第一話 異世界からの来訪者……?
“地球”
太陽系第三惑星であるこの天体には、水があり、空気があり、そして、多種多様な生命体があり、“人”と名乗った彼らは、高度な知能を有して社会を営み、今なお発展を続けている。
しかし、宇宙は広さと比べれば、彼らはまだ幼い。故に、地球には、他外星人による侵略活動が度々行われた。
時に
果てには、
しかし、人はこれら障壁を乗り越えた。
それは、人の比類なき“意志”の力。
そして、そんな人の“心”に惹かれた、
そして、その並行世界線上に存在する、上記とは異なる道をいく地球にも、新たなる危機の足音が、一歩づつ、その存在感を強めていた。
雲一つない寒空の下、人々の活力で賑わう街並みを見下ろせる、薄汚れた廃マンションの屋上である。
一人の男が、悪夢から目醒めるかのように飛び起きた。
「っ……!?」
“ピポポポポポ……ピポポポポポ……”
そんな、電子音のような音が、脳梁を突いて止まないのである。
(おれの
ブリッジ部のないサングラスを目に持っていき、立ち上がった男は、屋上の手すりへ跳び乗り、眼下の生きた街並みを見下ろし、
「ジェットコースターに乗せられたこの場所が、助けでも求めてきたのかねぇ」
そう呟いた男――
ピポポポポポ……ピポポポポポ……
抉れたアスファルト、蔦に侵された一軒家、瓦礫の山、そんな薄気味悪い雰囲気を漂わせている場所に、電子音のような、不思議な音が鳴り響いている。
そして、その音源とは、一人の黒髪の少女であった。
「……」
能面のように固められた少女の表情は、腐りかけの柵に隔てられた向こう側に向けられていた。
少女は、有刺鉄線の柵に、ブーツを履いたような形状の足をかけ、踏み込むように力を加えた。
すると、しなやかで硬いはずの鉄線が、蜘蛛の糸のようにぶちぶちと千切れ、支柱の木材がアスファルトに、軽い音を上げて倒れ込んだ。
しかし、少女の琥珀のような瞳には、なんの感慨も灯ってはいないのである。
横倒しとなった柵を乗り越えて、少女は向こう側へと侵入した。
ピポポポポポ……ピポポポポポ……
人通りの疎な、閑古鳥の鳴く商店街に、奇怪な電子音が澄み渡っていく。
一歩進むごとに、少女の肢体は、商店街を行き交う人々の視線に晒される。それは、少女の身体が若く、瑞々しいからであるのと同時に、異質であるからに他ならない。
ある者はスマートフォンで携帯で写真を撮り、ある者達は顔を見合わせ、有る事無い事を交換しているが、彼らには共通して、少女には決して近寄らないという傾向があった。
「……」
少女は、レンガの敷き詰められた道を、機械的に歩んでいくだけである。
ようやく少女が立ち止まったのは、周りの寂れた建物とは違い、清潔な印象を持たせる白い外壁の、小さな肉屋であった。
何かを揚げている、油が跳ね飛ぶ音、揚げ物の香りにつられたのだろうか。空を見上げてみると、小さな太陽がちょうど真上に登っている。
「なぁに突っ立ってるのさ、入りなよ」
「……」
優しげな声に反応した少女の瞳に、レジの机に肘をついて手招きしている、この寒さにも関わらず半袖のオレンジTシャツでいる、恰幅の良い女性が映る。少女は、ふらりと進路を店内に変えた。いらっしゃい、と掛け声がかけられたが、少女の童顔に変化は無かった。
ショーケースの中には、分厚いステーキ肉、細切れ肉、粗挽きハンバーグが、金属製のパットに理路整然と詰められ、新鮮な赤色を呈している。隣のショーケースには対照的に、唐揚げやトンカツ、コロッケが、照りのある衣に身を包んで強烈に主張をしていた。
ショーケースの目の前にしゃがみ込んだ少女は、まるで幼児のように、金色の瞳でショーケースを舐め回す。
恰幅の良い女性、肉屋の店主は、困ったように笑いながら、
「えらいぴちぴちタイトな服装だけども……アンタ、どこから来たんだい?」
「……」
少女は、店主の方をじっと見つめるばかりであった。
(何か訳ありかね……まさか、
そんな邪推が脳裏をよぎり、少し眉に皺がよるが、店主はすぐに、ため息と共に汚れを吐き出し、
「まさかね」
立ち上がった店主は、緩慢な動作で店の奥に消えていく。少女がその消えた先をじっと見つめていると、油が跳ね飛ぶ音が消え、しばらくすると、口から湯気を立たせる、小さな紙袋を携え、店主が戻ってくる。
そして、その紙袋を、少女の眼前に突き出した。
「しみったれたジジババしか来ないこの店に来てくれた礼だ、ほら」
紙袋の口からは、小判のような風貌の、こんがり狐色に揚がったコロッケが顔を覗かせていた。
「熱いから気をつけな」
