転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
そして、事態はくるりと裏返る。
それは、天草宮和仁がローマに到着して1週間ほど経った頃の事だ。
事の発端は、旧王とムッソリーニが抑えているはずのヴェネツィア、パルマ、ジェノヴァの三都市から一斉に”緊急救難要請”が来たのだ。
それも市長名義で、「全面降伏と新王朝への恭順」を明記した上で。
その悲鳴のようなあらゆる国際チャンネルからの通信で、皇国軍はともかく組織がまだ完成しきれていない新イタリア王国軍は、状況が把握できずパニックに近くなった
「これは、赤色勢力……共産パルチザンの総攻撃と見て間違いないだろう」
遣イタリア皇国軍首脳部や上層部は、いずれこうなることは予想していた。
まあ結局、”カモッラ(ナポリを拠点とするマフィア)”からの情報は、新イタリア王国政府伝いで皇国軍にも届けられる事になった。
別に皇国軍がご当地犯罪結社と組したという話ではない。
どちらかと言えば、これはマフィア側の都合というか……
イタリア全土のマフィアがムッソリーニに煮え湯を飲まされたのは史実も今生も同じだが、実は社会党・共産党連合とも相容れないとマフィアは考えていた。
まあ、アメリカのロシア系移民内でのロシアン・マフィアはこの時代でも存在していたが、ロシア本土で地下に潜伏していたロシアン・マフィアが本格的に息を吹き返したのは、ソ連崩壊・冷戦終結後ということを考えれば、察してもらえると思う。
イタリアン・マフィアたちは、社会党・共産党連合を連帯だのなんだのと言いだす以上は「”
つまり、利害は一致していたのだ。
”カモッラ”は確かにイタリア犯罪結社の最大手の一角だが、そうであるが故に北部にもコネ、中小の提携組織があった。
それに国産共産主義の伝染性の高さは、分派が進出した北米を中心に各地で確認済みだ。
イタリアが社会主義国や共産主義国になるなんて未来は、マフィアにしてみれば冗談じゃなかった。
だからこそ、今回は「伝手を作れただけで良しとする」という方針での北イタリア動向の情報提供だった。
王国新体制に食い込むのは、これからでも機会はあるだろうと考えるあたり、実に強かだった。
そして皇国軍だが……予想していた以上、準備も当然している。
バルジのように突き出していたボローニャには陸軍の最大兵力、それも戦闘力も機動力も高い機甲部隊を待機させていたし、ティレニア海にもアドリア海にも海軍陸戦隊を揚陸艦込みで待機させていたし、空軍だけでなく大戦直前に組織されたばかりで今回が実戦初参加となる空挺部隊まで用意していた。
おそらく皇国軍始まって以来の大規模
そして、有事に備えて事前準備していた部隊の中には、現イタリア正規軍(=元イタリア解放軍)の北部出身将兵を郷土部隊方式で編成した歩兵連隊もあった。
実質的に旅団規模ではあるがストレートにヴェネツィア方面連隊群、パルマ方面連隊群、ジェノヴァ方面連隊群と銘打たれた各部隊は、皇国軍の緊急展開部隊の
無論、皇国軍は戦闘自体は先遣隊で決着をつけるつもりであり、北方イタリア人は後詰めであり、占領(治安)維持の為に必要な人員だった。
しかし、今村元帥率いる遣イタリア皇国軍司令部があり、アオスタ新王のお膝元の首都ローマでも、事態をより混乱させるべく”騒動”が起きていた……
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「はぁ? 暴徒が”トレヴィの泉”に向かって来てるだぁ?」
思わず聞き返す天草宮和仁に、ロック……お付きの日高信緑郎は困ったように頭を搔き、
「まあ、”ポーリ宮殿”に旧王の孫娘が居城にしてるってのは割と有名な話ですし、”殿下”が滞在してるのも知ってる奴は知ってるでしょうしねぇ」
「ああ、そういう。そういえば、北イタリアで赤色の大攻勢が始まったらしいな? その兼ね合いか?」
信緑郎は少し考え、
「普通に考えて”陽動”でしょうな。打倒しようとしてる旧王族の娘と殿下の眼前で騒ぎを起こせば、どうしたって皇国は対処せざるえない」
すると和仁親王は少し呆れたように、
「なるほどね。なあ、”ロック”……連中、『その意味』をわかってると思うか?」
「ロックはやめてくださいって。割と不名誉な類の……って、それはいいや。わかっとりゃせんでしょうなぁ。じゃあなければ、皇国最大級のメガトン戦略核地雷を踏もうとは思わんでしょう」
にへらと緊張感無く笑うロックに、
「……誰が核地雷だ。誰が。それで状況は?」
