が渇き、だからこそ海の碧とも水の青とも違う、空の蒼を心から堪能したくなる。
正直、戦闘は別に好きでも嫌いでもない。
ただ、曲芸じみた空中戦は嫌いじゃない。むしろ、空から”
空はきれいな蒼がいいとリーリアは思う。
そこにはアカだの蒼だのは関係ない……いや、やっぱりアカより蒼がいい。
夕焼けの空を飛ぶのは嫌いじゃないが、夜までの時間が短すぎる。
リーリアは夜は嫌いだ。夜の闇に吸い込まれ、融けてそのまま帰ってこれない気がするから。
「ルーデル少佐たち、まだ降りてこないのかな? もう夕方なのに」
そう水平線の彼方に沈みそうな太陽を見るクリスティアーナに、
「流石にもう降りてくるんじゃない?
そう気の無い返事を返すリーリア。
実はサンクトペテルブルグには、常駐で16機の出来立てほやほや最新鋭夜間戦闘機の”
自分の乗れない機体に興味は無いし、夜の空は飛びたくないリーリアであった。
元ネタが同じっぽいどこぞの”
「えっ? むしろ私たちの問題なの?」
するとリーリアは極めて真顔になり、
「”クリス”、よく聞きなさい……ルーデル少佐は、あらゆる不可能を可能にするのよ」
「は?」
「あのね、『”理不尽”って言葉が人の姿して空を飛んでる』のがルーデル少佐なのよ。いえ、
ま、まあ間違ってはない……かな?
確かにジェット機乗せればエ〇ア88でバカンス気分で空戦やっていそうな連中ばっかだし。特にマルセイユとクルピンスキー。
「……それほど?」
「私、スモレンスク上空でそれを実体験したけど? 本気でさっさと捕虜になってよかったわよ。あんな連中と何度も殺し合いするなんて冗談じゃないわ」
いや、まあ確かに史実のドイツ空軍エースは理不尽なのばかりな気がするけど……撃墜スコア300機超が二人もいて、200機以上がダース単位でいるってどういうことよ?
300機組と200機組の合計で軽く3000機以上落としてる計算になるんだが……
いや数だけでなく、冗談抜きに超人っぽい人もいて、例えばテオドール・オステルカンプってエースは、あの”リヒトホーフェン”の友人で第一次世界大戦で32機を撃墜して、第二次世界大戦でも6機撃墜してエースになっているが……この人19世紀、1892年生まれ。
つまり、第二次世界大戦中に50歳になってる訳で……生涯現役ってこういう意味だっけ?
エミール・ラングというエースは1日で18機撃墜という意味不明なスコアを残し、ヴィルヘルム・バッツは1年間で224機のソ連機を撃墜した……史実である。
いや、ルーデルもハルトマンも化物だが、「まともな整備状態のまともな戦闘機が与えられていれば生き残ったであろう化物」がホントにゴロゴロいる。
そして合理主義で戦争を進める今生ドイツは、無茶な戦略はしないし引くべき時には引く。阿呆の力は奪ったし、メッサーシュミットの専横は物理的に叩き潰した。
そのおかげで、史実に比べておっそろしく損耗率が低いのだ。生き延びたらどんだけ連合軍に被害を与えたかわからない”空の化物”どもが……
まあ、そんな話をしていると……
「よお。相変わらず仲いいな? お二人さん」
夕陽をバックに現れたその男……二人は(特にクリスティアーナが)ピシッと固まった。
「”仲良きことは美しき哉”ってな。文人ってのはなかなか良いことを言うもんだ」
そう快活に笑う漢こそが、
「「フォン・クルス大公殿下ぁっ!?」」
フォン・クルス、華麗にクランクインである。
☆☆☆
「ど、どうして大公殿下がこんな場末の飛行場に……?」
ちょっと震え声のクリスティアーナに、
「場末って」
そう苦笑しながらクルスは、
「まあ、ここには結構、顔見知りがいてな。ルーデルとかロスマンとか。まあ、顔見せさ」
差し詰めドライブついでに現状確認に来たということだろうか?
