転生しても戦争だった ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~ 作:ガンスリンガー中年
長めですがイラスト一切無し、前話とはかなりの体感温度差が……
皇国軍は不正規戦・非対称戦、都市制圧戦を想定した編成に入っていた。
シモヘイ、下総兵四郎大尉をはじめとするスナイパーやスポッターは、”独立狙撃部隊”として動くことが決定した。
建物の障害物が多く、内部で大規模な機甲戦力の展開が難しい都市戦では、狙撃手も荒野や砂漠の戦いとは別の役割を担うことも多い。
まず、「一般的な歩兵の有効射程をはるかに上回るアウトレンジからの長距離狙撃や超長距離狙撃」が封じられる事が多い。
単純に建物が邪魔で射線が確保できない事もあるし、窓辺に居るならまだしも建屋の壁の後ろに隠れた標的を狙撃するのは難しい。
確かに直線的な道路や通りがあり、区画などで人工物もある程度の規則性があって建てられている為、樹木の密度が半端ではないうえに生え方も自然ゆえのランダム性がある熱帯雨林や原生林などの密林に比べれば視界も射角も取れるが、要は障害物の無い地形に比べて、入り組んだ都市部は平均交戦距離が短くなるのだ。狙撃も無論、例外ではない。
では、射程距離のアドバンテージが小さくなった狙撃兵はどう動くべきか?
敵味方が同じアーバンフィールドで戦うなら、特性も同じ。
つまり、狙撃兵が隠れられるポイントは多くある。
勿論、どこでも良いというわけでは無い。
射界や射線をなるべく広く多く確保すべく、なるべく高いところに陣取りたい。
人間の体の構造上、視界は水平方向に広く上下方向に狭い。付け加えるなら、頭を上に向けるより、重力に従い下を向いて歩く方が楽だ。
そのような特性な為に上方にポジショニングするのは、それ自体で発見されづらくなるのだ。
加えて、風向きや狙撃地点の高さ、建物の配置などに影響されるが……都市部は音が反響しやすく、発砲音から狙撃位置から特定されづらいというメリットもある。
都市戦の真っ最中なら、鳴り響く戦場音楽に紛れることも多い。
ただし、過信は禁物だ。
狙撃の最大のアドバンテージである有効射程距離が短くなるのは事実であり、一般歩兵が持つ装備の射程と変わらなくなるケースなど都市では珍しくない。
カウンタースナイピングなどの特殊な手段を除けば、一般的な歩兵部隊が狙撃手への対抗手段は『狙撃手がいると思われる場所にありったけの火力を集中する』事だ。
もし、射線確保の関係で有効射程が大差ないシチュエーションなら、火器の数が多い方が有利になる。
狙撃は直接照準による直射、命中しなくても頭があげられなくなれば打つ手はない。
故に敵に狙撃点の見当を付けられる前に動くことが基本だ。
そう、つまり射点から射点に気づかれぬように素早く静かに動くことが狙撃手に求められる。
☆☆☆
「そんな理由で、次の作戦での装備最適解は”
「ほぼほぼ最適解じゃないっすか? ちょろちょろ動き回るのが苦にならないデカさと重さですし、イタリアンの入り組んだ市街地なら射程300(m)も確保できれば御の字。仮に長い射線が確保できたとしても、大尉殿とその銃なら700は確実、条件さえ整えば1000くらいまでならいけるんじゃないっすか?」
「まあ、そのくらいならね」
「二式にせよ二式改にせよ、狙撃銃としての真価を発揮するのは1㎞以遠の狙撃。それ以下で使うなら、対物・対軽装甲目的でもなけりゃあ、ぶっちゃけ無用の長物っすよ。文字通りの」
実際、12.7㎜(50口径)や13.9㎜(55口径)なんて本来は対人狙撃弾としてはオーバーキルな弾を、シモヘイはほぼ1マイル・キルを含む長距離狙撃で使っていた。
対物ライフルとして装甲目標に向けて撃った(仕留めた)事もあるが、そっちはどちらかと言えばレアケースだ。
「小鳥遊君は手厳しいね」
「そっすか? ”弘法筆を選ばず”とは言いますが、プロだからこそ道具は選んだ方が良いに決まってる。何しろそれで飯を食うんだから」
意外と含蓄深い小鳥遊君である。
「ところで大尉殿、その銃の正式名称って”試製下総43式狙撃銃”っすよね?」
「……未だに自分の名前が軍用銃に入るってシチュエーションになれなくてさ」
「”村田銃”とか前例があるじゃないっすか。というか、いっそ”シモヘイ・スペシャル”とかでよくありません? そっちのほうが確実に”
「普通にいやだよ。それ、もう”シグネチャー・モデル”じゃん」
多分、シモヘイの台詞はフラグだと思われる。
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無論、不正規戦・非対称戦を想定した都市攻略作戦の準備は独立狙撃部隊だけでなく、皇国軍陸海空各所で行われていた。