「観光客……がこのご時世にいるのか知りませんがねぇ、一般市民の噴水広場を含めた王宮周辺から退避は憲兵隊が誘導してるので、もうじき完了するでしょう。肝心の暴徒はローマのご当地警ら隊が抑えていますが、どうにもよろしくないようで」
まあ、市民誘導をしているのがイタリア語が堪能な皇国憲兵員というのが解せないのではあるが、「場慣れしている者が率先して行う」のが道理であり、そういう話し合いがなされているのだから仕方ない。
そうであるが故に、避難誘導は後方に任せローマの警ら隊は憂いなく暴徒鎮圧に向かったのであるが……まだ着任して日が浅い隊員も多く、頭数も装備も経験も訓練も十分とは言い難いご当地警ら隊では、武装した共産パルチザンが確実に潜り込んでいると思われる暴徒の鎮圧は荷が重いかもしれない。
「王宮や司令部、バチカンは?」
「まあ、あっちはあっちで騒ぎが起こっているようですが、まあ警備隊の数と実力から考えて、そう滅多な事にはならんでしょう。非武装員避難が終わり次第、ウチの憲兵隊も戻って来るでしょうが、そっちは暴徒鎮圧より殿下の警護に回しますんで」
逆に言えば、バチカンを含めたローマ市内あちこちで騒ぎが起こってるということで、他所から増援は時間がかかるということを告げていた。
だからこそ、限りあるリソースを自分に回すのだと告げていることを、和仁は理解した上で、
「暴徒、いや”
「ローマ全体で確認されてるだけで3000ほど。まあ、多くても5000ってとこでしょうか?」
(確認できてるだけで前世の”2・26事件”のざっと倍か……市内の展開兵力で対処できない数では無いが)
「面子潰された
「なんです?」
「その手に握ってるのはなんだ?」
そう信緑郎が片手に握ってるのは、やけにゴツい垂直二連銃身の”
ちなみに腰と肩には、やけに大きなショットシェルを10発以上仕込んだ革製の弾帯を巻いていたが。
「ブローニングの”
ちなみに10番ゲージとは、映画やら何やらに出てくる一般的な散弾実包の12番ゲージより一回り大きなショットシェルで、本来はトドや熊などの人間より図体の大きな大型獣狩猟に使われる弾だ。
少なくとも普通は対人戦では使わないが……付け加えるなら弾種は000B、鹿猟などで使われるOOB(OOバックショット)より大粒の散弾で、素材は鉛。
『防弾装備なんか持っていない相手』には抜群の効力を発揮するだろう。
「いや、そうじゃない。銃の解説が欲しいんじゃなくて、なんでそんな物騒なモンを引っ張り出してるかをだな……何となく答えは分かるが」
「殿下の身辺警護には本職の方々がついてくれるってんなら、ちょっと降りかかる火の粉を前もって払っておこうかと思いましてねぇ」
そしてニヤリと笑い、
「こう見えても皇国臣民って自覚も公僕って自覚もあるもんでね。自分はともかく、殿下に降りかかろうなんて”不敬な火の粉”には少々我慢ならないんですよ」
その言葉に噓はない。
そうは見えないかもしれないが、意外と信緑郎は皇国への帰属意識が強く、正しく”愛国者”と呼んでよい範疇の男だった。
少なくとも国から裏切られない限りは、それは揺らぐことはないだろう。
「……いけるのか?」
「状況的に”トレヴィの泉”まで来れるのは、精々100人ってとこでしょう。それくらいならどうとでもなります」
☆☆☆
「ねぇ……ロックさん、一人で行かせて大丈夫なの?」
何やらマリアンナ(万が一の脱出に備えて町娘ルック)までロック呼びを始めてしまったが、
「心配いらんさ。あいつはできることしかできるとは言わんし、何より”実績”がある」
とりあえず”フリント・ロック”の二つ名は伊達ではないという事だろう。
「でもさ……」
「それに一人じゃないぞ? 見た目は可愛いけど”おっかない守護天使”が
「あれ? なんか発音、変じゃなかった?」
「気のせいだろ?」
はい、という訳で
多分、その行動の意味も分からないままに……
えっ? いつもの事?
いや、まあそうなんですけどねw
でも良いんですかねぇ~。
旧王の孫娘だけならともかく、イタリア軍を地中海のあちこちで袋叩きにしてきた皇国の親王殿下の眼前で騒動を起こすなんて、ね?
なので、張の兄貴とは逆に「クソみたいな現実」を東欧で目の当たりにしてもべったりと体制側に付いてる日高信緑郎は、すっかりカチンときたようですよ?
まあ、雷管を思いっ切り叩かれたようなものですしw
それにしても……私物の手荷物で、なんてモンを持ち込んでるんだかw
さて、次回は……乱戦、ですかね?
次回もどうかよろしくお願いします。