美少年小姓トリオの一角、ドラッヘン君(多分、カバン持ちと護衛兼任)が一歩下がるようについてるし。
そしてふと思い出したように、
「今は初心者にも優しいフランスの輸入機なんか回しちゃいるが、腕が上がったらもっと良い機体を俺が宛がってやる。楽しみにしていろ」
そしてクルスは漢臭く笑い、
「だから生き残れ。大地も大空も血で染まるのは、もうすぐだ」
そう言い残し去っていったクルス。
その背中を見えなくなるまで見つめていたクリスティアーナはふと振り向き、
「……ねえ、”リア”。私が大公妃を狙うって言ったら笑う?」
「はあっ!?」
リーリアは心底驚いた表情をしてから、
「いやだって、フォン・クルス大公って少年趣味でしょ? いかにも貴族趣味の」
どうやらリーリア的には少年愛は貴族趣味の一つであるらしい。
「えっ? 大公殿下って結婚歴あるよ?
だいぶ前の話題だが……クルスは来栖任三郎時代、それも駆け出し外交官の頃に結婚歴がある。
10代半ばの可愛い嫁さんがいて……その娘は二十を迎える事なく死別している。
あまりにも短い結婚生活だった。
クルスが今でも”十代の女性”を苦手としているのは、「亡き妻を今でも思い出すから」であるらしい。
リーリアは、表情は穏やかっぽく見えたが目は欠片ほども笑ってなかったドラッヘンを思い出しながら、
「いや、でも美少年好きなのは変わらない訳で……」
「えっ? むしろバッチコイじゃないっ! 一粒で二度美味しくない?」
どうやらクリスティアーナ、お嬢様だけでなく”貴腐人”の素養もあるようだ。
「いや、アンタ……」
「ま、まあ今のは軽く流してくれると嬉しいかなぁ~って」
ちなみに未来はどうあれ、少なくとも”その約束”は守られることになる。
(仮称)『Ta183H-1”ヒュッケバイン”』……
クリスティアーナとリーリア、その時代最高峰の『世界初の女流実戦ジェット戦闘機パイロットにしてエース』の名を航空史に残してゆくことになるのだから。
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「ルーデル少佐、ロスマン大尉……ミリシャ航空隊は実戦投入可能かの最終確認だ。どうだ?」
「下手にルフトバッフェの真似などせず、足の遅い爆撃機や襲撃機狩りに徹すればどうということは無いでしょう」
自らJu187という史実のIl-10に匹敵するかそれ以上の最新鋭のドイツ版重シュトゥルモヴィークを既に乗りこなしていたルーデルはそう忌憚なく返した。
「少佐に同意します。慣れない対地攻撃などをさせないのなら、問題なく」
そう教官として育てたロスマンが頷く。
「そうか……何とか間に合った、いや仕上がったか」
クルスはそう呟くと、
「おそらくソ連のノブゴロドへの大規模攻勢は、来月……7月初旬になるだろう」
そしてクルスお付きのドラッヘンはブリーフケースから書類を取り出し、二人に手渡した。
「これは?」
「ソ連の最新の情勢と動向。それと新型ソ連機とレンドリース機の予想される性能と特質とかをまとめたもんだ。他の連中にも配るが、お前達も目を通しておけ」
クルスはニヤリと笑うと、
「情報と知識は、立派な武器だぞ?」
という訳で、クリスティアーナとリーリア、そしてクルスのほんの一幕でしたw
まあ、クリスティアーナにも色々思うところはありそうですが、基本的にアホの娘ですので。
とりあえず戦いの前のちょっとしたエピソードってって感じで。
まあ、クリスティアーナの恋(なのか、これ?)の行方は……いや、結果はどうあれ先は長いだろうなぁ~。
どこぞの大公は女の子との語らいより、明らかに物騒な話題の方がウキウキしてるしw
次回からはいよいよ戦闘の始まるかも……?
それでは次回もどうかよろしくお願いいたします。