「……」
手を伸ばし、紙袋を受け取るが、少女は紙袋を眺め、立ち上る湯気の香りを顔面で受け止めるばかりである。
すると、店主は突然「あっははは!」と、堪えきれないように笑った。
「何してんだい、かぶりつくんだよ、かぶりつくっ!」
そう言い、ショーケースの中のコロッケを取り出した店主は、これ見よがしに大口を開けて、まさしくかぶりついた。
ざくり、というこ気味いい音と共に、パラパラと冷めたパン粉がこぼれ落ちる。
「……」
その様子を眺めていた少女は、改めて、紙袋の中のコロッケに向き直る。そして、端正な顔を崩して大口を開け、
「はぐっ……」
その瞬間、少女の眉毛が、少しだけ上向いた。
「はぐはぐっ」
むせかえることなく、熱さに喘ぐこともなく、ただ黙々と食べ進める様を、店主は満面の笑みで頷きながら見つめた。
そして、一枚の揚げたてコロッケは、あっという間に少女の喉奥に消えた。
少女の手元には、空っぽとなった包装紙だけが残される。
「……」
不思議そうに上に向けて、振ってみたりしても、落ちてくるのは焦げたパン粉だけである。すると、ヌッと伸びてきた太い手が、優しく包装紙を取り上げる。
移動していく包装紙に目がつられていくと、そこには店主がうっすら笑みを浮かべて立っているのであった。
「何か言うことがあるんじゃないのかい?」
しかし、少女は何も言わず、店主を眺めるばかりである。再び、店主は大笑いをし、
「“ありがとう”!こう言うのさ、何かを貰ったらねぇ、ほら、“ありがとう”」
ありがとう。
「ありが……とう?」
少女は初めて、その幼い口から、鈴が鳴るような声を発した。
店を出て、再確認するかのように周囲を見回した少女の瞳には、初めて、商店街を行き交う人が映っていた。
夕景色が深まり、紫色の天井の下、商店街にはカラスの鳴き声が虚しく響いている。
「……」
少女は、商店街の中腹に位置する、一人の爺が営む寂れた本屋に入り浸っていた。
彼女の周りには、漫画本、論文、エッセイ、雑誌、とにかく多種多様な本が、まるで防壁になっているかのように積み上げられている。その中心で、彼女はページを捲る手を止める気配がなかった。
「むぅ……」
見かねた爺は、しわくちゃな表情を困ったように歪ませて、ぺらり、ぺらり、と本を捲る音が響く店内に入り込む。そして、背を伸ばして少女の肩を叩き、
「お嬢ちゃん……たしかに誰も来ていないけども……ここまで本を出されてしまうのは困るよ」
パタン、と本を閉じた少女は、本の山の頂上にそれを置いた後、爺に正対した。金色の瞳に貫かれた爺は、醸し出されている謎の圧力の前に後ずさる。
そして、
「私の配慮が欠けていたことにより、迷惑をかけてしまい申し訳ありません。これらは私が責任を持って片付けるので、心配はありません」
と、少女の口から流暢に語られた。
「し、しかし、この量を元の位置に戻せるのかね?」
「問題ありません。本の位置は全て、正確に把握しています」
そう言われてしまえば、店の中の本棚の内、半分は空っぽとなってしまっていても、爺は閉口せざるを得なかった。
その時、
「手伝おうか?そこのかわい子ちゃん」
軽薄な男の声であった。
爺が振り向き、少女が顔を上げた先に立っていたのは、ブリッジ部がないサングラスをかけ、サイドを残しオールバックにした男であった。
「やぁやぁ、おれの名前は“迅悠一”。君は?」
蚊帳の外となった爺を通り過ぎ、少女の前に立った男、迅は、改めて少女の風貌を確認する。
頭部の二対の角、砲口とも“目”ともとれる空洞、オレンジに発光する豊満な胸部に、一部身体と融合しているように見える黒いスカート、その下のフリルのようになっている“絶対領域”から下の大腿部を隠す縞模様のニーソックスに、とんがった黒い履である。
(間違いない)
と、全身を観察されていたことなど梅雨知らず、少女は口を開くのだった。
「私の名前……“ゼットン”。申し出に感謝してします」
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挿絵は目次の作者に描いてもらったものだ。ファンアート、私の好きな言葉です。
表紙もファンアートだ、この幸せをなぜ人類はもっと享受しないのだ?読者諸君。
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本小説の表紙イラスト等を描いてくれた方のTwitter、Pixiv、ハーメルンのアカウントのリンクだ。彼のアカウントをフォローするのが、ベストな選択だ。