転生しても戦争だった  ~数多の転生者が歴史を紡ぎ、あるいは歴史に紡がれてしまう話~   作:ガンスリンガー中年

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という訳で、今回は「日本皇国においてクリスマス・イヴもクリスマスも国民祝日ではなく、よって1943年12月24日はただの金曜日である」という感じのエピソードですw






第403話 クリスマスもクリスマス・イヴも旗日ではない日本人らしい姿や過ごし方もあるということ ~戦後日本に思いを馳せて~

 

 

 

 

【挿絵表示】

「どうにも自前(日本)で作らねばならない物が多すぎるな……」

 

 そう、日本皇国首相の近衛公麿は、自分の執務室で独り言ちる。

 

 各時代の転生者の尽力により、史実の戦前やよりかなりマシ(戦中は論外)な状況とはいえ、この1943年という時代の日本におけるクリスマスとは、結局は精々昭和30年代、高度経済成長期の入口くらいの感じだ。

 恋人たちが街や観光スポットに繰り出してデートではしゃぐというより、『一応、クリスマスは一般にも認知・認識されているが、基本的にはケーキやチキンを食べるホームパーティーの日で、子供たちはプレゼントを貰える』くらいの認識だった。

 

 いや、戦時下だというのにケーキやチキンを庶民が口にでき、尚且つ子供へのプレゼントで規模は大きくは無いがクリスマス商戦が形成できるのだから、”この世界線”の日本は史実と比べると随分と豊かになったとも言えるが。

 もっとも日本でクリスマスがメジャーになった背景には、日英同盟の影響も大きいらしいが。

 特に史実よりはるかに多くの”英国国教会系の教会(アングリカン・コミュニオン)”が勢力を伸ばし、日本皇国のキリスト教勢力の中では最大版図に迫りつつあるのは、英国国教会の成立経緯を考えれば実に皮肉が効いている。

 

 とはいえ、バブル期や平成や令和のようなクリスマスの熱量が1943年の皇国にある訳は無く、街のイルミネーションも飾りつけも現代人なら物足りなさを感じるだろう。

 言ってしまえば、「子供は楽しみかもしれないが大人にとっては”その程度の日”」である。

 それでも妻子持ちの社会人にとっては、それなりに財布のひもが緩む日かもしれないが。

 

 そして、戦時にありがちな『戦地で兵隊さんが戦ってるのに、伴天連の祭りなど不謹慎』と言いだす輩は、その”本当の思惑”はどうであれ居るには居たが……

 

『物資統制や物資欠乏やらで国民生活が困窮しているならいざ知らず、”戦時下であるからこそ”経済を回さんでどうする? 軍需産業のみが活況など不健全極まりない。民間需要拡大は大いに結構。どんどんやれ』

 

 の一言で叩き潰した。

 実際、現在の日本皇国は『戦時下であるにも関わらず、平常的な物流』を維持し続けていた。

 むしろ、史実の”朝鮮特需”のような戦争景気で活況気味だ。

 

 

 

 しかしそれが、上記の『1943年12月24日はただの金曜日』枠の皇国臣民社会人の代表格、近衛公麿は気に食わない。

 

(戦争とは続く限り無限の消費であり、そりゃあ製造業にとっちゃあ”無限市場”かもしれんが……)

 

「元をただせば国費、税金だぞ? しかも戦費ってのは直接的には回収の見込みはないんだ。特に我が国は」

 

 基本的に、戦費の直接的な回収手段は、”戦時賠償”だ。

 だが、今のところ皇国が刃を交えた外国は独伊だけで、ドイツとは停戦が成立し、イタリアは結果として『戦勝という言葉自体が瓦解して』しまったのだ。

 つまり、日本皇国にはどうやっても使えない手だ。

 こうなれば「戦費の間接的な回収」、例えば戦争で得た新たな利権、今回の件で言えば「新たに増えた友好国を新市場開拓(ブルーオーシャン化)する」事により、軍民問わず皇国企業のマーケットとすることで稼ぐなり、あるいは得た地下資源や天然資源の採掘などで稼ぐしかない。

 ただし、「購買力の期待できる市場」や「資源の採掘と有用な形への精製」は何れも莫大な先行投資が必要ではある。

 

 確かに日本皇国の国力は、歴代転生者達の活躍により国外への移民を禁じて国内労働力を確保しつつ(米ソの暗躍による)無駄な戦争と朝鮮半島併合を回避し、樺太の油田の早期開発に成功し、『石油輸出国ではないが産油国』の仲間入りを果たし、赤字経営必須の大陸利権は全て手放し(当時の米国に売却)、台湾島経営も黒字軌道に乗っている。

 皇国人と登録されている人口は既に史実の戦後日本の絶頂期に近く、お陰で公称で「米国の1/3の国力」ということになっていた。

 まあ、これもかなり怪しい。

 おそらく、”計算方法と計測パラメータによって”は「米国の半分以上」に簡単になるパターンだろう。

 

