転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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いよいよ、お出ましです。





第362話 やんごとなき御方と”常世桜”、そして天草宮殿下

 

 

 

 さて、ちょっと気分転換にこの世界線における日本皇国今上天皇陛下の話でもしよう。

 生まれは20世紀、1901年で20代で皇位を継いだのは史実と一緒。

 現在、42歳であらせられる。

 ただし、”転生者”である。繰り返すが”転生者”である。大事なことなので二度言った。

 しかも、チートとは言わないが、「少々特殊な」という言葉が転生者の前に着く類の。

 

 そして、現首相である近衛公麿が大のお気に入りだった。

 まず何より、出自が五摂家筆頭・近衛家で、宮内省にも多くいるうるさ型、前首相の広田剛毅の時には謁見しようとすると「家柄がどうの」と言い出す輩も五代摂家筆頭で公爵家の近衛相手では迂闊に口出しできない。

 しかも実家も太いが若き頃から明治の元勲の1人にして最後の元老でもある西園寺翁を始め”皇室の藩屏”西園寺家がバックについていた。

 

 会うのに家柄も身分も誰にも口出しさせず、尚且つ”政界のマイルドヤンキー”とも呼ばれる鉄火肌に見えて強かなマキャベリストという政治家としての在り方や気風(きっぷ)も気に入っていた。

 だが、当の本人はと言えば……

 

(俺、陛下ちょい苦手なんだよなぁ~)

 

 今上天皇陛下は宮城(きゅうじょう=明治宮殿)に坐しまする。

 これは当然の話だし、間違ってはいない。

 だが、「地上に」かと言えばそうではない。

 確かに執務の時は地上なのだが……

 

(ここだけはなんかやたらと”異世界”っぽいんだよなぁ……)

 

 東京都千代田区千代田1番1号に訪れた近衛は、半ば顔パスで宮殿部にある執務室や松の間(謁見の間)ではなく、秘匿された通路を通り特別案内者の”巫女”に地下へと誘われる。

 

 そこにあったのは地底湖。

 だが、地下だというのに陽光の下のように明るく湖畔には下草が生い茂り……何より目立つのは、一本の巨木にして老木。

 樹齢2000年を超えると言われているのに、年中花を咲かせているという摩訶不思議な”千本桜”や”千年桜”ならぬ”万年桜”……

 

(まさに歴史の裏側に咲く”神代桜”だな……本当に現実の風景か怪しくなってくる)

 

 此処はただ”常世桜荘園(とこよざくらのしょうえん)”とだけ呼ばれていた。

 湖のそばにはこじんまりとした寝殿があり、そして湖の畔に赤い毛氈を敷き昼寝を楽しんでいたのは……

 

「やあ、近衛。来たね?」

 

 身分を表すのはゆったりとした上質な紫紺の着流しと控えめに金糸で刺繡された”菊の御紋”のみ。

 だが、瞳を開き飾り気のない言葉を発した途端、空気ではなく”空気感”が変わる……

 

(嗚呼、やっぱりこの御方は苦手だわ。対面しただけで自分が現実に生きているのかあやふやになりそうになる)

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ふふっ。確かにバチカンからの親書は受け取ったよ」

 

(なんでこの御方だけ、前世と大幅に違うんだろうなぁ……)

 

 ”雅”という言葉をそのまま人の姿に落とし込んだような印象の男性に、近衛はどこか達観した感情になる。

 

「相手が相手だ。失礼があってはいけないな。それに我が国の耶蘇教(キリスト教のこと)では少々使者としては荷が重すぎるだろう?」

 

 国家神道化は阻止したとは言え、明治時代に廃仏毀釈があったのも事実であり、現在の日本皇国の宗教的最大勢力は神道だ。

 まあ、天皇家(神武天皇)と高天原(天照大神)の関係性を考えれば当然だろう。

 そして、皇紀2600年と紀元節を祝う国、それが日本皇国という国家であり、そして皇国を皇国と足らしめているのが眼前の男性だった。

 

(まあでも、”神代(かみよ)の末裔”と言われても普通に納得しちまうんだよなぁ。雰囲気的にさ)

 