目立つところでは、皇国陸軍の機甲戦力の調整だ。
市街というのは意外なほど戦車が走れる場所が少ない。
こう聞くと意外と思われるだろうが……勿論、砲撃や空爆で『あらゆる建物を跡形もなく吹き飛ばし、街全体を砕いて”戦車が踏み越えてゆける程度の瓦礫の山”にする』のなら話は違うが、ある程度”街としての機能や原型を残して制圧”することが必然的にそうなる。
戦車などの
そもそもが第一次世界大戦に塹壕突破の切り札として生み出され、接地圧の低さからタイヤが沈み込むような泥濘地を物ともせずに機動力を発揮できる……のは良いのだが、舗装道路や石畳などの整地だらけで、そのような道路は入り組んで網の目のように張り巡らされて入り組んでいるくせに、歩行者や自転車や自動車は通れても戦車が通れないような細い道も多い。
それじゃあ必要なら建物を踏み潰してゆけばよいと思われるかもしれないが……
例えば、一般的な二階建ての現実日本のアパートを想像して欲しいが、実はあの高さの垂直に切り立った障害物を乗り越えられる戦車、あるいは履帯車両というのは存在しない。
ならば、吶喊して破壊しながら進めばよいと思うかもしれない。確かに戦車は重く、それを動かす馬力もあり、厚い装甲で覆われているが、かといって掘っ立て小屋のような安普請ならともかく、普通の住居やそれより硬いビルを体当たりで崩しながら進むのは至難の業だ。
古い建物の解体現場を見たことがある人なら分かると思うが、戦前の建築物とてかなり頑丈なのである。
ならば戦車砲で……となるかもしれないが、徹甲弾や徹甲榴弾は厚い装甲を貫通するには向いているが、このような用途には全く向いておらず、かといって榴弾でも壁に戦車が通れるような大穴を開けたり、ましてや建屋その物を倒壊させたりなんて使い方はできない。
ぶっちゃけ砲弾の無駄遣いだ。それこそ、こんなシチュエーションで使ってしまっていざ戦闘という時に砲弾がありませんじゃ泣くに泣けない。
どうしても家々を壊してでも進撃路を確保したいというのなら、工兵隊でも呼んだ方がよっぽど能率的だ。
他にも、軍事パレードでもできるような大都市の目抜き通りでもない限り、戦車が並走できるような広さの道は中々はない。
つまり、機甲戦の強みである”パンツァー・カイル”のような機甲陣形がほとんどの場合満足に取れない。
集団戦ができないのであれば、少数での行動、あるいは場合によっては単独で行動するしかなくなるのだ。
また、入り組んだ都市で最高速やそれに近い速度で図体の大きな装甲車両で行軍できる訳もなく、そんなスピードで道順通りに走って来るなら、そりゃあリアル現代でIED(即席爆発装置)の餌食になるわけだ。
道路脇などに仕掛けられたIEDを路肩爆弾、道路脇爆弾、路上爆弾とも呼ぶが、どういう使われ方をしているのかよくわかる。
そして史実でもIEDの起源は、第二次世界大戦でのベラルーシの反ナチ共産ゲリコマと言われているから、実は微妙に時期が合致していて、いつ(主にドイツ軍)被害が出てもおかしくはない。
幸いイタリアではまだIEDとみられる被害は出てないが、それでも著しく機甲戦力の強みが生かせなくなるのは間違いない。
都市戦では戦車は単体、もしくは歩兵の直協、火力支援に使われるのが戦争映画でもお馴染みの定番とされるが、実は必然的にそうなってしまう部分がある。。
視界が確保しづらい都市部の対装甲戦は待ち伏せでもされているのでもなければ、それこそ彼我の戦車が路上で相対するなど遭遇戦のような色合いになることがままある。
また、旋回砲塔と長い戦車砲の組み合わせが仇となり、その長さゆえに建物に引っ掛かり、任意の方向へ砲口を向けられないなんてこともよくあるのだ。
旋回砲塔を持たないが戦車砲を持つ戦闘車両に”突撃砲”があるが、あれの本来の目的は歩兵の直掩、つまり火力支援であり用途と運用を考えれば非旋回の固定砲であってもそれはそれで合理的な判断なのだ。
蛇足ながら同じ様な車種に”駆逐戦車”があるが、あれは敵戦車を直接照準で狙う(駆逐する)事を目的とした”対戦車自走砲”の一種であり、ちょっと存在理由が異なる。
まあ、その区分も結局、曖昧になってしまったりするのだが……とにかく、せっかくの機動力が十分に活かしきれない都市部では、堅牢な装甲と高い火力を持つ戦車は、そのような使われ方が都市戦の定番である。
他の装甲戦力と言えば、随伴歩兵(機動歩兵)は、皇国軍にも非装甲の軍用トラック以外にも”装甲化された兵員輸送車(APC)”はそれなりにまとまった数があるにはあるが、それはあくまで史実の日本版ハーフトラックである”一式半装軌装甲兵車”や初期の装甲兵員輸送車である”一式装甲兵車”の延長線上にある発展強化車両だ。