 だが、それだけの……史実の大日本帝国と比べても膨大と言っていい国力=資金力があっても、上記の投資は「気楽にできるような金額」ではない。

 おまけに……

 

(P-3哨戒機にC-130輸送機にE-2早期警戒機……米国開発を期待するわけにもいかんしな)

 

「肝は4000~5000馬力級のターボプロップ・エンジンか……」

 

(これが完成すれば、YS-11近距離旅客機やUS-/PS-1飛行艇にも転用でき、”潰し”が利く)

 

 実はC-130輸送機とP-3哨戒機、E-2早期警戒機のエンジンは同じ”アリソンT56-A”系統のターボプロップで、US-/PS-1飛行艇はGE”T64”系統のターボプロップであり、実はこの二つは類似構造の14段軸流圧縮式ターボプロップ・エンジンだった。

 

(三菱が主導してターボジェットを開発しているが、やはりターボプロップにも主導的開発者が必要か)

 

「やはり石川島播磨が適任だろうな……」

 

 実は史実でも日本最初のジェットエンジン”ネ20”の開発は、石川島播磨重工業(IHI)の前身である石川島重工の謹製だ。

 ちなみに開戦前に、石川島重工が播磨造船所を合併し、史実より四半世紀ほど早く”石川島播磨重工”として成立しているようだ。

 ただ、この世界線ではレシプロエンジン技術者を出向扱いで社外にトレード放出してまで、各所からジェット機とジェットエンジン双方の開発を三菱が主導して行っている為、開発が一歩抜け出ているが、石川島播磨も高い技術力を誇り、自社開発でもジェットエンジン……というより、ガスタービン機関全般の基礎開発を行っているようだ。

 

「ターボプロップ開発の”企業同盟(アライアンス)”を組むとしたら川崎あたりか? 日立はどちらかと言えば、得意となるのはコンパクトな航空機用というより船舶用の大型ガスタービンや設置型の発電用だろうしな……」

 

(船舶用や設置型のガスタービン発動機や発電機の”アライアンス”も早いうちに準備しておいた方が良いだろうな。次世代エネルギー、発電リソースとして原子力一辺倒になるのは、流石にリスクがあり過ぎる)

 

「リスクの分散と管理は、政の基本だ」

 

(しかし、今生の日本がいかに産油国と言えど、”省エネ”に越したことはない。いずれ樺太で油田に続き程なくガス田も見つかるだろうが……エネルギーコストの抑制は、国際競争力に直結する)

 

「技術蓄積が進んではいるが……開発予算の増額は必要だろう。実際、ターボプロップは、ガスタービン機関全般に応用が効くしな。船舶用や他ののガスタービンの開発も急ぐべきだし、石川島播磨にも損はないだろう」

 

(いっそ”GTCC”、”ガスタービン・コンバインドサイクル”の予備研究も始めさせるか?)

 

「予算もだが、開発に必要な人材リソースの確保と育成も急務か……」

 

(戦後は今以上に技術者育成の教育に力を入れねばならん。ああ、あと少子化を起こさないような政策も合わせて必須だな)

 

 

 

 『”人口ボーナス期”は永遠でも繰り返すことが約束された未来でもない』。

 戦後日本、特に昭和期は「ベビーブームが繰り返し起きて人口が将来にわたり増え続ける」事を前提に政策を立て……そして失敗した。

 ”少子高齢化社会”というのは、「第二次ベビーブーム世代が大人に成長した段階で二人以上を生む夫婦になる」という前提が崩れた、そして崩したのは完全に政策的な”失敗”の結果だ。

 具体例を言えば、第二次ベビーブーム世代(1970年代生まれ)が成人する頃にタイミングを合わせて起きたのが”バブル経済の崩壊”であり、経済的不安定になれば、当然、それまでの社会通念であった、”金のかかる”結婚、出産、育児が遠のくのは必然だった。

 もう少し詳しく話すと、戦後すぐの第一次ベビーブーム世代が成人する頃は日本は高度経済成長期のまっただ中で、所得は増え続け、また終身雇用制が幅を利かせる安定した正規雇用が主流で、「結婚をし、家庭を持ち、子を育てる」事が当たり前にできた。

 夫の稼ぎだけで結婚も育児も可能であり、専業主婦が当たり前の時代だった。

 

 そして、結果として第二次ベビーブームが起き……その世代が成人する頃、バブル崩壊による経済の低迷と社会不安が引き金となり、終身雇用制も崩壊し、失業者と不正規雇用が続出した。

 これに養育費の高騰をも重なり、言うなれば日本経済の破綻が「将来に不安を感じず結婚や子育てを行える経済環境」を破壊し、第三次ベビーブームは幻に消えた。

 泡沫(バブル)の夢に踊っていたのは、国民だけではなく指導階層の政治家も全てだ。

 