 そのような国で、中東生まれの神の子伝承が大きな勢力になるわけもなかった。

 

「それにしても文面から多少焦りのような物を感じるね? これは庇護者が物理的に崩壊したからかな? いや、それだけじゃないな……英国国教会と新興正教会(おそらくサンクトペテルブルグ正教)、それにイスラムの特定宗派(おそらくサヌーシー教団)が勢力を拡大している事に危機感を感じたというのもありそうだねえ。そうかそうか」

 

 何やら納得したような、そしてどこか浮世離れした典雅な笑みで、

 

「では近衛。使者は我が弟にしよう。なに、いつまでも独り身で気楽に空を飛んでいるので困っていたところだ」

 

 その言い回しから皇国空軍所属の皇族、そんな直宮家(みやさま)と言えば……

 

「”天草宮(あまくさのみや)”殿下ですか……?」

 

 すると”やんごとなき御方”は小さく笑い、

 

「皇族の使者ならば流石に失礼にはあたるまい。あやつもそろそろ宮家の役割を果たしても良い歳頃であろう?」

 

 ”天草宮”和仁(かずひと)親王

 史実には存在しない大正天皇”第五子”で、今上天皇の末弟。1918年11月11日、第一次世界大戦終戦日の生まれだ。

 兄たちが皇族の務めとして海軍や陸軍に居るのに対し、この末皇子はまだ生まれて総年月も経ってない皇国空軍を選択した。

 あるいは自分と年齢が変わらない空軍にシンパシーを感じたのだろうか?

 既に元服を迎えて今年満25歳になるというのに結婚せず、パイロット資格は待っているが戦場には流石に出してもらえず、テストパイロットという名目で日々最新鋭試作機を飛ばしているらしい。

 皇族の中では「女の柔肌より鋼の翼が好きで、褥の中より空の上が好きな風変わりな若きプリンス」として知られていた。

 

「……殿下でしたら、自ら操縦桿を握って飛んで行きそうな気もしますが」

 

「どこぞの”黄金の電気騎士の主”でもあるまいし、流石にそれは許してやれんな」

 

(ああ、”五つの星物語”の……)

 

 あれ、結局完結したんだろうか?

 

(というか陛下、ナチュラルにちょくちょくヲタネタ挟むような……?)

 

「時に近衛、随分とタガが外れたイタリア人が押し寄せているようだが……パスタの備蓄は十分か?」

 

「ええ。まあ、こんなこともあろうかと英領オーストラリアとインドから昨年豊作だったことも相まって、多めに小麦を買い付けておきましたし、今年はフランスの復興も軌道に乗り、昨年以上に農作物の輸出も可能なようですので小金稼ぎに丁度良いでしょう。トルコも輸出に乗り気ですし、料金はリビアからの原油で支払えばよろしいかと。『生パスタと生パセリじゃないと嫌だ』と言いださない限りは対応できるでしょう」

 

 実際、既にこれらの国の企業には乾燥パスタの製造を依頼していた。

 文句垂れる輩には容赦なく配給食を英国人向けの備蓄マーマイトに切り替える所存である。

 

「何とかなるならそれでよい。食料は最も不満が出やすい分野だ」

 

「軍や今村サンには苦労かけてしまいますが、1年程度イタリア人を食わせるくらいは何とかしますよ」

 

(まあ、いち早く南イタリアで農業と畜産業復興させて”緑の革命”おこさんと不味いが……)

 

 皇国ではモータリゼーションは自動車ではなく農業用機械から始まり、同時期に化学肥料の国産化にも成功している。

 また主食の米は既にコシヒカリの大量栽培が始まっており、皇国の食糧事情は安定していた。

 

(試しに”沖縄そば”でも輸出してみるか? あれも小麦麵だし)

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「それにしてもムッソリーニが王族を連れて逃亡か。キャラに似合った行動ではあるが、困ったものだな」

 

 そう苦笑するやんごとなき方に、

 

「まさしくです」

 

 と頷いてみせるが、

 

「さて……近衛、どうするつもりだ?」

 

「そりゃ追いかけますよ。身柄を確保しなければ話にならない、いや話が進みませんし」

 

 するとやんごとなき方は満足そうに、

 

