転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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本日は通院だったので昼間に投稿。
短いけど、作中屈指の”やらかし”かも?

最後にちょこっとだけSFっぽくしてあるのは仕様です。







第343話 日本において雷の語源は『神鳴り』であり、同じく多くの文化圏においても古来より雷は”神威”の発揚とされた

 

 

 

 

【挿絵表示】

 冬宮殿、最も荘厳な謁見の間に、”その男”は入ってくる。

 深紅の衣を身に纏い、左右にサンクトペテルブルグの長老たる四大聖堂主教を従え、サンクトペテルブルグ大公ニンゼブラウ・フォン・クルスは宣言する。

 

 

 

「我は神の地上代行者に非ず(Я не являюсь представителем Бога на земле.)」

 

「故にサンクトペテルブルグを治める大公として命ず(Поэтому, как великий князь Санкт-Петербургский, я приказываю вам)」

 

「我が声を聞く、ノブゴロドを守護せし全ての武人に告げる(Услышьте мой голос, говорю я всем воинам, защищающим Новгород)」

 

「第一命令、殲滅せよ!!(Первый приказ: уничтожить!!)」

 

「第二命令、殲滅せよ!!(Вторая команда: уничтожить!!)」

 

「最終命令、殲滅せよ!!(Последний приказ: уничтожить!!)」

 

「サンクトペテルブルグの民に、我が統治するこの街に汚れた手を伸ばすというのならば、それがどれほどの代償が必要となるのかを赤い愚か者どもに教えてやらねばならん!!(Я должен показать жителям Санкт-Петербурга, этим красным глупцам, какую цену им придется заплатить, если они посмеют наложить свои грязные руки на город, которым я правлю!)」

 

「民よ! 案ずるな! 我は神に非ず! されど我は大公にして枢機卿、この地の統治者にしてこの地の信仰の守護者なりっ!!(Люди! Не волнуйся! Я не Бог! Но я эрцгерцог и кардинал, правитель этой земли и хранитель веры этой земли! !)」

 

「遠慮はいらん! 大公の名において許す! 神を冒涜し民を冒涜し国を冒涜した不信心者どもに今こそ裁きの鉄槌を下す時が来たのだっ!!(Не стесняйтесь! Именем эрцгерцога я прощаю тебя! Пришло время обрушить молот суда на неверных, которые хулили Бога, народ и страну! !)」

 

「心せよ! 諸君らこそが我が剣にして雷なりっ!!(Заботиться! Ты мой меч и мой гром! !)」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 それは歴史上稀に見る苛烈にして、同時にある意味において最悪とも言える勅令(・・)だったのかもしれない。

 何故なら、

 

”Урааааааааーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!”

 

 玉座の間に集結したその肉声を直接聞いたサンクトペテルブルグ大公領の重鎮や首脳部(あるいは大公の家臣団)、そしてそのオープンチャンネルの全周波数中継を聞いていたサンクトペテルブルグ市民軍(ミリシャ)バルト三国義勇兵団(リガ・ミリティア)、あるいはドイツ北方軍集団やフィンランド・カレリア方面軍に至るまで一斉に雄たけび(ウォークライ)が響き渡った!!

 

 そして……

 

「フフフ……まさか赤軍将校だった私が、この耳でまさか”勅”を聞くことになろうとはな」

 

「……ご不満ですか?」

 

 副官の問いかけにヴァトゥーチンは不敵に笑い、

 

「まさか! まさかこの身にこれほどの名誉が訪れる日が来るとは、望外の喜びに決まってるじゃないかねっ!」

 

 更に

 

「サンクトペテルブルグ市民軍ノブゴロド方面防衛司令官ヴァトゥーチンの名において命じる! 我らが大公殿下にして枢機卿猊下に忠誠と勇気と献身をもって応えるべく、各員一層奮闘せよっ!!」

 

「「「「да!!」」」」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「聞いたか諸君! 我らが蒼き聖なる花十字! フォン・クルス枢機卿猊下のお言葉をっ!!」

 

「「「「да!!」」」」

 

 旅団長のカミンスキーの言葉に、ノブゴロドに到着してからも訓練を欠かさずそろそろ精鋭と言ってよい練度になっていたカミンスキー歩兵旅団の各部隊長が一斉に呼応する。

 

「枢機卿猊下はおっしゃった! 我らこそが枢機卿猊下の威を示す雷鳴! 仇なす赤色の愚か者どもを屠る切っ先だと!!」

 