 そして、日米半導体摩擦に”プラザ合意”、冷戦終結後の中韓などの国外への技術流出と工場移転による技術の簒奪……これが日本の工業力・技術力・国際競争力の衰退を招いた一因だ。

 

(誰よりも日本人自身が、自分たちの持つ技術を軽んじた)

 

 近衛は転生者であり、「崩れ行く戦後日本」をつぶさに見た世代だった。

 

(あれは政治家としての無能という以前に政府として無策がすぎた。防諜法がない状況を放置し続けたのも、官民問わず情報保全が甘すぎたのも、全ては後手後手……手遅れな事態が多すぎた)

 

「だから二の轍は踏めん……」

 

 故に近衛は、クリスマス・イブのこの日にも、『戦後日本の全体像(デザイン)』を思考し続ける。

 『戦を自発的にする手段を失い、戦から距離を置いても”とめどなく衰退する、静かに滅び行く祖国”』を二度と見る気はない。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

”米国に依存できない戦後日本”か……まさに功罪、良くも悪くもだな。必要な物のの多くは皇国主導で開発しなくてはならなくなるかもしれん。他に誰も作ってはくれんからな……」

 

(英国はそれなりに充てにして良いが、かと言って”コモンスウェル”の再構築と経営健全化に戦後は忙しくなるだろうしな。国家リソースの多くは、)

 

「あっちはあっちで衰退を回避するために邁進しなければならん。皇国とは国力を注力する方向性が違う」

 

 英国は、アフリカを中心に拡大した”英連邦(コモンウェルス)”に、日本は地中海沿岸を中心に増える友好国に……

 となれば、

 

(必要となる技術の方向性も、共通項は多々あれど全く同じという訳でもないだろう……)

 

 英国はアテにも頼りにもなるが、『信用し過ぎるのも信頼し過ぎるのも危険な相手』というのが近衛の率直な印象だった。

 いずれにせよ、相手がどれほどの大国であったとしても、”どこかの国一辺倒に依存する”という発想が、そもそも危険な価値観なのだ。

 更に思考を沈降させる近衛だったが……

 

「近衛君、まだ残っていたのかい?」

 

 定時退勤時刻を少し過ぎたあたり、官房長官の広田剛毅が執務室にやってきた。

 

「ああ、広田サンか。まあ、俺っちたちみたいな因業商売(せいじか)には、盆も正月もクリスマスもないだろ? 戦時下なら特にだ。国民が『戦争を一時的に忘れて休むなりどんちゃん騒ぎできる』為に、その分、俺達は働かにゃならんのさ。それが公僕ってもんだ」

 

 ちょっとワーカホリック臭い発言をする近衛に広田は苦笑し、

 

「だが、君は国民に規範を示す首相の立場であるのも忘れてはいかんぞ? 『休んで精神と肉体を回復させる事も仕事のうち』さ。良き仕事を行う為に、良き休息は必須だよ?」

 

「違ぇねえな。わかったよ、そろそろ帰る事にすらぁな」

 

「そうしたまえ。君にも”待ってる(ひと)”が居るのだろう?」

 

「まあ、結婚して20年を超える”古女房”って奴だけどな」

 

「それでも待ってる人がいるだけ、”幸せ”という物さ」

 

 そう広田は柔らかく微笑むのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

【挿絵表示】

「お帰りなさいませ。あなた」

 

 そう帰宅する近衛を玄関で出迎える、”良妻賢母”という言葉を擬人化したような和風美人、少しだけ年下の妻に、

 

(確かに待っている(ひと)がいるというのは、嬉しいものだな……)

 

「ただいま。”八千代”」

 

 クリスマス・イヴらしさは欠片も無いかもしれないが、近衛もまた幸せな夜を過ごせるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、近衛首相の細君、”八千代”さんの初登場回でしたw
良妻賢母を地で行く和風美人さんですね~。
イメージ的には、「大人になって結婚して子持ちになった宇治松千夜ちゃん(ごちうさ)」
あたりかな?

まあ、近衛はどう考えてもクリスチャンじゃなさそうだし、普通にクリスマス・イヴも仕事してそうだなぁ~とw

とはいえ、近衛は近衛で「転生者らしい視点で『頼れず間違えられない”戦後日本”』の在り方(デザイン)」を考えているので、有意義なクリスマス・イヴの過ごし方なのは間違いないでしょう。
それにしても前話のヒトラーやハイドリヒとの落差が凄ぇですがw
まあ、八千代とのデートイベントがあるとすれば、初詣の方が”らしい”ですしね?

さて、次回は再び視点をユーラシア大陸の西の方に移してみようかと。

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次回もどうかよろしくお願いいたします。



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