「デアルカ。国璽は最悪、作り直せばよい。もしそうなれば、何なら黄金ででも翡翠ででも拵えて、朕の名で贈ってやっても良いぞ?」

 

 その意味を深掘りすると中々に怖い。

 日本における印綬の意味、そしていわゆる金印、”漢委奴国王印”を例にとると……無論、この御方がその意味を知らない筈もわからない筈もない。

 心底、「冗談であって欲しい」と思いながら近衛は、

 

「勘弁してください。リビアやギリシャの国王が何を言いだすかわかりませんので」

 

 確かにあの”皇国に対して前のめり”な二国の王様の反応がちと別の意味で怖い。

 

「キレナイカには子種(シモヘイ)を、ギリシャには黄金甲冑を贈ってやったではないか?」

 

「いや、まあ、そりゃそうなんですけど」

 

 すると陛下、悪戯が成功した子供のような微笑みで、

 

「それだ。近衛」

 

「へっ?」

 

「公的な場でないのなら、朕の前ではもう少し砕けた口調にするがよい」

 

「……御意に」

 

「それがいかんと言っておろうが」

 

 少し呆れながらも、

 

「だが、”チャーノ”だけは評価してやろうではないか。体を張って朕を楽しませるとは中々に道化の資質があるようだ」

 

「まあ、間違いなく”道化”ではあるでしょうね。本人がそうあれと望んだかは別にして」

 

 そう、あの「ヒトラーを怒らせることに義理の父親と同じく定評のある」、ムッソリーニの娘婿のチャーノである。

 さて、史実のチャーノ、43年のイタリア降伏の時に義父のムッソリーニを裏切り失脚させることに加担し、後にサロ共和国の盟主として復権したムッソリーニに報復で銃殺に処されるという、こちらもある意味道化らしい最後だったが……

 

 だがこの世界線のチャーノは一味違った!

 いや、史実と同じ様に義父を裏切り失脚させようとしたのだが……実はその行動が読まれていて(王党派からの密告もあった)、ローマからの国王&ムッソリーニの脱出の際、偽情報をつかまされてまんまと”(デコイ)”にされたのだ。

 

 おかげで臨時首班パドリオを中核とするムッソリーニ排斥派からは「偽情報をつかませて義父の脱出を支援した裏切り者」認定され身柄を拘束された。

 つまり、ローマに置いてけぼりにされたのだ。

 

 現在は独房にて裁判を待つ身らしいが……肝心のローマは、チャーノにかまけてる暇も余裕もなく裁判の日程は不明(多分、戦後)

 しかも、ムッソリーニの娘婿=義理の息子だというのに、「ムッソリーニに切り捨てられるような無能者では利用価値無し」と見なされ、どこの組織からも救出どころか暗殺・殺害の可能性もなく、最近は表舞台に出てこれなかったせいもあり半ば存在を忘れられているのかもしれない。

 

 まあ少なくとも、やんごとなき方を楽しませる道化っぷりは価値を見出すべきなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




嗚呼、珍しく何となくファンタジーっぽい(挨拶

バチカン、どえりゃー御方を釣り上げたようですよ?
まあ、それが良かったのか悪かったのか……

まあ、確かに”親王殿下”なら誰が相手でもそりゃあ失礼はないでしょうけどw

ちなみに”陛下”、ビジュアル的ではなく性格的モチーフは某”アマテラスのミカド(AKDの天辺)”なのでかなりその……中身はかっ飛んでるかも?(汗

実はこの御方の登場時の脳内BGMってナチュラルに”A sai en”だったんですよねぇ~。
いや、イタリアで国璽無くなっていたら、(意味が解っている上で)金印をポンと印綬しそうな怖さがあるんですよね~。
欲しがれば、ギリシャ王国やキレナイカ王国にも。

ただ個人的には……陛下を前にすると傲岸不遜で政界のマイルドヤンキーな近衛が少し可愛くなってしまうのがw

ちなみに”天草宮”様、この名前の宮様がバチカンに行くこと自体がある種の皮肉にも聞こえるような……?

次回は……「懲りない面々」かな?
次回もどうかよろしくお願いします。

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