 そしてカミンスキーは改めて周囲を見回し、

 

「各員、一層の決死の覚悟を決めよっ!! 全ては”蒼き聖なる花十字”の為に!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 台無しの事を言うようだが……

 クルスの演説は言い回しを変えているだけで、実はいつもそんなに内容自体は変えていないのだ。

 ・自分は神やその代行者ではない

 ・だけど為政者(大公)として役目で大公領を守る

 といつもの前置きしてから守備隊の面々に、

 ・責任は俺がとってやるから存分にやれ

 そう言ってるだけだ。

 まあ、本人にとっては……

 

(まあ、俺に直接命令権があるわけじゃあるまいし、戦意発揚ならこんなもんだろう)

 

 と内心は相変わらず実に残念極まりない物だった。

 いや、確かに法的に軍への直接命令権があるかは怪しいところなのだが……

 だがこの男(クルス)、外交官としての才覚や適性は哀しいほど無かったが、某総統閣下が言う通り”扇動者(アジテーター)”としての才覚は腐るほどあった。

 これ絶対に後年、口のさがない輩から”狂信者製造装置”とか言われるパターンだろう。

 例えば、サンクトペテルブルグ市内の広域放送でも流された演説を聞いた市民の反応をピックアップしてみよう。

 

「あの御方は、ロマノフ皇帝の再来じゃないよ……」

 

「えっ?」

 

「戻ってきたんだよ。もっと古い尊き血筋の御方が……やっぱり死んでなんていなかったのさ。あの苛烈さは、もはや間違えようも無いだろ?」

 

「えっ?」

 

「だから戻ってきたんだよ。偉大なるルーシの始祖、我らが”雷帝(Groznyi)(Грозный)”様が、ようやく永い眠りから目覚められたんだよっ!! 姿を変えて、蒼き聖なる花十字のご加護と共にっ!!」

 

「ええっ!?」

 

「神を信じぬ不浄なる赤き汚れ者どもを、一人残らず焼き清めるためになぁっ!!」

 

 

 

 ロシア史においてかつて”雷帝”と呼ばれた男はただ一人。

 ”モスクワ(・・・・)大公”から初代”皇帝(ツァーリ)”になった漢、『ロシア(ルーシ)の始皇帝』にして絶対専制君主たる”イヴァンIV世”のみだ。

 そしてロシア人にとり、”偉大なるルーシ”の先駆者たるイヴァンIV世は、つい最近まで存在していた華麗なる一族、ロマノフ王朝とはまた別の意味での”特別”であった。

 

 ロシア人に限らず、科学が幅を利かせる前の時代の人々にとって、”雷”とは神の怒りであり分かりやすい、強烈な閃光と轟音で直感的に理解できる『神威その物』であった。

 しかも打たれれば、容易に命が奪われるのだ。

 電気の概念や感電死という者が理解できなかった時代の人間にとり、雷が落ちた大木は燃え上がり、人が打たれれば全身焼け爛れて死ぬとなれば、それは恐ろしい物だったろう。

 

 故に”雷帝(・・)”。

 それは畏怖であり、同時にロシア人にとってそれは恐ろしくも絶対の力に対する信奉と憧憬の言葉でもあった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

【挿絵表示】

「あははっ! 流石は私の未来の旦那様♡ もうサイッコォッーーー♪」

 

 そう素直にはしゃぐクリスティアーナに、

 

「ねえ、”クリス”……それ本気で言ってる?」

 

 親友にしてバディのリーリアの言葉にクリスティアーナはきょとんとして、

 

「”リア”、どゆ意味よ?」

 

「どういう意味も何も大公殿下……いえ、この場合は枢機卿猊下って呼ぶべきね? あの方、もう常人がどうこうできるって枠に居ないわよ? 多分」

 

 リーリア・リトヴァクはモスクワの下町生まれだ。

 ユダヤ系であっても生粋のロシア(ルーシ)人であり、だからこそ感じ取れるものがあった。

 

「枢機卿猊下は生まれ乍らの為政者よ……それも普通の為政者じゃない。常人が側に居れる人でも側に居てもいいって御方でもないでしょうね」

 

「なに? 一応、これでも常人じゃなくて皇帝家の末裔なんだけど? 家柄的には釣り合うと思うわよ?」

 

 と本当に一応は貴族令嬢らしい思考をしてくれるクリスティアーナに、

 

「そういうのじゃないのよ。なんて言ったらいいかな……えっと、皇帝だって貴族だって人間でしょ? だからロマノフ王朝はあっさり倒れたんだし」

 