そもそも基礎工業力や部品精度が違うので、信頼性は史実の同族とは比較にならないが……エンジンは3割ほど出力強化され、馬力向上リソースは装甲や地雷対策のV字底板などの防御力強化に多くのリソースを割り振られ、全車無線機と自衛用の旋回機銃を標準装備されているが……兵員輸送車として使うのなら、あまり視界が悪く何処から弾が飛んでくるか分からない都市部に突っ込ませるのは推奨しない。
この手の車両の本懐は、本来は『戦車に随伴して前線まで歩兵を運ぶ事』であり『戦車に並んで最前線で突撃する』ことではない。
それでも、皇国でも兵員を運ぶだけでなく積極的な前線での火力支援もこなせる”歩兵戦闘車”なるものの開発が、「将来の地上戦をみこして」数年前から始まっていたが、残念ながらその成果物はイタリアに姿を見せてはいなかった。
自走砲などの直射ではなく曲射弾道の遠間合いで攻撃する車両は、そもそも射角・射界が著しく制限される都市部に入るべきではなく、郊外から前線砲撃統制官の指示に従い、要所要所に支援砲撃を行うべきだ。
実は対空車両は、持ち前の「飛行機すら墜とせる嵐のような機関砲の火線集中」の水平射撃で都市戦でもかなり有効な火力なのだが、如何せん装甲が薄いのが難点だ。
それこそ、入り組んだ街中より自走砲の近場で護衛についていた方が結果的に有益だ。
つまり街全体がバリケードとなる都市部とは、本来はここまで装甲戦力の用兵が違ってくるのだ。
史実第二次世界大戦の末期のような「装甲戦力を都市戦に投入して支離滅裂になった」という情景は、まだ上記の用兵がきちんと確立されていなかったことも大きな原因である。
そして、この世界線でも(前世知識を活かして)「機甲戦力の都市部での
幸い、日本皇国はその同盟国の英国や機甲先進国ドイツと並び、そのマイノリティの一国だ。
しかし、都市で戦うのが正規軍ではなく無秩序な共産ゲリコマ相手の不正規戦・非対称戦というのであれば、話はまた少し変わってくる。
何しろ日本国内では、その手の輩を相手にするのは、軍の前に警察や公安、その他治安系公的機関の”特殊なセクション”だ。
それらの機関が手に負えなくなった場合に治安出動のお鉢が回ってくるのが皇国軍という流れが基本だ。
そもそも、日本皇国で10万規模の共産ゲリコマの発生というケースそのものが起きないだろうが……
だが、このようなイレギュラーな事態、入念な準備をしても念入り過ぎるという事は無い。
少なくとも”正規軍として”は、皇国軍はこのようなケースに対処したことはない。
だからこそ、今回は貴重な
☆☆☆
少しだけ、”北イタリア社会主義共和国”の面々には少しだけ同情しても良いかもしれない。
建軍以来、数多の”転生者”が在籍していた皇国軍にとり、「当事国の消耗の激しさ故に、国家間の大規模正規戦が減ってゆく」のは既定された未来であり、その後に頻発するであろう「主義主張を問わない低強度紛争やゲリコマとの不正規戦・非対称戦の頻発」は定められた未来であり、そうであるからこそ軍事費を潤沢に使える今の内から、陸海空全ての皇国軍で準備を始めるのは当然であった。
故に今回は特に陸軍をピックアップしたが、皇国軍全体にとりこの先のイタリア北部を舞台にして行われる戦闘は、「将来の戦想像を模索するケーススタディ」と定義づけされている。
それがどのような結果を生むか……程なく明らかになるだろう。
『都市制圧ミッション』でなおかつ『共産ゲリコマ相手の不正規戦・非対称戦』という難易度高めのステージになりそうなので、しっかり準備するみたいな感じです。
狙撃手から俯瞰した都市戦の展望、そして実際に行われてる対都市ゲリラ戦に向けた部隊再編の動きなど。
うん、日本皇国、完全に”北イタリア社会主義共和国”を潰しにかかるみたいです。
実際、狭い路地が多い都市の中での装甲戦力の運用ってかなりの制限がかかるんですよね。
大軍の展開や機甲戦力の集中投入とか難しいし。
現実のウクライナとかでも戦車が舗装路進むために縦長の隊列作って進軍したら、横からボコスカ撃たれて壊滅したなんてケースもあったぐらいで。
対ゲリコマ戦って大軍同士のぶつかり合いの正規戦とは全く別の”戦いのノウハウ”がある上、視界が開けてなく隠れる場所の多い都市は地の利があるゲリコマが優位ってのもよくある話です。
そういう差異を理解してないと、最新装備の金持ち国家の正規軍でも苦戦することがしばしばあったり。
さて、次回は下準備の仕上げ、「政治的な”アリバイ作り”」でも書いてみようかと。
次回もよろしくお願いします。
次回もどうかよろしくお願いします。
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