 対してポストロシア革命世代らしい言い回しと価値観を示すリーリアは、

 

「枢機卿猊下の”アレ”はもっと根本的、いえ根源的に違うのよ」

 

「どういうこと? クルス様って自分でも『我は神に非ず/神の地上代行後者に非ず』って断言してるじゃない」

 

 するとリーリアはちょっと困った顔で、

 

「”神ではない”、”神の使徒ではない”は『=只人(タダビト)』って訳じゃないの。少なくともロシア人の感覚ではね」

 

「???」

 

 クリスティアーナはおそらくは転生者(暫定判断)だ。

 故に前世記憶やそれに付随する価値観に、無自覚で引っ張られがちな部分がある。

 だからこそ理解しがたいのだろう。

 

 ある視点に立てば、『ロシア人ほど”宗教的な人種(・・・・・・)”はいない』という側面が見えている。

 ”敬虔である”とか”信心深い”という言葉とは意味が違う、リーリアの言葉を借りるならもっと根源的な部分でだ。

 例えば、「呪い代行サービス」が21世紀になった今日でも、ロシアではビジネスとして成立する……と書くとそのイメージが伝わるだろうか?

 例えば、『呪術書』が”実用書”扱いでベストセラーになるというのはどうだろう?

 あるいは、”売れっ子呪術師”がテレビ、ラジオ、インターネットに大腕を振って出演しているというのは?

 

 現代米国において”妊娠中絶を巡り暴力混じりの論争が起きる”、”創世記と反するという理由で進化論がカリキュラムから削除される”というのとは根本的に問題が違う。

 米国のそれは突き詰めてしまえば、『聖書に基づいた価値観・世界観・認識の違い』だ。

 だが、ロシアのそれはもっと根源的で、『原始宗教的なシャーマニズムが人の営みに組み込まれるように密接』であり、言い方を変えればより湿度をもって密着し根付いている。

 それはソ連時代でも消えることはなかった。それほどまでに根深いのだ。

 

「人の身ながらも、”人以外の役目”を持つ者は確実に存在する。歴史上、何人もね」

 

 例えば、各種宗教の聖典や経典に語られるような……

 

「私の見立てだと、枢機卿猊下もそんな中の一人……神様ではない。神様の地上代行者や依り代じゃないかもしれない。でもね、」

 

 リーリアは半ば確信的に、

 

「だけど、”雷”……人の姿をした”神威その物”、神様の地上代行者じゃなくて神罰(・・)の地上代行者』……そんな気がしてならないのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「世界線事象平面に大きな”揺らぎ”を確認しました。変数パラメータ規定値を突破。因果律吸収限界を超えます。マスター、”安全弁”を作動させますか?」

 

”まさか。『決まり決まった未来』より『予測できない未来』の方がより愉悦だろう?”

 

『かしこまりました。是正も修正も致しません。ただし世界線崩壊のリスクは高まります』

 

”構わんさ。遊戯とは本来そういうものだ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あ~あ、ついにロシア版始皇帝、ルーシの元祖こと”イヴァン雷帝”の名前まででてきちゃったよ(挨拶

まあ、「我が名において許す。仇なす敵を全て殲滅せよ」まで言い切っちゃったら、ねぇ?
実は本人、

クルス:「毎度同じような事を言い回し変えて言ってるだけなんだけどな」

と内心はかなり残念な模様w
挙句に、

クルス:「まあ、俺に直接命令権があるわけじゃあるまいし、戦意発揚ならこんなもんだろう」

うん。聴衆との乖離が激しいw
というか、普通に”勅命が出た”と大喜びされてるのに気づいていないw

無論、本人は絶対に帝位なんて望まんでしょう。
だって、”サンクトペテルブルグを帝都とする皇帝”になんてなった日には……

クルス:「それ絶対、モスクワ奪還→帝政ロシア復活望まれるパターンやん。俺、そんな面倒なことしたくないぜ?」

とか思ってるんだけど……
でもこの先、公式にはともかく俗称として”復活の雷帝”、”クルス雷帝”の名が広がって逝きそうな予感ガガガ……

なんか最後は何やら神様(?)っぽいのまで出てきたしw

さて次回はチーム・ノブゴロドが戦意MAX状態の陸戦ステージがいよいよ開幕です。
なんか泥臭い戦いになるような気もしますが……

次回もどうかよろしくお願いいたします。

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